東方キャラとウフフにイチャつくまとめ

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春眠暁を覚えず――という言葉がある。
春の夜は眠り心地が良く、朝が来たことにも気付かず寝すぎてしまう、という事を昔の偉人は言っていたのだ。
もちろんそれはここ幻想郷も例外ではない。
暑すぎて寝苦しい訳でも無く、かと言って寒すぎて眠れない訳でも無い。
実に素晴らしい気候で夜が更けていくのだ。
ついつい寝すぎてしまうのも無理はない。
しかし、そんな言葉は彼――○○には関係が無い。
確かにこの素晴らしいまどろみを手放し、体を重力に逆らって起こすのは辛い。
だが、○○にとってはそれも苦では無いのだ。
何故なら彼には楽しみがあるからだ。
しかも、春にしか訪れない最高の楽しみが。
実は起きるのが苦では無い理由がもう一つあるのだが、ここでは割愛させて頂く。
○○は起き上がりまだ完全に覚醒しきっていない頭を軽く振りながら、玄関に置いてある水瓶へと近づく。
その中の水を汲みとり近くの桶に注ぐと、それを持って外に出た。
桶に張った水を手で掬い、何度か顔に掛ける。
心地よい水の冷たさで意識が急速に覚醒していく。
そして気付けに顔を一回軽く叩いた。

「うしっ、今日も頑張るか!!」


○○は幻想郷で言うところの外の人間―つまり外来人である。
どのような現象が起こったのかは分からないが、いつの間にか迷い込んでしまっていたらしい。
そして彼は元の世界に帰れるというのにこの幻想郷に留まる事にした。
その時博麗の巫女は心底呆れたように珍しい人ね、と言っていた。
その後、里の守護者である上白沢慧音に働き口を紹介してもらい糊口を凌いでいるという訳だ。

「うーん……!!今日の仕事も終わりッ!!」

腕を伸ばし凝り固まった体をほぐす。
最初は慣れない作業も多かったが最近ではそつなくこなす事が出来る。
実際、最初は珍しい外来人と言う事で警戒される事もあったが、今では里の人間とも上手くやっている。
そんな彼がこの幻想郷に留まる事にした理由と言うのは彼が朝起きるのが苦ではない理由と同じなのだが――

「あーん、返してください〜!!」
「やーいやーい、追いついてみろー!!」
「……アレ?」

聞きなれた声がしたような気がしたので声のした方を向いてみる。
見ると一組の男女が追いかけっこをしていた。
いや、正確には追いかけっこではない。
前を走る男の子が追いかけている女の子の持ち物―彼女の帽子だろうか―を持って走っている様だ。
それと追いかけている女の子の背中から人間ではありえない物―羽根が生えている。
どうやら妖精のようだ。
そのまま彼らはこっちに向かって走ってきている。

「お願いですから返してください〜!!」
「だったら追いついてみなー!!」
「はぁ、やれやれ……」

○○は苦笑を浮かべて―

「おいお前何やってんだ」
「アダッ!?」

逃げていた男の子の頭を軽く叩いた。

「っ痛ぇ…!!何すんだよ○○兄ちゃん!?」
「何すんだよ、じゃねーよ。男が女の子いじめんなっつーの」
「別にいーじゃねーかよ!!それに妖精なんだし!!」
「妖精っつっても女の子だろうが。そんなんじゃモテないぞ?」

そういって男の子の額を指で小突く。
男の子はたいそう不満そうな表情を浮かべた。

「何だよ…そんなの別に良いし……。女なんてうるさいしメンドイし…」
「とか言って好きな女の子の一人でも居るんじゃないのか?」

そう言うと男の子の顔が真っ赤になった。
どうやら図星らしい。

「う、うるせぇな!!兄ちゃんには関係ないだろ!?」
「まっ、そういう事にしといてやるよ。という訳でその帽子返してくれないか?今度何か買ってやるから今日は俺に免じて……な?」
「ちぇ……分かったよ……」

そう言って男の子は渋々彼女の白い帽子を手渡した。

「約束忘れんなよー!!」
「わぁったよ」

そのまま彼は走って帰って行った。

「ふぅ…さて、と」

○○は女の子の方に向き返った。
帽子を返すために近づいていく。
彼女は何故かニコニコしながらそれを待っている。

「お前のだろ、これ?」
「ハイ、私のですよ〜」

相変わらずだなぁ、と苦笑しつつ○○はその帽子を彼女に被せた。
そうしたら突然彼女が抱きついてきた。
顔を○○の胸に埋め、擦りつけている。
その表情はとても幸せそうだ。

「んふー……春ですよー、○○さん」
「ああ、そうだな。素晴らしい春だ」

○○は彼女の頭を撫で、綺麗な金髪を手で梳いてやる。
気持ちが良いのか彼女は目を細めて小さく笑った。
そう、彼女こそ○○が朝起きるのが苦にならない理由。
そして愛しい恋人である春告精――リリーホワイトである。


その後、流石に路上で抱き合っているのも公衆の視線が痛かったので、人里に唯一あるカフェに入る事にした。
もっとも、リリーからすればもっと抱きついていたかった様なので、○○が彼女を引き剥がそうとする時、とても不服そうな表情をしていた。
もちろん、○○からしても恋人と抱き合っているのは幸せなのに間違いは無いが世間体等もあるのでなんとかなだめたのであった。

「なぁ、そろそろ機嫌直してくれよぉ」
「むぅ〜、○○さんは私の事好きじゃないんですか?」
「いや好きだよ?というより大好きだよ?」
「じゃあなんで離れてくれって言うんですか?」
「だからね、それはその…ほら、俺の世間体とか……がね」
「むぅ〜……」
「……まいったな」

どうやら相当へそを曲げているらしい。
どうすれば許してもらえるのだろうか?
女の子だからとりあえず甘いものでも食べさせてあげれば良いのだろうか?
いや、そもそもそんな餌付け的発想で良いのか?
頭を掻きつつそんな思案をする。

「……フフッ。なーんて、もう良いですよ」
「……えっ?」

先程までふくれっ面をしていたリリーが突然笑い出した。
一体どういう気の変わりなのか。

「○○さんの困った顔が見られたから満足です。いつも私に意地悪して困らせるですもん」
「こいつ……」

どうやら完全に弄ばれていたらしい。
女心と秋の空というのはこういう事を言うのだろう。
春になって彼女に会えると思って浮かれていたんだろうか。
ならばこちらにも考えがある。

「じゃあデザート食べさせてやらないぞ?残念だなぁ〜、ここのケーキ凄く美味しいのに」
「あ〜ん、ごめんなさい〜!!謝りますから食べさせてください〜!!」

やはり女の子と甘いものは切っても切れない関係らしい。
あっという間に一矢報いる事が出来た。
流石に本当に頼まないのは可哀そうなのでその有名なケーキを二つ注文した。
運ばれて来たのは苺が乗ったショートケーキ。
幻想郷では貴重な砂糖をふんだんに使ったクリームが乗っている。
その分値段も張るのだが、愛しい人の笑顔が見られるのならこの位安いものだ。

「美味しいかい?」
「幸せです〜……」

質問の答えとしては合っていないのだが、リリーの表情を見れば何が言いたいのかはよく分かった。
自分の分も運ばれてきたので○○も早速フォークでケーキを切り、食べてみる。

「……これは確かに」

仕事終わりという事もあるのだろうか、甘さが身に染み渡る。
しかし、ただ甘ったるいという訳ではなく気持ち悪くならない程度という絶妙の甘さなのだ。
正直、これだけの物は外の世界に居る時に食べられるかも分からないレベルである。
別に○○は甘党という訳ではないのだが、それでも男である彼を満足させるには充分であった。

「はぁ、話には聞いてたけどやっぱり美味しいなここ」
「そうですね〜。……アレ?○○さん口元に何か付いてますよ?」
「えっ?」

何が付いているのだろうかと一瞬思案して、すぐに分かった。
最近の食べ物で口元に付く物と言ったら先程食べたケーキのクリームしか無い。
しまった、みっともない所を見せてしまったな、と自省しつつ口に付いたクリームを手で拭おうとした時――突然リリーの指が伸びてきた。
そのまま彼女はクリームを指で拭い、そのまま口に運んだ。

「んふふ〜、美味しいです〜」
「お、お前なぁ……」

その突然の仕草に思わずドキッとなる。
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
これをリリーがわざとやっているのか、それとも天然でやっているのかが分からない辺り、始末に負えない。
いや、少なくともその笑顔はいたずらっ子が悪戯を成功させた時のそれだという事だけは分かった。
どうやら浮かれていたのは確からしい。
正直、弄られるのには慣れていない。
○○は赤くなった顔を隠すために頬杖を付き、そっぽを向いた。
しかし、このまま黙っているというのもどうもバツが悪いので何かを話す事にした。

「お前さ……ずっとここに居ていい訳?」
「えっ、どういう事ですか?」
「だってお前春告精だろ?皆に春を伝えなくて良いのか?」
「あ……」

リリーの呆然とした顔。
そして一瞬の沈黙ののち――

「ああーっ!!」

もの凄い声で絶叫した。
思わず○○は顔を顰める。
その声たるや店の窓を割るのではないか、というほどの音量であった。
実際、割れないにしても音を立てて揺れたのは事実だ。

「そうでしたー!!すっかり忘れてましたー!!」
「お前本当に春告精かよ……?」
「うわ〜ん!!早く行かないと〜!!」

リリーは慌てて外に出て行こうとする。
そんなリリーの背中に○○は声を掛ける。

「おい、リリー」
「なんですか〜!!今急いでるんです〜!!」
「終わったら来いよ、待ってるからな」
「――!!ハイッ!!」

何処に、とは言っていない。
しかし、それでも彼女には分かるのだ。
それが○○とリリーの関係を証明していた。
嬉々とした笑顔で返事をしたリリーはそのまま空へ春ですよ〜、と言いながら飛んで行った。
○○はそれを苦笑交じりで見送る。

「やれやれ…久しぶりに会ったって言うのに忙しない奴だなぁ」
「あれが○○さんの恋人かい?」

背後から誰かが話しかけてきた。
この店の店主のようだ。
○○自体この店にはよく来るので顔なじみの関係である。

「そうですよ。久しぶりに会ったっていうのに忙しい奴ですよ、全く…」
「でも可愛いじゃないか。○○さんもそういうところが好きなんだろ?」
「まあ……そうですけどね」

やはり伊達に歳を食っている訳では無いらしい。
この人は人が何を考えているのかいつも見通している気がする。

「惚れた弱みってやつだよ。可愛がってやんな…夜の方もな」
「そういうマスターこそ奥さんと上手くやってるのかい?夜の方とか」
「野暮な事言うもんじゃないよ。そんな事したら腰が逝っちまう」
「どっちの意味で?」

という冗談の応酬をしてひとしきり笑った辺りで急に店主が真面目な表情になった。

「しかし○○さんも大変だねぇ……好きな娘と一年の内春にしか会えないなんて…」
「まあ、確かに寂しいですね。でも……」
「でも?」
「でも、それでもまた次の春が来れば会えるって思えば辛くないんですよ。一年の内の僅かな時間しか一緒に居られない。なら、その時間まで懸命に働いて会えたら精一杯楽しもうって思ってるんです。だから、別に平気なんですよ」
「なるほどねぇ……。まっ、今がその待ちに待った時なんだ。存分に楽しみな」
「ありがとうございます」

店主は○○の肩を軽く叩いて厨房の方へと戻って行った。
○○は財布から代金を取り出してカウンターに置く。
マスターも分かっているから問題ないだろう。
外に出ると空が段々と橙色になりかかってきてる。
人里の広場も夕食の買い物をしようとする人達で活気づいてきていた。

「さて、あいつの為に良い物作ってやるか!!」

そう言い○○も夕食の買い物をする為に人ごみの中へと入って行った。


太陽が完全に沈み、幻想郷に夜が訪れようとしている時○○は一人絶対的な自信に頷いていた。
先程の買い物で買い足した材料、それらはいつも彼が食べている物に比べたら明らかに上質な物である。
少なくともずっと会いたかった人に食べさせる物が安値で売っている物で良い訳が無い。
なので彼は今日という日の為に前々から貯金しておいたのだ。
それで愛する人が満足してもらえるのならこの位の出費、どうという事は無かった。
それに加え、美味しい物を食べさせてやりたい――その気持ちによって気合いを入れて作った○○の料理は自分でも頷ける程の料理となっていた。

「うっし、完成!!我ながら良い物が作れたぜ。やっぱり良い物を使うと出来栄えも映えるな」

もっとも、その一番の要因はリリーへの気持ちなのだが。

「さて、と……後は……」

あとは彼女が来るのを待つだけ。
もちろんいつ来るかなんて分からない。
幻想郷に携帯電話の様な便利すぎる通信機器もある訳も無いので○○はただ彼女が来るのを信じて待つしかない。
リリーがいつ現れるかを待つ時も一日千秋の思いだったが、実際に会っても待つ時の気持ちはそれと変わらなかった。
いや、むしろ強くなったと言っても良い。

「まあ、その内来るだろ」

とりあえず来るまでの間調理器具などを片づけていようと思った時――

「○○さ〜ん、来ましたよ〜!!」

来た。
遂に来た。
一日千秋の思いで待ち続けた愛しい人が。

「おう、今開けるから待ってろ」

平静を装って返答した○○だが、その心中は如何なものであっただろうか。
少なくとも心拍数が上がっているのは間違いないだろう。
だが、それは頼れる男でありたいという男の見栄――プライドといっても良い――で必死に押し隠す。
駈け出したい衝動を必死で抑え、しっかりとした足取りで出入り戸へと近づく。
そして戸を開けた瞬間――

「○○さ〜ん!!」
「うおっ!?」

いきなりリリーが飛びついてきた。
あまりにも突然の出来事だったので足がよろけたが、それでもなんとか体勢を直し彼女を抱きとめる。

「んふふ〜。春ですよ〜、○○さん」
「それはさっきやっただろ?」

日中にやったように○○の胸元に顔を擦りつけてくるリリーに苦笑しつつ、彼も日中やったように彼女の髪を指で梳いてやる。
少し経ってリリーが顔を上げた。

「ただいまです、○○さん」
「おかえり、リリー」

二人の顔は徐々に近づいていって…引き寄せられるように唇を重ねた。

「ん……ふっ」

唇を重ねるだけの軽いキス。
それは普通の恋人同士ならほんの軽いスキンシップだろう。
それでも、約一年ぶりに会った彼らからしてみれば、その軽い行為すらとても愛おしいもののように感じられる。
もっとこのままでいたい。
もっと激しい事をしたい。
そんな欲求が○○の中で湧き上がってくる。
が、彼はそれらを理性でねじ伏せる。
まだ春は始まったばかりだ。
いきなり飛ばしていく事も無いだろう。

「んっ、ふぁ……」

様々な欲求を振り払い、平静を装ってリリーの唇からゆっくりと顔を離す。
見上げてくるリリーの表情は切なげでどうしてやめるの、と言わんばかりだ。
その表情を見て○○は軽い罪悪感に襲われる。
ああ、もう少しあのままでも良かったかもしれない。
だが、あのまま続けていたら理性が持っていたかも分からない。
この償いは後で絶対にする事にしよう。

「とりあえず飯食おうぜ?腹減ってるだろ?」
「……は〜い」

リリーは不満げに顔を膨らませていたが、渋々といった感じで○○の言う事に従う事にした。
彼女を家の中に招き入れ、食器に晩御飯を盛り付けていく。
もちろん、その食器も彼女が家に来た時の為の物だ。
一年の内の少しの時間しか使わないとしても、彼女の物である事には変わりは無い。
常にしっかり保管している。
盛り付けも終わり○○とリリーは囲炉裏を挟んで座る。
そして手を合わせる。

「いただきます」
「いただきます……」

どうやらまだ先程の事を怒っている様だ。
その拗ねている姿に思わず苦笑する。
女の子というのは繊細な生き物だ。
日中の事もそうだが些細なことですぐに機嫌を損ねてしまうらしい。
それに関しては機嫌を直してもらえるのを待つしかない。
その機嫌を直すための切っ掛けを探すために、食物を口に運びながらリリーの方をチラッと見る。
彼女は相変わらずムスッとしたまま主菜の牛肉を口に運び――

「……美味しい!!」

その表情は驚愕と歓喜が入り混じったものに変わった。
どうやらお気に召して貰えたらしい。
猛烈な勢いで食事を進め始めたリリーを見て○○は思わず小さく笑う。

「喜んで貰えたようでなにより」

自分の手料理をこれほど美味しそうに食べて貰えて、作った甲斐があったというものだ。
これで機嫌を直してもらえれば良いのだが。
程なくして○○とリリーは食事を終えた。
良い食材を使ったというのもあるが、やはり今回の料理は自分でも美味いと思えるものであった。
彼女も満足して貰えたようでなによりだ。

「ご馳走様でした〜」
「はい、お粗末さま」

機嫌も直してもらえたようで万々歳である。
そして○○は使った食器を片づけ始める。
自分の分とリリーの分の食器を重ね、台所へと持っていく。
そしてたらいに水を張り、その中へと食器を沈めた。
少し冷やしてから洗う事にしよう。
そう思い食休みを取る事にした。
先程まで食事を取っていた所にふーっと息を吐きながら座る。
その時、彼と庵を挟んで向かい側に座っているリリーは何か思案している様な顔をしていた。

「――?」

すぐに何か思いついたようだ。
いつものニコニコ顔になると立ち上がり、○○の方へと近づいてきた。

「ん、どうしたんだリリー……ってうおっ」

そして○○の体の上――正確には脚の上へと腰を下ろした。
彼の体を背もたれにし、座イスに座った形とでも言えば良いか。
振り返って見上げてくる表情は酷くご機嫌の様だ。

「どうしたんだよ、いきなり?」
「ふふ、別にどうもしないですよ〜?」
「―ったく……」

そう言って頭を○○の首元へグリグリと擦りつける。
○○は思わず苦笑する。
とは言っても、今日一日リリーには我慢を強いる事が多くなってしまっていた。
それを考えれば、この位の事は多目に見てあげた方が良いだろう。
しかしこうも体の接地面が増えると様々な欲求がもたげてくるもの。
性的にしろそうでないにしろ、だ。

「……ねぇ、○○さん」
「ん、何だ?」
「ちょっとギューってして欲しいなぁって……」
「……俺も丁度そうしたかった所」

少し頬を赤らめて見上げてくるリリーに、やはり少し赤くなりながら言葉を返す。
ニヤけそうになる顔を無理やり普通の笑顔に変えていた点はある意味特筆出来るかもしれない。
何かしたいと思っていたが、正直気が引けるものがあった。
だが、向こうからお願いされたのなら問題ない。
お望み通り腕をリリーの前に回し腹の辺りでギュッと抱きしめてやる。
少しだけ腕に力を込めると、リリーは幸せそうに鼻を鳴らした。
しかしこうして体を密着させていると色々な考えが巡る。
勿論、今日初めて会った時や先程の玄関先でも抱き合ってはいるのだが、こうしてじっくりと抱きしめる事によって分かる事もある。
彼女の柔らかい感触、温かい体温、仄かに香る春の匂い――その全てが、改めてリリーが今ここに居る事を実感させる。
その事が嬉しくて思わず笑みが零れる。

「ふふっ……」
「ん〜?どうしたんですか〜?」
「いや別に。何でもないよ?」
「なんか気持ち悪いですよ?」
「ヒッデーな、お前だっていつもニコニコしてるだろ?」

そんな形だけの言葉の応酬。
リリーも同じような事を考えていたのだろうか?
いつもニコニコしている彼女の顔にも嬉しさが見て取れた。
そして再び静寂。
庵の火に焼べてある薪が時たま立てる音だけが部屋の中に響く。
いつも以上に時間の流れがゆったりと流れるのを感じていた。
リリーの心地よい体温と焚火の暖かさで思わずまどろんでくる。
が、リリーが身を軽く捩り始めたことで、遠くに行きそうになっていた意識が急速に戻ってきた。

「ん、どうしたリリー?」

リリーは見上げたまま何も言わない。
だが、先ほどとは明らかに様子が違っていた。
微かに上気した頬。
口から漏れる熱い吐息。
切なげに揺れる瞳。
何かをねだる様な表情。
そこで○○は理解した。
――ああ、彼女は求めているのだ、と。
そうだ、彼女は今日我慢し続けではないか。
昼に出会った時も、先程の玄関でも、彼女は満足し切っていない。
ついさっきこの体勢をねだってきた彼女だが、これでも満足出来るはずが無い。
彼女は妖精なのだ。
人間よりも感情の起伏が激しい彼女にとってはその我慢も辛いものである事は間違いない。
それでもリリーはそこまで表立ってねだっている訳ではない。
彼女の事だ、この体勢をねだったばっかりだという事を気にしているのだろう。
その身の捩り、吐息、表情が彼女の精一杯のおねだりなのだ。
それを理解した時、○○の心が罪悪感と愛しさに襲われる。
では、せめて彼女の求めている物をあげなければならない。

「分かったよ、リリー」

そして心の中でゴメンな、と謝りながら――彼女の唇に口づけた。
だが、これで終わりではない。
終われる訳が無い。
玄関でのキスとは違い、リリーの口内に舌を侵入させる。
舌先で彼女の舌先を擦ると、突然の感触に思わずビクリと身を震わせた。
だが、リリーも何をされたのか分かったらしい。
ゆっくりと彼女の方からも舌を絡め始めてきた。
初めは舌先で弄り合ってるだけだったが、やがて舌を重ね合わせ、そして絡ませ始めた。

――ん、んむ、ちゅう、んちゅ、れる、んむ……

○○の舌がリリーのそれを舐る、弄る、嬲る、絡ませる。
舌だけでなく頬の内側、上顎、歯茎を舌でなぞり、掻き回す。
リリーの口内を完全に蹂躙しつくす。
その所々を舐められる度に、その感触に体が思わずびくりっ、と震える。
しかし、リリーはされるがままだ。
彼は自分をここまで求めてくれているのだ――その事実が彼女には堪らなく嬉しくて、心地良かったのだ。
リリーはその行為を受け入れていた。

――じゅぷ、んじゅ、くぷ、んく、ごく、んぷ、ふぁあ、んふ……

○○の責めは舌を弄るだけに留まらない。
その舌で自分の唾液をリリーの口内に流し込む。
体勢的に○○が上からリリーの顔に覆いかぶさっている形になるので、唾液は一方的に流れ込む。
リリーはそれを飲み下すしかない。
もっとも、それは彼女自身も望んでいるのだろうが。
唾液をリリーに飲ませる度に、目がトロンとしていくのが分かる。
飲ましているのはただの唾液なので、別に興奮作用や発情作用がある訳ではない。
それでも、今の彼女はそれらが作用しているようにしか見えない。
今のリリーには○○の唾液が最高の媚薬なのだ。
唾液を飲み込む度に体が熱くなり、理性が溶けていくのが分かる。
こんな状況で理性になど如何ほどの価値があるのだろうか?
そんな物は本能の前には無意味だ。
ならばどんどん溶かそう、溶かし切ってしまおう。
そう思い今までされるがままだったリリーは、逆に○○の舌に吸いつき始めた。
いきなりの事に○○は面食らったが、すぐにそれを理解し彼女の求めるまま唾液を流し込む。
それでも、それだけでなく呼吸の為にわざと吸いつきを弱くしてやる。
元々舌を絡めるだけでも夢中になっていたのだ。
それをしながら流し込まれた唾液を飲み込むという行為を追加したものだから、呼吸の事などどこかへ行ってしまっていた事だろう。
散々舐り合った口を離すと、リリーはぷはぁ、と盛大に息継ぎの声を漏らす。
突き出された舌同士の間には銀色にきらめく橋が掛かる。
それが先程までの行為の激しさ、濃厚さを語っていた。

「……大丈夫か、リリー?」

今まで不足していた空気を取り入れるため、荒い息をしているリリーが心配になり思わず声を掛ける。
少し最初から激しくし過ぎてしまったかと、自省する。

「ハァ……ハァ……大丈夫です……それより……もっと――」

もっと――何なのか。
そんな事は言われなくても分かっていた。
それに答えるため、再び唇を重ねる。
そして再び繰り返される濃厚な口の交わり。
しかし、○○の脳内ではある別の欲望も湧き上がってきていた。
このままでも良いのだが、何か別の事を出来ないか――
その直後、○○は心の中でほくそ笑んだ。
どうやら良い考えが浮かんだらしい。
彼は今までずっとリリーを抱きしめていた腕を緩め少しずつ動かし始めた。
その手はまるで獲物に忍び寄る蛇の様に、ゆっくりと……ゆっくりとリリーに気付かれないように動かしていく。
その手はリリーの服の裾の内側に入り込み、徐々に、徐々に上へと上がっていく。
そして――

「んんむっ!?」

彼女の乳房を揉み上げた。
そのいきなりの行為にリリーは驚きと抗議の声を上げようとするが、それを阻止するかのように○○や口の交わりをより濃いものとする。
そんな事気に出来ない程にしてやると言わんばかりに顔をより強く押し付け、彼女の舌をより激しく弄ぶ。
だが、それでも乳房を揉む手は緩めない。
彼女の小さいながらも形の良い乳房を揉み上げ、先端の蕾を指先で擦る。
その度にリリーは快感にビクビクと体を震わせる。
そしてその蕾を摘み上げると――

「んん――!?」

今までとは違いひときわ大きく体が跳ね、大きく仰け反った。
体は硬直し舌先から足先までピン、と伸びる。
先程以上の快感にリリーはくぐもった声を上げる。
が、そんなもので止める○○ではない。
跳ねる体をもう片方の手で、自分に抱き寄せる。
そして乳房を緩急を付けて責める。
完全に拘束されたリリーにもはや逃げ場は無かった。
与えられる快感を受け続けるしかない。
○○から与えられる快感にリリーは絶頂に向かって押し上げられていく。

「ぁ、あぁ、○○さん……!!わ、私もう……!!」
「良いよ、イっちゃっても」

絶頂がいよいよ近づいてきたリリーは思わず口付けの拘束を振り払って○○へ訴える。
しかし、○○はその言葉を待っていましたと言わんばかりの返答をし、ラストスパートをかけ始めた。
そして――

「くぅぅ――あぁぁ――ッ!!」

リリーの全身を強烈な快感が覆った。
甲高い悲鳴――いや、この場合は嬌声か――を上げながら全身を痙攣させる。
その快感に耐えるように眉を切なげに寄せ、目をぎゅう、と瞑る。
そして目尻から涙が流れる。
やがて快感の波が去っていくにつれ、強張っていたリリーの手足から力が抜けていく。
やがて体からも力が抜け、完全に○○にもたれ掛る形になった。

「大丈夫か?」
「ハァ、ハァ――。ハイ……」

リリーは蕩けた表情で返答する。
どうやら大丈夫の様だ。
呼吸を乱しているリリーを気遣い、唇が触れるだけの軽いキスを何度かする。
最初は虚空を見るように焦点が定まっていなかったリリーの視線もトロン、と熱に浮かされたようなものになる。
が、それはすぐに拗ねるような、非難する様な表情に変わる。

「……ヒドイですよぉ……」
「な、何が?」
「いきなりあんな事するなんてヒドイです……。○○さんの変態、ケダモノ、オニ、悪魔……」
「い、いやね、せっかく好きな女の子と久しぶりに会ってそれであんな体勢になれば普通は我慢出来ないというかね」
「う〜……」

必死に弁解しようとするが、正直説得力が全く無い。
リリーもそんな○○を責める様なジト目で睨みつけるが、若干涙目なのと先程までの余韻がまだ残っているせいでこちらも威圧感は全く無い。
しかし、そんな視線でも今の○○を動揺させるには充分である。
それに耐えきれなくなって思わず目を逸らし、思案する。
さて、この危機的状況からどう脱出すれば良いのだろうか?
先程の様に別の物で気を取り直してもらうという事も出来そうもない。
今日はリリーの好きなようにさせようと思っていたのにこれだ。
こうなってしまってはもうリリーが機嫌を直してくれるのを待つしかない。
そんな事を考えていたので、リリーが体を捩っている事にも気付かず――

「うおっ!?」

気付いた時には押し倒され、リリーに腹の上に馬乗りにされていた。

「あ、あの〜、リリーさん?」
「フフ、今度は私の番ですよ〜……」

そう言ってリリーは笑った。
いつもの様な屈託のない笑顔ではなく、妖艶な笑みを。

「お返しに、私も気持ち良くしてあげます……」

滅多に見ない―いや、初めて見ると言っても良いリリーの妖艶な笑みに○○は背筋に悪寒にも似た快感が走るのを感じた。
蟷螂の雄は交尾の後に雌に捕食されてしまうという。
その時の雄の蟷螂もこんな感じなのだろうか?
ふと、頭の片隅でそんな事を思った。


捕食者となったリリーは○○のズボンを脱がし始める。
○○は抵抗しない。
捕食される者にそんな権利は無いのだ。
程なくして○○の竿が露わになる。
それはまだ触られても無いのに赤黒く怒張していた。

「フフ、もうこんなに元気になってます」
「そ、そりゃリリーのあんな姿見たら興奮するし……それに……」
「?」
「ここ最近シて無かったしな……。お前がそろそろ来るだろうと思って」

そう、それが彼が春眠から目覚められる理由の一つである。
俗に言うオナ禁というものをしていたから、○○は朝スッキリ起きられたという事なのだ。
それを聞いてリリーの顔が綻ぶ。

「それじゃあ、そのご褒美に気持ち良くしてあげます」

そう言い、リリーは○○の竿に細い指を絡めた。
久々の、それも外部からの感触に思わずビクリッと震える。
その様子をまるで愛しい我が子を見る様な目で眺めた後、リリーは舌先で軽く○○の亀頭を舐めた。
亀頭だけではなく竿の側面にもまんべんなく舌を這わせ、啄ばみ、裏筋を舐め上げる。
チロリチロリと舌を這わせる度に、○○は軽い呻き声を上げる。
その声を聞いて気分を良くしたのか、リリーは嬉しそうに目を細める。
そして、舌先で舐めるのを止め、口に含んだ。

「ちょ、待ッ」

リリーの激しい口撃に思わず制止の声を上げようとするが、リリーは気にした様子も無く行為を続行する。
捕食される者にそんな権利は、無い。
リリーの暖かい口内で○○への責めは続く。

――んむ、ちゅっ、れる、はぷっ……

彼女の舌先は鈴口を舐め、周りを這い回り、舐め上げる。
まるで先程のキスで良いようにされていたお返しをするかの様だ。
その全く予測の出来ないリリーの舌先の動きに、○○はただ四肢に力を入れ情けない声がなるべく出ないように我慢するのが精一杯であった。
そしてリリーは亀頭だけではなく、竿全体を口の中へと含んだ。
そして頭を前後させ唇と舌全体、頬を使って竿を舐る。

――はむ、じゅる、じゅぷ、んじゅる、んぐ……

唇が擦る感触、舌のざらざらとした感触、頬の暖かく柔らかい感触。
全てが先程の舌先での責めと違う感触に、○○から思わず我慢し切れなかった苦悶の声が漏れる。

「ちょ、り、リリー、それは結構……ッ」

その行為に耐えきれなくなった○○は思わず視線をリリーへと向ける。
その時、リリーと目が合った。
竿を口に含み、顔を上下させながら上目遣いで見上げてくるリリーと。
○○はその目が何を語っているのか分かった。

――気持ち良いですか?

そう、それは完全な奉仕の行為。
彼女にとってはこの口淫は先程の行為の仕返しのつもりだったなのだろうが、その目的はいつの間にか消えていた。
彼は自分の行為で喜んでくれている。
愛する人が喜んでくれるのなら、それは自分にとっても嬉しい事なのだ。
それを知ってか知らずかその上目遣いを見た瞬間、○○の中である二つの欲求が首をもたげてきた。
それは保護欲と支配欲。
この愛しい女の子を自分も精一杯愛してあげたいという欲求と、この従順に奉仕している女の子を自分の思うがままにしたい、という相反する欲望。
保護欲は理性と、支配欲は本能と結託し互いにせめぎ合う。
脳内で壮絶な戦いを繰り広げながら、○○は無意識の内にリリーの頭に手を伸ばす。
そしてその手を頭に置き――ゆっくりと髪を撫でた。

「ああ……、すっげぇ気持ち良いよ」

脳内の熾烈な戦いは、理性に軍配が上がったようだ。
頭を撫でられ、リリーはとても嬉しそうな笑みを浮かべ口淫を再開した。
この子はこんなにしてくれているのだ。
それを乱暴にしたくないという彼女への愛が理性の勝った勝因であった。
リリーが○○への奉仕を続ける間、○○も彼女の頭を撫で続ける。
が、その余裕も段々と無くなってくる。
行為が続くにつれ、強くなる腰のあたりの痺れにも似た快感。

「ぐっ……そろそろ、イキそう、だ……!!」

限界が近かったのでそれをリリーに伝える。
それを聞いたリリーは分かったと言わんばかりにスパートを掛け、口淫をより激しいものにする。
その激しい快感が、脳内での戦いを一気に逆転させた。
本能が理性をなぎ倒し、思考が停止する。
限界を迎える直前○○はリリーの頭を押さえつけ、竿を彼女の喉奥深くへとねじ込んだのだ。
流石のリリーもいきなりの行為に声を漏らし、嘔吐きそうになる。
喉が本能的に異物の侵入を拒み、収縮する。
その締め付けが決定打になった。

「ぐううぅっ!!」

それは並みの射精と比べると圧倒的なまでの怒涛の勢いで放出される男の欲望。
勢いだけでなく、量も粘度も並みのものとは桁違いであった。
そんな物を喉奥で放出されてしまったリリーは、ただそれを受け入れるしかない。
彼女を意識を無視して進入してくる粘ついた液体を必死に、喉に絡みつかせながら、何度にも分けて飲み下していく。
それでもリリーはとても嬉しく思っていた。
これは彼が自分の為に我慢していたもので、彼が自分で気持ち良くなってくれたという証明なのだ。
そう思うととても愛しく、とても美味な物に思えてくる。
そして、欲望を放出し切った竿を丁寧に舐めて綺麗にしていく。
亀頭は言わずもがな、鈴口、そして尿道の中に残った精液も吸いだす。
絶頂を迎え敏感になっている亀頭を舐められ、思わず○○は呻き声を漏らす。
荒い息を吐きながら何とか自我を取り戻した○○は、現在の状況を把握した。

「うあっ、ご、ゴメン!!」

まるで熱い物に触ったかの様に、リリーの頭から手を退ける。
しかしリリーは怒ったりせず、恍惚とした表情で見上げた。

「フフ、凄い量でしたよ〜。ビックリしました」
「ゴメン、リリー!!だ、大丈夫だったか!?」

○○は今自分を猛烈に嫌悪していた。
いくら久しぶりの快感を与えられたとはいえ、あんな事は絶対にしてはいけなかった。
しかもこの子は自分の為にあんな事をしてくれていたというのに。
思えば今日一日結局は自分の都合を彼女に押し付けてしまっているではないか。
そんな自責の念が○○に押し寄せる。
その暗く、何かに追い詰められたような表情を見てリリーは理解したらしい。
彼女はふっと先程の様な妖艶な笑みではなく、慈悲に満ちた――まるで愛しい我が子を見る様な微笑みを浮かべながら○○にゆっくりと抱きついた。

「大丈夫ですよ、そんなに思い詰めないでください」
「リリー……」
「私嬉しかったんです。○○さんは私の為にこんなに我慢しててくれたんだ、気持ち良くなってくれたんだって分かって」
「……」

ああ、この子はなんて良い子なんだろう。
あんなに乱暴にしてしまったのに、それでも嬉しいと言ってくれるなんて。
とても愛おしい気持ちが溢れてくる。
思わず、○○はリリーの体を抱きしめていた。

「本当に……ゴメンな……」
「ふふ、○○さんのイク時の顔、可愛かったですよ」
「それはなかなか……恥ずかしいな」

それでも軽い仕返しはしてくるらしい。
リリーが悪戯っぽく小さく笑った。
そしてしばらくそのまま抱き締め合う。
その時、リリーはある異変に気が付いた。
腹部辺りに当たるある感触。
それが何か気付いた時、リリーは再び悪戯っぽく笑った。

「ふふ、元気ですね〜」
「スマン……節操が無くてな……」

それは一度放出してなお硬度を保っており、激しく息づいていた。
やはり長い間の禁欲のお陰でまだまだ元気の様だ。
それを見たリリーは○○の耳に口を近づけ、囁く。

「今度は二人で、気持ち良くなりましょう……」

ゾクリとする様な妖艶な声で言った。
女というのは不思議な生き物だ。
母の様な慈愛の笑みを浮かべたと思ったら、娼婦の様な囁きで誘惑する。
思わずブルリと身を震わせ、短く息を吐く。
相反する二つの要素が存在する女という不思議さを、ゾクリとした感覚を覚えながら実感した。


床に布団を敷き、リリーをその上に寝かせる。
そして彼女の衣服を一枚ずつ、一枚ずつ脱がしていく。
彼女の衣服を脱がせる度に、お互いの動悸と息遣いが激しくなるのが分かった。
今までにこういう経験は何度もしているのだが、やはり何度経験してもこの瞬間は堪らないものがあった。
そしてリリーは一糸纏わぬ姿になった。
思わず体をビクッ、と震わせ、身を軽く縮こませる。
麗しい金髪、華奢な手足、透き通るような白い肌。
その白い肌は興奮の為か、はたまた羞恥の為か紅潮していた。
その映えるコントラストは、酷く扇情的であった。
思わず○○は喉を鳴らして唾を飲み込む。
その芸術とも言える姿を見ているだけで元々少ない理性が熔けていくのを感じていた。

「凄い……綺麗だ……」
「嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいです……」

リリーは少しはにかみながら笑った。
もはやまともな思考は殆ど出来ない。
口から出る言葉も凡庸な言葉しか浮かばない。
そして○○も服を脱ぎ去る。
この期に及んで、もはや衣類など何の意味もなさないのだ。
○○はリリーの上に覆いかぶさる。
そして彼女の首筋に舌を這わす。
思わず小さく声を漏らした。
それでも構わず首筋を舐め、吸いつく。
音が立つほどの強さで吸いつき、痕を残していく。
その度にリリーは体を小さく震わせ、嬌声を漏らす。
リリーはその行為をただ受け入れる。
寧ろ、その行為を悦んで受けていた。
彼に彼のものであるという印を付けられているという被虐的な悦びである。
明日からもし、この痕を他の人に見られたらどう思われるのか――それを想像するだけで甘美な痺れが全身を駆け巡るのを感じていた。
やがて、首筋を堪能し痕を幾つか付けた○○はゆっくりと顔を離した。
そして、リリーと目を合わせる。
その目は蕩けて、上気し、潤み、何かを求めているのを訴えていた。

「……良いか?」
「……ハイ」

○○の問いにリリーは蕩けた笑みを浮かべながら答えた。
承諾を得た○○は竿の先を彼女の秘所の入口へと宛てがう。
亀頭を当てた途端、リリーの体がピクリ、と震えた。
○○はフッ、と小さく笑みを零すと、彼女の唇に軽い口づけをする。

「いくよ……」

リリーは静かに頷いた。
そして、亀頭を静かに秘所に埋没させていく。

「はああぁぁぁ……!!」

埋没させればさせる程、その挿入され圧迫された分の空気を出すようにリリーは嬌声の交じった深い吐息を吐いた。
目じりに涙を浮かべ、思わず○○の体に強く抱きつく。
その深度が深くなればなるほど、○○を抱きしめる力が強くなる。
そして竿を根元まで完全に挿入し切った。

「だ、大丈夫か……?」

思わず心配して声を掛ける。
だが、リリーは涙を浮かべながらまるで天使の様な笑みを浮かべた。

「大丈夫です……○○さんと一つになれたのが嬉しくて……でも、もう少しこのままで……」
「ん、了解……」

そう言って○○は自分からリリーの体へ苦しくない程度に自身の体を密着させる。
先ほどとは違いその間には何も隔てない状態。
リリーの体温、感触、心拍全てを直に感じる。
それはリリーも同じ事であった。

「ん……○○さんの心臓、ドキドキしてます……」
「そりゃこんな状態になりゃドキドキもするさ。そういうお前だってドキドキしてるじゃないか」
「そうですね、○○さんと同じです……」

ふふっ、とリリーは小さく笑った。
そのままゆったりと時間は流れる。
まるで秘所の中にある竿が熔けて彼女と同化してしまうのではないかと錯覚するほどに。
そう思えるほど、二人は抱き合っていた。

「ん……もう動いても、大丈夫です……」

やがてリリーが口を開いた。
その言葉を受けて○○はゆっくりと腰を引く。
竿の亀頭が抜けそうな所まで腰を引くと、再び竿を秘所へと侵入させる。
竿を前後させる度に膣の中がうねり、ヒダが絡みつき、○○に痺れる様な快感をもたらす。
それはリリーも同じであり、挿入を繰り返す度に彼の竿が的確にGスポットとポルチオを刺激し、男の何倍とも言われる快感が彼女に襲いかかる。
伊達に何度も愛し合っている訳ではない。
その口から歓喜の嬌声が漏れる。
その嬌声に気を良くしたのか、○○は段々と挿入の速度を上げていく。
勿論、性感帯への刺激を疎かにはしない。
先程以上の快感が、決壊した河川の様な怒涛の勢いでリリーに押し寄せる。
たまらず彼女は悲鳴にも似た嬌声を上げた。

「○、○、さん!!激し過ぎ、で、んうむ!?」

あまりの快感に思わず制止の声を上げたリリーだったが、その口を○○は自身の口で噤いだ。
そして口内に無理やり自身の舌を侵入させ、彼女の舌と絡ませる。
しかし、それは先程の様にねっとりと味わうものではなかった。
そこには理性など無い。
本能――ただ動物としての欲求にのみ従う。

――はむ、じゅる、じゅるる、んぐ、んちゅ、んぷ……

彼女の口内を、舌を、歯茎を、その全てを陵辱し、犯しつくす。
リリーもその暴力的ともいえる責めに晒されながらも、必死に彼の舌に縋りつく。
それは溺れる者が藁をも掴む様子に似ていた。
口元から唾液が垂れ、互いの口周りをベトベトにするが、それでも構わない。
彼らはその濃厚過ぎる接吻をひたすらに続ける。
人間には五つの感覚がある。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
リリーは今、その全ての感覚で快感を感じていた。
触覚は言うに及ばず、目を開ければ愛しい彼が目に映り、その口元や下腹部から聞こえる淫音が耳に入り、汗の匂いが混じった彼の体臭を嗅ぎ、絡まる舌や飲まされる唾液で彼の味を感じていた。
もはや全身で快感を感じているのだ。
それは○○も同じ事であった。
気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い――。
それ以外の事が考えられなくなる。
いや、寧ろそれ以外の事にどんな価値があるのだろうか。
本能以外、何の役にも立たない。
段々と膣の中の痙攣が激しくなり、締りが強くなる。
どうやらリリーは限界に近付いているようだ。
その強くなった締りによって、○○も限界に近付く。

「そろそろ、イキ、そう…だ……!!」
「わ、私も、きちゃ、来ちゃいますっ!!い、イッちゃっ、ああぁ!!」

互いに限界を訴える。
抱きしめている腕に力が入り、リリーの脚が○○の腰に絡むようにして固定される。

「○○さんっ、○○さんっ!!」
「リリー、リリー……!!」

無意識の内に互いの名前を呼び合う。
そうやって名前を呼ぶ度に、呼ばれる度に愛しい気持ちが溢れてくる。
その愛しい気持ちが、限界を迎えさせた。

「イッ、――ぁぁあああ!!」

圧倒的すぎる快楽が、リリーを襲った。
それから逃れる事が出来ないリリーは、身を捩らせ、背を反らし、嬌声を上げて受け入れるしかなかった。
それに連動して膣の中が激しく振動し、締まる。
その射精を促す為の動作に、○○が耐えられる訳が無かった。

「ぐううぅぅ!!」

一回放出しているのにその勢いは先程と同じ――いや、先程以上の勢いで欲望を放出する。
何度か痙攣を繰り返し、欲望を放出し切る。
やがて絶頂を迎え切ったのか、ピンと背を反っていたリリーは糸の切れた人形のように力が抜け、布団の上にぐったりと横たわった。
目はまだ虚空を見るようで、恍惚としている。
荒い息を吐きながらも○○は微笑みながらその頬を優しく撫で、額に汗で貼りついた髪を掻き分け、梳いてやる。

「リリー」

その呼びかけが聞こえたのか、リリーはそのトロンとした目を○○に向ける。
正直、まだ夢見心地と言った所だろう。
それでも分かったのか、目が合うと蕩けた笑みを浮かべた。
その唇に軽い啄ばむ様なキスを二、三回落とす。

「ふふ、凄く……気持ち良かったです……」
「ああ、俺もだ……」

再び頬を撫でてやる。
すると、リリーがその撫でている手に自身の手を重ねた。
そして、笑みを浮かべる。
まるでそれは、母親に抱かれる赤子の様な安心し切った笑みだった。

「私今、凄い幸せです……」
「俺もだよ、リリー」

彼女は一年の内春しか居れない。
彼女と愛し合える時間はとても短いのだ。
それでも○○はそれを不幸と思った事が無い。
たとえ短い時間しか一緒に居れないのだとしても、彼女と愛し合える事に変わりは無いのだ。

「また、最高の春になりそうだな……」
「そうですね、春ですからね……」

そう言って二人は笑い合った。


メガリス Date:2011/02/12 14:23:14

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