東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

古明地こいしがふらりふらりと何処かを歩いているのは珍しくもない光景だ。
幻想郷の常にどこかにいて、そしてどこにいるかは誰にもわからない。
それでも、鳥が止まり木で羽を休めるように、こいしがふらりと帰る場所はある。
地霊殿は勿論その一つだ。そしてこいしが帰る場所でもある。誰かが迎えてくれる温かな場所。
その温かさをこいしはきちんと感じることは出来ないけれども、確かに彼女の帰る場所ではあった。
そしてもう一つ。もう一つだけ、こいしが羽を休める場所があった。
里の外れ、どちらかというと里としては余所者――外来人などが住んでいる辺りの、一つの家。
こいしがいつからかふらりと訪ねるようになった、外聞的には恋人と言っていい青年が住む場所だった。
今日もこいしはそこに向かっている。彼女はその家に自由に出入りすることが出来た。別に無意識に入るわけではない。いつでも入れと合い鍵を渡されているのだった。
よく照る月が空にかかっている。深夜といっていい時間だ。こいしは跳ねるようにその夜の中を歩いている。
彼の家が見えてきて、心なしかその足取りはさらに軽くなったようだった。
こいしは彼の家を止まり木とするかのようによく訪ねていた。何日もいることもある。
それでも、彼の家にやってくるときは、大抵彼がいるときか、昼間に勝手に潜り込むときくらいだった。
夜の、それも彼が寝静まった後に入ってくることなど、今までには例のないことだった。



こいしは音を立てないように家の中に入ると、きちんと戸を閉めた。
上がり込み、帽子を外して、近くの帽子掛けにかける。これもこいしが来るようになって彼が置いてくれたものだった。
入ってきたことに気が付かず、青年は布団に横になって寝息を立てている。不規則な呼吸は、彼が完全に眠っていることを示唆していた。
月明かりだけが差し込む部屋の中で、こいしは布団の隣にちょこんと座り込んだ。
正座をして、彼の顔を覗き込む。よく寝ているな、と何かその心が感じるならばそう思っただろう。
暫く見つめた後、不意に、こいしは青年の口唇を自分の口唇で塞いだ。軽く口付けて、口唇をそっと舐めて、彼を確かめるように、柔らかく口付ける。

「ん、んん……」

一度二度ではすまなかった。少しずつ大胆になりながら、こいしは懸命に口付けを繰り返す。
もどかしくなったのか、彼の上にのしかかって、その口唇を求めた。
いつしか、口唇から唾液が糸のように引き始めている。それにも構わず、今度は少しばかり長い口付けをする。
こいしが彼の甚平に手をかけた。休むときに彼がこれを好むのは知っていた。こいしも好きだった。彼女が泊まるときは、勝手に上着だけを借りて休むのが常だった。
少しばかり肌蹴させて、こいしはその胸板に口付けを落とした。首筋にも軽く食むように口唇を押しつけて、鎖骨から胸元へと口唇を滑らせる。
はあ、と一つ息をついて、青年の様子を確かめるようにのぞき込む。少し眉をひそめているようには見えるが、起きた様子はない。
だが、青年の下腹部は反応し始めているのがわかる。下履きの上からでもわかるそれに、直に触ったらどうなるのだろう、とこいしは何も思わぬ心でぼんやりと考えている。
思考は次から次へと出てくるけれども、それはこいしの中に留まらない。思考は明瞭なのに、それに対する感情をこいしは感じることはない。だからこれはきっと本能に近い。
本能のままに、こいしは彼を求めている。首筋に、胸元に、口付けを落とし続けている。一気に大胆な行動に移れないのは、素の性格が大人しいが故であったかもしれない。
あるいは、恥ずかしいという気持ちが彼女の中にあるとすれば、この躊躇うような行動がそうなのだろう。
随分時間をかけた後、こいしはそっと身体を離し、視線を彼の下半身の方に向ける。

「……ん」

小さな頷きとともにその手が下腹部に伸びて、青年のものに触れた。
堅くなり始めているそれを軽く撫でた後、こいしは身体をずらして、彼のものの正面に陣取る。
下履きをそっと外して、彼のものを解放する。反応し始めているそれを優しく撫でてみる。
微かに震えたのを見て、軽く今度は口付けてみた。口付けるに留まらず、舌を出して舐め始めた。
先端を舐めて、返しの部分に舌を這わせる。そのまま、裏筋をなぞるように、付け根に向かって舐めていく。
付け根までたどり着いて、そこを舐めながら、こいしの唾液で濡れた先端を指先で軽く擦る。
今度は先端に向けて舌を這わす。舌だけを突き出すようにして彼のものを舐めていく。時には、ちろと舌先で擽る。
その度に反応が返ってきて、それを楽しむかのようにこいしは舐めあげた。

「ん……ん」

先端まで戻ってきて、今度は先端から口に含む。こいしには少し大きくて、全部は口の中に入らない。
歯が当たらないように気を付けて、先端から咥えて、少し吸い上げるように舌を絡めて、わざと音が立つように離して。
質量を増してきたそれをもう一度咥えて、跳ねるように中で動いたのを愛おしむように舐めていく。
次は、どこまで咥えられるか、少しずつ口の中に収めていった。咥えていくうちに苦しくなってきて、こいしは、ぷは、と口を離す。こいしの口唇と彼のものの間に、唾液が橋を架けた。
こいしの唾液と月の明かりで妙な光をたたえているそれに、こいしはもう一度触れようとして、寸前でそれを制止された。
驚く間もなく、身体がぐいと引き寄せられる。その力強さに反応する間もなく、口唇を奪われた。

「ん、んんっ!」

こいしの頭を抱えるように腕が回され、しっかりと固定された。口の中に舌が侵入してくる。
戸惑うこいしの舌を追い、絡め取って吸い上げる。ぎゅっとその目が閉じられた。口の中の感じる場所を責められ始めたからだった。

「んん、ん、んう……っ」

たっぷりと口内を蹂躙され、解放された後にこいしは空気を求めるように大きく息を吸った。
潤む目を開けば、いつ目を覚ましていたのか、青年が真剣な瞳でこいしを見ていた。瞳の奥には、獣欲に近いものが漂っている。
当然だった。彼にとっては恋い焦がれて止まない――そんな表現すら生温い感情を抱いている相手が、奉仕するように触れていればそうもなる。

「何をしていた」

声に、こいしは首を傾げる。本当だった。どうしてこんなことをしていたのか、こいしにとってさえ不明瞭なのだ。
ただそれであっても、彼にこうしたかったことだけは確かだった。

「何と、なく。貴方に、こうしたくて」

そうかと青年は答えて、再びこいしの口唇を奪った。こいしの抵抗を許さない乱暴な口付けをした後、こいしを組み敷く。
こいしは何をされるのか理解した表情で、だがぼんやりとした瞳で彼を見上げた。閉じた第三の目が、ゆらりと揺れる。

「おしごと、は?」
「知ったことか」

お前の所為だ、と責任を押しつけて、青年はこいしの服に手をかけた。こいしは抵抗しない。
破り取られなかったのは、青年の理性が何とかブレーキをかけた結果だった。
片手でこいしの両手を彼女の頭の上で拘束し、もう片方の手で脱がしていく。慣れた手つきなのは、もうこれが数え切れない回数繰り返されているからだった。
肌蹴させられた胸元に、青年の口唇が下りてくる。あ、あ、と甘い声を上げて、こいしはその口唇が自分の肌をなぞり、時に強く吸いついて痕を残すのを受け入れた。
青年の片手が背中に回ったのに対して、こいしは少しだけ身体を持ち上げた。ぱちりと軽い音がして下着が外される。
口でそれをずらしあげたのは、焦りばかりではなかっただろう。露わになったこいしの胸に、そのまま舌が這い回る。
上の下着を外した手はそのままスカートの中に潜り込み、こいしの下腹部の中に侵入していった。
半ば脱がせるように下着を下ろしながら、尻を撫で回す。撫で回しながら、こいしの下着の中を指がまさぐっていく。
指を止めて、青年が少しばかり眉を寄せた。こいしの秘部はほとんど濡れていなかった。濡れていれば、そのまま強引に挿入していたかもしれない。

「あ、んっ、うう、んっ……」

秘部を撫で、陰核に伸びた指に、こいしは甘い喘ぎのような声を漏らした。こいしの身体は快感に正直だ。心で感じるというものがないからか、身体は素直に反応する。
だからこそ、どうしていきなり彼に対して奉仕を始めていたのかわからなかった。それによってこいしの身体は感じていないということは、本当に彼に対してしたかったからということになる。
思わぬ心で何を思ったのか、それはこいしにすらわからないだろう。

「んんっ、あ、ふぁ……う、あ、あ」

胸の先端を舐る舌に、こいしは身を微かに捩った。
快感が強すぎる、というのは身体で直接感じられるからか、それから逃げようとしているのだった。無論、本気で逃げようとしているわけではない。
青年の、こいしを拘束する手に力が入った。こいしは抵抗をやめて、潤む瞳で強すぎる責めを受け入れる。

「や、あっ、あ、ああ、ん……あ、だめ……っ」

下腹部を弄っていた指がこいしの中に侵入して、軽くかき回した。
くちゅりと淫らな音がして、こいしはいやいやをするように首を振った。呼吸は荒い。身体が十分に感じ始めている証拠だった。
拘束されていた手が解放された。こいしはゆっくりと腕を下ろしたものの、それは楽な体勢になるためで、彼から逃げようとはしなかった。
そもそも逃げる気さえないのだった。彼女の無意識は、ここにいることを望んでいる。

「これも好きだったな」

青年はそう胸から口を離し、こいしの腕を解放したその手でこいしの第三の目に触れる。こいしはきゅっと目を閉じた。
乱暴な言葉に反して、手つきは優しい。こいしの第三の目を撫で、コードにそっと指を這わせた。
こいしは安堵したような、だが感じているような吐息を漏らした。
閉じているとはいえ、第三の目もこいし自身である。そういう風に触れられて、身体が心地よさを感じないはずがなかった。
むしろ、こいしの目は青年に寄っていく。彼はそれに軽く口付けた。ん、とこいしは小さく声を上げる。

「は、う……」

快感に潤む瞳で、こいしは彼を見つめる。どこか安心しているように見えるそれから、青年は少しばかり視線を逸らした。
そして、誤魔化すように再びこいしの胸の先端に舌を這わせる。

「あ、っ」

唐突な愛撫に身を一つ跳ねさせて、けれどもこいしはそれを押しのけようとしなかった。
半ば肌蹴ている彼の服に手をかけて、きゅっと掴む。彼に縋ろうとしているのが、こいしの内面のわずかな発露だったのかもしれない。
責めが激しくなる。陰核を弄る指も激しくなり、別の指がこいしの中をほぐすようにかき回した。
胸への責めは執拗と言っていいほどだった。すっかり反応して堅くなっている乳首を、弄ぶように転がしている。

「あ、や、やあっ……!」

こいしの身体がのけぞった。快楽に耐えかねたように、あるいは求めるように身体を捻る。
彼は逃げようとするそれを許さない。強く抱き寄せて、そのまま絶頂に達するまで抵抗を許さなかった。

「あ、あっ……っ!」

こいしの身体が硬直し、そして弛緩するのを見て青年は口と指を離した。
抱き寄せている力は緩んだものの、こいしを抱き寄せたままだった。

「あ……は、あ……はっ、は、あ……」

荒い息をしながら、こいしは快感の余韻に浸っているような瞳で青年を見上げた。
ほとんど無理矢理襲われたような様子ではあるが、嫌がってはいない。嫌がっていれば、こいしはとっくにいなくなっている。

「いやか」

それでも尋ねてしまうのは、人間の性というものか、それとも古明地こいしに魅せられてしまった者だからだろうか。
こいしはぼうっと見上げて、ゆっくりと首を横に振った。

「きもち、いい」

ほろ、と目元から涙が零れた。快感から零れたものなのかどうか、判断はつかない。きっとこいし自身でさえも。その涙を舐め取って、青年は尋ねる。

「最後までするか、こいしから」
「う、ん」

それは最初にこいしから始めたことに対する言葉だった。こいしは頷いた。
頷きに応じるように、どちらからとなく体勢を変える。こいしが青年の身体を挟むように乗る形になった。
蜜が滴りそうなほど濡れた秘所を、こいしは隆起したままの彼自身に擦り付ける。太股はぴったりと彼の身体につけられていた。緩く円を描くように、彼自身を少しずつ秘所に呑み込んでいく。

「あ、あ……っ」

こいしの口から声が漏れた。苦しげなものではない。それでも、身体が感じるのはどうしようもない。
青年の口から唸りのようなものが漏れていた。ゆっくりと包み込んでいくその感覚がもどかしく辛いのだった。
青年の身体が震えるのを、こいしはその触れているところの全てで感じていた。ん、と少し切なげに眉根を寄せたのは、それに刺激されたからだった。けれども、動きは止めない。

「はいっ、た」

全部包み込んでしまって、こいしはそう小さく呟いた。言葉を紡ぐ口唇から、喘ぐような吐息も一緒に漏れ出ている。
動いたことに刺激されたようにこいしの中が柔く彼を締め付けた。その締め付けでさらに感じてしまったように、こいしは声を上げる。

「あ、あっ……」

戸惑うような声になったこいしの腰から腹にかけて、青年の手が優しく撫でた。
何度繰り返しても慣れなくて――慣れることなどわからなくて。けれども、そう触れてくれることに、こいしは安堵した。
安堵のままの吐息を一つ吐いて、腰を緩く動かした。は、と漏れた吐息には快楽のようなものが混じっていた。

「ん、んん、ふぁ、ん……」

こいしは腰を動かして、素直に快感を貪る。それすらも彼に教えられたものだったから、その姿は彼を満足させるものだった。無論それにこいしは気が付かない。
自分の中の彼自身が大きさを増して、こいしの感じる部分をこすっていった。びくんと震えて、こいしは一瞬動きを止めた。

「……ん」

けれどもそれは一瞬で、こいしは頷くように小さく声を漏らすと、また動き始める。もどかしいほどの動きであった。
彼がいることを確認するように、こいしは快楽を求めながらもゆっくりと腰を回すように動いている。
途中で、こいしは珍しく彼女から口唇を求める。青年はそれに応じた。

「ん、ん……」

軽く舌が絡む程度の口付けをして、こいしは口唇を離した。二人の間に銀色の糸が引かれた。
こいしの動きが、少し身体を持ち上げるようなものに変わった。もう少し強い刺激を求めるような動きだった。
だが、青年の方はもう耐えられなかった。散々と焦らされているようなもので、我慢も限界近くに達している。
こいしの動きを遮るように、下からいきなり突き上げた。

「ん、んう……っ!」

不意の刺激に、こいしは目をきゅっと閉じて口元に手を当てた。急に漏れそうになった嬌声を止めようとしたのだった。

「聞かせろ」

青年はこいしの口元の手を外させるように手を伸ばした。そのままこいしの手を取り、指を絡める。こいしは大人しく従った。

「や、やっ、あ、ああ……っ!」

遮るものがなくなって、こいしの口唇から声が漏れる。悲鳴のようにさえ聞こえるそれに、彼は満足したようだった。ゆっくりとした刺激は、今は身体を跳ねさせるほどに強いものになっていた。
肉と肉がぶつかる音がして、こいしの声がその音の合間に混ざった。

「あ、あっ、んっ、あっ」

嬌声が、青年の情欲をさらに煽っていることにこいしは気が付かない。指を絡めたまま、青年から与えられる刺激を受け入れていた。
閉じられていた両目は薄く開かれている。快楽と快感で潤んでいて、それがまた妖しくも映った。
くいと、不意に律動を変えて、青年が自身をこいしの奥に押しつけた。そのまま、ぐりぐりと腰を動かして刺激してくる。

「ん、あ、ああ、や……!お、く……っ」

ぎゅうとこいしの中が彼のモノを強く締め付ける。感じる場所を責め立てられ、喘ぐような息でその強すぎる快感から逃げようとしていた。
青年の手が絡めていた指を離して、こいしの腰を掴む。それを許さないように引き寄せてさらに奥を刺激する。こいしの口唇から嬌声のような嘆願が零れる。

「や、あ、あっ、つよい、よう……!」

それはこいしのせめてもの抵抗の言葉だったのかもしれない。心がどう感じているのかはわからなくても、こいしの身体は正直に感じていることを伝えてくる。
その証拠に、こいしの中はうねるように彼を責め立てた。唸るような呟きを喉の奥だけに収めて、青年は身体を起こしてこいしを抱き寄せる。向かい合う形になって、繋がりはさらに深くなった。

「あ、やっ……!や、あ、あっ……っ!」

さらに奥を突かれて、こいしは身をのけぞらせた。白い喉が彼の前にさらされて、そこに噛みつくように口付けられる。
ぴりとした痛みがあって、痕を付けられていた。もっとも、それ以外の刺激が強すぎて、こいしにとってはそれどころではない。

「ん、あ、あっ!」

探るように揺らされて、こいしは耐えかねたように首を振った。こいしから抱きついて、彼の背に手を回す。
彼自身への締め付けも、お互いにとって辛いほど強いものになる。絶頂が近いのを、全身が伝えているようだった。
それを察したのか、青年は動きを強いものに変えていた。互いの肉のぶつかる音が大きくなる。それがまた、興奮を煽った。

「やあ、だ、め、だめ、だめ……っ!あ、あっ――――!」

こいしの爪が彼の背に食い込む。がくがくとその身体が震えた。
何度も絶頂に達するこいしの身体をかき抱いて、彼自身もその欲望をこいしの中に解放する。
今まで散々我慢させられていた分か、その律動は長かった。

「あ、ああ、ふぁ、ああ……」

自身の中に溢れる温かなものを感じて、こいしは力が抜けるその身体を彼に預けた。
髪を撫でてくれる手を感じて、優しく抱きかかえてくれる腕を感じて、こいしはそれに身を委ねていた。




身を綺麗に拭ってもらって、こいしは布団の中に潜り込んでいた。服も汚れたわけではないが、流石に取り払ってしまっている。
陽が上った後に確認して、もし汚れていたら勝手に借りて洗濯するつもりだった。

「何をし出すかと思えば」
「ごめんなさい」

謝ってはいるものの、こいしにも理由はわからない。何故彼にそうしたのかもあやふやなところだ。
ため息を吐きながら、彼はこいしを離そうとはしない。少し戸惑いのような気配を見せながらも、こいしは大人しくその手に身を委ねていた。
快感には素直な癖に、こいしはいつまでたっても愛されることに慣れないでいる。
こうして抱きしめられて語ることにも、温もりと何かを求めて彼に寄り添うことにも。
砕けた心に、何かを注ぐその行為に慣れないでいる。
けれども注がれるのは気持ちよくて心地よくて、こいしは彼の傍にやってくる。
暫く彼の胸に耳を当てて、その心音を聞いていたこいしは、ぽつりと呟くように告げた。

「お姉ちゃん、ね。最近、ちょっと幸せそう」
「そうか」
「あの人とも、とても幸せそうで」
「……アレか」

青年は闇の中で嫌な顔をした。地霊殿でさとりの傍に侍る男のことだとわかったのだった。
嫌な顔をしたのは、彼とどうにも気性が合わないからだった。第三者からすれば、差異こそあれど似ている部分が多く見えた。つまりは同族嫌悪に近かった。

「幸せそうだな、って……たぶん、そう、感じたの」
「そうか」

青年はそれだけを答えた。こいしの境遇を少しずつ知ってきていて、だからこその言葉だった。
あるいはその幸せそうな姉に当てられたのかもしれなかった。こいしにそんなものがあれば、という話でもあるが。
いや、倖せやそういったあやふやなものは、やはり無意識に属するものなのかもしれない。
暫くの沈黙の後、こいしはもう一度、ごめんね、と彼の胸に頬を当てて呟いた。どうしたのか、という顔をした青年を見上げて、こいしは囁くような声で言う。

「遅刻、するかも」
「そうしたら謝るまでだ」

仕方ないだろう、と言いながら、青年はこいしをかき抱く。どこにも行かないようにと縋っているようにも見えた。
こいしは安堵のような息を吐いて、身を委ねるように押しつけた。抱きしめる力は強くなったが、それが逆に、こいしの何も感じない心に安心のような何かを注いでいった。
眠かった。こいしの心も身体も自由になりはしないが、その分欲求には正直だ。

「ねむい」
「寝ろ」

おやすみ、と青年は言った。声色は意外なほど優しかった。腕の力は強いままだった。こいしもおやすみなさいと返して、目を閉じる。



ああ、もしかしたら、わたしはこういうふうにだいていてほしかったのかも。



想いは形にならないまま、目の前の恋人から与えられる温もりの中に溶けていった。



10スレ>>72 ロダicyanecyo_0434.txt

SS : 古明地 こいしへ戻る

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

管理人/副管理人のみ編集できます