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117.エビ、O、りぜ - 18/04/28 22:52:37 - ID:ZFTxhO47+Q
古の小国に獣の王が在った。その名は禁じられている。かの王は大力を持ち虚像を操り、何よりも欲の強い王であった。ある日、彼女は戯れに幼い野良猫を庇護に置く。王は自分の美貌にすら執着していた為に、それは本当に暇潰しの気紛れであった。だが、王は次第に野良猫へと恋慕を抱く。仔細は伝わらず語る者も居ない。今は愛があった証として、とある王国の広場に古びた小国の碑だけが残っている。…これは唯のお伽噺の類である。
古の小国にあった獣の王が庇護下に置いた猫をいかなる名で読んだのか、それは定かではない。己の権勢に強い執着を見せたかの王の伝記にすら、ほんの数行の記述が残されるのみで、いまではただ、国の広場に打ち捨てられるように立った石碑に二人の愛を祝福する文言が彫られているのみである。
ある者はこれを、獣の王が自らの慈悲深さを知らしめる為に作った美談だと云い、またあるものは、これを実際に合った王の悲恋であったと記した。とはいえ事実はすでに茫漠たる歴史の砂に飲み込まれ、いわゆる当時の「真実」というものがいかなる形を成していたのか、今の我々にはもはや知るすべはない。
ただ粗末な文字で端的に述べられた彼ら二人の愛の物語が、こうして後世の史家をして二分するほどの議論の的になっているのは、つまり彼らの愛が、それだけ我々の心打ったものだということであろう。
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