ウルトラレディ・シャイン第4話
「大爆発5分前」

海底原人 ラゴン出現

1
「話は聞いたぞ、涼花。反応弾頭からの信号を受信したのか」
 ネロンガ事件から戻る途中にその連絡を受けた影丸隼人は帰ってくるなり、通信担当で留守番を務めていた森田涼花にそう言った。
「えぇ、隊長。これを見てください」
 そう言って涼花はモニター上にいくつかの点が記された地図を映し出した。
「数日前に反応があった地点がここで……、それで先ほどわずかですが受信した地点が……」
「ここか」
「はい、地点が動いています」
「本土に近付きましたね」
「そうですね。これは単に潮流の流れとは違うかもしれませんね」
 梶が画面の光点を動きを眺めながら、そう冷静に分析して見せた。
「よし、ネロンガの事後処理が終わったら俺達も弾頭の捜索と回収に出動だ!」

「山木君、まだ私達の出番はまだのようよ」
 そう言って指令室に入ってきたのは、副隊長である星野亜希であった。
「星野副隊長……、どうやら作戦が決まりましたか」
「えぇ、今回の回収作戦だけど横須賀基地の海上迎撃隊と海上自衛隊、海上保安庁の3組織の合同で捜索を行う事になったわ。 梶君、私達に課されたのはこの反応弾を発見されしだい出来るだけ安全に無力化、回収する事よ」
 亜希の言う「海上迎撃隊」とは地球防衛機構の組織の一つで主に海洋での捜査、迎撃を担当する組織である。そして、亜希と涼花は指令室のホワイトボードにロケットに搭載されていた反応弾に関する写真や資料を貼り付けていった。
「星野副隊長、了解しました。やってみましょう」
「では、我々は?」
「それまでは待機よ。 各自やるべき事をやりなさい」
「「了解!」」
 こうして各員は持ち場へと散っていった。

「それにしても紗希」
 ようやく張りつめた指令室を出て紗希と2人きりとなり、すこし気が楽になったのかやれやれと言った表情をしながら鈴村真は柚本紗希に話しかけた。
「ネロンガの事といい温泉旅行に行ってたのがずっと前の事みたいだな」
「えぇ、でもこれがわたし達のいつもの日常じゃない」
「ようやくネロンガの事件が一段落したんだ。何もなく反応弾が見つかってくれればいいんだけど」
「そうね。それが一番いいわね」

 だが、そんな2人の言葉と思いとは裏腹に反応弾は最悪の形で見つかったのだった。


 同じ頃、房総半島のはるか沖を海上迎撃隊所属の哨戒艦『あらなみ』が航行を続けていた。目的は勿論反応弾の捜索と回収である。
「こちら『あらなみ』。そちらはどうですか?」
 操舵室では地上や他の海域を捜索している艦艇と連絡を取りながら、捜索を続けている。
≪こちら横須賀司令部、こっちも反応弾からの反応はまだありません。どうぞ≫
「了解、こちらも捜索を続行します」
≪了解≫
そう連絡を終えると、艦長は部下にソナーの感度を最大レベルまで上げるように指示をした。
「最大レベル……ですか」
「あぁ、また信号が弱く途絶えたからな」
「了解しました。感度を最大まで上げます」
 そう言って乗組員は艦長命令に従ってソナーの感度を最大まで上げるようソナー要員に指示を出した。
 すると、さっそく操舵室の中に反応弾からの信号を受信したのかアラーム音が激しく鳴り響いた。
「反応ありました!水深80メートルから20ノットでこちらの方へと向かって浮上してきます!」
「何だ!?移動しているだと!」
 操舵室内に鳴り響くアラーム音がどんどんと大きくなり、更に放射能を図るためのガイガーカウンターもどこかに反応したように鳴り出した。
「はい!」
「どっかが先に回収でもしたと言うのか?」
「しかし、そんな報告は……」
「なら、どっかの国が回収しようとでもしたと言うのか。とにかく、この……」
 ロケットから離れて海中に転がっているはずの反応弾がひとりでに海中を動くはずがない、しかもそれは海流の流れなどと言う物でもない。いまここで目にしている事に一様に動揺を隠すことは出来なかった。
「艦長!あれはなんですか?」
その声は甲板に出ていた乗組員からであった。
「白い航跡です!こっちに来ます!」
 その声で操舵室の外に飛び出した乗組員の叫び声とともにその白い航跡から大きな水柱が上がった。
そして、海面に姿を見せた「その怪物」はあっという間に船を掴み大きく揺さぶり出した。

 大きく揺さぶられる船内であらゆる物が散乱し、あたりに転がった。
 その中ですぐさまSOS信号を発信しようとするも、どの乗組員も激しく転倒し床にたたきつけられ誰も身動きが取れず、更に最悪な事に怪物は通信用のアンテナなどもメチャメチャに掴み折って、壊してしまったのでこの状況を伝えるすべを失ってしまっていた。
 そしてとうとう怪物の怪力で船体が大きく断末魔の様な音と共に真二つになる。
 その瞬間。機関部が爆発したのかボンッという大きな爆発音を周囲に響かせると共に水面に大きな火柱が上がる。怪物はその炎に照らされながら消えるようにして再び海中にその姿を消したのであった……

2
 早朝、哨戒艦からの連絡が突然途絶えたという地元の海上保安庁からの連絡を受けて、影丸、梶、山木と亜希の4人はNEOビートルに乗りこむと遭難事故の現場へと急行した。

「うわぁ……これはひでぇな……」
 現場海域に死んだクジラのように浮かぶ真二つになって海上に浮かんでいる哨戒艦の船体を目にすると山木の口からそんな感想が漏れた。
「連絡が途絶えたのは確か23時ごろでしたね。 SOS信号を送る間もなく転覆したという訳ですか」
「梶、お前はこの原因なんだと思う」
「そうですね…… 現場の昨晩の気象条件や波の状況からすると船を切断し、横転させるほどの三角波があったとは考えにくいかもしれませんね。 とすると後は……」
「怪獣の仕業かしら?」
さらっとそう言ったのは亜希であった。
「副隊長はまた怪獣の仕業だと?」
「いえ、山木隊員。まだそうとは決まってないわ」
「えぇ、これだけではまだ何とも言えませんね。 せめて生存者や目撃者がいれば進むと思うのですが……」
「生存者なら今のところ事故原因を知っていそうなのが1人いるわ」
「一人ですか?」
「あぁ、他の生存者とは違い事故当時は操舵室にいた乗組員だ。報告によると爆発の炎が上がるのを目撃して駆けつけた地元の漁船に助けられ、今は南房総の医療センターの方に緊急搬送されたそうだ」
「そのことなら既に真くんと紗希ちゃんにそちらに向かうように指示してあるわ」

同時刻 南房総中央医療センター

 真と紗希はその丘の上から太平洋の大海原を見下ろすロケーションの医療センターへと到着し、生き残った乗組員から話を聞いている最中だった。
「どうだった?紗希」
ドアに『関係者以外面会謝絶』という札のかかった病室から出てきた紗希に真はそう声をかけた。
「えぇ、まだ記憶がはっきりしていないみたいで確かな事は聞けなかったのだけど……」
「何か言ってたのか?」
「白い航跡がどうとか……」
「白い航跡か……何だい?それは」
「わからないわ。今は事故のショックでただそれくらいしか話せないみたいで……」
「なるほど、とりあえずこの事は隊長たちに報告しよう。……っと、とりあえず外へ出るか」
 携帯端末を取り出そうとしたところで「院内での携帯電話禁止」という張り紙を見て、そっと胸ポケットにしまった真は病院の屋外に出ると、端末で隊長を呼び出した。

「なるほど、2人ともご苦労だったな」
「そちらの状況はどんな感じですか?」
「テレビのニュースでやってるのと大して変わりは無いな、全くひどいもんだ」
「そうですか、わかりました。また何かありましたらこちらも連絡します」
「あぁ、頼むぞ」
そう影丸が言って通話を終えると、真は胸のポケットへと再び端末をしまった。
「どうした、紗希? 海の方なんて見つめて……」
 紗希がセンターの外に出てからからずっと海の方を見つめているのに気づいて、そう声をかけた
「えぇ……、さっきあの辺の海上に何か白い航跡みたいなのが見えたわ」
「何だって! それは潜水艦とかじゃなくてか?」
「えぇ、もしかしたらそれがさっき隊長達が言ってた白い航跡なんじゃないかしら……」

「追いかけましょ!」
「なんだって? でも、どっちへ行ったかわかるのか?」
「航跡はおそらく向こう……、もしかしたら陸地に向かっているのかも」
 そう言う紗希の指差す先にあったのは房総半島の対岸、三浦半島であった。
「そうか、よし俺達で追いかけるぞ!」
「えぇ、急ぎましょ」
 2人は急いで駐車場に止めてある特捜隊専用車に乗りこんだ。
「あぁ、そうだな。じゃあ少し飛ばすぞ!」
 真はアクセル全開で病院から道路へ飛び出すと走り出した。

「亜希、鈴村達から連絡があった。 例の白い航跡らしきものが北上しているのを見たらしい」
「北上ですか……?」
「あぁ、それを裏付けるように白い航跡を相模湾の上空で報道のヘリが見つけてる。その写真がこれだ」
 そう言って影丸が見せたのは何枚かの画像であった。
「隼人、ここって」
 亜希が気付いたのは白い航跡を写した写真の中の一枚にヒレの様なものとその下に巨大な黒い影が映し出されている画像であった。
「いま、梶にこの画像の解析を頼んでいるのだが」

 そこに調査を終えた梶が戻ってきた。
「隊長、ようやく解りました。過去の出現データベースと照合した結果、これがヒットしました。おそらくこれがあの影の正体かもしれません」
「サイズこそ違うがやはり海底原人ラゴンか……」
「海底原人?」
思わず山木が梶にそう尋ねた。
「海底原人ってのは俺達人間とは違い深海深く海溝の溝に沿うように暮らしている生物の事でラゴンは深海深くのプレートの境目、つまり海溝に生息する人型の原人です。 南太平洋の島々では海から来る者として言い伝えられてきた伝説の生物だったのですが……」
「数年前、伊豆諸島の最南端岩根島にメスの個体が上陸し実在が証明されました」
「岩根島……? そういえば岩根島って」
「えぇ、伝説によるとラゴンが現れるのは凶事の前触れと説明されているのですが、その伝説の通り岩根島は直後に起こった大地震により島が崩壊し、大部分が海中に没しました」
「前は大地震で、今回はこれか。本当にロクなことがないな」
 梶の解説に思わず山木はそんな感想を漏らした。
「でも、そこに書いてあるのは体長2m前後ってあるぜ。いくらオスは大柄だからってここまででかい伸長差のカップルなんて……」
「山木隊員、そこなんです。これは仮説ですがロケットの墜落事故の際の反応弾の爆発による強烈な放射線の影響で……」
「巨大化したと言いたいわけだな」
「そうです。元々、深海の強い水圧にも耐えられる強固な体の持ち主です。爆発に耐えたっておかしくありません。そして放射線が爆発的な巨大化を引き起こし、40メートル近くにまで大きくなったわけです」

 そこに突然出動を知らせるベルが鳴った。
「どうした!?涼花」
「隊長、ラゴンが三浦半島葉山海岸に上陸しました!」
「よし、全員出撃だ!俺と山木はNEOビートルで空から。残りは別働隊として陸から迎え撃つ」
「はい!」
 そして一同は急ぎ現場へ向かった。
「そうだ、この事を2人にも!」
「えぇ、そうね。すぐ現場に行くよう伝えるわ」

「鈴村・柚本、ラゴンが三浦半島に上陸した」
「三浦半島ですか……紗希のカンがまた当たったか……」
「三浦半島っていうと、丁度ここからだと反対側ね」
「あぁ、海の向こう側だし、ここからだと高速道路で木更津から川崎に出て……」
「そこに入って!」
そう言ってちらりとカーナビを見やった真とは対照的に紗希は窓の外に広がる海岸の風景を眺めていた紗希がそう真に叫んだ。
「えっ!?」
 そう紗希に言われるがまま、真はハンドルを道端にあった建物へと切ると、ある店の前で車を停めた。その店とは海岸を見下ろす位置に立つ小さな民宿であった。
「この民宿がどうしたんだ……?」
「これよ、これ!」
 紗希は店にかかっている看板を指差した。
「……あっ、そうか!」
 紗希が指差した看板に書かれている「船宿・釣り船」の文字を見て、真は紗希の意図をようやく理解した。
「えぇ、これを使えればすぐじゃない?」
「そうか、船で渡るって訳か」
「えぇ、これなら速いわ」
「よし、ここの主に聞いてみる」
 2人はその宿屋の主人に事情を説明し協力を求めると、対岸まで船を出してもらう事になった。


3
 ようやく知らせを受けた特捜隊が飛来した時、すでに三浦半島葉山マリーナ近辺の海岸に上陸したラゴンは辺りにあった建物や施設を瓦礫の山へと変えながら暴れまわっていた。
 ラゴンから逃げ回る人々であふれる道路や煙を上げて炎上する葉山の町を見下ろしながらラゴンの周囲を2機のビートルは旋回していた。
「近隣住民の避難はまだ完了していない。それにアレの事もある」

 ちょうどラゴンの肩のあたり、うろこの様な体のヒレに引っかかるようにくっついている銀色の物体を影丸が指差した。その物体こそ防衛隊が捜索していた反応弾そのものだった。
「まったく厄介な事になりましたね……」
「怪獣退治と爆弾処理を同時並行に行うって事だからな……」

「しかし、ラゴンの奴なんであんなところにあんな物騒な物をぶら下げてるんだ……」
「おそらくは……」
 梶はラゴンが光る物、光沢を帯びた物を好み執着するという習性があるらしいという事を話し始めた。
「なるほど」
「はい、これは伝説からの引用なのですがラゴンのオスはメスの気を引く為に光沢のある物を好み、執着するという話があります」
「光沢……金属……そうか、だから反応弾を!」
「なるほど……、執着か。それだと仮にラゴンから回収したところで厄介になるな……」

「だがこのまま、歩く怪獣爆弾と化したラゴンの進撃を放っておくわけにはいかない」
「あぁ、とにかくアレだけは何とかしないと……」
「はい、その為に一つ策が」
そう言って梶が取り出したのは出撃する前に司令部の情報アーカイブから持ち出してきた記録媒体だった。
「それはいったい?」
「ラゴンの事に関しての資料の一つとしてウチのアーカイブスにあった物を持ってきました」
そう説明すると梶はレコーダーに記録媒体をセットすると、ビートルの外部スピーカーから、陽気な音楽が上空からラゴンに向けて流れ始めた。
「なるほどこれでラゴンを大人しくさせて誘導させる訳か……」
「えぇ、なかなか愉快な音楽でしょ?」
「確かに」
 いかにも南国といった感じの明るく陽気なリズムの音楽にコックピット内は先程までの緊張感が和らいだような雰囲気となった。
 だが、当のラゴンはその音楽に対し大人しくなるどころか、逆に興奮したように上空を旋回するビートルへ向けて激しく手を振り上げると、ウォー!と叫び声を上げながら追いかけ回すように足元の建物を蹴散らしながら一層暴れ始めた。
「おい、聞いてたのと違うじゃないか!」
 更にラゴンの肩に引っかかっていた反応弾がブラブラと揺さぶられ、バランスと崩すととうとう真下に向けてするりと落ちていった。
「あっ!危ない!」
 幸いにしてなんとか腕の所に引っかかるようにして静止すると、再びぶら下がるような形になった。
「音楽中止!」
「了解!」
 慌てて梶はすぐさまレコーダのスイッチを切り、音楽を止めた。
「すみません。隊長……」
「それにしてもなぜ音楽に対して攻撃的な性格になったんだ?」
「それもおそらくは反応弾の爆発の影響で……、そうか」
「梶隊員。何か?」
「えぇ、音楽に対する攻撃性ですよ。 だから、ラゴンは船のスクリューやソナーの音に強く反応し、船を襲ったんです!」
「なるほど……音に対し過敏かつ攻撃的か……」

 丁度、そのころ紗希と真も地上にいた亜希と涼花と合流していた。
「亜希さん、涼花さん!」
「あっ、紗希それに真! 房総半島から随分早く着いたわね」
「はい、船を使って近道をしたので」

「なるほど、私達は地上から隼人達の援護と避難誘導の支援を行うわ」
「了解!」
 こうして地上と空の両面からラゴン迎撃作戦が開始されようとしていた。
 だが、反応弾を誤って爆発させるわけにはいかない為になかなかラゴンに対し思うような攻撃の出来ない科特隊をあざ笑うかのようにラゴンは上空のビートルへ執拗に白い熱光線を吐きかけ、そしてついに……
「あっ!」
 白熱光線が僅かにビートルをかすめた瞬間。翼の一部が焼けおち破壊されてしまった。
「コントロールが……!」
 とっさに梶は操縦困難になったビートルを人のいない海岸へと誘導し、そこに不時着させるとすぐさま脱出した。
 その様子を見て空を飛びまわる邪魔者を排除したことに気を良くしたのか両手を大きく振り上げ回るラゴンから、反応弾が再びポロリと落下してしまった。
「あぁっ!」
 思わず、一同は悲鳴にも似た叫びをあげる。
 だが、反応弾は地上へと落下するとそのままゴロゴロと海辺の町の道路を転がると海岸の岸壁の下あたりに落ちてようやく静止した。
「すぐに様子を見に行くわ」
「はい!」
 すぐさま反応弾の方へと駆け寄る亜希たちは、そしてそこには既に先程ビートルから奪取したばかりの影丸と梶、山木の姿があった。
「どう?梶君」
「えぇ……」
 深刻そうな顔で梶は反応装置についている機械装置を指差した。さっき見た時には光っていなかったタイマーの画面の文字が赤く光りだしていた。
「見てください。起爆スイッチが作動してしまっています……」

00:05:34

「ええっ!」
「このままだと後5分程で爆発します!」
「梶、すぐに解除できないのか?」
「今、試みてますが……」
 梶は真剣なまなざしで起爆装置の蓋をあけ、なんとか装置の解除を試みていた。
 だが、先程の衝撃で破損したらしく、流石の梶をも手こずらせていた。

 その頃、亜希たちは反応弾を探し回っているラゴンを足止めしていた。
「梶くん、まだなの?」
「えぇ……、なんとかカバーは外れたのですが……」
「あと3分しかないわよ!」
「こうなったらビートルから凍結装置を使って起爆装置を液体窒素で凍らせて止めるしか……」
 既に山木たちは不時着したビートルの機体から液体窒素のタンクを取りに向かっていた。
そんな時である。ラゴンが岸壁の下に光る物、反応弾をついに発見し、そちらへと向かおうとしだした。
「まずいっ!」
 紗希はとっさに建物の物陰に身を隠すと、Sカプセルを掲げた。

 すると眩い光と共に梶の目の前にシャインが現れた。


4
「シャイン……!」
 思わず立ち上がり、自身の前でラゴンに向けて仁王立ちするシャインにそう呟いた梶に応えるようにシャインは振り向いた。そして、腰を下ろして梶の目の前の反応弾を掴み取ると、ぐっと握りしめた。
「わかりました。お願いします」
 その梶の言葉に頷くとラゴンへ立ち向かっていった。
 大きく腕を振り上げ、威嚇して見せるラゴンがシャインへと素早い動きで向かってきた。
 まだ近くに残っている梶達を巻き込むわけにはいかないシャインはなるべくラゴンを遠ざける様とする。
 だが、ラゴンの狙いはシャインの持つ反応弾であった。
「くっ……」
 シャインの片腕をラゴンはがっちりと掴み上げると、そのまま強引にでもシャインの持つ反応弾を奪い取ろうとしてくる。
「うぅ……!」
 抵抗するシャインだったが、深海の強烈な水圧にも耐えられるラゴンの強靭な肉体のパワーに圧倒されそうになっていた。
「は、離れなさい……!」
 もう片方の手を伸ばしラゴンを引きはがそうとするも、シャインの体はラゴンに押され後ろへと後ずさっていった。
 そして、更にラゴンは首に手を回し、チョークスリーパーを仕掛けると首をぐいぐいとしめあげていった。
「うぅ……!ぐ……ぅ……!」
 振りほどこうともがくシャインだったが、片手をふさがれている状態では振りほどく事が出来なかった。そして、更にどんどんと強く締めあげられていく。
「あぁ……っ……く、苦し……ぃ……」
 ラゴンの腕がギリギリと首元に絞まる。その感覚でシャインの意識が遠くなりそうになる。
 そして、右腕がだらりと降りると、そのまま握っていた手がほどけ、そこから反応弾を落としそうになった。
(ま、まずい……)
「は、放しなさい……っ……!」
 そう言って、なんとかラゴンの締めあげから逃れようともがき、体を振りよじった。
 だが、シャインをがっちりと捕えたラゴンの腕はそう簡単に外れようとしなかった。

「このままじゃ……!よし、今いくぞ!」
「あぁ!鈴村の言うとおりだ!……って、おい鈴村!」
「先輩たちはここにいてください! 俺があいつを何とかします!」
 そう言って物陰から飛び出していった真はラゴンの背後へと急ぎ回りこむと、ラゴンの首筋あたりを目がけて物陰からブラスターガンを放った。
 その瞬間、不意打ちを首筋に鋭く熱い痛みを感じたラゴンは背中を仰け反らせ、首絞めを思わず解いて、怒りの表情で後ろを振り向いた。
 その隙にシャインはラゴンから脱出すると、その場に膝をつきながら締めあげられていた首を押さえていた。
「ごほっ……ごほっ……」
(た、助かった……)
 シャインはせき込みながら囮役になった特捜隊の皆の方を心配し振り向く。
「真……!?」
 シャインが振り向いた先、そこではラゴンは叫び声を上げながら真の方へと向かっていくのが見えた。
(このままじゃ真が危ない……でも、これを持ったままじゃ……)
 シャインは首絞めの最中でも片手でぐっと握りしめて守り続けていた反応弾を見やった。そして、そこから胸元へとふと目線が移った時。とあるアイディアを思い浮かんだ。
(よしっ!これなら……!)
 シャインは反応弾を持ったまま両腕を使える「ある方法」を思いつくとすぐさま実行へと移すことにした。

「くそっ!行き止まりか!」
 ラゴンから逃げ回っていた真が辿り着いた先は街の外れの断崖に繋がっている道であった。
「こうなったら……!」
 ラゴンと対峙する覚悟を決め、再びブラスターガンのカートリッジを最大にセットし、銃口をラゴンへと向けたその時だった。

「とぉっ!」
 ラゴンの背後からシャインが飛びよると、先程とは正反対に両手をラゴンの腰から腹に腕を回し、がっちりと拘束し身動きを封じた。
「シャイン!……って爆弾は……?」
 シャインの手にあるはずの爆弾がない事に気付いた真はシャインの体を見回す。
 するとそれは意外なところに収まっていた。それは……
「あっ……!」
 銀色の光沢を帯びた反応弾のありかを見つけた真が思わず指差した先。それはシャインの豊満な胸の谷間であった。
 そう、あの時シャインはスーツに包まれている胸の谷間をグイッと手で大きく開くと、そこに反応弾をムニュッと包み、そして大胆にも挟み込んだのであった。
「そ、そんなところに……///」
 あまりの大胆すぎるアイディアに真のみならず男性陣なら見ているこっちが思わず赤面したくなりそうな位置に突っ込まれた反応弾だったが、シャインのパンパンに張りつめた巨乳とそれをしっかりとガードし包みこんでいる赤いビキニスーツとプロテクターが押さえている為か、意外なほどしっかりと固定され、シャインを振り解こうと暴れるラゴンの激しい動きの中であってもしっかりと耐えていた。
(まぁ、少し恥ずかしいけど……///、これで少しは楽に戦えるわね……)
 思わず胸を指差し驚いている様子の真の姿を見つけ、シャインは少し頬を赤らめながらもそう心の中で呟きながら、仕切り直しとばかりに先程までとはうって変わって積極的に技を仕掛けようと試みた。
「とぉっ!」
 そのままシャインはラゴンの腰をがっちりと掴んだままバックドロップで投げ飛ばし、ラゴンの頭から上半身を地面に激しく叩きつけた。
「おぉっ!」
 シャインの見せた大胆な大技に思わず歓声が湧きあがった。
 そして、そのまま地面に大の字に倒れているラゴン上半身に跨りマウントを奪うとチョップやパンチを勢いよく叩き込んでいった。
 だが、ラゴンも上に跨るシャインを払いのけようと体を大きくをうごかし、そして手をシャインの上半身目がけて伸ばした。するとそれは。

ムニュッ……!
「あっ……!///」
 思わずラゴンが伸ばした手の先にあったのはシャインの豊満なバストとその谷間にすえられた反応弾であった。
 そしてラゴンはシャインからそのまま反応弾を奪い返そうと両腕を突き出すとそれは跨っていたシャインの両胸を鷲掴みにしはじめた。
「い、いやっ……///!」
 思わずバストを掴まれ、そして反応弾を落としそうになったシャインは羞恥心と奪い返されてなるものかという思いから、シャインはキツいパンチの一撃をラゴンに向けて叩き込んだ。
 するとラゴンの意識が飛んだのか、抵抗を止め、崩れ落ちるように倒れこむとその場にぐったりと横たわった。

「はぁ……、はぁ……」
 すんでのところで反応弾を奪い返されるのを阻止したシャインはその様子を見て、大きく肩を上下させ、息を荒げ膝に手をつきながらもゆっくりと立ちあがった。

ピコンピコンピコン……

 赤く点滅を始めたカラータイマー。
 そして反応弾のタイムリミットは既にあと少しに迫っていた。

00:01:43

「(あと一分半……!? 時間がない……そろそろ決着をつけないと)」
「あと少しで……」
「シャイン……、頼む……」

 そして、ようやく起き上がってきたラゴンをぐっと見据える。
 すると先に仕掛けたのはラゴンであった。ラゴンはシャインに向けて白熱光線を放つ。
 だが、シャインはそれに怯むことなく腕をL字に組んだ。
「スペリオル光線!」
 そして、シャインから放たれた桜色の光の奔流がラゴンに命中した。
その勢いはそのままラゴンを吹っ飛ばして崖から海へと突き落としてしまうほどでラゴンの体はそのまま海底へと沈んでいった。

「よしっ!あとは爆弾だけだ!」
 それを見届けてシャインはすぐさま宇宙空間へと飛び上がると、地球がまるで掌で掴めそうな大きさに見えるような遠いところまで辿り着いた。
 そして谷間に手を伸ばし、反応弾を取り出すと爆発タイマーに目をやった。

00:00:05

「あと5秒……!?」
 急ぎシャインは反応弾を遠くまで放り投げた。
 そして残っているエネルギーの全力でスペリオル光線を放ち、爆破処理した。
「さて、早く戻らなきゃ」
 そうして、地球へ向けてくるっと体をターンさせると戻っていった。


5

「凄い光だ……!」
 その閃光は地球上からも見届けられるほどで、空が一瞬だが眩く光ったのであった。
「放射能の反応は無いみたいですね」
「それは助かったな……シャイン様々だ……」
「でも、あの威力じゃシャインは……」
 そう真が呟いた。

 すると。
「シャインなら不死身ですよ」
 ひょっこりと背後から現れたのは紗希だった。
「わっ!? ……って紗希?」
「紗希ちゃん、無事だったのね〜」
 そう言って亜希に抱きつかれた紗希は少し困惑した表情を浮かべていた。
「えぇ……、道に迷ってしまいまして……」
「心配したんだぞ、紗希」
「そうよ、紗希ちゃんったらいつもいつも……」
「えへへ、すみません」
 そう言いながら、頬をすりすりと寄せてくる亜希をやれやれといった表情で紗希は払いのけた。
「それにしても真はまたシャインに助けられたわね」
「は、はい……すみません」
「別に良いのよ。真」
「えっ?」
「あっ……、何でもないわ」
「そうよ、紗希ちゃんは紗希ちゃんで突然いなくなるし……」
「す、すいません……」
(そう言えば紗希は急に飛び出して行ったけど、あの時どこに行ってたんだろ……?)
「どうしたの真?」
 そんな真の自分を怪しむような目線に気付いたようにそう紗希がそう声をかけてきた。
「い、いや!なんでもない!」
 紗希のそんな様子に思わず気押されたのか、そう言って真はこれ以上深く考えるをやめることにした。

END

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