俺ロワ・トキワ荘にて行われている二次創作リレー小説企画の一つ。 サマナーズ・バトルロワイアルのまとめWikiです

「駄目だ、電車通ってないみたい」

下北沢駅の改札の手前、完全に機能を停止した電工掲示板と自動改札を前に、多田李衣菜が失望の声をあげる。
目的地は渋谷にある美城プロダクションの本社。
名簿にプロダクションの友人達や面識のある所属アイドル達が載っているのを見つけた彼女は、知り合いが参加させられていると知った彼女たちならば、皆と合流する為にプロダクションへ集まると考えたのだった。
徒歩で向かえなくはない距離だったが、悪魔がうろつく道を進むよりかは安全ではないかという考えの元、下北沢駅まで足を運んだ訳だが、電車は完全にその機能を停止しており無駄足となってしまった。

「ここから徒歩で渋谷までかぁ、しかもエレキギター背負って」

げんなりとした表情を浮かべる彼女の肩に背負ったエレキギター型COMPの重みがずっしりと伝わる。
アイドルのレッスンで相応の持久力や筋力を身に付けてこそいるが、それなりの重量の荷物を背負いながら下北沢から渋谷までの距離を歩くとなれば相応の消耗は免れない
眉間に皺を寄せながら、彼女はデイパックから地図を取り出し、一応の経路を確認する事にした。

「このまま井の頭線の線路沿いを伝って行くのが一番わかりやすいよね。渋谷駅まで行かなくても新泉から道玄坂の方に出れれば……」
「ほー、やっぱり現地人だとそういうルートもよく分かるもんだな」

突然背後から聞こえた声と彼女の横から地図を除きこむように現れた男の顔に、「ひゃっ!?」という声とともに李衣菜の肩が反射的に跳ねた。
声の主は彼女が召喚した悪魔、ザベル・ザロック。
初対面の際、ザベルが危険人物であることを認知していた李衣菜は、どうにかしてCOMPに彼を戻せないものかと考えたが、街中に蠢く悪魔達の姿を見て諦めざるをえなかった。
殺し合いなどという非日常に免疫も経験もない彼女ではデイパックに入っていた銃器も満足に扱えない。
必然的に悪魔に襲われた場合はザベルに頼る以外に道はなかったのだ。
幸いにも相手が陽気で話しやすい性格だった為、コミュニケーションを取るのに苦労はしないが、それでも生前の凶行から李衣菜の中の警戒心を払拭するまでにはまだ至ってなかった。

「まあ、ここからそう遠くねえ場所だったのは幸いだったな。それ担ぎながら徒歩で大移動なんてする羽目になったら嬢ちゃんだって困ってたろ?」
「あ、あははは。そうですね」

エレキギターを指差すザベルに対し、李衣菜は苦い笑顔で応える。
もしも渋谷から遠い場所に彼女が飛ばされていたのだとしたら、渋谷に向かうこと事態を断念せねばならなかっただろう。

「それじゃあとっととシブヤとやらに行くか、悪魔に見つからねえように……」

会話の途中でザベルが自動改札の先、ホームへと向かう階段を凝視しながら黙り混んだ。
何があったのかと李衣菜が視線を向けた先にはコツコツという足音を響かせ、階段を登ってくる紫のレオタードのような服の上に黒いジャケットを羽織り、何故か棺桶を背負った奇抜なスタイルの男。
男の首にはキラリと輝く金属、李衣菜につけられているものと同じ首輪が見受けられた。

「……女と使役している悪魔か」
「なんだテメエ、葬儀屋の世話になるには俺サマは遅すぎるしそっちの嬢ちゃんは早すぎるぜ?」

男達も李衣菜達の存在に気づいたのであろう。階段を登りきったところで男が口を開き、ザベルが軽口で応対した。
男はザベルの軽口を無視しながら、サマナーである李衣菜へと視線を向ける。
奇抜な見た目と裏腹に暗く淀んだ冷ややかな男の瞳が李衣菜を射抜く。
凶相、とまではいかないが強面の類いである男の視線を受け、李衣菜は思わずたじろぐ。

(ど、どうしよう、なんか怖そうな人だけど……。首輪つけてるってこの凄い格好の人も私と同じ巻き込まれた人だよね?)

ある意味では非常にロックとも取れる男の服装と背負った棺桶の不気味さが李衣菜の警戒心を助長する。
取れる選択肢は逃げるか話しかけてみるかの二択。
チラリ、と不安げな瞳でどうすべきかザベルへと視線を向ける。
彼の目に眼前の男がどう写っているのかは定かではないが、その表情には警戒の感情を色濃く表れており、李衣菜の判断を悩ませる結果にしかならなかった。
被我の距離、そして自動改札という物理的な障害物を考えれば逃げる事も容易だ。
しかし、人を見かけだけで判断していいものかという状況に不似合いな良識が李衣菜の行動を鈍らせる。

そんな李衣菜の煩悶を知ってか知らずか、男が口を開いた。

「娘、お前に対して危害を加えるつもりは私にはない」

低い、それでいてよく通る声が響いたのとほぼ同時に男が背負った棺桶とデイパックを降ろし、その後ろへと移動する。

「これは私の『誠意』だ。お前が初対面の私に警戒しているのは理解ができる。棺桶などという不気味なものも背負っているしな。
故に害意はないと『誠意』をもって証明する為、私は私に支給されたこの棺桶の形をしたCOMPにもデイパックにも触れないし、このCOMPより一歩も前には進まない。
もしそれを破ったのであればお前は即座に逃げ出しても、その悪魔を使役して攻撃をしかけても構わない」

それは常軌を逸した真似だと言えた。
そもそもCOMPの形が常軌を逸しているとか、それを律儀に担いで駅の階段を登ってやってくること自体が常軌を逸しているという話は横においておき、男は自身の武器とも呼べるものを放り出す事で、殺し合いに乗っているかも定かではない自身に敵対の意思を持たないと証明しようと試みたのだ。

「名が知りたいというのであれば名乗りもしよう。その代わり、私の話を聞いて欲しい。
この殺し合いに私同様に呼ばれた"ジャン・ピエール・ポルナレフ"という危険な男の話を」
「危険な男、ですか?」

李衣菜が男の言葉に食いついく。
男の言った"ジャン・ピエール・ポルルナレフ"という人名が名簿に載っていた事は確認している。
どういう人物なのかはわからないが、"危険な男"と言われれば無視する訳にもいかなかった。

「その反応は私の話を聞くつもりである、と判断していいのか?」
「え、えっと、その位置で話してくれるんでしたら大丈夫です。危険な人って事は私も注意しなきゃいけないでしょうし」

李衣菜の返事と提案に承服したのか男はヴァニラ・アイスという自らの名を名乗り、自身がある男性に仕えている事、そしてその男の命を狙う一味の一人であるポルナレフを倒さなくてはならない事を告げる。
早速、ヴァニラ・アイスの口からポルナレフという男の見た目とどの様な危険人物であるのかを李衣菜は聞かされる事になった。
曰く、女と見れば軟派な口調と陽気な態度で口説きにかかり、油断したところを手にかける外道。
曰く、騎士道を是とするポーズを見せながら卑劣な真似をとることも辞さない冷血漢。
曰く、一般人には見えない悪霊を使役する悪霊使い。
曰く、多くの仲間がこの男と一味により志半ばで倒されたこと。
自分は主の為にもこの悪辣な男をここで倒さなければならない、と説明するヴァニラ・アイスの言葉と表情に李衣菜は真に迫るものを感じた。

「娘、できれば多くの参加者にこの男を信用するなと伝えて欲しい。恐らくこの男は本性を隠し、お前のようなか弱い女性の参加者を盾として囲おうと考えているに違いない」
「か弱い女性……」

頭を過るのはアイドルの仲間達や事務員の千川ちひろの姿。
もし、彼女達がその男の毒牙にかかったら。
李衣菜の顔が自然と青ざめていく。

「……知り合いでもいるのか?」
「え!?」

ヴァニラ・アイスの指摘に李衣菜は頭に浮かんでいた悪い予想が表情に出ていた事を悟る。
知り合いが参加させられている事を伝えるべきか、そこまで信用していいものか。
李衣菜の悩みは中空をさ迷う目線となって露わになる。
そしてその視線がヴァニラ・アイスの放り出した棺桶とデイパックへと留まった。
自分に危険人物の情報を伝えるため、『誠意』として武器となるものを放り出したヴァニラ・アイスの行為。
コク、と李衣菜は自分の決意を示すように首を縦に振る。ここまで出来る人間であるならば信用できる、そう結論づけたのだった。

「あの、私、多田李衣菜って名前で、その、美城ってプロダクションのアイドルをやっているんですけど、そこのアイドル仲間と事務員さんがここに呼ばれてて」
「そうだったのか」
「私、ヴァニラさんの言う事を信じようって思います。それで、これから仲間がいないか渋谷にある美城プロダクションに行こうと思うんですけど良ければヴァニラさんも……」
「悪いがそれはできん」

李衣菜のから同行の要請はヴァニラの即答によって断られる。

「私はなによりもまずあの男を倒さねばならん、油断ならん強敵だ。だからこそ戦うこともできないお前を連れていくという選択は取れん」

足手まといを連れていくつもりはない。暗にそう言われているのだということは李衣菜にも理解ができた。
信用のできそうな人物とどうにか行動をともにできないかと頭を回転させるが、いい考えは浮かばない。

「渋谷という事はお前は東に行くのだろう? なら私は西に向かいあの男に対する忠告と捜索を続けるつもりだ。お前はお前の本懐を果たすといい」

それだけを告げると、もう用はない、と言わんばかりにヴァニラ・アイスは棺桶とデイパックに手を伸ばし、踵を返して自らが登ってきた階段へと戻っていく。
それは自分とは同行しないという何よりの意志表示に思え、李衣菜は呼び止める事を躊躇ってしまう。
不意に、ヴァニラ・アイスが足を止めた。

「……お前の仲間の身体的な特徴はあるか」
「え?」
「お前の仲間とやらに会う事もあるかもしれん。その時にお前が向かった先を伝えておけば何かと助かるだろう」
「あっ」

顔だけを振り向かせてヴァニラ・アイスが李衣菜に問いかける。
その言葉に李衣菜の顔が微かに明るさを取り戻す。
これがヴァニラ・アイスからの最大限の譲歩なのだろうと考えた李衣菜は、わかるだけの特徴と名前をヴァニラ・アイスへと伝えた。

「島村卯月、前川みく、市原仁奈、千川ちひろか。この4人らしき人物を見つけたら確かに伝えてやろう」
「あ、ありがとうございます!」

ぺこりとお辞儀した李衣菜を尻目に、ヴァニラ・アイスは階段を降りていく。
コツコツという足音が次第に遠ざかっていき、次第に静寂が訪れた。
再び駅前にいる人影が自分とザベルだけになったと確認した李衣菜から、ふう、と一際大きなため息が漏れる。
緊張が切れたのだろう、軽い虚脱感が彼女の体を襲っていた。

「よーう、お疲れさん!まさか初めての交渉が悪魔じゃなくて他の人間になるとはなー」

パチパチと拍手を響かせながら事態を静観していたザベルが口を開き、李衣菜をねぎらう。
彼女を襲っていた緊張などどこ吹く風といった調子の声に李衣菜が半目でザベルを見やった。
もっとも非難めいた眼差しもザベルにとってはなんら効果を見せる事はなかったが。

「で、嬢ちゃんはあの野郎の言う事は信じるのかい」
「信じるってさっき言ったじゃないですか」
「いや、ほらよ。この場だけ合わせるって手もあったろ」
「そんな事しませんよ。わざわざ私に忠告してくれる為だけに武器を置いてくれたいい人ですし」
「武器を置いてくれた、ねえ」
「なんですか、その物言い」
「いーや、なんでもねえさ、嬢ちゃんがそう考えてるんなら俺サマもそれを尊重しようじゃねーの」

ヴァニラ・アイスの言い分を信じるかとの問いに李衣菜はさも当然だとばかりに信用すると答え、ザベルが僅かに眉間に皺を寄せる。
含みのあるザベルの言い方に少々ムッとした調子で李衣菜が尋ね返すものの、ザベルはまともに取り合うこともなく手をひらひらと振りながら駅の外へと歩いていく。話を終わりにし、渋谷へ向かおうと言いたいのだろう。
そんなザベルの態度に釈然としないものを感じつつもあわてて李衣菜が後を追う。
その内心でみく達を始め、仲間達に何事もないようにと祈りながら渋谷への一歩を踏み出した。

(まったく、おめでたい小娘だ)

背後についてくる李衣菜の気配を感じながら、ザベルは心の中で苦い顔を浮かべる。
ヴァニラ・アイスを名乗る参加者に関して、結論から言えばザベルは微塵も信用をおいていなかった。
誠意を見せるなどと言ってCOMPとデイパックを投げ捨てていたが、事前に悪魔を召喚しておいたり、武器を懐に忍ばせておけば、なんら意味の無い行為である。
そしてそんな人間が告げる危険人物の情報なぞどこまで信憑性があるのか分かったものではない。
そこまで理解してなお、それを李衣菜とヴァニラ・アイスが会話しているタイミングで指摘しなかった理由は、サマナーである李衣菜の安全を優先したからだ。
武器や悪魔を忍ばせている危険性のある男の目の前で、行為や言動の矛盾点をつき論破すればどうなるか。
自分にとって都合の悪い事実を知ってしまった存在の消去。つまり李衣菜の殺害である。
一般人に毛が生えた程度の彼女にあの危険な雰囲気を纏った男と戦わせるか。それとも李衣菜には騙されてもらい何事もなく切り抜けるか。ザベルが取った選択は自分の負担も少ない後者だった。

そのせいで被害の及ぶ参加者はいるであろうがそこまでは知ったことではない。
ザベルにとって重要な事はあの場で李衣菜が死亡し、自身が入っていたCOMPが破壊されない事だったのだから。

(最後まで生き残って魔神皇のガキの力を手にする為とはいえ、こいつは先が思いやられるぜ)

悪魔として召喚されたザベルには一つの野望があった。
オリジナルのザベルが帝王オゾムや冥王ジェダの力を我が物とする為に動いていたように、このザベルは魔神皇の持つ強大な魔力を我が物にせんと狙っていたのだ。
その為には悪魔合体も死亡も削除もされる事なく、ザベル・ザロックとして殺し合いの最終局面まで残らねばならない。
その手始めとしてサマナーとなった李衣菜の不興を買わないように気のいい悪魔を演じている訳である。
今ここでザベルはヴァニラ・アイスの行為の矛盾点をつき、李衣菜を説得する事も考えたが、彼を信じきっていた彼女の様子を見てそれを諦める。
魔神皇の元に辿り着く為には善きにしろ悪きにしろ殺し合いを進展させていかねばならない。
故にこの信憑性の薄い危険人物の情報を殺し合いを進展させる為の火種として、騙された李衣菜を介して利用しようと割りきったのだ。

(そりゃあオトモダチの事まで気にかけてくれる相手に気を許しちまうのは仕方ねーかもしれねーが、ちょいとばっかり人が良すぎるぜ)

李衣菜がヴァニラ・アイスをここまで信用した理由は十中八九、李衣菜の知り合いに彼女の事と向かう場所を伝えると約束した事だ。
李衣菜の目からヴァニラ・アイスは、やらなければいけない事を抱えているというのに、自分達を気にかけてくれたいい人、と映っていることだろう。
信用できる人物に仲間を助けて貰える事に李衣菜は望みをかけたのだろうが、ザベルから見ればロクに知らない怪しい人間に仲間の情報をバラしてしまった迂闊な行為だ。

(危ねえ奴に名前と姿が割れちまった嬢ちゃんのオトモダチと、悪評振り撒かれる事になったポルナレフって野郎にゃ気の毒だが、そこまで気にする義理は俺サマにはねーしな)

だがそれらの考えも全て胸の中に仕舞い込む。
歪めた口許を隠す様に、ジーンズのポケットに入れていた煙草を取りだしくわえる。
ここからどう立ち回るか、美城プロダクションに到着した後はどのように動くか。
今回の一件で判明した自身のサマナーの"人が良い"という致命的な弱点も鑑みて練っていかなければならない。
腐っても狡猾な脳みそを回転させながら、野望への道程をザベルは組み立てていく。

【世田谷区 下北沢駅前/1日目/朝】

【多田李衣菜@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:COMP(エレキギター型)
[道具]:基本支給品、不明支給品
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:帰りたい。
[状態]:健康
1:渋谷の美城プロの本社を目指す
2:みくちゃん・卯月ちゃん・仁奈ちゃん・ちひろさんと合流したい
3:ポルナレフが危険人物である事を皆に知らせる
4:ヴァニラ・アイスを信用
[COMP]
1:ザベル・ザロック@ヴァンパイアシリーズ
[種族]:屍鬼
[状態]:健康
[思考・状況]
基本:最終的に魔神皇の力を手にしたい





「あれで良かったのか? あの程度なら労なく殺せただろうに」
「いや、あれで構わん」

下北沢駅のホームを歩く2つの影。
影の主の名はヴァニラ・アイスとアーカード。
アーカードの問いかけにヴァニラ・アイスは口角を微かにつり上げながら答える。
当初は手当たり次第に参加者を殺そうと考えていたヴァニラ・アイスが方針を変更したのは一つの理由があったからだ。
それは同じく参加者として呼び出された、宿敵ジョースター一行の一人ジャン・ピエール・ポルナレフの存在。
DIOの館から自分と同じ様に拉致されたのであろうが、この男は確実に始末せねばならない、とヴァニラ・アイスは決意した。
が、そこで懸念点が浮かび上がる。
ポルナレフの性格から考えればこの殺し合いに従わず、同志を見つけて主催者に反逆する事は容易に想像できた。
そしてポルナレフの元に集まった仲間はそのまま自身の敵となりうる。
無論、ヴァニラ・アイスのスタンド『クリーム』を用いれば有象無象などまとめて始末はできるが、参加者一人につき一体支給されている悪魔という不確定存在は無視するにはあまりにも存在が大きい。
故にヴァニラ・アイスはポルナレフが悪人だという情報を流し、他の参加者がポルナレフに積極的に接触しない、あるいはポルナレフとその仲間達に対して別の集団を衝突させようと目論んだのだ。
そうして最初に出会ったのが先程の李衣菜だった。
不馴れな対人交渉ではあったが話を聞いた李衣菜が人の良い部類であり、ヴァニラ・アイスの行為から信頼をしてくれた事はお互いにとって幸運だっただろう。
もし逃げられてしまったり攻撃を仕掛けられる事があれば、自身に不都合な存在だとしてヴァニラ・アイスは即座にクリームによって、彼女を亜空間にバラまくつもりであった。
だがその様な次善の手をとる事もなく、それどころか他の参加者の情報まで提供してくれたのだ。少なくとも名前を聞いた四人に対しては"多田李衣菜から名前は聞いている"と伝えれば最低限の信頼は得られるだろう。
もしも首尾よく群れてくれたのであれば、ポルナレフを殺害した後にまとめて殺す事も出来、手間が省けるというものだ。

「人一人を殺すのに随分とまだるっこしい真似をするものだ」
「私はこの殺し合いの場でどこにいるかもわからんポルナレフだけは確実に始末せねばならん。使えるものはなんでも使う、不服か?」
「退屈ではある。が、不服とは言わんさ。結局のところ貴様の行き着く先は闘争だ、ここを抜け出す方法をお前はお前以外の全てを殺す事以外に見出だせない。ならば後は事が起こるのが早いか遅いかの違いだ。私はその時が来るまで待てばいい」
「フン、破滅願望持ちの戦闘狂が」

蔑む様な眼差しで吐き出すように呟いたヴァニラ・アイスの言葉を聞き、アーカードが凶笑を浮かべる。

「お前の享楽の巻き添えになるつもりはない、それだけは肝に命じておけ」
「ああ、理解しているとも召喚士」

会話を止め、一人前を歩くヴァニラ・アイスを見てアーカードはサングラスの奥の目を細める。
危険な男だ。ただ一つの信ずるものの為に全てを投げ出せる男だ。
その果てに神の力となった男の様に。
その果てに串刺しの化け物となった男の様に。

(インテグラ、懐かしき我が主。お前はこの男を前にどう戦う? この男の走狗となった私を見てどう思う)

ヴァニラ・アイスが名簿を確認していた時、アーカードは参加者の中に忘れよう筈もない人物の名前を見つけた。
インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。
それはかつての主の名だ。
よもやこの地で敵と味方として相見える事になろうとはインテグラ、そしてアーカード自身も夢にも思わない事だった。

(今の私はお前の敵だ。あの男の様に、あの夜明けの時の様に、今度は私がお前に立ちふさがる)

脳裏に浮かぶのは自らの宿願の為に主を裏切り矜持を捨てた一人の裏切り者の小僧の姿。
運命とは皮肉なものだと内心で苦笑する。

(お前の先祖の様に私の心臓に白木の杭を立ててみろ。インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング)

来るべき闘争に備え、吸血鬼は内なる闘志を滾らせていく。
その果てにかつての主と対峙する未来を夢想しながら浮かべた表情は暗闇に紛れ、誰の目にも映る事はなかった。

【世田谷区 下北沢駅構内/1日目/朝】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、確認済み支給品、棺桶型COMP
[所持マッカ]:三万
[思考・状況]
基本:魔神皇を含め皆殺し
1:ポルナレフはこの場で確実に殺す
2:ポルナレフの悪評を流し、潰し合わせて疲弊させる
3:邪魔な存在、自分にとって不都合な存在は優先的に殺す
4:多田李衣菜の知り合いに出会ったら彼女の行き先を教える
[備考]
※参戦時期は「お受け取りください!」と言って自ら首を刎ねようとする直前
[COMP]
1:アーカード@HELLSING
[種族]:吸血鬼
[状態]:健康
※参加者の中にインテグラがいることを確認しました
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066
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063:笑顔:選択
時系列順
056:手を繋がぬ魔人
065:再現:憑依
投下順
067:Bの海馬/殺戮遊戯への思考
011:吸血鬼の従者と従者の吸血鬼ヴァニラ・アイス068:迷路:決断
032:「「ロックにいこうぜ!!」」多田李衣菜000:[[]]

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