俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。Perfect World Battle RoyaleのまとめWikiです。

「旧人類狩り」と称し、邪知暴虐の限りを尽くした完全者は、ヒトの手によって封ぜられた。
だが、過去に戻れず存在が抹消されたかつての齎祀とは違い、存在そのものの抹消が起こったわけではない。
過去に戻る中間の存在の時点で、封印が起こった。
過去に戻ろうとしていた完全者も、現世に残る完全者も、そのどちらも存在し得た時間軸。
輪廻の初周であったが故に、現世に中途半端な傷跡と記憶が残ることになった。
生み出された物も、失われた物も、そのまま。
一人の少年が、戻ることを拒んだのは、自分自身が中途半端な存在だったからだ。
時間がどちらに傾いていたのか、それは分からない。
現世に戻ったところで、自分が何時消えるかは分からない。
だから、確実に存在できる道を選んだ。
先にいた者と共に守護者として、過去へ渡る悪を断つために。
人々を、遠くから見守る存在へ。
そして、"自分"が確実に存在できる道を、選んだ。
「……おや、また誰か来たようだネ」
そして今、また誰かが扉を開いている。
いつ、どこで、誰が、それは分からない。
ただ、過去に渡らせるわけにはいかない。
それを招くことは、許されないから。
「行こうか、アッシュ」
飲んでいた紅茶のカップを置き、少年は手袋をはめ直す。
そして、即座に赤と青の二色が、滲むように霞んでいった。



とあるヒトたちの活躍により、完全者は居なくなった。
恐怖は去り、安寧の日々が再び訪れることになるだろう。
だから、いずれ人々は"完全者"という存在を忘れてしまう。
時という流れが、人々の記憶から彼女のことを削り取っていく。
ここから先の話は、彼女のことが削り取られるのが少し遅かった者達の話。
限りなく可能性が広がる、新しい世界が始まるまでの、短い短い時間の、物語である。



「……どうしたんですか、大佐」
ことり、と置かれたコーヒーカップの前、仏頂面で椅子に腰掛ける男。
ハイデルンが指揮する非合法軍の一員、ラルフ・ジョーンズは、いかにも納得のいっていないという顔をしている。
「なんつーか、浮かばれねえよな」
湯気が上がるコーヒーカップを見つめ、飲むわけでもなくただ言葉を続ける。
「死ぬまでやせ我慢、つっても、死んだら何にもならねえってのによぉ」
犠牲者の中には、見知った顔が沢山居た。
中には共同戦線を張った仲間も居た。
そんな存在が、一晩にしてごっそりと失われた。
心に風穴があけられたかのような感覚に、ラルフはなんとも言えぬ気持ちを抱えていた。
……彼らは、何を思って死んでいったのだろう。
それを考えるだけで、妙な気分になる。
死んだら終わりだけれど、死んででも守りたい物があったのだろうか。
推測の域を出ないことだが、彼らならきっとそうするのだろう。
「きっと大佐でも同じ事をしたんじゃないですか?」
そこにラルフがたどり着いたことを察したかのように、クラークが声をかける。
もし、自分が同じ状況に巻き込まれたのならば、形はどうあれ同じ行動を取っただろう。
「……そういう事か」
納得したかのような台詞と、大きなため息を吐く。
人間である以上、譲れない物はある。
きっと彼らは、それを守るために戦っていったのだろう。
「おいクラーク、行くぞ。正規軍連中への報告、EDENの封鎖、やることはしこたまあるんだからな!」
「了解!」
ならば、残された自分たちも、戦わなくてはいけない。
散っていった彼らに顔向けができる程度に、動かなくては。



「喰らえっ!」
図太い木に向かい、振りかぶった拳を突き刺す。
体をひねらせながら、遠心力と共に殴り抜くその技、草薙流古武術の内が一つ、百拾五式・毒咬みだ。
いつか教えてもらった動きの通り、無心でその技を巨木に打ち込んでいく。
「……今日もやってんのか、真吾は」
「ええ、草薙が死んでから、ずっとあの調子よ」
それを見守る、二人の男女。
京の最大の好敵手とも呼べる男、二階堂紅丸。
そして、三種の神器の内が一人、神楽ちづるだ。
連日連夜、かつて京が打ち込みに使っていた木に向かい、拳を打ち込む真吾の姿は、どこか痛々しくもあった。
けれど、二人には止められない。
突然告げられた別れに、言葉すら出ないからだ。
整理できない気持ちを、どうにかして形にするために。
真吾は毎日、こうしているのだ。
心に訪れた、とても大きな変化を、見つめるために。
「喰らえっ! 喰らえっ!!」
とうに拳からは血が流れ、お気に入りのグローブは深紅に染まっている。
けれど、彼は拳を振るうことをやめない。
それをやめてしまえば、自分が壊れていきそうだから。
「ったく……残される方も楽じゃないね……」
その悲痛な姿を、やはり見つめることしかできない。
そんな紅丸もまた、好敵手の死を受け入れられずに居るのだろう。
木に打ち込み続ける真吾の姿が、かつての京の姿と、被るからだろうか。
「真吾!」
だから、彼は決意する。
「何スか、紅丸さん……」
このままじゃいつまでも死人の姿に囚われて、前に進めないから。
「一週間後……俺と勝負しろ」
互いの気持ちに、ケリをつけるために。



寂れた町、風の香り、木々のざわめき。
そんなのどかな町の外れに、ぽつりとたった墓。
それを囲むように、一人の老人と、一人の青年と、二人の少年少女が立っている。
それは、麻宮アテナがかつて共に修行の日々を過ごした、仲間達の姿だった。
ハイデルンから告げられた、一方的な事実。
突然訪れた、"死"という現象は、彼らの心を強く抉っていた。
「……何が、ナイトや」
青年、椎拳崇は怒りのあまり地面をたたきつける。
彼女を守ると誓った、だから修行の日々も耐えてきたし、力をコントロールできるようになった。
けれどどうだ、現実には守ることすら許されなかった。
自分の手の届かないところで、彼女は死んでいったのだ。
「拳崇よ、あの日、感じたことを覚えておるか」
立ち尽くす拳崇に、彼の師である老人は語りかける。
「もう、分かっているじゃろう」
「うっさい、そんなん、言われんでも分かってるわ」
その言葉を、拒絶する。
「でも、認められへんやろ」
頭で分かっていても、受け入れられないことがある。
「アテナが気に飲まれて、暴走しましたなんて、はいそうですかとは言われへんわ」
明らかに異質の力、その中に感じたアテナの気配。
そして、その気配が血にまみれていくのも、確かに感じ取っていた。
彼らは気づかされていたのだ。
麻宮アテナという、一人の少女が、殺人鬼に落ちる場面を。
「……ましてや、なんもでけへん場所で、ぼーっとしとっただけやのに」
全く、手の届かない場所で、一方的に。
「すまん、一人に、さしてくれへんか」
震える声で、同行者に席を外してもらうように願う。
少女が何かを言い掛けたが、少年がそれを止める。
分かっている、分かっているのだ。
この場所で一番悔しいのは、彼なのだと、分かっているのだ。
だから、黙って一歩退く。
彼の願いを、かなえるために。

「なあ、アテナ」
少し無骨な墓石に語りかける。
「知っとったんや、アテナが苦しんでるのを」
ずっと隠していた真実を。
「けど、見て見ぬ振りしとった。ええ顔してるアテナだけを、見とった」
心の中の後悔の念を。
「最悪やな、今思ったらほんまにそう思うわ」
今、話したところでどうなるわけでもない。
「……ごめんなさい」
許されたいわけでも、ない。

ただ、そうしなければいけなかった。

じゃないと、前に進めないから。



そして、もう一人。
そうしないと、前に進めない人間が居た。
「なあ、セスのおっさん」
アイパッチが特徴的な男、ラモンは、向かいに座る白いショートモヒカンが特徴的な黒人の男、セスに話しかける。
「姐さんの子供は、どうなるんだ?」
話題の的は、死んだヴァネッサの子供だ。
「……親父まで死んで、まだ小せえのに親を失って」
完全者の催しによって、一晩にして両親を失ってしまった。
子供にとって最大の支えであるはずの親という存在が、ごっそりと奪われたのだ。
「あの子等は、どうなるんだ?」
ことり、とコーヒーカップを置き、セスは真剣な眼差しで答える。
「父方の遠方の親戚である、正規軍の相川留美に引き取られるようだ」
ヴァネッサの旦那であるジョン・スミス。その父親は日本軍の将校、つまり日本人だ。
その血のつながりが多少なりともあり、生前面識もあった正規軍の親戚に引き取られるのだと、包み隠さず伝えた。
それを聞き、そうかと小さくこぼし、しばらく黙り込んでから、ラモンは再び口を開く。
「なあ、あと一つ聞かせてくれよ」
今度は、先ほどよりも口調が重い。
「エージェントって……何だ?」
何故なら、自分自身の存在意義についても、問うことになるから。
「仲間の危機にすら駆けつけられない、そんなフヌケ集団なのか?」
自分自身をメスで抉るような質問。
セスは、それに答えられずにいる。
永い沈黙、訪れない音。
やがて、がたりという一つの椅子から立つ音が鳴る。
「……あんたらとはこれっきりだ、もう会うこともないぜ」
コーヒーのお代をテーブルに置き、振り返ることなく店を後にしていく。
外は雨が降っているが、傘を差すこともなく、ぽつぽつと一人歩き続ける。
そして、しばらくして。
「ちっくしょおおおおおおおお!!」
一人、誰もいない場所に向かって叫び、地面にうずくまった。



「で、これが調査結果……といっても、ほとんど何もなかったんだけどね」
「そう……」
深紅のドレスに身を包んだ少女、そして深い茶色のバンダナをつけた少女が、テーブル越しに会話をしている。
片や、あの大財閥であるバーンシュタイン財閥のローズ・バーンシュタイン。
片や、謎に包まれた少女"まりん"。
ローズが何故、彼女と会話を交わしているのか。
「……ご苦労だったわ、これが約束の報酬よ」
それは、ローズが依頼者であり、まりんが請負人だからだ。
ハイデルンの軍の調査が入るギリギリまでに、あの悪魔の島を調査してほしいという願い。
彼女の兄である、アーデルハイド・バーンシュタインについて何か少しでも分かることがあれば、それを報告してほしい、という願いであった。
しかし、秘密のルートで手に入れた、アーデルハイドの遺体の場所には何もなく。
「明らかに異質な力を感じた」という報告ができる程度に留まってしまった。
「んーっと、こんだけでいいかな」
差し出された金の札束の一部を抜き取り、残りをそっくりそのまま返していく。
何かを言おうとするローズにかぶせるように、まりんは言葉を続ける。
「アタシ、仕事の出来には五月蠅いのよね。今回はあんまり収穫なかったし、予定通りのお金は貰えないよ。
 浮いたお金で、美味しいものでも食べに行きなよ」
少しだけ、シニカルな笑みを浮かべ、じゃあね、と一言残して。
まりんは、まるで忍者のようにその場から消えてしまった。

……こんな感じだった。
あの日、何かを感じて空を見上げて。
どうしようもない気持ちに襲われて。
しばらくして、一筋の光が目に入って。
それで、何かを察してしまった。
「……お兄様」
けれど、納得できないことだって、ある。
「何故、ローズを置いていってしまうのですか?」
"依存"していた者の中でも、ひときわ強い"依存"だった彼女は、空を仰ぐ。
彼女が立ち直り、前を向くには、相当時間がかかるのかもしれない。
けれど、そんな彼女の姿を。
きっと、彼は見つめている。



フゥ、と煙草の煙を吐き出す。
人通りの少ない裏路地で、どぎついピンクの髪の女は、肩のトカゲと共にそこで小休止を取っていた。
「あんた、イヴさん?」
そんな彼女に、臆する事なく話しかける一人の少女。
白のショートカットに、元AV女優が見てもすこしきわどい格好の彼女は、舌を出して笑いながらこっちを見ている。
「……誰だい、アンタ」
煙草を消すこともなく、ただそのまま相手の正体を探る。
その裏には、殺人者独特の、警戒心を潜めながら。
「あたしぃ? あたしは、アンヘル」
それを知ってか知らずか、アンヘルと名乗る少女は笑う。
だが、ただ笑っているだけでなく、隙を見せない笑いかたである。
下手に動けば、自分が危ない。
「あっ、勘違いしてほしくないけど、別に首取って殺そうってわけでもないし、もしそうだったら、もう死んでるからね」
少し体を強ばらせていたイヴに、アンヘルは両手を振って無抵抗を示す。
その気ならもう死んでいる、という言葉は冗談ではないだろう。
滲み出る殺気は、痛いくらいにイヴに突き刺さっている。
そんな彼女の事などお構いなしに、アンヘルは言葉を続ける。
「今日は、勧誘に来たの。今さー、ウチの組織、人手不足でしんどいのよね」
そう、彼女の今回の役目は"スカウト"なのだ。
類希なる殺しのセンスを持つイヴに、ある組織が目を付けていた。
「莫大な金が入るはずだった依頼がポシャって、ぶっちゃけ行く当てがないんでしょ?
 だったら、すごくおすすめだと思うんだけどな。
 少なくとも、今より危ない生活はしないでいいと思うよ」
息をのんだままのイヴに、アンヘルは組織の名を告げる。
「来ない? ――――ネスツに」

闇は、まだ動いている。



けれど、光もそれに負けぬほど、動いている。



「いけー! やれー! ブライアン!!」
「ちょっとラピス! 格闘技じゃないんだから……」
「ハッハ、元気が宜しいようで」
大声で野次を飛ばすラピス、それに少しげんなりとした表情を浮かべるクーラ。
そして、隣で笑う巨漢の男、マキシマ。
あれから相当に面倒くさいことをこなした後、特に行く当てがなかったラピスは、隠居生活をしていたクーラ達と共に過ごすことを決めた。
そのころにはもう、雷の力はすっかり使えなくなってしまっていた。
オロチが休眠に入ったからか、それともあの力自体が奇跡の産物だったからか。
とはいっても、それ自体に特に支障はない。
以前のように、元気にトレジャーハントに向かえているし、特に不自由はない。
前と違うのは、トレジャーハントにクーラ達がついてくると言うことぐらいか。
「あっ、ほら見て! ブライアン達の攻撃だよ!」
強化グローブが填められた手で、クーラが広いフィールドを指さす。
あの戦いで、己に託された全ての炎を使い切ってしまった。
残されたのは氷の力、それも自分のではない、"イゾルデ"の物。
だから、今のクーラは能力のない少女と大差はない。
けれど、彼女が共に戦った証は残っている。
髪の毛の一部、前髪のあたりだけが、白く変色している。
その白は、きっと彼の白であり、彼の白でもある。
クーラと一緒に戦ってくれた人が、彼女を守っているかのように。
その白は、ひときわ強く輝いていた。

「さあブライアン! ここでボールを受け取り前へ走る!」
それぞれの思いがある。
世界という渦の中で、一つとして同じ物はない。
時間はかかるかもしれない、ひょっとしたら立ち直れないかもしれない。
「一人、二人、三人! 体当たりを仕掛けられてもなお、動じない!!」
けれど、全人類が絶望したとしても。
きっと、彼は絶望しない。
受け継いだ、とっておきがあるのだから。
「まるで蒸気機関車だァーッ!! 引きずりながら進む進む進む!!」
もう、後ろを向かない。
前を向いて、世界を作らないと。
あの少年に、顔向けができないから。
「ここで、タッチダァーゥン!! ぎゃくてえええええええん!!」
グッと拳を作り、天へ掲げる。
その姿を見て、人々は何を思うか、それはわからない。
けれど、希望を感じ取って貰えるような、そんな姿でありたいと、彼は願う。
「優勝、優勝です! 悲願の優勝を手にしました!!」
だから、彼は前を向く。
そして、そんな彼を見ている二人の少女も、前を向く。
世界はまだ、作られ始めたばかりだから。










一歩進むのは大変だ。

進み続けるのはもっと大変だ。

けれど、進まなければ分からないことがこの世には沢山あるから。










僕たちは、前に進む。










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