「やだやだやだ〜!クリスマスなのに〜!!」
「エリス〜!プレゼントくれよ〜!」
「あ、あははは……」
所属する海賊団員全員で臨んだ大仕事。
やっとの思いでその仕事を片付け、バルバームへとくたくたの体で帰り着いた途端、街の子ども達に囲まれたエリス。
「えっとぉ〜……クリスマスなのはわかったんだけど……何でアタシがみんなにプレゼントを?」
「船長は毎年プレゼントくれてたぞ!」
「船長が!?」
聞けばその船長。
クリスマスの時期になると、サンタ代わりに街の子ども達にプレゼントを毎年配っていたとのこと。
貧しい家々の子ども達に対する粋な計らいである。
「でもね、でもね、今年はプレゼントまだもらってないの……!」
「あ〜……」
それも無理からぬことだ。
ここ数週間、大きな仕事に備えて団員一同は大忙し。
船長ともなると、計画を練ったり、皆の監督をしたりと、その苦労も人一倍だったことだろう。
当然、プレゼントを用意する時間など無かったはずだ。
「最近ちょっと忙しかったから、船長さんも大変だったんだよ?だから許してあげて?ね??」
「知ってるよ!だから代わりにエリスに頼んでるの!」
「…………何でアタシなのかなぁ?」
出来る事なら船長の気持ちを不意にはしたくないし、楽しみにしていた子ども達を裏切るのも忍びない。
しかし……しかし……金がない。
こればかりはどうにもできそうになかった。
「ねぇ……もう諦めようよ。エリスお姉ちゃん困ってるよ?」
「お前はプレゼント欲しくないのかよぉ!?」
「だって、だってね……プレゼントは大人の人がくれる物だから。エリスお姉ちゃんに頼んでも……」
「……そんなの……わかってるよ……」
エリスの顔から少し下の方へ視線を落として溜息をつく男の子。
その表情を見て、エリスは罪悪感を覚える。
このままでは、船長が子ども達の期待を裏切った事になる。
そんなのは見過ごす事ができない。
その想いが、エリスの心に火を点けた。
「わかったよ!全部エリスお姉さんに任せなさい!今年もプレゼントを用意してあげるんだからっ!」
「ホントに〜!?」
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
「ふっふっふ……我に秘策有り……!」
――――――
――――
――
「イヴァンせんぱ〜い!ちょっといいですかぁ??」
「うぉわ!?エ、エリス!?なんだてめぇ……ノックもしねぇでいきなり人の部屋に!!」
「まだ寝てなくて良かったですぅ!先輩にちょっと相談があるんですよぉ!!」
「あぁ!?俺はマジで疲れてっから!!起きてからにしてくれ」
「まぁまぁ……先輩にとってもいいお話ですから、とりあえず聞いてみるだけでも!」
「はぁ……仕方ねぇな……聞くだけぐれぇなら……」
「流石せんぱいですぅ!!話の分かるいい男ですねっ!!」
「てめぇ……ほんと現金な奴だよな……」
「何の事ですかぁ?エリスわかんな〜い!」
「ったく……。表の酒場で待ってろ。着替えてから行く……そういやエリス。てめぇ、俺が裸なのに動じたりしないんだな?」
「え??その辺の犬も服なんて着てないじゃないですか。それに先輩って常に半裸ですし。そもそも視界にはなるべく入れないようにしてるんで、大丈夫ですよ!?」
「それが頼み事をする人間の態度か……?」
「じゃあ酒場で待ってますから、早くしてくださいね!!」
「聞けよ、てめぇ!!」
待つこと五分程だろうか。
酒場のカウンターでミルクをあおっていたエリスの元に、イヴァンが顔を出す。
「も〜!遅いですよ、せ・ん・ぱ・い!アタシのために気合入れておめかししてくれていたんですかぁ?」
「なんでてめえと話すのにおめかしする必要があんだよ……で、その先輩を呼びつけるほどの相談ってのは?」
疲れた身体に鞭打たれ、是非も無く呼び出されたのだ。
しかも同じ海賊団の後輩に。
当然と言えば当然だが、イヴァンの機嫌はあまり良いようには見えない。
それでもこの場に現れたのは『相談』という言葉を無下にできない彼の性格を表していると言えるだろう。
「おやっさんがねぇ……」
事の顛末を話すと、イヴァンは子ども達に囲まれていた時のエリスと同じ、思うところはあるが渋るような、そんな悩ましい表情を浮かべる
「船長に相談しようとも思ったんですけど、たぶんまだお仕事の後始末とか残ってると思うし……」
「ま、そりゃ酷だわな。善意でやっていたとはいえ、強制されちゃおやっさんも堪ったもんじゃねぇだろ。だから俺のとこに来たわけか……」
「どうですか?ちゃちゃっと片付けちゃいません?」
「普段なら暇だしそれくらい手伝ってやってもいいけどよ……今はとにかく仕事の疲れがなぁ……」
「……そう……ですか。仕方ないですよね。これ以上アタシのワガママに先輩を付き合わせるのも悪いですし、アタシ一人で何とかしてみます……くすん」
「いくら俺でも雑巾の絞り汁みたいな嘘の涙には釣られねぇぞ?」
「……っち!」
「そんなんだから俺もやる気が起きねぇんだよ……ったく」
「あ〜……でも、先輩?これってチャンスでもあると思うんですよね?アタシ」
「チャンス?」
「船長もきっと今回の事を気に病んでいると思うんですよ。そこに颯爽と現れて、その想いを汲んでくれる船員がいたら、船長はどう思うんでしょうね?」
「……ふむ」
「船長だけじゃありませんよ?街の子ども達だって大感謝確実ですよね。船長に並ぶ街の優しい兄貴分として評判はうなぎ登り!」
「…………ほぅ」
「さらに!普段そういう事をしなさそうな人が突然そんな事をすれば、これぞまさにギャップ萌え!ついでに子ども達のお姉さん、お母さん、その友達に至るまで、街中のご婦人達が頬を染めながら憧れの眼差しを向けてくるように!!」
「作戦について聞こうか!!」
「それでこそイヴァン先輩です!!」
イヴァンは先程とは打って変わって、真剣な目でエリスを見る。
「俺にもプレゼント用意する金はない。これについて何か策は?エリス」
「お金は必要ありません。プレゼントは盗みます!」
「ふっ……海賊らしいな。で、当てはあるのか?」
「少し前、仕事のターゲットにしようとしてたイエルの貴族は覚えてますか?」
「あぁ……確か悪徳商売で私腹を肥やした成金豚野郎だったな。その後大きな仕事が急に飛び込んできて、結局計画はお流れになっちまったんだっけか」
「そうです!せっかくだから今回、プレゼントの手配役に一躍かってもらおうと思いまして」
イヴァンは目を閉じて少し俯くと、額に手を当てて少し笑う。
「なるほどな……悪くない」
「せんぱい……そろそろウザいんで元のキャラに戻してください」
「いちいちうるせぇな……でもよぉ?貴族邸となると警備もそれなりだぞ?二人だけでやんのかよ?」
「そのまま突破するのは二人じゃ難しいので、ちょろっと先輩に別の仕事を頼めないかな〜なんて!」
「別の仕事?」
「イヴァン先輩には、イエルに魔物をおびき寄せてきて欲しいんですよ」
「そりゃ……パニックが起きて、家から避難するわな」
「そしてあらかじめイエルに潜入したアタシが、華麗に貴族の屋敷に忍び込む!あ、あくまでパニックを起こすためだけなので、凶悪すぎる魔物はくれぐれも連れてこないようにお願いしますね!!」
「いいぜ!確かに手勢不足を補うにはいい作戦だ!けど、もし見つかったらてめぇ一人でどうすんだよ?」
「もちろん、いざという時の事も考えてますよ!でも、それはまた後程ということで!」
「何するつもりだ……?まぁ、いいか。じゃあ準備が出来たらバルバームの門前に集合な」
「了解ですぅ!」
間もなく陽が落ちようという頃、約束通りバルバームの門で落ち合う二人。
先に到着しイヴァンは寝転がってエリスを待っていたが、近づいてくるエリスの気配を感じて立ち上がる。
「やっと来やがったか……いつまで待たせ――うぉおい!?何だその恰好!?!?」
エリスは、普段の仕事の時に着る服ではなく、軽装を可愛らしくアレンジしたサンタコスプレで登場していた。
「あれ?似合ってないですかぁ?」
「そ、そ、そういう問題じゃなくてだな……!」
「これなら現場を押さえられそうになっても、サンタさんですよと言い張って誤魔化すことができますよね!」
「んなわけねぇだろ……!」
「あれあれ〜?先輩……顔が赤いですよぉ?見たかったらもっと見てくれてもいいんですよぉ??」
「っるせぇ!!貧相なてめぇなんか誰も見ねぇよ!!」
「……は?何様ですか〜?」
こうして二人はイエルへ向けて出発していく。
イエルの街で何が待っているのか、この時のイヴァンはまだ知らない。
「エリス〜!プレゼントくれよ〜!」
「あ、あははは……」
所属する海賊団員全員で臨んだ大仕事。
やっとの思いでその仕事を片付け、バルバームへとくたくたの体で帰り着いた途端、街の子ども達に囲まれたエリス。
「えっとぉ〜……クリスマスなのはわかったんだけど……何でアタシがみんなにプレゼントを?」
「船長は毎年プレゼントくれてたぞ!」
「船長が!?」
聞けばその船長。
クリスマスの時期になると、サンタ代わりに街の子ども達にプレゼントを毎年配っていたとのこと。
貧しい家々の子ども達に対する粋な計らいである。
「でもね、でもね、今年はプレゼントまだもらってないの……!」
「あ〜……」
それも無理からぬことだ。
ここ数週間、大きな仕事に備えて団員一同は大忙し。
船長ともなると、計画を練ったり、皆の監督をしたりと、その苦労も人一倍だったことだろう。
当然、プレゼントを用意する時間など無かったはずだ。
「最近ちょっと忙しかったから、船長さんも大変だったんだよ?だから許してあげて?ね??」
「知ってるよ!だから代わりにエリスに頼んでるの!」
「…………何でアタシなのかなぁ?」
出来る事なら船長の気持ちを不意にはしたくないし、楽しみにしていた子ども達を裏切るのも忍びない。
しかし……しかし……金がない。
こればかりはどうにもできそうになかった。
「ねぇ……もう諦めようよ。エリスお姉ちゃん困ってるよ?」
「お前はプレゼント欲しくないのかよぉ!?」
「だって、だってね……プレゼントは大人の人がくれる物だから。エリスお姉ちゃんに頼んでも……」
「……そんなの……わかってるよ……」
エリスの顔から少し下の方へ視線を落として溜息をつく男の子。
その表情を見て、エリスは罪悪感を覚える。
このままでは、船長が子ども達の期待を裏切った事になる。
そんなのは見過ごす事ができない。
その想いが、エリスの心に火を点けた。
「わかったよ!全部エリスお姉さんに任せなさい!今年もプレゼントを用意してあげるんだからっ!」
「ホントに〜!?」
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
「ふっふっふ……我に秘策有り……!」
――――――
――――
――
「イヴァンせんぱ〜い!ちょっといいですかぁ??」
「うぉわ!?エ、エリス!?なんだてめぇ……ノックもしねぇでいきなり人の部屋に!!」
「まだ寝てなくて良かったですぅ!先輩にちょっと相談があるんですよぉ!!」
「あぁ!?俺はマジで疲れてっから!!起きてからにしてくれ」
「まぁまぁ……先輩にとってもいいお話ですから、とりあえず聞いてみるだけでも!」
「はぁ……仕方ねぇな……聞くだけぐれぇなら……」
「流石せんぱいですぅ!!話の分かるいい男ですねっ!!」
「てめぇ……ほんと現金な奴だよな……」
「何の事ですかぁ?エリスわかんな〜い!」
「ったく……。表の酒場で待ってろ。着替えてから行く……そういやエリス。てめぇ、俺が裸なのに動じたりしないんだな?」
「え??その辺の犬も服なんて着てないじゃないですか。それに先輩って常に半裸ですし。そもそも視界にはなるべく入れないようにしてるんで、大丈夫ですよ!?」
「それが頼み事をする人間の態度か……?」
「じゃあ酒場で待ってますから、早くしてくださいね!!」
「聞けよ、てめぇ!!」
待つこと五分程だろうか。
酒場のカウンターでミルクをあおっていたエリスの元に、イヴァンが顔を出す。
「も〜!遅いですよ、せ・ん・ぱ・い!アタシのために気合入れておめかししてくれていたんですかぁ?」
「なんでてめえと話すのにおめかしする必要があんだよ……で、その先輩を呼びつけるほどの相談ってのは?」
疲れた身体に鞭打たれ、是非も無く呼び出されたのだ。
しかも同じ海賊団の後輩に。
当然と言えば当然だが、イヴァンの機嫌はあまり良いようには見えない。
それでもこの場に現れたのは『相談』という言葉を無下にできない彼の性格を表していると言えるだろう。
「おやっさんがねぇ……」
事の顛末を話すと、イヴァンは子ども達に囲まれていた時のエリスと同じ、思うところはあるが渋るような、そんな悩ましい表情を浮かべる
「船長に相談しようとも思ったんですけど、たぶんまだお仕事の後始末とか残ってると思うし……」
「ま、そりゃ酷だわな。善意でやっていたとはいえ、強制されちゃおやっさんも堪ったもんじゃねぇだろ。だから俺のとこに来たわけか……」
「どうですか?ちゃちゃっと片付けちゃいません?」
「普段なら暇だしそれくらい手伝ってやってもいいけどよ……今はとにかく仕事の疲れがなぁ……」
「……そう……ですか。仕方ないですよね。これ以上アタシのワガママに先輩を付き合わせるのも悪いですし、アタシ一人で何とかしてみます……くすん」
「いくら俺でも雑巾の絞り汁みたいな嘘の涙には釣られねぇぞ?」
「……っち!」
「そんなんだから俺もやる気が起きねぇんだよ……ったく」
「あ〜……でも、先輩?これってチャンスでもあると思うんですよね?アタシ」
「チャンス?」
「船長もきっと今回の事を気に病んでいると思うんですよ。そこに颯爽と現れて、その想いを汲んでくれる船員がいたら、船長はどう思うんでしょうね?」
「……ふむ」
「船長だけじゃありませんよ?街の子ども達だって大感謝確実ですよね。船長に並ぶ街の優しい兄貴分として評判はうなぎ登り!」
「…………ほぅ」
「さらに!普段そういう事をしなさそうな人が突然そんな事をすれば、これぞまさにギャップ萌え!ついでに子ども達のお姉さん、お母さん、その友達に至るまで、街中のご婦人達が頬を染めながら憧れの眼差しを向けてくるように!!」
「作戦について聞こうか!!」
「それでこそイヴァン先輩です!!」
イヴァンは先程とは打って変わって、真剣な目でエリスを見る。
「俺にもプレゼント用意する金はない。これについて何か策は?エリス」
「お金は必要ありません。プレゼントは盗みます!」
「ふっ……海賊らしいな。で、当てはあるのか?」
「少し前、仕事のターゲットにしようとしてたイエルの貴族は覚えてますか?」
「あぁ……確か悪徳商売で私腹を肥やした成金豚野郎だったな。その後大きな仕事が急に飛び込んできて、結局計画はお流れになっちまったんだっけか」
「そうです!せっかくだから今回、プレゼントの手配役に一躍かってもらおうと思いまして」
イヴァンは目を閉じて少し俯くと、額に手を当てて少し笑う。
「なるほどな……悪くない」
「せんぱい……そろそろウザいんで元のキャラに戻してください」
「いちいちうるせぇな……でもよぉ?貴族邸となると警備もそれなりだぞ?二人だけでやんのかよ?」
「そのまま突破するのは二人じゃ難しいので、ちょろっと先輩に別の仕事を頼めないかな〜なんて!」
「別の仕事?」
「イヴァン先輩には、イエルに魔物をおびき寄せてきて欲しいんですよ」
「そりゃ……パニックが起きて、家から避難するわな」
「そしてあらかじめイエルに潜入したアタシが、華麗に貴族の屋敷に忍び込む!あ、あくまでパニックを起こすためだけなので、凶悪すぎる魔物はくれぐれも連れてこないようにお願いしますね!!」
「いいぜ!確かに手勢不足を補うにはいい作戦だ!けど、もし見つかったらてめぇ一人でどうすんだよ?」
「もちろん、いざという時の事も考えてますよ!でも、それはまた後程ということで!」
「何するつもりだ……?まぁ、いいか。じゃあ準備が出来たらバルバームの門前に集合な」
「了解ですぅ!」
間もなく陽が落ちようという頃、約束通りバルバームの門で落ち合う二人。
先に到着しイヴァンは寝転がってエリスを待っていたが、近づいてくるエリスの気配を感じて立ち上がる。
「やっと来やがったか……いつまで待たせ――うぉおい!?何だその恰好!?!?」
エリスは、普段の仕事の時に着る服ではなく、軽装を可愛らしくアレンジしたサンタコスプレで登場していた。
「あれ?似合ってないですかぁ?」
「そ、そ、そういう問題じゃなくてだな……!」
「これなら現場を押さえられそうになっても、サンタさんですよと言い張って誤魔化すことができますよね!」
「んなわけねぇだろ……!」
「あれあれ〜?先輩……顔が赤いですよぉ?見たかったらもっと見てくれてもいいんですよぉ??」
「っるせぇ!!貧相なてめぇなんか誰も見ねぇよ!!」
「……は?何様ですか〜?」
こうして二人はイエルへ向けて出発していく。
イエルの街で何が待っているのか、この時のイヴァンはまだ知らない。
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