概要

舞姫散華とは、ラディアの死について書かれた戦記。
蜉蝣戦記の中の一部だが、軍勢を率いての戦いではなかった為、戦闘一覧とは別途に扱われる。

招待状

694年3月8日、ロッド国主リヴァイルシアから、ロードレア国主レイディックの元に一通の書状が届いた。
「貴公の妹(シルフィーナ)を妻に迎えて2年、たまには兄弟ゆっくりと酒を飲み交わして語り合いたい」というものであった。
レイディックは、この誘いに応じてロッド国への向かうこととする。

かつて、ロードレア国とロッド国は交戦国であったが、リヴァイルシアレイディックの代になると、和睦が結ばれ、同盟国となった。
更に、リヴァイルシアは同盟が結ばれた時に、ろくな供も連れずにロードレア国に自ら赴き、レイディックと杯を交わしたこともある。
そのことから、レイディックリヴァイルシアに絶対の信頼を置き、またロッド国も気を使って、首都ではなく国境の城へと招いたことから、他の将も強くは反対しなかった。
この時、ロードレア四天王のうち、ヴェリアアレスアリガルはそれぞれ国境へ赴き指揮をとり不在であった。
ラディアのみニーグロスの戦いから帰還してレイディックの元にいたが、キルレイツを討った後悔から、自室に引きこもって政務に顔を出していなかった。
レイディックは、外の空気を吸わせることで彼女が立ち直れるのならと、随員としてラディアを指名する。
これが、ロードレア国主レイディック、一生の過ちとなる。

舞姫の死

ここからは、アルディア著の蜉蝣戦記をなるべく忠実に再現する。
レイディックに呼ばれたラディアは、城内の廊下で鞠を拾う、それはサリーアの子のものであった。
内政官であると同時に、一人の母となっていたサリーアに鞠を手渡した後、ラディアキルレイツの名を呼んで廊下で涙を流していたという。
その後、涙を拭いて何事もなかったかのようにレイディックの元へ現れたラディアだが、ロッド国への随員の件を聞かされ、一応ヴェリアアレスに相談してはと提案する。
だが、この様なことにいちいち国境の軍師に問い合わせることもないとレイディックに言われ、ラディアも承知して旅支度を始めた。

僅かな共を連れて二人が出発したのはその数日後であり、ロッド国に到着したのは3月23日とされている。
この旅は、乱世を忘れさせるほどのどかで、二人は各地で寄り道をしながら自然を楽しんでいたという。

ロッド国とロードレア国の国境に位置する城へと到着したレイディックを出迎えたのは、ロッド国きっての智将ギザイアだった。
リヴァイルシア本人は付近で新造の城を見廻っているため不在であった為、数日間の滞在を促した。
しかしラディアは、自分たちが招かれた部屋が城の中心部にあり、その部屋は本来の客室ではなく内装を急いで作り変えさせた部屋であったことに違和感を感じる。
わざわざ客室を作り直してまで城の中心部の部屋に招かれた理由は、「逃げ道を塞ぐため」ではないか?このことに気づいたラディアは、ニーグロスの戦い以後眠り続けていた細心の意識を覚醒させ、ギザイアの策略に気付き始めた。

乱世の時代にも最低限の決まりがあった。
それは神が定めたものではなく、絶対の束縛力をもたないにしても、同じ時代を生きる者として敵、味方関係なく守られるべきものであった。
たとえば、この時代は交戦国同士でも、季節の変わり目には使者を送りあうという風習があり、使者を斬ることは「八つ当たり」であり、行わないこととなっていた(ただし、その使者が謀略の実行犯だった場合は例外であった)
そして、「暗殺」もまた、暗黙の了解で禁止されていたものの一つである。
暗殺そのものは乱世という時代の性もあり、それほど下策と思われてはいなかったが、危険な敵陣に忍び込んで実行される暗殺は「技量を見せた結果」とみられたが、ただ闇雲に相手を誘き出して数に物を言わせて討つという行為は「知略なき者」として扱われ暗黙の了解として下策中の下策となり、これを実行した者は敵はもちろん、味方からも蔑まれる時代であった。
これは、智将を名乗るギザイアにとっては、自身の存在意義すら失わせる行為であり、到底実行できぬものであった。
となれば、彼は「事故」として周囲の国に説得力のある形でレイディックを討たねばならなかった。

この時のロッド国の情勢は、南のアル国の衰退が大きく関わっていた。
ギザイアとしては、アル国となら戦うことができるが、ベルザフィリス国がこのままアル国を飲み込んでロッド国と対陣することとなれば、勝ち目はないと見ていた。
ロードレア国と共同で当たるとしても、彼らの気持ちは既にベルザフィリス国に傾き、両国から同時に救援の声がかかれば、ロードレア国がベルザフィリス国と結んでロッド国を攻め込むという未来がギザイアには見えていた。
すなわち、今が時間的にロッド国に残された最後にチャンスであり、レイディックを暗殺すれば、子のいないロードレア国は内乱となる。
そこを横から攻め込み、アル国が滅亡するまでに、ロードレア国の領土を大きく削って、ロッド国を大国にする必要があった。

だが、事故に見せかけるにしても、生け捕りにしても、無造作にただ兵士を送り込んで暗殺という手は使えなかった。
そこに、ラディアにも付け入る隙が生じた。
こうして、ギザイアラディアの見えない戦いがはじまろうとしていた。

まずギザイアは、ラディアに歓迎会の前に土地の名産を食していただきたい、と果実を差し入れた。
一瞬毒を警戒するラディアだが、城を見廻った時に歓迎会の準備をしていたことは察知している、この時点で毒殺するなら宴の用意等するはずがない。
これはギザイアが今の段階でどこまで自分たちが警戒しているかを試している罠と察知して、進んでその果実を食した。
この「宣戦布告」から、ギザイアは3度暗殺計画をたてたが、ラディアはその全てに先手をうって封じ込めた。

やがて城へと帰還したリヴァイルシアは、レイディックか尋ねていると知り、ギザイアを呼び出した。
レイディックを招いた書状そのものがギザイアが作り出した偽書状であった為、リヴァイルシアには初耳の事であった。
レイディック暗殺計画を聞かされ、最初は激怒したリヴァイルシアだが、ギザイアに「国同士の同盟などいつかは消える、いずれ我が国を滅ぼす存在となるレイディックを今討たねばならない」と迫られると、考えた末にただひとこと「宴の準備はギザイアに全て任せる」と告げたという。
こうしてはじまった歓迎の宴。
ここでもラディアは、宴会の席を一通り見回すと、文官が後方、武官が前方に固まっていること、文官の笑顔に反して武官の緊張した笑いに注目する。
ラディアが出した結論は「暗殺隊は前方の武官数名、それ以外の者には暗殺のことすら聞かされていない」というものであった。
相手の出鼻を挫くため、ラディアは宴の最中、自ら席を立つと宴の余興に剣舞を披露すると、愛剣エルライザーを抜いた。
ラディアの剣舞は美しく優雅であったが、その華麗な舞の節々に強烈な殺気を込めていた。
この事に気づいたのはギザイアと暗殺隊のロミレア、そして武官達である。
ラディアの武勇は嫌というほど聞かされているが、その彼女がいま愛剣をもって、いつでも自分たちを斬れると言わんばかりに殺気を向けて目の前で舞っている。
ひとたびその剣先をこちらに向ければ、席に座っている自分たちは、剣を抜くより前に撫で斬りにされるという緊張感から、彼らは滴り落ちる汗を拭うことしかできなかった。
この舞を見せられた時、ギザイアは自分の敗北を悟った。
だが、それは計画の断念を意味するものではなく、智謀の戦いに完敗した彼は、ついに自らを外道に落としてまで計画を実行する事を決意する。

宴が終わり、酔いを醒ますために城のバルコニーに出ていたラディア
全ての終わりを確信し、安堵の笑みを浮かべたその瞬間、一本の矢が彼女の胸を貫く。
策も智もなく、狩りの如くただ獲物を追い立てるギザイアの暗殺部隊が送り込まれるが、レイディック自身も剣の腕には覚えがあり、最初の攻撃をかわすと、僅かな供が時間を稼いでいる間にラディアを抱え、馬を奪って脱出する。
ここにきて、かつてアレスが何度もロッド国への警戒を忠告したことを無視し続けた事に後悔の念を持つが、もはや全ては遅かった。
ラディアを洞窟へと置き、自らは剣を抜いて追っ手と戦うレイディック
やがて雪が降り始め、あたりを白く染めていく。
護衛としてつれてきた僅かな供も皆討たれ、レイディック自身にも限界がきたそのとき、国境を越えたロードレア側から軍勢が駆けつけ、追っ手を打ち払う。

レイディックすら知らない迎えに来た将の名はグロライドであった。
アレスの依頼で、国の誰にも悟られずに密かにロッド国との国境を守り続けていた将である。
アレスは、国主に内密で軍を動かすという危険を冒してまで手を打っていた。
それに対して自分の不甲斐なさに怒るレイディックだが、追っ手を打ち払った以上ラディアを回収して急いで帰国しなければならない。
だが、レイディックの問いかけに、ラディアが答える事はなかった。
胸に受けた矢には毒が塗られ、既にラディアは醒めなき夢の中へと旅立っていた。
時に694年3月27日。
この一件を知ったレイディックの妹にしてリヴァイルシアの妻シルフィーナは、兄と夫が争う戦乱の時代に絶望して、自害して果てた。

ラディア英霊名舞風として、故郷の元アゾル国領土の丘に埋葬されたが、後年キルレイツの眠るニーグロス古戦場にその墓は移された。
乱世の荒波に飲まれ、その生涯のほとんどを戦場で過ごし、才あるが故に女としての幸せな一生を送れなかった少女。
あまりにも早く散った乱世の華であった。

忍び寄る落日の影

ラディアの遺体をつれたレイディックは、悲しみに包まれて帰国した。
ラディアの葬儀は国葬として取り扱われ、諸将、国民は皆涙を流した。
そして、ラディアを失った事で全ての計画が崩れたと、ヴェリアは自ら作成した「五年天下取りの書」を焼き捨てたという。
この書の存在については後世の創作であるが、ラディアという一人の将がヴェリアの策に大きな影響力をもたらしていた事には間違いはない。
また、同じ時代を生きた女将軍として、直接かかわりのなかったルーディアまでもが哀悼の言葉を残しているが、彼女にとっても他人事ではなくなる。
当初の目論見がはずれたギザイアは、すぐさま方針の転進を行う。
アル国の崩壊を少しでも先延ばしする為、ロッド国はルーディア包囲網への参加を決意したのだ。
直接兵を送ることはないが、アル国と一時的に和平を結ぶことで、北に向けていた兵力のすべてをベルザフィリス国に全力を傾けてもらい、その間に自分達はロードレア国との戦うが、それと同時に状況が変わればすぐさまアル国の背中を刺せるための準備にも、躊躇なくとりかかっていた。

これらすべてが、ラディア1人を失ったことに端を発していることから、彼女の影響力が当時どれだけ大きかったかが伺える。

関連項目

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