クトゥルフ神話TRPGやろうずWiki

「悟爺さん、この前すごい体験をしたんだよ。そこの島は爬虫類ばかりで、大きな恐竜もいたんだよ……。」


蛇島と呼ばれる島から無事生還して二週間くらいが経った。
日頃からの息抜きのつもりで他の仲間と参加したクルージングがまさかの遭難で一時はどうなるかと思ったけど、今では皆元気に元の生活に戻ったようだ。


朔弥は島で魔導石板の触れた際に右目が変色してしまったが、本人は特に気にせず平然と大学に通いながら時々小林先生のお宅に遊びに行っているらしい。もし目の事で何かあったら僕が責任を取ろうと思っている。

碧は小林先生を妄信しながら相変わらず高校で運動部のお助け活動をしているとか。蛇島での彼の勇気ある行動には敬意を表したい。今度会うとき水泳を教えてもらおうかな。

小林先生は売れた本で印税生活をしながら、新たに迎え入れた家族に字の読み書きと社会のマナーを教えているみたい。働かないで生活していけるのは正直羨ましい

そして、あの島でたった一人暮らしていた少女―郁子さんは現在、小林先生の下で暮らしながら初めて見る外の世界に日々驚きや関心と感動に満ちているらしい。


あの島での体験は今でもそしてこれからも忘れることのできない大切な思い出を振り返り苦楽を共にした大切な仲間を思い出しながら僕は今、実家にある祖父の仏壇の前で土産話をしていた。
僕の祖父―悟爺さんは太平洋戦争時に赤紙招集で狙撃兵として従軍してたらしいけど、戦争のことについて一切話してくれなかった。しかし数年前、祖父が病院で亡くなる直前……
「申し訳ありませんでした…… 水沢さん…、班長殿…、おやっさん……申し訳ありませんでした…申し訳ありませんでした……」
と、うわごとをずっと繰り返していた。あの戦争でいったい何があったのか僕にはわからないけれど、相当な戦火を搔い潜ってきたんだなと思う。

それはさておき、蛇島から帰ってきて、僕は自衛官を辞めることを決意した。理由は郁子さんを救う際に払った代償で体力が著しく低下したためである。
悟爺さんにあこがれて成った自衛官だけど悔いはなかった。それに、どういうわけか上官が特例として様々なコネを使って警察の銃器対策部隊の狙撃手に斡旋し、配属が決定された。
正直これには驚いたけどそれと同時に形は少し変わったけれどこれで大切な人たちを守れると思い、嬉しさのあまり朔弥に「警察官になった。」とメールを送ってしまった。
向こうの部隊で上手くやっていけるかな？と少し不安に思いながらも僕は祖父の仏壇に新しく線香を焚いて合掌し、次の職業に臨むべく準備をしようとその場を後にした。

島を出た郁子はまず大きな問題に直面した。
義務教育を終えていない郁子は文字を読むことが出来なかったのだ。
探索者からすると、妙な漢字が並ぶ古代の日本語は読めるのになぜ日本語を読むことが出来ないのだろうと首をひねるところだが読めないものはしょうがない。
郁子は、絵本などを読み文字を覚えることからスタートした。
何より、島を出た郁子にとってはすべてのものが楽しくきらきらと輝いて見えたのだ。
竃ではなくシステムキッチンの便利さに驚きながらさまざまな料理に腕を振るいながら探索者たちと毎日を生きる。
新しい何かを覚え、新しい誰かと出会い、新しい喜びと共に生きていく。
それはきっと島で生きた少女にはありえなかった奇跡。
蛇になり蛇神と共に生きる宿命の少女にはありえなかった奇跡。
神様もきっとそれくらいの奇跡は認めてくださることでしょう。