「還元不可能な複雑さ」とはインテリジェントデザイン理論家Dr. Michael Beheが1996年に、漸進進化不可能性の証拠として提唱した概念である。
Systems are irreducibly complex if removing any one part destroys the system's function. Irreducible complexity in organisms indicates they were designed.
もし、部品を一個でも取り除くとシステムの機能が失われるなら、そのシステムは還元不可能に複雑である。生物器官にある還元不可能な複雑さは、それがデザインされたことを示す。
[Michael Behe: "Darwin's Black Box", New York: The Free Press. 1996]
このときBeheは、アナロジーとしてネズミ捕りを、生物器官の例として細菌の鞭毛を挙げている。これについての、インテリジェントデザイン運動側の簡単な解説が以下にある。
あまり言うことがないのか、同じセンテンスが繰り返されている。
それはさておき、この「還元不可能な複雑さ(Irreducible Complexity)」の定義が1974年に出版された"若い地球の創造論"(創造科学)の本"Scientific Creationism"に書かれている。
The problem is simply whether a complex system, in which many components function unitedly together, and in which each component is uniquely necessary to the efficient functioning of the whole, could ever arise by random processes. The question is especially incisive when we deal with living system. Although inorganic relationships are often quite complex, living organisms are immensely more so. The evolution model nevertherless assumes all of these have arisen by chance and naturalism.
問題は、多くの部品がいっしょになって機能し、全体が効率的に機能するには個々の部品が代替不可能な必須である複雑なシステムが、ランダムな過程によって形成されるかどうかだ。この問題は我々が生物システムを取り扱うときに痛烈な問いとなる。非有機的な関係でもしばしば複雑になるのだから、生物でははるかに複雑になる。進化モデルはこれらすべてが、偶然と自然主義によって起こったと仮定する。
[Henry M. Morris: "Scientific Creationism", 1974, 1985, p.71]
また、Beheが例として挙げた鞭毛も、すでに創造科学のネタとして使われている。つまり、Beheの還元不可能な複雑さは、創造科学のパクリ、あるいは再包装である。
ただし、Beheは還元不可能な複雑さの例として、鞭毛以外に、血液凝固系、免疫系などを挙げており、それらについては創造科学のネタではなく、Beheオリジナルである。
これらの例は、実際にはどうかというと、何らかの形で分解されている。鞭毛はType III Secretory Systemのコオプションの可能性が指摘され、ヤツメウナギの血液凝固系は半分でも機能していることが示され、免疫系も分解されている。
このことは、たまたまBeheが挙げた例が進化可能だったということにとどまらない。もっと重要なことは「部品を一個でも取り除くとシステムの機能が失われる」ことが「進化不可能」を意味しないことが示されていることだ。