---------------------------------------------------------------------------- 近代 １９世紀
現実そして意識から意志へ
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時 代 背 景
フランス革命はフランスにとどまるものではなかった。革命政府は国内外の反革命の勢力を一掃すべく革命戦争を引起こし、周辺諸国を次々と征服していった。そして、この革命戦争の英雄がナポレオンである。一七九九年、彼はクーデターによって第一統領に、さらに一八〇四年には皇帝に就任したのである。
ナポレオンの近代的政策の下、フランスが支配する諸国においては革命的な自由主義の気風が広まったが、これはまた、他国支配からの自由をめざす民族主義運動へと発展していき、一八一二年、ナポレオンがロシアに敗退したのを機に、諸国民の解放戦争が起こり、このフランス帝国は崩壊した。
その後、諸国は戦後の国際秩序を回復すべく、ウィーン会議を開いたが、これによってできた体制は保守反動復古的なものであり、いったん根付いたヨーロッパ国民の自由主義への意志はこれによって抑えきれるものではなく、各地で次々と反乱が勃発した。そして、三十年には、フランスにふたたび「七月革命」が起こり、自由主義の王を迎えて立憲王政へと変り、また、周辺諸国も、独立運動や国民統一運動、選挙法改正など、近代化へと進んでいった。このような動きの中心はいまだ学生や中産市民層であったが、次第に、産業革命のしわよせを担っている下層の労働者たちの自覚が進み、社会主義運動も盛んになってきた。だが、これはいまだ非現実的な理想主義であり、《空想社会主義》などと呼ばれた。
しかし、このような社会主義的反政府運動に外交の失敗が重なり、四八年、労働者や小市民を中心として、フランスに三たび「二月革命」と呼ばれる暴動が起こることとなった。しかし、臨時政府は社会主義的改革を実行したが、しかし、やがて中産市民の穏和な共和主義者に抑え込まれ、ナポレオンの甥、ルイ＝ナポレオンが大統領となり、数年後には制権内クーデターと国民の圧倒的な支持によって皇帝ナポレオン�契い箸覆蝓�第二帝制が始まった。ドイツなどの周辺諸国でもこの革命の影響が波及し、ウィーン体制は完全に崩壊し、自由主義改革、国民統一へと地歩を進めた。一方、イギリスはこのようなヨーロッパの混乱の間に、他国に先駆けて植民地政策を伸張し、中国を「アヘン戦争」で奪い、インドを直轄化し、さらには東南アジアへと勢力を拡大していった。
この後、フランスもこれを追うように、東南アジアや中国を奪って、植民地化していった。だが、ドイツのプロシア・オーストラリアやイタリアは、国家統一のための戦乱を繰り返し、また、新大陸アメリカでも、南北戦争、メキシコの内乱が続いていた。
七〇年、ドイツのプロシアは「普仏戦争」においてフランスを破り、国家統一を果した。また、負けたフランスでは、ナポレオン�契い�退位し、不安定ながら第三共和制が成立した。イギリスは今度はアフリカに目を向け、勢力エジプトから南下拡大し、また、南アフリカから北上進展した。追ってフランスもモロッコ・アルジェリアから西アフリカ一帯を制圧した。遅れたドイツは両国の境界残地である東沿岸、西南沿岸を抑えた。イタリアは、わずかに東沿岸を取り、また、トリポリ（現リビア）
をトルコから奪った。また、太平洋では、オランダがかねてからインドネシアを持ち、早くもイギリスがオーストラリアヤニュージーランド等を抑えていたが、ここにアメリカがハワイやフィリピンを奪い、また、日本も台湾へと勢力を拡大していた。ドイツはこれらの諸勢力の中央の領域を確保した。中国も「日清戦争」で日本に破れ、日本、ロシア、ドイツ、イギリス、フランスにそれぞれ大河にそって帯状に分割されることとなった。このような列国の植民地拡大競争の中で、国際情勢は英仏の対立を中心として、その他の国々はおもにイギリス側と同盟関係を結び、安定を保っていた。
また、《産業革命》の進展は、《資本主義》を生じた。《資本主義》とは、資金・材料・製法・人材・開業特許などの資本を持つ者がこれらを廃蔵するのではなく、利潤を求め、危険をおかして投資し、これらの資本を失うことなく再生産、回収し、かつ、利潤を獲得する社会経済制度である。この制度は、その投資、および、資本回収に関して市場経済による競争原理を伴う。したがって、しばしば、より大きな資本を持つ者が、より小さな危険で、より有利に投資および資本回収を行うことができ、このために資本は集中し、独占化がすすみやすい。また、投資によって生じる利潤は、資本を持たざる者が労働者として働いた際に搾取された結果である、とも言われる。しかし、現代においては、累進税制やさまざまな法的規制によって一定以上の資本拡大が困難であり、また、資本は大きくなるほど維持そのものが難しくなり、さらに、大きな投資は突然に回復不可能な破局的損失をこうむりやすく、さらにまた、時代の変化とともに所有する資本の経済的重要性が償却してしまうため、歴史的にも同じ資本が数十年以上、隆盛を続けることはまずありえない。また、今日の資本は、税法その他の理由から、そのほとんどが個人資産ではなく企業資産であり、経営者すら賃金労働者となっており、また、株主も法人が中心であり、資本家が労働者から搾取して私腹を肥すなどと前世紀的な図式は、まともな企業では起こりえない。そして、このような資本の共同体所有という意味では、むしろ、資本主義そのものが《社会主義》に接近してきていると言える。
いずれにしても、十九世紀において、当初、産業資本家が中心であったのだが、次第に金融資本が成立し、半ば以降は、産業資本より金融資本が優位になった。そして、国際経済も、商品輸出よち資本輸出そのものの方がさかんになった。つまり、市場や労働力、資源が充分ありながら、これを近代的産業ベースに乗せられないでいる国々へ資本を投下し、その国の政府、国民、国土を搾取して、自国内以上に経営利潤をあげようというものである。そして、これは、富国強兵をめざす財源獲得方法として国家的政策と結びつき、列国の植民地獲得競争へと発展していったのである。このような国家規模での資本主義的植民地政策を《帝国主義》という。そして、このような帝国主義は、逆に、その植民地維持のために強大な兵力を必要とすることになり、さらにそのための財源を求めて植民地を拡大しなければならない、という泥沼に陥っていく。
哲 学 概 観
十九世紀の哲学は、もはやデカルトのように〈意識〉の平穏に甘んじていることは許されなくなった。革命と反革命の嵐は、大砲の轟音とともに双方の独断のまどろみを破った。もはや、近世までのように、すべての理性が同じ原理の下にあるわけではなかった。我ならざる理性は、自己とは異なる原理を持ち、別の合理性をそなえている。〈意識〉の中だけの合理性など、たんなる主観的独断にすぎないことが暴露された。
バークリーは「存在とは知覚されることである」と言ったが、しかし、我ならざるものは、我の知覚の如何にかかわらず、厳然と存在し、我へと攻めよせてくる。意のままにはならない世界は、カントの言うようには、意識が簡単に従わせ、規定することのできるようなものではなかったのである。我々はまず世界を直視しなければならない。我々はいかに世界に縛りつけられているのだろうか。そして、我々はいかにすれば、空理空論に陥ることなく、この世界を正しく知ることができるのだろうか。
だが、我々はいまやただ知るだけの世界の傍観者なのではない。つまり、主観という虚構の視点なのではなく、世界の中に確固たる存在を持ち、世界を変革し、そして、ときには世界を破壊してでも存続を意志する主体なのである。言わば、主体と世界との無限の闘争が始まったのだ。普遍永遠的な世界は主体を利用し、自己の展開の中に推しつぶそうとする。だが、主体はいまここに限定されながらも世界をおのれの中に奪い取り、世界を足場にし、吸収して、世界を滅ぼしても生きながらえようとする。自己なるものと他なるもののダイナミック（力動的）な絡まりあいの中で、歴史は展開する。ここにはもはや慇懃無礼な客観性の建前など必要はない。世界との距離を了解しつつ、まさに、自己の独断を独断として、独断のままに世界におしつける〈意志〉こそが哲学の主題となる。
そして、中には、ただ知るために知るという旧来からの哲学の枠を越え、知を世界変革の指針とし、実践に移すことに重点を置く人々も現われた。つまり、世界の方にこそ矛盾があるのであり、これを実力によって合理化しようというのである。この代表的なものが《社会主義》運動であった。
《社会主義》とは、［商品の価値は生産労働に起因する、それゆえ、商品を生産する労働者は、生産手段を所有するにすぎない資本家に搾取されている、これを防ぐには、生産手段を社会の共有にし、共同の労働に従事して、社会全体の利益をめざさなければならない］とするものである。だが、社会制度がこのように変革されたとしても、現存していた《資本主義》の歴史的制約、すなわち、商品や貨幣の残存、労働形態の多様性、個人主義的意識、等もあるため、当座は［各人はその能力に応じて働き、その労働に応じてうけとる］《社会主義》の段階を経なければならないが、さらには、貨幣経済を脱し、一様の労働形態において、社会全体のために、［各人はその能力に応じて働き、その必要に応じてうけとる］《共産主義》こそが最終的な理想であり、これをめざすことが重要であるとされる。いずれにしても、ここにおいては、競争原理に基づく市場経済よりも、‘科学的’計画が重視されることが多いが、しかし、これは、現状妥協的停滞、情報閉鎖化、保守権威主義などの弊害を伴いがちであり、今日の社会主義諸国では、《社会主義》国家建設という目的はそのままに、ただその手段に関して改革が進められ、市場の競争原理を取入れたり、情報公開政策をとったりして、社会の活性化を図っている。
いずれにしても、十九世紀においては、《社会主義》の国家は、フランスのある一時期を除いては成立しえなかった。だが、それは社会の中においては着実に大きな潮流を生み出し、次の世紀へと受継がれていったのである。かつて、古代において、ピュタゴラスやプラトンらの哲学者が政治にかかわった例はあり、また、近世の哲学者の何人かは政治家でもあったが、しかし、いずれもたかだか個人的なものであり、それほど哲学と政治が直接にかかわるものではなかった。だが、十九世紀の哲学は、その思想を生み出した哲学者の思いの如何を越えて、また、ときには誤解されて、二十世紀の国家原理へと発展していってしまった。すなわち、功利主義者はアメリカに代表される資本主義国家を、マルクスはソ連に代表される社会主義国家を、ニーチェはナチスドイツに代表される民族主義国家を作った、と言われる。つまり、知そのものが社会的、政治的実践を離れては成立たなくなっていったのである。
たとえ世界が普遍的で不変的であったとしても、知は独断のイデオロギーにすぎず、それどころか、知はみずから世界を自分に合うように変革し、そこに安住してしまう。古代から綿々と哲学はひとつであり続けてきた。さまざまな主義主張の違いこそあれ、ギリシア語やラテン語を介して国際的であり続けてきた。だが、近代以降、哲学は分裂し始める。異なる系流間で次第に理解し難い溝が生まれ始める。根本的な見解が異なるために、論争そのものが成立たない。それゆえ、哲学者たちは仲間うちだけで寄り集って、ごそごそと大義そうに意味不明の会話を交わし、また、声高に他の系流の哲学をけなすようになる。そのような哲学分裂への転換期はまさしくこの十九世紀に端を発しているのである。
この時代のおもな思潮と哲学者たち
ベンザム 1800頃
フィヒテ 〃
シェリンク 〃
ヘーゲル 〃
ショーペンハウアー １９Ｃ前半
コント 〃
フォイエルバッハ １９Ｃ半ば
ミル 〃
キルケゴール 〃
マルクス 〃
ディルタイ １９Ｃ後半
マッハ 〃
パース 〃
ジェームズ 〃
ニーチェ 〃
ヴィンデルバント 〃
フレーゲ 〃
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