第1種放射線取扱主任者が放射能とは何か、人体に対する影響は、法令はどのようになっているのか、についてわかりやすく解説します。マスコミやネット上の間違ったり、偏った情報に流されまくっている状況に憂慮しています。何か質問がある場合、掲示板を利用してください。気づいたら分かる範囲内でご解答します。

放射線のエネルギー・スペクトルは、放射線検出器からの出力信号を増幅器等を通した後、マルチチャネル・パルス波高分析器MCA)に入力して求めます。MCAからえられるパルス波高分布において、横軸はパルス波高を表し、放射線エネルギーに対応します。縦軸はそのパルス波高をもつ放射線の計数を示します。
放射線の正確なエネルギー・スペクトルを求めるためには、放射線エネルギーのすべてを放射線検出器の有効体積内で消費し、それに比例したパルス波高の出力パルスが得られなければなりません。したがって、測定試料による放射線の自己吸収、検出器の入射窓による吸収などの影響についてとくに注意が必要です。

α線スペクトロメトリー

放射性核種から放出されるα線はほとんどが4〜7 MeVのエネルギー範囲にあり、エネルギー範囲が数桁におよぶβ線、γ線とは異なります。α線の飛程は空気中でも5 cm程度であり、しかも、物質に吸収されやすいので、正確なスペクトルを測定するためには試料調整に細心の注意を要します。
測定器としては、表面障壁型半導体検出器、PN接合型半導体検出器、グリッド付電離箱および液体シンチレーション検出器が使用されます。
イ)表面障壁型半導体検出器PN接合型半導体検出器)−エネルギー分解能は最も良いです。真空状態で測定します。外部試料計数法。
ロ)グリッド付電離箱−エネルギー分解能は半導体検出器に次ぎます。内部試料計数法。
ハ)液体シンチレーション検出器100%の計数効率。試料調整が容易。分解能は劣ります。内部試料計数法。
ニ)比例計数管−エネルギー分解能はグリッド付電離箱と同程度。内部試料計数法。

β線スペクトロメトリー

β線はα線、γ線と異なり、スペクトルが連続分布であるため、検出器で得られるパルス波高分布もピーク状になりません。このため、複数の核種からβ線が放出されている場合に、そのパルス波高分布から核種を同定することは困難です。単一のβ線が放出されている場合には、パルス波高分布の最大エネルギー位置から核種を推定します。
電子線を含め、精密なβ線のスペクトロメトリーには、電場・磁場を用いたスペクトロメータ(空芯β線スペクトロメータ)が用いられています。
一般には、Si半導体検出器、比例計数管、液体シンチレーション検出器、プラスチックシンチレーション検出器が利用できます。ただし、測定目的は内部転換電子、オージェ電子のようなピーク状スペクトルをもつ電子線のスペクトル解析が多いです。
β線のスペクトル測定においても、α線の場合と同様、自己吸収および検出器の入射窓による吸収を受けやすいので、試料調整に工夫が必要となります。
なお、β線の最大エネルギーを求める簡便な手段として次の方法があります。
イ.液体シンチレーション検出器により得られるパルス波高分布の形状、特に、パルス波高の最大値から、最大エネルギーを推定します。
ただし、クエンチングにより、パルス波高分布が低い方に変移するので、クエンチングとパルス波高分布の関係をあらかじめ求めておきます。
ロ.GM計数管およびAl吸収板を用い、吸収板の厚さと吸収板透過後の計数率の減衰から未知β線の最大飛程を求めることができ、これから、β線の最大エネルギーを推定します。

γ線スペクトロメトリー

γ線放出核種のスペクトル測定には、HPGe半導体検出器、あるいは、NaI(Tl)シンチレーション・スペクトロメータが用いられます。
ピーク・スペクトルの分解能については半導体検出器がはるかに優れており、一方、計数効率については後者が普通有利です。
γ線は、光電効果、コンプトン効果あるいは電子対生成により、エネルギーを失います。したがって、γ線がシンチレータに入射すると、これらの相互作用により運動エネルギーを獲得した光電子、コンプトン電子、あるいは、新たについ生成した電子および陽電子がシンチレータを発光させます。すなわち、同一エネルギーのγ線が入射しても、相互作用の種類、角度等によりシンチレーションのパルス波高が異なるのでパルス波高分布はかなり複雑になります。
以下の図は137Csについて測定されたパルス波高分布です。

光電ピーク(全吸収ピーク)最も高いパルス波高側のピークはγ線が、全エネルギーをシンチレータ内で失い、それに基づくシンチレーション・パルス波高に対応します。
このピークは主に光電効果によるもので、光電ピーク、あるいは全吸収ピーク、全エネルギー・ピークと呼ばれます。

コンプトン・スペクトル−光電ピークの低波高側にのびた分はコンプトン効果によるものです。コンプトン効果による反跳電子のエネルギーは散乱角により異なるので、コンプトン・スペクトルも連続分布になります
コンプトン・スペクトルの右端はコンプトン端と呼ばれ、コンプトン散乱角が180°、すなわち、反跳電子の最大エネルギーに対応します。

後方散乱ピーク−コンプトン・スペクトルの比較的低い部分に現れる幅の広いピークは後方散乱によるものです。これは、γ線が遮蔽材、測定装置など周囲の物質とコンプトン効果を起こし、その結果、エネルギーを一部失った散乱γ線が再びシンチレータに入って光電効果起こしたものです。

サム・ピーク−測定核種によっては、全吸収ピークより高いチャネルに低いピークが現れる場合があります。これはサム・ピークと呼ばれる分布で、例えば、60Coのように複数のγ線を放出する核種で見られます
なお、サム・ピークの計数値は両γ線の計数効率の積に比例するので、線源が検出器に近い場合とか、井戸型検出器を用いるときなど、幾何学的効率の大きい場合に観測されます。

エスケープ・ピーク−γ線のエネルギーが1.022 MeVより大きくなると、電子対生成に伴う寄与が加わり、スペクトルはさらに複雑になります。すなわち、生成した電子対のうち陽電子はただちに周囲の電子と結合し、同時に0.511 MeVの2本の消滅γ線を、お互い180°方向に放出します。
このうち、1本または2本のγ線がシンチレータと相互作用することなく検出器の外に逃げると、全吸収ピークからそれぞれ0.511および1.022 MeVのエネルギーだけ低い位置にピークが形成されます。
なお、光電吸収過程においては、γ線を吸収した原子から特性X線が放出されます。このため、光電吸収が検出器の表面近くで起こると、特性X線が吸収されずに検出器外に逃げだす確率があります。その結果、γ線のエネルギーから特性X線のエネルギーを差し引いた位置にピークが現れることがあります。

特性X線ピーク検出器の近傍でγ線が遮蔽体など周囲の物質と光電効果を起こすと、その遮蔽体物質に特有なX線が発生します。
物質の原子番号が大きい場合には特性X線のエネルギーも大きくなり、このX線がシンチレータに入射して特性X線ピークを形成することがあります。これを制御するためには、鉛、鉄など、原子番号の大きな遮蔽体の内側をアルミニウム等、原子番号の小さな物質で内張りし、遮蔽体で発生した特性X線をここで吸収させます

なお、スペクトルの形状、特に、定量に必要となる全吸収ピーク面積は、1)検出器の形状・容積、2)測定試料の形状・容積、3)検出器と試料の距離などの位置関係(測定ジオメトリー)、および、4)試料によるγ線の吸収・散乱効果により変化します。

中性子線スペクトロメトリー

中性子線のエネルギー測定は特殊な技術を要し、利用も限られているので、ここでは方法のみを紹介します。
イ.飛行時間(TOF)法:一定の距離を中性子が飛行する時間を測定し、速度からエネルギーを計算します。
ロ.アンフォールディング法:検出器で得られるパルス波高分布を、検出器の中性子に対する応答関数を用いて、中性子エネルギースペクトルに変換する方法
ハ.カウンタテレスコープ法:水素原子核との弾性散乱により放出される反跳陽子を二つのカウンターで同時測定し、Ep = Encos2θの関係から中性子エネルギーEnを求めます。
ニ.放射化法:核種により放射化に必要な中性子の最低エネルギー、すなわち、しきいエネルギーが存在するので、しきい値の異なる種々の核種を放射化し、得られた誘導放射能から中性子エネルギーを推定します。
なお、中性子線スペクトロメトリー用の検出器としては、有機シンチレータ(スチルベン、アントラセンの結晶、あるいは、NE-213等の液体)、比例計数管(充填ガス:H2、CH43He)などが用いられます。

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