最終更新:ID:9wHdjPS7Wg 2016年03月15日(火) 15:28:02履歴
探索者四人がそれぞれ二人ずつ、ふとした経緯から事件に巻き込まれていく。
片や、助けた少女からの願いを聞き入れ『野良猫失踪事件』を追いかけることになり、
片や、小説家の友人から頼まれ『存在するかも怪しい稀覯本探し』を行うことに。
一見してまったく無関係であるかに思えた二組の動きは、意外なところから絡み合うことになり──?
片や、助けた少女からの願いを聞き入れ『野良猫失踪事件』を追いかけることになり、
片や、小説家の友人から頼まれ『存在するかも怪しい稀覯本探し』を行うことに。
一見してまったく無関係であるかに思えた二組の動きは、意外なところから絡み合うことになり──?
──あの日、あの夜。
実は世界に危機が訪れていたことなど、あの事件に深く関わった者達以外は
誰も気付かないままに、陽桜市ではいつも通りの毎日が過ぎていく。
そしてこの街には今もまだ、『猫』と『蛇』の眷属達が
人の営みに紛れて暮らしているのです・・・。
実は世界に危機が訪れていたことなど、あの事件に深く関わった者達以外は
誰も気付かないままに、陽桜市ではいつも通りの毎日が過ぎていく。
そしてこの街には今もまだ、『猫』と『蛇』の眷属達が
人の営みに紛れて暮らしているのです・・・。
「な、なんですって!?三丁目のK谷さんが浮気相手・・・?!」
塀の上で日向ぼっこを決め込んでいた野良猫達から仕入れた情報に驚きつつ
私はそれをメモ帳へと書き記していく。
あの事件の後、上司であり私の保護者でもある所長から
「一から探偵見習いとして修行のし直しだな」
と、短いお説教の後に言われてしまった。
何でも、依頼という形とはいえ、部外者を『こちら側』のことを漏らしたのが
あまりよくなかったようだ。
それもそうだろう。運良く助かったとはいえ、あの邪神が
本当に召喚されていたら、私は勿論、あの人達の命だって無かったのだ。
結果的に、あの人達がいなければ事件は解決しなかったけれど・・・。
それだって結果論だ、蛇の連中がいなきゃヤバかったんだぞ、と
後から事の顛末を聞いた所長は肩をすくめ、そう言った。
「・・・よし、ありがとう!また今度にぼしを持ってくるね!」
野良猫達に礼を言ってその場を後にすると、私は探偵事務所に向かって歩き出す。
一時、所長からのお叱りに少しだけ落ち込んだりもしたけれど
ならば皆を守れるような、すごくて立派な探偵になればいいのだと思い直し
私は今日も修行に励む。
待っててください皆さん!ルルナはいつかナイスガイな猫又探偵になってみせますからね!
ふんす!(`・ω・´)
塀の上で日向ぼっこを決め込んでいた野良猫達から仕入れた情報に驚きつつ
私はそれをメモ帳へと書き記していく。
あの事件の後、上司であり私の保護者でもある所長から
「一から探偵見習いとして修行のし直しだな」
と、短いお説教の後に言われてしまった。
何でも、依頼という形とはいえ、部外者を『こちら側』のことを漏らしたのが
あまりよくなかったようだ。
それもそうだろう。運良く助かったとはいえ、あの邪神が
本当に召喚されていたら、私は勿論、あの人達の命だって無かったのだ。
結果的に、あの人達がいなければ事件は解決しなかったけれど・・・。
それだって結果論だ、蛇の連中がいなきゃヤバかったんだぞ、と
後から事の顛末を聞いた所長は肩をすくめ、そう言った。
「・・・よし、ありがとう!また今度にぼしを持ってくるね!」
野良猫達に礼を言ってその場を後にすると、私は探偵事務所に向かって歩き出す。
一時、所長からのお叱りに少しだけ落ち込んだりもしたけれど
ならば皆を守れるような、すごくて立派な探偵になればいいのだと思い直し
私は今日も修行に励む。
待っててください皆さん!ルルナはいつかナイスガイな猫又探偵になってみせますからね!
ふんす!(`・ω・´)
階下にある陽桜市の繁華街を見下ろし、俺はタバコに火をつける。
つい先ほど、俺はとある調査報告書を書き終えた。
『野良猫失踪事件』
関係者から聞き、そして調べた結果判明したすべての真相。
それがこの、たった数枚の紙切れにおさめられている。
蛇人間達の真相、そして本当の犯人の動機とその結末。
いやはや、事実は小説よりも奇なりってのはこのことだな。
蛇達はただ平穏な暮らしを望み、その一方で負の感情に支配された人間が
異形の女神に恋をして召喚を決行しようだなんて、誰が想像しただろう。
(まあその哀れな狂信者も、あの後事件を内密に処理するために
蛇神の腹の中にぺろっとおさめられちまったらしいが)
ルルナにはああ言ったが、実際のところ、今回のヤマは
俺達猫、そして蛇達だけでは到底解決できなかっただろう。
そしてあの夜、あいつらがルルナを助けてくれなかったら、ルルナは今頃
あの血の祭壇に捧げられていたはずだ。
すべての真相を知り、そしてそのことに思い至った時、
俺は心の底から恐怖し、そして安堵した。
愛すべき妹分を失いかけたこと、そしてあいつらのお陰で失わずにすんだこと。
・・・俺は猫だ。けれど、半分は人の血肉で出来ている。
人と猫の間に生まれた俺は、いつか猫又であるルルナを置いて逝ってしまうだろう。
ただでさえこんな探偵家業だ。何が起こるか分からねえと、
今回の件で痛感もした。
ならばこそ、俺の持つ技術のすべてを、あの愛する妹分に叩き込む。
彼女自身の手で、彼女自身の身を守れるように・・・。
──なぁんてな。
(吸えない)タバコ片手に格好つけちまったぜ。
やれやれ、長いこと机に向かってたせいで体中が痛ェのなんの。
今夜は憂さ晴らしに、うまい魚料理でも食いに行くかね。
あのすましたツラした蛇人間と一緒にな。
つい先ほど、俺はとある調査報告書を書き終えた。
『野良猫失踪事件』
関係者から聞き、そして調べた結果判明したすべての真相。
それがこの、たった数枚の紙切れにおさめられている。
蛇人間達の真相、そして本当の犯人の動機とその結末。
いやはや、事実は小説よりも奇なりってのはこのことだな。
蛇達はただ平穏な暮らしを望み、その一方で負の感情に支配された人間が
異形の女神に恋をして召喚を決行しようだなんて、誰が想像しただろう。
(まあその哀れな狂信者も、あの後事件を内密に処理するために
蛇神の腹の中にぺろっとおさめられちまったらしいが)
ルルナにはああ言ったが、実際のところ、今回のヤマは
俺達猫、そして蛇達だけでは到底解決できなかっただろう。
そしてあの夜、あいつらがルルナを助けてくれなかったら、ルルナは今頃
あの血の祭壇に捧げられていたはずだ。
すべての真相を知り、そしてそのことに思い至った時、
俺は心の底から恐怖し、そして安堵した。
愛すべき妹分を失いかけたこと、そしてあいつらのお陰で失わずにすんだこと。
・・・俺は猫だ。けれど、半分は人の血肉で出来ている。
人と猫の間に生まれた俺は、いつか猫又であるルルナを置いて逝ってしまうだろう。
ただでさえこんな探偵家業だ。何が起こるか分からねえと、
今回の件で痛感もした。
ならばこそ、俺の持つ技術のすべてを、あの愛する妹分に叩き込む。
彼女自身の手で、彼女自身の身を守れるように・・・。
──なぁんてな。
(吸えない)タバコ片手に格好つけちまったぜ。
やれやれ、長いこと机に向かってたせいで体中が痛ェのなんの。
今夜は憂さ晴らしに、うまい魚料理でも食いに行くかね。
あのすましたツラした蛇人間と一緒にな。
「むむむ・・・・・このようなものでお金が儲けられるとは・・・」
と、借りた本に目を通し、僕はうなる。
本のタイトルは『やさしい株のはじめ方』
資金繰りに苦心した末に相談をした大恩ある方が口にしていた
お金の儲け方のひとつである。
生憎と、僕自身はよく知らなかったため、今回の事件で知り合った
猫又と人間のハーフである探偵に尋ねてみたところ、この本を渡された。
新しい知識が多いので、本格的に始めるには少々時間が必要だろう。
けれど猫達との約定もある。そして我らの父神の腹を満たすことは
我々蛇にとって最重要事項なのだ。
であれば、父神に捧げる肉の購入費用を、定期的に、しかも大金を
儲けるための知識は、我々にとって必須なのだ・・・!
(そして将来、千里眼を持つ男などと呼ばれるようになるのを
彼はまだ知らない)
あの事件で知り合った人間の方たちとは、現在も交流が続いている。
一方で、僕の持つ本目当てで研究室を訪れ
もう一方では、あの事件で受けた心の傷を癒すための治療目的。
あるいは治療の付き添いで。
そのどちらもを見ていて、僕は思うことがある。
平然とした顔で(人にとっては)冒涜的な知識の数々を平然と受け入れ
心に傷を負ったはずなのに、あっさりと探偵業に戻っていく。
泰然とした様子で、タバコを吸いながら日常に戻っていく男もいれば
負った精神的な傷などものともせず、自身の友人と楽しそうに話す男もいる。
彼らを見て、僕はつくづく思うのだ。
「ああ、人間とはなんと脆く、なんと強い生き物なのだろうか」と。
・・・。
余談ではあるけれど。
彼らを紹介してくれた、作家業を営む僕の友人。
彼がここのところ、意味ありげな眼差しで僕を見てくることがある。
もしかして、もしかすると。
・・・・彼は、僕の正体を知っているのだろうか・・・??
と、借りた本に目を通し、僕はうなる。
本のタイトルは『やさしい株のはじめ方』
資金繰りに苦心した末に相談をした大恩ある方が口にしていた
お金の儲け方のひとつである。
生憎と、僕自身はよく知らなかったため、今回の事件で知り合った
猫又と人間のハーフである探偵に尋ねてみたところ、この本を渡された。
新しい知識が多いので、本格的に始めるには少々時間が必要だろう。
けれど猫達との約定もある。そして我らの父神の腹を満たすことは
我々蛇にとって最重要事項なのだ。
であれば、父神に捧げる肉の購入費用を、定期的に、しかも大金を
儲けるための知識は、我々にとって必須なのだ・・・!
(そして将来、千里眼を持つ男などと呼ばれるようになるのを
彼はまだ知らない)
あの事件で知り合った人間の方たちとは、現在も交流が続いている。
一方で、僕の持つ本目当てで研究室を訪れ
もう一方では、あの事件で受けた心の傷を癒すための治療目的。
あるいは治療の付き添いで。
そのどちらもを見ていて、僕は思うことがある。
平然とした顔で(人にとっては)冒涜的な知識の数々を平然と受け入れ
心に傷を負ったはずなのに、あっさりと探偵業に戻っていく。
泰然とした様子で、タバコを吸いながら日常に戻っていく男もいれば
負った精神的な傷などものともせず、自身の友人と楽しそうに話す男もいる。
彼らを見て、僕はつくづく思うのだ。
「ああ、人間とはなんと脆く、なんと強い生き物なのだろうか」と。
・・・。
余談ではあるけれど。
彼らを紹介してくれた、作家業を営む僕の友人。
彼がここのところ、意味ありげな眼差しで僕を見てくることがある。
もしかして、もしかすると。
・・・・彼は、僕の正体を知っているのだろうか・・・??
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
静かな時間が、室内に流れる。
読書の邪魔をされないこの時間。僕はこの時間が一等好きだ。
至高と言ってもいいだろう。
時折、静寂を破るように人が訪れることもあるけれど
大体は静かに本を読むか本を探すか。
・・・時と場所をわきまえない馬鹿?
そんなもの、叩き出すに決まっているじゃないか。
方法?聞かないでくれ。僕にあれを語らせるなんて、ああ恐ろしい。
精神がか細い僕の口からは言えるはずも無いだろう。
・・・精神で思い出したが、そういえば。
夕飯の時に妻が口にしていたな。あの不細工な男、何でも失踪したらしい。
・・・・・・・。
・・・・あの男が持っていた『ドグラ・マグラ』はどうなったんだろうか。
あれは貴重なものだ。恐らく彼の持つもの以外は存在しないだろう。
失踪したということは、あの男が持ち去ったか、或いは
家に放置してあるか・・・・。
・・・そうだ。
あの時、四人組でここを訪れた一人が言っていたな。
自分達が手に入れてくると。
あの話はどうなったんだ?
・・・・・・・。
まあ、いい。
四人組、特にあの眼鏡の男は、なかなかに僕と気の合いそうな男だった。
恐らくはもう一度此処に来るだろう。
その時に問い詰めてやろうじゃないか・・・。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
静かな時間が、室内に流れる。
読書の邪魔をされないこの時間。僕はこの時間が一等好きだ。
至高と言ってもいいだろう。
時折、静寂を破るように人が訪れることもあるけれど
大体は静かに本を読むか本を探すか。
・・・時と場所をわきまえない馬鹿?
そんなもの、叩き出すに決まっているじゃないか。
方法?聞かないでくれ。僕にあれを語らせるなんて、ああ恐ろしい。
精神がか細い僕の口からは言えるはずも無いだろう。
・・・精神で思い出したが、そういえば。
夕飯の時に妻が口にしていたな。あの不細工な男、何でも失踪したらしい。
・・・・・・・。
・・・・あの男が持っていた『ドグラ・マグラ』はどうなったんだろうか。
あれは貴重なものだ。恐らく彼の持つもの以外は存在しないだろう。
失踪したということは、あの男が持ち去ったか、或いは
家に放置してあるか・・・・。
・・・そうだ。
あの時、四人組でここを訪れた一人が言っていたな。
自分達が手に入れてくると。
あの話はどうなったんだ?
・・・・・・・。
まあ、いい。
四人組、特にあの眼鏡の男は、なかなかに僕と気の合いそうな男だった。
恐らくはもう一度此処に来るだろう。
その時に問い詰めてやろうじゃないか・・・。
最近、城南大学で教授をしている友人の顔色がよくなったように思う。
恐らくは、長年抱え込んでいた悩みが解決したのだろう。
よかったよかった、適当な理由をつけて、僕の頼れる友人達を引き合わせ
紹介した甲斐があったというもの。
・・・精神的な疲労?それを癒すために紹介?
精神的な疲労なんて、普通に生活していたら当然、出てくるものだろう?
あれは単なる口実。
あの知識に富んだ年上の友人は、何かを悩んでいたようだからね。
僕はこの通りの性格だ。きっと僕には悩みを打ち明けないだろうということも
何となくだけれど分かっていた。
だからまあ、あの二人を紹介したというわけだ。
まあ、悩みが解決する前に、何やらひと悶着あったようでもあるが
僕は自らを蚊帳の外に置いた。
だから詳しく聞きだすつもりはないし、そんな悪趣味も無い。
ずっと欲しかった本を手に入れることが出来て。
そして友人の悩みが解決した。
それでいいじゃないか。
──たとえ知識に富んだあの友人が『人ではない何か』であったにせよ
僕にはどうでもいいことだ。
さあ、次は『ドグラ・マグラ』を読もうか。
それとも『黒死館』もしくは『ヤプー』を読み返すか。
・・・妻のため息を背に、僕はうきうきとした足取りで書斎へと歩き出す。
恐らくは、長年抱え込んでいた悩みが解決したのだろう。
よかったよかった、適当な理由をつけて、僕の頼れる友人達を引き合わせ
紹介した甲斐があったというもの。
・・・精神的な疲労?それを癒すために紹介?
精神的な疲労なんて、普通に生活していたら当然、出てくるものだろう?
あれは単なる口実。
あの知識に富んだ年上の友人は、何かを悩んでいたようだからね。
僕はこの通りの性格だ。きっと僕には悩みを打ち明けないだろうということも
何となくだけれど分かっていた。
だからまあ、あの二人を紹介したというわけだ。
まあ、悩みが解決する前に、何やらひと悶着あったようでもあるが
僕は自らを蚊帳の外に置いた。
だから詳しく聞きだすつもりはないし、そんな悪趣味も無い。
ずっと欲しかった本を手に入れることが出来て。
そして友人の悩みが解決した。
それでいいじゃないか。
──たとえ知識に富んだあの友人が『人ではない何か』であったにせよ
僕にはどうでもいいことだ。
さあ、次は『ドグラ・マグラ』を読もうか。
それとも『黒死館』もしくは『ヤプー』を読み返すか。
・・・妻のため息を背に、僕はうきうきとした足取りで書斎へと歩き出す。
例の事件より半年の月日がたった。
その間何をしていたかというと、また精神病院のお世話になっていた。
今度はレズビアンじゃなくてパラノイアという症状らしいが…
…どうでもいいか。
「よぉ」
ここはいつもの探偵事務所。無事に退院して、帰ってきたところだ。
『…大丈夫か?』
いつものように所長に心配させちまったな。
「あぁ、もう大丈夫だ」
安物の煙草に火をつけ、口へと運ぶ。
『…また、何があった?』
あの事件の処理は、水上教授からある程度は教えてもらってはいた。
この事件は人間に教えてはならない。人間にとっては『何もなかったこと』にする、と。
「いや、ちょいと、厄介事に巻き込まれただけさ」
当たり前だ。こんな奇妙で奇怪な事件、普通の人に話したら鼻で笑われる。
『…そうか、無理はするなよ』
だが、この所長はそういう『経験者』だ。どんなことがあったかはある程度なら察してくれる。
「あぁ、わかってるさ」
経験からか、所長の性格か、どちらにしろ、首をあまり突っ込まないでくれる。うれしい限りだ。嘘を作るのも面倒だしな。
『…ところで今日の仕事だが』
だが、
「ただ…」
一つだけ、言いたいことがある。
「次からは絶対に首を突っ込みたくねぇ…」
『…安心しろ、俺も同じことを思っている』
その間何をしていたかというと、また精神病院のお世話になっていた。
今度はレズビアンじゃなくてパラノイアという症状らしいが…
…どうでもいいか。
「よぉ」
ここはいつもの探偵事務所。無事に退院して、帰ってきたところだ。
『…大丈夫か?』
いつものように所長に心配させちまったな。
「あぁ、もう大丈夫だ」
安物の煙草に火をつけ、口へと運ぶ。
『…また、何があった?』
あの事件の処理は、水上教授からある程度は教えてもらってはいた。
この事件は人間に教えてはならない。人間にとっては『何もなかったこと』にする、と。
「いや、ちょいと、厄介事に巻き込まれただけさ」
当たり前だ。こんな奇妙で奇怪な事件、普通の人に話したら鼻で笑われる。
『…そうか、無理はするなよ』
だが、この所長はそういう『経験者』だ。どんなことがあったかはある程度なら察してくれる。
「あぁ、わかってるさ」
経験からか、所長の性格か、どちらにしろ、首をあまり突っ込まないでくれる。うれしい限りだ。嘘を作るのも面倒だしな。
『…ところで今日の仕事だが』
だが、
「ただ…」
一つだけ、言いたいことがある。
「次からは絶対に首を突っ込みたくねぇ…」
『…安心しろ、俺も同じことを思っている』
酒の席。
「―――――だぁからねぇ、僕は言ったんだよぉ。将ちゃんはねえ、ほんとはすごい良い子らってねえ。こないだらってねえ、捨て猫にごはんあげててねぇ」
「それはいい人ですねえ」
「光流。おい光流。水上に絡み酒するんじゃない」
「将ちゃんとめないで!ただでさえ将ちゃんは陰険偏屈メガネのオカルトマニアでみんなから誤解されやすいんだからあ、僕があ、こうやって誤解を解かなくちゃぁ 教授、ね、聞いて」
「酔っ払うとすぐこれだ。やめろそのお節介癖」
無事僕と坂家さんが精神恢復したお祝い会と称しての水上教授と僕ら四人を交えての飲み会。その中で真っ先ににあっぱらぱーに酔っ払ったのは、まあもちろん僕ですよね。
「飲め、光流」
将ちゃんから受け取った水を一飲みすれば、途端浮ついた気持ちが潮引くように遠ざかり、冷静さが蘇る。
「…ありがと。落ち着いたよ」
礼を述べればツンとやっぱり澄まし顔。
「うるさいから黙らせただけだ」
……とか言っちゃって。本当は体が弱い僕のことを心配してくれてたくせに。
(ありがとね。将ちゃん)
陰険偏屈メガネのオカルトマニアの将ちゃん。僕の幼馴染。口が悪いけど根っこは優しい兄貴分。
(……僕が作家を志したきっかけはおまえなんだぜ)
ああ 忘れられない。初めて将ちゃんが作り上げた小説を読んだあの夏の日を。あの興奮と陶酔を。
(誰がなんと言おうとおまえの一番のファンは僕だ)
今回得た稀覯本の数々がおまえの糧になってくれたら幸いだ。いや、もうすでにいくつか着想を得てくれただろう。今度の新作もまた心震わせるようなものを書いてくれるに違いない。
(そして僕はまた好奇心を巻き起こす。将ちゃんを引き連れて冒険へと飛び込んでいく)
そう 全ては将ちゃんの素敵な物語を読むために。
「あー、おめーらあんま飲みすぎんなよ。特にそこの野武士」
「タダ酒はうめぇなー」
「坂家。おい おいおじさんの財布のピンチがマッハ」
「うめぇなー」
「このクソガキィ」
喫煙者大人二人は喧騒三人を眺めてくいっと日本酒を飲み干す。黙々と酒を飲み干すこことはまるで対照的。
「けどま、おまえさんと酒が飲めるようになれてよかったぜ。もういのか?」
「ばっちし。あんなもん一時期だけだっての。ちょっと頭のネジがお月さんまで吹っ飛んでただけさ。もうあんな目は勘弁だな。月までネジを拾いに行くのは骨が折れる」
「月はどうだった」
「地球が青かった」
「ガガーリン?」
「地球文明は未熟だって話さ」
「はん。小娘が一丁前にぬかしやがる。だが神はいただろう?」
「違えねえ」
遠ざかる。三歩先は淡島たちのいつもの喧騒なのに、ここだけはヴェールのような静謐が隔絶していた。
「……そういや、一つ疑問がある」
かたん。本条は人差し指で空の徳利を倒した。
「なんで須藤は人間を殺さなかったんだろうな」
ふっと―――――沈黙が降りた。
「庭からは小動物の死体しか見つからなかった。猫の事件はあったが、殺人事件も行方不明者の事件も一切聞いてない」
「……そりゃ人間一人攫うよか、猫殺したほうが手っ取り早いからに決まってる。つーか実際ルナだって襲われたじゃねーか」
「ルナは猫又だ。真人間じゃねえ。
それにやつは魔術を使えた。猫五匹殺すより人間一人殺した方がはるかに血が取れるはずだ」
「魔力がもったいなかったんだ」
「連続して何人も殺せって話じゃねえ。たまに一人二人殺すだけでずいぶん効率が違う」
「やつは狂人だ。常人の思考回路とは違うさ」
「なあ―――――須藤は本当は誰の迷惑もかけたくなかったんじゃねえか。ただ奴は恋を成就させたかっただけで、誰ひとり傷つけるつもりはなかったんだ。
初めての恋を ただ」
「本条」
かたん、と。断ち切るように勢いよく盃が床を叩いた。
「…………あいつは、悪人だ。『アレ』がおとなしく帰らなかったらアタシらみんな仲良く地獄の釜で温泉ツアーと洒落込んでたんだぜ。
だからあいつは悪人なんだよ」
「………………」
「探偵ってぇのはな――――事件を解決するのが仕事なんだ。
『そこまで』だ。『そこまで』が仕事なんだよ。本条」
暗闇に向ける瞳は昏い。
幾度も覗き込んだ深淵の色をしていた。
「死者に祈り慰めるのは神父の領分。探偵のもんじゃないさ。
アタシが振りまける慈悲はこの手が届く範囲だけだ。いつだってな」
「そうか……」
「あんたは――――――優しい男だ。言葉を飾らないあったかい男だ」
「よせよ。俺ぁみっともねえ自分を引きずるだけだ。こうやって泥っちく未練がましく這う生き方しか知らねえんだ」
「そんなんじゃない。心からそう思ってる。
……だから『そういうこと』なんだよ。世界を救った正義の味方はアタシらで、あのクソ野郎は罪ない猫を惨殺して回った根っからの悪だ。もうそれでいいじゃねえか」
へらり、と。坂家は唇を歪ませで大吟醸の瓶の口を本条のグラスへと寄せる。本条は苦さを含んだ笑みで応えた。
「事件の解決を祝して」
「おまえの慧眼に祝して」
「「乾杯」」
「―――――将ちゃん、教授。ごめんちょっと抜けるね」
喧騒を背後に、僕は酔い醒ましに表へと踊りだす。向かう先は路地裏、月明かりに誘われてのこと。
「おや……」
そこにぬらり。月明かりに反射する鱗があった。
「なんだおまえ。教授のお供?」
手を差し出せば一匹の蛇が踊りだした。ぬらり、ぬるり。とぐろを巻いてからまるでお辞儀をするかのように頭を下げる。
「ご丁寧にどうも。良い月夜ですね」
ぺこりと頭を下げたついでに、僕はポケットから封筒を差し出した。
「そうそう。いま会えたなら都合がいい。おまえみたいな下っ端がどれだけお目通り願えるかいまいちわかってないんだけど、それでも言伝を頼みたくて。おつかい、がんばってくれる?」
蛇はきゅるんと黒い瞳に疑問符を浮かべた。表情豊かだ。くすり、思わず笑みがこぼれた。
「――――――先の騒動でお力添えをいただいたこと、貴公の偉大なる父神に御礼申し上げたく」
お力添え。それは彼らの父神さまが「目を閉じよ、人の子よ。そして、臥して祈っておれ」と警告してくれたことだ。
「もちろんおまえさんのパパにとったら僕らなんて歯牙にもかけないほどちっちゃい存在だろう。警告してくれたのも恩義と気まぐれによるもので、僕ら自身を案じてくれたわけじゃない。それはわかってるよ。けれど彼はその気になれば僕らをポイして使い捨てにすることも、あそこで精神を潰すこともできた。でもしなかった。
……真意はどこにあれ、確かに僕らの救いでお慈悲だった。感謝してるんだ」
もし警告がなかったら水上教授の手があっても手遅れだっただろう。一生廃人だった確信がある。
(将ちゃんは耐える気がするけど)
「だからそれに対するお礼。僕の持てる全てのコネを使って赤坂の高級焼肉店の食べ放題券四名様ご招待をとってきたよ。命の対価としちゃ全然釣り合わないとは思うけど、これが僕の精一杯なんだ。許しておくれ」
蛇は手紙に目を落としてから、再び僕を見上げた。いいのか?と聴いてるようだった。
「いいよ。水上教授は絶対にこれを受け取ってくれないからね。それに僕は教授じゃなくて君たちの主にお礼したいのさ。
父神さまを信仰することはできないけど、恒久的な平和を尊んでくれるなら証としてどうか受け取ってほしい。………お口にあえばいいんだけど。けどまあ…教授が祈って捧げれば野良猫の肉も食べられるんだから、教授がそこで祈っちゃえば高級焼肉店なんてもっと美味しくなるよね。きっと。最初から食べやすいように生肉めっちゃカットされてるし。
あ、でも不味かったからって祟るのだけはやめてね。僕のお気に入りの店なんだよ」
蛇は一礼してから手紙を咥えた。僕も一礼し返し、その場に跪く。
「ではこれにて失礼いたします。どうか末永くご自愛くださいませ、蛇の使者さま。貴公一族の千代恙無き栄華に万歳一千唱をお贈りいたします」
………そうして顔を上げれば、蛇はもうどこにもいなかった。承ってくれたということだろう。
「ふう――――――」
夜風が髪を攫ってく。風が散った先は闇、街灯下の野良猫は気持ちよさそうにのんびりとあくびをひとつ。
「にゃーお」
「ん?」
「んみゃーお」
「かわいいなあ。こいつめ」
手を差し出せばごろごろと喉を鳴らして擦り寄ってくる。のんきな顔だ。そういえば最近、野良猫の数が以前に戻った気がする。ルナが呼んだのだろうか。
「平和だなあ………」
もう街に狂信者はいない。
ここは陽桜 蛇が月夜に踊る街。
(ああ またどこかで猫が鳴いている)
芝居は跳ねて役者は去った そして猫が歌う日が巡るのだ。
(ねこがうたうひ・淡島光流編-TRUE END-)
な っ が ! !
初めての後日談、ハッスルさせていただきました。あとみなさんのキャラクターちょいちょいお借りしました。ありがとうございます!
エンターテイメント性の高いシナリオにKPのわかりやすい情報開示、PLさんのファインプレーと好RPの連続。いやはやCOC新参者としては勉強になることばかり。お世話になりました先輩ッ!!!!本当にあの五日間はのめり込みました。ちょっと現実とゲームの境があやふやになったことは内緒です。またみなさんと卓囲みたいですねえ……
最後にヤマネコさま(坂家白夜)・ヨシタローさま(本条晃)・ランドルドさま(槇寺将二)、そして特にKPのてぃーがさまには大きな感謝を。ありがとうございました!
ねえあと私の耳に住み着いたしげるが未だに引越しする気配を見せないんだけど誰か助けてwwwww
あの事件から数カ月後・・・
このようにして冒徳的な事件は終わり、探索者は日常へと戻っていくのだ・・・・・。
「ふん、駄作だな・・・・」そう呟く。
(あの時の経験は引き籠っていては得られぬものだったし、所詮、俺程度の文才では書き表わせぬのだ・・・)
そう思い筆を置く。
ふと、窓から空を見上げると太陽が登りだしている。
「は、徹夜か・・・この俺が読書以外では珍しい・・・」
(今日もまた、あのおせっかい焼きの幼馴染がくるのだろう・・・・)
「その前に、本でも読むか・・・」
目の前の書架にはあの時手に入れた冒涜的書物の数々と、交流のできた友人から借りた本が並んでいる。
そのうち1冊を手に取る、表紙には『ドグラ・マグラ』とあった。
(北極堂に渡しに行かねばな・・・代わりにどのような本を借りてやろうか)と思いつつ書に読みふける。
ふと、玄関から聞き慣れたいつもの明るい声
「将ちゃ〜ん、来たよ〜」
(さて今日はどこへ行こうか、すこし恐く口が荒いが面倒見のいい女探偵のところか、いつも静観している好々爺の所か、
はたまた、知識を戦わせるのが心地好い教授の所か、私にとっての天国か・・・
思えば引き籠りがちだった俺に行ける場所が増えたものだ。)
「これでは、引き籠っていられんな・・・」と呟き、頬が緩んでいることに気付く。
「将ちゃ〜ん、遅いよ〜寝てるの〜」
「ああ、今行く少し待っていろ」
こうして日常は続いていくのだろう・・・次の非日常が訪れるまで・・・・
このようにして冒徳的な事件は終わり、探索者は日常へと戻っていくのだ・・・・・。
「ふん、駄作だな・・・・」そう呟く。
(あの時の経験は引き籠っていては得られぬものだったし、所詮、俺程度の文才では書き表わせぬのだ・・・)
そう思い筆を置く。
ふと、窓から空を見上げると太陽が登りだしている。
「は、徹夜か・・・この俺が読書以外では珍しい・・・」
(今日もまた、あのおせっかい焼きの幼馴染がくるのだろう・・・・)
「その前に、本でも読むか・・・」
目の前の書架にはあの時手に入れた冒涜的書物の数々と、交流のできた友人から借りた本が並んでいる。
そのうち1冊を手に取る、表紙には『ドグラ・マグラ』とあった。
(北極堂に渡しに行かねばな・・・代わりにどのような本を借りてやろうか)と思いつつ書に読みふける。
ふと、玄関から聞き慣れたいつもの明るい声
「将ちゃ〜ん、来たよ〜」
(さて今日はどこへ行こうか、すこし恐く口が荒いが面倒見のいい女探偵のところか、いつも静観している好々爺の所か、
はたまた、知識を戦わせるのが心地好い教授の所か、私にとっての天国か・・・
思えば引き籠りがちだった俺に行ける場所が増えたものだ。)
「これでは、引き籠っていられんな・・・」と呟き、頬が緩んでいることに気付く。
「将ちゃ〜ん、遅いよ〜寝てるの〜」
「ああ、今行く少し待っていろ」
こうして日常は続いていくのだろう・・・次の非日常が訪れるまで・・・・
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