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touhou_icha 2012年06月20日(水) 03:28:51履歴
暑さ寒さも彼岸まで、という言葉がある。
冬の寒さは春分まで、夏の暑さは秋分まで――という事を昔の人々は言っていたのである。
なるほど、確かにその言葉には頷かざるを得ない。
春分を過ぎてからは暖かい日が多くなり、寒さが気にならなくなってきた。
だが、それでも例外はある。
春分を過ぎたとしても、やはり寒い日が訪れる訳で。
雪が舞う事も珍しいのだが、決して無い訳ではない。
それがその珍しい日な訳で――。
「……すげぇ吹雪いてるな」
家事の合間、ふと外を見た○○は感嘆と呆れと辟易が混じった声を漏らした。
窓の格子の間から外の景色がハッキリと見て取れた。
空は灰色に曇っており、白い雪が勢いよく吹雪いている。
午前中はあんなに快晴だったというのに。
どこかで寝ボケた冬の妖怪が張り切っているのだろうか?
そう思わないと説明が付かない程の天気の豹変振りであった。
きっと午前中の様子で気を抜いた人々は今頃酷い目に合っているだろう。
その事で、○○の中で一つ気掛かりな事があった。
「あいつ……大丈夫かな……?」
朝、意気揚々と出かけて行った愛しい恋人――春告精であるリリーホワイトの事である。
春を伝える為に出かけて行った彼女だが、まさかこんな吹雪に遭うとは思ってなかっただろう。
流石に死ぬ事は無いと思うが(妖精に死ぬという概念は無いのだが)リリー自身が吹雪に慣れていないという事がある。
それを考えると少し不安になった。
だが、だからと言って何かが出来る訳ではない。
探しに行こうにもリリーがどこに居るか分からないからだ。
○○に出来るのは、ただこの家で彼女の帰りを待つ事だけだ。
それでも、家の中でなら出来る事もある。
「……あいつの為に風呂でも立てておいてやるか」
きっと家に帰ってきたリリーは酷く凍えている事だろう。
ならば、それを温めてやれる準備はしておいた方が良いかもしれない。
問題はその風呂を沸かす為に外に行かなければいけないという事だが……。
「まあ、あいつが寒い思いするよりはマシかな……ハァ」
この吹雪の中外に出ると言うだけで億劫だが、それでも○○は気合いを入れ己を叱咤し、外へ出た――。
その後吹雪は止む事無く、幻想郷は夜を迎えようとしていた。
寒い中風呂も沸かし終えた○○は夕飯の準備をしていたが、それでもやはり気掛かりなのはリリーの事である。
いつもならこの時間辺りには帰って来ているものなのだが……。
やはり今日の吹雪が原因なのだろうか?
「……本当に大丈夫か……?」
ここまで来ると流石に心配の度合いが強くなってくる。
危険なのを承知で探しに行こうか本気で考えている時――。
「ただいまでず〜……」
戸を叩く音と共に聞こえた声。
間違いない、これはリリーの声だ。
それが分かると今まで背負っていたような重圧がふっと消え、安心が胸に広がる。
「おう待ってろ、今開けてやるから」
そう言い、急いで止め木を外し戸を開ける。
「……こりゃ、随分な有様で」
ある程度の惨状を覚悟していた○○だったが、それでもこの状況には呆れが混じった笑いを浮かべるしかなかった。
肌が露出している顔や手は真っ赤になっており、衣服にも沢山の雪が積もっていた。
どうやらかなり長い間この吹雪に晒されていたらしい。
体も小刻みに震えている。
「う゛う゛う゛ぅぅ〜、寒かったでずよぉぉ……!!」
「あー、よしよし頑張ったな」
涙目になりながら泣きそうな声を上げるリリーに労いの言葉を掛けながら、頭や肩に積もった雪を払ってやる。
そして払うついでに頭をワシワシと撫でてやる。
「外寒かったろ? 風呂立ててあるから入ってこいよ。あったかい飯も用意しといてやるからよ?」
「あ……」
○○が頭を撫でるのを止め、元々居た台所の方を向いた時リリーは何故か残念そうな声を漏らした。
しかし、それには気付かず台所へ戻ろうとした時――。
「あ、あの……」
「――ん?」
リリーが○○の服の裾を軽く掴んでいた。
いつもと違う様子を○○は不思議に思い、彼女の方に向き直る。
「どうしたんだ?」
「あの……その……」
○○は軽く屈み、リリーと目線を合わせる
すると彼女は胸の前で指を弄って俯いてしまった。
気のせいか顔が先程よりも赤い気がする。
「なんだよ、言いたい事があるなら言えよ」
彼女を安心させるために笑顔を浮かべる。
リリーは俯いたりこちらをチラチラ見たりと視線が定まらなかったが、意思が固まったのだろうか。
おずおずとこちらを見上げてきた。
「あ、あの……よ、良かったら一緒に……」
「ん? 一緒になんだ?」
「……一緒にお風呂に……は、入りませんか……?」
風呂は命の洗濯とよく言う。
日ごろの束縛や苦労から解放されて、のんびり気ままに過ごせる時間というのは貴重なものだ。
こんな雪の降っている様な寒い日には、温かい湯船で強張った筋肉を解し、ゆっくりと温まりたいところである。
――こんな状況でなければ。
「……なぁ、リリー」
「ん〜、なんですか〜?」
「なんでこんな事になってるんだろうな?」
「こんなって、どんな感じですか〜?」
「一緒に湯船に浸かってる事だよ!!」
そう、○○はリリーと一緒に湯船に浸かっていた。
理由など簡単だ。
リリーに一緒に入らないかと誘われたからである。
いくら恋人だからといって一緒に風呂に入るのはいささか抵抗がある。
だからやんわりとそのお誘いを断ろうとしたのだが――。
(あんな顔されたら断れないよなぁ……)
何時の時代でも、何処の場所でも、男は女の子の泣き顔には弱いものなのだ。
あんな上目遣いでお願いをされて、あんな悲しそうな顔をされて断れる男などそうはいないだろう。
結局は○○が折れる形になり、現在に至る。
しかし、冷静に考えてみればなんて事は無い。
自分はただ彼女と一緒に風呂に入っているだけなのだ。
裸体を見るのも何度も愛の営みをする時に見ているので初めてではない。
そう、つまり何も焦ることなどないのだ。
○○は自分にそう言い聞かせ、落ち着こうとする。
が、人間そんな事で平静でいられるのなら苦労しない。
いつもは腰まで伸びる艶やかな髪をアップにしている為、見えるうなじ。
透き通るように白く、華奢な肩口。
揺らめきながら見える妖精の体格にしては豊かな膨らみを誇る胸と、その先端の桜色の蕾。
意識しなくても無意識に目に入ってしまうその光景に、思わず○○の心拍数は上がっていく。
(う……やばっ――)
しかし、今の状況が続くのは非常にまずい。
その理由は今の二人の体勢にある。
リリーは今湯船の中で○○にもたれ掛っている状態である。
彼の体を椅子の背もたれのようにしていると言えば分かりやすだろうか。
つまり、リリーのお尻が○○の股間付近に来る事になる。
そして先程から目に飛び込んでくる光景である。
自分でも股間に血が集まっていくのが分かった。
だが、このまま自分の竿が臨戦態勢になってしまうとリリーにそれが当たってしまう事になる。
それだけは絶対に避けなければならない。
特に問題は無いかもしれないが、男の矜持を守るために何としても避けなければならなかった。
興奮と焦りで茹で上がりそうになっている頭で必死に打開策を考える。
そんな○○の苦悩も知らず、リリーは軽く体を揺らしながら鼻歌を歌っている。
その余裕っぷりに○○は思わず恨めし気な気分になる。
これでは必死になっている自分だけが滑稽ではないか。
しかし、そんな事を思っても事態が改善される訳もない。
興奮と焦りが頂点に達しようとしたまさにその時、○○に電流のように現在の状況の打開策が流れ込んできた。
「じゃ、じゃあ俺は体洗うかなっ!!」
そう、風呂の外に出て、興奮が冷めるのを待つという作戦である。
冷静に考えればごく普通の考えと言えるかもしれないが、今の○○はその考えが浮かんだ事が奇跡とも言える程逼迫していたのだ。
股間の辺りをさり気なく手で隠しながら湯船から上がる。
大丈夫だ、問題無い。
心の中で思わずガッツポーズをとる。
そしてとりあえず体を洗う為に椅子に座った時――。
「あ、じゃあ背中流しますよ〜」
(な、ん、だ、とぉ!?)
予想外の状況に思わず心の声がそのまま声に出そうになったが、なんとかそれを抑える。
背中を洗ってもらう、それは問題無い。
それはリリーの純粋な好意である、それも分かっている。
ここは是非ともその申し出を受けたいところである。
……こんな状況でなければ。
リリーに股間の滾りを悟られないようにせっかく離れたというのに、また近づかれては本末転倒だ。
「い、いやいいよ!! 外寒かっただろ、もう少しゆっくり浸かって温まってろよ」
「もう充分に温まりましたよ〜? それにお風呂を立ててくれた○○さんにお礼もしたいですし」
「あ、いや、でもな……」
リリーの顔に少し困惑を疑問が混じった色が浮かぶ。
きっとなんでここまで必死になって断っているのだろうか、という事だろう。
正直、それを無視して強く言う事で断る事が出来る。
しかし、それはあまりにも不自然だし、なによりもリリーが寂しい思いをする事になる。
「……分かった、頼むよ」
結局○○が折れる形となった。
その言葉にリリーはぱぁっと笑顔を浮かべる。
「ハイ!! じゃあ、背中洗いますね」
そう言いながらリリーが湯船から出てくる。
出てくるときに色んな所が見えそうだったので、顔は背けておいた。
湯船から出てきたリリーは椅子に座っている○○の後ろにしゃがみこんだ。
そして近くに掛けてあったタオルを取り、軽く濡らして石鹸を擦りつけ始めた。
楽しそうに鼻歌を歌いながら、泡を立てる。
そうしている間に○○は思考を巡らし、脳内で狂ってしまった計画を修正する。
少し冷静に考えてみよう。
元々はリリーと距離を置く為に湯船から出たのだが、そもそもの目的はそれでは無い。
股間の滾りを見られない為に湯船から出たのだ。
それは今のように背をずっと向けていればバレる事は無い。
つまり何も問題は無いのだ。
そう結論付けると、○○は自身を落ち着かせる為に一つ大きな息を付いた。
「じゃあ、洗いますよ〜?」
「あ、ああ……頼む」
いきなり声を掛けられ、思わず声が裏返りそうになった。
いや、別に驚く様な事ではないのかもしれないが、今の○○にはリリーの一挙一動に思わず反応してしまう。
だが、それではいかんと心の中で気合いを入れる。
背中に少し暖かいふわふわとした物が触れた。
恐らくタオルで立てた泡だろう。
そしてタオルが背中に触れ、上下に擦り始める。
「んしょ……んしょ……」
……これは中々気持ち良い。
ただ背中を洗ってもらうという事がここまで気持ち良いものだとは思わなかった。
普段ではそこまでしっかり洗えない部位だからかもしれないが、体の汚れがいつもより取れている気がする。
ふと、子供の頃に自分がこうやって父親の背中を流していた事を思い出した。
なるほど、確かにこうして背中を流してもらえると気持ちも気分も良い物だ。
父親が少し嬉しそうにしていたのも頷ける。
――などと感慨に浸っている内に背中を洗い終わったらしい。
タオルが背中から離れる。
「ありがと、後は自分で洗うよ」
背中を洗うのに使っていたタオルを受け取ろうと、前を向いたまま後ろに手を出す。
しかし、その手にタオルは渡ってこなかった。
疑問に思って後ろを振り返ろうとした時、突然○○の脇の下から手が伸びてきた。
そのまま○○の胸へと手が伸びる。
(え、ちょ……えっ!?)
いきなりの事に体が固まってしまう。
今の状況を理解しようと努めるが、脳が働かない。
未だ混乱の中にいる○○を気にもせず、リリーは泡に塗れた手を這わす。
「ふふ、前も洗ってあげますね……」
泡によって一切の抵抗を感じさせないリリーの手は○○の胸の上を這いまわる。
胸だけでなく腹、脇腹、脇下、鎖骨、首――そして乳首。
指先で滑らせるようにしてそれらを愛撫し、○○を焦らすように擽る。
その微弱な快感から思わず鳥肌が立ってしまう。
特に乳首を愛撫する手つきは他の部位と比べて明らかに緩慢で執拗だ。
その泡だらけでヌルヌルする手を駆使して乳首を軽く摘む、引っ掻く、抓る、弾く、こねくり回す。
今までのムズかゆい様な快感と明らかに違うゾクゾクとした快感が背筋を走る。
思わず声が出てしまいそうになるが、必死に耐える。
歯を食いしばり、全身を強張らせ、体を軽く丸めて耐えようとする。
それでもやはり唸るような呻き声が出てしまう。
「や、やめ……」
思わず制止の声を上げようとした。
しかし耳元でささやかれる甘美な響き、背中に押し当てられる柔らかい二つの感触によって理性が溶かされる。
それに代わって○○の中の本能、性欲、煩悩がもたげてきた。
結果、○○は制止の声を上げられなかった。
いや、溶けだした理性が声を上げないという事を『選んで』しまった。
○○は反抗するという事を放棄してしまったのだ。
「クス……どうですか……気持ち良いですか〜……?」
それが分かったのかリリーが耳元で挑発するかの様に囁く。
その甘く蕩けるような声は○○の理性を更に溶かす。
○○は何も答えない。
いや、答えられないのだ。
もし答えようとして声を出そうとした瞬間、口から情けない声が出てしまう――そんな気がしたのだ。
もはや○○はほんの僅かに残された理性で自我を保っていた。
だが、リリーの行為は胸を押し当てるだけに留まらなかった。
体を上下に揺らし、胸と股の部分を擦りつけてくる。
押し付けられている胸の先端に固い感触と、股を擦りつけられている部分にお湯とは違うぬめった液体が滴っているのをうっすらと感じられた。
同時に、艶っぽい吐息を耳へかける。
そしてリリーはトドメとばかりに、次の行動を起こした。
胸に這わしていた手を下へと滑らしていく。
腹を通過してさらに下部へ。
今まで意図的に避けていた部分――○○の陰茎へと手を伸ばす。
そこはもはや――当然と言えば当然だが――問答無用に怒張していた。
「ふふ……凄く固くなってますね……」
リリーがうっとりとした声を漏らし、目を細める。
そのまま右手の指をつぅー、と先程していたように軽く這わす。
ただそれだけの事なのに、○○の体は大げさに見えるほどに痙攣した。
いや、それも無理はない。
先程まで体の至る所を愛撫され、焦らされていたのだ。
その敏感になった状態で、体の中で一番敏感と言っても良い部分を愛撫されたのだ。
声を出さないだけでももの凄い事である。
「ふふっ……ビクビクしてます……可愛い」
目を強く瞑り、口から苦悶が混じった息が漏れた。
だが、そんな事にはお構いなしにリリーの責めは続く。
右手の指はくすぐるかの様に裏筋を這い、亀頭へと到着する。
そのまま来た道を戻り、往復する。
それを何度か繰り返した後、亀頭で手を止めた。
先程乳首にしたように――いや、それ以上にネットリとした手つきで亀頭を愛撫する。
人差し指と中指で亀頭を挟み、指を軽く曲げる。
そのままの状態で上下させ、亀頭とカリの部分を刺激する。
手首を動かし掌で亀頭を擦る。
かと思えば○○の陰茎を掴み、軽く上下に扱き始めた。
順手だけでなく逆手に持ち、捻る様に擦り上げる。
一方の左手は相変わらずねっとりと乳首を責め続ける。
責めが片手になったからと言ってその勢いは衰える事は無い。
だが、左手の責めもそれだけでは終わらなかった。
左手も愛撫する部分を徐々に下に下げていく。
擽る様に指を動かしながらゆっくり、ゆっくりと。
脇腹を通り、太股、内股と愛撫する部分を移す。
そして○○の最も重要かつ脆弱な部分――つまり陰嚢へと手を伸ばした。
掌を陰嚢を包み込むようにあてがい、五本の指で弄ぶ。
指の腹で擽る様に愛撫し、睾丸を転がす。
そして痛みを感じない絶妙な力加減で陰嚢を揉みほぐす。
薄い皮で出来た部分を弄られ、陰茎を弄ばれるのとはまた違うぞわぞわとした快感が全身に広がる。
そして左手は再び乳首へと戻り愛撫を再開する。
両手による責めは様々な動きを織り交ぜている為、動きが全く読めない。
それでいて、○○の弱点を完璧に突いた責めである。
リリーにとって、彼の弱点など完全に熟知している事なのだ。
並みの男ならば悶絶しても仕方のない責めに晒されながらも、彼は未だに声を上げていなかった。
それは最後の一握り――ほんの僅かに残された理性がそれは駄目だと訴えているからだ。
今の○○の理性は、リリーにそんな情けない所を見せたくないというプライド、矜持、気概、エゴ――そんなような物で出来ている。
もし喘ぎ声の一つでも上げてしまったら、そんな理性は一瞬にして崩れてしまう。
だからこそ、○○は今までそのほんの僅かな理性に縋ってここまで耐えてきたのだ。
リリーが唇を耳に触れそうな距離まで近づける。
「我慢しなくても、良いんですよ〜……」
だがこの脳を直接揺さぶり、蕩けさせるような甘美な声。
浴室の中に響明らかに泡の所為ではないにちゃにちゃ、という音。
それらは奇跡的ともいえるバランスを保っている理性を激しく揺さぶる。
そして全身に隈なく与えられる快感。
その快感はまるで毒の様に○○の体を、思考を、理性を侵食していく。
激しく揺さぶられる理性の中で○○は考える。
何故自分はここまで意地になって耐えているのか、と。
確かに彼女に自分の情けない姿を見せたくないという気持ちはある。
だが、これはただの恋人同士のスキンシップではないだろうか?
一緒にお風呂に入り、体を触りあって淫らな事をする。
恋人プレイではよくある事である。
どの道このままでは速かれ遅かれ自分は限界を迎えてしまうだろう。
ならば自分は快感に身を委ねてしまっては良いのではないだろうか?
こんな辛い思いをして我慢する事は無いのではないだろうか?
一瞬そんな逃避染みた思考がよぎった時――
「あ、むっ――」
「――!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
まず分かったのは、耳の違和感。
暖かい感触と柔らかい感触。
それに遅れてヌルヌルとした感触を感じた。
先程までの状況と、今のこの感触から導き出される結論は一つ。
リリーが○○の耳を唇で啄ばんだのだ。
そして舌で彼の耳を舐る。
外耳に舌を這わせ、内側へと向かってニュルニュルと蠢かす。
完全に予想外の方向からの感触に、○○の集中は乱れてしまった。
「ひ、ぁ――」
自分で気付いた時にはもう遅い。
○○は声を上げてしまった。
その瞬間、彼のプライドが、矜持が、気概が、エゴが、僅かに残されていたそれら理性が――瓦解した。
「やっと声を聞かせてくれましたね……」
リリーは嬉しそうに小さく笑った。
まるで天使の様な笑み――だが○○には人間を堕落へと誘う淫魔の笑みに感じられた。
今の○○にリリーの責めを耐える力などもはや残されている訳など無かった。
口から情けない声が出る。
体が滑稽なほど痙攣する。
全ての動きが脳を介さない。
もはやそれらの行動は無意識――脊髄反射で行っていた。
今まで我慢していた反動だろうか、感じる快感も桁違いであった。
脳内の思考が快感によって焼き切られる。
その圧倒的――暴力的とも言える快楽は瞬く間に○○を限界へと押し上げていく。
○○が絶頂に達するのはそう遠くない事であった。
限界が近い事を察したのか、リリーの責めもラストスパートに入る。
乳首を弄っていた左手も陰茎へと伸ばし、両手で○○のそれを陵辱する。
右手だけでもとてつもない快感を生み出すと言うのに、そこに左手が加わったらどうなるだろうか?
そんな事は言うまでも無いだろう。
遂に○○が掠れた声を上げた。
「――で、出る……ッ!!」
「――ぷは……良いですよ、いっぱい出してください……」
その言葉が止めを刺した。
長い時間抑圧されていた欲望が解き放たれる。
雄として最高の快感が身体を襲い、全身を痙攣させる。
「あっ、すごい……○○さんの精液、熱いです……」
その迸りを見て、リリーは熱に浮かされた様な声を漏らした。
陰茎を扱いていた左手はいつの間にか亀頭を覆いかぶさるように添えられ、精液を全て受け止めている。
白濁によって名前の様に白い掌が穢されていく。
一方の右手は未だに射精を促す様にゆっくりと陰茎を扱いていた。
時折身体を蝕む快感で無意識に身体が慄き、思わず情けない声が出る。
身体の慄きに連動するかのように陰茎が脈動し、精液を放出する。
やがて快感は収まっていき、浴室の中には○○の荒い息遣いだけが響く。
「ふふっ、いっぱい出しましたね……気持ち良かったですか?」
リリーは小さく笑いながら左手に付いた精液を弄ぶ。
左手の指を動かす度ににちゃにちゃ、と卑猥な粘ついた音が立ち、指の間に糸を引く。
○○に見せつけるように彼の前でしばらくそれを弄んだ後、水桶に入っていた水でそれを洗い流した。
「それじゃあ、体を流しますね」
桶で風呂のお湯を掬い、○○の体に掛け泡を流していく。
だが、そこでリリーはある異変に気付いた。
「……○○さん?」
先程から○○の反応が無いのだ。
少し前までは責めと射精の快感に晒されて肩を上下させる程荒い息遣いをしていたのだが、今ではそれも収まっている。
○○の様子を窺う為にリリーが顔を覗き込もうとしたその時――
「リリィィィ……!!」
呻くように、唸る様に、まるで地獄から這い上がってくるような声。
とても生き物が発すると思えない声を聞いて、リリーの体は思わず硬直する。
背中に冷や汗が流れ、唾を飲み込む。
ゆっくり……ゆっくりと、まるで壊れかけのおもちゃの様にゆっくりと○○が顔をこちらへと向ける。
その顔に張り付いていたのは笑顔。
だが、目は全く笑っていない。
肉食獣の様に口角を釣り上げ、歯をむき出しにしているだけの笑顔。
元来、笑顔とは獣が相手を威嚇するものだったらしい。
歯をむき出しにし、自分の力を誇示していたのだ。
今の○○の笑顔はそれを体現していると言っても過言では無かった。
「あは、あはははは……」
リリーの口から思わず乾いた笑い声が出る。
生き物としての本能が危険だと警鐘を鳴らす。
先程までの情事で火照っていた身体から熱がサーッと引いていくのが分かった。
「そ、それじゃあ私はそろそろ出ますね!!」
竦んで動かなくなりそうな身体を鼓舞してなんとか動かし、桶で自分の身体にお湯を掛ける。
そのまま風呂場から退散しようとしたが――。
「ちょっと待ったぁ……!!」
それよりも速く、○○がリリーの手を掴んだ。
思わず動けなくなってしまったリリーの体を、風呂場の壁へと押し付ける。
結露した水が滴る壁に背中を押しつけられ、その冷たさにリリーの肌が粟立った。
絶対に逃がすまいと○○はリリーに覆いかぶさるように壁に手を付け、先程から凄惨な笑みが貼りついている顔をリリーのそれに近づけた。
「折角気持ち良くしてもらったからな……こっちもお返しをしねぇと」
「い、いえ、良いですよそんな……」
「そう遠慮すんなよ……!!」
「え、○○さ……ひゃ、んっ!!」
突然リリーの口から嬌声が漏れた。
○○がリリーの秘所へと指を突き入れたからだ。
○○の背中にそこを擦り付けている時点で愛液を滴らせていたリリーの秘所は、何の抵抗も無く○○の指を受け入れた。
「○、○○さん……ダ、ダメです、よぉ、あっ」
「何が駄目なんだ?こんなにグチュグチュにしてよぉ?」
○○は指で責めながら嗜虐的な笑みを浮かべる。
まるで先程の仕返しだと言わんばかりだ。
リリーは悩ましげに眉を八の字に寄せ、快感に必死に耐える。
身体を軽く曲げ、秘所に伸びている○○の手を掴み、太股を閉じるなど必死の抵抗を試みようとする。
しかし、快感の為かそれらの行為には全く力が入っていない。
むしろ男を誘っているようにも見える。
いや、もしかしたら無意識の内に誘っているのかもしれない。
それを見て○○の中の嗜虐心と獣欲がより燃え上がる。
欲望の赴くまま、○○は責めを継続する。
伊達に長い付き合いをしている訳ではない。
リリーが膣内のどこで一番感じるかなど熟知し切っている。
その部分を中指と人差し指でひたすら淡々と愛撫する。
決して激しい攻めでは無い。
だが、リリーは確実に上へと押し上げられていく。
彼女が嬌声を漏らし、よがる具合を見て思わず喉からクックッと笑いが漏れる。
快感で力が入らないのか、リリーが○○の腕に縋りつく様な形になった。
崩れ落ちないように支えながらも、指による責めは止めない。
段々と腕を掴む手の力が強くなり、体が小刻みに震え始めた。
どうやら絶頂が近いらしい。
悩ましげに潤う瞳を○○へと向ける。
「も、イ、イッちゃ、んあっ」
「良いぜ、そのままイッちまえ」
トドメとばかりに先程自分にされたように、リリーの耳を唇で啄ばんだ。
自分にされた事を返すかのように舌で彼女の耳を舐る。
外耳に舌を這わせ、内側へと向かってニュルニュルと蠢かす。
鳥肌が立つようなぞわりとした快感。
背筋に電流の様なものが走る。
それが決まりだった。
「ふぁ、あ、あああぁぁ――!!」
全身を包み込む絶頂の快楽に震わせる。
膣内が指を陰茎と錯覚し、もっと奥へ導こうと収縮し蠢く。
立っていられなくなったのか、リリーが○○の方へと崩れるように寄りかかる。
○○はその身体をしっかりと抱きしめた。
リリーは未だ快感の海を揺蕩い、時折身体を小さく震わせる。
震えと一緒に口から小さく嬌声が漏れる。
やがてその快感の波も引いていき、先程とは逆にリリーの荒い息遣いだけが風呂場に響く。
その時○○がリリーの耳元へ口を近づけ、何かを囁いた。
「このままじゃ湯冷めしちまうからな……だから――」
一旦そこで言葉を切る。
そして再び嗜虐的な笑みを浮かべながら、楽しそうに言った。
「だから、続きは風呂の中でだ……」
続き――それが何を意味するかは言うまでも無い。
未だ快感の余韻に浸ってどこか朦朧としているリリーにその言葉が届いたかは分からない。
それでも、何をしようとしているのかという事を本能で理解できたらしい。
蕩けた笑みを浮かべながら、小さく「ハイ」と答えた――。
風呂場の中に弾ける様な水音が響く。
その音の出先は浴槽の中だ。
浴槽の中では○○が縋るように抱きついているリリーを抱きしめながら、キスを交わしていた。
じゃれ合うような軽いキス。
唇同士を合わせ、舌先をほんの少しだけ触れ合わせる。
息継ぎの瞬間に唇を離すが、すぐに再び重ねる。
それを何度も繰り返す。
正直なところ、この状況になってこんなキスでは少し切ない。
だが、今の二人にはその切なさでさえ興奮を高まらせるには充分だった。
キスを交わしながら、○○はリリーの身体に手を這わせる。
肩口、肩甲骨、背中を通り脇腹、お尻。
これまた先程されたお返しとばかりにねっとりとした手つきで手を這わしていく。
そのもどかしい快感にリリーの鼻から悩ましげな吐息が漏れる。
名前と同じく白く透き通るようなリリーの柔肌はとても滑らかで、ただ指先で擦っているだけなのに○○の興奮はより高まった。
一通りリリーの身体を楽しんだ○○は、再び手を背中へと戻していく。
そこにあるのは妖精特有の向こうが透けて見える位薄い羽。
その羽の付け根へと手を伸ばす。
羽の付け根、そこがリリーがよく感じる部位だと言う事は今までの経験で分かり切っていた。
付け根の輪郭に沿って指を這わす。
やはり感じるのか、思わず唇を離し嬌声を漏らした。
自分の行為によって愛しい恋人がよがってくれている。
男として最高級の幸せだ。
同時にまた新たな欲望が湧いてくる。
この愛しい恋人をもっとよがらせたい、自分色に染め上げたい。
ひたすらに押し隠していた野性が姿を現す。
――理性よ、もう良いんじゃないか?
――理知的に彼女を愛で、その反応を楽しむのも良い
――だが、もっとヤりたい事もあるんじゃないのか?
――彼女が欲しい、彼女を味わいたい、彼女を自分の物にしたい
――そうだろう?
――だったら今すぐに俺と代われよ。
その野性の要求に理性は――ハイタッチで快く応じた。
○○は空いている手をリリーの後頭部へと持っていく。
そしてぐい、と自分の方へと抱き寄せ、唇を重ねた。
しかし、その強さは先程までのそれとは違う。
唇でリリーのそれを啄ばみ、舌を彼女の口内へと侵入させる。
いきなりの事に、リリーの身体がビクリと震えた。
○○の肩を掴んでいる彼女の手に力が入る。
健気にも○○の行為を受け入れようとする姿に、○○の獣欲は更に膨れ上がる。
先程までの唇を触れ合わせるだけの軽いキスとは違う。
舌と舌を絡め、唾液を啜り、相手を貪ろうとする濃厚なキス。
リリーの口内に侵入した○○の舌は、本来の持ち主の意を一切介さず陵辱する。
歯茎に舌を這わせ、頬裏を擦り、上顎を舐め上げる。
思わずくぐもった嬌声が上がる。
だが、そんな事は関係ない。
お構いなしに○○はリリーの舌に自分のそれを絡ませ、弄ぶ。
そこに彼女の意思は一切無い。
リリーに出来る事は、ただその快感に晒され続ける事だけである。
激しいキスの所為か、お互いの口周りが唾液でベトベトになる。
時折口端から流れ出た唾液が喉を伝わって下へと流れていった。
しばらく、その濃厚なキスは続いた。
不意にリリーの身体が少し大きく震えた。
どうやら軽く達してしまったらしい。
それに満足したのか、○○は彼女の後頭部に回していた手の拘束を解いた。
お互い、不足した酸素を求めて激しく喘ぐ。
突き出された舌先同士を繋ぐ銀色の糸が、行為の濃厚さを物語っていた。
潤んだ瞳、上気した頬、艶めかしい吐息、とろんと蕩けた表情、どうやら『出来上がって』きているらしい。
リリーのそんな姿を見て、○○の背中にゾクゾクとした物が走る。
そのゾクゾクした物は興奮へと変わり、股間に溜まっていく。
一度欲望を放出したというのに、○○の陰茎はもう既に立派な姿になってた。
いや、むしろ先程よりも立派かもしれない。
己の滾りをリリーの太股へと擦りつける。
「ぁ……すごく元気ですね……」
彼女は小さく嬉しそうな声を漏らした。
太股を動かし、自らも陰茎に擦りつける。
亀頭が太股で擦れると、凄まじい快感が○○を襲った。
油断していたら情けない声を出していた事だろう。
姿勢を直すふりをして、太股から陰茎を離した。
改めてリリーの顔を見る。
その表情は何かを期待しているのが明らかだった。
○○は小さく笑い、口を開いた。
「……いいか?」
「はい……」
リリーが少しだけ身体を浮かす。
狙いを定める為に掴まれた感触で陰茎がビクリと跳ねる。
鎌首をもたげている○○の陰茎は早く楽にしてくれと苦しげに震える。
そんな様子を見てリリーはクスッと小さく笑った。
「それじゃあ、挿入(い)れますね……」
亀頭を自分の秘所へあてがい、小さく息を吐く。
そして、ゆっくりと腰を下ろし始めた。
陰茎がリリーの秘所へと飲み込まれていく。
既に快楽に浸っているのか、リリーは喉を反らし甲高い嬌声を漏らした。
陰茎が温かい感触に包まれる。
正直、今の状態でも十分に気持ちが良い。
だが、これで終われる訳が無い。
リリーも気持ちは同じようだ。
快感に顔を蕩けさせながらも何かをねだる様にこちらを見つめてくる。
「分かったよリリー……」
軽いキスを交わすと、○○はゆっくりと腰を動かし始めた。
まずはゆっくりと――お互いの性器の感触を味わうように。
陰茎を突き入れようとすると膣内がより奥へと導こうと蠢き、逆に引き抜こうとすると引き戻そうと蠢く。
ハッキリ言って凄まじい快感だ。
油断すればあっという間に果ててしまいかねない。
心の中で一度気合いを入れる。
少しずつ腰の動きを速くしていく。
じゃばじゃばと湯船に波が立ち始める。
外に溢れて少し水位が下がってしまうが、知った事ではない。
最初は○○だけが腰を動かしていたが、やがてリリーも無意識の内に動かし始めた。
二人同時に腰を動かすので、当然相対速度と言う物が生じる。
つまり、一人で腰を動かしていた時よりもより激しく膣内で性器同士が擦れ合うと言う事だ。
その勢いのまま亀頭が子宮を突く。
するとリリーがひと際大きい嬌声を上げた。
どうやら性感帯らしい。
しばらくそこを重点的に責めていたが、段々とリリーの動きが鈍くなってきた。
ビクビクと身体を痙攣させながら、○○の首に回した腕をギュッと締める。
リリーが涙と涎でグチャグチャになった顔を上げた。
「だ、ダメで、あんっ、き、気持ちよ過ぎ、でぇ……!」
どうやら感じ過ぎてしまって動けなくなってしまったようだ。
膣内の擦れ合いは平常速度に戻る。
だが、先程までの激しい速度を知ってしまった○○にはこの速度はもう物足りない。
ならば仕方が無い。
自分ひとりしか動けないのなら――。
「もうリリーは動かなくて良いよ」
「ふぇ……?」
「俺がもっと動くから」
――自分が倍動けばいいのだ。
有無を言わさず○○はリリーの身体を強く抱きしめる。
無論、逃げられないようする為だ。
リリーの身体をガッチリと固定すると、○○は限界ギリギリの速度で腰を動かし始めた。
「えっ、○○さ、やめ、ああっ!!」
あまりの快感の所為かリリーがイヤイヤと頭を振る。
だが、その行為も○○の獣欲を満たす事にしかならない。
段々と頭がぼぅとしてくる。
全力で腰を動かしている所為だろうか?
このままだと逆上せてしまうかもなぁ、と頭の中でどこか冷めた思考がよぎる。
そんな事を考えながら前を向くと、リリーが顔をこちらに向けていた。
彼女の口からは嬌声しか出ていない為、何を言っているのか分からない。
だが、何かを伝えようとしているらしい。
口がある形を描く。
○○にはそれが聞こえた気がした。
――キ、ス、シ、テ。
冷めた思考が出来る程度に残っていた理性も投げ捨てた。
そんな物最早必要無い。
リリーの頭をグイと引き寄せ、唇に吸い付く。
責めや受けなど一切関係ない。
お互いがお互いを貪るように求めあう、そんなキスだ。
理性を捨てた為だろうか、一気に射精感が込み上げてくる。
それはリリーも一緒の様だ。
膣内も激しく痙攣し、絶頂が近い事を知らせる。
「も、もう……イッちゃ、あぁ……!!」
「良いぜ……イッちまえ……!!」
トドメとばかりに渾身の強さで突いた。
その瞬間――。
「ひゃ、あ、あ、あぁぁぁ――ッ!!」
絶頂を迎えた。
それに連動して膣内が激しく収縮する。
精液を搾り取る事に特化したその動きに○○が耐えられる訳も無かった。
膣内の一番奥深くで、○○は欲望を放出した。
極楽――そう表現しても間違いではないだろう。
男が体験しうる最高級の快楽。
そのあまりの快感に喘ぎ声が漏れる。
無意識に慄く腰の動きに合わせて欲望を続けて放出していく。
射精が収まっても、リリーの震えに合わせて収縮する膣によって射精直後で敏感な亀頭を刺激され、残った欲望を放出するという事をしばらく繰り返した。
やがてそれも完全に収まると、○○は忘れていたかのように酸素を求めて大きく喘いだ。
正しく全力疾走をした後の様な状態だ。
顎を大きく引いて酸素を求める。
なんとか呼吸を整えてリリーを見ると、ぐったりと○○にしなだれていた。
少し無理をさせ過ぎてしまたかもしれない。
あとでリリーに謝ろうと自戒する。
一度リリーの身体を抱え直し、楽な体勢にしてやる。
「リリー……?」
「ぁ……○○さ……ん……?」
返事があった。
とはいえほとんど茫然自失の様な状態らしい。
目の焦点が合っていない。
だが、そこに映っているものは何かは分かったらしい。
○○に向けて力無くふにゃ、とした笑みを浮かべる。
「ごめんな……」
優しく頭を撫でる。
「本当にごめんなリリー……」
「良いですよ……ちょっとびっくりしましたけど……」
○○は己の行いを猛省していた。
いくら最初に良い様に弄ばれて、その反動で仕返しをしまくったとは言ってもやはり限度と言う物がある。
今度からはそれをしっかりしなければ――。
心の中で固く誓う。
しばらく○○の胸の中で幸せそうに余韻に浸っていたリリーだったが、何か思いついた様だ。
おずおずと顔を上げた。
「あ、あの……○○さん」
「ん、どうした?」
「今日ってすごく寒いじゃないですか?」
「ああ、そうだな」
「多分お布団とかもすごく冷たいと思うんですよ」
「まあ、そうだな」
寒い日の風物詩である。
あとであの寒い布団の中に足を突っ込まなければならないと思うと軽く気が滅入る。
「だ、だから……一つのお布団で一緒に寝れば寒くないと思うんですよ」
「……」
この状況下で一緒に寝ると言われるとどうしても邪な考えがよぎってしまう。
いや違う、これは言葉通りの意味だ、他意は無い。
だと思っていたのだが――。
リリーの顔は明らかに赤くなっており、その瞳の光はどう見ても男を誘うそれであった。
つまり、そういう事なのだろう。
「……どうなっても知らんからな」
リリーが被虐の悦びに満ちた笑みを浮かべた――気がした。
その笑みで○○の中の獣欲が再び目覚め始める。
先程の決意がちゃんと守れるか、一抹の不安を覚える○○であった。
雪が降り荒ぶ春の寒い日。
だが、彼らの熱い夜はまだまだこれからのようである――。
メガリス Date:2012/05/06 19:14:34
[[SS : リリーホワイト]へ戻る
冬の寒さは春分まで、夏の暑さは秋分まで――という事を昔の人々は言っていたのである。
なるほど、確かにその言葉には頷かざるを得ない。
春分を過ぎてからは暖かい日が多くなり、寒さが気にならなくなってきた。
だが、それでも例外はある。
春分を過ぎたとしても、やはり寒い日が訪れる訳で。
雪が舞う事も珍しいのだが、決して無い訳ではない。
それがその珍しい日な訳で――。
「……すげぇ吹雪いてるな」
家事の合間、ふと外を見た○○は感嘆と呆れと辟易が混じった声を漏らした。
窓の格子の間から外の景色がハッキリと見て取れた。
空は灰色に曇っており、白い雪が勢いよく吹雪いている。
午前中はあんなに快晴だったというのに。
どこかで寝ボケた冬の妖怪が張り切っているのだろうか?
そう思わないと説明が付かない程の天気の豹変振りであった。
きっと午前中の様子で気を抜いた人々は今頃酷い目に合っているだろう。
その事で、○○の中で一つ気掛かりな事があった。
「あいつ……大丈夫かな……?」
朝、意気揚々と出かけて行った愛しい恋人――春告精であるリリーホワイトの事である。
春を伝える為に出かけて行った彼女だが、まさかこんな吹雪に遭うとは思ってなかっただろう。
流石に死ぬ事は無いと思うが(妖精に死ぬという概念は無いのだが)リリー自身が吹雪に慣れていないという事がある。
それを考えると少し不安になった。
だが、だからと言って何かが出来る訳ではない。
探しに行こうにもリリーがどこに居るか分からないからだ。
○○に出来るのは、ただこの家で彼女の帰りを待つ事だけだ。
それでも、家の中でなら出来る事もある。
「……あいつの為に風呂でも立てておいてやるか」
きっと家に帰ってきたリリーは酷く凍えている事だろう。
ならば、それを温めてやれる準備はしておいた方が良いかもしれない。
問題はその風呂を沸かす為に外に行かなければいけないという事だが……。
「まあ、あいつが寒い思いするよりはマシかな……ハァ」
この吹雪の中外に出ると言うだけで億劫だが、それでも○○は気合いを入れ己を叱咤し、外へ出た――。
その後吹雪は止む事無く、幻想郷は夜を迎えようとしていた。
寒い中風呂も沸かし終えた○○は夕飯の準備をしていたが、それでもやはり気掛かりなのはリリーの事である。
いつもならこの時間辺りには帰って来ているものなのだが……。
やはり今日の吹雪が原因なのだろうか?
「……本当に大丈夫か……?」
ここまで来ると流石に心配の度合いが強くなってくる。
危険なのを承知で探しに行こうか本気で考えている時――。
「ただいまでず〜……」
戸を叩く音と共に聞こえた声。
間違いない、これはリリーの声だ。
それが分かると今まで背負っていたような重圧がふっと消え、安心が胸に広がる。
「おう待ってろ、今開けてやるから」
そう言い、急いで止め木を外し戸を開ける。
「……こりゃ、随分な有様で」
ある程度の惨状を覚悟していた○○だったが、それでもこの状況には呆れが混じった笑いを浮かべるしかなかった。
肌が露出している顔や手は真っ赤になっており、衣服にも沢山の雪が積もっていた。
どうやらかなり長い間この吹雪に晒されていたらしい。
体も小刻みに震えている。
「う゛う゛う゛ぅぅ〜、寒かったでずよぉぉ……!!」
「あー、よしよし頑張ったな」
涙目になりながら泣きそうな声を上げるリリーに労いの言葉を掛けながら、頭や肩に積もった雪を払ってやる。
そして払うついでに頭をワシワシと撫でてやる。
「外寒かったろ? 風呂立ててあるから入ってこいよ。あったかい飯も用意しといてやるからよ?」
「あ……」
○○が頭を撫でるのを止め、元々居た台所の方を向いた時リリーは何故か残念そうな声を漏らした。
しかし、それには気付かず台所へ戻ろうとした時――。
「あ、あの……」
「――ん?」
リリーが○○の服の裾を軽く掴んでいた。
いつもと違う様子を○○は不思議に思い、彼女の方に向き直る。
「どうしたんだ?」
「あの……その……」
○○は軽く屈み、リリーと目線を合わせる
すると彼女は胸の前で指を弄って俯いてしまった。
気のせいか顔が先程よりも赤い気がする。
「なんだよ、言いたい事があるなら言えよ」
彼女を安心させるために笑顔を浮かべる。
リリーは俯いたりこちらをチラチラ見たりと視線が定まらなかったが、意思が固まったのだろうか。
おずおずとこちらを見上げてきた。
「あ、あの……よ、良かったら一緒に……」
「ん? 一緒になんだ?」
「……一緒にお風呂に……は、入りませんか……?」
風呂は命の洗濯とよく言う。
日ごろの束縛や苦労から解放されて、のんびり気ままに過ごせる時間というのは貴重なものだ。
こんな雪の降っている様な寒い日には、温かい湯船で強張った筋肉を解し、ゆっくりと温まりたいところである。
――こんな状況でなければ。
「……なぁ、リリー」
「ん〜、なんですか〜?」
「なんでこんな事になってるんだろうな?」
「こんなって、どんな感じですか〜?」
「一緒に湯船に浸かってる事だよ!!」
そう、○○はリリーと一緒に湯船に浸かっていた。
理由など簡単だ。
リリーに一緒に入らないかと誘われたからである。
いくら恋人だからといって一緒に風呂に入るのはいささか抵抗がある。
だからやんわりとそのお誘いを断ろうとしたのだが――。
(あんな顔されたら断れないよなぁ……)
何時の時代でも、何処の場所でも、男は女の子の泣き顔には弱いものなのだ。
あんな上目遣いでお願いをされて、あんな悲しそうな顔をされて断れる男などそうはいないだろう。
結局は○○が折れる形になり、現在に至る。
しかし、冷静に考えてみればなんて事は無い。
自分はただ彼女と一緒に風呂に入っているだけなのだ。
裸体を見るのも何度も愛の営みをする時に見ているので初めてではない。
そう、つまり何も焦ることなどないのだ。
○○は自分にそう言い聞かせ、落ち着こうとする。
が、人間そんな事で平静でいられるのなら苦労しない。
いつもは腰まで伸びる艶やかな髪をアップにしている為、見えるうなじ。
透き通るように白く、華奢な肩口。
揺らめきながら見える妖精の体格にしては豊かな膨らみを誇る胸と、その先端の桜色の蕾。
意識しなくても無意識に目に入ってしまうその光景に、思わず○○の心拍数は上がっていく。
(う……やばっ――)
しかし、今の状況が続くのは非常にまずい。
その理由は今の二人の体勢にある。
リリーは今湯船の中で○○にもたれ掛っている状態である。
彼の体を椅子の背もたれのようにしていると言えば分かりやすだろうか。
つまり、リリーのお尻が○○の股間付近に来る事になる。
そして先程から目に飛び込んでくる光景である。
自分でも股間に血が集まっていくのが分かった。
だが、このまま自分の竿が臨戦態勢になってしまうとリリーにそれが当たってしまう事になる。
それだけは絶対に避けなければならない。
特に問題は無いかもしれないが、男の矜持を守るために何としても避けなければならなかった。
興奮と焦りで茹で上がりそうになっている頭で必死に打開策を考える。
そんな○○の苦悩も知らず、リリーは軽く体を揺らしながら鼻歌を歌っている。
その余裕っぷりに○○は思わず恨めし気な気分になる。
これでは必死になっている自分だけが滑稽ではないか。
しかし、そんな事を思っても事態が改善される訳もない。
興奮と焦りが頂点に達しようとしたまさにその時、○○に電流のように現在の状況の打開策が流れ込んできた。
「じゃ、じゃあ俺は体洗うかなっ!!」
そう、風呂の外に出て、興奮が冷めるのを待つという作戦である。
冷静に考えればごく普通の考えと言えるかもしれないが、今の○○はその考えが浮かんだ事が奇跡とも言える程逼迫していたのだ。
股間の辺りをさり気なく手で隠しながら湯船から上がる。
大丈夫だ、問題無い。
心の中で思わずガッツポーズをとる。
そしてとりあえず体を洗う為に椅子に座った時――。
「あ、じゃあ背中流しますよ〜」
(な、ん、だ、とぉ!?)
予想外の状況に思わず心の声がそのまま声に出そうになったが、なんとかそれを抑える。
背中を洗ってもらう、それは問題無い。
それはリリーの純粋な好意である、それも分かっている。
ここは是非ともその申し出を受けたいところである。
……こんな状況でなければ。
リリーに股間の滾りを悟られないようにせっかく離れたというのに、また近づかれては本末転倒だ。
「い、いやいいよ!! 外寒かっただろ、もう少しゆっくり浸かって温まってろよ」
「もう充分に温まりましたよ〜? それにお風呂を立ててくれた○○さんにお礼もしたいですし」
「あ、いや、でもな……」
リリーの顔に少し困惑を疑問が混じった色が浮かぶ。
きっとなんでここまで必死になって断っているのだろうか、という事だろう。
正直、それを無視して強く言う事で断る事が出来る。
しかし、それはあまりにも不自然だし、なによりもリリーが寂しい思いをする事になる。
「……分かった、頼むよ」
結局○○が折れる形となった。
その言葉にリリーはぱぁっと笑顔を浮かべる。
「ハイ!! じゃあ、背中洗いますね」
そう言いながらリリーが湯船から出てくる。
出てくるときに色んな所が見えそうだったので、顔は背けておいた。
湯船から出てきたリリーは椅子に座っている○○の後ろにしゃがみこんだ。
そして近くに掛けてあったタオルを取り、軽く濡らして石鹸を擦りつけ始めた。
楽しそうに鼻歌を歌いながら、泡を立てる。
そうしている間に○○は思考を巡らし、脳内で狂ってしまった計画を修正する。
少し冷静に考えてみよう。
元々はリリーと距離を置く為に湯船から出たのだが、そもそもの目的はそれでは無い。
股間の滾りを見られない為に湯船から出たのだ。
それは今のように背をずっと向けていればバレる事は無い。
つまり何も問題は無いのだ。
そう結論付けると、○○は自身を落ち着かせる為に一つ大きな息を付いた。
「じゃあ、洗いますよ〜?」
「あ、ああ……頼む」
いきなり声を掛けられ、思わず声が裏返りそうになった。
いや、別に驚く様な事ではないのかもしれないが、今の○○にはリリーの一挙一動に思わず反応してしまう。
だが、それではいかんと心の中で気合いを入れる。
背中に少し暖かいふわふわとした物が触れた。
恐らくタオルで立てた泡だろう。
そしてタオルが背中に触れ、上下に擦り始める。
「んしょ……んしょ……」
……これは中々気持ち良い。
ただ背中を洗ってもらうという事がここまで気持ち良いものだとは思わなかった。
普段ではそこまでしっかり洗えない部位だからかもしれないが、体の汚れがいつもより取れている気がする。
ふと、子供の頃に自分がこうやって父親の背中を流していた事を思い出した。
なるほど、確かにこうして背中を流してもらえると気持ちも気分も良い物だ。
父親が少し嬉しそうにしていたのも頷ける。
――などと感慨に浸っている内に背中を洗い終わったらしい。
タオルが背中から離れる。
「ありがと、後は自分で洗うよ」
背中を洗うのに使っていたタオルを受け取ろうと、前を向いたまま後ろに手を出す。
しかし、その手にタオルは渡ってこなかった。
疑問に思って後ろを振り返ろうとした時、突然○○の脇の下から手が伸びてきた。
そのまま○○の胸へと手が伸びる。
(え、ちょ……えっ!?)
いきなりの事に体が固まってしまう。
今の状況を理解しようと努めるが、脳が働かない。
未だ混乱の中にいる○○を気にもせず、リリーは泡に塗れた手を這わす。
「ふふ、前も洗ってあげますね……」
泡によって一切の抵抗を感じさせないリリーの手は○○の胸の上を這いまわる。
胸だけでなく腹、脇腹、脇下、鎖骨、首――そして乳首。
指先で滑らせるようにしてそれらを愛撫し、○○を焦らすように擽る。
その微弱な快感から思わず鳥肌が立ってしまう。
特に乳首を愛撫する手つきは他の部位と比べて明らかに緩慢で執拗だ。
その泡だらけでヌルヌルする手を駆使して乳首を軽く摘む、引っ掻く、抓る、弾く、こねくり回す。
今までのムズかゆい様な快感と明らかに違うゾクゾクとした快感が背筋を走る。
思わず声が出てしまいそうになるが、必死に耐える。
歯を食いしばり、全身を強張らせ、体を軽く丸めて耐えようとする。
それでもやはり唸るような呻き声が出てしまう。
「や、やめ……」
思わず制止の声を上げようとした。
しかし耳元でささやかれる甘美な響き、背中に押し当てられる柔らかい二つの感触によって理性が溶かされる。
それに代わって○○の中の本能、性欲、煩悩がもたげてきた。
結果、○○は制止の声を上げられなかった。
いや、溶けだした理性が声を上げないという事を『選んで』しまった。
○○は反抗するという事を放棄してしまったのだ。
「クス……どうですか……気持ち良いですか〜……?」
それが分かったのかリリーが耳元で挑発するかの様に囁く。
その甘く蕩けるような声は○○の理性を更に溶かす。
○○は何も答えない。
いや、答えられないのだ。
もし答えようとして声を出そうとした瞬間、口から情けない声が出てしまう――そんな気がしたのだ。
もはや○○はほんの僅かに残された理性で自我を保っていた。
だが、リリーの行為は胸を押し当てるだけに留まらなかった。
体を上下に揺らし、胸と股の部分を擦りつけてくる。
押し付けられている胸の先端に固い感触と、股を擦りつけられている部分にお湯とは違うぬめった液体が滴っているのをうっすらと感じられた。
同時に、艶っぽい吐息を耳へかける。
そしてリリーはトドメとばかりに、次の行動を起こした。
胸に這わしていた手を下へと滑らしていく。
腹を通過してさらに下部へ。
今まで意図的に避けていた部分――○○の陰茎へと手を伸ばす。
そこはもはや――当然と言えば当然だが――問答無用に怒張していた。
「ふふ……凄く固くなってますね……」
リリーがうっとりとした声を漏らし、目を細める。
そのまま右手の指をつぅー、と先程していたように軽く這わす。
ただそれだけの事なのに、○○の体は大げさに見えるほどに痙攣した。
いや、それも無理はない。
先程まで体の至る所を愛撫され、焦らされていたのだ。
その敏感になった状態で、体の中で一番敏感と言っても良い部分を愛撫されたのだ。
声を出さないだけでももの凄い事である。
「ふふっ……ビクビクしてます……可愛い」
目を強く瞑り、口から苦悶が混じった息が漏れた。
だが、そんな事にはお構いなしにリリーの責めは続く。
右手の指はくすぐるかの様に裏筋を這い、亀頭へと到着する。
そのまま来た道を戻り、往復する。
それを何度か繰り返した後、亀頭で手を止めた。
先程乳首にしたように――いや、それ以上にネットリとした手つきで亀頭を愛撫する。
人差し指と中指で亀頭を挟み、指を軽く曲げる。
そのままの状態で上下させ、亀頭とカリの部分を刺激する。
手首を動かし掌で亀頭を擦る。
かと思えば○○の陰茎を掴み、軽く上下に扱き始めた。
順手だけでなく逆手に持ち、捻る様に擦り上げる。
一方の左手は相変わらずねっとりと乳首を責め続ける。
責めが片手になったからと言ってその勢いは衰える事は無い。
だが、左手の責めもそれだけでは終わらなかった。
左手も愛撫する部分を徐々に下に下げていく。
擽る様に指を動かしながらゆっくり、ゆっくりと。
脇腹を通り、太股、内股と愛撫する部分を移す。
そして○○の最も重要かつ脆弱な部分――つまり陰嚢へと手を伸ばした。
掌を陰嚢を包み込むようにあてがい、五本の指で弄ぶ。
指の腹で擽る様に愛撫し、睾丸を転がす。
そして痛みを感じない絶妙な力加減で陰嚢を揉みほぐす。
薄い皮で出来た部分を弄られ、陰茎を弄ばれるのとはまた違うぞわぞわとした快感が全身に広がる。
そして左手は再び乳首へと戻り愛撫を再開する。
両手による責めは様々な動きを織り交ぜている為、動きが全く読めない。
それでいて、○○の弱点を完璧に突いた責めである。
リリーにとって、彼の弱点など完全に熟知している事なのだ。
並みの男ならば悶絶しても仕方のない責めに晒されながらも、彼は未だに声を上げていなかった。
それは最後の一握り――ほんの僅かに残された理性がそれは駄目だと訴えているからだ。
今の○○の理性は、リリーにそんな情けない所を見せたくないというプライド、矜持、気概、エゴ――そんなような物で出来ている。
もし喘ぎ声の一つでも上げてしまったら、そんな理性は一瞬にして崩れてしまう。
だからこそ、○○は今までそのほんの僅かな理性に縋ってここまで耐えてきたのだ。
リリーが唇を耳に触れそうな距離まで近づける。
「我慢しなくても、良いんですよ〜……」
だがこの脳を直接揺さぶり、蕩けさせるような甘美な声。
浴室の中に響明らかに泡の所為ではないにちゃにちゃ、という音。
それらは奇跡的ともいえるバランスを保っている理性を激しく揺さぶる。
そして全身に隈なく与えられる快感。
その快感はまるで毒の様に○○の体を、思考を、理性を侵食していく。
激しく揺さぶられる理性の中で○○は考える。
何故自分はここまで意地になって耐えているのか、と。
確かに彼女に自分の情けない姿を見せたくないという気持ちはある。
だが、これはただの恋人同士のスキンシップではないだろうか?
一緒にお風呂に入り、体を触りあって淫らな事をする。
恋人プレイではよくある事である。
どの道このままでは速かれ遅かれ自分は限界を迎えてしまうだろう。
ならば自分は快感に身を委ねてしまっては良いのではないだろうか?
こんな辛い思いをして我慢する事は無いのではないだろうか?
一瞬そんな逃避染みた思考がよぎった時――
「あ、むっ――」
「――!?」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
まず分かったのは、耳の違和感。
暖かい感触と柔らかい感触。
それに遅れてヌルヌルとした感触を感じた。
先程までの状況と、今のこの感触から導き出される結論は一つ。
リリーが○○の耳を唇で啄ばんだのだ。
そして舌で彼の耳を舐る。
外耳に舌を這わせ、内側へと向かってニュルニュルと蠢かす。
完全に予想外の方向からの感触に、○○の集中は乱れてしまった。
「ひ、ぁ――」
自分で気付いた時にはもう遅い。
○○は声を上げてしまった。
その瞬間、彼のプライドが、矜持が、気概が、エゴが、僅かに残されていたそれら理性が――瓦解した。
「やっと声を聞かせてくれましたね……」
リリーは嬉しそうに小さく笑った。
まるで天使の様な笑み――だが○○には人間を堕落へと誘う淫魔の笑みに感じられた。
今の○○にリリーの責めを耐える力などもはや残されている訳など無かった。
口から情けない声が出る。
体が滑稽なほど痙攣する。
全ての動きが脳を介さない。
もはやそれらの行動は無意識――脊髄反射で行っていた。
今まで我慢していた反動だろうか、感じる快感も桁違いであった。
脳内の思考が快感によって焼き切られる。
その圧倒的――暴力的とも言える快楽は瞬く間に○○を限界へと押し上げていく。
○○が絶頂に達するのはそう遠くない事であった。
限界が近い事を察したのか、リリーの責めもラストスパートに入る。
乳首を弄っていた左手も陰茎へと伸ばし、両手で○○のそれを陵辱する。
右手だけでもとてつもない快感を生み出すと言うのに、そこに左手が加わったらどうなるだろうか?
そんな事は言うまでも無いだろう。
遂に○○が掠れた声を上げた。
「――で、出る……ッ!!」
「――ぷは……良いですよ、いっぱい出してください……」
その言葉が止めを刺した。
長い時間抑圧されていた欲望が解き放たれる。
雄として最高の快感が身体を襲い、全身を痙攣させる。
「あっ、すごい……○○さんの精液、熱いです……」
その迸りを見て、リリーは熱に浮かされた様な声を漏らした。
陰茎を扱いていた左手はいつの間にか亀頭を覆いかぶさるように添えられ、精液を全て受け止めている。
白濁によって名前の様に白い掌が穢されていく。
一方の右手は未だに射精を促す様にゆっくりと陰茎を扱いていた。
時折身体を蝕む快感で無意識に身体が慄き、思わず情けない声が出る。
身体の慄きに連動するかのように陰茎が脈動し、精液を放出する。
やがて快感は収まっていき、浴室の中には○○の荒い息遣いだけが響く。
「ふふっ、いっぱい出しましたね……気持ち良かったですか?」
リリーは小さく笑いながら左手に付いた精液を弄ぶ。
左手の指を動かす度ににちゃにちゃ、と卑猥な粘ついた音が立ち、指の間に糸を引く。
○○に見せつけるように彼の前でしばらくそれを弄んだ後、水桶に入っていた水でそれを洗い流した。
「それじゃあ、体を流しますね」
桶で風呂のお湯を掬い、○○の体に掛け泡を流していく。
だが、そこでリリーはある異変に気付いた。
「……○○さん?」
先程から○○の反応が無いのだ。
少し前までは責めと射精の快感に晒されて肩を上下させる程荒い息遣いをしていたのだが、今ではそれも収まっている。
○○の様子を窺う為にリリーが顔を覗き込もうとしたその時――
「リリィィィ……!!」
呻くように、唸る様に、まるで地獄から這い上がってくるような声。
とても生き物が発すると思えない声を聞いて、リリーの体は思わず硬直する。
背中に冷や汗が流れ、唾を飲み込む。
ゆっくり……ゆっくりと、まるで壊れかけのおもちゃの様にゆっくりと○○が顔をこちらへと向ける。
その顔に張り付いていたのは笑顔。
だが、目は全く笑っていない。
肉食獣の様に口角を釣り上げ、歯をむき出しにしているだけの笑顔。
元来、笑顔とは獣が相手を威嚇するものだったらしい。
歯をむき出しにし、自分の力を誇示していたのだ。
今の○○の笑顔はそれを体現していると言っても過言では無かった。
「あは、あはははは……」
リリーの口から思わず乾いた笑い声が出る。
生き物としての本能が危険だと警鐘を鳴らす。
先程までの情事で火照っていた身体から熱がサーッと引いていくのが分かった。
「そ、それじゃあ私はそろそろ出ますね!!」
竦んで動かなくなりそうな身体を鼓舞してなんとか動かし、桶で自分の身体にお湯を掛ける。
そのまま風呂場から退散しようとしたが――。
「ちょっと待ったぁ……!!」
それよりも速く、○○がリリーの手を掴んだ。
思わず動けなくなってしまったリリーの体を、風呂場の壁へと押し付ける。
結露した水が滴る壁に背中を押しつけられ、その冷たさにリリーの肌が粟立った。
絶対に逃がすまいと○○はリリーに覆いかぶさるように壁に手を付け、先程から凄惨な笑みが貼りついている顔をリリーのそれに近づけた。
「折角気持ち良くしてもらったからな……こっちもお返しをしねぇと」
「い、いえ、良いですよそんな……」
「そう遠慮すんなよ……!!」
「え、○○さ……ひゃ、んっ!!」
突然リリーの口から嬌声が漏れた。
○○がリリーの秘所へと指を突き入れたからだ。
○○の背中にそこを擦り付けている時点で愛液を滴らせていたリリーの秘所は、何の抵抗も無く○○の指を受け入れた。
「○、○○さん……ダ、ダメです、よぉ、あっ」
「何が駄目なんだ?こんなにグチュグチュにしてよぉ?」
○○は指で責めながら嗜虐的な笑みを浮かべる。
まるで先程の仕返しだと言わんばかりだ。
リリーは悩ましげに眉を八の字に寄せ、快感に必死に耐える。
身体を軽く曲げ、秘所に伸びている○○の手を掴み、太股を閉じるなど必死の抵抗を試みようとする。
しかし、快感の為かそれらの行為には全く力が入っていない。
むしろ男を誘っているようにも見える。
いや、もしかしたら無意識の内に誘っているのかもしれない。
それを見て○○の中の嗜虐心と獣欲がより燃え上がる。
欲望の赴くまま、○○は責めを継続する。
伊達に長い付き合いをしている訳ではない。
リリーが膣内のどこで一番感じるかなど熟知し切っている。
その部分を中指と人差し指でひたすら淡々と愛撫する。
決して激しい攻めでは無い。
だが、リリーは確実に上へと押し上げられていく。
彼女が嬌声を漏らし、よがる具合を見て思わず喉からクックッと笑いが漏れる。
快感で力が入らないのか、リリーが○○の腕に縋りつく様な形になった。
崩れ落ちないように支えながらも、指による責めは止めない。
段々と腕を掴む手の力が強くなり、体が小刻みに震え始めた。
どうやら絶頂が近いらしい。
悩ましげに潤う瞳を○○へと向ける。
「も、イ、イッちゃ、んあっ」
「良いぜ、そのままイッちまえ」
トドメとばかりに先程自分にされたように、リリーの耳を唇で啄ばんだ。
自分にされた事を返すかのように舌で彼女の耳を舐る。
外耳に舌を這わせ、内側へと向かってニュルニュルと蠢かす。
鳥肌が立つようなぞわりとした快感。
背筋に電流の様なものが走る。
それが決まりだった。
「ふぁ、あ、あああぁぁ――!!」
全身を包み込む絶頂の快楽に震わせる。
膣内が指を陰茎と錯覚し、もっと奥へ導こうと収縮し蠢く。
立っていられなくなったのか、リリーが○○の方へと崩れるように寄りかかる。
○○はその身体をしっかりと抱きしめた。
リリーは未だ快感の海を揺蕩い、時折身体を小さく震わせる。
震えと一緒に口から小さく嬌声が漏れる。
やがてその快感の波も引いていき、先程とは逆にリリーの荒い息遣いだけが風呂場に響く。
その時○○がリリーの耳元へ口を近づけ、何かを囁いた。
「このままじゃ湯冷めしちまうからな……だから――」
一旦そこで言葉を切る。
そして再び嗜虐的な笑みを浮かべながら、楽しそうに言った。
「だから、続きは風呂の中でだ……」
続き――それが何を意味するかは言うまでも無い。
未だ快感の余韻に浸ってどこか朦朧としているリリーにその言葉が届いたかは分からない。
それでも、何をしようとしているのかという事を本能で理解できたらしい。
蕩けた笑みを浮かべながら、小さく「ハイ」と答えた――。
風呂場の中に弾ける様な水音が響く。
その音の出先は浴槽の中だ。
浴槽の中では○○が縋るように抱きついているリリーを抱きしめながら、キスを交わしていた。
じゃれ合うような軽いキス。
唇同士を合わせ、舌先をほんの少しだけ触れ合わせる。
息継ぎの瞬間に唇を離すが、すぐに再び重ねる。
それを何度も繰り返す。
正直なところ、この状況になってこんなキスでは少し切ない。
だが、今の二人にはその切なさでさえ興奮を高まらせるには充分だった。
キスを交わしながら、○○はリリーの身体に手を這わせる。
肩口、肩甲骨、背中を通り脇腹、お尻。
これまた先程されたお返しとばかりにねっとりとした手つきで手を這わしていく。
そのもどかしい快感にリリーの鼻から悩ましげな吐息が漏れる。
名前と同じく白く透き通るようなリリーの柔肌はとても滑らかで、ただ指先で擦っているだけなのに○○の興奮はより高まった。
一通りリリーの身体を楽しんだ○○は、再び手を背中へと戻していく。
そこにあるのは妖精特有の向こうが透けて見える位薄い羽。
その羽の付け根へと手を伸ばす。
羽の付け根、そこがリリーがよく感じる部位だと言う事は今までの経験で分かり切っていた。
付け根の輪郭に沿って指を這わす。
やはり感じるのか、思わず唇を離し嬌声を漏らした。
自分の行為によって愛しい恋人がよがってくれている。
男として最高級の幸せだ。
同時にまた新たな欲望が湧いてくる。
この愛しい恋人をもっとよがらせたい、自分色に染め上げたい。
ひたすらに押し隠していた野性が姿を現す。
――理性よ、もう良いんじゃないか?
――理知的に彼女を愛で、その反応を楽しむのも良い
――だが、もっとヤりたい事もあるんじゃないのか?
――彼女が欲しい、彼女を味わいたい、彼女を自分の物にしたい
――そうだろう?
――だったら今すぐに俺と代われよ。
その野性の要求に理性は――ハイタッチで快く応じた。
○○は空いている手をリリーの後頭部へと持っていく。
そしてぐい、と自分の方へと抱き寄せ、唇を重ねた。
しかし、その強さは先程までのそれとは違う。
唇でリリーのそれを啄ばみ、舌を彼女の口内へと侵入させる。
いきなりの事に、リリーの身体がビクリと震えた。
○○の肩を掴んでいる彼女の手に力が入る。
健気にも○○の行為を受け入れようとする姿に、○○の獣欲は更に膨れ上がる。
先程までの唇を触れ合わせるだけの軽いキスとは違う。
舌と舌を絡め、唾液を啜り、相手を貪ろうとする濃厚なキス。
リリーの口内に侵入した○○の舌は、本来の持ち主の意を一切介さず陵辱する。
歯茎に舌を這わせ、頬裏を擦り、上顎を舐め上げる。
思わずくぐもった嬌声が上がる。
だが、そんな事は関係ない。
お構いなしに○○はリリーの舌に自分のそれを絡ませ、弄ぶ。
そこに彼女の意思は一切無い。
リリーに出来る事は、ただその快感に晒され続ける事だけである。
激しいキスの所為か、お互いの口周りが唾液でベトベトになる。
時折口端から流れ出た唾液が喉を伝わって下へと流れていった。
しばらく、その濃厚なキスは続いた。
不意にリリーの身体が少し大きく震えた。
どうやら軽く達してしまったらしい。
それに満足したのか、○○は彼女の後頭部に回していた手の拘束を解いた。
お互い、不足した酸素を求めて激しく喘ぐ。
突き出された舌先同士を繋ぐ銀色の糸が、行為の濃厚さを物語っていた。
潤んだ瞳、上気した頬、艶めかしい吐息、とろんと蕩けた表情、どうやら『出来上がって』きているらしい。
リリーのそんな姿を見て、○○の背中にゾクゾクとした物が走る。
そのゾクゾクした物は興奮へと変わり、股間に溜まっていく。
一度欲望を放出したというのに、○○の陰茎はもう既に立派な姿になってた。
いや、むしろ先程よりも立派かもしれない。
己の滾りをリリーの太股へと擦りつける。
「ぁ……すごく元気ですね……」
彼女は小さく嬉しそうな声を漏らした。
太股を動かし、自らも陰茎に擦りつける。
亀頭が太股で擦れると、凄まじい快感が○○を襲った。
油断していたら情けない声を出していた事だろう。
姿勢を直すふりをして、太股から陰茎を離した。
改めてリリーの顔を見る。
その表情は何かを期待しているのが明らかだった。
○○は小さく笑い、口を開いた。
「……いいか?」
「はい……」
リリーが少しだけ身体を浮かす。
狙いを定める為に掴まれた感触で陰茎がビクリと跳ねる。
鎌首をもたげている○○の陰茎は早く楽にしてくれと苦しげに震える。
そんな様子を見てリリーはクスッと小さく笑った。
「それじゃあ、挿入(い)れますね……」
亀頭を自分の秘所へあてがい、小さく息を吐く。
そして、ゆっくりと腰を下ろし始めた。
陰茎がリリーの秘所へと飲み込まれていく。
既に快楽に浸っているのか、リリーは喉を反らし甲高い嬌声を漏らした。
陰茎が温かい感触に包まれる。
正直、今の状態でも十分に気持ちが良い。
だが、これで終われる訳が無い。
リリーも気持ちは同じようだ。
快感に顔を蕩けさせながらも何かをねだる様にこちらを見つめてくる。
「分かったよリリー……」
軽いキスを交わすと、○○はゆっくりと腰を動かし始めた。
まずはゆっくりと――お互いの性器の感触を味わうように。
陰茎を突き入れようとすると膣内がより奥へと導こうと蠢き、逆に引き抜こうとすると引き戻そうと蠢く。
ハッキリ言って凄まじい快感だ。
油断すればあっという間に果ててしまいかねない。
心の中で一度気合いを入れる。
少しずつ腰の動きを速くしていく。
じゃばじゃばと湯船に波が立ち始める。
外に溢れて少し水位が下がってしまうが、知った事ではない。
最初は○○だけが腰を動かしていたが、やがてリリーも無意識の内に動かし始めた。
二人同時に腰を動かすので、当然相対速度と言う物が生じる。
つまり、一人で腰を動かしていた時よりもより激しく膣内で性器同士が擦れ合うと言う事だ。
その勢いのまま亀頭が子宮を突く。
するとリリーがひと際大きい嬌声を上げた。
どうやら性感帯らしい。
しばらくそこを重点的に責めていたが、段々とリリーの動きが鈍くなってきた。
ビクビクと身体を痙攣させながら、○○の首に回した腕をギュッと締める。
リリーが涙と涎でグチャグチャになった顔を上げた。
「だ、ダメで、あんっ、き、気持ちよ過ぎ、でぇ……!」
どうやら感じ過ぎてしまって動けなくなってしまったようだ。
膣内の擦れ合いは平常速度に戻る。
だが、先程までの激しい速度を知ってしまった○○にはこの速度はもう物足りない。
ならば仕方が無い。
自分ひとりしか動けないのなら――。
「もうリリーは動かなくて良いよ」
「ふぇ……?」
「俺がもっと動くから」
――自分が倍動けばいいのだ。
有無を言わさず○○はリリーの身体を強く抱きしめる。
無論、逃げられないようする為だ。
リリーの身体をガッチリと固定すると、○○は限界ギリギリの速度で腰を動かし始めた。
「えっ、○○さ、やめ、ああっ!!」
あまりの快感の所為かリリーがイヤイヤと頭を振る。
だが、その行為も○○の獣欲を満たす事にしかならない。
段々と頭がぼぅとしてくる。
全力で腰を動かしている所為だろうか?
このままだと逆上せてしまうかもなぁ、と頭の中でどこか冷めた思考がよぎる。
そんな事を考えながら前を向くと、リリーが顔をこちらに向けていた。
彼女の口からは嬌声しか出ていない為、何を言っているのか分からない。
だが、何かを伝えようとしているらしい。
口がある形を描く。
○○にはそれが聞こえた気がした。
――キ、ス、シ、テ。
冷めた思考が出来る程度に残っていた理性も投げ捨てた。
そんな物最早必要無い。
リリーの頭をグイと引き寄せ、唇に吸い付く。
責めや受けなど一切関係ない。
お互いがお互いを貪るように求めあう、そんなキスだ。
理性を捨てた為だろうか、一気に射精感が込み上げてくる。
それはリリーも一緒の様だ。
膣内も激しく痙攣し、絶頂が近い事を知らせる。
「も、もう……イッちゃ、あぁ……!!」
「良いぜ……イッちまえ……!!」
トドメとばかりに渾身の強さで突いた。
その瞬間――。
「ひゃ、あ、あ、あぁぁぁ――ッ!!」
絶頂を迎えた。
それに連動して膣内が激しく収縮する。
精液を搾り取る事に特化したその動きに○○が耐えられる訳も無かった。
膣内の一番奥深くで、○○は欲望を放出した。
極楽――そう表現しても間違いではないだろう。
男が体験しうる最高級の快楽。
そのあまりの快感に喘ぎ声が漏れる。
無意識に慄く腰の動きに合わせて欲望を続けて放出していく。
射精が収まっても、リリーの震えに合わせて収縮する膣によって射精直後で敏感な亀頭を刺激され、残った欲望を放出するという事をしばらく繰り返した。
やがてそれも完全に収まると、○○は忘れていたかのように酸素を求めて大きく喘いだ。
正しく全力疾走をした後の様な状態だ。
顎を大きく引いて酸素を求める。
なんとか呼吸を整えてリリーを見ると、ぐったりと○○にしなだれていた。
少し無理をさせ過ぎてしまたかもしれない。
あとでリリーに謝ろうと自戒する。
一度リリーの身体を抱え直し、楽な体勢にしてやる。
「リリー……?」
「ぁ……○○さ……ん……?」
返事があった。
とはいえほとんど茫然自失の様な状態らしい。
目の焦点が合っていない。
だが、そこに映っているものは何かは分かったらしい。
○○に向けて力無くふにゃ、とした笑みを浮かべる。
「ごめんな……」
優しく頭を撫でる。
「本当にごめんなリリー……」
「良いですよ……ちょっとびっくりしましたけど……」
○○は己の行いを猛省していた。
いくら最初に良い様に弄ばれて、その反動で仕返しをしまくったとは言ってもやはり限度と言う物がある。
今度からはそれをしっかりしなければ――。
心の中で固く誓う。
しばらく○○の胸の中で幸せそうに余韻に浸っていたリリーだったが、何か思いついた様だ。
おずおずと顔を上げた。
「あ、あの……○○さん」
「ん、どうした?」
「今日ってすごく寒いじゃないですか?」
「ああ、そうだな」
「多分お布団とかもすごく冷たいと思うんですよ」
「まあ、そうだな」
寒い日の風物詩である。
あとであの寒い布団の中に足を突っ込まなければならないと思うと軽く気が滅入る。
「だ、だから……一つのお布団で一緒に寝れば寒くないと思うんですよ」
「……」
この状況下で一緒に寝ると言われるとどうしても邪な考えがよぎってしまう。
いや違う、これは言葉通りの意味だ、他意は無い。
だと思っていたのだが――。
リリーの顔は明らかに赤くなっており、その瞳の光はどう見ても男を誘うそれであった。
つまり、そういう事なのだろう。
「……どうなっても知らんからな」
リリーが被虐の悦びに満ちた笑みを浮かべた――気がした。
その笑みで○○の中の獣欲が再び目覚め始める。
先程の決意がちゃんと守れるか、一抹の不安を覚える○○であった。
雪が降り荒ぶ春の寒い日。
だが、彼らの熱い夜はまだまだこれからのようである――。
メガリス Date:2012/05/06 19:14:34
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