蒼空のリベラシオン(ソクリベ)【iOS/Android対応のスマートフォン向け協力アクションRPG】の非公式攻略wikiです。有志によって運営されているファンサイトで、ソクリベに関する情報を収集しています。

 真紫月(しんしづき)の夜。
 そのヴァンパイアは、男が力なく倒れるのを見届けると、何やら詠唱を始める。
 目の前の男は立ち上がり、何事もなかったかのようにヴァンパイアの前から立ち去った。

「もう少しだ姉さん……!俺が絶対――」

 紫に光る月は、不気味に村を見下ろしていた。



――――花園の都ラキラから伸びる街道

「うるさい!!付いてくるなと言うのが聞こえないのか……!!」

 ポロンとハープリュート鳴らしながら、懲りた様子もなく笑顔を向けてくる男。

「大丈夫だよ!君と生きていく事を決めたんだ!だから一緒に旅をしようじゃないか!」

「くどい……。耳障りなキリギリスが!!」


 この蝿のような男が最初に話しかけていたのは、背後にあるラキラの街中だ。
 突然、“運命の人”等と訳のわからない事を言い始めたかと思えば、何を言っても離れようとせずにここまで着いてきてしまった。

「そろそろ教えてくれないか?この辺ぴな街道の先に何があると言うんだい?」

「藻に話す程私は暇じゃない。帰れ」

 彼が疑問に思うのも当たり前だろう。
 この街道を進み、更に南西に進んだ先にあるエナン村の存在を知る者は少ない。
 現にラキラの住人に話を聞いて回っていたが、その知名度はかなり低かった。
 大陸でも数少ないヴァンパイアがいると噂があるその村の調査が目的だと言っても、この男は馬鹿にするだけだろう。

 学者であったカグラの父。
 人間、エルフ族、ガルム族、龍人族、魔物と、様々な生き物を研究していた父が、本物に出会えずにいたただ一つの人種、ヴァンパイア。
 その概念は様々な書物で確認する事が出来たが、その殆どは姿を消しており、現在ではその姿を見たものはおろか、存在を否定する者まで現れた。
 30年前、“終端の岬”に居たとされるヴァンパイア王が封印されたことに、その脅威は世界から無くなったと言われていた。
 しかしここ数ヶ月、ヴァンパイアがまた現れたという噂がカグラの耳に届く。
 詳しく追っていくと、一つの小さな村に情報が集束していった。

『普段人が出歩かない真紫月の夜に不気味な音が聞こえたらしい』
『いい歳の筈なのに、外見が変わらない若い男がいるらしい』

 明確な目撃情報ではないにせよ、書物に記されているヴァンパイアの特徴に合致する話は、これまで何の情報も得られなかったカグラにとって、調査に踏み切る十分な動機になり得た。
 亡き父の跡を継ぐという名目もあるにはあるが、この時彼女の大半を占めていたのは“知りたい”という知識欲だった。


「ここか……」

 小さな柵で囲まれた長閑(のどか)な村に辿り着いた。
 ここがエナン村。

 足を踏み入れようとしたその時、甲高い声が飛んできた。

「おーい!そこの方〜〜!!」

 声の方向に目をやると、こちらに手を振りながら近付いてくる小柄な人影が見える。
 白い布を重ねたような服装は、ラキラの街で見たそれとも少し違う独特な雰囲気。
 上下左右に揺れる布の隙間からかわいらしいオヘソが見え隠れしていて、健康的な印象を受ける。
 艶のある綺麗な栗色の髪をなびかせながら、カグラ達の元までやってくると満面の笑みで喋りだした。

「観光ですか?こんな辺ぴな村によくおこし頂きました!私はこの村のガイドをしております!長旅でさぞお疲れでしょう!どうぞこちらへ〜〜!」

 ガイドと名乗る人物は、左手を村の奥へ差し出す。

「あの角にあるのが私の家です!奥に見える離れで荷物を下ろして疲れを癒やして下さいね〜〜!中で簡単な入村の手続きだけお願いします!」

 ガイドの指した方向には、一見ただの民家に見える平屋の建物が見えた。
 そのまま中へと案内され、言われるがまま椅子に座る。
 机の上に名簿のようなノートが開かれている。
 どうやら入村者の記録らしい。
 日付を注意深く見ると、2ヶ月に1、2人のペースで誰かしらが訪れている事が分かる。

(この中に、ヴァンパイアの情報を外に出した人間がいると考えて間違いなさそうだな)

 カグラは名簿からこれ以上探れる情報は無さそうだと、顔を上げて辺りを見渡す。
 ふと、暖炉の前に背中を丸めて車椅子に座る老人が目に止まった。
こちらに背を向けたままカグラ達に一切興味を持っていないように見える。

「あ、あの人は私の唯一の家族なんですけど、ちょっと喉が悪くて話す事ができないんです」

 カグラの視線に気が付いたのだろうか、ガイドが笑顔で老人の元に走っていく。
 車椅子の取手に手をかけると、老人をこちらに向けた。

「久しぶりのお客さんですね。今日から2、3日ご滞在予定のようですよ」

 ガイドは優しく老人の耳元で話す。
 背格好から推測するに、老人は女性だろうか。
 手入れの行き届いた長い髪は後ろに整えられていて、ガイドが良く世話をしている事が伺える。

「今日はちょっと具合が良くないみたいで……すみません。ごめんね。無理させちゃったかな?戻りましょうね」

 ガイドは車椅子を押してまた暖炉の前に動かした。

「それではこちらに記入をお願いします!」

 ペンを渡されて、名簿のようなノートが改めてカグラの前に差し出された。
 上に習って名前を記入して、横の男にペンとノートを回す。

「君はカグラっていう名前なんだね!素敵な名前だ!マリーヴィアから来たのかい?」

 男は、ノートに記入したカグラの情報を見ながら目を輝かせていた。
 “どちらからお越しになりましたか?”という項目に書いた、母と住んでいた街。
 一人置いてきてしまった母の顔を浮かべる。

 たまには手紙でも送ろうかと考えていると、ガイドが話しかけてきた。

「お二人とも記入頂いたようですね」

 机の上に目を落とすと、ノートに記入したカグラの筆跡の下に、隣の男の情報が並んでいる。
 名はギルバートというらしい。

「では、ご宿泊頂く離れにご案内致しますね!」


 ――ガイドの家:離れ


 ガイドが一通りの説明をしてから立ち去ると、ギルバートが口を開く。

「それで、この村に何をしに来たんだい?」

(ここまで着いてきてしまったのなら仕方ない、どうせならこの村の調査を手伝わせるか……)

 何かを諦めたようにカグラはひとつため息を吐く。

「私はこの村から出ているヴァンパイアの噂の調査をする為にここまできた」

 30年程前まで、大陸の南東、イエル付近に位置するコレーズ村で騒がれていた事件。
 当時、コレーズ村の人間が次々と失踪し、その主犯は村の近くに古城を構えるヴァンパイアであった。
 事件の真相を掴んだのはソーンから派遣された聖騎士で、その聖騎士はヴァンパイアの封印に成功したと聞く。
 それから長い年月をかけて、ヴァンパイアの起こしていた事件は徐々に風化していた。

「ここ最近、ヴァンパイアの噂が再び浮上してきた。一節によるとヴァンパイアが復活し、どこかに潜伏しているらしい」

「なるほど……」

 ギルバートから先程までの笑顔が消える。

「ヴァンパイアの特徴は聞いた事があるか?」

「確か……ヴァンパイアは生き物の生き血を吸う。それから魂を操る事ができるとか……。あと、ヴァンパイアには性別がなく、人間で言えば男性……?そう言えば、真紫月の夜にその力は高まる……寿命が凄く長いっていうのも聞いた事がある」

 意外にもこの男はある程度の知識があるようだった。

「魂を操るというのは噂が生んだ誤認だ。実際は血を吸った者を支配下に置くことが出来るらしい。ヴァンパイアの支配下に置かれた人間は、自由に操る事が出来る上に、情報の共有までできるそうだ。それと、性別がない訳ではなく、男性しかヴァンパイアにはならない。ヴァンパイアの家系に女性が生まれた場合は普通の人間と変わらないそうだ」

「それは……知らなかった」

「いや、お前は比較的知っているほうだ」

「僕は流離いの吟遊詩人。旅を続けながら様々な街の人から話を聞いていると、色々な情報が舞い込んでくるのさ〜♪」

「……なら話が早い。このエナン村でヴァンパイアの情報と酷似する噂が流れてきた。ヴァンパイアが潜伏している可能性が高い。私は、ヴァンパイアという生き物を調べる為にこの村にきた」

「ふむふむ。なら、僕に手伝える事はあるかい?」

 打診しようとした事を自分から口に出したギルバートに少し驚いた。

「まずは村人への聞き込みだ。直接その話題には振れないようにしながら、ヴァンパイアの尻尾を掴む。できるか?」

「勿論!愛する人の為だったらなんだってするよ!」

 急にトーンを上げて立ち上がるギルバートを睨みつけるカグラ。

「調子に乗るなよ……。お前に気を許した訳ではないからな」

「えへへ!さっきまではろく話してくれなかったのに、沢山お話ができた!これは恋の前進だ〜♪」

「……このスズムシが!!」


――――村の中


 帽子にぽっかりと空いた真新しい穴の隙間から、空を見上げるギルバート。
 太陽の位置から、恐らくあと数刻で日は沈むだろう。
 カグラと共に調査をする事になったからには、上手く話を聞き出して良い情報を手に入れる。
 それが出来れば、彼女の自分の評価が上がる筈だ。
 焦る思いを落ち着かせる為に一度深呼吸をしてから、気を引き締めて足を踏み出す。

 ガイドの家から道沿いに進むと、民家が並ぶ住宅地に出た。
 しかし道には人影がなく、閑散としている。
 小さな村なのだから仕方ないのかもしれないが、住人は何をしているのだろうか。
 ふと、家と家の間に細い路地が何本か出ているのを見つけた。
 路地を進むと、住宅地の裏手には畑が広がっており、畑仕事をしている住民の影がポツリポツリと見える。

「やぁ!こんにちは!何を作っているんだい?」

 あくまでも自然に、この村に旅の途中で立ち寄った旅人として話しかけていく。
 今までずっと吟遊詩人としての旅をしてきたのだから、今まで通りやれば問題はないはず。


 カボチャを作っている男(35歳前後)
『変わった事?そんなもんないよ。この村は平和だ。今までもこれからもずっとそうさ』

 村の周囲の柵の補強をしている男(50歳前後)
『なんだ?見ねぇ顔だな。見りゃ分かるだろ。今俺は忙しいんだ』

 麦の収穫をしていた女性(40歳前半)
『最近うち旦那が、肩凝りが辛いってうるさくて、毎日マッサージさせられてるのよ』

 薪を割っていた男(50歳前後)
『最近この村には子どもが少なくなった。若い連中がどんどん出稼ぎに出ちまうんだ』

 庭で酒を飲む男(30歳後半)
『そこのお嬢ちゃん可愛いな!マリーヴィアってのは美人が多いのかい?兄ちゃんの恋人か?はっはっは!』

 農作業から帰ろうとしていた男(40歳前半)
『あそこ家の犬、最近夜になると吠えてうるさいんだよ……』


 会話の中でヴァンパイアに繋がるかもしれないと思った証言を記したメモに、上から目を通していく。
 もしこの村に本当にヴァンパイアが潜伏しているのだとしたら、この中にヒントがある筈だ。
 カグラは何かを考えるように顎に手を当てていた。
 彼女は彼女なりに情報を整理しているのだろう。

 メモを読み返し終わると、ふと自分の影が西日に照らされて長く伸びている事に気が付いた。
 農作業をしていた住民達も家に帰ろうとしている。
 そろそろ戻ろうとメモをポケットに入れて引き返そうとすると、村の外れの一軒家に向かい、大男が歩いているのが目に入る。

 何やらキョロキョロと周りを見ている大男は、何かを警戒しているようにも見えた。

(話を聞いてみるか……)

 大男を今日の最後の調査対象としようと考えて、小走りで近づいていくギルバート。
 荒々しいヒゲを顎につけた大男がギルバートに気がつくと、睨みつけるような目が見えた。

「こんにちは……いや、こんばんは?もうご帰宅かな?」

 ギルバートが大男に話しかけるや否や、大声で怒鳴り散らした。

「なんだてめぇら!?よそ者は早く村から出て行け!」

 肌にビリビリと痛みを感じるような怒りを込められた気がした。
 大男はそのまま自分の家であろう民家に入ると、バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。

「なんだアイツ……」

 村に来てから、多少はよそ者を煙たがる人はいたものの、こんなに敵意をむき出しにされたのは初めてだ。
 首を傾げながら少しばかり大男の入っていった家を眺めた。
 家自体は特に変わった様子はないが、その家の周りには真新しい塀が建てられており、家をぐるりと一周している。
 何かから家を守るように建てられた塀は、今まで見てきたエナン村の民家にはない特徴だった。
 家の近くに2階建ての離れがある。
 この村では家の敷地内に離れのある家が珍しくないらしい。
 少し気にしつつも、メモに残し、その場を後にした。


――――ガイドの家:離れ


 離れに戻ると、夜がやってくる。
 今日の成果のメモにまた目を通していると、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
 ギルバートがドアを開けると、食事を乗せた盆を持ったガイドが笑顔を見せる。


「お食事はこれで以上になります!」

 机の上に何品もの料理を並べ終えると、ガイドは笑顔を向けた。

「すごく豪華だな……。これを全部一人で作ったのか?」

「お二人が私の家から出た後から、ずっとキッチンで下準備していましたからね!久しぶりのお客様なので、ちょっと張り切り過ぎちゃいましたかね?」

「あまり構わなくてもいいのだが……」

「そんな事言わずに!せっかく作ってくれたんだ!ありがたく頂くとしようよ!」

「そうだな」


 食事が終わってからも、カグラはギルバートのメモを見ながら考え込んでいた。
 すると急に何かに気が付いたように顔を上げると、ふっと口元を緩める。


「噂を追ってこんな村まで来たが、どうやら当たりを引いたようだな」


――――深夜


「姉さん!あと少し待ってろ!俺が必ず数を揃えてやる!!」

 夜の帳が下がり、静まり返った村の中に、暗躍する2つの影が浮かんでいた。


――――調査2日目


 その日も2人で村人の聞き込みを続けるカグラとギルバート。
 村人の間でも2人の事は噂されているようで、『お前達か』と言われる事もあった。
 小さなエナンの村であればコミュニティが強く、何かあればすぐに広まるのだろう。

 2人は村で唯一の商店街にやってきた。
 商店街と言っても、村人同士がやりとりする小さな店が数件あるだけで、1時間もしない間に全ての商品に目を通す事の出来る小じんまりとしたもの。

 家具店や文具店の後、衣服を売っている店に入った。
 中に店員の姿は見えず、店内は静まり返っている。
 ただ、それは殆どの店がそんな状態で、店内の奥に向かって声を出さない限り店員は出てこなかった。
 長閑な村の商店街なんてそんなものなのかもしれない。

「おい、少し向こうへ行っていろ」

 カグラが急にギルバートに指示を出した。

「どうしたんだい?いきなり……」

「新しい下着を調達するんだ。分かったらさっさと行け」

 ギルバートを店の外に追い出すと、早速商品を見て回る。
 これだけ小さな店なのだから、消去法で選ばざるを得ないかと覚悟していたが、思ったよりも豊富な種類を取り揃えていた。

 ふと、窓の外に大きな影が近づいてくる。
 大柄な体型に顎に生やしたヒゲ。
 昨日最後に話しかけた、あの怪しい大男だった。

 咄嗟に近くの試着室に身を隠す。
 幸いな事にしっかりと足元まで長いカーテンが伸びているので、閉まっている事を不審に思わなければバレる事はないだろう。
 大きな音を立てて入り口のドアが開いた。

 乱暴な足音を立てながら店内を物色しているであろう大男。
 もしかすると自分を探しているのではないかと、カグラの頬に汗が流れる。
 注意深く物音を聞いていると、カグラが身を潜めている試着室から少し離れた所で、乱暴な足音はピタっと止まった。

「うーむ……これか……?」

 何か悩んでいるようなうねり声が聞こえてくるので、そっとカーテンに隙間を作って店内の様子を覗いてみると、大男は先程カグラが見ていた女性物の下着コーナーで腕を組んでいる。

(あんな大男が……女性物の下着……?)

 少ししてから、大男は頭をガリガリと掻いた後、いくつかの下着を手に取り店の奥へと歩いていった。

「おい!爺さん!これを売ってくれ!!」

 店内に荒々しい声が響き渡る。
 少ししてから、店の奥から杖を付く音が聞こえてくると、大男とは対象的に弱々しい老人の声が聞こえてきた。

「おや……珍しいのぉ……」

「いいから早く勘定しろ!いくらだ!?」

 何やら少しやり取りをした後、硬貨がジャラジャラと置かれる音がした後、また大きな足音が聞こえてくる。
 大男がカグラの視界に入ると、大きな紙袋を抱えていた。

(あれだけの買い物をしていったのか?)

 大男が店の外へと出てから少し時間を開けて、カグラは試着室のカーテンをそっと開いた。
 店の老人は既に奥へと行ってしまったようで店内に人の気配はない。

 大男が物色していた下着コーナーを見てみると、つい先程まで並んでいた商品が殆ど姿を消しており、残っているのは色気のない紺や茶の下着。

(あの男が買い占めていったという事か……?)

 カグラは顎に手を当ててしばらく考えていたが、これは確かめる必要があると横の棚に置かれたハンカチを手に取ると、店の奥のカウンターで店員を呼び出した。

 しばらくすると、また杖の音が聞こえてきて、シワシワになった老人が出てきた。
 会計をしながら、カグラは老人に尋ねる。

「つかぬことを伺うが、先程買い物をした男は妻がいるのか?」

 その時、老人の目が一瞬動いたような気がした。

「いやぁ……よく知らんな……。どうしてだい?」

「いや、少し気になっただけだ。ありがとう」


 会計を済ませると、カグラは急ぎ足で店を出た。
 商店街の外で待っていたギルバートを見つけると、人気のない路地裏に連れていく。

「おい、さっきの大男に見つかっていないだろうな?」

「あぁ、大事な君がどうにかされちゃうんじゃないかと思ってハラハラしたよ……。大丈夫だったかい?」

 カグラは考える。

(あの大男は何かおかしい。あの余裕のなさ……。何故家を塀で囲む?何かを隠す為?何を隠している?女性物の下着を購入したという事は男の家に男以外の何者かがいると考えていいのか……。何故店の店主は大男の事を知らない?こんな小さな村なのだ。どこの家に誰が住んでいて家族構成がどうなっているか程度分かるだろう。という事は……店主も嘘をついている……?)

 確証はないが、ヴァンパイアに何か関係があるかもしれない。

「ギルバート。あの男の家を調べるぞ」


――――村の中


 2人は慎重に道を選びながら大男の家を目指していた。
 道中、あの男に見つかれば何をされるか分かったものじゃない。
 仮にあの男がヴァンパイアだとしたら、血を吸われて支配されてしまうのだから。

 頭に叩き込んだ村の地図を頼りに、出来るだけ人気のない道を選択しながら大男の家に近づく。
 家を囲む塀が見える位置まで来ると、遠目から様子を伺う。

 家は静まり返っていた。
 離れの様子も昨日と変わらずに沈黙を守っている。
 2人は家の様子を静かに監視し続けた。


――――その頃


「悪いな姉さん……随分と待たせた!だが聞いてくれ!今から、最後の一人を支配する!これで帝国のバカ共に頼まれた人数になる!そしたら……姉さんも!!」

 男は少し震えながら、その時を待った。


――――夕暮れ時


 今まで沈黙を守っていた大男の家に動きがあった。
 離れの2階の窓に明かりが灯ったのだ。
 息を飲むギルバート。

(あの男は中にいたのか……?)

 カーテンの隙間から女性の顔が覗き込んだ。

(まずい……!)

 咄嗟に身を隠す。
 物陰から顔を少しだけ出して、見つからないように観察しているとカーテンがその姿を隠した。

(あの女性は誰だろう……。大男が購入した下着は、あの女性の物だったという事か?)

 その時、カグラが声を掛けてきた。

「もう少しここから様子を見ていろ。私は少し他を当たる」

 カグラはそのまま、音を立てずにその場から離れると、夕日の中に消えていった。
 ギルバートは言われた事も忘れたように、きょとんとカグラの後ろ姿を眺めていた。


 するとその時、塀のある家の方角から叫び声が飛んでくる。

「てめぇ!!何してんだ!!」

 急いで視線を戻すと、大男の家の前で2人の人影が見える。
 大男が、誰かを後ろから羽交い締めにしているようだ。

(あれは!?何が起きてるんだ!?)

 羽交い締めにされているのは、見覚えのある顔。

「やめてください!!」

(あれは……ガイド……!?)


 大男はガイドをがっちりと捕まえて家の中に引きずり込もうとしている。

「何をするんですか!?」

「うるせぇ!!てめぇこっちに来やがれ!!」

 そのまま大男の家の中に連れ去られ、家のドアがバタンと音を立てて閉まった。

(まずい……!これはまずい……!!)

 ギルバートはカグラの去った方向を見るが、その影は見えない。
 タッチの差で事が起こってしまった。
 しかし、あの状況は絶対に見過ごすわけにはいかない。
 意を決したギルバートは立ち上がり、大男の家に突入する。
 ドアの前に立つと、渾身の力を込めて思い切りドアを蹴破った。

「そこまでだ!!やめろっ!!」

 目の前に飛び込んできた光景は、大男がガイドを押し倒して殴りかかろうとしている所だった。
 大男が振り返りギルバートの顔を見ると、物凄い剣幕で罵声を浴びせた。

「邪魔するんじゃねぇ!!これで全て終わりにするんだ!」

 苦しそうなガイドの顔が見えて、一刻を争うと直感したギルバートは魔法を詠唱する。
 強い風が具現化していく。
 そして衝撃派を伴った風は大男へと真っ直ぐに飛んでいった。
 大男は為す術なく吹き飛ばされる。
 大きな音を立てながら壁に激突するが、すぐに立ち上がり怒りの矛先をギルバートに向けた。

「てめぇ!!何しやがる!!」

 鬼の形相の男は立ち上がるとギルバートに掴みかかる。
 回復魔法を得意とするギルバートには、この強靭な大男を一撃でどうにかする事は出来なかったようだ。

「まずい!!」

 咄嗟に構えるギルバートに男の拳が振り上げられる。
 それと同時に、男の口が動いた。

「てめぇらもこいつの仲間なんだろ!!よそ者共が!!」

(仲間……?)

 ギルバートは、何か、その言葉に引っかかった。

 次の瞬間、顔の右側に強烈な衝撃が走り、ギルバートの視界が揺れる。
 男の拳が襲ってきたのだと理解した時には、次の一撃が振り下ろされようとしていた。

(なんだよこいつ……!)

 必死に抵抗しようとするが、華奢なギルバートの腕力ではどうする事もできない。
 次の衝撃に備えて目をギュッと瞑る。

 その時、ある声がその場を制圧した。


「静まれ!!」


 その声をよく知っているギルバートですらゾクっとする寒気を背中に感じた。
 どこかに行っていたカグラがどうやら戻ってきたらしい。
 カグラの声で、暴れていた大男も動きを止めた。

「てめぇも仲間か!!」

 大男はカグラを睨みつけ、ギリギリと歯を食いしばる。
 対象的に、カグラは落ち着いた様子で口を切った。

「聞いてくれ!僕は今この目で襲いかかっているのを見たんだ!こいつがヴァンパイアだ!」

 カグラは真剣な表情で一つ頷いた。

「あぁ、お前に言われなくても分かっている」

 大男はその声を聞くと、急に牙を抜かれたように静まり返る。

(カグラ……君は何か証拠を掴んだのか……?この男がヴァンパイアだという証拠を……)

 ギルバートは、痛む顔を抑えながら、立ち上がった。
 カグラは弓を構える。
 その矢の先は、ギルバートの予想していない方向を向いていた。


「全部話して貰おうか?ガイド……いや、ヴァンパイア」


 ギルバートは、大男とガイドを何度か往復するように視線を泳がせる。
 ガイドは、黙ってカグラを見つめていた。
 カグラは言葉を続ける。

「言っていなかったが……お前は気が付いているだろう。私達がこの村にヴァンパイアの調査に来ている事を」

 ギルバートにはガイドの顔が少し歪んだように見えた。

「私達は村人に聞き込み調査をした。村の住人に最近この村で気になった事を聞いていた程度だが……ある男が本来持ち得ない情報を出してきたんだ」

「持ち得ない……情報……?」

 思わずギルバートが口を挟んだ。

「ギルバートは覚えているか?『マリーヴィアってのは美人が多いのかい?』と言われたのを」

 ギルバートは急いでポケットの中からメモを出す。
 確かに昨日の調査の中で聞いた話。

 庭で酒を飲む男(30歳後半)
『そこのお嬢ちゃん可愛いな!マリーヴィアってのは美人が多いのかい?兄ちゃんの恋人か?はっはっは!』

 しかし、これはカグラと自分が恋人に見られたという事が嬉しくて思わず書いた事。
 いったいそれがどうしたというのだろうか。

「あぁ、たしかにそう言っていた酔っぱらいがいたけど……」

 カグラはギルバートに確かめる。
 いや、正確にはガイドに確かめるように言った。


「何故、あの男は私がマリーヴィアから来たと知っていた?」


「あっ――」

 ギルバートもさすがに気が付いた。
 その情報はこの家に来た時に記入した、あの名簿に記入したっきり誰にも話していない。
 それを知っているのは、この家にいる者……。

 ガイドがその声に重ねるように口を挟む。

「待ってください!私が村の人に教えたんです!今マリーヴィアとアルモニアからのお客さんが来ているって――」

 今度はギルバートが口を挟んだ。

「それは出来ないよ。何故ならあの日、夕食の料理を広げた君はこう言っていた。『お二人が私の家から出た後から、ずっとキッチンで下準備していました』と。どうやったらキッチンに篭っている人が、外にいる村人に教えられるのかな?」

 ガイドは黙ってギルバートを睨みつける。
 カグラがその答えを出した。

「ヴァンパイアの支配。思ったよりも自由に操る事が出来るみたいだな」

「違います!何故そうなるのですか!?」

 ガイドは取り乱したように声を荒らげる。

 それを聞いて、今まで黙って聞いていた大男が口を開いた。

「いい加減吐きやがれ!考えれば半年前、てめぇがこの村に来てから、村の人間がどんどんおかしくなっていくのを俺は見ていた!遂に俺の妹にまで手を出そうとしやがって!!ただじゃおかねぇぞ!!」

(この村に来てから……?じゃあガイドは……)

 家の中に沈黙が広がる。

(この大男は自分の妹を守っていたのか……?だから家にあんな塀を……?妹を離れに閉じ込めて、下着まで買ってきていた……?)
 黙って何も言わないガイドを、カグラが更に追い詰めていく。

「私はその大男が店で女性用の下着を買う所を見ていた。お前はそれに気づかずに、私達をここに近づけない為に店の主に嘘を付かせたようだが……それが命取りだったな」

 その言葉を聞いたガイドは、この場に自分の味方がいない事も、言い逃れが出来ない事も悟ったのだろうか。
 静かにぽつりぽつりと言葉を床に落としていく。

「もうすぐだったんだ……姉さんの病気を治せたんだ……あと一人で……約束の人数だったんだ……」

(姉さん……?)

 カグラは冷たい目で崩れ落ちたガイドを見下ろしていた。

「あの老婆か……」

(っ……!?)

 ガイドの家で背中を丸めていた老婆。
 確か、喉を悪くして喋れないと言っていた覚えがある。
 あの老婆がこのガイドの姉というのはどういう事だろう。
 あまりにも外見の離れた2人が姉弟だとはとても思えないが、本当にこのガイドがヴァンパイアならば、長寿という話が現実という事になる。

「俺は……姉さんともっと暮らしたかっただけだ。でも姉さんは病に侵されてしまった。なんとか病気を治す手を探したんだ。そしたらあいつら……帝国の奴らが話し掛けてきた……!エナン村の人間を操って帝国に差し出せば、宝具って奴で姉さんの病気を治してくれるって……だから俺は……この村に移り住んで少しずつ村人を帝国の奴らに渡した……」

 ガイドは涙を流している。

「お前達の言う通り……この村の住人は殆ど俺の支配下だ……。あと一人で約束の人数だったんだ……」

 そこまで話すと、ガイドは急に静かになった。
 丸めた肩を震わせている。
 泣いているのだろうか……いや、笑っている。

「ぅ……うぅ……く……くっく……あはははは!!!!」

 突然起き上がり、高笑いを始める男。
 その目は血走り、狂気に踊っていた。

「だからお前らは終わりなんだよ!!全員支配してやるから!!大人しくしやがれ!!この力が見たいんだろう!?これがヴァンパイアの力だ!」

 ガイドの男がそう叫ぶと、外から雄叫びのような声が聞こえ始めた。
 声と声が重なり合うその轟音は、地が揺れているように錯覚する程だ。

「な、なんだ!?」

 ギルバートは辺りを見渡す。
 その目に飛び込んできたのは、窓の外に群がる村人。
 農具やハサミなどの武器を持ち、次から次に塀を乗り越えて家を取り囲みにきていた。

「う、うわぁあああ!!」

 あまりにも驚いて尻もちを付く。

(これだけの村人が既に支配下に置かれていたというのか……?)

 狂気に満ちた人々の顔をよく見ると、昨日カグラと話を聞いた村の住人達もちらほらと見える。
 その中に、あの酔っ払っていた男の姿もあった。
 大男は拳を握り構える。

「くそっ!こいつ!!べらべら喋ったのは時間稼ぎだったか!」


――バリン!


 窓を割り、入り口のドアを吹き飛ばして襲ってくる村人達。
 ギルバートは、そのあまりにも恐ろしい姿に身を竦めた。

「やっと正体を表したな……ヴァンパイア……!」

 カグラはそっと目を閉じて、その場からピクリとも動かない。
 ガイドは狂気に満ちた目で笑いながら、両腕を広げた。

「何調子に乗ってやがる!てめぇはここで終わりなんだよ!!かかれ!!我が眷属共!!」

 多勢に無勢。
 この狭い屋内でこれだけの人数と戦える訳がない……。

(こんな所で……終わるのか……?)

 そう思った時だった。



「ヴァンパイア風情が……調子に乗りすぎだ。誇り高き龍人族の力を見せてやろう――」



 龍人族――

 ギルバートは聞き覚えがあった。
 大陸の外に住まうとされる、世にも珍しい龍の血を引く一族。

(え……まさか、彼女が……?)


 カグラはその瞳を開けた――――

 家の中が一瞬暗くなったかと思うと、そこには到底この世のものだとは思えない光景が広がっている。
 神々しい……その姿を見たものは誰しもがそう思うだろう。

 現れたのは、巨大な龍。
 その身体の中央付近に、カグラの姿が映る。

「な、なんだっていうんだ!!お前は!!」

 ガイドの男は、目を見開いている。

「力の差を見よ……招雷!!」

 カグラの声が響くと、窓の外に閃光が走る。
 それはあまりにも一瞬の事だった。
 激しい稲妻が家の周りに轟音を立てながら落ちたかと思うと、支配された村人はバタバタと倒れていく。

「うわああああ!!」

 あまりに激しいその音に、頭を抱えて身悶えるヴァンパイア。
 全てが、終わった瞬間だった。


――――数刻後


 正気を取り戻した村人達に押さえつけられたヴァンパイアは、尚もバタバタと暴れている。

「もう少しだったんだ!もう少しで、バカな村人共を帝国に引き渡せた!てめぇらのせいで姉さんは……!」

 カグラはふっと息を吐くと、ヴァンパイアに背を向けて外へと出て行く。
 しかし、少ししてからすぐに戻ってきた。
 その手で車椅子を押しながら。


 車椅子の上で背中を丸めた老婆が、カグラの手によってヴァンパイアの横に運ばれる。
 ヴァンパイアは、目を見開いてカグラに罵声を浴びせる。

「てめぇ!!姉さんをどうするつもりだ!?ふざけんじゃねぇぞ!ぶっ殺すぞ!!」


 暴れ回るヴァンパイアをカグラは見下ろす。

「お前は気付いていないのか……?」


 ヴァンパイアは尚も食って掛かる。

「何が言いてえんだ!!」

 カグラは冷たい目線を向けながら、ゆっくりと話し始めた。

「先程、お前の家を調べさせて貰った。お前がこの家に近付いているのが見えたのでな。探るには丁度いいと思ったんだ」

(あの時、カグラはガイドが大男の家に来ている事に気が付いていたのか……)

 ギルバートは息を飲んでカグラの言葉に耳を向ける。


「この女性……お前の姉は……もう死んでいるだろう……」


 うなだれた老婆の顔をゆっくりとあげるカグラ。
 その様子から、死後2、3日は経過しているかもしれない。

「う、嘘だ……!!嘘だ!!!姉さん――!!!」

 取り押さえていた村人を跳ね除けて実の姉に縋り寄るヴァンパイア。
 本当に死んでいる事に気が付いていなかったのだろう。
 その様子を見てひとつため息を吐いた。


「先程、お前が話した内容が本当であれば、もう帝国との取引もする必要がない。帝国に村人を差し出した所で、お前が得られるものはもう何もないのだから」


 その瞬間、ヴァンパイアは泣き崩れる。

「姉さん!!!!!ちくしょう!!!姉さん!!!!」


 最後にカグラが小さな声でボソっとこぼした言葉を、ギルバートは聞き逃さなかった。

「……ヴァンパイアも、涙を流すのだな」




――――ラキラへの街道


 今回の事件を通じて、ヴァンパイアについてかなり新しい情報が入った。
 血を吸った者を支配するというのは、どのような感覚なのだろうか。
 そんな事を考えていると、後ろからうるさい声が飛んでくる。

「ちょっと!待ってくれよぉお〜〜〜」

 ギルバートはやはり着いてきてしまったらしい。
 彼もあの村にこれ以上留まる理由はないのだから、当然の事なのかもしれないが……。

「いやぁ!君がまさかあの龍人族だったなんて驚いたよ!君を一目見た時からただものじゃないって思ってたけど、僕の目に狂いはなかったみたいだねぇ〜〜♪」

 まったく……うるさい……。
 何故こんな男に付け回されなければならないのかと、ため息を吐く。

「それにしても、あのヴァンパイアはちょっと可愛そうだったね。大切な人と過ごしたいっていうあの人の願いで事件を起こしたんだろう?村人を支配したっていうのは悪い事だけど、僕は少し彼に同情してしまうなぁ〜」

 確かに……。
 それはそうなのかもしれない。
 家族と別れる辛さは、自分も良く知っている。
 ただ、その運命に抗う事が出来るとしたら、自分はどうしていただろうか。

「ギルバート。奴の言っていた帝国というのは、本当にヴァンパイアの姉の病気を治せたと思うか?」

「う〜ん、帝国は各地から宝具を集めているらしいから、もしかしたら中にはそんな力を持った宝具があっても不思議ではないかな?現に、見たこともない魔物を召喚して操るなんていう事をしてるんだから、今更何をしても驚かないかなぁ……」

 なるほど……。
 また一つ、興味深い事ができた。
 この事件も結局は裏で帝国が動いていた。
 やはり、放おっておく訳にはいかない。

「ここでお別れだギルバート」

 カグラは振り返り、ギルバートの顔を直視する。

「…………」

 これまでにギルバートを遠ざけるように言っていた言葉とは明らかに違う空気を彼も感じ取ったのだろう。
 いつものように調子に乗ったような態度はなく、彼もしっかりとカグラの顔を見つめている。
 こんなに長い時間、ギルバートと目線を合わせているのは初めての事だった。

「私は帝国を討つことに決めた。これから反帝国勢力を探す事にする。お前は平和に唄でも歌って生きていろ。対した力も持たないお前には荷が重い」

 ここまで言って尚も食い下がるギルバート。

「僕なら大丈夫だ!吟遊詩人の旅は危険な事も沢山あった!僕はその旅を続けてきたんだ!」

「くどい……!ダメなものはダメだ。どれだけ危険か分らないのだぞ?お前の身を案じての事だと理解しろ……」

 弓を向けるカグラ。
 それでもギルバートは、真っ直ぐカグラの目を見ていた。
 そして、少し考えてから真剣な表情で口を開く。

「君には伝えていなかったけれど、僕は今……ある反帝国組織に属している」

「なに……?」

 ギルバートから出た思わぬ言葉に、柄にもなく間抜けな表情をしてしまった。
 しかし、彼の目は嘘を言っている様子ではない。

「君を紹介するよ。最近帝国の黒印の七騎士の一人も打ち倒した組織だ。帝国に対抗できる勢力の中でも、最も力があるのは間違いない」

 確かに、帝国の猛者が一人倒されたと噂がある。
 ギルバートがその組織にいるというのか?

「僕が知っている小隊のリーダーは、あの帝国の魔物に対抗する冥界の力を使うんだ。君も興味があるんじゃないか?」

 冥界の力。
 それは確かに興味深い。

「僕だって男だ。君が何をしたいのかまだ良くは分からないけど、それでも僕は君の力になりたい!危険なのは今も変わらない。君と一緒に行動するかどうかの違いだけになるから――」

「はぁ……わかったわかった……私の負けだ……」

 ギルバートに満遍の笑みが広がる。

「それじゃあ!!」

「私をお前の所属している組織に紹介しろ」

 こんな男との旅は正直ごめんだが、他の者がいる組織に入れば、2人きりという訳でもないだろう。
 それに、邪魔な帝国を黙らせるには、この男の話に乗るのが一番の近道だと結論が出てしまったのだから仕方がない。

「僕を認めてくれたんだね!やった!!君はやはり僕の見込んだ最高の女性だよ〜♪その素敵な瞳に僕はいつも吸い込まれて――」


「……調子に乗るなよ……アマガエルが!!」

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