CoC界隈で活動している黒江による、クトゥルフ関係の制作物置き場。


1.シナリオ背景
軽部優は小説家である。2年前に妻を交通事故で亡くし、半年前に娘を殺人事件で亡くした。
妻を亡くした際彼は一旦精神の均衡を失い、夢の世界で妻に再会しようとして禁忌の呪文に手を染める。
生来の性格に似合わぬ行動力によって入手した(あるいは悪意ある何者かによって意図的に授けられたのかもしれない)
「夢のクリスタライザー」と「グラーキの黙示録第11巻」を使って人々から眠りを奪い、それを贄として妻との思い出の場所を魔術的に再現するというものだった。
娘を想う気持ちからその計画は中途で諦めたものの、娘が不幸な事件で殺害されるに至って彼の心のタガは完全に外れてしまう。
彼が完成させた呪文は、人の眠りと精神力を奪い、夢の世界を創造・維持するというものである。
呪文は『呪文に掛かった人間を夢に見る』という方法を通じて伝播していき、人々を白い街へと誘っていく。
眠りを奪われた人間は幻覚や妄想に苛まれ、やがて死に至ることになる。
探索者達の友人である野々村れむは、呪文の拡大の過程でそれに巻き込まれる。
人一倍のタフネスを持つ彼女であっても、精神に異常をきたすのは時間の問題であった。
彼女にとって幸運だったのは、明晰で機敏な探索者達に事前に相談を持ちかけたことだろう。
しかしそれは同時に、探索者達を一連の事象に巻き込んでしまう事も意味していた。
夢を通して呪文の犠牲となった探索者達は、是非もなく事件の解決と真相の究明への道を模索することになる。

〈夢のクリスタライザー〉
「ネクロノミコン」や「グラーキの黙示録」第11巻で言及されるアーティファクト。
直径およそ30cm程度、黄色い卵のような形をしている。叩くと空洞のような虚ろな音がするが、重さは約10kgある。
このアーティファクトには、眠っている人の意識を別の次元に輸送する能力がある。
これによって作られる夢は非常に現実的であるため、現実世界との相互作用を持つ。
本シナリオにおいて、軽部優はこのアーティファクトを用いて人々の眠りを奪い、自らの記憶の中にある世界を再現した。
そして眠りを奪われた人間の夢をこの世界に輸送し、世界を維持するために利用しているのである。
またこのアーティファクトは旧き神であるヒプノスの力を借りており、時として使用者には災厄が降りかかる。

〈グラーキの黙示録第11巻〉
グラーキの黙示録はグレートオールドワンであるグラーキを崇めるイギリス、セヴァン谷のカルトの作品である。
1842年に執筆が始まり、当該カルトが1860年代に消滅するまで執筆が続けられた。
オリジナルは全12巻から成り、各巻には予言、金言、グラーキのカルトに与えられた命令などが詳細に述べられている。
また各巻はテーマ別になっており、それぞれに関連する呪文が載っている。
11巻は夢のクリスタライザーと呼ばれるアーティファクトと、その適切な使用方法に関する記述がなされている。
本シナリオに登場するのは英語版の写本であり、読むには英語のロールに成功する必要がある。
正気度喪失1d2/1d4 ;〈クトゥルフ神話〉に2%;研究し理解するために4週間/ななめ読みに8時間。

2.NPC紹介
【野々村 れむ(ののむら れむ)】24歳 女性
職業 会社員
STR7 DEX8 INT14 アイデア70
CON17 APP13 POW14 幸運70
SIZ12 SAN50 EDU16 知識80
HP15 MP14 回避16 DB0
武器 こぶし50% 1d3
彼女は探索者達の親しい友人である。
長い髪を持つ気丈な女性であり、人に媚びるよりは自分の力で状況を切り開いていくタイプの人物である。
両親は早逝しており、近い親類もいないため、友人をとても大事にしている。
現在は大手の食品会社に勤務しており、毎日忙しく働いているが、数日前から睡眠障害に悩まされている。
精神的にも肉体的にもかなり疲弊しており、探索者達に相談を持ちかける。

【鳥居 武蔵(とりい むさし)】29歳 男性
職業 フリーライター
STR8 DEX15 INT13 アイデア65
CON8 APP12 POW12 幸運60
SIZ11 SAN60 EDU12 知識60
HP10 MP12 回避30 DB0
母国語:80% 〈図書館〉:70% 言言いくるめ:50%
〈オカルト〉:40% 人類学:40% 運転〈自動車〉:30%
武器 こぶし50% 1d3
〈オカルト〉系の記事を中心に執筆しているフリーライター。
「黒獅子出版」で発行される二流の〈オカルト〉雑誌である「ウィッカーマン」編集部によく出入りしている。
細身で軽薄な印象を与える男で、世渡りが上手いが、どうしようもなく下っ端気質である。
東京と神奈川で発生している連続不審死・集団幻覚事件を追っている。

【軽部 優(かるべ ゆう)】34歳 男性
職業 小説家
STR5 DEX9 INT16 アイデア80
CON10 APP12 POW13 幸運65
SIZ10 SAN0 EDU19 知識95
HP10 MP16 回避16 DB-1d4
武器 こぶし50% 1d3-1d4
母国語:95% 他の言語〈英語〉:75% 制作〈小説〉:65%
〈図書館〉:50% 〈オカルト〉:45% 歴史:45%
クトゥルフ神話:7%
妻と娘を失い、彼女らと再会したいという想いから禁忌に手を染めた小説家。
元々の彼は頭がよく柔和で気の弱い性格だった。
妻と娘を何よりも愛しており、その為なら誰がどれだけ犠牲になっても構わないと考えている。
呪文を研究して夢のクリスタライザーを手に入れ、人々の犠牲と狂気の上に作り上げた虚構の世界で妻・娘と共に暮らしている。

【軽部 杏奈(かるべ あんな)】享年28歳 女性
職業 編集者
SIZ10 APP16 INT12
優の妻であった女性。二年前に交通事故で死亡している。清楚な感じのする美人で、夫を深く愛していた。
新婚旅行で彼女と共に訪れたギリシャのサントリーニ島は、優の中に妻との大切な記憶として残っている。
夢の世界で登場する彼女は、優の記憶の中に存在する理想であるとともに、彼のわずかに残った良心の残滓である。
彼女は夢の世界を訪れた探索者に接触し、夫を止めてほしいと懇願する。

【軽部 かれん(かるべ かれん)】享年7歳 女性
職業 小学生
SIZ6 APP16 INT15
優の娘であった少女。半年前、暴漢によって殺害されている。生前は人見知りの激しい性格であった。
呪文の犠牲者が眠りを奪われる直前、決まって彼女が現れる。夢の中で登場する彼女もまた、優の記憶に過ぎない。

3.導入、野々村れむの悩み
探索者達は野々村れむの親しい友人である。また探索者達も友人同士であることが望ましい。彼女は近頃忙しく、探索者達とはしばらく会っていない。
ある週末、彼女は久しぶりの再会を祝うために、おしゃれな中華料理店を予約し、探索者達を招く。野々村は遅く仕事をしているため、会食は午後9時ごろに設定されている。
店はそれほど高級という訳ではないが、個室が準備されている。店に入ると既に野々村が席についており、嬉しそうに探索者達を迎える。
彼女はにこやかに探索者達を迎えるが、注意深く観察すれば(あるいは〈目星〉に成功すれば)、眼の下に濃いクマがあることに気付くだろう。
〈精神分析〉〈心理学〉〈医学〉に成功すれば、彼女が精神的・肉体的に疲弊した状態であると分かる。睡眠に何らかの異常を抱えていることにも気づくだろう。
探索者達はそんな彼女の様子を気にかけるかもしれないが、野々村はまず食事をしよう、と促す。
中華料理に舌鼓を打ちながら最近の仕事や近況についてしばらく話した後、野々村は自らの悩みについて打ち明ける。
「実はね。最近困っていることがあるの」
彼女は五日ほど前から睡眠障害に悩まされている。眠れないという訳ではないのだが、いくら眠っても疲れが取れない。というより、眠った気がしない、と言う。
また毎晩白い街の夢を見ている、と野々村は話す。その夢は非常に現実感あふれるものであり、眠っている間はずっとそこで過ごしている。
なんらかの精神疾患を疑った彼女は心療内科にかかったが、器質的(身体的)な異常はなく、心因性のものだと言われた。
睡眠薬を処方してもらったが、一向に改善する気配はなく、仕事にも支障が出ている。
確かに仕事のストレスはあるが、体調を崩すほどではない。その他に思い当る原因もない、と彼女は困惑した様子である。
白い街について尋ねられると、どこかで見たような街並みだが、うまく思い出せない、と答える。
白亜の建物が立ち並ぶ坂と階段の多い街であり、非常に美しい海が見えた、と彼女は話す。
探索者達がこの時点で彼女にできることはほとんどない。せいぜい言葉を尽くして勇気づけたり、仕事を休むようアドバイスしたり、よいカウンセラーを紹介したりするくらいだろう。
それでも彼女は探索者達の心遣いに感謝し、体調が回復して休みが取れたらまた出かけよう、と言って別れを告げる。

4.奪われた眠り
その晩、探索者達は夢を見る。久しぶりに野々村と再会したせいか、揃って彼女と一緒にいる夢を見る。
夢の内容は自由である。会食の場面をそのまま夢に見るかもしれないし、彼女と出会った頃であったり、あるいはまったく関係ない夢、支離滅裂で意味をなさない夢であったりするかもしれない。
しかし探索者達は夢の中で、1人の見慣れぬ少女を見かける。7歳ぐらいの可愛らしい少女である。彼女は軽部かれんの姿をしており、夢のクリスタライザーを用いた呪文の顕現である。
そして忘れず描写してほしいこととして、少女は高さ30cmほどもある大きな黄色い卵のようなものを抱えている。
この卵のようなものは夢のクリスタライザーであり、探索者達が最終局面で取るべき行動について、後に重要な示唆を与えるためのものとなる。
そして探索者達が彼女を認識すると同時に、夢は変質していく。古紙が燃えて行くように、景色は白く染まっていく。
気付くとそこは白亜の建物が立ち並ぶ美しい街である。坂や階段が多くあり、眼下には青い海が見える。空は晴れ渡り、遠くには島々が見える。
特にロールをせずとも、野々村がした夢の話と同じであることに気付くだろう。あたりを見回すと人影がある。
注意深く観察するならその人影はすべて日本人であることがわかる。これらの人々はみな呪文の犠牲者である。
この時点で探索者達が見ているのは同じ夢であり、この街には同時に存在しているが、夢自体は別々に見ているため、互いを見つけることはできない。
〈知識〉の半分、〈博物学〉、〈歴史〉、〈芸術(建築)〉などのロールに成功すれば、この街並みが(それほど古くはないが)伝統的なギリシャ建築であることがわかる。
景色を注意深く見渡せば、ギリシャ国旗が見つかるかもしれない。
探索者達が街の中で何か行動を起こす前に、目が覚める。睡眠時間はしっかり取ったが、妙にぼんやりしていると感じるだろう。
探索者達は既に夢を介して、呪文にかかってしまったのである。
同時に探索者達は、自分の中の大切な何かが奪われてしまったような、言いようのない喪失感を経験し、0/1d3の正気度を喪失する。
探索者達が奪われたのは「眠り」であり、これより事件を解決するまで、探索者達に安らかな眠りが訪れることは決してない。
当然、〈精神分析〉や睡眠薬も効果はない。〈アイデア〉、〈オカルト〉に成功した探索者は、これがただの夢よりももっと現実的なものであると気付く。
〈クトゥルフ神話〉に成功した探索者は、この夢が超常的・魔術的な性質をもつものであり、ヒプノスと呼ばれる夢をつかさどる神格に関わるものであると気付くだろう。

〈奪われた眠りについて〉
探索者達は呪文によって眠りを奪われた状態である。これを放置すれば精神は摩耗し、やがて狂死することになる。
眠りを奪われた初日は0/1d3の正気度を喪失する。次の日から0/1d2の正気度喪失、その次は0/1d3、0/1d4、1/1d6という風に値は増加する。1/1d6より大きくなることはない。
この正気度喪失によって一時的狂気や不定の狂気に陥った場合の発狂内容は、幻覚、幻聴、妄想などである。正気度が0になった場合は、脳機能に異常をきたして死ぬ。
また幸運以外の技能ロールについてもペナルティがある。眠りを奪われた初日は大きな喪失感を感じるもののペナルティはない。
次の日から-10%、その次は-20%、-30%、-40%という風に値は増加する。-40%より大きくなることはない。

5.ニュース
探索者達が奇妙な夢を見た朝、テレビあるいは新聞である事件が取り上げられる。
それは東京と神奈川の精神科病院で、4名の患者が相次いで不審死した。というものである。
4名の患者はいずれも激しい幻覚と妄想によって入院しており、死の原因は分かっていない、と報道される。
これは呪文によって眠りを奪われた犠牲者の精神が限界に達した結果である。
現状認識され、報道されているのがこの4名である、というだけで、この報道と関連付けられていない死もあれば、まだ死に至っていない潜在的な犠牲者も大勢いる。
呪文は「既に呪文の犠牲になった人間を夢に見る」ことで伝染し、まるで疫病の様に急速に拡大しつつあるのだ。
そうして大量の人間の眠りを奪って贄とし、優は自らの世界を作り上げているのである。

〈精神科病院で相次ぐ不審死、厚生労働省が調査〉
東京都と神奈川県で、精神科病院の患者6名がこの2日間で相次いで不審死していることがわかった。
都立竹沢病院によると、患者はいずれも強い幻覚と睡眠障害を訴えており、妄想の症状もあったという。
病院は「患者には自傷の痕跡があったものの、他に大きな外傷はなく、転倒等の事故とは考えにくい」としながらも、「詳しい原因については調査中」とコメントした。
また神奈川県の病院でも同様の症状を持つ患者が不審死しており、厚生労働省は一連の不審死になんらかの関連があると見て調査に乗り出した。

また探索者達の中には、自らが夢に見た街の景色について調べようとするかもしれない。
〈コンピューター〉〈図書館〉あるいは〈博物学〉に成功することで、夢の中の景色に似た場所を見つけることができる。
それはイタリアにあるサントリーニ島という観光地である。

〈サントリーニ島〉
ギリシャのサントリーニ島はエーゲ海に浮かぶ人口1万3000人程度の島である。
カルデラ湾を望む断崖に張り付くようにして白壁の家々が密集する美しい景観で知られている。
ギリシャ正教の聖堂、名産のワインや博物館、豪華なホテルなどの観光資源がある。

6.野々村の入院
ニュースを目にした探索者達のうち一人に、都内の総合病院から電話が掛かってくる。野々村が今朝方交通事故に遭い、病院に搬送されたのだという。
彼女には頼れる親類がおらず、親しい友人である探索者達に連絡してきたのだ。事
故は軽いもので外傷はほとんどないが、彼女に精神症状が強く疑われるため病棟で様子を見ている、と担当者は述べる。
野々村が搬送された病院はキーパーが自由に設定していいが、特に指定がなければ比較的大きな総合病院である。
広い敷地にある病棟は新しく清潔で、居心地がよさそうである。探索者達が病院に行くと、看護師が野々村の病室まで案内してくれる。
急性の精神症状が出ていたため、野々村には個室があてがわれている。病室に入ると、昨晩よりもやつれた様子の野々村がいる。
〈精神分析〉か〈心理学〉に成功すれば、彼女が先日会った時より精神的に摩耗し、衰弱していることがわかる。
しかし現在は対症療法により幻覚は抑えられており、辛うじて話が出来る状態である。
事故について聞けば、「よく覚えていないんだけれど……」と前置いて、少しぼーっとしたように話し出す。
彼女のおぼろげな記憶によれば、昨夜も妙な夢を見て、非常に気分が悪いまま起床した。
そのままなんとか気を晴らそうと散歩に出たところ、視界が歪み、自分がどこにいるかよく分からなくなった。
自分が見ているものと、夢で見た白い街が重なるようにして現実感が薄れ、ふらふらと道路によろめき出たところ、車と接触したのだという。
またその場には精神科医も同席しており、野々村の病状について説明してくれる。まず外傷については、かすり傷と軽い打撲程度でまったく問題ない。
苛烈な精神症状については、長い間断眠した人間とよく似ている、と医師は話す。ここまでの情報は、野々村への医学ロールに成功することでも判明する。
また医師は野々村が不眠を訴えており、おそらくそれがもとで幻覚症状がでたのだろう、という話をする。MRIおよびfMRI(どちらも脳の画像診断手法)、脳波の検査は今後行う予定である。
後に検査結果を尋ねる機会があれば、脳に器質的(縮んでいる、腫瘍があるなどの物理的な、という意味の)異常は見られないが、脳波を測定したところ、変わった結果が得られたということがわかる。
通常人間の眠りには深いものと浅いものがあり、それぞれで脳波にパターンがあるが、彼女の場合深い眠りのパターンが現れず、
浅い眠りのパターンのみが現れており、それが彼女の睡眠障害に関係あるのではないか、という所見である。
探索者達がより詳しい話を聞こうとすると、医師は、眠りと夢の関係については多くの書籍が出版されているから、気になるようならばそれらを当たってみればよい、と答える。
また探索者達が最近起こっている不審死事件に関して尋ねると、医師はあまり話したくない、というように渋い顔をする。
彼から話を聞くには、〈信用〉〈言いくるめ〉〈説得〉いずれかに成功する必要があるだろう。ロールに成功した場合、医師は探索者達を病室の外に誘う。
「大々的には発表していないし、あまり大きな声では言えないのですが」と前置いて、以下のように話す。
今回の事件で不審死を遂げた患者は、いずれも一週間ほど前に入院してきた患者である。いずれも睡眠障害と幻覚を主訴とし、今現在の野々村と似た状態であった。
投薬は対症療法にしかならず、状態は徐々に悪化、相次いで死亡した。また野々村のような患者が外来、病棟に多くおり、病院側も対策に苦慮している。
他の病院でも同様の症例が発生しており、あくまで見立ての範囲ではあるが、もっと多くの死者が出るのではないか、と危惧している。
それを話すと、医師は別の患者の診察があるので、といって忙しそうに去っていく。

7.図書館での調査
探索者達は眠りと夢について、また連続不審死事件のより詳しい情報について図書館で情報を得ることができる。
この手のシナリオに慣れたプレイヤーであれば、野々村の住居を探索しようとするかもしれない。
その場合は野々村が図書館から借りてきた眠りに関する書籍(『生理心理学入門』等といったタイトルが適当だろうか)と共に下記の眠りと夢についての情報を開示し、
それらに加えて近隣の図書館で使われている貸出カードを置いておくことで、図書館、ひいては後述の雑誌記事へと誘導するのがいいだろう。
図書館においてはどちらの情報を調べるか宣言した上で〈図書館〉に成功すれば、四時間かけて以下の情報を得ることができる。

・眠りと夢について
〈断眠実験〉
睡眠の機能を調べるため、被験者に睡眠の一部、あるいはすべてを禁じることを断眠実験という。
短時間の場合は軽躁的傾向を示すが、次第に抑うつ的で注意力散漫となる。2日以上となると作業能力、記憶力の低下、幻覚などが生じる。
しかしこれらの症状は、半日程度眠れば消失するようだ。記録によれば、1964年にカリフォルニアの大学生が264時間の断眠に成功している。
しかしこの実験については、完全な断眠かどうか疑わしいとの意見もあり、断眠の限界はもっと短いのではないかと考えられている。
またラットを使った断眠実験では、2週間程度で群の大部分が死亡した。

〈REM睡眠とNREM睡眠〉
睡眠の段階は脳波、筋電図、眼球運動などの記録によりその特徴が把握され、質的に異なるレム睡眠とノンレム睡眠に大別される。
ノンレム睡眠は比較的深い眠りで、脳波の振幅は大きくゆっくり、規則正しくなる。
それに対してレム睡眠は速い眼球運動(Rapid Eye Movement)を伴い、どちらかと言えば覚醒時や入眠時の脳波パターンに近い。
この睡眠段階では夢を見ることが多いのも重要な特徴である。
レム睡眠とノンレム睡眠の機能について詳しいことは分かっていないが、一般にレム睡眠が身体の休息、ノンレム睡眠が大脳の休息だと言われている。

・連続不審死事件について
連続不審死事件について、通常の新聞や週刊誌では、朝に見たニュース以上の情報を手に入れることはできない。
しかし黒獅子出版のウィッカーマンというオカルト雑誌では、死者が出る前からこの問題に注目し、記事を上げていたということがわかる。

〈神奈川県で集団幻覚発生、集団ヒステリー?〉
ここ一週間ほどで、神奈川県の精神病院には睡眠障害や幻覚、妄想を訴える患者が激増している。
原因は分かっておらず、医療関係者や当局も手をこまねいている状態だ。学校のクラス内で大量に発生するなど、通常の精神疾患では説明できない要素がある。
オカルト的な事象に詳しいプラズマ吾郎氏は「まるで精神的な症状が感染しているかのようである。一時期ブームになった呪いの手紙に酷似している」とコメントしている。
今後現象が拡大していく可能性もあり、我々もいつ当事者となるかわからない。本誌はこれからこの事件について詳細な調査を行う予定である。続報を待たれたい。
(文責 鳥居武蔵)

この記事を書いたのはフリーライターの鳥居武蔵という人物である。出版社に問い合わせれば、彼と渡りをつけてくれるだろう。
しかし鳥居は忙しいからと言って、詳しい話をする日時を翌日に指定してくる。探索者達がそれ以上アクションを起こさなければ、この日の探索は終了である。

8.白亜の街
その晩、探索者達は再び夢のサントリーニ島に立つ。相変わらず眼下の海は青く煌めき、白い建物は陽光を反射している。
探索者達の五感はしっかりとそれらを捉え、意識しなければ夢とは判らないほどの現実感を伴っている。昨晩とは違い、探索者達は睡眠時間中の数時間をこの街で過ごすことになる。
個別での処理が面倒ならば、探索者達は近くにいたことにして合流させてもよい。
街路は坂道や階段が多い。それらが規則性なく網の目の様に拡がっている。また何か奇妙な力が働いているのか、ある建物を目指して歩いたとしても、中々たどり着くことができない。
街路が入り組んでいるうえに、錯視の絵画のようにありえない繋がり方をしているのだ。
通行人は皆呪文の犠牲者である。話を聞けば、一様に現実世界で睡眠障害と幻覚を訴えていた人間だと分かる。
しかしこの場所にいる限りそういう不快な症状はなく、むしろ晴れやかな気分である、と話す。
また街には聖堂やワイン蔵、博物館などがあるが、従業員らしき人間は見えない。また家々にも人が住んでいる様子はない。
実は坂の頂上に軽部一家が住んでいる家があるのだが、もし目指そうとしても前述の理由から辿りつくことができない。
探索者達があたりを見回すと、昨日も見たかれんがクリスタライザーを抱えながらこちらを見ていることに気が付く。
探索者達と目が合うと、彼女は踵を返して逃げ出す。追いかけっこを演出するために、DEXによる抵抗ロールを行ってもいいだろう。
しかし街路が不可思議に入り組んでいるために、容易に追いつくことが出来ない。苦労して追いついたと思った矢先に、探索者達は目を覚ます。
起床後の探索者達は眠りを奪われている状態であるので、頭はぼんやりとしていて、うまく思考が働かない。非常な不快感と焦燥を覚え、0/1d2の正気度を喪失する。
この時点から、幸運を除くすべての技能に-10のペナルティがかかる。

9.ニュース、続報
探索者達が目を覚ますと、連続不審死事件の続報が報道されている。
死者は累計で16人に達し、また睡眠障害と幻覚を訴える患者がクリニックや病院に殺到しているという。
ニュースでの取り上げられ方も大きく、事態の深刻さを感じさせる。

〈拡大する不審死、原因はいまだ掴めず〉
先日より発生している不審死事件の死者が増え続けている。一連の事件での死者は新たに8名を数え、累計で14名に達した。
死者の発生は関東近郊に拡大し、特に神奈川県に集中している。死者はいずれも睡眠障害と幻覚妄想を訴えていたが、死亡との因果関係は現在のところ不明。
また同様の症状を訴える患者が多数発生しているとの情報もある。厚生労働省が調査に乗り出したが、未だ原因は判明していない。
もしこのまま死者が増え続ければ、未曽有の死亡事件となる可能性もある。
厚生労働省は関東近郊の各病院に対し、睡眠障害を訴える患者の発生について報告するよう異例の通達を出した。

この報道を聞き、〈アイデア〉に成功した探索者達は、自らの症状とこの事件とを強く結びつけてしまう。激しい焦燥と不安に駆られた探索者は0/1d2の正気度を喪失する。
事実、探索者達に急迫の死の危険があるわけではないが、それでも行動不能になるのは時間の問題で、そうなれば迫りくる死を待つほかなくなってしまう。
また呪文による新たな死者は毎日だいたい3倍ずつ増えていく。もしかしたら探索者達の親しい人間も、探索者達の夢を介して呪文の犠牲となっているかもしれないのだ。

10.記者の接触
探索者達が鳥居との接触を済ませていれば、その日の午前に鳥居と会う事が出来る。特に探索者達から指定がなければ、都内の小さな喫茶店で話し合いを持つことになる。
鳥居は待ち合わせの時間通りに喫茶店を訪れる。彼はやや軽薄な印象を与える細身の男である。
〈値切り〉〈人類学〉に成功すれば、着ている洋服はあまり上等ではなく、羽振りは良くないという事が解るだろう。
〈人類学〉と〈心理学〉の組み合わせロールに成功すれば、やや小狡いところはあるが、基本的に探索者達を騙すことはないことがわかる。
鳥居ははじめ、探索者達の意図がわからない上、睡眠を奪われてぎらついた視線にさらされてやや警戒している。
探索者達はまず鳥居の警戒を解き、自分たちが彼の商売敵などでないことを納得させる必要があるだろう。
〈信用〉や〈説得〉に成功すれば、比較的容易に警戒を解くことができるかもしれない。
鳥居は連続不審死・集団幻覚事件について追っており、さらに情報を手に入れるため、幻覚発生の件数が多い神奈川県M市の新聞社へ向かおうとしている。
もし探索者達が野々村や自分たちに起きていること、また世間を騒がせている事件について情報を得ようとするならば、彼の協力が不可欠になるだろう。
とはいえ彼も仕事として事件を追っているので、簡単に情報を渡すことはしない。なんらかの交換条件を提示する必要がある。
金銭などを渡してもいいが、最も簡便かつスムーズなのは労働力の提供を申し出ることである。
鳥居の能力に比して事件の規模はあまりに大きく、彼一人では事件を追い切れない、と鳥居自身も感じている。
探索者達が鳥居の取材を手伝う旨を伝えれば、鳥居も探索者達に協力的になるだろう。鳥居の協力が得られた探索者達は、事件の発生源と思しき神奈川県M市へと向かう事になる。
その際には現地での移動を簡便にするため、車の使用を推奨する。M市については、〈知識〉に成功するか、インターネット等で調べれば以下の情報が手に入る。

〈神奈川県M市〉
神奈川県にある海辺の自治体。都心からのアクセスも比較的良く、観光地としてもある程度にぎわっている。
なだらかな段丘上に立地した住宅街はリタイヤ後の中産階級にも人気がある。
住宅地の他は畑が多く、海辺には漁港や海水浴場、マリーナがある。
人口は5万人程度。名産はキャベツ、大根、生シラス、マグロ。

11.新聞社にて
探索者達と鳥居が向かうのは、M市の市街地にある東斗(とうと)新聞M支社である。
この新聞社は鳥居がよく出入りしている黒獅子出版と同じ系列の会社であり、主にこの市内で発行されるローカル紙の編集を行っている、と鳥居は道中で説明する。
社屋は県道沿いに立地するコンクリート造りの簡素な二階建てであり、東斗新聞という看板が掛かっている。
既に支社に対しては鳥居から連絡を入れており、特にロールの必要なく探索者達は社内に入ることができる。新聞社では鳥居の知己らしき若い社員が対応する。
鳥居が資料の閲覧を申し出ると、男性社員は探索者達と鳥居を資料室へと案内する。資料室は十畳ほどのスペースであり、ぎっしりと資料の詰まったスチール製の書架が並んでいる。
その中には記事の元になる資料や、今まで発行された新聞のバックナンバーが所狭しと収納されている。
ここから目当ての情報を探すには、かなりの労力が必要となるだろう。ここで〈図書館〉を行う場合は二時間を消費する。
成功すれば、M市内で起こった死亡事件について、以下の二つの情報が手に入る。

〈市内で画家の伊勢谷 郷さん死去〉(一週間ほど前の記事)
某月某日、M市内に在住している画家の伊勢谷 郷(いせやごう)さん(87)が自宅で倒れているのが市の職員によって発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。死因は病死とみられる。
伊勢谷さんは数週間前からたびたび不眠を訴えており、健康状態に不安を持っていたことが知人からの取材で分かっている。
伊勢谷さんはT美術大学を卒業後、M市内で創作活動に勤しみ数々の賞を受賞。
T美術大学の教授も務め、日本の画壇をけん引してきた。近年は一線を退き、M市内の自宅で一人暮らしをしていた。

また伊勢谷氏の住所も室内の資料に記載されている。

〈M市少女殺害事件の犯人逮捕〉(半年ほど前の記事)
某月某日に発生した軽部 かれんちゃん(7)がM市内で殺害された事件について、M署は昨日夕方、市内在住の無職、折井昆容疑者(32)を逮捕したと発表した。
某月某日、M市内の住宅街でかれんちゃんを刃物で殺害した疑い。
同署によると、事件現場付近を走って逃げる折井容疑者が近隣住民に目撃されており、事情聴取を行ったところ犯行を認めたため逮捕された。

12.老画家のアトリエ
新聞社で最初の犠牲者らしき人物の住所を入手した探索者達は、その老画家の家へ向かう事になるだろう。
もしかしたら探索者達は病院や保健所で情報を得ようとするかもしれないが、多発する幻覚患者の対応で大わらわであり、まともには対応してくれない。
老画家の家は、新聞社から車で10分ほどの距離にある、海に近い場所に建つ平屋の一軒家である。
白い外壁はあまり手入れをする人がいなかったのか多少くすんでいるが、ある程度富裕な人間の住まいであることがわかる。
また家の前には青い軽自動車が停まっている。これは現在伊勢谷の遺品などを整理している孫のものである。注意深く見れば、最近発売された比較的新しいモデルの車であることがわかる。
玄関にはチャイムが付いており、押せばしばらくして若い男性が出てくる。20代後半のさわやかで温和そうな青年である。
彼は伊勢谷の孫である剛(つよし)という名前の人物である。剛ははじめ探索者達を郷の客かファンだと勘違いし、申し訳なさそうに郷が亡くなった旨を伝える。
もし探索者達が郷のファンか何かを装うならば、剛は快く探索者達を招き入れるだろう。
あるいは事情を話して〈信用〉〈説得〉〈言いくるめ〉に成功しても同様の効果が得られる。もしそれらに失敗しても、しぶしぶながら協力してくれるだろう。
もし彼に郷の死亡前の様子を聞いても、長い間疎遠だったから分からない、と答える。郷は晩年家に引きこもりがちであり、交友関係は狭かったようだ、とも話す。
郷の家はアトリエを兼ねており、広い一室がそれにあてがわれている。その他の部屋はただの生活スペースであり、特に見るべきものはない。
剛は探索者達をアトリエに案内し、自らはリビングで待つ、と言う。また自由に見てもらって構わないが、遺産分配等の関係もあるので、作品を譲ることはできない、と探索者達に注意する。
アトリエは20畳ほどの比較的広い部屋である。まだ整理が進んでいないようで、描きかけて打ち捨てられたカンバスや画材が散乱し、塗料の化学的な臭いがする。
また部屋の端には作業台が置かれており、部屋の中央には描きかけの油絵がイーゼルに立てかけられている。
絵画は1人の少女をモチーフにした、明るい色彩の油絵である。しかるべき技能に成功すれば、これを描いた人物の技量の高さがうかがえるだろう。
探索者達はその少女に見覚えがある。野々村と別れた晩に見た夢に出てきた少女である。
奇妙な偶然に不安を掻き立てられた探索者達は、0/1d2の正気度を喪失する。またこのカンバスの裏には、題として「かれんの肖像」と書かれている。
作業台は非常に汚れており、絵具や絵筆、パレットナイフなどが乱雑に置かれている。
〈目星〉に成功した探索者は、その中に封筒に入った書きかけの手紙が紛れ込んでいるのを見つける。
この手紙は伊勢谷郷が軽部優からの手紙を受け取り、その返事として書いたもので、封筒の裏には軽部家の住所が書かれている。
手紙は優に宛てたもので、時候の挨拶が述べられた後、次のように書かれている。

〈老画家の手紙〉
お久しぶりです。もう半年とはいえ、まだ癒えぬ悲しみ、お察しいたします。
僭越ながら一人の友人として、非常に心配しておりましたところ、今回お手紙をいただき、多少なりとも安心いたしました。
そういえば先日、珍しくかれんちゃんの夢を見ました。余計な事とは思いましたが筆を執り、彼女の姿をカンバスに写しております。
完成した暁にはぜひお見せしたく思います。(手紙はここで途切れている)

伊勢谷郷はまぎれもなく呪文の最初の犠牲者で、夢を見た翌日からかれんの絵と優に宛てた手紙を書き始めた。
しかしそれが完成する前に彼は精神に異常を来たし、狂死してしまったのである。
剛にこの手紙の事を聞くと、宛先の人物は祖父の数少ない友人だったようだが、今は連絡がつかない、と答える。

13.夢の中へ
手紙が入った封筒に書かれていた住所は、伊勢谷の家から山の方へ入っていく道の先にある。それほど離れてはおらず、車で5分もかからないだろう。
山もそれほど高いわけではなく、むしろ丘陵と言った方がよいかもしれない。道を進んでいくと、海が見える少し高い土地に、軽部一家の家がある。
家はログハウス風の二階建てで、周囲の民家とは少し離れている。木々に囲まれ、人の気配はない。家の周囲に不審なものはないが、郵便物がかなり溜まっている。
チャイムを押しても反応はなく、また内部で人が動いている気配もしない。家の玄関には鍵が掛かっておらず、探索者達は中に入ることができる。
玄関を開くと、乾いた暖かい風と共に、サントリーニ島の景色が流れ出してくる。このドアは探索者達が住まう現世と、優が作り出した虚構の世界とを隔てる境界だったのだ。
数瞬の後に、探索者達は自分たちが昨晩見た夢の世界に立っていることに気が付くだろう。現在探索者達が立っているのは、ごくごく小さな広場のような場所である。
周囲を見回すと、昨晩よりも多くの人が行きかっているように思える。行きかう人々のほとんどは探索者達に注意を払う事はないが、またもやかれんが探索者達を見ていることに気が付く。
こんどはクリスタライザーを持っていない。彼女は探索者達に見られていることに気が付くと、一目散に逃げ出す。
追っていくと、やがて1人の若い女性の後ろに隠れているかれんを見つける。若い女性は驚いたように探索者達を見つめるだろう。
それは探索者達が覚醒のままこの世界に立ち入っている、という驚きである。
「あなた達は……なぜこんなところに?」
女性の年齢は20代後半ぐらいに見える。清楚な感じのする美人である。彼女は軽部杏奈と名乗るが、現実世界の彼女は死んでいるため、ここにいる彼女も本人ではなく、その霊魂でもない。
あくまで優の中に存在する妻の記憶なのである。同時に優の中に存在する優しさや良心の具現でもあるが、探索者達にそれを知る術はない。
杏奈は探索者達に名乗った後、何の為にここに来たのか聞くことになるだろう。その答え如何に関わらず、探索者達に、夫である優を止めてほしいと懇願する。
優は杏奈を亡くしたことをきっかけに奇妙な魔術に手を染め、一旦は思いとどまったものの、娘のかれんを殺人事件で喪うにあたって良心の歯止めが利かなくなった。
魔術は紛れもなく本物であり、人間の夢を媒介して際限なく広がっていく呪いのようなものである。
そうして奪った人間の眠りを贄として、この世界は出来上がっているのだ、と杏奈は話す。
優を止める具体的な方法については、優の持っている「夢のクリスタライザー」という品を破壊すればよいが、自分はあくまで優の記憶の中の存在であるため、自ら手を下すことはできない、と哀しそうに答える。
優とクリスタライザー所在は坂の頂上にある優の家である、と言い、自ら案内を申し出る。

14.三人の家
坂の頂上には、ログハウス風の家が建っている。探索者達が先ほど見た優の自宅と同じ外観である。周囲の白い建物とは雰囲気を異にしており、遠目からでもはっきりと確認できるだろう。
建物の近くに来ると、杏奈は「案内はここまで」と言って外で待つ。彼女はあくまで優の記憶であるため、優に直接危害を加えることはできないのだ。
ここに来るまで、かれんはほとんど口を利かない。二、三簡単な受け答えをするかもしれないが、この世界や自らの父について語ることはない。
しかし探索者達がログハウスに入る前、彼女は探索者達が採るべき行動に対して示唆を与える。
「卵を壊すの。卵を壊せばみんな夢から覚める」
探索者達がログハウスに入ると、そこはすぐ大きな部屋になっている。複数ある窓から光が差し込む明るい空間で、壁や床は無垢の木材である。
また必要最低限の家具のみが置かれた、清潔で生活感の少ない部屋でもある。奥の書き物机には、優が探索者達に背を向けて、何かを書いている。
机の端には大きな黄色い卵のようなもの(夢のクリスタライザー)が安置されている。
探索者達が部屋に入ると優はすぐそれに気づく。そして探索者達の表情や様子から察したのだろう、警戒してクリスタライザーを抱え、部屋の隅へと後ずさる。
「なんですかあなた達は……一体何しに来たんですか?」
もし探索者達が根拠をもって優を問い詰めるなら、彼は言い逃れができないと思ったのか、自分のしたこと、探索者達の身に起こっていること、などを話す。
すなわち妻と娘に会いたいがためにこの世界を作った事、そのためには誰がどれだけ犠牲になっても構わないという事、犠牲者は眠りを奪われてからおおよそ2週間前後で死に至る事、などである。
現在生きている犠牲者を救う方法を聞かれても、優は黙ってクリスタライザーを抱く力を強めるだけである。犠牲者を救うには彼自身が呪文を破るか、殺されるかする必要がある。
もちろん彼はそのどちらもするつもりはない。探索者達は彼を力づくでどうにかする必要がある。
理性的な探索者達であれば、優をなんとかして説得しようとするかもしれない。しかし上述の理由により、解決方法は限られているし、優に実行の意思はない。
また探索者達の態度によって優の反応も変わるだろう。一般論を説いても強く反発するだろうし、家族を引き合いに出せば激昂するかもしれない。
結局のところ、説得によって彼を改心させることはできない。しかし、多少の迷いを生じさせることはできるかもしれない。会話が煮詰まったところで、以下の描写を挟む。

〈描写〉
夢の景色は激しく変質していった。
周囲の壁は爛れた皮膚のように剥落していき、その下から赤黒い肉があらわになる。
腐った臓物のようにぶよぶよした床からは、巨大な目や畸形の腕、名状しがたい触手が生成される。
それらはまるで意思を持っているかのように蠢き、のたうち、這い寄ってくる。
生々しい臭気が鼻から忍び込み、包み込むような悪意に脳が警鐘を鳴らす。
五感で捉える悪夢。その只中にあるという狂気。
存在自体が揺るがされるような危地に置かれた恐怖によって、探索者達は1/1d6の正気度を喪失する。

ここから戦闘処理に入る。探索者達の目標は、優が所持している夢のクリスタライザーを奪取あるいは破壊することである。
ラウンドの最初、壁面や床から1d3本の触手が伸びてきて探索者に絡みつく。
1d100をロールし、30以下であった場合、標的となった探索者は触手に絡め取られ、すぐに窒息ロールを行う。
この触手から逃れるためには自分の手番でSTR6との対抗ロールに成功する必要がある。
もし探索者が2本以上の触手に絡め取られた場合、対抗ロールの値はその触手の本数に6を掛けたものとなる。
2ラウンド目には触手が1d3+1本、3ラウンド目には1d3+2本と増えていき、時間が経つとともに探索者達は追いつめられていく。
もし探索者が全員触手に絡め取られて状況が絶望的になってしまった場合は、触手への噛みつきによる脱出を認めてもよいだろう。
夢のクリスタライザーを奪うには、組み付きロールに成功したうえでSTR対抗ロールに成功するか、組み付きロールに2ラウンド連続で成功する必要がある。
また優を殺害する、気絶させる、耐久力の半分以上のダメージを与えることで、クリスタライザーを手放させることができる。
優は攻撃せず、また両手でクリスタライザーを抱えているため受け流しもできず、回避のみを行う。探索者達が夢のクリスタライザーを奪取あるいは破壊すれば戦闘は終了である。

15.夢はいつか覚めるもの
探索者達が夢のクリスタライザーを奪取すると、タイルがはがれるように夢の世界が崩壊していく。クリスタライザーを奪われた優は、諦めたようにその場で項垂れる。
それと同時に、優の背後の空間にスリットが入り、中の青白い空間からあるモノが現れる。
それは旧き神ヒプノスにまつわるクリーチャーであり、夢のクリスタライザーの守護者と呼ばれる存在である。
守護者はぶよぶよとした体長1mほどの巨大なクラゲのように見える。上部には黄色い目が付いており、その瞳には明らかに知性と敵意が宿っている。
守護者はいくつもの長い触手で優を絡め取り、悲鳴を上げるのにも構わず夢と現実の間の次元へ引きずり込む。
この非現実的なクリーチャーとその哀れな被害者を目撃した探索者達は、0/1d6の正気度を喪失する。
連れて行かれた優の魂はヒプノスの宮廷で永遠に苦しみ続けるのであるが、探索者達にそれを知る術はない。
もし探索者達が優を助けようと望むなら、正気度ロールに成功した探索者が〈DEX*5〉に成功し、
その上で守護者のPOW(守護者にはSTRが存在しないので、POWがその代わりとなる)16との抵抗ロールに勝たなければならない。
優を助けることに成功すれば、守護者は一旦引きさがり、スリットの向こうに消えていくだろう。
救助の成否に関わらず夢の世界は崩れつづけ、やがて探索者達は現実のログハウスに立っていることに気が付く。
そこは夢の世界で見た者と同様、生活感のない清潔な部屋である。杏奈やかれんは当然そこにはいない。
優の魂が守護者に連れ去られてしまった場合、彼は死んではいないが、精神は既に抜け落ちており、永遠に目を覚ますことはない。
脳波を図れば、深い深い眠りに落ちていることがわかるだろう。探索者達の手元には夢のクリスタライザーが残されている。
この元凶となるアーティファクトを破壊することで、探索者達と呪文の被害者は眠りを取り戻すことができる。
眠りを取り戻した探索者達は強い眠気に襲われ、その場で眠りこけてしまうかもしれない。ひとたび(おそらくは半日近く)ぐっすり眠れば、体調は完全に元通りになる。
鳥居はよく状況がつかめずきょとんとしているだろう。事件の真相は彼には理解できず、ある程度想像で記事を書くしかない、とがっかりした様子である。
街に下りたり病院に向かったりすれば、呪文の被害者たちが眠りこけている様子が目に入るかもしれない。
一時的に状況は混乱しているが、すぐに平常を取り戻すだろう、と探索者達は確信できる。

16.結末
一昼夜の後、呪文の被害者たちは全員体調を回復し、入院していた者もじきに退院できるようになる。
優の処遇は探索者達に任されている。魂が連れ去られてしまった場合は二度と意識が戻ることはないだろう。
この事件に警察が介入することはなく、真相は探索者と鳥居だけが知るのみとなる。
鳥居は面白おかしく脚色しつつ、今回の事件についての記事を書くかもしれないが、社会的なインパクトはほとんどないだろう。
野々村もすっかり回復し、また元気に働き始める。退院した彼女と会って無事を確かめてやるのもいいかもしれない。
その際、彼女に真実を伝えるかどうかは探索者達次第である。
ともあれ際限なく広がると思われた呪文を打ち破り、自らと友人の正気を守りきることが出来た探索者達は、2d4正気度ポイントを獲得する。

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