最終更新:ID:gehcsRJthA 2014年10月25日(土) 18:20:51履歴
奇妙な置物と奇妙な駅
身体が少しずつ削られていく恐怖
―――追い詰められていく―――
無慈悲なノイズ混じりのアナウンス
降りる乗客 -ダルマ-
そして残された腕も連れ去られ
「ゲームはもうおしまぁい♪」
「残念でしたね…」
冬より流れ出た混沌の子らは
無邪気な悪意をともしてそれを歓喜する
悪意に満ちた黄金は「ツマラナイ」と歓喜して
慈愛に満ちすぎた紺碧は「可愛そうに」と慈しむ
喪失に絡め取られた深緑は―――・・・・
かくしてゲームは終わり
勝者は現へ
敗者は眠りに
それぞれが誘われていくのであった
...NORMAL END...
【 帰還 ≠ 眠り 】
「……えらべなくて、ごめんなさい…」
ぽつりと零された言葉を拾うモノはなく
空虚な部屋に響いたそれさえも
やがては喪失の足音と共に失われ逝く
PCより
PLより
あの駅での出来事があっても、何一つ変わらない俺の単調な日々。
唯一変わったことがあるとすれば―――あの駅で知り合った、エリーゼが訪ねてきたことくらいか。
なぜ俺のところに訪ねてきたのか理解できないし、俺だから、という理由もわけがわからない。
確かにあの駅で腹を空かせていたところを助けはしたが―――それだけで、ここまで懐かれる意味がわからない。
できれば、俺なんかではなく愛しいあの子に逢えないと嘆く、痛々しい星のところに行ってほしい。彼女出なければその悲しみも痛みも癒せないのだと知っているから。
もしくは、あの双子か。片割れは母親が行方不明になって余計淋しいだろうから。
俺に会ったところで、エリーゼに何かしてやれるわけでもない。
中途半端で、何も救えず、なしえず、他人を犠牲にしてみっともなく生き続けている自分などに、
できたことなんて何もなく、あるのは失敗と後悔だけだ。
―――だから、エリーゼにも俺なんかではなく、シリウスや双子や、あるいはほかの家族の方が、楽しく、幸せになれるに違いない。
皆、皆、俺がいるよりも他人と一緒の方が幸せなのだから。
ああ、こんな思考しかできない自分がやはり死ぬほど大嫌いだ。
だからこそアイツは、俺にとっていつまでも羨望と嫉妬と、希望と絶望の象徴
唯一変わったことがあるとすれば―――あの駅で知り合った、エリーゼが訪ねてきたことくらいか。
なぜ俺のところに訪ねてきたのか理解できないし、俺だから、という理由もわけがわからない。
確かにあの駅で腹を空かせていたところを助けはしたが―――それだけで、ここまで懐かれる意味がわからない。
できれば、俺なんかではなく愛しいあの子に逢えないと嘆く、痛々しい星のところに行ってほしい。彼女出なければその悲しみも痛みも癒せないのだと知っているから。
もしくは、あの双子か。片割れは母親が行方不明になって余計淋しいだろうから。
俺に会ったところで、エリーゼに何かしてやれるわけでもない。
中途半端で、何も救えず、なしえず、他人を犠牲にしてみっともなく生き続けている自分などに、
できたことなんて何もなく、あるのは失敗と後悔だけだ。
―――だから、エリーゼにも俺なんかではなく、シリウスや双子や、あるいはほかの家族の方が、楽しく、幸せになれるに違いない。
皆、皆、俺がいるよりも他人と一緒の方が幸せなのだから。
ああ、こんな思考しかできない自分がやはり死ぬほど大嫌いだ。
だからこそアイツは、俺にとっていつまでも羨望と嫉妬と、希望と絶望の象徴
PCより
沢山の人が私を見てくれている。少し眩しい光に照らされて立っている私を。
そこには赤と青の綺麗な瞳をした女の人と、恐らく酔いからだろう、顔を朱く染めながら楽しげにしている男の子の姿も。
自分でも自分なのかと疑ってしまうほどに綺麗に着飾った私は、服の裾を摘んで一礼。
伴奏が始まる。何度も何度も聞いたメロディ。胸の高鳴りと共に息を大きく吸って、私は歌い始める――――
――そして、自分の口から零れ出た歌声が自分が思っていた以上に弱々しいものであることに気付いた途端、一気に現実に引き戻される。
……ああ、そうだった。私には今、自分で立つための足も、何かを掴むための手も存在していないんだった。
幸せな世界を夢見る、ちょっとした現実逃避。でもこの非現実的な現実から逃げ切ることは叶わなかったらしい。
隣には私と同じ状態の男の子とお姉さん。さっきまでの幻想にもちょっとだけ登場してくれた、このよく分からない場所を一緒に彷徨った二人。
結果としては時間切れで、ゲームはお終いらしい。ルールに従ったその先の私たちに待ち受けているものはきっと私自身の本当のお終いとかなんだろう。
夢とか、希望とかを思い返す様に語れば哀しさが積もっていくばかりで。
誤魔化すために笑ってみてもそれは酷く乾いた笑いで、イヴリアさんに褒めてもらった嬉しさと積もっていく哀しさがごちゃごちゃになって、つい耐え切れずに泣き出しそうになってしまう。
それでも私が涙を流さずに済んだのは、こんな状況でも明るく振る舞い続けるイリヤくんのおかげだった。
それが私が失敗してしまったような誤魔化しなのか、それとも本心からの振る舞いなのかはわからなかったけど、少なくともそのおかげでほんの少しだけ元気を貰えた。
残された私の身体で出来ることは、この喉で音を、言葉を紡ぐことだけ。
これが本当に最期なら、せめて少しくらい幸せな幻想を夢見ていたい。
例えば生まれ変わったら、なんていうお話とか。
もしイヴリアさんとイリヤくん、という素敵な二人と兄弟として生まれ変われたら、なんて、考えただけでとても素敵な未来で、想像しただけで幸せになってしまいそう。
イヴリアさんがお姉さんで、イリヤくんが弟かなぁ、なんて考えていたら、イヴリアさんにとっては私が長女っぽい、とか、しっかりしてる、とか、そんな印象だったみたい。
そんなことは、ないと思う。私はさっきまで現実逃避の妄想に浸って、泣きそうになっていたのに、そんな私がしっかり者だなんて。
他愛もない雑談。刻一刻と近づいてくるものなんて関係なしに話せていることが、ちょっと嬉しい。
話題は変わって容姿のお話。思ってみれば二人ともすっごく美男美女な感じ。
私も結構容姿は良い方、らしいんだけども。自分じゃあんまりよく分からない。
ただ、綺麗だって言われるのは純粋にうれしいから、それはそれでいいのかも。
それにしても、イリヤくんは自分の立場を下に見すぎてるような気がする。
私はそんな大層な人間じゃないし、出来れば対等に接したいと思ってるんだけど、なかなか難しそう。ずっとそうやって生きてきたから、簡単には変えられないのかな。
私よりも幼く見える子が、そんな風に暮らしてきたなんて、とっても悲しいことだと思うけど。その当人はどこか幸せそうで、そんなアンバランスに少しだけ困惑。
……あぁ、やっぱり二人のことをもっと知りたい。生きていたい、って考えちゃう。
もうそれは叶わないって、何となく理解しているけど、それでも。
やがて会話は途切れて、沈黙。でも、それは重く苦しいものじゃないと、少なくとも私は思ってる。
本当なら命の終わりに怯えて泣きじゃくっていた筈のこの時間。
でも今私が居るのは、三人で肩を並べるように、ただそこに在るだけのちょっとだけ暖かい空間。
それがすごくすごく嬉しくて、この心地よさに埋もれながら今度こそ泣いてしまいたくなる。
この涙は悲しさとか恐怖とかじゃない、純粋な嬉し涙で。だから流してしまってもいいんじゃないかって思えた。
叶わないと思ってた望みの一つ、幸せな終わりが少しだけでも形になった気がして、二人に言わずにはいられなかった。
「ありがとう。」って。
……汽車の音が、聞こえてくる。あぁ、何時か、何処かで。また、会えると、いい、なぁ……。
PLより
沢山の人が私を見てくれている。少し眩しい光に照らされて立っている私を。
そこには赤と青の綺麗な瞳をした女の人と、恐らく酔いからだろう、顔を朱く染めながら楽しげにしている男の子の姿も。
自分でも自分なのかと疑ってしまうほどに綺麗に着飾った私は、服の裾を摘んで一礼。
伴奏が始まる。何度も何度も聞いたメロディ。胸の高鳴りと共に息を大きく吸って、私は歌い始める――――
――そして、自分の口から零れ出た歌声が自分が思っていた以上に弱々しいものであることに気付いた途端、一気に現実に引き戻される。
……ああ、そうだった。私には今、自分で立つための足も、何かを掴むための手も存在していないんだった。
幸せな世界を夢見る、ちょっとした現実逃避。でもこの非現実的な現実から逃げ切ることは叶わなかったらしい。
隣には私と同じ状態の男の子とお姉さん。さっきまでの幻想にもちょっとだけ登場してくれた、このよく分からない場所を一緒に彷徨った二人。
結果としては時間切れで、ゲームはお終いらしい。ルールに従ったその先の私たちに待ち受けているものはきっと私自身の本当のお終いとかなんだろう。
夢とか、希望とかを思い返す様に語れば哀しさが積もっていくばかりで。
誤魔化すために笑ってみてもそれは酷く乾いた笑いで、イヴリアさんに褒めてもらった嬉しさと積もっていく哀しさがごちゃごちゃになって、つい耐え切れずに泣き出しそうになってしまう。
それでも私が涙を流さずに済んだのは、こんな状況でも明るく振る舞い続けるイリヤくんのおかげだった。
それが私が失敗してしまったような誤魔化しなのか、それとも本心からの振る舞いなのかはわからなかったけど、少なくともそのおかげでほんの少しだけ元気を貰えた。
残された私の身体で出来ることは、この喉で音を、言葉を紡ぐことだけ。
これが本当に最期なら、せめて少しくらい幸せな幻想を夢見ていたい。
例えば生まれ変わったら、なんていうお話とか。
もしイヴリアさんとイリヤくん、という素敵な二人と兄弟として生まれ変われたら、なんて、考えただけでとても素敵な未来で、想像しただけで幸せになってしまいそう。
イヴリアさんがお姉さんで、イリヤくんが弟かなぁ、なんて考えていたら、イヴリアさんにとっては私が長女っぽい、とか、しっかりしてる、とか、そんな印象だったみたい。
そんなことは、ないと思う。私はさっきまで現実逃避の妄想に浸って、泣きそうになっていたのに、そんな私がしっかり者だなんて。
他愛もない雑談。刻一刻と近づいてくるものなんて関係なしに話せていることが、ちょっと嬉しい。
話題は変わって容姿のお話。思ってみれば二人ともすっごく美男美女な感じ。
私も結構容姿は良い方、らしいんだけども。自分じゃあんまりよく分からない。
ただ、綺麗だって言われるのは純粋にうれしいから、それはそれでいいのかも。
それにしても、イリヤくんは自分の立場を下に見すぎてるような気がする。
私はそんな大層な人間じゃないし、出来れば対等に接したいと思ってるんだけど、なかなか難しそう。ずっとそうやって生きてきたから、簡単には変えられないのかな。
私よりも幼く見える子が、そんな風に暮らしてきたなんて、とっても悲しいことだと思うけど。その当人はどこか幸せそうで、そんなアンバランスに少しだけ困惑。
……あぁ、やっぱり二人のことをもっと知りたい。生きていたい、って考えちゃう。
もうそれは叶わないって、何となく理解しているけど、それでも。
やがて会話は途切れて、沈黙。でも、それは重く苦しいものじゃないと、少なくとも私は思ってる。
本当なら命の終わりに怯えて泣きじゃくっていた筈のこの時間。
でも今私が居るのは、三人で肩を並べるように、ただそこに在るだけのちょっとだけ暖かい空間。
それがすごくすごく嬉しくて、この心地よさに埋もれながら今度こそ泣いてしまいたくなる。
この涙は悲しさとか恐怖とかじゃない、純粋な嬉し涙で。だから流してしまってもいいんじゃないかって思えた。
叶わないと思ってた望みの一つ、幸せな終わりが少しだけでも形になった気がして、二人に言わずにはいられなかった。
「ありがとう。」って。
……汽車の音が、聞こえてくる。あぁ、何時か、何処かで。また、会えると、いい、なぁ……。
実は今回が初のPCロストだったPLです。
あともう少し、というところでの時間切れしたが、すぐさま行動に移すことができれば間に合っていたということもあり口惜しいばかりです。
ログを読み返してみるとあまり探索に貢献できていなかった感がひしひしと。精進しないとなぁ、ということを改めて悟った卓でした。
それにしても、ロストの子の後日談を書くという経験も当然なかったので試行錯誤感が満載です。微妙に後日談でもないですねこれ。
この子の心情くらいは救われていて欲しいなぁ、というちょっとした我儘が形になってます。
さて、ご一緒させていただいた皆様、そして何時如何なる時も素敵な卓を開いてくださるKPの古都子さん、ありがとうございました!
あともう少し、というところでの時間切れしたが、すぐさま行動に移すことができれば間に合っていたということもあり口惜しいばかりです。
ログを読み返してみるとあまり探索に貢献できていなかった感がひしひしと。精進しないとなぁ、ということを改めて悟った卓でした。
それにしても、ロストの子の後日談を書くという経験も当然なかったので試行錯誤感が満載です。微妙に後日談でもないですねこれ。
この子の心情くらいは救われていて欲しいなぁ、というちょっとした我儘が形になってます。
さて、ご一緒させていただいた皆様、そして何時如何なる時も素敵な卓を開いてくださるKPの古都子さん、ありがとうございました!
PCより
お酒はやっぱり素敵なものなのです。最初に飲んだのは何時だったでしょう。覚えてないです。どれだけ飲んだかも覚えていないのです。
全部がぼんやりしてふわふわするんです。何でもかんでもぼんやりして遠くに行ってしまうのです。
今もそうです。いつも通りなんです。
今回の一件でご一緒してくださった方たちは、皆さん優しい人たちでした。
見る人が気持ち悪くなってしまう自分と違って、綺麗な人達だと思いました。
役立たずで学も無くて能も無いの自分と違って、すごい人達だと思いました。
幸せな人生だったと思うのです。
小さい頃、周りにいたのは知らない方々でしたが、本当なら捨てられるべきゴミ屑の自分を置いていてくださいました。
お仕事も下さいましたし、お父さんのコートも下さいました。
自分が玩具になって皆様と一緒に遊べたし、埃っぽくても物置の隅にいれば雨にも風にも当たらないのです。
幸せそうな皆様の声を聞くのが幸せでした。自分でも役に立てたような気がしました。
けれど長い間ゴミを置いておくと腐るのです。皆様が不快になってはいけないので、そっと家を出て行きました。
外の世界は広かったです。感動的でした。
ゴミ箱を漁れば食べ物が只で手に入りましたし、人を不快にさせることもありません。気が付いたら財布を握っていることだってあったのです。
たまに殴ってくださる方もいました。お願いもしていないのに……とても親切な方だったんだろうと思います。
そんな親切な方も勿論でしたが、お酒にも巡り会えました。これが自分の人生の中で最高に幸せな事だったでしょう。
それに……自分が選ばれなかったことで、他人様の命が一つ救われたのです。
――勿論、選ばれなかった今の状況も幸せです。
死ぬということですが、これは有り金を使い果たして仕事もなくしてしまった状況に戻らなくていいということなのです。自分は何て幸せなんでしょう。
それに、こうやって笑っている誰かの腕の中。
それが人じゃない化物でも少し嬉しいと思えるんです。
お母さんが抱きしめてくれるなら、こんな感じなのかなって
PLより
お酒はやっぱり素敵なものなのです。最初に飲んだのは何時だったでしょう。覚えてないです。どれだけ飲んだかも覚えていないのです。
全部がぼんやりしてふわふわするんです。何でもかんでもぼんやりして遠くに行ってしまうのです。
今もそうです。いつも通りなんです。
今回の一件でご一緒してくださった方たちは、皆さん優しい人たちでした。
見る人が気持ち悪くなってしまう自分と違って、綺麗な人達だと思いました。
役立たずで学も無くて能も無いの自分と違って、すごい人達だと思いました。
幸せな人生だったと思うのです。
小さい頃、周りにいたのは知らない方々でしたが、本当なら捨てられるべきゴミ屑の自分を置いていてくださいました。
お仕事も下さいましたし、お父さんのコートも下さいました。
自分が玩具になって皆様と一緒に遊べたし、埃っぽくても物置の隅にいれば雨にも風にも当たらないのです。
幸せそうな皆様の声を聞くのが幸せでした。自分でも役に立てたような気がしました。
けれど長い間ゴミを置いておくと腐るのです。皆様が不快になってはいけないので、そっと家を出て行きました。
外の世界は広かったです。感動的でした。
ゴミ箱を漁れば食べ物が只で手に入りましたし、人を不快にさせることもありません。気が付いたら財布を握っていることだってあったのです。
たまに殴ってくださる方もいました。お願いもしていないのに……とても親切な方だったんだろうと思います。
そんな親切な方も勿論でしたが、お酒にも巡り会えました。これが自分の人生の中で最高に幸せな事だったでしょう。
それに……自分が選ばれなかったことで、他人様の命が一つ救われたのです。
――勿論、選ばれなかった今の状況も幸せです。
死ぬということですが、これは有り金を使い果たして仕事もなくしてしまった状況に戻らなくていいということなのです。自分は何て幸せなんでしょう。
それに、こうやって笑っている誰かの腕の中。
それが人じゃない化物でも少し嬉しいと思えるんです。
お母さんが抱きしめてくれるなら、こんな感じなのかなって
KP様、PLの皆様お疲れ様でした。
経験者だったので、見守る方針で行こうとした結果がこれですな。もう少し積極的になってもよかったかと反省しきりでございます。
久々のロスト……というか、ロスト前の会話で胃壁の細胞が死滅しました。ヒトオモイニコロシテクダサーイ!
そのお蔭でロスト自体はそこまでダメージが来ず。ハヤクコロシテー!で頭いっぱいだったもので(
後日談というか、最期の心情的な感じになりました。酒の力ってすげー!っていうのが伝われば幸い。ポジティブに生きましょう。
ただ、イリヤが殺しておくには惜しい好みのキャラしてたので、ごちょごちょしておきます(目逸らし
素敵な卓をありがとうございました!何れ他の卓でお会いした時はよろしくお願いいたします。
経験者だったので、見守る方針で行こうとした結果がこれですな。もう少し積極的になってもよかったかと反省しきりでございます。
久々のロスト……というか、ロスト前の会話で胃壁の細胞が死滅しました。ヒトオモイニコロシテクダサーイ!
そのお蔭でロスト自体はそこまでダメージが来ず。ハヤクコロシテー!で頭いっぱいだったもので(
後日談というか、最期の心情的な感じになりました。酒の力ってすげー!っていうのが伝われば幸い。ポジティブに生きましょう。
ただ、イリヤが殺しておくには惜しい好みのキャラしてたので、ごちょごちょしておきます(目逸らし
素敵な卓をありがとうございました!何れ他の卓でお会いした時はよろしくお願いいたします。
皆様、お疲れ様でした。
タイムアップからの救済によって1名のみ生還、という結果でしたが……。
何気に自卓でロストPCが出るのは、これが2回目と少なかったりします。
今卓は、なるべく「だるま駅」というシナリオの形式に忠実に沿いつつも、あくまで1920年代であるということを念頭に置いて描写等は気を付けてみました…が……。
毎度ミスが目立つKP故、何処かでミスしたりやらかしたりしていたかもしれません。
それに加えて気を付けたのは、必要以上の描写は探索者が注意を凝らしていない場合はしない、という点だったり……。
日常的に気にするでもないものや、これといって目立たないもの等は、なるべく宣言や《目星》成功がなければ描写しておりませんでした。
とはいえその点に関してはまだまだKPが修行中の身なので、これからも精進していきたいと考えております。
では、長くなりましたが、今回はこの辺で……。
また何処か別の卓でお逢いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。
タイムアップからの救済によって1名のみ生還、という結果でしたが……。
何気に自卓でロストPCが出るのは、これが2回目と少なかったりします。
今卓は、なるべく「だるま駅」というシナリオの形式に忠実に沿いつつも、あくまで1920年代であるということを念頭に置いて描写等は気を付けてみました…が……。
毎度ミスが目立つKP故、何処かでミスしたりやらかしたりしていたかもしれません。
それに加えて気を付けたのは、必要以上の描写は探索者が注意を凝らしていない場合はしない、という点だったり……。
日常的に気にするでもないものや、これといって目立たないもの等は、なるべく宣言や《目星》成功がなければ描写しておりませんでした。
とはいえその点に関してはまだまだKPが修行中の身なので、これからも精進していきたいと考えております。
では、長くなりましたが、今回はこの辺で……。
また何処か別の卓でお逢いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。
「……ロビン、アルフィー、エリーゼ」
お父様が僕達を呼んだのは、かれこれ半年くらい前の話。
「なぁにぃ、おとーさまぁ?」
「どうか、しましたか…? 父様」
「…………」
お父様はいつも自分の部屋に籠もってる。何をしているのかって言えば、多分、何もしてないんだと思う。一日中、窓辺の椅子に座って外を眺めてる。時々先生がやってきては、何か話していたり、何処かへお父様を連れて行ったりすることがあるけれど、それ以外でお父様が動いているのを見たことがない。少なくとも僕は。
そんなお父様が僕達を部屋に呼び出した。
久々に入ったお父様の部屋は、前に入った時と寸分違わない。まるでお父様の部屋だけ時間が止まってしまっているみたいだと、入る度に思う。実際そんなことはないし、多分よく見れば埃の積もり具合とか書類の重なり具合とか、全然違うのだろうけれど……。それでも、確かにお父様の部屋は―――お父様の時間は、どこかで止まってしまっている。
「……。私の代わりに、この仕事をやっておいてくれ」
「へ?」
「………」
「………」
僕は勿論だけど、アルとエリーもかなぁり吃驚してたと思う。お父様が僕達にそんなこと言うなんて思って無かったし。
差し出された書類をぺらぺらと捲る。まあ、予想も想像もしてたけど、流石バースデイ家と言うべきなのかな。来る仕事なんて碌でもないものばっかり。少なくともこんなので利益を得られるの、うちと依頼主くらいだと思う。余所様世間様人類様からすれば大損も良いところだ。
「…できる…?」
お父様が赤い瞳で僕等を見る。
無機質な目。まるで硝子球だ。僕達を見ているようで見ていない。
「うん、できるよぉ。ねー、アルぅ、エリー?」
一応、確認してみる。二人とも頷いた。うん、僕達三人揃えば出来ないことってきっと無い。
「ねっ? 任せて、おとーさま」
なるべく、安心して貰いたくて意識して笑みを浮かべる。
硝子球に小さな温かさが灯った気がした。
「………そうか。……じゃあ、任せる…」
「うん!」
「はい」
「……がんば、ります…」
暫くはお父様の口元に乗せられた確かな微笑が忘れられそうにないなぁ、と思った。
* * *
そうして出来たのが“Dharma Station”。
僕が考えてエリーが作った駅。アルは僕達二人の世話をその間、甲斐甲斐しく焼いてくれていた。うん、作ったのはエリーだし、考えたのは僕だけど、アルがいなかったら途中でどっちもダウンしてたかも。アルみたいな人って貴重で大事だとしみじみ思った。
「あ〜あ…それにしてもショックぅ〜」
「何が、です?」
アルが淹れてくれた紅茶に口を付けながら溜息を吐く。
「だぁってぇ〜…仕掛けとかさぁ? 頑張って先方の注文に沿いつつ考えたんだよぉ? なぁのにクリアされちゃうしぃ!」
「でもそれは……エリーが協力したから、でしょう?」
「そうだよぉ。エリーが協力するって事態が発生するなんて想定してなかったんだもぉん!」
半分は嘘だけれども。想定していなかったわけがないんだよね。そこまで頭、回らないわけじゃないし。だから、それを想定した上で態と“何も食べさせないで”連れていった。置いて行くって選択肢は最初からない。そんなことしたくなかったってのと、それがエリーの為にはならないってのと、半々。ああやって空腹のまま置いておけば、エリーは何も出来ないと高をくくってた。いや、実際、何も出来なかった。今までずっと。だというのにスコール・フローズヴィトニルは、躊躇いも無くエリーの空腹を満たしてみせた。まず、普通の神経はしてない。それは確実。今まであの駅に迷い込んでエリーの空腹を満たした人間なんていなかったし。
満たされたエリーは案の定、スコールちゃんに懐いちゃってるし。それにしたってあの懐き具合は異常だから何か知らないところで言われたのかもしれないけど……ああ、思い出すだけで……。
「……弄くり回したくなるなぁ…」
「悪い人ですね…ロビーは」
しないけど。そんなことしたらエリーが立ち直れなくなりそうだし。
苦笑混じりのアルに「きひっ」笑ってみせる。優しい手が頭を撫でた。髪を梳くような丁寧で優しい手つき。何だか随分前にも誰かにそうして貰った記憶があった。そんなことするのは家族くらいなものだし、家族の誰かだろうと一瞬思ったのだけれど……違う、気がした。家族は、家族なのだけれど。家族の誰を思い浮かべても、その誰かという空白に誰も当てはまらない。……考えてもその空白を埋めるためのピースは僕の中に存在していなかった。面倒なのでそれに関する思考は放棄する。
気分を変える為にぐるっと室内を見渡して、そういえば、朝からエリーを見てないことを漸く思い出す。別にエリーのことを忘れていたわけじゃない。忘れるなんてありえない。ただあの子、放って置くと部屋に引きこもりっぱなしだったりするから見ない日が結構多いのは確かなんだよね。見ないっていうか、逢わない、か。同じ家にいることは分かってるし。
「そういや、エリーはぁ?」
「彼に会いに行ったのではないでしょうか…?」
「はへぇ…有言実行はいいけどぉ……行動早いねぇ、あの子は」
「早く行動しなければ行けないでしょうからね…特に今回みたいな場合は」
「あっは。まあ、あの狼、食いしん坊だもんねぇ」
「……ナイト、だなんて、よくまあ咄嗟にあの子も思いつきましたよね」
「ねー…? まあ、機転利かせたお陰であの子の機嫌損ねるのは避けられたみたいだけどー」
ナイト……普通の人間ならば“騎士”と解釈するであろうその名前の、本当の意味するところは“嫉妬”。ほんと、エリーの頭の回転には僕も舌を巻いちゃうね。あの子達は自分に与えられた名前をすっごく大事にしてるから、違う名前で呼ぼうものなら、それはそれは面倒なことになっちゃうんだけど……。本質部分から大きく外れていなければ別の名前で呼ばれてもそれほど機嫌は損ねない。新しい発見。
でもいくら呼び名を変えてもあれらの本質が変わる事は絶対にない。だってあれは、お父様の―――・・・・。
「で、結局、ナイト………エーヌもついていっちゃったのぉ?」
「みたいですね」
「摘み食いしないといいけどぉ」
「エリーがその辺はキチンと躾けるでしょうから…大丈夫ですよ、きっと」
「だといいねぇ」
Haine:エーヌ。“憎悪”の名を与えられた狼を連れて、あの子はあの赤目の狼に逢いに行っているのだろう。ああ、まったく、なんて愉快な“㐂”劇なんだろ!
「君もそう思わない? プーちゃぁん」
指先を差し出せば、重力を無視した軽やかさで止まり、羽をばたつかせる小鳥に僕は笑い返した。
「プレジールは忙しないですね」
「仕方無いねぇ、だってこの子は僕と同じで、」
いつでもなんでも、楽しいことや嬉しいことがだぁいすきで仕方無いんだから。
ねっ、Plaisir:プレジール―――“歓喜”の名を持つ可愛い駒鳥ちゃん?
珍しく、エリーゼが部屋の外にいた。外にいるだけでなく、玄関の扉に手をかけている。服装や手荷物を見ても、何処かへ出掛けるつもりなのは一目瞭然だった。これが別の誰かだったのなら驚かなかったのだろうけれども、他ならぬエリーゼが出掛けようとしていることに、アルフィーは驚いていた。
「何処かへお出かけ、ですか?」
控えめに、外へ足を踏み出そうとしていた背に声を掛ける。
びくり、と大袈裟なくらいエリーゼの肩が跳ねた。悪戯しようとして見つかってしまった子供のようだ。
恐る恐る、といった感じでエリーゼが振り返る。視線は右へ左へ泳ぎ、口は小さく開閉を繰り返す。何か言おうとして、言葉に悩んでいる時のエリーゼの癖だ。それに、アルフィーは微笑する。
「怒ったりしませんよ……。何処かへ、出掛けるんですか?」
「……え、と……。……スコール、さんに…逢いに……」
ぼそぼそと小さな、囁くような声音で紡がれた言葉は予想通りのものではあった。それ故に、アルフィーは自身の機嫌が少しばかり下がったのを感じる。あまり、エリーゼが他人と触れ合うことを快く思えない自分がいた。それは恐らくロビンも同じことだろう。可愛らしく表現するならば嫉妬のようなもの。だが実際は腐りきって爛れた、独占欲のようなものだ。嫉妬なんて可愛い言葉でくるんでも、そこに内包されているどろどろとした汚濁は隠しきれるものではない。
エリーゼの肩が揺れ、顔が怯えたように強張ったのが見てとれた。どうやら表情に少しばかり出てしまったようだ。怯えさせたことを申し訳なく思い、手を伸ばす。エリーゼの強張りが益々強まった気がした。そんなに怯えさせてしまったのか、と罪悪感が胸を満たし、安心させなくてはという使命感に似た衝動が沸き起こる。
触れる指先に細心の注意を払い、頭を撫でてやる。瞬間感じる充足感。誰かに尽くしている、尽くせている、自己満足だけで形作られた慈しみの心。優しく撫で続ければ、強張ったままであったが、それでも微かにエリーゼの緊張は和らいだようだった。充足感に更なる多幸感が上乗せされる。
「そうですか…彼に」
「……はい…」
「……。…いってらっしゃい、エリー」
「………」
驚いたように、エリーゼが顔を上げる。言いたい事は言葉にされずとも伝わっていた。
「ちゃんと今日は食べたのでしょう?」
「……え、と…はい……。…少し、長く、外に出ます、から…」
「予備は?」
「……ぁ、えっと……」
「ふふふ…じゃあ、持って来ますから、少し待っていてくださいね?」
「……、あ…はい……」
くるりと玄関から踵を返して貯蔵庫へ向かう。
この屋敷にはいくつも地下への入り口があった。だが、一つとして同じ地下へは繋がっていない。宛ら蟻の巣のようにいくつもの地下があり、その用途はそれぞれによって違う。この家の全ての地下を把握しているのは当主と、先生、あとはエリーゼくらいなものだろう。アルフィーとて、それなりに暮らしているとはいえども未だ見ぬ地下がいくつもあることは察していた。
貯蔵庫へ繋がる地下の入り口は、厨房にあった。まあ、利便性を考えれば当然とも言える配置だろう。
落とし戸を持ち上げれば、ぽっかりと開く貯蔵庫の入り口。足を滑らせないよう注意を払いつつ、降り立った地下は、ひんやりとした空気に満たされていた。頬を撫でる冷気。冬とはまた違った冷えた空気は、熱に浮かされて何処かぼんやりした思考回路を醒まさせてくれる。
「何を持って行かせるべきでしょう…」
あまり保ちが良いとは言えない固形物を持たせるのは良いとは思えなかったので、飲物にすることにした。
適当にボトルを一本抜き取ると、厨房に戻ってスキットルに中身を移し替える。少し口の幅が違うせいか、少量手にかけてしまったが、それの処理は後回しにする。
蓋をしっかり閉じると、そのままエリーゼが待つであろう玄関へと足を向けた。
案の定、と言うべきか、エリーゼは玄関ホールで屈み込み、エーヌを撫でていた。名やおどろおどろしい見た目に反し、エリーゼに撫でられているエーヌは心地よさそうにしている。こうして見ると、狼、というよりは大型犬と言った印象を受けた。
「お待たせしました」
「……ぁ…。すみま、せん…わざ、わざ…」
「いいえ、いいんですよ。…ほら、スキットルに入れておきましたから、持って行きなさい」
「あり、がとう…ござい、ます。……え、と…それ、じゃあ…、……いって、き、ます…」
スキットルを受け取り、愛用のコートのポケットに収めると、エリーゼは申し訳なさそうに何度も頭を下げながら、今度こそ出掛けていった。その背中を手を振って見送ってから、アルフィーは小さく嘆息する。
「……良い傾向…と思ってあげるべきなのかも、しれませんが……」
すっかり乾いてしまった指先をちろりと舐める。かさついた感触と、鉄のような不快な味が口内を満たした。
「俺は、好きになれそうにないですね…」
どうにもこの手のは口に合わないことを再認識しながら、零れ落ちた苦笑。鷹とも鷲ともとれる、大型の鳥だけが彼のその苦笑を見ていた。
「イポクリジー、こちらですよ」
Hypocrisie:イポクリジー。“偽善”の名を持つ黒鷲は、高らかな鳴き声を響かせながら、差し出された腕に優雅に止まるのだった。
必要とされたかった。必要として欲しかった。そうしてくれるなら誰でも良かったし、理由は何でも良かった。必要としてくれている、その事実があれば他に何も要らなかった。……いや、本当は違う。必要として、愛してくれて、抱きしめてくれて、優しくしてくれて、慈しんでくれて。本当は欲しい、いっぱい、いっぱい、たくさん欲しい。
けれど無意味なのだ。どれほど望んでもそれは全てあの黒い獣に掠め取られてしまう。食い尽くされてしまう。愛されて嬉しい、抱きしめられて嬉しい、優しくされて嬉しい、慈しんでくれて嬉しい………しあわせ。そんな気持ちは、時間が経てば獣が食い尽くし、後には“記録”だけが残る。“感情”を抜き去られた“記憶”なぞ、紙面上の文面と何が違うと言うのか。
実感を伴っていながら実感が喪われているというおかしな状況。笑い話にもできない。
過去の自分が、誰かに向けた言葉を覚えている。誰かに向けられた言葉も覚えている。その時の状況だって鮮明に思い描けるし、相手がどんな感情を自分に向けていたかも知っている。けれど。どうしても、自分がその時どんな“感情”を抱き、どんな“気持ち”でいたかが、思い出せない。いや、思い出せないどころか、そこだけぽっかりと空白のままなのだ。
記憶の中の自分には“表情(カオ)”がない。実際に顔がないわけではない。顔はちゃんとある。ただ、表情がない。分からないからだ。その時の自分の“感情”も、“気持ち”も。全ては黒い狼が食い尽くしてしまって、一欠片も残されてはいない。
一見すればただそれだけのことで、と思われてしまうかもしれない。記憶を無くしたわけではないのだから問題無いだろう、と思われてしまうかもしれない。そう言われる度に、「そうじゃない」と言いたい自分を押さえつけてきた。
人の、いわゆる“経験”というものは過去の体験や記憶の積み重ねだ。過去があり、現在(イマ)がある。それは人類始まって以来の不変の真理だろう。例えそれが後に人の道を踏み外そうとも、狂気に飲まれようとも。始まり(スタートライン)は皆、同じなのだ。ではその“経験”とは何処から来るのだろうか? 少なくともエリーゼは過去の体験に付随する“感情”や“気持ち”だと考えている。いや、そう考えざるを得なかったと言うべきか。過去の出来事に対する思い。こうすればよかった、ああすればよかった。それは例えば後悔。こうだったから、もう嫌だ。それは例えば忌避。ああだったから、凄く嬉しかった。それは例えば歓喜。自身の体験に付随する感情こそが経験というものの本質なのだとエリーゼは考えている。経験が生きるのは、その時の感情をバネに同じ事を繰り返したくないと思う何かがあるからだ。エリーゼにはそれがない。経験を生かすために必要な、肝心のバネの部分が無かった。だから繰り返す。もしかしたら繰り返してなどいないのかもしれない。その都度、違うことをしているのかもしれない。けれどそれすら分からない。その時感じた気持ちはその時限りのもの。時間と共に蝕まれ消えていくもの。
もしもエリーゼが愚かだったのなら、また違ったのだろう。賢くなければ、少なくとも今のような状態にはならなかった筈だ。
エリーゼは賢かった。思考が柔軟だった。あらゆる視野からあらゆる可能性を見出すことができた。それが、徒となった。
“記録”の中の自分を思い起こす。その場の状況を思い描く。まるで映画のように、フィルムを再生するが如く、正確に、リアルに、頭の中に情景を描ける。人物を置く、物を置く。役者にセリフと感情を与える。そこに、自分を置く。“記録”の中にある言葉をそのまま言わせる。身振り手振りも完璧に再現する。そして“感情(中身)”を想像する。何度も試したこと。そして、何度も失敗していることだ。
あらゆる可能性がそこにあった。あらゆる“感情”がそこにあった。どの可能性を辿ってもそれに対して整合性を与えられてしまう。矛盾無く置くことができてしまう。始めから今に至るまでの“感情(道順)”が消えてしまっている以上、推測は不可能。発した言葉をそのまま自身の感情であると思うにはあまりにも安直。
人間は複雑怪奇な生き物だ。じっと観察し続けたからこそ、分かる。理解してしまっている。自身の欠けたものを取り戻そうと周りをじっくり観察した結果、どんどんと自分が遠い存在になっていってしまった。
思えば、エリーゼの人生は失敗で充ち満ちていた。様々な手を尽くす。自分を知る為、自分を取り戻す為。良いと思って始めたことの結果は何時だって“失敗”なのだ。廻りめぐってそれらが失敗になっていく。哀しいことに、その失敗に気付くのはいつでも全てが終わった後なのだ。後悔先に立たず。経験を生かすことが出来ないエリーゼは後悔と失敗ばかりを続けていた―――・・・・。
* * *
誰かに呼ばれた気がした。
誰かの声が聞こえた。
振り返るが、誰もいない。何処にもいない。気のせいか、と前を向けば、先程まで誰もいなかった場所に誰かが立っている。白と黒。対照的な二人の女性。赤い目がじぃと無機質にこちらを見つめている。その輝きは誰かに似ている気がした。
二人が近づいて来る。
手が、伸ばされる。掴まれた。右と左、白と黒、見つめる赤。青ざめた唇がゆっくりと開かれる。
「かえして」「かえせ」
二つの口がそう囁く。何をと問わずとも、彼女達が何を自分に求めているのか分かってしまった。
「ごめ、ご、ごめんな、さい……ごめ、んなさ、い…」
胸に満ちるこれは、罪悪感か。それとも恐怖か。あるいは××か、××か。口を突いて出た謝罪の言葉から推測出来る感情は様々。
「かえして、ねえ、かえして」
「そこをかえせ、なあ、あわせてくれ」
「ねえ、」「なあ、」
「どうしてきみがそこにいるの」「どうしておまえがそこにいるんだ」
* * *
「――――っ!!!」
声にならない悲鳴と共に意識が一気に現実へ引き上げられた。
ばくばくと、心臓が大きな音を立てている。冷や汗が背筋をつぅ…と撫でる。ぐるりと視線を廻らせ、白と黒の幻影(カゲ)を探す。何処にも、誰も、いない。そのことに安堵すると同時に、はらはらと頬を伝う涙。怖かった。哀しかった。分かってる。ただの夢。けれどその夢さえ、自分を脅かすには十分過ぎるものだ。
だってこの頭には“記録”しか詰まってない。そこにあった筈の“心”が無い。あの夢が“記憶”の可能性だってある。その可能性がないとは言い切れない。言い切れるだけの“記憶(モノ)”がない。誰かに話しても無駄なこと。そんなの分かる訳がないと切り捨てられるか、優しい表面上だけの言葉で慰められるか。そのどちらか。
息を吸っては吐く。吐いては吸う。何度も何度も繰り返せば、やがて呼吸が落ち着いて来た。
「……ぐす…」
鼻を啜り、頬を濡らす体液(ナミダ)を手で拭う。付着した温かいそれ。もう数秒もすれば冷えるであろうそれを、じぃと見つめる。(美味しそう。) そんなことを考える思考を振り払う。(お腹空いた。) 脳が訴える空腹を弾圧する。だめ、だめ、こんなこと可笑しい。普通じゃない。異常だ。だめ、だめ、これ以上可笑しくなったらもう本当にどうにもできなくなる。修正出来なくなる。
そう思うのに。そう思っているのに。意志に反して本能は素直だ。顔が手に近づく。舌先が伸びる。ちろり、と付着したそれを舐める。薄い味。しょっぱい。おいしい。何日も何も口に入れていなかったかのように、胃袋が空っぽであったかのように。口内に広がったそれに、脳が充足感を得ていく。空腹が緩和される。
普通の食事を食事と認識しなくなってしまった頭。食べても食べても、胃が限界を訴えようとも空腹を訴え続けるという異常。先生の話では精神的に限界ギリギリの状態が続いたストレスによる一時的な精神疾患だと言うが、そんな簡単な言葉で済まされるのだろうか、これは。
初めは。人の肉が美味しそうに思えた。少しすると人間が美味しそうに見え始めた。それと同時に食べても食べても脳が空腹を訴え始めた。やがて人間の全てが美味しそうに見えた。肉、内臓、体液、何でも。何でも、美味しそうに見えた。美味しかった。食べれば、飲めば、空腹が満たされた。他のものじゃ決して満たされないのに、それらは満たしてくれる。飢えを癒してくれる。渇きを潤してくれる。それは可笑しいと分かっている。異常だと分かっている。駄目だと分かっている。分かっていても、まるで初めからそうであったように、脳は人間“のみ”を食べ物と認識してしまっていた。
「……きもちわるい…」
自分へ毒づく。気持ち悪い。汚い。醜い。なんで生きてるんだろうか。死んでしまえばいいのに。そう、死んでしまえばいいのに。自分に何の価値も見いだせていない癖に。どうして今もこうして生きようとしているのだろう。生きているのだろう。
ふと、先生の言葉が頭を過ぎる。
エリーゼ。よく聞きなさい。
君を―――・・・・
「………必要と…してくれる、人……」
本当にいるのだろうか。とてもではないが、いるとは…思えない。そんな都合の良い存在が、いてくれるだなんてそんなの夢物語。
だって、だってね、先生。
エリーゼじゃないんですよ。エリーゼじゃないんですよ。それは例えばエリザヴェータと呼ばれた白い彼女であったり、シトロンと呼ばれた黒い彼女であったり。エリーゼじゃ、ないんです先生。必要とされているのはエリーゼじゃないんです。でもおれはエリーゼなんです。
頑張ってエリザヴェータになろうとするけれど、シトロンになろうとするけれど。どうしても“肝心な部分(ココロ)”が欠落しているせいで、そこが空白なせいで、空欄なせいで。成りきれないんです。確かにおれはエリザヴェータだったのに。シトロンだったのに。そのどちらにもなれないのです。どちらもあの獣が食い尽くして消えてしまったのです。
ねえ先生、どうやって探せというのですか。エリーゼという不安定な容れ物の中に収まったまま、どうやって見つけろというのですか。こんなものを必要としてくれる人なんているわけないじゃないですか。
ねえ…先生……。………ねえ……。……誰でもいいから………教えてくださいよ、どうすればいいんです。おれはどう生きればいいんです。“わたし”に成りきれない“おれ”はどうしたらいいんですか。
響く悲鳴(コエ)を殺す。これは外に出してはいけないもの。きちんと殺さなくては、今にも飛び出しそうなそれ。誰かと言葉を交わす度に、矛盾にぶつかる度に、飛び出しそうになるそれらを知られてはいけない。知られたら“わたし”じゃいられなくなる。
「……………」
時計を見やる。時刻は午後一時を少し回ったくらい。
少し、出掛けよう。
このまま此処にいれば、目まぐるしく回り続ける思考に飲みこまれそうで怖かった。何も、何も考えたくなかった。考えれば考える程、沈み込んでいく。沈みすぎればもう浮き上がれない。それが分かっているから、思考を放棄する。放棄しようとする。必死に自分を誤魔化す。そうしなければ生きていけない。
椅子に引っかけられたままのコートの袖に腕を通す。身なりを整えるのは面倒だったので、そのままだ。そもそも綺麗に整える必要性を感じない。
扉を押し開けながら、何処へ行こうか考えつつ長い廊下を歩けば、いつの間にか足下に寄り添う漆黒の狼。
「……いっしょに、いきます…?」
「ばうっ!」
「…そう、ですか…」
なら、今、一番行きたいところへ行こう。
「……本当に来ると思ってなかったんだけど」
「…行くって…わたし、言いました、よ…ね……」
「…いや、言ってたけどさ…」
面倒臭そうに頭を掻く彼は、やはりというべきか、エリーゼの来訪に困っているようだった。何の前触れもなく来たことに困っているというよりは、本当にエリーゼが来たことに困っている、という感じだろうか。来たことを迷惑がられるのならさておき、本当に来たという事実に困られる理由が分からず、エリーゼはただただ首を傾げる。
「……というか、シリウスはどうしたの。君見つけたら真っ先に捕まえようとしそうだけど」
「…えっと……がんばって、逃げました」
「………。よく逃げ切れたね」
呆れ半分、感心半分と言ったところか。
逃げ切る事自体はそれほど難しいことでもなかった。確かに厄介な人物ではあるのだろうが、バースデイ家の人間に比べればかわいい方だと思う。とはいえ、逃げたという表現は少しばかり嘘が混じっているのだが。正しくは逃げたのではない。だがそんなのは些細な違いだ。シリウスという人物に捕まりそうになったのも、それを上手くかわしてスコールに逢いに来れたという事実も。どちらもそんな些細な違い程度で変わるものではない。だから伝える必要はないだろうと判断してそれ以上は何も言わない。
「あー…もういいよ……。…ゆっくりしていけばいいんじゃないの?」
面倒そうな投げやりな言葉。けれど裏を返せば此処にいることを許してくれる言葉。それがとても―――・・・・。
「…はい……。…ありがとう、ござい、ます…」
「………。何が良くて俺なんだか…」
絶対にシリウスとか双子の方が。と何度となく繰り返された言葉が再び繰り返される。
「…え、と…。…スコールさんだから…です…。…スコールさんが、いいん、です」
「………あ、っそ」
繰り返される言葉に、何度も繰り返した言葉を返す。黙りこくった彼の頭に腕を伸ばして撫でれば、諦めたような溜息と共にそっぽを向かれてしまった。けれど手が振り払われることはない。それが自分のしつこさに諦めた結果得られたものだったとしても、やはり、とても嬉しかった。同時に淋しくもあった。この嬉しさも、いずれは食べられ消えてしまうのだから。
「…スコールさん」
「何?」
「………。…いえ、なんでも、ないです……」
言おうとした言葉を、飲みこむ。これ以上はいけない。それ以上はいけない。頭が歯止めを掛ける。
(あなたは、あなただったら、おれを必要としてくれるでしょうか)
聞けるわけがない。烏滸がましい。図々しい。きもちわるい。望んではいけない。今に満足しなくてはいけない。
だっておれを必要としてくれる人なんているわけがないんです。スコールさんにおれが、必要なわけがないんです。この人にはもっと別の人が、いるはずなんですから。自分なんかより、ずっとずっと、優れた素敵な人が。それだけの価値が、この人にはあるのだから。
だからおれはいらないんです。
おれに、そんな価値は、ないんです。
リフレインする自分の言葉に、傷つく自分がいた。
(……ただ、一つ。あなたがおれに価値を見出して、認めて、与えてくれたらいいのに、と。ささやかで愚かで図々しく烏滸がましい願いを…抱くことだけは、許してください。)
エリーゼ。
人間というのはね、偏に自分を認めてもらいたい生き物なのです。
自分がどれだけ、他人より優れているのか。それを示して、認めてもらって、自分の価値を明確にしたい生き物なのです。
―――それは…わかって、ます…先生……。けど……、…わた、…わ、わたし……それが…重要なことだと…思えない、んです……。
それはそうでしょうとも。
エリーゼ、そもそもの大前提が君は普通の人と違うのだから。
―――………?
君は自分に価値があると思っていないでしょう。
―――……それ、…は……。
いいですか、エリーゼ?
君は自身の価値を喪失しているのです。
それは愛されなかったからかもしれない。居場所を与えられなかったからかもしれない。何にせよ、自分に価値があると思えない。
君は一生卑屈に生きていくしかないのです。
自己価値の喪失によって開いた穴、その欠落は埋められません。そのマイナスを取り戻すこともできません。一生、そのままです。
少なくとも、君本人にはどうしようもできないものなのですよ。
―――………それ、じゃ……。……それ、じゃあ……わた、し……おれ……どう、したら…いいん、です、か……。
解決方法として私が明示してあげられるのは一つだけですね。
君自身が自分に価値を見出せないというのなら、君は生きていく為、君の価値を認めてくれる者と触れ合う必要があるでしょう。
君に必要なのは自己価値でも、自己肯定でも、ましてや自信でもない。
君にはね、エリーゼ。よく聞きなさい。
―――……はい…。
君を必要としてくれる者こそが、君には必要なんですよ。
いいですか?
君を必要としてくれる者です。一生をかけて探すんです。今はそれを目的としなさい。
見つけられたらその者に価値を与えて貰えばいい。その者に認めて貰えばいい。
―――………せん、せい…。
なんです?
―――……それ、なら……わたし……ずっと、前…から、さがし、て…。
そうですね。
君が君を必要としてくれる人を大切にしているのは私も知っていますよ。
けれど、そうじゃありません、エリーゼ。
今の君のそれは一種の享楽……まあ、言うなれば快楽を求めて自慰に耽っているようなものなんですよ。
―――………。
君はそれを自身が生きる為に必要な物事と定めていない。快楽を求めてしているに過ぎない。
エリーゼ、それでは駄目です。もっと必死になりなさい。
君には、本当に、君を必要とする者が必要なのだということを自覚しなさい。
羊水に浸った幼子のごとく、微睡むような淡い眠りに落ちていたイヴェールの意識を急速に引き上げたのは良く通る男の声だった。聞き慣れた、しかし聞くに堪えないその声に催促され、安寧とした胎内にしがみつこうとした赤子はしかし、あっさりと誕生(めざめ)の時を迎えてしまう。
ぱちりと開いた目に最初に飛び込んで来たのは、カーテンの隙間から漏れる木漏れ日。ついで覗き込んでくる、黒い光に浮かんだ赤い宝石に、思わず舌打ちしたくなった。
「何かご用ですか、メイシェン先生」
なるべく不機嫌な色を隠し、努めて普段通りに言葉を紡ぐ。そんなもの、この男の前では無意味な“振り”だと分かっていても、あからさまにそれを全面に押し出してしまうのは、この男の手のひらで踊らされているような気がして癪に障った。
イヴェールは、この男が大嫌いだった。
「いいえ、特に何も」
イヴェールの問いに首を横に振り、つ、と顔を離したメイシェンのそれを見送ってから、ゆっくりと身体を起こす。この男のいる前でこれ以上、眠ろうという気にはならなかったし、なれなかった。
「眠らないのですか?」
「十分に寝たので」
分かっている癖にいちいち問うて来るのはイヴェールの反応を楽しんでのこと。分かっているからこそ、くつくつ煮えそうになる火を出来る限り最小限に留めようと努力する。消すことはしない。それは冷静になったのではなく、単なる油断に過ぎないからだ。
「それで、何の用なんですか。本当に」
「別に用はないと言ったのですがね?」
困った人だ、何事にも理由が無ければ落ち着かないのですか?
からから、けたけた。からかうような口調で、しかしその実、自身を嘲っている言葉。ああ、実に腹立たしい。必死に火加減をしようと苦心している竈にどうしてこうよく燃える薪を継ぎ足してくれるのだろう、この男。
ぎり、と強く歯がみして耐える。駄目だ、この男を傍に置くと決めたのは自分なのだ。怒りは忘れてはならない、だが我を忘れてそれをこの男に向け、刃を突き立てることをしてはならない。
「まあ、からかうのも程々にしておきましょう。当主様のお怒りは怖そうですしね」
くつり、と笑って男は漸く本題に入ることにしたらしかった。満足した、というよりはこの男がある程度の加減を心得ているだけだろう。自身が楽しく、それでいて大事な玩具を壊さぬ適度な力加減を。
男の戯れのようなからかい(あるいは嘲り)を除けば、二人の間に横たわっている関係と言うのは実に事務的かつ形式的なものだった。淡々と報告を聞きながら、次にやるべきことは何なのか、頭の中で段取りを作っていく。
一先ずロビンの戯れにより壊れてしまった屋敷の一部の補修工事、これはなるべく早めにやっておいた方がいいだろう。穴というのは思っているよりもずっと早く広がってしまうものだから。それからアルフィーが「新たに鳥が一羽欲しい」と言っていたそうなので、適当に物珍しい鳥を何処かから見つけて来なくてはなるまい(一般的な鳥という鳥はもう既に彼の手元にいるのだ)。あとは―――
「エリーゼのことですが、」
「………」
その話題に及んだ途端、妙に自分の身体に緊張が走るのをイヴェールは自覚した。
末子のエリーゼ。三人姉弟の一番下は、上二人と比較しても極端な程大人しく、控えめな性格をしていた。世間一般的な見方をすれば典型的な『良い子』と呼ばれる部類に属するのであろう。大人という生き物は総じて『良い子』を好む。大半は好意的な意味合いではなく悪意的な意味合いで。『良い子』は楽で良い。実に扱いやすい。『良い子』、『優等生』、そんなレッテルが付きまとう人間ほど、周囲から押しつけられる自分という殻を破ることが出来ず、ただ言われるまま生きていく。都合が“良い子”。だから、『良い子』。実に良く出来た言葉だと思う。
だからこそ、エリーゼという子供はイヴェールにとって決して『良い子』と呼べる存在ではなかった。何処迄も都合の悪い子。出来るならば関与せずに生きていたい。しかし放置して置くにはあまりにも危険。殺そうにも生半可なことでは実現することさえできない。実に厄介な子供をもうけてしまったと思っている。
「……あれが今度は何したんですか?」
「あれ呼ばわりですか」
「何か?」
「いいえ。ただ最近、頻繁に外出するようになった、とだけ報告を」
「……仕事ではなく?」
「仕事ではなく、何処にでもある極々ありふれた理由で出掛けているようですね」
「もったいぶらずに話してくれませんかね」
「では言わせていただくと、ブラックウェル家のスコールさんに会いに行っているようですよ」
ばきり、と握っていた万年筆が折れた。折れた箇所、指の隙間からだらだらと、血の様に黒く冷たいインクが垂れ零れていく。はたはたと、書類の白紙部分を汚し、文字を犯し、滲ませていく。そんなことさえ気にならないほど、頭の中が真っ白になっていた。
あれが、ブラックウェル家に足を運んでいるだと? あまつさえも、よりにもよって、スコールさんに会いに行っている? 冗談だとするならば余りの質の悪さに冗談としては成立せず、本気だとするならば冗談だと思いたい最低最悪の事実。
そしてイヴェールは知っている。この手のことでこの男が嘘を吐かないことを。
「…………」
頭の芯がすぅー…っと冷えていく。怒りに心と頭が煮えれば煮えるほど、かえって冷静になってく。何をすべきか。それは分かりきっている。
「……早急に手を打ちます」
「ほう?」
「あれに当分は片付かない仕事を言い渡しておいてください。貴方ならいくらでも、なんとでもできるでしょう」
「構いませんけれどね、良いのですか?」
「下手に出歩かれるよりはよっぽどマシです」
「承知しましたよ」
笑って、メイシェンが出てく。その背中を見送り、扉が閉じる音を聞いてから、イヴェールは一気に脱力した。
どうせあの男の事だ、面白がってエリーゼの外出に益々手を貸すであろうことは見えている。それが分かっていても、そう言わなくてはいけないのだ。言ったという事実を残さなければあの男は「そんなことは言われていない」という言葉一つで飄々と逃げるのだから(どちらにせよ逃げられることは分かっているのだが)。
「………はぁ……厭んなるなぁ…もう……」
ぐしゃりとインクまみれの書類から紙くずを錬成しつつ、嘆息する。
「どうしてぼくって…いっつもこう…上手く行かないんでしょう……」
それに答えてくれる声も無ければ慰めてくれる声も無く。一人ぽつん、と部屋に取り残された当主は見えない未来を思って陰鬱な闇にその心を静めていった。
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