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touhou_icha 2015年12月29日(火) 01:45:05履歴
○○が最初に感じたのは、僅かな不快感であった。
空気は少し寒いし、湿っている。
そのせいか布団もいつもの軽さは感じず、肌に張り付き少し圧迫される様な重みを感じる。
そこで○○はようやく目を開けた。
最初に見えた光景は木目の天井の模様、見慣れた光景である。
寝起きという事もあってか、目が自分の意識した様に開かない。
――変なタイミングで起きてしまったのだろうか?
そんな事を頭の片隅でぼんやりと考える。
なんとか頭をハッキリさせようと、○○は意識して瞬きを繰り返す。
そうする事でようやく自分の意識がハッキリしてきたのを自覚した。
ゆっくりと状態を起こし、身体に掛かっていた布団を退ける。
「ふあぁ〜ぁ、ねむ……」
一つ大きな欠伸をし、頭をボリボリと軽く掻く。
部屋の中を見回してみると、何となく暗い印象を受けた。
普段起きる時間よりも早く起きてしまったのかもしれない。
と思っていたのだが、どうやらそれが理由とは言い切れないようだ。
(……曇ってるのか?)
いくら早朝と言ってもある程度の日の光は感じるはずである。
ところが今はその日光が差している様子も無いのだ。
全体的に暗く、どんよりとした印象を受ける。
「……も、し、か、し、て――」
段々と脳が覚醒してきたようで、○○の頭の中で一つの嫌な推測が生まれる。
その推測が間違いである事を願い、またそれを確かめる為に○○はノロノロと起き上った。
そして眠気を引きずる様に、重い足取りでゆっくりと玄関へと歩を進める。
春にしては少し寒く感じる気温、妙に重く感じた布団、そして曇り空――。
冷静に考えれば当たり前の事、しかし今の○○にとってはその当たり前である事が起こって欲しくなかった。
玄関の戸に手を掛け、ゆっくりと横へと引く。
そして外の光景へ目を向ける。
「――ハァ、だよなぁ……」
落胆と諦めと嫌な予感が当たってしまったほんの少しの笑いが混じった声が、○○から漏れた。
ふと、その時――
「んぅ……おはようございます〜……ふあぁぁ……」
○○の後ろから可愛らしい声が聞こえた。
声がした方を振り返る。
「ん?ああ、おはようリリー。悪い、起こしちまったか?」
そこにいたのは春を運ぶ妖精、幻想郷の春告精、金髪蒼瞳の少女。
○○の恋人であるリリーホワイトであった。
リリーも寝起きという事でまだ眠いのか、口に手を当てて可愛い欠伸を一つする。
「そんなことないですよ〜……こんな朝からどうしたんです〜……?」
眼を擦りながらリリーが問いかける。
そんな姿を見ていたら先ほどまでの陰鬱な気分が少し和らいだ気がした。
自然と軽い笑みが漏れる。
「残念だがリリー、今日のデートは中止らしい」
「……?なんでですか〜?」
まだ寝起きで眠いからか、それとも頭が上手く回らないのか、リリーは眠そうな顔のまま首を傾げた。
どうやらリリーにはまだ理由が分からないらしい。
○○は苦笑し、肩を軽く竦めた。
そのまま背後の外を、親指で指した。
外は霧が掛かり、涼しい――むしろ少し寒いくらいだ。
それもその筈、外は細かい雨――春雨がしとしとと降り注いでいた――。
今日は本来ならば久しぶりに二人揃って休める休日の筈であった。
ここ最近リリーは幻想郷中に春を伝える度に朝も夕も忙しく飛び回っていた。
一方の○○も春という新たな節目のを季節を迎えるにあたり、仕事の方が中々に多忙であった。
その結果中々二人揃って自由な時間が取れていなかったのである。
だが幻想郷に春が訪れてしばらく経った頃、リリーの幻想郷に春を伝える役目も大体終わり、○○の方も仕事の方が一段落ついた。
では、次の休日に久しぶりに二人で外に出掛けてデートをしよう、そういう約束になっていたのだ。
だが万が一という事もあり、雨が止むという僅かな希望に掛けて昼過ぎまで待ってみたのだが、その結果は――。
「止まねぇな……」
「止まないですね〜……」
――ご覧の有様である。
雨が止む気配は一向に見えない。
二人の楽しみを阻み、それをあざ笑うかのように春雨は降り続けていた。
一応雨の中を行こうとすれば行く事は出来る。
だが、デートの途中で雨に降られたのならまだしも最初から雨が降っている中を歩くという状況では盛り上がる物も盛り上がらない。
そもそも時間が時間だ、今から出かけたとしても自由に動ける時間など僅かにしか無い。
結果、二人は家の中で暇な時間を過ごすという休日を送る事となった。
「ちくしょ〜、なんたって今日に限って雨が降るんだよ……」
○○が窓から空を恨めし気に見上げる。
これが人為的な所業であればまだ良かったのだが、人智の及ばない領域の所業であるため、ぶつける矛先が無い怒りと諦めで○○の心は悶々としていた。
「仕方ないですよ〜」
そんな○○を見かねたのかリリーが若干の困り顔を浮かべつつ、少し笑いながら声を掛けた。
お盆にお茶が入った湯呑みを二つ載せ、○○の方へ近づく。
「お茶が入りましたよ○○さん」
「ああ、サンキュ。……アチチッ」
若干苛立っていたのか、お茶の温度を確かめずに飲もうとした○○が熱がる。
それを見てリリーは小さく笑い、自身の湯呑みを持って○○の隣へ座わった。
「それにしても今日は残念だったな、こんな天気になっちまって」
お茶を飲んで少し落ち着いたのか、若干諦めたような声色で○○はリリーに話しかける。
両手で湯呑みを持ってお茶を飲んでいたリリーは、楽しそうに笑いながら答えた。
「そうですね〜……でも、私は嬉しいですよ〜」
「え、なんでだよ?」
「ふふ、だって……」
「だって?……うおぁ!?」
隣に座っていたリリーは素早い身のこなしで、隣に座っていた○○の脚の上へと座った。
○○は丁度胡坐をかく様な体勢だったので、その前にすっぽりと収まる。
そのまま○○に身体を預け、彼女のトレードマークでもあるニコニコ顔で見上げてきた。
「だって、○○さんとずっと一緒にいられるからですよ〜」
「……!?そ、そうかよ……」
予想していなかった直球回答に思わず○○は動揺してしまう。
リリーはこんな恥ずかしい様な事を平気な顔をしてさらっと言いのけてしまう。
今までの付き合いで、リリーがこういう性格でこういう事を言うというのは分かっている。
今まで散々それで振り回され、困惑させられてきた。
だというのに未だに慣れることが出来ない。
気恥ずかしくなったのか、○○は湯呑みに残っていたお茶を一気に呷りながら明後日の方向を向く。
「あ、もしかして恥ずかしがってます?」
「……そんな訳ねぇだろ」
「でも顔や耳が真っ赤になってますよ〜?」
「なってねぇから!!」
言った後で後悔した。
これでは肯定してしまっているのも同然ではないか。
「あ〜、○○さんムキになってます〜。かぁわいい〜」
「あーもう、そんなんならどけよ……!」
図星を指摘され、思わず言葉に力がこもる。
リリーの肩を掴み、脚の上から退かそうとグイと押し出そうとする。
「あっ、ごめんなさいごめんなさい〜。ちょっとからかい過ぎました〜」
「本当に反省してるのかよ……?」
「勿論してますよ〜?」
ニコニコしながらの言葉なので説得力がまるで無い。
だがここでグチグチ文句を言うのも大人気ないと思ったので、仕方なくリリーの肩を押し出すのを止める。
「……ハァ」
どうにも釈然とせず、○○はため息を一つ着いた。
そんな○○の姿をみてリリーは小さく笑った。
「ふふ……でも、私が凄く嬉しいのは本当ですよ〜?」
少し間を空けて、リリーが嬉しそうな声で話し始める。
「勿論外に一緒に遊びに行くのも楽しみにしてましたよ〜。でも、こうやって大好きな○○さんとずっと一緒に居られるだけでも私は嬉しいんです」
そう言いながらリリーは○○の手に自身の手を合わせ、掌同士を重ね合わせてきた。
今回も不意の行動ではあったが、不思議と動揺しなかった。
先ほど盛大に動揺したというのもあるかもしれないが、彼女の穏やかな雰囲気で落ち着いていられたのかもしれない。
手を握ってくるリリーの手はとてもあたたかかった。
あたたかくて、そして柔らかい。
まるで穏やかに、そして優しく包み込んでくれる春の様な――そんな感触だと○○は思った。
この心地良い感触をもっと感じたいと思ったのか、○○もいつの間にかリリーの手を握り返していた。
「リリーの手はあったかいな」
「そうですか〜?○○さんの手もおっきくてあったかいですよ?」
嬉しかったのか、リリーが小さく笑う。
不思議と気分が落ち着いていた。
今ならこっ恥ずかしい事も言えるかもしれない。
覚悟を決めた○○は、一度ゆっくりと息を吸った。
そして、握っている手の力をほんの少しだけ強めながら言った。
「俺も……リリーと一緒に居られて嬉しいよ」
「……はい!」
リリーはその言葉に満面の笑顔を浮かべた。
だが、見ると彼女の頬も紅潮していた。
やはりリリーも恥ずかしかったのだろうか?
それでも、リリーは自分の気持ちを率直に自分へ伝えてくれた。
そう考えると、愛おしいと思う気持ちが○○の中で生まれる。
「んんっ……!?○○さん……?」
思わずリリーの身体を抱き寄せていた。
繋いでいた手を離し、リリーの身体を腕でギュッと抱きしめる。
「こうしたくなった。……嫌だったか?」
「そんな事無いですよ〜、ちょっとびっくりしちゃいましたけど」
リリーが嬉しそうに笑いながら答えた。
彼女も自身の身体を抱きしめる○○の腕を掴む。
そのまま身体の力を抜いて○○の身体に身を預けてきた。
どうやら嫌では無いというのは本当らしい。
ならば躊躇う事は無い。
彼女を抱きしめる腕から伝わる感触を存分に楽しむことにしよう。
しかし、これだけでは少し物足りない気がする。
折角久しぶりに一緒に居られるのだから、もっと楽しみたい。
しかし、春雨がそれを拒んでいる。
何か良い考えはないか――そう思っている時にリリーが声を掛けてきた。
「○○さん、お話しませんか?」
「お話し?」
「そうです、最近○○さんとあんまりお話し出来てなかったからいっぱいお話ししたいです」
その案を聞いて○○は少し考える。
――悪くない案だ。
一人納得して小さく頷く。
この状況下で他に出来る事というのも思いつかないし、それに単純に○○もリリーと話をしたいと思ったからだ。
「……そうだな、それも良いかもな。じゃあ何を話すか?」
「何でも良いですよ〜、最近の○○さんの話とか」
「別に俺の話聞いても面白くないだろ……まあいいや、その代わり後でリリーの話も聞かせてくれよ?どんな風に幻想郷に春を伝えたのか、その時どんな景色を見たのかとか」
「ふふ、良いですよ〜」
そうして二人はゆっくりと始めた。
今まで触れ合えなかった空白の時間を埋めるかの様に――。
二人は様々な事を語り合った。
互いが忙しくて中々時間を合わせられなかった時、どんな事があったのか。
どんな物を見たのか。
リリーが話す幻想郷中に春を届ける時の話は○○にとってとても新鮮なものだった。
何しろ○○は空が飛べないのだ。
空から見た幻想郷の光景の話を聞くだけでも不思議と心が躍るのを感じた。
また、○○が質問をするとリリーは嬉しそうにその質問に答えていた。
自分の話を聞いてもらえて、自身が感動した事を大好きな人も共感してくれているのが嬉しいのかもしれない。
だが、話を聴くのが楽しいのは○○だけでは無いらしい。
リリーもまた、○○の話をとても楽しんでいた。
○○の人里での過ごし方や仕事の内容――彼にとって他愛も無い話ですらリリーは楽しそうに聞いていた。
人間と妖精では感じる感覚や、生活の形態が違うというのもあるのかもしれない。
他愛の無い話でも、聞き手が楽しそうに思ってくれるのは人間誰もしも嬉しいものである。
特に男というものはその傾向が強い。
○○が自慢気に話をし始めるのも無理は無かった。
やがて話す内容が段々と無くなり、しばしば会話の途中で沈黙が訪れる様になってきた。
だが、その沈黙は気まずさが伴うものでは無かった。
会話が途切れた時は互いの感触を確かめる様に軽くじゃれ合った。
手のひらをくすぐってみたり、髪の毛を指で弄んでみたりと。
「静かですね……」
「そうだな」
辺りを支配していたのは僅かな静寂だった。
物音一つしない静かな空間。
しかし、耳を澄ませばしとしとと降る雨の音や木や屋根から滴る水音が僅かに聞こえる。
微睡むような静かな空間がとても心地良かった。
どの位経っただろうか。
曇っているせいで太陽が見えない為時間が分からないが、半刻は優に経っただろうか。
そんな事を○○が考えていると、腕の中に収まっていたリリーが軽く身じろいだ。
動きたいのかと思い腕の力を緩めると、リリーは身体を振り向かせ○○と向かい合うような形になった。
○○の胸板に手を当て、ゆっくりと身体を近づける。
そのまま○○の顔に、自身の顔を近づけている。
「ちょ、おい……!?」
思いがけない行動に○○が狼狽する。
そんな○○の反応が可笑しかったのか、リリーは小さく笑うとゆっくりと目を閉じた。
更に顔同士を近づけてきた。
そこでようやく○○は理解した。
リリーが何をしようとしているのか。
理解したその瞬間、二人の唇は重なり合った――。
唇に感じた感触はとても柔らかく、そして温かい感触だった。
久しく体験していなかった感触。
その感触はとても幸せな感触で、もっと欲しくなる。
無意識の内に○○はリリーの腰に手を回して抱き寄せていた。
暫く感触を楽しんだ後、リリーがゆっくりと顔を離した。
唇に残った感触がとても名残惜しく感じられた。
「んっ……はぁ……」
リリーが熱っぽい吐息を漏らし、はにかむ。
「えへへ、キス……しちゃいました」
照れ笑いを浮かべながらリリーは言った。
そんなリリーを見て、○○も釣られて小さく笑う。
「どうしたんだよ急に?」
「う〜んと、特に深い理由はありませんよ〜?ただ、○○さんとこうやってずっと一緒に居られてお話し出来る事が凄く幸せだな〜って思って、そう思ったらいつも間にかキスしちゃってました」
「なんだそりゃ」
思わず○○は半笑いを浮かべた。
理由が理由になっているのか正直よく分からない。
ただ、そんな所もリリーらしいな、と思った。
「もしかして嫌、でしたか……?」
○○の半笑いを苦笑と勘違いしたのか、不安そうな目で見上げてくる。
まさか、そんな事があるはずが無い。
恋人とキスをして嫌だと思う男などいる訳が無いのだ。
それでも不安そうにしているリリーを見ていたら、なんだか愛おしく思えて○○は思わず笑みを浮かべた。
安心させようと優しく頭を撫でてやる。
心地良いのかリリーが目を細めた。
「そんな訳無いだろ。そんな不安そうにするなよ」
「はあぁ……良かったです〜……。いきなりだったから嫌だったらどうしようって思って」
先程まで不安そうだった顔に笑みがこぼれる。
安心したのか、リリーは脱力して頭を○○の肩に乗せた。
彼女が屈託の無い笑みを浮かべる。
「まあ、確かにビックリはしたけどな」
「えへへ、ごめんなさい。どうしてもしたくなっちゃって」
「するのは良いんだけどさ、せめて何か一言言っては欲しいんだけどな。その、色々と、焦る」
「ええと、じゃあ……」
するとリリーは少し頭を上げた。
何か迷っているのか、伏し目がちにしながらもチラチラこちらを見てくる。
やがて決心が付いたのか顔を上げ、○○の目を見る。
そしてはにかみながらリリーは言った。
「もう一度キスしても……良いですか……?」
「え……?」
思わず変な声が出てしまった。
○○はぽかんとした顔でリリーを見る。
「ええと、駄目……ですか?」
その表情をどう受け取ったのか分からないが、またもリリーは不安そうな声で聞いてくる。
そんな様子の彼女を見て、○○は内心でほくそ笑んだ。
先程いきなりキスをしてきておいて、今度は律儀に許可を求めてくる姿がちょっと可笑しかったからだ。
キスする前に一言言ってくれと言ったのは確かにこちらなのだが。
(ったく、しょうがねぇな……)
キスする事は嫌じゃないという旨は先程伝えたばかりだ。
する事も良いというのも伝えた。
しかし同じ事を繰り返して言うつもりも無かったし、言うのも少し気恥ずかしかった。
だから――。
「○○さん?……んむっ――!?」
――だから、行動で示す事にした。
リリーの腰に添えていた右手を彼女の後頭部に移動させ、ぐいとこちら側に引き寄せた。
そして、引き寄せた唇をこちらの唇で塞いだのだ。
いきなりの事にリリーの身体は硬直し、目を見開く。
だが少し経つと何をされたのか理解し、ゆっくりと目を閉じる。
身体の緊張を解き、○○に身を委ねる様に彼の身体へとしなだれかかる。
その様子を見て○○は後頭部に添えていた手をゆっくりと腰に添えた。
不意に○○は触れ合っている唇を動かし、リリーのそれを軽く挟んだ。
そのまま舌先で軽くくすぐる。
こそばゆい感触に反応したのか、リリーは一瞬身体をビクリと震わせた。
やがて、リリーも同じ事をし返してきた。
「ちゅぷ……んちゅ……」
リリーに唇を舐められ、ゾクリとした感覚が背筋を走った。
くすぐったさで思わず熱い吐息が漏れる。
その感覚が○○の興奮を掻き立てる。
段々と今のキスでは物足りなくなってくる。
もっと激しい、もっと濃厚な――という欲求が湧き上がってきた。
そんな時、不意に互いの唇を舐め合っていた舌先同士が触れ合った。
それが合図だった。
始めは舌先だけで互いのそれを擽り合う。
やがてどちらからともなく舌と舌を絡ませ始めた。
「はぁむ……ちゅる……んく」
弾けるような水音を発していたキスは、いつの間にか粘ついた淫らな水音を発するようになっていた。
先に動いたのは○○の方だった。
舌先同士が触れ合う程度に突き出していた舌を、リリーの口へ潜り込ませたのだ。
そのままリリーの歯茎を軽くなぞる。
「んんっ……!」
くすぐったいような感触に、リリーが思わず声を漏らす。
思わず身体が硬直し、○○の胸元の服を握っている手に力が入る。
その可愛らしい反応が○○の本能を昂らせた。
――もっとこの女を自分の物にしたい。
――もっとこの女をよがらせたい。
そう思った○○は無意識の内にリリーを押し倒し、組み伏せていた。
いきなりの事に思わずリリーも目を見開く。
だが、すぐに状況を理解すると再びゆっくりと目を閉じた。
まるで○○からの行為を全て受け入れるかのように。
それを知ってか知らずか、○○の興奮は更に高まった。
大好きな女を組み伏せているというこの状況が酷く扇情的に思えたからだ。
男なら誰しもが一度は妄想するシチュエーションである故、致し方ない事なのかもしれない。
○○は本能に従って舌をリリーの咥内へ捻じ込む。
そこにはリリーの意思など無い。
彼女の咥内を凌辱せんと、リリーの舌を自身のそれで弄る。
絡め合うだけでなく、吸いたてて唇で挟んで愛撫してやる。
与えられる快感と感触に、リリーは嬌声を上げる。
しかし口を塞がれていたので、それはくぐもった声にしかならない。
もはや彼女はなすがままであった。
だが、リリーはそれがとても嬉しく思えた。
自分の大好きな男性が自分に夢中になってくれている事、興奮してくれている事。
その嬉しさが思わず身体の反応にも出た。
「――ッ!!」
不意にリリーは身体をビクンッと大きく痙攣させた。
全身に力が入り、身体が弓の様に反り、四肢が硬直する。
引き攣る様な矯正が○○の口の中で響いた。
軽く達してしまったらしい。
まだ快楽の波が押し寄せるのか暫く身体を小刻みに痙攣させていたリリーだったが、やがてくたりと全身から力が抜けた。
○○はその様子を見てゆっくりと顔を離した。
ぬらぬらと光る舌と舌の間に銀色の糸が架かる。
それが二人のキス――そんな生易しい表現で良いのかは分からないが――の濃厚さ、激しさを物語っていた。
今更になって自分が呼吸も気にせずにキスをしていた事を思い出した。
息苦しさを覚えて荒い呼吸をして息を整える。
それはリリーも同様の様だ。
尤も彼女の場合は呼吸を許してもらえない状況だった、と言った方が正しいのかもしれないが。
(……少し苛め過ぎてしまっただろうか?)
思わず良心の呵責に苛まれる。
いくら夢中になっていたとはいえ、もう少し彼女を気遣ってあげるべきだったかもしれない。
謝罪の意も込め、先程までの行為が嘘のような優しさでリリーの頬を撫でてやる。
その感触が気持ち良かったのか、蕩けた笑みをふにゃりを浮かべた。
トロンとした目でこちらを見つめてくる。
力無く投げ出された四肢、呼吸の度に上下する胸、僅かに開いた唇から漏れる熱っぽい吐息、紅く染まった頬、そして涙で潤んだ瞳。
それら全てが扇情的に見え、○○の雄の本能を刺激する。
思わず唾を飲み込んだ。
先程自省したばかりだというのに一体自分は何を考えているのかと、自分に嫌悪感を覚える。
だが、今目の前に組み伏せている女を自分が求めているのも事実だ。
○○の中でリリーを大事にしたいという理性と、快楽を貪り尽くしたい本能がせめぎ合う。
その激闘の弊害か、思わず○○の動きが止まる。
○○の表情から何かを察したのだろうか、リリーは微笑むと自身の頭の横に突かれている○○の腕を掴んだ。
「……リリー?」
突然の行動に○○は声を絞り出してリリーに声を掛けた。
しかしリリーは何も言わずにそのまま腕を引っ張ろうとする。
不思議に思った○○は腕の力を抜き、リリーの好きにさせる事にした。
彼女はそのまま腕を自分の身体の前まで持ってくると、両手で○○の腕を握り直した。
そして――○○の手を自分の胸へと押し当てさせた。
「なっ――!?」
想像もしていなかった行動に○○は動揺する。
押し当てられた手には、衣服とその下の下着を挟んでも分かる魅力的な柔らかい感触が伝わってきた。
それは世の全ての男性が求めて止まぬ、最高級の柔らかさ。
普段は着痩せしている為あまり分からないが、その豊満な胸が十二分にその感触を伝えてくる。
思わず本能的反射的に手で揉みしだきそうになる。
だが、寸での所でその動きを止めた。
理性、奇跡の健闘である。
一体どういうつもりなのか、そう問い詰めようとしたその時――。
「我慢しなくて良いんですよ……?」
リリーが先に小さく囁いた。
熱に浮かされたその囁きは妙に艶っぽく感じられ、○○の脳を直接揺さぶる。
「リリーでいっぱい気持ち良くなってください……」
慈愛に満ちた笑みを浮かせながらリリーはそう続けた。
その言葉に○○の中の雄としての本能が解き放たれそうになった。
一切の情け容赦無く、自分本位の快楽を享受するためにリリーを犯したい衝動が○○の中を駆け巡る。
だが、○○はその衝動を抑え込んだ。
「違うだろ……」
「え……?」
震える声を絞り出す。
「『俺が気持ち良くなる』じゃない。お前も気持ち良くなる、だろ……?」
先程のリリーの言葉は○○に気持ち良くなってもらいたいという思い遣りの言葉だった。
だが、そうでは無い。
愛し合うというのは互いが相手の事を思い遣る事によって初めて実現される。
その想いが一方通行では駄目なのだ。
だから○○は言ったのだ。
『お前も気持ち良くなる』と。
一瞬どういう事なのかとポカンとしていたリリーだったが、すぐに意味を理解したようだ。
とても幸せそうで、蕩けた微笑みを浮かべた。
「○○さぁん……」
リリーが甘えたような声を出す。
○○の手首を掴んでいた手を離し、○○の方に向かって伸ばしてきた。
その両手は○○の顔を挟んだ。
両手から頬に体温が伝わってくる。
興奮しているからだろうか、いつものリリーの体温より高く感じる。
今はその体温がとても愛おしく思えた。
リリーがゆっくりと顔を引き寄せてきた。
○○はそれに逆らわずに顔を彼女のそれに近づける。
やがて、息が触れ合う程の距離になった。
リリーの瞳に自分の顔が僅かに反射して見えた。
恐らくリリーも同じ物を見ているのだろう。
もう彼女の顔しか見えない。
彼女の顔以外、目に入らない。
「大好きですよぉ〜……」
「俺も大好きだよ……」
そして二人はどちらからともなく唇を重ねた。
今度はどちらかからの一方的なキスでは無い。
お互いがお互いを本気で求め合うキスだった。
繋がった二人の咥内で舌が軟体動物の様に蠢き、絡み合う。
粘ついた唾液が存分にまぶせられた舌同士の絡みは、ヌルヌルとした独特の感触を産み出す。
絡み合わせてもぬるりと解けてしまう感触が興奮を煽る。
暫く濃厚なキスを楽しむと、○○は口を離した。
そのまま彼女の首筋に唇を這わす。
「ひゃぅ……!んっ……」
突然のこそばゆい感覚に、リリーは嬌声を漏らした。
唇で首筋を啄み、舌で舐める。
たまに音を立てて吸いたててみる。
吸いたてる度にリリーは声を漏らし、身体を震わせた。
快感に耐える為か、思わず四肢が縮こまる。
無意識の内に脚も閉じそうになったが、その前に○○が膝を彼女の脚の間に差し入れて阻止した。
「んぁ……○○さぁん……」
リリーが切なげな声を漏らす。
○○が首筋から口を離し、リリーの顔を見た。
潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
その表情はまるで欲しいものをおあずけにされ、たまらなく懇願する子供の様であった。
思わず○○の中の嗜虐心が鎌首をもたげる。
我慢の限界が近いのは、彼もまた同じであった。
「……良いか?」
何が、とは言わない。
今自分とリリーが求めている事は同じだと思ったからだ。
リリーも分かったのだろう。
何も言わずに小さく頷き、嬉しそうな笑みを浮かべた。
彼女の意志も確認した○○は、リリーの服に手を掛けた。
「脱がすぞ?」
確認を取っているようだが、その口調には有無を言わさない強さがあった。
形だけの確認を取った○○はリリーの服を脱がせ始めた。
「あ、あぅ……」
リリーが恥ずかしそうに声を漏らす。
いくら了承していると言っても、やはり裸になるのは恥ずかしいのかもしれない。
だが、彼女は抵抗せずに○○による脱衣を受け入れていた。
程無くしてリリーは一糸纏わぬ姿となった。
彼女の肌は、興奮と羞恥の為か薄く朱色に染まっていた。
白く透き通るような柔肌とのコントラストが美しく見えた。
それ以外にもたわわに実った乳房、男を無意識の内に誘う淫靡な割れ目。
いずれも○○の興奮を高め、獣欲を昂らせる。
股間に血流が集まってくる。
思わず○○は唾を飲み、喉を鳴らした。
無意識の内に口角が上がり、笑いが込み上げてくる。
これから自分はこの女をかき抱き、自分の好きなように出来る。
そう考えるだけで目がギラつき、呼吸が荒くなるのが自分でも分かった。
今の状態を状況を知らない人が見たら、『幼気な少女を凌辱しようとしている』という風にしか見えなかっただろう。
「○、○○さん……目が怖いですよぉ〜……」
○○の笑みに何か不穏な物を感じ取ったのか、リリーが若干顔を引き攣らせながら困ったような笑みを浮かべる。
彼女に指摘され自分のがっつき具合を認識した○○は、一度手で顔を覆うと自分を落ち着かせるために顔をごしごしと揉んだ。
冷静になると後から遅れて微妙な気恥ずかしさが込み上げてきた。
「そ、そんな事無い、だろ……」
否定はしてみたが、自覚がある分語尾が弱々しくなってしまった。
思わず視線が泳ぐ。
そんな○○の姿が可笑しかったのか、リリーはクスクスと笑った。
つられて○○も小さく笑う。
二人でひとしきり笑い合うと、再び見つめ合う。
先程までの興奮が嘘のように、心が落ち着いていた。
笑った事で気分が解れたのかも知れない。
無論全く興奮していないという訳では無いが。
「良いか?」
改めてリリーに問いかける。
だが、彼女は少し不満そうな顔をした。
「○○さんも……」
「ん、俺も……?」
「○○さんも、脱いでください……私だけなんてズルイですよ〜……」
確かにリリーに対して自分の方は服を全く脱いでいなかった。
どうせこれからする事をする上で下の着物は脱ぐつもりだったのだが、そういう訳でも無いだろう。
(つまりこっちも全裸になれって事ね……)
今更ここまで来たら些細な問題だと思うが、どうやらそれでは彼女の気が収まらないらしい。
「へいへい、分かりましたよ」
リリーの言葉に従い、○○も服を脱ぎ始めた。
流石に恥ずかしいから脱げないという事も無いが、やはりじっと見つめられながら服を脱ぐのは慣れる物では無かった。
――特に下の着物を脱ぐ時は。
程無くして○○も一糸纏わぬ姿になった。
股間にある男性の象徴そのものであるそれは、既に臨戦態勢であった。
赤黒く怒張し、獲物を求める蛇のように鎌首をもたげている。
今の○○を端的に物語っていた。
それを見てリリーは思わず息を飲んだ。
もうすぐあれが自分の中に入ってくる。
既に何回も経験している事なのに、未だにあれほど大きい物が自分の中に入ってくるという事が信じられなかった。
だが、躰は憶えている。
『あれ』に貫かれる事によって与えられる全身を駆け巡る快感を。
それを想像するだけで思わず身体が震えた。
「リリー?おい、リリー?」
「ふぇっ!?な、なんですか?」
物思いに耽っている時に不意に声を掛けられ、思わずリリーは変な声を出してしまった。
そんな彼女を見て○○は少し怪訝な顔をする。
「いや、俺も脱いだんだが」
「そ、そうですね〜、あはは……」
「……変な奴」
流石に○○の男性器に見惚れていたなんてことは言えずに、慌てたように笑顔で誤魔化した。
○○としてはリリーの変な反応が気になったが、大した事じゃないだろうと思ったので無視することにした。
改めて全裸のリリーの上に覆い被さる。
先程まで二人の間を隔てていた衣服が無くなり、より直接的に彼女を感じられる気がして、○○の興奮が高まる。
一方のリリーも先程までは衣服に隠れて見えなかった○○の肉体が見え、思わず胸がときめく。
つまり、二人とも我慢の限界だった。
○○が怒張した陰茎をリリーの秘所へ押し当てる。
「んっ……」
くちゅ、と淫らな水音がした。
秘所に与えられた感触にリリーが甘い声を漏らし、一瞬身体を痙攣させる。
準備が整っているのは明らかだった。
「挿れるぞ……?」
正直今すぐにでも挿れてしまいたかった。
だが、それは最後に残った理性が押し留めた。
流石に確認も取らずに挿れてしまうのは男としてどうなんだと思ったからである。
リリーは恍惚とした笑みを浮かべながらゆっくりと頷いた。
彼女もこれから行われる行為に期待を膨らませているようだった。
リリーの了承も得た○○は遂に腰をゆっくりとと突き出し始めた。
○○の陰茎がリリーの秘所に突き入れられる。
「はあぁ、あぁ……」
待ちわびていた快感が与えられ、リリーは歓喜に震えた息を吐く。
○○が自分の中に押し込まれてくるのにつれ、身体中を快感が駆け巡る。
身体がビクビクと痙攣するのを抑えられない。
四肢に力が入り、ピンと突っ張る。
ただ挿入しただけだというのに、リリーを襲っている快楽の波は相当な物の様であった。
もっとも想像以上の気持ち良さを実感しているのは○○も同じであった。
(クッ……スゲェ気持ちいい……)
リリーと愛の営みをする度に○○は驚かされる。
リリーの膣内は蕩ける様に柔らかく、○○を難なく受け入れる。
だが同時に強烈な締め付けも行い、彼に想像を絶する快感を与えるのだ。
油断していたら挿入した瞬間に絶頂してしまっていたかもしれない。
強烈な快感は一瞬の快楽を与えるが、すぐにその快楽を渇望する欲求が襲い掛かる。
何も考えず猿の様に腰を振っていたらどれだけ気持ち良いだろうか。
だが、そんな事をしたらすぐに果ててしまう事は分かり切っていた。
自分だけが気持ち良くなって終わりという訳にはいかないのだ。
だから○○は理性で必死に雄の本能を抑え込む。
そのままゆっくりと自身の分身をリリーの奥深くまで突き入れていった。
やがて陰茎の先に僅かな抵抗を感じた。
どうやら最奥にまでたどり着いたらしい。
一度そこで動きを止める。
リリーの顔を見ると今にも泣きそう顔をしていた。
だが、それは勿論苦痛があるからという訳では無い。
むしろ逆で、押し寄せる快感に押し流されないよう必死に耐えているからだ。
それを見た○○は僅かに頬を緩ませた。
(そんな必死に我慢しなくても良いんだけどな……)
身体の緊張を解してやる意味も込めて、○○はリリーの頬へ手を伸ばした。
手で頬を軽く撫でてやると、リリーの表情が少しだけ和らぐ。
ほっとしたのか、一度息を震わせながらゆっくりと吐き出した。
「動くぞ……」
宣言した後、ゆっくりと腰を引いて陰茎を引き抜いていく。
膣内の襞が逃すまいと絡みつき、突き入れている時以上の快感が○○を襲う。
思わず唸るような呻き声が出た。
歯を食いしばって快感によって止まりそうになる身体を動かす。
快感に翻弄されているのはリリーも同じ様であった。
○○の陰茎のカリ首が彼女の膣壁や絡みついてくる襞を刮ぎ取ろうと言わんばかりに刺激する。
挿れる時より遥かに強烈な快感に、リリーは思わず嬌声を上げた。
だが、○○は止まらない。
腰を引いていき、抜ける寸前まで来たら再び突き入れていく。
そして、次第にその速度は速くなっていった。
もっと快楽が欲しい、もっとこの女を啼かせたい――。
最早○○の頭の中にはそれしか無かった。
興奮した獣の様に荒い呼吸を繰り返す。
その容赦無い責めに晒されたリリーはあっという間に絶頂寸前にまで追いやられた。
身体を引き攣らせ、四肢が小刻みに痙攣する。
口から零れる嬌声を止める事はもはや出来なかった。
リリーが縋る様な目でこちらを見つめてくる。
あまりの快感の為か、零れた涙が目元を濡らしていた。
ゆっくりと、そして必死にリリーが手を○○のそれに伸ばしてきた。
「○○、さん……んぁっ……」
泣きそうな声で○○の名を呼ぶ。
本能的に○○はリリーの手を握った。
彼女もそれを待ち望んでいたかのようにしっかりと握り返す。
「私、もう……イッちゃ、あっ……!!」
「そうかよ……!」
○○は腰を動かす速度を少し緩めた。
そしてリリーの耳元に口を近づけて囁いた。
「イケよ、イッちまえ……!!」
その言葉を切っ掛けに腰の動きを先程以上にして動かし始めた。
「○○さ、あっ、あっ、あっ……!!」
先程の速度ですら耐え切れないほどの快感を与えられていたのだ。
それ以上の速度で突かれてしまったら、最早リリーに耐えきれる訳が無かった。
そして――。
「あんっ、あっ、イッ……――ッ!!」
彼女は絶頂を迎えた。
圧倒的な快感の波がリリーを襲い、押し流す。
それと同時に彼女の膣も締り、精を搾り取ろうとしてきた。
だが、○○の方は絶頂に達するには今一歩及ばなかった。
それでも、リリーの絶頂があと少し遅かったら共に絶頂まで押し上げられていた事だろう。
快楽という海に投げ出された彼女に出来る事は、ただただ襲いくる快楽を受け入れ、耐える事だけだった。
○○のそれを握っていた手に力が入り、ギュッと掴む。
それはまるで必死に快感の波にさらわれない様にしているようだった。
認識出来るか分からないが、○○も手に力を入れ強く握り返してやった。
しばらく暴力的とも言える快楽の波に弄ばれていたリリーだが、やがてその波もゆっくりと引いてきたらしい。
ピンと強張っていた全身から徐々に力が抜けていく。
脱力しきって不足した酸素を求め、息を震わせながら荒い呼吸を繰り返す。
意識が少し朦朧としているのか、目の焦点が合っていないようだった。
額には汗が滲み、乱れた髪の毛が張り付いていた。
その姿は扇情的で、普段の彼女からは想像出来ないエロスを感じさせた。
(やべ、可愛い……)
思わず喉を鳴らした。
我慢出来なくなった○○は手で額に張り付いた髪の毛を整えてやると、ゆっくりとリリーの顔に自身のそれを近づけた。
そしてゆっくりと唇を合わせた。
だが、今回はリリーの事も考えてか激しい物では無い。
軽く啄むように唇を吸い、舌先で擽る様に舐める。
「んん……ふぅ、ん……ちゅ……」
リリーもその感覚は分かったらしい。
それとも本能的にだろうか。
緩慢な動きではあるが、その動きに合わせてゆっくりと唇を動かす。
彼女の息が整うまで、二人はそうしていた。
暫くじゃれ合うようなキスを楽しんだ二人は、ゆっくりと顔を離した。
雨音に包まれた室内に二人の荒い息遣いだけが広がる
「ん……○○さん……」
リリーが蕩けた笑みを浮かべた。
まだ快感の余韻が続いてるのか、時折身体を小さく震わせている。
「凄く……気持ち良かったです……」
「そりゃ、良かった……」
――実際の所、あまり良くは無い。
リリーの方は絶頂を迎えた訳だが、こちらとしてはお預けを食らっている状態なのだ。
彼女の膣内にある自身の分身は未だに硬いままである。
○○と同じく、こちらもまだ満足していないようだった。
先程まで強烈な快感を味わっていた○○にこれ以上我慢するという事は出来る訳無かった。
だから彼は今まで散々抑え込んできた己の本能に少しだけ身を委ねることにした。
「悪いリリー、もう我慢出来そうもない……!」
「え……?ひゃあ!?」
○○はリリーの脇の下辺りを掴むと、そのまま彼女の身体を引き起こした。
彼女の方はいきなりだったという事と、絶頂の余韻で上手く力が入らなかった為、為すがままであった。
そのまま自分の身体と密着するように抱き寄せる。
勿論、二人の身体は未だに繋がったままだ。
結果として二人は対面座位の形になる。
先程までの正常位とは違い、対面座位は自重の影響をかなり受ける。
今の力が入らない彼女の身体で、重力に抗える訳が無かった。
○○の陰茎に貫かれているリリーの身体は沈み込む事となる。
それはリリーの膣内の最奥に今まで以上の強さで○○の陰茎が押し付けられる事を意味していた。
「あ、ああぁ――!!」
軽く押し付けるだけで絶大な快感を感じるのだ。
重力による押し付けで起こる快感はそれと比べ物になる物では無かった。
絶頂に達したばかりだったというのに、再び押し上げられていく。
更に○○が腰を突き上げ、その度にリリーの最奥をズンズンと刺激する。
突き上げられる度にリリーの全身を想像を絶する快感が電流の様に走った。
彼女に出来るのは、ただ啼く事だけであった。
「○、○さ……奥、すご……気持ち、良すぎて……!!」
あまりの快感のせいか、言葉がたどたどしかった。
「もうちょっと、我慢してくれ……!!辛かったら、しがみ付いても良いから……!!」
荒い呼吸をしながら○○が言った。
彼の言う通りにしようと思ったのか、リリーが腕を○○の首に回してきた。
そのまま強い力で○○にしがみ付く。
まるであまりの快楽に意識を失わないよう必死に耐えているようにも見えた。
「ごめん、なさい……!」
突然リリーが謝罪の言葉を口にした。
「ど、どうしたんだよいきなり」
全く想像していなかった謝罪の言葉に、○○は思わず狼狽する。
何かリリーに気負わせるような事をしてしまっただろうか?
腰の動きを止め、何か心当たりが無いか必死に思考を巡らす。
○○が心当たりを思い出そうとしていたら、今まで彼の肩口に顔を埋めていたリリーが顔を上げた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、快楽によって完全に蕩けていた。
最早意識を保っているので精一杯といった感じだ。
それでも必死に身体を震わせながら、○○の顔を見つめながら、リリーは口を開いた。
「私ばっかり、気持ち良くなって……○○さんに何も、して、あげられて、無い、です……!!」
声を震わせ、快感に喘ぎながらリリーは言葉を紡いだ。
その言葉を聞いた○○は、胸をきゅうと締め付けられた。
嗜虐心や性的欲求の要素など一切無い。
ただただ愛おしさだけが込み上げてくる。
この娘は自分の事をこんなに想ってくれている。
あまつさえ自分が気持ち良くなってしまっている事に罪悪感さえ感じてしまっている。
そんな風に想って貰えてこれ以上の幸せは無い様に思えた。
思わず目頭が熱くなる。
○○はリリーの身体を強く抱きしめた。
出そうになっている涙を見られたくなかったというのもあったが、とにかく抱きしめたかったのだ。
彼女の頭の後ろに手を回し、優しく撫でてやる。
「そんな事ねぇよ。俺も、メッチャ気持ち良いから……」
「そう、なんですか……?」
「当たり前だろ……だって……」
○○は止めていた腰を軽く動かした。
未だリリーの膣内で硬さを保っている陰茎が動き、彼女を刺激する。
その快感にリリーは可愛らしく喘いだ。
「こんなになってるってのはそれだけ気持ち良いって事なんだよ。だから、お前が申し訳無いとかそんな事思わなくて良いんだよ……」
「……はい」
赤子をあやすように、優しく頭や背中を撫でながら○○は言う。
その言葉と撫でられる感触に安心したのか、リリーは小さく頷いた。
「でも……」
でも、○○はまだ一度も絶頂していない。
それを引け目に思ってしまう事は彼自身もなんとなく分かっていた。
だから○○は言葉を遮って言った。
「分かってる、『お前だけが気持ち良くなる』じゃない。『俺も気持ち良くなる』、だろ……?だから――」
一旦言葉を区切る。
そして耳元に口を近づけ、囁いた。
「だから、二人で一緒に気持ち良くなろう、な……?」
「……!はい……!」
安堵したのか、リリーは穏やかで嬉しそうな笑みを浮かべた。
目尻に溜まっていた涙が滴となって頬を伝わり落ちる。
もはや二人に理性など必要無かった。
互いに快楽を求める生物としての本能、それさえあれば十分だった。
○○が止めていた腰を再び動かし始める。
リリーの身体を快感が襲うが、今の彼女はそれ以上を求めていた。
僅かながらリリーも腰を艶めかしく前後させ、○○の行為を手伝う。
だが、それは自身が快楽を貪りたいという訳だけでは無かった。
自分が動く事によって○○も気持ち良くなって欲しい。
自分だけでなく、彼にも気持ち良くなって欲しいという想いがリリーの身体を動かしていた。
勿論、自身も問答無用で絶頂へと押し上げられていく。
互いに絶頂が近いのは明白であった。
そこからの二人の行為はもはや獣の交尾と言っても過言では無かった。
口から漏れる声には言葉としての意味を為さない。
感じる快感に対して本能の赴くまま悶え、呻き、慄き、唸り、喘ぐだけであった。
口から涎が垂れ、全身から汗が吹き出し、下腹部からは淫らな水音が響く。
最早二人の身体がドロドロになって溶け合ってしまうのではないだろうか。
そう思わせるほどの状態であった。
だが、その行為にも終わりが近づく。
リリーは自身の内側より生まれる、今まで以上のナニかの予感を感じた。
「○○さ、ん……私……もうっ……!!」
「ああ……!俺も、もうイキそう、だ……!!」
その予感を感じていたのは、○○も同様であった。
腰を中心にビリビリとした何かが収束していく。
そして、それはもうすぐマグマの様に噴出しようとしていた。
「○○さん……!○○さ、ん……!!」
「リリー……!!」
互いに愛しい人の名を呼び合う。
ただ名前を呼び合う、それだけなのに愛おしさが溢れてきた。
そしてこれが最後と言わんばかりに○○が腰を突き上げた瞬間――。
「あ、ああ……ああぁぁぁ――!!」
――遂にリリーが絶頂を迎えた。
一度目の絶頂とは比べ物にならない快楽の暴力に打ちのめされる。
感じられる感覚は全て快感。
それ以外の感覚をどこかに置いてきてしまったかの様であった。
無意識の内に○○を抱きしめる腕に力が入る。
そうしなければ自身の形を保てない風にすら思えた。
絶頂を迎えた事で、彼女の膣内が精を求めて激しく収縮する。
早く精を吐き出せと言わんばかりに○○の陰茎を刺激し、搾り取ろうとする。
最早○○にその搾精行為に耐え切れるほどの余裕は無かった。
「ぐ、ぅ……!!」
獣のような呻き声を漏らし、○○は自身の欲望を解き放った。
陰茎が脈動し、欲望を吐き出すのに合わせて腰から全身に向かって快感がゾクゾクと走る。
今までかなり我慢してきたせいか、その快感は○○が想像していたよりも遥かに強烈で甘美であった。
思わず快感が全身を走る度に呻き声を漏す。
それでもリリーよりは余裕があるのか、必死に抱き着いてくる彼女に応える様にこちら側も力を入れて抱き返した。
やがて快感の波は徐々に去って行く。
代わりにやってくるのは男性特有の絶頂後の疲労感だ。
怠さに苛まされ、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。
リリーの方も段々と落ち着いてきたようであった。
だが男よりも波の引きが遅いのか、時折身体をビクリと震わせ甘い声を漏らす。
もう力が上手く入らないのか腕がだらりと垂れ下がり、身体を完全に○○に預けていた。
彼の肩口に顔を埋め、ひゅーひゅーと細い息を吐く。
「お、おい大丈夫か?」
思わず心配になり、声を掛ける。
リリーはほんの僅かに頷いた。
「はい……大丈夫、です……」
「……なら良いけども」
大丈夫という事が分かり、○○は安堵の息を付く。
「○○さんも……気持ち良かったですか……?」
「……言わなくても分かるだろ」
「えへへ……良かった……」
再び気恥ずかしさが戻ってきたので、言葉を濁す。
それでもリリーには言葉の意図が伝わったようで、嬉しそうに笑った。
「ったく……」
恥ずかしいのを誤魔化すのと、リリーへの労いと感謝の意味も込めて優しく頭を撫でてやる。
その感触が心地良かったのか、リリーは息を漏らす。
そうしながら二人は事後の甘い時間を過ごした。
やがて快感と興奮が完全に引き、代わりに現れたのが全身に纏わり付く不快感だ。
無理もない、こんな雨の日にあんな運動量の激しい行為をしたのだ。
湿気と汗のせいで全身がべた付いていた。
流石にこの後の事を考えると、ずっとこの状態でいるというのは御免被りたい所であった。
「……風呂でも入るか」
「そうですね……」
リリーも同じ事を考えていたらしい。
(しかしこの雨の中、風呂を沸かさにゃならんのか……)
多少辟易しつつも風呂を沸かす為にリリーから陰茎を引き抜こうとしたその時――。
「○○さん……」
先程まで○○の肩口に顔を埋めていたリリーが顔を上げた。
頬同士を擦り合わせながら耳元に口を近づけ、そして囁いた。
「お風呂でも、一杯気持ち良くなりましょうね……」
「――!?」
背筋にゾクリとした何かが走る。
その囁きは正に男を誘う魔性の声色であった。
さながら虫を誘う食虫花の様に、○○の中の雄の性を惑わす。
思わずリリーの顔を見る。
彼女は僅かに頬を上気させているだけで、普段と変わらないあどけない笑みを浮かべていた。
先程の淫靡な囁きを発したとはとても思えなかった。
あれは偶然だったのか、演技だったのか、あるいは――。
いずれにせよ、一度鎮まった○○の雄としての本能を再び奮い立たせるにはそれだけで十分であった。
「あっ……大きくなりました……」
リリーがうっとりと目を細めた。
耳元であんな声で囁かれて我慢出来る男などいないだろう。
「言ったな……?覚悟しろよ?」
もはや○○は勝手に浮かぶニヤつきを抑えようともしなかった。
それに対してリリーも笑みを浮かべた。
だが、○○は気付かなかった。
笑みを浮かべるリリーの瞳、そこに淫蕩な光が宿っていた事に。
○○は知らなかった。
春の時期の春告精の凄まじさを。
そして春という言葉には『そういう』意味合いも含まれているという事も。
○○はこの後嫌という程実感する事になるのだった――。
「う〜ん……良いお天気ですね〜」
身体をぐぐっと伸ばしながら、リリーは言った。
空は雲一つない蒼穹が広がり、太陽が煌々と輝いていた。
まるで昨日一日自分の輝きを誇示出来なかった鬱憤を晴らすかのような快晴だった。
「○○さん、早く行きましょうよ!」
二人はこれから人里に出掛ける予定なのだ。
昨日は雨で中止になってしまったが、この青天ならば何の問題も無いだろう。
良い天気という事もあって気分が高揚してるのか、リリーがぴょんぴょんと飛び跳ねながら○○を急かす。
その顔は元気はつらつと言った感じで、そして何故か妙につやつやしていた。
「分かったからそんなに急ぐなよ……」
一方小屋の中から出てきた○○の顔はそれとは正反対と言っても良い状態であった。
眼の下にくまが出来ており、表情からも疲労の色が伺い知れた。
その表情が、リリーとのその後の行為の末路を物語っていた。
一緒に風呂に入った○○はそこで予想以上に搾り取られ、更に風呂を出て食事をした後にもリリーに誘われなし崩し的に搾られ、トドメとばかりに就寝時に再び迫られ搾り取られたのであった。
ありとあらゆる性技を駆使して搾られ、身体中のありとあらゆる場所を駆使して搾り取られた。
春の春告精恐るべし――○○の記憶に残っている中で最後に痛感のがそれであった。
そこまで搾り取られてなお自力で起きて歩いているのが奇跡と言っても過言では無かった。
「はは……太陽が、黄色く見えらぁ……」
徹夜明けのテンションよろしく、無意識の内に乾いた笑いが出た。
太陽の眩しさに思わず目を細める。
正直疲労が凄まじいので家でゆっくりしていたい。
だが――。
「ほら○○さん、行きましょう!」
リリーが楽しそうに屈託の無い笑顔で手を伸ばしてくる。
こんな笑顔でお願いされて断れる男などいないだろう。
惚れた弱みだと思って諦める他無かった。
それに、その笑顔を見ていたら少しだけ元気が出てきた。
――本当に少しだけなのだが。
「……分かったよ」
苦笑を浮かべつつ、○○は差し伸べられたリリーの手を握った。
その手は昨日と変わらず暖かく、そして柔らかかった。
そのまま人里へと歩み始める。
空には一日ぶりの煌々と輝く太陽。
だが、○○にはそれよりも隣で笑うリリーの笑顔の方が眩しく輝いて見え、そして愛おしく思えた――。
メガリス Date:2015/05/21 01:53:46
SS : リリーホワイトへ戻る
空気は少し寒いし、湿っている。
そのせいか布団もいつもの軽さは感じず、肌に張り付き少し圧迫される様な重みを感じる。
そこで○○はようやく目を開けた。
最初に見えた光景は木目の天井の模様、見慣れた光景である。
寝起きという事もあってか、目が自分の意識した様に開かない。
――変なタイミングで起きてしまったのだろうか?
そんな事を頭の片隅でぼんやりと考える。
なんとか頭をハッキリさせようと、○○は意識して瞬きを繰り返す。
そうする事でようやく自分の意識がハッキリしてきたのを自覚した。
ゆっくりと状態を起こし、身体に掛かっていた布団を退ける。
「ふあぁ〜ぁ、ねむ……」
一つ大きな欠伸をし、頭をボリボリと軽く掻く。
部屋の中を見回してみると、何となく暗い印象を受けた。
普段起きる時間よりも早く起きてしまったのかもしれない。
と思っていたのだが、どうやらそれが理由とは言い切れないようだ。
(……曇ってるのか?)
いくら早朝と言ってもある程度の日の光は感じるはずである。
ところが今はその日光が差している様子も無いのだ。
全体的に暗く、どんよりとした印象を受ける。
「……も、し、か、し、て――」
段々と脳が覚醒してきたようで、○○の頭の中で一つの嫌な推測が生まれる。
その推測が間違いである事を願い、またそれを確かめる為に○○はノロノロと起き上った。
そして眠気を引きずる様に、重い足取りでゆっくりと玄関へと歩を進める。
春にしては少し寒く感じる気温、妙に重く感じた布団、そして曇り空――。
冷静に考えれば当たり前の事、しかし今の○○にとってはその当たり前である事が起こって欲しくなかった。
玄関の戸に手を掛け、ゆっくりと横へと引く。
そして外の光景へ目を向ける。
「――ハァ、だよなぁ……」
落胆と諦めと嫌な予感が当たってしまったほんの少しの笑いが混じった声が、○○から漏れた。
ふと、その時――
「んぅ……おはようございます〜……ふあぁぁ……」
○○の後ろから可愛らしい声が聞こえた。
声がした方を振り返る。
「ん?ああ、おはようリリー。悪い、起こしちまったか?」
そこにいたのは春を運ぶ妖精、幻想郷の春告精、金髪蒼瞳の少女。
○○の恋人であるリリーホワイトであった。
リリーも寝起きという事でまだ眠いのか、口に手を当てて可愛い欠伸を一つする。
「そんなことないですよ〜……こんな朝からどうしたんです〜……?」
眼を擦りながらリリーが問いかける。
そんな姿を見ていたら先ほどまでの陰鬱な気分が少し和らいだ気がした。
自然と軽い笑みが漏れる。
「残念だがリリー、今日のデートは中止らしい」
「……?なんでですか〜?」
まだ寝起きで眠いからか、それとも頭が上手く回らないのか、リリーは眠そうな顔のまま首を傾げた。
どうやらリリーにはまだ理由が分からないらしい。
○○は苦笑し、肩を軽く竦めた。
そのまま背後の外を、親指で指した。
外は霧が掛かり、涼しい――むしろ少し寒いくらいだ。
それもその筈、外は細かい雨――春雨がしとしとと降り注いでいた――。
今日は本来ならば久しぶりに二人揃って休める休日の筈であった。
ここ最近リリーは幻想郷中に春を伝える度に朝も夕も忙しく飛び回っていた。
一方の○○も春という新たな節目のを季節を迎えるにあたり、仕事の方が中々に多忙であった。
その結果中々二人揃って自由な時間が取れていなかったのである。
だが幻想郷に春が訪れてしばらく経った頃、リリーの幻想郷に春を伝える役目も大体終わり、○○の方も仕事の方が一段落ついた。
では、次の休日に久しぶりに二人で外に出掛けてデートをしよう、そういう約束になっていたのだ。
だが万が一という事もあり、雨が止むという僅かな希望に掛けて昼過ぎまで待ってみたのだが、その結果は――。
「止まねぇな……」
「止まないですね〜……」
――ご覧の有様である。
雨が止む気配は一向に見えない。
二人の楽しみを阻み、それをあざ笑うかのように春雨は降り続けていた。
一応雨の中を行こうとすれば行く事は出来る。
だが、デートの途中で雨に降られたのならまだしも最初から雨が降っている中を歩くという状況では盛り上がる物も盛り上がらない。
そもそも時間が時間だ、今から出かけたとしても自由に動ける時間など僅かにしか無い。
結果、二人は家の中で暇な時間を過ごすという休日を送る事となった。
「ちくしょ〜、なんたって今日に限って雨が降るんだよ……」
○○が窓から空を恨めし気に見上げる。
これが人為的な所業であればまだ良かったのだが、人智の及ばない領域の所業であるため、ぶつける矛先が無い怒りと諦めで○○の心は悶々としていた。
「仕方ないですよ〜」
そんな○○を見かねたのかリリーが若干の困り顔を浮かべつつ、少し笑いながら声を掛けた。
お盆にお茶が入った湯呑みを二つ載せ、○○の方へ近づく。
「お茶が入りましたよ○○さん」
「ああ、サンキュ。……アチチッ」
若干苛立っていたのか、お茶の温度を確かめずに飲もうとした○○が熱がる。
それを見てリリーは小さく笑い、自身の湯呑みを持って○○の隣へ座わった。
「それにしても今日は残念だったな、こんな天気になっちまって」
お茶を飲んで少し落ち着いたのか、若干諦めたような声色で○○はリリーに話しかける。
両手で湯呑みを持ってお茶を飲んでいたリリーは、楽しそうに笑いながら答えた。
「そうですね〜……でも、私は嬉しいですよ〜」
「え、なんでだよ?」
「ふふ、だって……」
「だって?……うおぁ!?」
隣に座っていたリリーは素早い身のこなしで、隣に座っていた○○の脚の上へと座った。
○○は丁度胡坐をかく様な体勢だったので、その前にすっぽりと収まる。
そのまま○○に身体を預け、彼女のトレードマークでもあるニコニコ顔で見上げてきた。
「だって、○○さんとずっと一緒にいられるからですよ〜」
「……!?そ、そうかよ……」
予想していなかった直球回答に思わず○○は動揺してしまう。
リリーはこんな恥ずかしい様な事を平気な顔をしてさらっと言いのけてしまう。
今までの付き合いで、リリーがこういう性格でこういう事を言うというのは分かっている。
今まで散々それで振り回され、困惑させられてきた。
だというのに未だに慣れることが出来ない。
気恥ずかしくなったのか、○○は湯呑みに残っていたお茶を一気に呷りながら明後日の方向を向く。
「あ、もしかして恥ずかしがってます?」
「……そんな訳ねぇだろ」
「でも顔や耳が真っ赤になってますよ〜?」
「なってねぇから!!」
言った後で後悔した。
これでは肯定してしまっているのも同然ではないか。
「あ〜、○○さんムキになってます〜。かぁわいい〜」
「あーもう、そんなんならどけよ……!」
図星を指摘され、思わず言葉に力がこもる。
リリーの肩を掴み、脚の上から退かそうとグイと押し出そうとする。
「あっ、ごめんなさいごめんなさい〜。ちょっとからかい過ぎました〜」
「本当に反省してるのかよ……?」
「勿論してますよ〜?」
ニコニコしながらの言葉なので説得力がまるで無い。
だがここでグチグチ文句を言うのも大人気ないと思ったので、仕方なくリリーの肩を押し出すのを止める。
「……ハァ」
どうにも釈然とせず、○○はため息を一つ着いた。
そんな○○の姿をみてリリーは小さく笑った。
「ふふ……でも、私が凄く嬉しいのは本当ですよ〜?」
少し間を空けて、リリーが嬉しそうな声で話し始める。
「勿論外に一緒に遊びに行くのも楽しみにしてましたよ〜。でも、こうやって大好きな○○さんとずっと一緒に居られるだけでも私は嬉しいんです」
そう言いながらリリーは○○の手に自身の手を合わせ、掌同士を重ね合わせてきた。
今回も不意の行動ではあったが、不思議と動揺しなかった。
先ほど盛大に動揺したというのもあるかもしれないが、彼女の穏やかな雰囲気で落ち着いていられたのかもしれない。
手を握ってくるリリーの手はとてもあたたかかった。
あたたかくて、そして柔らかい。
まるで穏やかに、そして優しく包み込んでくれる春の様な――そんな感触だと○○は思った。
この心地良い感触をもっと感じたいと思ったのか、○○もいつの間にかリリーの手を握り返していた。
「リリーの手はあったかいな」
「そうですか〜?○○さんの手もおっきくてあったかいですよ?」
嬉しかったのか、リリーが小さく笑う。
不思議と気分が落ち着いていた。
今ならこっ恥ずかしい事も言えるかもしれない。
覚悟を決めた○○は、一度ゆっくりと息を吸った。
そして、握っている手の力をほんの少しだけ強めながら言った。
「俺も……リリーと一緒に居られて嬉しいよ」
「……はい!」
リリーはその言葉に満面の笑顔を浮かべた。
だが、見ると彼女の頬も紅潮していた。
やはりリリーも恥ずかしかったのだろうか?
それでも、リリーは自分の気持ちを率直に自分へ伝えてくれた。
そう考えると、愛おしいと思う気持ちが○○の中で生まれる。
「んんっ……!?○○さん……?」
思わずリリーの身体を抱き寄せていた。
繋いでいた手を離し、リリーの身体を腕でギュッと抱きしめる。
「こうしたくなった。……嫌だったか?」
「そんな事無いですよ〜、ちょっとびっくりしちゃいましたけど」
リリーが嬉しそうに笑いながら答えた。
彼女も自身の身体を抱きしめる○○の腕を掴む。
そのまま身体の力を抜いて○○の身体に身を預けてきた。
どうやら嫌では無いというのは本当らしい。
ならば躊躇う事は無い。
彼女を抱きしめる腕から伝わる感触を存分に楽しむことにしよう。
しかし、これだけでは少し物足りない気がする。
折角久しぶりに一緒に居られるのだから、もっと楽しみたい。
しかし、春雨がそれを拒んでいる。
何か良い考えはないか――そう思っている時にリリーが声を掛けてきた。
「○○さん、お話しませんか?」
「お話し?」
「そうです、最近○○さんとあんまりお話し出来てなかったからいっぱいお話ししたいです」
その案を聞いて○○は少し考える。
――悪くない案だ。
一人納得して小さく頷く。
この状況下で他に出来る事というのも思いつかないし、それに単純に○○もリリーと話をしたいと思ったからだ。
「……そうだな、それも良いかもな。じゃあ何を話すか?」
「何でも良いですよ〜、最近の○○さんの話とか」
「別に俺の話聞いても面白くないだろ……まあいいや、その代わり後でリリーの話も聞かせてくれよ?どんな風に幻想郷に春を伝えたのか、その時どんな景色を見たのかとか」
「ふふ、良いですよ〜」
そうして二人はゆっくりと始めた。
今まで触れ合えなかった空白の時間を埋めるかの様に――。
二人は様々な事を語り合った。
互いが忙しくて中々時間を合わせられなかった時、どんな事があったのか。
どんな物を見たのか。
リリーが話す幻想郷中に春を届ける時の話は○○にとってとても新鮮なものだった。
何しろ○○は空が飛べないのだ。
空から見た幻想郷の光景の話を聞くだけでも不思議と心が躍るのを感じた。
また、○○が質問をするとリリーは嬉しそうにその質問に答えていた。
自分の話を聞いてもらえて、自身が感動した事を大好きな人も共感してくれているのが嬉しいのかもしれない。
だが、話を聴くのが楽しいのは○○だけでは無いらしい。
リリーもまた、○○の話をとても楽しんでいた。
○○の人里での過ごし方や仕事の内容――彼にとって他愛も無い話ですらリリーは楽しそうに聞いていた。
人間と妖精では感じる感覚や、生活の形態が違うというのもあるのかもしれない。
他愛の無い話でも、聞き手が楽しそうに思ってくれるのは人間誰もしも嬉しいものである。
特に男というものはその傾向が強い。
○○が自慢気に話をし始めるのも無理は無かった。
やがて話す内容が段々と無くなり、しばしば会話の途中で沈黙が訪れる様になってきた。
だが、その沈黙は気まずさが伴うものでは無かった。
会話が途切れた時は互いの感触を確かめる様に軽くじゃれ合った。
手のひらをくすぐってみたり、髪の毛を指で弄んでみたりと。
「静かですね……」
「そうだな」
辺りを支配していたのは僅かな静寂だった。
物音一つしない静かな空間。
しかし、耳を澄ませばしとしとと降る雨の音や木や屋根から滴る水音が僅かに聞こえる。
微睡むような静かな空間がとても心地良かった。
どの位経っただろうか。
曇っているせいで太陽が見えない為時間が分からないが、半刻は優に経っただろうか。
そんな事を○○が考えていると、腕の中に収まっていたリリーが軽く身じろいだ。
動きたいのかと思い腕の力を緩めると、リリーは身体を振り向かせ○○と向かい合うような形になった。
○○の胸板に手を当て、ゆっくりと身体を近づける。
そのまま○○の顔に、自身の顔を近づけている。
「ちょ、おい……!?」
思いがけない行動に○○が狼狽する。
そんな○○の反応が可笑しかったのか、リリーは小さく笑うとゆっくりと目を閉じた。
更に顔同士を近づけてきた。
そこでようやく○○は理解した。
リリーが何をしようとしているのか。
理解したその瞬間、二人の唇は重なり合った――。
唇に感じた感触はとても柔らかく、そして温かい感触だった。
久しく体験していなかった感触。
その感触はとても幸せな感触で、もっと欲しくなる。
無意識の内に○○はリリーの腰に手を回して抱き寄せていた。
暫く感触を楽しんだ後、リリーがゆっくりと顔を離した。
唇に残った感触がとても名残惜しく感じられた。
「んっ……はぁ……」
リリーが熱っぽい吐息を漏らし、はにかむ。
「えへへ、キス……しちゃいました」
照れ笑いを浮かべながらリリーは言った。
そんなリリーを見て、○○も釣られて小さく笑う。
「どうしたんだよ急に?」
「う〜んと、特に深い理由はありませんよ〜?ただ、○○さんとこうやってずっと一緒に居られてお話し出来る事が凄く幸せだな〜って思って、そう思ったらいつも間にかキスしちゃってました」
「なんだそりゃ」
思わず○○は半笑いを浮かべた。
理由が理由になっているのか正直よく分からない。
ただ、そんな所もリリーらしいな、と思った。
「もしかして嫌、でしたか……?」
○○の半笑いを苦笑と勘違いしたのか、不安そうな目で見上げてくる。
まさか、そんな事があるはずが無い。
恋人とキスをして嫌だと思う男などいる訳が無いのだ。
それでも不安そうにしているリリーを見ていたら、なんだか愛おしく思えて○○は思わず笑みを浮かべた。
安心させようと優しく頭を撫でてやる。
心地良いのかリリーが目を細めた。
「そんな訳無いだろ。そんな不安そうにするなよ」
「はあぁ……良かったです〜……。いきなりだったから嫌だったらどうしようって思って」
先程まで不安そうだった顔に笑みがこぼれる。
安心したのか、リリーは脱力して頭を○○の肩に乗せた。
彼女が屈託の無い笑みを浮かべる。
「まあ、確かにビックリはしたけどな」
「えへへ、ごめんなさい。どうしてもしたくなっちゃって」
「するのは良いんだけどさ、せめて何か一言言っては欲しいんだけどな。その、色々と、焦る」
「ええと、じゃあ……」
するとリリーは少し頭を上げた。
何か迷っているのか、伏し目がちにしながらもチラチラこちらを見てくる。
やがて決心が付いたのか顔を上げ、○○の目を見る。
そしてはにかみながらリリーは言った。
「もう一度キスしても……良いですか……?」
「え……?」
思わず変な声が出てしまった。
○○はぽかんとした顔でリリーを見る。
「ええと、駄目……ですか?」
その表情をどう受け取ったのか分からないが、またもリリーは不安そうな声で聞いてくる。
そんな様子の彼女を見て、○○は内心でほくそ笑んだ。
先程いきなりキスをしてきておいて、今度は律儀に許可を求めてくる姿がちょっと可笑しかったからだ。
キスする前に一言言ってくれと言ったのは確かにこちらなのだが。
(ったく、しょうがねぇな……)
キスする事は嫌じゃないという旨は先程伝えたばかりだ。
する事も良いというのも伝えた。
しかし同じ事を繰り返して言うつもりも無かったし、言うのも少し気恥ずかしかった。
だから――。
「○○さん?……んむっ――!?」
――だから、行動で示す事にした。
リリーの腰に添えていた右手を彼女の後頭部に移動させ、ぐいとこちら側に引き寄せた。
そして、引き寄せた唇をこちらの唇で塞いだのだ。
いきなりの事にリリーの身体は硬直し、目を見開く。
だが少し経つと何をされたのか理解し、ゆっくりと目を閉じる。
身体の緊張を解き、○○に身を委ねる様に彼の身体へとしなだれかかる。
その様子を見て○○は後頭部に添えていた手をゆっくりと腰に添えた。
不意に○○は触れ合っている唇を動かし、リリーのそれを軽く挟んだ。
そのまま舌先で軽くくすぐる。
こそばゆい感触に反応したのか、リリーは一瞬身体をビクリと震わせた。
やがて、リリーも同じ事をし返してきた。
「ちゅぷ……んちゅ……」
リリーに唇を舐められ、ゾクリとした感覚が背筋を走った。
くすぐったさで思わず熱い吐息が漏れる。
その感覚が○○の興奮を掻き立てる。
段々と今のキスでは物足りなくなってくる。
もっと激しい、もっと濃厚な――という欲求が湧き上がってきた。
そんな時、不意に互いの唇を舐め合っていた舌先同士が触れ合った。
それが合図だった。
始めは舌先だけで互いのそれを擽り合う。
やがてどちらからともなく舌と舌を絡ませ始めた。
「はぁむ……ちゅる……んく」
弾けるような水音を発していたキスは、いつの間にか粘ついた淫らな水音を発するようになっていた。
先に動いたのは○○の方だった。
舌先同士が触れ合う程度に突き出していた舌を、リリーの口へ潜り込ませたのだ。
そのままリリーの歯茎を軽くなぞる。
「んんっ……!」
くすぐったいような感触に、リリーが思わず声を漏らす。
思わず身体が硬直し、○○の胸元の服を握っている手に力が入る。
その可愛らしい反応が○○の本能を昂らせた。
――もっとこの女を自分の物にしたい。
――もっとこの女をよがらせたい。
そう思った○○は無意識の内にリリーを押し倒し、組み伏せていた。
いきなりの事に思わずリリーも目を見開く。
だが、すぐに状況を理解すると再びゆっくりと目を閉じた。
まるで○○からの行為を全て受け入れるかのように。
それを知ってか知らずか、○○の興奮は更に高まった。
大好きな女を組み伏せているというこの状況が酷く扇情的に思えたからだ。
男なら誰しもが一度は妄想するシチュエーションである故、致し方ない事なのかもしれない。
○○は本能に従って舌をリリーの咥内へ捻じ込む。
そこにはリリーの意思など無い。
彼女の咥内を凌辱せんと、リリーの舌を自身のそれで弄る。
絡め合うだけでなく、吸いたてて唇で挟んで愛撫してやる。
与えられる快感と感触に、リリーは嬌声を上げる。
しかし口を塞がれていたので、それはくぐもった声にしかならない。
もはや彼女はなすがままであった。
だが、リリーはそれがとても嬉しく思えた。
自分の大好きな男性が自分に夢中になってくれている事、興奮してくれている事。
その嬉しさが思わず身体の反応にも出た。
「――ッ!!」
不意にリリーは身体をビクンッと大きく痙攣させた。
全身に力が入り、身体が弓の様に反り、四肢が硬直する。
引き攣る様な矯正が○○の口の中で響いた。
軽く達してしまったらしい。
まだ快楽の波が押し寄せるのか暫く身体を小刻みに痙攣させていたリリーだったが、やがてくたりと全身から力が抜けた。
○○はその様子を見てゆっくりと顔を離した。
ぬらぬらと光る舌と舌の間に銀色の糸が架かる。
それが二人のキス――そんな生易しい表現で良いのかは分からないが――の濃厚さ、激しさを物語っていた。
今更になって自分が呼吸も気にせずにキスをしていた事を思い出した。
息苦しさを覚えて荒い呼吸をして息を整える。
それはリリーも同様の様だ。
尤も彼女の場合は呼吸を許してもらえない状況だった、と言った方が正しいのかもしれないが。
(……少し苛め過ぎてしまっただろうか?)
思わず良心の呵責に苛まれる。
いくら夢中になっていたとはいえ、もう少し彼女を気遣ってあげるべきだったかもしれない。
謝罪の意も込め、先程までの行為が嘘のような優しさでリリーの頬を撫でてやる。
その感触が気持ち良かったのか、蕩けた笑みをふにゃりを浮かべた。
トロンとした目でこちらを見つめてくる。
力無く投げ出された四肢、呼吸の度に上下する胸、僅かに開いた唇から漏れる熱っぽい吐息、紅く染まった頬、そして涙で潤んだ瞳。
それら全てが扇情的に見え、○○の雄の本能を刺激する。
思わず唾を飲み込んだ。
先程自省したばかりだというのに一体自分は何を考えているのかと、自分に嫌悪感を覚える。
だが、今目の前に組み伏せている女を自分が求めているのも事実だ。
○○の中でリリーを大事にしたいという理性と、快楽を貪り尽くしたい本能がせめぎ合う。
その激闘の弊害か、思わず○○の動きが止まる。
○○の表情から何かを察したのだろうか、リリーは微笑むと自身の頭の横に突かれている○○の腕を掴んだ。
「……リリー?」
突然の行動に○○は声を絞り出してリリーに声を掛けた。
しかしリリーは何も言わずにそのまま腕を引っ張ろうとする。
不思議に思った○○は腕の力を抜き、リリーの好きにさせる事にした。
彼女はそのまま腕を自分の身体の前まで持ってくると、両手で○○の腕を握り直した。
そして――○○の手を自分の胸へと押し当てさせた。
「なっ――!?」
想像もしていなかった行動に○○は動揺する。
押し当てられた手には、衣服とその下の下着を挟んでも分かる魅力的な柔らかい感触が伝わってきた。
それは世の全ての男性が求めて止まぬ、最高級の柔らかさ。
普段は着痩せしている為あまり分からないが、その豊満な胸が十二分にその感触を伝えてくる。
思わず本能的反射的に手で揉みしだきそうになる。
だが、寸での所でその動きを止めた。
理性、奇跡の健闘である。
一体どういうつもりなのか、そう問い詰めようとしたその時――。
「我慢しなくて良いんですよ……?」
リリーが先に小さく囁いた。
熱に浮かされたその囁きは妙に艶っぽく感じられ、○○の脳を直接揺さぶる。
「リリーでいっぱい気持ち良くなってください……」
慈愛に満ちた笑みを浮かせながらリリーはそう続けた。
その言葉に○○の中の雄としての本能が解き放たれそうになった。
一切の情け容赦無く、自分本位の快楽を享受するためにリリーを犯したい衝動が○○の中を駆け巡る。
だが、○○はその衝動を抑え込んだ。
「違うだろ……」
「え……?」
震える声を絞り出す。
「『俺が気持ち良くなる』じゃない。お前も気持ち良くなる、だろ……?」
先程のリリーの言葉は○○に気持ち良くなってもらいたいという思い遣りの言葉だった。
だが、そうでは無い。
愛し合うというのは互いが相手の事を思い遣る事によって初めて実現される。
その想いが一方通行では駄目なのだ。
だから○○は言ったのだ。
『お前も気持ち良くなる』と。
一瞬どういう事なのかとポカンとしていたリリーだったが、すぐに意味を理解したようだ。
とても幸せそうで、蕩けた微笑みを浮かべた。
「○○さぁん……」
リリーが甘えたような声を出す。
○○の手首を掴んでいた手を離し、○○の方に向かって伸ばしてきた。
その両手は○○の顔を挟んだ。
両手から頬に体温が伝わってくる。
興奮しているからだろうか、いつものリリーの体温より高く感じる。
今はその体温がとても愛おしく思えた。
リリーがゆっくりと顔を引き寄せてきた。
○○はそれに逆らわずに顔を彼女のそれに近づける。
やがて、息が触れ合う程の距離になった。
リリーの瞳に自分の顔が僅かに反射して見えた。
恐らくリリーも同じ物を見ているのだろう。
もう彼女の顔しか見えない。
彼女の顔以外、目に入らない。
「大好きですよぉ〜……」
「俺も大好きだよ……」
そして二人はどちらからともなく唇を重ねた。
今度はどちらかからの一方的なキスでは無い。
お互いがお互いを本気で求め合うキスだった。
繋がった二人の咥内で舌が軟体動物の様に蠢き、絡み合う。
粘ついた唾液が存分にまぶせられた舌同士の絡みは、ヌルヌルとした独特の感触を産み出す。
絡み合わせてもぬるりと解けてしまう感触が興奮を煽る。
暫く濃厚なキスを楽しむと、○○は口を離した。
そのまま彼女の首筋に唇を這わす。
「ひゃぅ……!んっ……」
突然のこそばゆい感覚に、リリーは嬌声を漏らした。
唇で首筋を啄み、舌で舐める。
たまに音を立てて吸いたててみる。
吸いたてる度にリリーは声を漏らし、身体を震わせた。
快感に耐える為か、思わず四肢が縮こまる。
無意識の内に脚も閉じそうになったが、その前に○○が膝を彼女の脚の間に差し入れて阻止した。
「んぁ……○○さぁん……」
リリーが切なげな声を漏らす。
○○が首筋から口を離し、リリーの顔を見た。
潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。
その表情はまるで欲しいものをおあずけにされ、たまらなく懇願する子供の様であった。
思わず○○の中の嗜虐心が鎌首をもたげる。
我慢の限界が近いのは、彼もまた同じであった。
「……良いか?」
何が、とは言わない。
今自分とリリーが求めている事は同じだと思ったからだ。
リリーも分かったのだろう。
何も言わずに小さく頷き、嬉しそうな笑みを浮かべた。
彼女の意志も確認した○○は、リリーの服に手を掛けた。
「脱がすぞ?」
確認を取っているようだが、その口調には有無を言わさない強さがあった。
形だけの確認を取った○○はリリーの服を脱がせ始めた。
「あ、あぅ……」
リリーが恥ずかしそうに声を漏らす。
いくら了承していると言っても、やはり裸になるのは恥ずかしいのかもしれない。
だが、彼女は抵抗せずに○○による脱衣を受け入れていた。
程無くしてリリーは一糸纏わぬ姿となった。
彼女の肌は、興奮と羞恥の為か薄く朱色に染まっていた。
白く透き通るような柔肌とのコントラストが美しく見えた。
それ以外にもたわわに実った乳房、男を無意識の内に誘う淫靡な割れ目。
いずれも○○の興奮を高め、獣欲を昂らせる。
股間に血流が集まってくる。
思わず○○は唾を飲み、喉を鳴らした。
無意識の内に口角が上がり、笑いが込み上げてくる。
これから自分はこの女をかき抱き、自分の好きなように出来る。
そう考えるだけで目がギラつき、呼吸が荒くなるのが自分でも分かった。
今の状態を状況を知らない人が見たら、『幼気な少女を凌辱しようとしている』という風にしか見えなかっただろう。
「○、○○さん……目が怖いですよぉ〜……」
○○の笑みに何か不穏な物を感じ取ったのか、リリーが若干顔を引き攣らせながら困ったような笑みを浮かべる。
彼女に指摘され自分のがっつき具合を認識した○○は、一度手で顔を覆うと自分を落ち着かせるために顔をごしごしと揉んだ。
冷静になると後から遅れて微妙な気恥ずかしさが込み上げてきた。
「そ、そんな事無い、だろ……」
否定はしてみたが、自覚がある分語尾が弱々しくなってしまった。
思わず視線が泳ぐ。
そんな○○の姿が可笑しかったのか、リリーはクスクスと笑った。
つられて○○も小さく笑う。
二人でひとしきり笑い合うと、再び見つめ合う。
先程までの興奮が嘘のように、心が落ち着いていた。
笑った事で気分が解れたのかも知れない。
無論全く興奮していないという訳では無いが。
「良いか?」
改めてリリーに問いかける。
だが、彼女は少し不満そうな顔をした。
「○○さんも……」
「ん、俺も……?」
「○○さんも、脱いでください……私だけなんてズルイですよ〜……」
確かにリリーに対して自分の方は服を全く脱いでいなかった。
どうせこれからする事をする上で下の着物は脱ぐつもりだったのだが、そういう訳でも無いだろう。
(つまりこっちも全裸になれって事ね……)
今更ここまで来たら些細な問題だと思うが、どうやらそれでは彼女の気が収まらないらしい。
「へいへい、分かりましたよ」
リリーの言葉に従い、○○も服を脱ぎ始めた。
流石に恥ずかしいから脱げないという事も無いが、やはりじっと見つめられながら服を脱ぐのは慣れる物では無かった。
――特に下の着物を脱ぐ時は。
程無くして○○も一糸纏わぬ姿になった。
股間にある男性の象徴そのものであるそれは、既に臨戦態勢であった。
赤黒く怒張し、獲物を求める蛇のように鎌首をもたげている。
今の○○を端的に物語っていた。
それを見てリリーは思わず息を飲んだ。
もうすぐあれが自分の中に入ってくる。
既に何回も経験している事なのに、未だにあれほど大きい物が自分の中に入ってくるという事が信じられなかった。
だが、躰は憶えている。
『あれ』に貫かれる事によって与えられる全身を駆け巡る快感を。
それを想像するだけで思わず身体が震えた。
「リリー?おい、リリー?」
「ふぇっ!?な、なんですか?」
物思いに耽っている時に不意に声を掛けられ、思わずリリーは変な声を出してしまった。
そんな彼女を見て○○は少し怪訝な顔をする。
「いや、俺も脱いだんだが」
「そ、そうですね〜、あはは……」
「……変な奴」
流石に○○の男性器に見惚れていたなんてことは言えずに、慌てたように笑顔で誤魔化した。
○○としてはリリーの変な反応が気になったが、大した事じゃないだろうと思ったので無視することにした。
改めて全裸のリリーの上に覆い被さる。
先程まで二人の間を隔てていた衣服が無くなり、より直接的に彼女を感じられる気がして、○○の興奮が高まる。
一方のリリーも先程までは衣服に隠れて見えなかった○○の肉体が見え、思わず胸がときめく。
つまり、二人とも我慢の限界だった。
○○が怒張した陰茎をリリーの秘所へ押し当てる。
「んっ……」
くちゅ、と淫らな水音がした。
秘所に与えられた感触にリリーが甘い声を漏らし、一瞬身体を痙攣させる。
準備が整っているのは明らかだった。
「挿れるぞ……?」
正直今すぐにでも挿れてしまいたかった。
だが、それは最後に残った理性が押し留めた。
流石に確認も取らずに挿れてしまうのは男としてどうなんだと思ったからである。
リリーは恍惚とした笑みを浮かべながらゆっくりと頷いた。
彼女もこれから行われる行為に期待を膨らませているようだった。
リリーの了承も得た○○は遂に腰をゆっくりとと突き出し始めた。
○○の陰茎がリリーの秘所に突き入れられる。
「はあぁ、あぁ……」
待ちわびていた快感が与えられ、リリーは歓喜に震えた息を吐く。
○○が自分の中に押し込まれてくるのにつれ、身体中を快感が駆け巡る。
身体がビクビクと痙攣するのを抑えられない。
四肢に力が入り、ピンと突っ張る。
ただ挿入しただけだというのに、リリーを襲っている快楽の波は相当な物の様であった。
もっとも想像以上の気持ち良さを実感しているのは○○も同じであった。
(クッ……スゲェ気持ちいい……)
リリーと愛の営みをする度に○○は驚かされる。
リリーの膣内は蕩ける様に柔らかく、○○を難なく受け入れる。
だが同時に強烈な締め付けも行い、彼に想像を絶する快感を与えるのだ。
油断していたら挿入した瞬間に絶頂してしまっていたかもしれない。
強烈な快感は一瞬の快楽を与えるが、すぐにその快楽を渇望する欲求が襲い掛かる。
何も考えず猿の様に腰を振っていたらどれだけ気持ち良いだろうか。
だが、そんな事をしたらすぐに果ててしまう事は分かり切っていた。
自分だけが気持ち良くなって終わりという訳にはいかないのだ。
だから○○は理性で必死に雄の本能を抑え込む。
そのままゆっくりと自身の分身をリリーの奥深くまで突き入れていった。
やがて陰茎の先に僅かな抵抗を感じた。
どうやら最奥にまでたどり着いたらしい。
一度そこで動きを止める。
リリーの顔を見ると今にも泣きそう顔をしていた。
だが、それは勿論苦痛があるからという訳では無い。
むしろ逆で、押し寄せる快感に押し流されないよう必死に耐えているからだ。
それを見た○○は僅かに頬を緩ませた。
(そんな必死に我慢しなくても良いんだけどな……)
身体の緊張を解してやる意味も込めて、○○はリリーの頬へ手を伸ばした。
手で頬を軽く撫でてやると、リリーの表情が少しだけ和らぐ。
ほっとしたのか、一度息を震わせながらゆっくりと吐き出した。
「動くぞ……」
宣言した後、ゆっくりと腰を引いて陰茎を引き抜いていく。
膣内の襞が逃すまいと絡みつき、突き入れている時以上の快感が○○を襲う。
思わず唸るような呻き声が出た。
歯を食いしばって快感によって止まりそうになる身体を動かす。
快感に翻弄されているのはリリーも同じ様であった。
○○の陰茎のカリ首が彼女の膣壁や絡みついてくる襞を刮ぎ取ろうと言わんばかりに刺激する。
挿れる時より遥かに強烈な快感に、リリーは思わず嬌声を上げた。
だが、○○は止まらない。
腰を引いていき、抜ける寸前まで来たら再び突き入れていく。
そして、次第にその速度は速くなっていった。
もっと快楽が欲しい、もっとこの女を啼かせたい――。
最早○○の頭の中にはそれしか無かった。
興奮した獣の様に荒い呼吸を繰り返す。
その容赦無い責めに晒されたリリーはあっという間に絶頂寸前にまで追いやられた。
身体を引き攣らせ、四肢が小刻みに痙攣する。
口から零れる嬌声を止める事はもはや出来なかった。
リリーが縋る様な目でこちらを見つめてくる。
あまりの快感の為か、零れた涙が目元を濡らしていた。
ゆっくりと、そして必死にリリーが手を○○のそれに伸ばしてきた。
「○○、さん……んぁっ……」
泣きそうな声で○○の名を呼ぶ。
本能的に○○はリリーの手を握った。
彼女もそれを待ち望んでいたかのようにしっかりと握り返す。
「私、もう……イッちゃ、あっ……!!」
「そうかよ……!」
○○は腰を動かす速度を少し緩めた。
そしてリリーの耳元に口を近づけて囁いた。
「イケよ、イッちまえ……!!」
その言葉を切っ掛けに腰の動きを先程以上にして動かし始めた。
「○○さ、あっ、あっ、あっ……!!」
先程の速度ですら耐え切れないほどの快感を与えられていたのだ。
それ以上の速度で突かれてしまったら、最早リリーに耐えきれる訳が無かった。
そして――。
「あんっ、あっ、イッ……――ッ!!」
彼女は絶頂を迎えた。
圧倒的な快感の波がリリーを襲い、押し流す。
それと同時に彼女の膣も締り、精を搾り取ろうとしてきた。
だが、○○の方は絶頂に達するには今一歩及ばなかった。
それでも、リリーの絶頂があと少し遅かったら共に絶頂まで押し上げられていた事だろう。
快楽という海に投げ出された彼女に出来る事は、ただただ襲いくる快楽を受け入れ、耐える事だけだった。
○○のそれを握っていた手に力が入り、ギュッと掴む。
それはまるで必死に快感の波にさらわれない様にしているようだった。
認識出来るか分からないが、○○も手に力を入れ強く握り返してやった。
しばらく暴力的とも言える快楽の波に弄ばれていたリリーだが、やがてその波もゆっくりと引いてきたらしい。
ピンと強張っていた全身から徐々に力が抜けていく。
脱力しきって不足した酸素を求め、息を震わせながら荒い呼吸を繰り返す。
意識が少し朦朧としているのか、目の焦点が合っていないようだった。
額には汗が滲み、乱れた髪の毛が張り付いていた。
その姿は扇情的で、普段の彼女からは想像出来ないエロスを感じさせた。
(やべ、可愛い……)
思わず喉を鳴らした。
我慢出来なくなった○○は手で額に張り付いた髪の毛を整えてやると、ゆっくりとリリーの顔に自身のそれを近づけた。
そしてゆっくりと唇を合わせた。
だが、今回はリリーの事も考えてか激しい物では無い。
軽く啄むように唇を吸い、舌先で擽る様に舐める。
「んん……ふぅ、ん……ちゅ……」
リリーもその感覚は分かったらしい。
それとも本能的にだろうか。
緩慢な動きではあるが、その動きに合わせてゆっくりと唇を動かす。
彼女の息が整うまで、二人はそうしていた。
暫くじゃれ合うようなキスを楽しんだ二人は、ゆっくりと顔を離した。
雨音に包まれた室内に二人の荒い息遣いだけが広がる
「ん……○○さん……」
リリーが蕩けた笑みを浮かべた。
まだ快感の余韻が続いてるのか、時折身体を小さく震わせている。
「凄く……気持ち良かったです……」
「そりゃ、良かった……」
――実際の所、あまり良くは無い。
リリーの方は絶頂を迎えた訳だが、こちらとしてはお預けを食らっている状態なのだ。
彼女の膣内にある自身の分身は未だに硬いままである。
○○と同じく、こちらもまだ満足していないようだった。
先程まで強烈な快感を味わっていた○○にこれ以上我慢するという事は出来る訳無かった。
だから彼は今まで散々抑え込んできた己の本能に少しだけ身を委ねることにした。
「悪いリリー、もう我慢出来そうもない……!」
「え……?ひゃあ!?」
○○はリリーの脇の下辺りを掴むと、そのまま彼女の身体を引き起こした。
彼女の方はいきなりだったという事と、絶頂の余韻で上手く力が入らなかった為、為すがままであった。
そのまま自分の身体と密着するように抱き寄せる。
勿論、二人の身体は未だに繋がったままだ。
結果として二人は対面座位の形になる。
先程までの正常位とは違い、対面座位は自重の影響をかなり受ける。
今の力が入らない彼女の身体で、重力に抗える訳が無かった。
○○の陰茎に貫かれているリリーの身体は沈み込む事となる。
それはリリーの膣内の最奥に今まで以上の強さで○○の陰茎が押し付けられる事を意味していた。
「あ、ああぁ――!!」
軽く押し付けるだけで絶大な快感を感じるのだ。
重力による押し付けで起こる快感はそれと比べ物になる物では無かった。
絶頂に達したばかりだったというのに、再び押し上げられていく。
更に○○が腰を突き上げ、その度にリリーの最奥をズンズンと刺激する。
突き上げられる度にリリーの全身を想像を絶する快感が電流の様に走った。
彼女に出来るのは、ただ啼く事だけであった。
「○、○さ……奥、すご……気持ち、良すぎて……!!」
あまりの快感のせいか、言葉がたどたどしかった。
「もうちょっと、我慢してくれ……!!辛かったら、しがみ付いても良いから……!!」
荒い呼吸をしながら○○が言った。
彼の言う通りにしようと思ったのか、リリーが腕を○○の首に回してきた。
そのまま強い力で○○にしがみ付く。
まるであまりの快楽に意識を失わないよう必死に耐えているようにも見えた。
「ごめん、なさい……!」
突然リリーが謝罪の言葉を口にした。
「ど、どうしたんだよいきなり」
全く想像していなかった謝罪の言葉に、○○は思わず狼狽する。
何かリリーに気負わせるような事をしてしまっただろうか?
腰の動きを止め、何か心当たりが無いか必死に思考を巡らす。
○○が心当たりを思い出そうとしていたら、今まで彼の肩口に顔を埋めていたリリーが顔を上げた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、快楽によって完全に蕩けていた。
最早意識を保っているので精一杯といった感じだ。
それでも必死に身体を震わせながら、○○の顔を見つめながら、リリーは口を開いた。
「私ばっかり、気持ち良くなって……○○さんに何も、して、あげられて、無い、です……!!」
声を震わせ、快感に喘ぎながらリリーは言葉を紡いだ。
その言葉を聞いた○○は、胸をきゅうと締め付けられた。
嗜虐心や性的欲求の要素など一切無い。
ただただ愛おしさだけが込み上げてくる。
この娘は自分の事をこんなに想ってくれている。
あまつさえ自分が気持ち良くなってしまっている事に罪悪感さえ感じてしまっている。
そんな風に想って貰えてこれ以上の幸せは無い様に思えた。
思わず目頭が熱くなる。
○○はリリーの身体を強く抱きしめた。
出そうになっている涙を見られたくなかったというのもあったが、とにかく抱きしめたかったのだ。
彼女の頭の後ろに手を回し、優しく撫でてやる。
「そんな事ねぇよ。俺も、メッチャ気持ち良いから……」
「そう、なんですか……?」
「当たり前だろ……だって……」
○○は止めていた腰を軽く動かした。
未だリリーの膣内で硬さを保っている陰茎が動き、彼女を刺激する。
その快感にリリーは可愛らしく喘いだ。
「こんなになってるってのはそれだけ気持ち良いって事なんだよ。だから、お前が申し訳無いとかそんな事思わなくて良いんだよ……」
「……はい」
赤子をあやすように、優しく頭や背中を撫でながら○○は言う。
その言葉と撫でられる感触に安心したのか、リリーは小さく頷いた。
「でも……」
でも、○○はまだ一度も絶頂していない。
それを引け目に思ってしまう事は彼自身もなんとなく分かっていた。
だから○○は言葉を遮って言った。
「分かってる、『お前だけが気持ち良くなる』じゃない。『俺も気持ち良くなる』、だろ……?だから――」
一旦言葉を区切る。
そして耳元に口を近づけ、囁いた。
「だから、二人で一緒に気持ち良くなろう、な……?」
「……!はい……!」
安堵したのか、リリーは穏やかで嬉しそうな笑みを浮かべた。
目尻に溜まっていた涙が滴となって頬を伝わり落ちる。
もはや二人に理性など必要無かった。
互いに快楽を求める生物としての本能、それさえあれば十分だった。
○○が止めていた腰を再び動かし始める。
リリーの身体を快感が襲うが、今の彼女はそれ以上を求めていた。
僅かながらリリーも腰を艶めかしく前後させ、○○の行為を手伝う。
だが、それは自身が快楽を貪りたいという訳だけでは無かった。
自分が動く事によって○○も気持ち良くなって欲しい。
自分だけでなく、彼にも気持ち良くなって欲しいという想いがリリーの身体を動かしていた。
勿論、自身も問答無用で絶頂へと押し上げられていく。
互いに絶頂が近いのは明白であった。
そこからの二人の行為はもはや獣の交尾と言っても過言では無かった。
口から漏れる声には言葉としての意味を為さない。
感じる快感に対して本能の赴くまま悶え、呻き、慄き、唸り、喘ぐだけであった。
口から涎が垂れ、全身から汗が吹き出し、下腹部からは淫らな水音が響く。
最早二人の身体がドロドロになって溶け合ってしまうのではないだろうか。
そう思わせるほどの状態であった。
だが、その行為にも終わりが近づく。
リリーは自身の内側より生まれる、今まで以上のナニかの予感を感じた。
「○○さ、ん……私……もうっ……!!」
「ああ……!俺も、もうイキそう、だ……!!」
その予感を感じていたのは、○○も同様であった。
腰を中心にビリビリとした何かが収束していく。
そして、それはもうすぐマグマの様に噴出しようとしていた。
「○○さん……!○○さ、ん……!!」
「リリー……!!」
互いに愛しい人の名を呼び合う。
ただ名前を呼び合う、それだけなのに愛おしさが溢れてきた。
そしてこれが最後と言わんばかりに○○が腰を突き上げた瞬間――。
「あ、ああ……ああぁぁぁ――!!」
――遂にリリーが絶頂を迎えた。
一度目の絶頂とは比べ物にならない快楽の暴力に打ちのめされる。
感じられる感覚は全て快感。
それ以外の感覚をどこかに置いてきてしまったかの様であった。
無意識の内に○○を抱きしめる腕に力が入る。
そうしなければ自身の形を保てない風にすら思えた。
絶頂を迎えた事で、彼女の膣内が精を求めて激しく収縮する。
早く精を吐き出せと言わんばかりに○○の陰茎を刺激し、搾り取ろうとする。
最早○○にその搾精行為に耐え切れるほどの余裕は無かった。
「ぐ、ぅ……!!」
獣のような呻き声を漏らし、○○は自身の欲望を解き放った。
陰茎が脈動し、欲望を吐き出すのに合わせて腰から全身に向かって快感がゾクゾクと走る。
今までかなり我慢してきたせいか、その快感は○○が想像していたよりも遥かに強烈で甘美であった。
思わず快感が全身を走る度に呻き声を漏す。
それでもリリーよりは余裕があるのか、必死に抱き着いてくる彼女に応える様にこちら側も力を入れて抱き返した。
やがて快感の波は徐々に去って行く。
代わりにやってくるのは男性特有の絶頂後の疲労感だ。
怠さに苛まされ、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。
リリーの方も段々と落ち着いてきたようであった。
だが男よりも波の引きが遅いのか、時折身体をビクリと震わせ甘い声を漏らす。
もう力が上手く入らないのか腕がだらりと垂れ下がり、身体を完全に○○に預けていた。
彼の肩口に顔を埋め、ひゅーひゅーと細い息を吐く。
「お、おい大丈夫か?」
思わず心配になり、声を掛ける。
リリーはほんの僅かに頷いた。
「はい……大丈夫、です……」
「……なら良いけども」
大丈夫という事が分かり、○○は安堵の息を付く。
「○○さんも……気持ち良かったですか……?」
「……言わなくても分かるだろ」
「えへへ……良かった……」
再び気恥ずかしさが戻ってきたので、言葉を濁す。
それでもリリーには言葉の意図が伝わったようで、嬉しそうに笑った。
「ったく……」
恥ずかしいのを誤魔化すのと、リリーへの労いと感謝の意味も込めて優しく頭を撫でてやる。
その感触が心地良かったのか、リリーは息を漏らす。
そうしながら二人は事後の甘い時間を過ごした。
やがて快感と興奮が完全に引き、代わりに現れたのが全身に纏わり付く不快感だ。
無理もない、こんな雨の日にあんな運動量の激しい行為をしたのだ。
湿気と汗のせいで全身がべた付いていた。
流石にこの後の事を考えると、ずっとこの状態でいるというのは御免被りたい所であった。
「……風呂でも入るか」
「そうですね……」
リリーも同じ事を考えていたらしい。
(しかしこの雨の中、風呂を沸かさにゃならんのか……)
多少辟易しつつも風呂を沸かす為にリリーから陰茎を引き抜こうとしたその時――。
「○○さん……」
先程まで○○の肩口に顔を埋めていたリリーが顔を上げた。
頬同士を擦り合わせながら耳元に口を近づけ、そして囁いた。
「お風呂でも、一杯気持ち良くなりましょうね……」
「――!?」
背筋にゾクリとした何かが走る。
その囁きは正に男を誘う魔性の声色であった。
さながら虫を誘う食虫花の様に、○○の中の雄の性を惑わす。
思わずリリーの顔を見る。
彼女は僅かに頬を上気させているだけで、普段と変わらないあどけない笑みを浮かべていた。
先程の淫靡な囁きを発したとはとても思えなかった。
あれは偶然だったのか、演技だったのか、あるいは――。
いずれにせよ、一度鎮まった○○の雄としての本能を再び奮い立たせるにはそれだけで十分であった。
「あっ……大きくなりました……」
リリーがうっとりと目を細めた。
耳元であんな声で囁かれて我慢出来る男などいないだろう。
「言ったな……?覚悟しろよ?」
もはや○○は勝手に浮かぶニヤつきを抑えようともしなかった。
それに対してリリーも笑みを浮かべた。
だが、○○は気付かなかった。
笑みを浮かべるリリーの瞳、そこに淫蕩な光が宿っていた事に。
○○は知らなかった。
春の時期の春告精の凄まじさを。
そして春という言葉には『そういう』意味合いも含まれているという事も。
○○はこの後嫌という程実感する事になるのだった――。
「う〜ん……良いお天気ですね〜」
身体をぐぐっと伸ばしながら、リリーは言った。
空は雲一つない蒼穹が広がり、太陽が煌々と輝いていた。
まるで昨日一日自分の輝きを誇示出来なかった鬱憤を晴らすかのような快晴だった。
「○○さん、早く行きましょうよ!」
二人はこれから人里に出掛ける予定なのだ。
昨日は雨で中止になってしまったが、この青天ならば何の問題も無いだろう。
良い天気という事もあって気分が高揚してるのか、リリーがぴょんぴょんと飛び跳ねながら○○を急かす。
その顔は元気はつらつと言った感じで、そして何故か妙につやつやしていた。
「分かったからそんなに急ぐなよ……」
一方小屋の中から出てきた○○の顔はそれとは正反対と言っても良い状態であった。
眼の下にくまが出来ており、表情からも疲労の色が伺い知れた。
その表情が、リリーとのその後の行為の末路を物語っていた。
一緒に風呂に入った○○はそこで予想以上に搾り取られ、更に風呂を出て食事をした後にもリリーに誘われなし崩し的に搾られ、トドメとばかりに就寝時に再び迫られ搾り取られたのであった。
ありとあらゆる性技を駆使して搾られ、身体中のありとあらゆる場所を駆使して搾り取られた。
春の春告精恐るべし――○○の記憶に残っている中で最後に痛感のがそれであった。
そこまで搾り取られてなお自力で起きて歩いているのが奇跡と言っても過言では無かった。
「はは……太陽が、黄色く見えらぁ……」
徹夜明けのテンションよろしく、無意識の内に乾いた笑いが出た。
太陽の眩しさに思わず目を細める。
正直疲労が凄まじいので家でゆっくりしていたい。
だが――。
「ほら○○さん、行きましょう!」
リリーが楽しそうに屈託の無い笑顔で手を伸ばしてくる。
こんな笑顔でお願いされて断れる男などいないだろう。
惚れた弱みだと思って諦める他無かった。
それに、その笑顔を見ていたら少しだけ元気が出てきた。
――本当に少しだけなのだが。
「……分かったよ」
苦笑を浮かべつつ、○○は差し伸べられたリリーの手を握った。
その手は昨日と変わらず暖かく、そして柔らかかった。
そのまま人里へと歩み始める。
空には一日ぶりの煌々と輝く太陽。
だが、○○にはそれよりも隣で笑うリリーの笑顔の方が眩しく輝いて見え、そして愛おしく思えた――。
メガリス Date:2015/05/21 01:53:46
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