ここは、クトゥルフ神話TRPGのオンラインセッションに関する各種情報がまとめられているWikiです。

1 概要

シティシナリオですが後半に少しクローズド要素もあり。現代日本を舞台にしていますが、基本ルールブックだけで遊べます。
シナリオの流れはほぼ一本道で、難易度は低めだと思います。
NPCと対話して情報を聞き出すのが好き、ちょっとシリアスなRPがしたい、というPL向けです。
プレイ時間はオフセやボイセで3~4時間を想定しています。RPやリアルアイディアによって大きく前後する可能性はあります。
推奨人数は1〜4人。
推奨技能は目星、図書館、回避。準推奨はオカルト、投擲。

探索者は、できれば一人は探偵や警察官等、誰かから相談や依頼を受ける立場であると導入がスムーズになります。そうでなければNPCの依頼者(芦谷典史)となんらかの顔見知りだったという設定にしてください。
また、探索者は最近とても辛い出来事を経験したという設定を作ってもらいます。継続探索者なら以前に巻き込まれた事件等でも面白いでしょう。PLが思いつかなければ1d4を振り以下から決めてください。
1.親友との離別 2.親族の死 3.失恋 4.仕事上(学生なら学校)での失敗

2 あらすじ

探索者は芦谷典史に、一週間前に行方不明になった甥の立花誠を捜してほしいと依頼される。彼の書置きには「忘れ路へ、兄を連れ戻しに行ってきます」と書かれていた。『忘れ路』とは半年前からこの近辺で囁かれ始めた都市伝説。さらに誠の兄もまた、半年前から行方不明になっているらしい。

とあるT字路にある、存在しえない第四の道。
暗闇の中でその道に踏み込めば、『忘れ路』へとたどり着く。
そこでは辛い記憶を忘れ、心を癒すことが出来る。

はたして、探索者は『忘れ路』と立花兄弟の関係を探り、誠を無事に連れ戻すことができるのだろうか。

3 シナリオの流れ

基本的な流れは以下のようになる。

1日目朝・導入(不思議な夢、芦谷からの依頼)→探索(土屋診療所、図書館等)→1日目夜固定イベント→2日目朝・芦谷家訪問(誠・優人の部屋探索)→(探索残り)→T字路→忘れ路→エンディング

明確なタイムリミットがあるわけではないが、ある程度移動時間、探索時間等を考慮するとリアル感があってよいと思われる。移動時間は、図書館、芦谷家、探索者が依頼を受けた場所はそれぞれ徒歩で30分の場所にあり、土屋診療所は芦谷家から電車と徒歩で1時間、T字路は芦谷家から徒歩で10分程度とする。
また、探索場所の一部には時間帯が限定されているところもある。以下の通り。

・図書館の開館時間は10:00〜18:00
・土屋診療所への電話は9:00〜16:30まで受け付けている。診療所に訪れ笹野から話が聞けるのは17:00まで。
・一度目の芦谷家訪問は二日目の10:00以降になる。再び探索したい場合は、朝の10:00〜12:00の時間帯なら訪れることが可能。

1日目夜固定イベント

探索者が一日の探索を終えて眠りにつくと、再び奇妙な夢を見る。
白い花畑にはまたあの青年が立っており、慈愛に満ちた笑みを浮かべ口を開く。
「可哀そうに、可愛そうに。その目を閉じて忘れたいことを思い浮かべながら、四つ目の道に来てごらん。待っているからね……」
そこで、探索者は目覚める。
(探索が3日目に突入しそうであれば、2日目夜にさらに似たような夢を見せてもよい)

4 NPC紹介

芦谷、笹野については探索者が質問をして情報を聞き出すシーンがあるため、その返答例も記載する。

立花誠

一週間前に行方不明になった高校生。17歳。真面目な性格だが少し突っ走りやすい。また、幼い頃に両親を亡くした影響か兄への執着や依存が強く、それゆえ半年前に兄がいなくなった時は芦谷が止めるのも聞かず必死で捜していた。
やがて優人が『忘れ路』にいることに気づき、彼を連れ戻すことを決意する。そして、大切に育てていた花を手折ることで辛い記憶を生み出し、『忘れ路』へ乗り込んだ。
しかし再会した優人に説得を試みたところ、それを煩わしく思った優人により眠らされ、棺桶の中に閉じ込められてしまう。

立花優人

誠の兄。24歳。七年前の事故でのトラウマを癒してもらった経験から、自身もカウンセラーになった。穏やかで人への思いやりが強い青年。半年前に行方不明となったが、事前に仕事を辞めるなど身辺を整理していたことから、行方をくらませたのは彼自身の意思であり事件性はないと判断されている。
カウンセラーとして働き始めたものの、自分の理想とは違い患者を上手く救うことができないことを思い悩む。そこを魔女につけこまれ、彼女に教わった『記憶を曇らせる』呪文の虜になってしまう。そしてより多くの人間に呪文を使うため、魔女に唆され『忘れ路』へ籠るようになる。呪文の虜になってからは、何よりも「患者」を救うことを優先するようになり、自分を止めに来た弟の言葉にすら聞く耳を持たなかった。

魔女

ツァトゥグァの狂信者の魔女。優人に『記憶を曇らせる』呪文を教え、彼がその呪文に依存するように仕向ける。そして、彼が自由に呪文を使うためと謳って『忘れ路』を作りだし、そこに多くの人間を誘い込むことでツァトゥグァへ捧げる生贄を確保するのに利用していた。

芦谷典史

立花兄弟の伯父で、両親を失った彼らの保護者。探索者に誠の捜索を依頼する。中肉中背で、大人しそうな、悪く言えば少々気弱そうな印象を受ける中年男性。右足が不自由であり、杖をついている。
二人の本当の親でないことから遠慮し踏み込めていない。昼過ぎから深夜にかけての仕事であるため日常生活でもすれ違いが多かった。それでも、二人のことは大切に思い失踪を心から心配している。

(以下、探索者からの質問とその返答例)
誠が行方不明になったときの状況
「ちょうど一週間前に私が仕事から帰ってきた時、誠の靴が玄関になかったことを不思議に思って部屋を覗いたら、この書き置きがあったんです。それから家に帰らず、携帯も繋がらずで……」
優人が行方不明になった時の状況
「半年ほど前、突然姿をくらませたんです。誠の時のような書き置きもありませんでした。しかし事前に仕事を辞めたり部屋の整理をしたりしていたため、予期せぬ事件などに巻き込まれたわけではないと思い、捜索願は出しませんでした」
誠や優人の様子を詳しく知る人物はいないか
「誠は友達はいたようですが、ほとんど会ったことはありませんし連絡先も分からないのでなんとも……。優人は土屋診療所というところでカウンセラーをしていましたので、診療所の方々に聞けば何か分かるかもしれません」
そう言うと、土屋診療所の連絡先をメモに記してくれる。
行方不明になる前の(あるいは兄がいなくなってからの)誠の様子について
「ずっと優人のことを捜していたようでした。図書館でそれらしい事件がないか調べたり、聞き込みのようなことまでしていたようです」
七年前の事故について
「七年前の今頃、優人と両親の乗った車がトラックと衝突してしまいまして。漏れ出したガソリンに引火して爆発し、両親は即死でした。優人は軽傷でしたが、トラウマになってしばらくカウンセリングにお世話になっていましたね……。誠だけは風邪を引いて私に預けられていたので、事故に遭わずにすみました」
事故の遭った場所はどこか
「私の家から歩いて10分ほどのT字路です」
そう言うと芦谷は簡単な地図を書き、渡してくれる。
誠と優人の部屋を調べるために家に行ってもいいか
「もちろんかまいません。ただ、昼からは仕事で出なければいけませんので、朝の間にお願いします」
翌日10:00頃に芦谷家に訪問する約束をとりつけることができる。
ポピーの花について
「赤いポピーは彼らの両親が大好きな花で、毎年二人で大事に育てて事故現場に献花していたんですよ。優人がいなくなってからも誠が一人で育てていました。そういえば、なんで折れているんでしょうね……」

笹野

カウンセラー。優人の元勤め先である土屋診療所にて、彼の同僚だった。少々軽い性格だが勤務態度は真面目。優人の患者に対する熱意に同僚ながら尊敬の念を抱いていたが、一年前から少しずつ様子がおかしくなった彼を心配している。
実は行方不明になる前に誠から探索者と同じように兄のことを聞かれており、その時に「もし自分が兄を捜して戻ってこなかった時、同じように兄のことを調べに来た人に渡してほしい」と木箱の暗証番号が書かれたメモを渡されていた。
(以下、探索者からの質問とその返答)
優人はどんな人物だったか
「とにかく優しくて真面目なやつって感じです。昔カウンセリングにかかったことがあるから今度は自分が助けたいんだって、すごく熱意をもって患者様に接していまして、同期ながら尊敬してましたね」
優人が仕事を辞めることについて、理由などは聞いていたか
「俺も気になって何度か聞いてみたんですが、結局教えてもらえずで……。ただ、何か決心していたような雰囲気ではありました」
優人が辞める前におかしな様子だったか
「辞める直前というより、一年くらい前から少し変でしたね。急に治療成績がよくなったんです。まるで魔法を使ったみたいに、たった数回の受診で患者様を立ち直らせられるようになりまして。最初はそのことを喜んでいたみたいですが、だんだん、焦りというか、苛立ちのようなものが見えるようになりました。まあ、急に禁煙を始めたのでそのせいかもしれませんが。たしか、お気に入りのライターも弟に譲ったとか」
一年前に何があったか心当たりはないか
「そういえば、その頃から仕事終わりによく女性に会っているのを見かけました。彼女かと思って、冷やかそうと一回だけ後をつけて隠し撮りしたことがあるんですよ。見てみますか?」
笹野は携帯で撮った写真を見せてくれる。写真には、喫茶店らしき場所で話し込んでいる様子の男女二人が映っている。女性は後姿であり、真っ白な服を着て髪が長いことしか分からない。
《目星》→テーブルの上に分厚い本が置かれており、二人はそれを読みながら話し込んでいるようである。その本から禍々しい雰囲気を感じ取り、0/1のSANチェック

5 導入

じめじめと寝苦しい6月のとある夜、探索者たちは皆同じ、奇妙な夢を見る。

一面の白い花畑に佇む、一人の青年。
顔は影になりよく見えないが、彼がその口元に笑みをたたえていることだけは分かった。
青年が口を開くと、甘く優しく、しかしどこか不気味な声音が響く。
「辛かったんだね。可哀そうに、可愛そうに……。もうすぐ、救ってあげるからね」
その言葉と共に、探索者は目を覚ました。

翌朝10:00、探索者の元に芦谷典史という中年男性が訪れる。彼は探索者に依頼があるという。
依頼の内容は、一週間前に行方不明になった甥を捜してほしいというもの。彼は探索者に写真と一枚の紙を見せる。写真を見ると、真面目そうな印象の男子高校生と、大人しそうな青年が並んで笑みを浮かべている。校舎や桜の木が背景に映っているところから入学式の写真であるようだ。芦谷は高校生の方を指差した。

芦谷「名前は立花誠といいます。両親が七年前に事故で亡くなったため私が預かっていて、今年で高校二年生になります。これは、誠が部屋に残していった書き置きです」

紙には「忘れ路へ、兄を連れ戻しに行ってきます」と書かれている。

芦谷「実は、誠の兄の優人も半年前に行方不明になっていまして。この写真に写っているもう一人が、その優人です。誠は兄の行方を捜していたので、おそらく何か手がかりを見つけたのでしょう。しかし、一週間も連絡もよこしてこないというのは誠の性格上考えにくいんです。最近このあたりで行方不明事件も多いですし、心配で……」

ここで、探索者は《知識》の二分の一、または《オカルト》で判定をする。成功すれば、探索者はつい最近になって囁かれ始めた『忘れ路』という名前の都市伝説があるということを知っている。その都市伝説の概要は以下の通り。(ここで全員が失敗した場合は、あとでPCや携帯を使い調べればこの情報は取得できる。その場合は《図書館》で判定する)

とあるT字路にある、存在しえない第四の道。
暗闇の中でその道に踏み込めば、『忘れ路』へとたどり着く。
そこでは辛い記憶を忘れ、心を癒すことが出来る。

(この時、PCそれぞれの「辛い記憶」を思い起こすRPを入れてもよい)
ここで『忘れ路』という都市伝説があることを芦谷に教えても、その都市伝説と立花兄弟との関係は心当たりがない様子である。

そこまで依頼内容を話すと芦谷は「それで、引き受けていただけますか?」と不安そうに尋ねてくる。了承の意を告げれば、ほっとした表情を浮かべる。
芦谷「私が分かることならなんでもお教えしますので、よろしくお願いします」

ここからは探索者が芦谷に質問をし、その内容に応じて芦谷が答えていく。返答の内容はNPC紹介を参照。この導入で聞き洩らしたことは、芦谷家に訪問した時に聞いたり、電話をしたりすれば聞き出せる。

一通り質問を終えると、芦谷は「それでは、よろしくお願いします」と写真と書置き、芦谷の連絡先を渡して探索者の元を去る。時刻は11:00頃になっている。
(この時点で探索できるのは土屋診療所か図書館の二か所となる。図書館の方はPLが思いついていないようであればアイデアを振らせて誘導する)

6 土屋診療所

探索者が芦谷から教えてもらった番号に電話し受付の女性に用件を告げると、笹野という男に代わる。
笹野「立花のことでしたら、自分がお話しします。そうですね……17時に仕事が終わりますので、その頃に診療所の受付までお越しください」

17時頃に診療所の受付に着くと、奥から一人の男性が現れた。
笹野「笹野といいます。立花とは同期でこの診療所に入った仲でして……俺もあいつのことは心配していましたので、少しでもお役にたてればと思います」
笹野は、探索者たちを応接室まで案内してくれる。
笹野「それで、どのようなことをお聞きしたいのでしょうか?」
ここからは芦谷の時と同様に、探索者の質問に応じて笹野が答えていく。

質問が終わって探索者が退室しようとすると、笹野は「あ、忘れてました!」と一枚のメモ用紙を差し出してくる。メモには4桁の数字が書かれている。
笹野「これ、立花が使ってたデスクの裏から出てきたんです」
メモを渡すと、笹野は探索者たちを診療所の入口まで送ってくれる。
(探索者が聞き逃していることがあれば、この時に笹野の連絡先を渡してもよい)

7 図書館

住宅街と繁華街の中間にある図書館。貸し出しにはカードが必要であるが、閲覧は誰でも自由にできる。開館時間は10:00から18:00まで。
書籍だけでなく、パソコンを使っての新聞のバックナンバーの閲覧も可能である。
調べたい内容によって必要な時間は異なる。成功でも失敗でも同様の時間が経過する。探索者が複数いる場合は同時に違う事柄を調べることも可能。

最近起きている行方不明事件について調べた場合(二時間経過)

成功
ここ数か月、市内で頻繁に発生している行方不明事件をまとめた記事を見つけることができる。
その記事によると、被害者は既に二十人以上にもおよび、年齢も性別も様々である。
被害者はほとんど市内に在住しており、数日で発見された者もいれば、現在に至るまで消息不明の者もいる。その数はおよそ半々。
発見された者はその間の記憶が曖昧だが、「たくさんの花が咲いた場所にいた」との証言がいくつかあり、警察は誘拐時に使用された薬品により幻覚を見たのではないかとして捜査を進めている。
失敗
ここ数か月、市内でいくつか行方不明事件が起こっているようだということが分かる。

七年前の事故について調べた場合(一時間経過)

成功
事故についての記事を見つけることができる。事故の概要は、一時停止を無視してT字路に突っ込んできたトラックと自家用車が接触し、自家用車に乗っていた親子三人のうち父親と母親が亡くなったというもの。事故現場は市内であり、教えてもらった芦谷の家から近いということが分かる。
失敗
該当するような記事は上手く見つけられなかった。

都市伝説『忘れ路』について調べた場合(一時間経過)

成功でも失敗でも、それに関する記事は見つからない。新聞記事でなく書籍などを調べた場合も同様。
ただし成功の場合、探索者はその都市伝説が囁かれ始めたのがごく最近であり、かつ全国的には広まっていないのではないかとの考えに至ることが出来る。

8 芦谷家

事前に教えられた住所に向かうと、そこは年季が入ったアパートの一室だった。
インターホンを鳴らせば芦谷が「どうぞ、お待ちしておりました」と出迎えてくれる。そして、そのまま誠と優人が使っていたという部屋に案内される。
(他の部屋には特に探索ポイントはなし)

芦谷「恥ずかしながらうちはこの狭さですからね。一部屋を二人で使わせていたんです。優人の方の私物は半年前に整理してほとんどなくなっているので、あまり手がかりはないかもしれませんが……」

部屋は6畳ほどの広さ。床はフローリングの上にくたびれたカーペットが敷いてあり、壁紙は少々色あせている。部屋にある家具は、洋服ダンス、本棚、二段ベッド、折り畳み式のミニテーブル、座布団二つ。

案内し終えると、芦谷は「それでは、お願いします」と部屋を出ていく。居間で待機しているため何かあればすぐに聞きに行くことは可能(返答は導入と同様にNPC紹介参照)。
部屋の中は自由に探索可能だが、12時になると「申し訳ありませんが、そろそろ出勤の準備をしなければいけないので……」と家を追い出されてしまう。

洋服ダンス

抽斗の中を調べても男物の服や下着が入っているだけで特にめぼしいものはない。タンスの上には植木鉢が置いてある。
《目星》→植木鉢には何かの花が植えてあったようだが、手折った跡があり枯れている。さらに《知識》の二分の一または《植物学》で成功すれば、その花がポピーであると分かる(植物図鑑を見つけた後なら+20の補正)

本棚

教科書や参考書などに交じり、僅かにだが趣味の本や漫画なども並んでいる。
《図書館》→植物図鑑が目に留まる。手に取ると、開き癖がついているページがあるのが分かる。そのページには、ポピーについて書かれている。

ポピーはケシ科の植物で、日本ではグビジンソウ、ヒナゲシなどの呼び名もある。一年草であり、春から初夏にかけて花を咲かせる。ケシ科は150種以上があり中にはモルヒネの原料になるものもあるが、当然そのような品種は出回っていない。
花言葉は、赤いポピーは「慰め」「感謝」、白いポピーは「眠り」「忘却」、黄色いポピーは「富」「成功」などである。

二段ベッド

下段は布団が綺麗に畳まれている。上段は荷物がまとめて置いてあり、しばらく使われていないことが分かる。荷物の中を調べると、その中に木箱を見つける。木箱には4桁の番号を合わせるタイプのダイヤル式の鍵がついている。
この鍵は、土屋診療所で笹野からもらったメモの番号に合わせれば開く。メモを入手していない場合は総当たりすることもでき、30分消費し、かつ《幸運》に成功すれば開けられる。
小箱の中には、一冊の手帳が入っている。手帳を開くとこのように書かれている。

『忘れ路』という都市伝説が妙に気になる。
このあたりでは最近行方不明事件が多く、完全な創作というわけでもなさそうだ。
それにその都市伝説が噂されるようになったのは、ちょうど兄さんがいなくなってからだ。
虫の知らせ、というやつだろうか。

伝手を辿りまくって、ついに『忘れ路』へ行ったことがあるという人から話を聞かせてもらうことができた。
「はっきりとは覚えていないが、二十代くらいの男がいた」と言っていた。
もしかして……。

行方不明になった中には、そのまま見つかっていない人もたくさんいる。
帰り道で不気味な化け物に襲われて、命からがら帰ってきた人もいるという噂だ。
兄さんは、あそこで何をしているのだろうか。

行方不明者は増え続けている。
兄さんを止めなければ。
それが、弟の俺がとるべき責任だ。

『忘れ路』に行くには、辛い記憶が必要だ。
俺にそこまでの記憶はあるのだろうか。
いや、ないなら作ればいい。

夢を見た。
兄さんが白い花畑の中で佇んでいる、そんな夢を。
やはり兄さんはあそこにいるんだ。
そして目覚めた俺の脳裏に、何の根拠もない考えが浮かんだ。
「あの白を赤く染められれば」

これを誰かが読んでいるということは、俺は『忘れ路』から戻ってこられていないということだろう。
典史おじさん、ここまで育ててくれたのにごめんなさい。
今まで、本当にありがとう。

最後に一応、ヒントのようなものを書いておく。
忘れたいほどの辛い記憶を持つ人間には、夢の招待状が届く。
その夢の中の兄さんの言葉に従えば、『忘れ路』に入るのは容易いはずだ。
逆に言えば、夢を見た時点でもうあそこからは逃れられなくなっている、ということなのかもしれないけれど。
手帳を芦谷に読ませた場合
芦谷は驚いたような、訝しむような表情で読み進めていく。やがて読み終えるとその表情は切なげな、苦しげなものへと変わった。そして、探索者たちに真剣なまなざしを向けて頭を下げる。
芦谷「どうか、どうか二人を連れ戻して来てはくれないでしょうか。もしそれが叶わなくても、せめて二人がどうなったかだけでも教えていただきたいのです。危険な場所かもしれないということは分かっているのですが、私はなにぶん、この足ですので……お願いします」
探索者が了承すれば「本当に、ありがとうございます」と、もう一度深々と頭を下げる。

9 T字路

七年前に事故のあったT字路。芦谷家から徒歩で10分ほどの距離にある。道幅が狭く見通しはあまりよくない。そのためか人通りも少ないようだ。塀や道路には一部補修したような跡があり、それが事故の痕跡ではないかとうかがえる。

《目星》→電柱の傍に金属製のオイルライターが落ちていることが分かる。拾ってよく見ると、側面に「TACHIBANA」と刻印してある。
(全員失敗した場合は、一番幸運の値が低い人物が転び、倒れ込んだところで目の前に転がっているライターに気付く。1d3のHP減少

『忘れ路』へ

辛い記憶を思い浮かべながら目を閉じ、T字路の突き当りに向かって歩き出すと『忘れ路』へ入ることが出来る。
1歩、2歩、3歩。探索者は違和感をおぼえる。塀に向かっているはずの身体がぶつかる感覚がいつまで経ってもやってこないのだ。
4歩、5歩、6歩。足元の感触が舗装されたアスファルトから、凸凹としたものに変わっていく。
7歩、8歩、9歩。ピリリとした、しかしどこか癒されるような芳香が鼻をくすぐる。
そして10歩目を踏み出した瞬間、探索者はひどい目まいと吐き気を覚えた。0/1のSANチェック

10 『忘れ路』

次第に目まいと吐き気はやんでいく。探索者が目を開くと、先ほどまでとは全く異なる風景の中に立っていた。
両手を伸ばしたほどの幅の白い石畳の道に立っており、その周りは見渡す限り白いポピーの花畑になっている。芳香はそこから漂ってくるようである。石畳の道は前にも後ろにもどこまでも伸び続けている。道と花畑以外に探索者の目に映るのは、太陽が浮かんでいないのに何故か明るい薄灰色の空のみである。このような不気味な光景を目の当たりにした探索者は、1/1d3のSANチェック

☆付近に《目星》→探索者が立っている付近の花畑に、小さな立札が立っていることに気付く。立札は二種類あり、それぞれ「花畑に立ち入らないでください」「火気厳禁」と書かれている。

花畑

花畑に《目星》を行うと、白い花の下に敷かれている土壌が、普通の土ではなく不気味に蠢く真っ黒な「何か」であることに気付く。0/1のSANチェック
(この花畑の白いポピーは、土壌として敷かれている無形の落とし子からのMPの供給を受けて咲き続けている)
また、花畑に足を踏み入れたり、手を伸ばして花や土に触れようとしたりすると、黒い触手のようなものが伸びてきて、攻撃を受ける。1d3のHP減少と、0/1d3のSANチェック。足や手をすぐにひっこめれば攻撃は止む。

後方へ進んだ場合

(無形の落とし子から逃げてきた場合も同様のイベントが発生する)
しばらく歩き続けると、遠くに影を見つける。人間を一回りも二回りも超える大きさの「何か」が花畑に横たわっているようだ。その「何か」は生物らしく、僅かに呼吸しているような動きがあるが、こちらに気付いている様子はなさそうだ。
さらに近づくと、探索者はその全貌を目にするだろう。

ツァトグア

(描写例)毛皮に覆われた大柄な体に、ヒキガエルのような頭、コウモリのような耳、そのような今まで見たことがない生物が目を閉じて佇んでいる。こちらに気付く様子も、襲い掛かってくる様子もない。しかし、いつ目を覚まし自分が蹂躙されるかもしれないその巨大な化け物の姿に底知れぬ恐怖を覚えた探索者は、0/1d10のSANチェック

今回はお腹を空かせていないため、眠ったふりをしている。探索者がむやみに刺激しなければ、なんなくその前を通り過ぎることはできるだろう。もし探索者が手を出し戦闘が発生した場合はルルブP220を参照。

ツァトグアをやりすごしてさらに先に数分進むと、急に足元が崩れるような感覚を覚える。そして、一瞬の浮遊感の後、探索者は尻餅をつく。気が付けばそこは、元のT字路であった。
一度脱出した探索者は、二度と『忘れ路』に入ることができなくなっていると気づくだろう。
→ノーマルエンドへ

前方へ進んだ場合

数分進んだところで、目の前の石畳の幅が広がり、まるで広場のようになっているスペースに辿り着く。花畑はまだ続いているが、石畳の道はそこが行き止まりのようだ。
広場の奥には、白衣に身を包んだ一人の青年が黒い棺の上に座っている。探索者は彼が写真で見た青年、優人であると気づくだろう。
優人は探索者に気付くと、ゆっくりと立ち上がる。

優人「ようこそ、僕の可愛い患者さん。さあ、辛いことを忘れさせてあげよう」

この時、探索者は全員POW×5で判定する。
成功→強い誘惑を感じたが、なんとか振り払うことができる。
失敗→「あの辛い出来事を忘れたい」という強い誘惑にかられ、ふらふらと優人の元へ歩き出す。他に正気を保っている探索者がいれば、止めることは可能。大声で呼びとめられたり手を引かれたりすれば、すぐに正気に戻る。
止められなかった場合は、探索者は優人の目の前に立ち、彼から花畑に生えているものと同じ白いポピーを一輪渡される。その花を探索者が受け取った瞬間、花は手の中であっという間に萎れ、それと連動するように探索者の中から辛い記憶(忘れ路に入る際に思い浮かべていたもの)が綺麗さっぱり消えてしまう。その後、探索者は正気に戻る。

記憶を消してもらおうとしない、または消してもなおその場に残っている探索者に、優人は不思議そうに問い掛ける。
優人「おや? ここに来たのは治療のためではないのかい?」
探索者が優人を止めるために(または誠を捜すために)ここへ来たことを告げると、優人は「なるほどね」と呟く。
優人「誠もねえ。あれを手折ってまでここに来たのはすごいけれど、僕にはまだまだ救わなければならない患者さんがいるからね。あまりにもしつこかったから、眠ってもらったんだ」
そう言うと、優人は棺桶にちらりと視線を向ける。
優人「ああ、どうして分かってくれないんだろう。辛いことは、全部忘れてしまえば幸せなのに。そのために、僕は頑張っているのに。……悪いけど、君たちも早く帰ってくれないかな。来た道を真っ直ぐに戻ればすぐに帰れるよ」

それでも探索者がその場に留まったり説得しようとしたりすると、優人は深くため息をつく。
優人「仕方ないね……少々手荒な手段に出ようか」
優人が天に向かって手をかざすと、べちゃり、という気味の悪い音を立て、黒い影が探索者たちの目の前に落ちてくる。
無形の落とし子
(描写例)それは真っ黒な、ネバネバとした不定系の塊であった。おぞましく蠢くその姿を目にした探索者は、1/1d10のSANチェック
落ちてくる数は探索者の人数と同じ。たとえ探索者が呪文等で倒したとしてもすぐにまた同じ数になるように空から落ちてきて、探索者たちは優人に近づくことはできない。探索者が彼らから逃げ出す際にはDEX対抗ロールが必要だが、一度逃げた者を追ってくることはない。つまり、このクリーチャーを倒しても倒さなくても状況は変わらない。
なお、この無形の落とし子の攻撃力は少し低めに設定してある。また、噛みつき攻撃は行わない。これは、彼らを操る優人はあくまで追い払うことを目的としており探索者たちに殺意を持っているわけではないため。

[能力値]
STR:14 CON:10 SIZ:16  INT:14 POW:10 DEX:16
H P:12  M P:10  回避:32  ダメージボーナス:1d4
装甲:物理攻撃無効。呪文、火、薬品は有効。
武器:鞭(90%) 1d4
   触肢(60%) db
   打突(20%) db
(各攻撃の特殊効果等はルルブP193参照)
トゥルーエンドへの条件
「白を赤く染める」という誠の日記のヒントに従い、白いポピーの花畑に火を点ければよい。そのためには火を点ける道具が必要である(T字路に落ちていたライターでも、探索者の持ち物でもよい)。DEX対抗ロールで成功して無形の落とし子から逃れるか、別のものに火を移し《投擲》に成功すれば花畑に火を点けることが出来る(ともに1ラウンド消費する)。

11 エンディング

トゥルーエンド

花畑に火を点けた途端、通常ではありえないほどの速度であっという間に炎は広がり、石畳の上以外は一面火の海と化すだろう。そして花畑のそこらかしこから、獣が、いや、もっと不気味な生命が放つ断末魔のような悲鳴が聞こえる。0/1のSANチェック。
そして探索者たちの前に立ちふさがっていた化け物も舞い上がる火の粉から引火し、同様の悲鳴をあげながら燃え尽きてしまう。

その中で優人は、燃えゆく花畑をぼんやりと見つめていた。

優人「……そういえば、あの日の車も、父さんや母さんも、たしかこんな風に燃えていたっけ。でも僕はもう、炎は怖くないんだ。あの人に、辛い記憶から目を逸らすんじゃなくて、向き合う方法を教えてもらったから。馬鹿だなあ。どうして、そんな大切なことを忘れていたんだろう……」

優人はそう呟きながらふらふらと燃え盛る花畑へと向かう。探索者が止める間もなく、あっという間にその身体は炎に包まれ、消えてしまう。

「兄さん……?」

声がした方に注目すると、いつの間にか棺桶から一人の少年が顔をだし、優人のいた場所を呆然と眺めていた。
その瞬間、薄灰色の空が崩壊を始め、探索者は熱と暗闇に包まれながら意識を失う。

探索者は、必死な叫び声で目を覚ます。
探索者は元のT字路で倒れているようだ。すぐ傍では、一人の少年が横たわる火傷だらけの優人に向かって呼びかけ続けている。それは、写真で見た誠であると分かるだろう。
誠「兄さん、兄さん!」
誠は必死に叫び続けるが、優人がその声に応じることはなかった。

それからは、この近辺で行方不明者が出ることはなくなり、『忘れ路』の噂が囁かれることも減っていくだろう。しかし、以前の行方不明者が戻ってくることはなかった。
そして一週間後、探索者たちの元に芦谷からの謝礼と手紙が届く。

まず、誠を無事に連れ戻してくれたこと、心よりお礼申し上げます。少々衰弱していたようですが命に別状はなく、現在は学校にも通い始めています。
優人の方は、一命は取り留めましたが未だ目を覚ましていません。医師が言うには、身体は回復しているはずなので精神的な問題かもしれない、とのことでした。
誠は「これは罰なのかもしれない」と言っていました。私はそれでも、ずっと二人を支え続けるつもりです。それが彼らの保護者としての、私の責任ですから。

SAN報酬:1d6+1d3

ノーマルエンド

誠も優人も連れ戻すことができなかったことを芦谷に報告すると、芦谷は少し寂しそうな顔をするが、何が起こるかも分からない場所にわざわざ向かってくれたことに感謝をし、僅かながら謝礼も出してくれる。そして、今後はさらに『忘れ路』の情報を集め、いずれ自分の力で二人を迎えに行くつもりだと探索者に告げる。

やがて、都市伝説『忘れ路』は少しずつ広がりを見せ、行方不明者も市内にとどまらなくなっていく。しかし、探索者はもうあの空間に干渉することはできない。新聞やニュースで行方不明事件を見かけるたびに、どこか歯がゆい思いを覚えることになるだろう。

SAN報酬:1d3

12 シナリオ背景

七年前に事故により目の前で両親を亡くした立花優人は、その光景がトラウマとなり苦しめられるが、根気強く自分を支えてくれたカウンセラーにより立ち直ることができた。成人した優人は、自分と同様に過去に辛い経験をした人間の心を癒すべく、カウンセラーになる。しかし実際に患者と接していくうちに、その心を完全に救うことができない自分に悩み、やがて、患者の心を癒すにはトラウマの元となった記憶を消すしかないのではないかという考えに囚われるようになる。

そんな優人に目を付けたのはツァトグアの狂信者の魔女であった。彼の魔術的才能の高さを見抜いた彼女は、彼に近づき『記憶を曇らせる』呪文を教える。優人はその呪文の魅力にとりつかれて患者に使用するようになるが、すぐに魔力が底を尽きてしまう。もっと多くの人間を救いたいと願う優人に魔女は「こことは違う場所なら気兼ねなく呪文を使うことができるだろう」と提案する。その提案に乗った優人は魔女の作り上げた異空間である『忘れ路』へ籠り、辛い記憶を持つ「患者」を招待し呪文を使うようになる。そこでは花畑の土壌となっている無形の落とし子の魔力を利用することで、呪文を自由に使うことが出来る空間であった。

しかし、それは魔女がツァトグアへの生贄を定期的に供給するために仕組んだことであった。『忘れ路』へ迷い込んだ者の約半数は、帰り道に腹を空かせていたツァトグアに食べられてしまう。優人自身は「患者」が無事に帰ったかの確認をしていなかったため、自分が誘い込んだ人間の半数を死に追いやっている自覚はなかった。

一方、弟の誠は失踪した兄を捜索していくうちに、都市伝説の『忘れ路』との関連に気付く。彼は兄を止めることを決意し、辛い記憶を作るために兄と大事に育てていた花を手折り、『忘れ路』へと向かう。しかしそこで再会した優人は説得に応じることなく、誠は眠らされ、棺桶の中に閉じ込められてしまった。


トゥルーエンドでは、『忘れ路』は魔力の供給源である無形の落とし子が燃え尽きてしまったため空間ごと崩壊する。優人もその影響で精神力を激しく消費し、昏睡状態に陥る。月日が経つにすれ少しずつ回復しいずれ目を覚ますのか、それとも多くの人間を無意識に死に至らしめた罰としてこのまま眠り続けるのか、それは誰にも分からない。それでも芦谷と誠は優人の目覚めを待ち続けるだろう。
ノーマルエンドでは、優人と魔女は少しずつ『忘れ路』の規模を大きくしていき、入り口もあのT字路だけではなくなり、いずれ全国的に被害者が出始めるだろう。そして誠は兄の凶行を止められぬまま延々と棺桶の中で眠り続けることになる。

余談
・このシナリオでの「忘れ路」の読み方は「わすれみち」。
 しかし一般には和歌などの中で「わすれじ」と読まれることが多い。
 「忘れじ」は古語で「忘れることはないだろう」の意味。

・ポピーをキーアイテムに選んだのは、花言葉の他にケシがモルヒネの原料になることから。
 優人が麻薬に溺れるように呪文に依存していく様子にかけている。

13 補足

・このシナリオは予告なく加筆・修正する場合があります。基本的には誤字脱字の修正や細かい描写の変更等で大幅な改変をする予定はありませんが、ご了承ください。セッションの際には必ずしも最新のものを使用する必要はありません。
・シナリオの使用、改変、リプレイ動画等、ご自由にどうぞ。報告も必要ありません。クレジットだけしていただけると幸いです。
・ご意見、ご感想等あればコメント欄まで。
・(7/7追記)プレイ時間を修正

このページへのコメント

はじめまして。
こちらのシナリオをお借りさせていただきます。

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Posted by sachi 2017年09月13日(水) 06:01:13 返信

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