ウルトラレディ・シャイン 5話

『ミロガンダの秘密』

プロローグ


深夜の高速道路を走る一台の車。
見かけこそ普通の自動車であるが、銀の車体に赤いラインに流星マークが誇らしげについた車体。科特隊のパトロールカーであった。
「紗希、どうだ調子は?」 
運転席に座る紗希に、助手席に座る真はそう声をかけた。

「えぇ、順調よ。基本的には自動操縦機能にお任せだし、それに真のアドバイス上手いんだもん」
そう言ってハンドルを握る紗希。
いつもなら、二人で行動するときには真の方が運転するのだが、今晩は紗希の隊員としての路上教習を兼ねて紗希の方が運転手を務めていた。

「そ、そっか? いや俺も運転ライセンスは取ったばかりだし……」
「あ、真また後ろ髪かいた」
「えっ……?」
「だって、真って照れるとそこかくんだもん……照れてるのバレバレよ」
「うぅ……!」

少し戸惑いながら、真は窓の景色の方に視線を移し、通り過ぎる街の明かりやネオンを眺めようとした。
(……にしても、これって完全にドライブデートだよな……まったく何が深夜パトロールだよ、亜希さんったら……)

〈デート中悪いわね〉

「えっ……!聞こえてた!?」
突然、無線機から亜希の声が飛んできた。
「どうしましたか、星野副隊長」

〈警視庁から捜査協力があったわ、東京近郊……いまそっちにデータを送った地点。そこで異臭騒ぎだそうよ〉

「異臭……ですか?」

〈えぇ、住民の何人かが目やのどに痛みを覚えているそうよ。 それよりも……〉

「なんですか?」

〈現場近くで2名の変死体が発見されたわ。これが異臭とどう関係あるかはまだ不明だけど現場の状況に不審点があるということで協力を頼みたいそうよ〉

「了解!すぐ向かいます。行くぞ!紗希」
「えぇ!」

 そういって二人は事件現場へと急行した。

1

「科特隊の鈴村です!」
「柚本です!」
「おぉ、来てくれたか……ボウズ久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
「知り合いなの?真」
「あぁ、俺が最初にかかわった事件の時の担当の刑事さんだ。名前は……」
「宇田川っていうんだ、やれやれ……アレ以来この年で上からは怪獣・怪事件担当扱いされるし参ったもんだよ」
「そちらのお嬢さんは彼女さんかい?もしかしてデート中だったのかい」

 そう老刑事に聞かれると真はポッと顔を赤くして。
「ち、違います……!先輩として指導をしているだけです……」
「ははは、じゃあとりあえず現場なんだが」

 そういって2人は宇田川と名乗った老刑事に案内されて、現場へと入る。
「うっ……!」
 現場へと近づいたとたん、強烈なにおいが二人の鼻を直撃した。
「だいぶは薄れたようだが、鑑識が言うには麻酔作用のある物質だからあまり長くは嗅がんほうがいいそうだ」
「これはどこから?」
「それだ」
 そういって、宇田川は道路のあちこちに付着した緑色の液だまりを指さした。
「なんだかこの液だまり、這いずり回ったようね」
「あぁ」
「そして、あそこが事件現場だ」

 白いチョークの引かれたところを宇田川は指さした。すぐ近くに事故を起こして止まっている車があることからどうやら事故を起こした直後に車から出たところで襲われたようだった。

「ところで被害者は……」
「遺留物は車や周囲から見つかったが、まだ見つかっていない。どこかに引きずられていったようだが……」
 そういって、先ほどの緑色の液だまりを再び見やった。
「なるほど、あの緑の液だまりの正体を探ることが犯人につながるって事か」
「それにしても何だがキラキラしてるわね。何でかしら」
「お前たちもそれに気づいたか」

 2人の前に影丸と梶が姿を見せた。
「隊長!」
「俺と梶はこのすぐ近くの二件目の家に行ってきた所だ。そっちもまぁこっちと同じだな。被害者はまだ発見されていないし、ここと同じようにそれがあちこちに付着していた」
「この物質については我々と警察の科学研究所の方で合同で調査することにしました。これさえわかれば、事件の全容が解明できるでしょう」


「2件目の事件の被害者は酒井教授、大学では鉱物やケイ素などの研究を行っていたようです。そして、3件目の事件の被害者は車の所有者であり車内から残されていた遺留品から、おそらくジャーナリストの小林氏だと思われます」「ふむ……、しかし2件目3件目というのは……?」
「それについては俺から」
そう言って、涼花に代わって影丸が話を続けた。
「警察庁との合同捜査の中で、伊豆半島の事件と今回のこの2件の状況がまったく同じであると判断した。被害者との関係からしても何か関係があるかもしれん。亜希と山木、梶は伊豆の現場に向かってくれ」
「真と紗希はこの人のところへ行ってくれ」
「了解」
「うわぁ……なんだこいつらは、大きいなぁ……」
 「それ」を球体温室で見た時、山木は思わずそう感想を漏らした。温室内に植栽されている植物。それらは普段手にする野菜や果物であったが、大きく異なっていたのはそのサイズであった。通常の何倍ものサイズに拡大された植物の繁茂する空間はまるで地球とは違う惑星へと迷い込んだかのようであった。

「山田教授は食糧問題の解決に取り組んでおられまして、今回の島への調査へと同行したのも新種の食用となりうる植物などを調べるためでしたから……」
そう話す研究員に連れられて亜希、山木、梶の3人は球体温室の中央部へと脚を進めていった。

「……ここが山田教授が倒れていたところね」
 黄色い警戒線が張られた結界の向こうに生々しい人型のラインが見えている。
そしてその周囲に番号の付いた札が置かれているのがいかにも事件現場といった風の空間に入っていく。

「ここか……」
 一週間前、この温室の主である山田教授が変死した現場。
すでに警察が捜査に入っている現場ではあるが、梶が何か新たな手掛かりが無いかと見渡と警戒線の向こうに何かを見つけた。

「あのスペース、何か掘り返されたか何かをしたようですが……?」
 そうガイド役の研究員に尋ねる。すると。
「確か教授がオイリス島から持ち帰ったといっていた植物をあそこに植え替えていたような……でも、誰かにあげたとは聞いていませんでしたね」
「植物……!?それは?」
「えぇ、確かミロガンダといっていたような……」
3人は、その言葉でついに事件の糸口を探り当てたように感じた。
「浜口さん、島で起こったことについて何か心当たりがありませんか?」

同じころ、真と紗希はこれまでに殺された3人と数か月前に帰国したオイリス島調査団でカメラマンとして同行していた浜口節子のもとを訪れていた。
「心当たりといいましても……そもそも我々が命を狙われる理由なんて……」
「でも……浜口さん以外の調査団の方が襲われているんですよ、何か関係があるとしか……!」
「ちょっと真、落ち着いて」
そう言って、紗希は話を少し変えた。
「どんな些細なことでも構いません、調査団でなにがあったか教えていただけませんか?」
「わかりました……、それではお話いたします」

そうして、浜口は調査団として島に渡ってからの話を始めた。
「そういえば、危険な目といいますと……」
「な、何かあったんですか!?」
「えぇ……、あれは島の中央部ぐらいで調査を行っていた時でしたが……」
節子の体験した危険な話とはこうであった。島を調査している途中で、湧き水が湧いている池がありそこで休憩をした後すぐ近くになあった沼地のあたりを進んでいた時のことであった。

「突然巻き付いてきたんです……」

浜口は突然植物のつたに絡みつかれたという事だった。
「ただ、その時は周りの方がすぐに取り払ってくれて、それにその近くに奇麗な花があったのを覚えています。山田教授が日本に持って帰って詳しく調べようなんて言ってました……」
「その花というのは……つまり、山田教授が日本に」
「えぇ、そうだと思います」
「なるほど、植物か……ここでも植物が出てくるか」

 その時、二人の通信端末に影丸から連絡が入った。
「ちょっと、俺は廊下に出てくる。話の続きは頼んだぞ、紗希」
「鈴村、そちらの様子はどうだ?」
「隊長、えぇこちらも浜口さんから話を伺っていたところです」
「そうか、先ほど宮本博士から現場で採取した物質について解析結果が出てきた」

 それはあの現場で見つかった緑色の妙にきらきらとした物質。
それを解析した結果、緑色の物質は葉緑素クロロフィルムを含む物質であると事、一方できらきらとした物質はカタツムリの足跡などにみられるムチン、そして放射性物質の反応があったとの話だった。

「植物に動物に放射線……、この三つが一体どう関係しているのか……」
「ちょっといいかしら」
 伊豆の方に調査に出動していた亜希の口が開いた。
「それについてだけど、3人でこっちで調べたのだけど……、数日前に変死した山田博士は日本に帰国してから島で持ち帰ったミロガンダという植物を研究していたそうよ、そしてそのミロガンダに含まれる物質の中に急速に植物を巨大に成長させる物質があることに目をつけたようなの」
 そういって、真たちの端末に亜希たちが現場で撮影した画像が添付されてきた。
「御覧の通り、すごい大きさです。いやはや我々も入った時は驚きました。そしてこれがミロガンダだそうです。もっとも実物は現場にはなかったのですが……」

 そういって梶はミロガンダの赤い花の画像を送った。

「こ、これです!」
 その画像を紗希は浜口に見せると、あの島で見つけた赤い植物こそミロガンダだと口にした。
「そうですか……それだと少し厄介かもしれませんね」
「どういうことだ、梶?」
 梶は研究所の資料からミロガンダの一面として、その急成長能力を得る中で他の昆虫などを捕食する習性があるのだと口にした。そして、虫だけではなく小動物すら場合によっては襲い掛かる場合もあるとも。
「もっとも、小動物くらいとなると逃げられることも多いようですが。ただ……」
 そして、山田教授は研究の中でガンマ線をミロガンダに与えた結果、ミロガンダが急速に成長し始めたことが研究記録から明らかになったと一同に告げた。

「な、なんだって……」
「梶君、よく見つけてくれた」
 その話を聞いて宮本教授はこれですべてのピースが埋まったかもしれないと言った。それはこの事件の犯人ともいえるのはその巨大化したミロガンダではないかとの事であった。
「獲物を見つける際につたを動かす能力が進化し、自分から餌を求めて這いずり回り始めた。そしてわずかな手掛かりとしてオイリス島に同行した調査団のメンバーを手当たり次第に襲いだした。そうは考えられないかね」
「なるほど、それはつまり……」
「あぁ、真それに紗希。浜口さんが危ないかもしれないということになるな。それに先ほど警視庁から連絡があって、先ほど分かったそうだが山田教授の助手が数日前から行方不明になっているそうだ」
「つまり……」

「残りは彼女ただ一人になったということだ」

2


「節子さん、貴女の身の安全は私たち特捜隊の総力をもってお守りします」
 オイリス島調査団のもう一人の生き残りも死亡した事を受けて、科特隊は最後の一人である節子の身を守るべく作戦を展開する事になった。

 井の頭公園や善福寺川の近所にある節子の自宅の周囲には警察と共同で警戒線が張られ、家の室内にも涼花と真、そして紗希の3人が控え、万全の態勢で臨んでいた。

「それにしても広い家ですねぇ……」
「えぇ、しばらく両親にはこの家から離れるようにと伝えてますが……、早く平穏な日々に戻りたいです……」
 ちょうどそんな話をしていた時であった。

「こちら山木、例のミロガンダ変異体と思しき存在を発見!」
「とうとう来たか!」
「鈴村、屋内にいるお前たちは節子さんを頼むぞ」

「さぁ、節子さんはこっちに」
 涼花と紗希は家の奥の方へと節子の身を隠すべく連れて行こうとする。
「真はどうするの?」
「俺は一階で様子を見てくる」
そう言ってブラスターガンを手に取ると階段を降りて行った。

ちょうどその頃、山木とミロガンダ変異体とのあいだで取っ組み合いとなっていた。

「この……、ちくしょうめ!」
 山木は変異体の吐き出す、緑色の毒霧を食らいながらも、自慢の怪力でミロガンダと組みあい、投げ飛ばすなどしていた。
だが、それもだんだんと毒の影響で体に痺れが回りだすと、辛くなりつつあった。
ちょうどその時であった。
「山木隊員!援護します!」
その声と共に利用者の間に真は割り込むと
「変異体め!これでも食らえ!」
そう言って、ブラスターガンのカートリッジをビーム弾にセットすると攻撃し始める。
そして、それを聞きつけた隼人や亜希、梶も加わった。

「山木、大丈夫か?」
「えぇ、まだやれます」
そうして、山木もこの攻撃の輪の中に入ると、いよいよ変異体を追い込んでいった。

そこは川のほとりであった。
「よし、これで終わりだ。ミロガンダの化け物め」
山木がカートリッジをレーザーに取り替えたのを見て、周りもビーム弾よりも強力なレーザーへと取り替え総攻撃を始めた。
すると、変異体もすっかりと焼けただれた体を震わせ、レーザーが当たった傷口から膿のようにドロッとした緑の液体を吹き出しながら、とうとう道路から濁った川の中へと転落し、その姿を消していった。
それを見届けた瞬間、一同は思わずやったという声が出た。

「紗希、それに涼花聞いてるか?」
「真?」
「ちょうど今、変異体は俺たちで退治したぞ」
「よかった……これで節子さんは」
「あぁ、これでひと段落だな」
そうして、7人はひとまず基地へと引き上げる事にした。

「これで、ひとまず一件落着といったところだな」
そう司令室に入ってくるなり行ったのは山木であった、
「えぇ、後は追跡部隊が始末するようですし」
「それにしても、山木隊員毒霧の影響はどうだったんですか?」
「あぁ、その事だった。さっきメディカルセンターで診てもらったが、多量に吸い込んでいなかったから少し休んでいれば自然に回復するだろうと言われてきた」
「そうでしたか、よかった」
「しかし、まだ追跡隊からはあの化物の死体が回収されていないというのが気になりますね……」
 あれから、川に落ちた変異体を回収する為特捜隊と警察の特殊部隊の合同で追跡の為の部隊が編成され、行方を追っていた。当初はすぐ近くの底に沈んでいるとみられ、発見されず捜索範囲が大幅に拡大されていた。

「まぁ、発見も時間の問題だろうし、これでようやく……」

「そうとも言えないかもしれませんよ」
そう言って、宮本博士が司令室へと入って来た。
「どういう事です?」
「君達の日中の活躍に水を差すつもりは無いのですが……」
宮本博士は強力なガンマ線を照射される中で体内構造が変質し、強力なエネルギーを光合成のようにして吸収するように進化した可能性があると指摘した。
「元々、植物には光合成の性質があり、根さえあれば再生する種類さえもあります。あのオイリス島の過酷な環境で生き残ってきたミロガンダの事です、もしかすると……」
思わす、黙り込んでしまった部屋の中。
突然サイレンが鳴り響いた。

「追跡隊から緊急連絡! 廃下水道内でミロガンダ変異体を発見、直ちに交戦に入ったものの、変異体が地上に出現したとの事です!」
「博士の言った事が……」
「なんだって! 現場はどこだ!」
「変異体は竹橋付近から丸の内地区へ移動中、サイズも10倍以上になっているとの事です」
「よし、俺たちももう一度出るぞ」
「隊長、今度蹴りをつけましょう!」

3

 丸の内へ急行した影丸たちが目にした光景。
それは、口のように開いた穴を発光させながら、地上の車などを押しのけながら進撃を続けるミロガンダ変異体の姿であった。
「体長も10倍どころか、40メートルはあるじゃないか……」
思わず、驚愕し唖然とする一同。
「これはまさに緑の怪物、グリーンモンスとでもいいましょうか……」
「梶、そんな事言ってる場合か」
そう言って、山木は既に準備完了とばかりにBランチャーを抱えていた。
「山木隊員!でも昼間の……」
「このままにしてるわけにはいかんだろう。元々はあそこで逃走を許した俺たちの責任だ」
「準備は完了しました。皆さんも作戦の通りに」

グリーンモンス迎撃の為、科特隊が用意したのは前回を踏まえて高出力のレーザー兵器に替えて、高火力のナパーム弾とかっての巨大植物事件の際に効果のあった炭酸ガス弾の2つが用意された。

「準備完了です。いつでも指示を」
「よし、我々はビルの隙間からグリーンモンスを迎撃だ!」
 それを聞いて、前回取り逃がした雪辱を晴らそうと燃える山木はさっと駆け出す。
「じゃあ、俺も!」
そしてわ真もブラスターガンをナパームにセットして後に続いた。
「あ、ちょっと真……! あたしも二人の後を追います!」
「分かった。俺と亜希、梶は は山木達とは反対側から攻めるぞ」
そうして、二組に分かれ攻撃作戦が開始された。

「おぅ、柚本も来たか」
そう山木がようやく追いついた紗希に言うと、3人は物陰から様子を伺った。

「よし、頃合だ! 科特隊の名誉挽回だ!」
そう言って、山木がグリーンモンスへと攻撃を始めると、真そして紗希も攻撃し始めた。

「山木、鈴村、柚本攻撃開始しました」
「よし、俺たちも開始するぞ」
そう言って影丸達も攻撃を開始した。

高火力と炭酸ガスによる攻撃を受け、グリーンモンスは地の底から響くような悲鳴を上げ、苦しみ出した。
「効いているようですね」
「あぁ」
だが、グリーンモンスも周囲に毒霧を撒き散らし、抵抗してみせた。

「ごほっ……ごほっ……」
「くそ、これでは近寄れない……」
毒霧に備えてガスマスクを装備して臨んだ科特隊であったが、どんどんと濃くなっていった事で容易には近寄れなくなってしまった。
「ガスセンサーがここまで……」
胸元に目を落とすと、隊員服に備え付けられたガスセンサーが激しく点滅して、警報を鳴らしていた。
「あまりここに長居するのは……山木隊員!?」
山木の屈強な体が崩れ落ちそうになるのを真が制した。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ちくしょうこの前のが……」
その時、山木の足元に転がったブラスターランチャーを真が手に取ると、グリーンモンスへと駆け出した。
「おい、鈴村!」

「グリーンモンスめ!これでも食らえ!」
そう言って、ブラスターランチャーの最大パワーをグリーンモンスへと放った。
思わず、後ろへと仰け反るグリーンモンスの巨体。だが、その中で真も毒霧を大きく吸い込んでしまい、意識を失ってしまった。

「真!しっかりして……真!」
そう、紗希が呼びかけても反応の無い真を肩に背負う。
「鈴村!大丈夫か!」
「気を失っているようですが……、山木隊員真をお願いします」
「柚本、何をする気だ」
「ここで全員引くわけにはいきません。だから、あたしがここに残って足止めします。だから、山木隊員は真をお願いします」
「分かった……ここは任せたぞ」
そう言って山木は真を背負うと一時離脱していくのを見届けると、紗希は単身でグリーンモンスへと挑んだ。

「山木!それに鈴村……!」
「すいません隊長。お互い毒にやられてしまいまして、俺はまだ良かったのですが、鈴村が……」
そこまで言って、苦しげに咳き込み出した山木に涼花が呼吸器を手渡した。
すると、大きく新鮮な空気を吸い込んだ。
「ふぅ……、少し気が良くなった。梶、鈴村はどうだ?」
「えぇ、少し大きく毒を吸ってしまったようですがガスマスクのおかげで命には別状ありません。すこし、休めば大丈夫かと」
「それにしても、残っている柚本が心配だ」
「えぇ、そうね」
「私たちも柚本隊員のところへと向かいましょう」

その頃、一人現場に踏みとどまった紗希は単身グリーンモンスと戦い続けていた。
「ごほっ……ごほっ……、もうブラスターのエネルギーも限界ね」
紗希は胸元からSカプセルを取り出すとウルトラレディシャインへと変身した。


「この辺ね……紗希ちゃんは大丈夫かしら……」
その時だった。
「見てください!」
突然、あたりが明るくなったかと思うと、ビルの谷間にシャインが現れた。
「シャイン……! 一旦、ここはシャインに任せるわよ」
そう言って両者の戦いに巻き込まれぬように安全な場所へと移動したのを見て、シャインはグリーンモンスへと躍り出した。

「とぉっ……!」
そう言うと、上空高く舞い上がり。
「てやあああっ!」
そして、脚を突き出し急降下でグリーンモンスへと飛び込むと、グリーンモンスの巨体が蹴っ飛ばされた。

「グリーンモンス、ここからはあたしが相手よ」

蹴飛ばされたグリーンモンスはむくりと起き上がると、シャインの方へとじりじりと動き始めた。
 それを見て、シャインはあたりの建物を巻き込まないようにどうにかグリーンモンスを撃退すべくあたりを見渡した。
「あそこなら……」
 そうして、見つけたのはビルの谷間に作られた時計塔のある広場であった。
そこへとゆっくりと引き出していく。
 そして両者は時計塔の周りをまわるように、互いの出方をうかがいだした。

 そして、その均衡を破ったのは時計台の鐘であった。
その瞬間、グリーンモンスは時計台をなぎ倒し、その向こうのシャインへと掴みかかるようにして襲い掛かった。
「このっ……!」
 思わず体を突き出し、その突進を受けとめる。
そして力比べへと持ち込んだ両者。だが、突如グリーンモンスはシャインの端正な顔めがけて毒霧を浴びせかけた。

「くっ……」
 思わず霧を手で払い除け、グリーンモンスから後ずさりで逃れる。
だが、浴びた毒のせいで。
「ごほっ……ごほっ…… 目、目が……っ……!」
眼に毒が入り痛みだし、そして視界を奪われ、さらに呼吸すら苦しくなり悶えるシャイン。
ついにその場に屈するとうずくまるようにして悶絶してしまった。

「はぁ……はぁ……!」
 苦し気に目を押さえ首を押さえたまま、悶え転がるシャイン。
その無防備になった背後からグリーンモンスが忍び寄り、そして覆いかぶさり、背後からシャインの首に巻きつけて動き押さえ込んだ。
「くっ……、しまった……! くっ……あぁ……っ!」

「シャイン……!」
 そしてグリーンモンスに捕らえられ、抱きしめられるように背後から拘束されてしまった。

「フッー……フーッ……! ここから……離れないと……このっ……!」
 そんなシャインの抵抗空しく、グリーンモンスは全身で締め上げながら口をシャインへと寄せてこようとしてきた。
「まさか、シャインをグリーンモンスは取り込もうとするつもりなのでは?」
「なんですって……!?」
「シャインの持つ高エネルギー、そうスペリオル光線の。それに気づいたのかもしれません」
「そうなると、シャインは

「く、苦しぃ…… 放して……っ……」
必死に拘束を振りほどき、逃れようとするシャイン。
だが、グリーンモンスの毒のせいで満足に力を発揮できないこの状況ではじたばたとあがくことしかできなかった。

「このままでは……シャインが!」
「シャインのスペリオルエネルギーなんて取り込んでしまえば地球上であいつを止める手立ては無くなってしまうぞ」
「隊長!」
呼吸器を外し、そう叫んだのは山木であった。
「援護しましょう!」
「山木隊員、でもこの毒の霧では」
「それでもわずかな時間ならいけますよ。その間に……!」
「攻撃を集中させるわけですね」
「よし、皆酸素ボンベは万全か確認するぞ。確認しだい突撃だ」
「はい!」
 そうして、影丸たちは再び毒霧の充満するビル街へと突入していった。

「く……っ…… うぅ……」
苦し気に顔をゆがませるシャイン。
必死に持ちこたえてはいたが、今にもグリーンモンスに飲み込まれそうな中で辛うじて意識を保っているような状況であった。
カラータイマーも点滅した絶体絶命のピンチ。その時だった。

「よし、総攻撃だ!」
「はい!」
突如、あたりが明るくなったかと思うと光と衝撃、そしてグリーンモンスの悲鳴とともにシャインの身体は地面へと放り出された。
「なに……!?」
 思わず、四つん這いになりながら後ろを振り返るシャイン。
そこにあったのは、ナパーム弾と炭酸ガス弾に追い立てられもがき苦しむように暴れるグリーンモンスの姿があった。

「シャインを解放しました!」
「よし俺たちも下がるぞ」

 その間にシャインはもつれる脚でよたよたと這いずりながらグリーンモンスから逃げ出した。

4



「はぁ……っ……、はぁ……っ!」

 いまだ自由の利かない手足でほうほうの体でグリーンモンスから逃れたシャイン。
ようやく毒霧の薄い場所までたどり着くとようやくその体を重たげに起き上がらせた。

「はぁ……、はぁ……」
 苦しげな呼吸をするたびにその質感のあるバストが揺れる。
ようやく力を振り絞り立ち上がったシャインだったが、毒によって侵された体は未だに鉛のように鈍く重たく。そして眼も微かにあたりが見えるだけという万全とは程遠い状態。

(目が……いまだ痛むわね……)
「あの体でまだ戦う気か……?」
「しかし、スペリオル光線すら取り込みかねないグリーンモンス相手にシャインはどう戦う気でしょうか……」

 心配そうにそれを見つめる特捜隊の面々。
その目の前で、足がよろめき再び地に屈してしまう。
そしてシャインは後ろを振り向ように転がると、両腕をL字に組んだ。

それをまるで撃ってこいとばかりに蠢くグリーンモンスを見据えるシャイン。
残された時間はもうほとんど残されていない。

(こうなったら……、残った力の全力全開で完全に焼き尽くさないと……)
「スペリオル光線!」
 そして、放たれた光線が一直線にグリーンモンスを貫き、そして瞬時に炎の柱へと変えてしまった。

「おぉっ!」
 思わず歓声を上げる特捜隊。だが、一方のシャインはその燃え盛る炎を眺め、完全にグリーンモンスが焼き払われたかを確かめていた。
「根がまだ生きているわね……。よしっ!」
そう言って火柱の根元で苦しげに動いていたグリーンモンスの根部に再度スペリオル光線を放つ。
するとようやく根部が爆発して焼き払われた。

それを見てようやく安堵したのか夜空へと飛び去って行った。

「うぅ……ここは……」
ようやく、目が覚めた時。
真は対策本部の一角に設けられた救護所にいた。
「真君!」
「鈴村!」
「あれ……おれは……そうだ、紗希は!?」
 そういって、起き上がろうとしたのを涼花が制した。
「真君は毒霧で失神していたんですよ……でも、良かった」
「柚本なら……俺にお前のことを頼んだ後、現場にとどまったんだが……ちょうどシャインが……」
「俺、探してきます!」
「おいおい、無茶するな!」
 すべてが灰になり、燃え尽きたグリーンモンスを取り囲み現場検証や撤去作業のために集まった人々の合間を抜け、まだ規制されているビル街を駆け回る真。

「確かこの辺で……」
そして、ビルの路地に倒れている紗希を見つけた。
「おい! 紗希!」

 そう真が呼び掛けてもぐったりしたまま反応のない紗希はすぐさまメディカルセンターへと搬送されることになった。

プロローグ


「こ、ここは……」

 シャインとしてグリーンモンスを撃退した後、どうしたのか自分でも覚えてはいなかった。
次に紗希として気が付くとそこには白い天井と……

「紗希! 気が付いたか!」
「うぅ……!ここは……って真? そうか無事だったんだ。良かった……」
「良かったじゃないよ!あれからお前は一日近くベットの上だったんだぞ……」

「真ったら、ずっと紗希ちゃんにつきっきりだったのよ」
そう言って亜希、影丸たちが部屋へと入ってきた。
「ちょっと……!」
 思わず少し赤面した真をニヤニヤと亜希が見ている。
「柚本、それに鈴村もだ。 2人とも自分の身も考えろ。自分の身も守れず、無理して猪突猛進しているようではまだまだ1人前の特捜隊員ではないぞ。これは今回の教訓だ」
「すみません、隊長……」
「とりあえず柚本はしばらくここで休んでいけ。鈴村、お前も昨日から休んでいないだろ、ここでお前も休んでから俺たちのところに来い。以上」
そう言って隊長・副隊長は部屋から出ていった。

「元はといえば、俺が倒れたために……悪いな」
「うぅん、あたしだって真に余計な心配かけちゃったし……」
そう言ってお互いを見つめ合っている2人。
だが、ドアからなにか物音が聞こえ、すぐに離れてしまった。

「おい、亜希何してんだ。 ほら、行くぞ……まったく、うちの副隊長様ときたら……」
そう言って影丸はドアで聞き耳を立てている亜希を引っ張っていったのであった。

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