「弥生さん、お疲れ様」
梅子がお盆の上に熱いお茶と饅頭を乗せて、診療所へ顔を出した。
すっかり日暮れが早くなり、暗くなった通りは人影もまばらで、静かな診療所内には達磨ストーブの火を燃やす音だけが聞こえていた。
「いつも、ごめんなさいね。弥生さんも忙しい時期なのに」
「気にしないで。忙しいと言っても、式は来年だし。結婚後も、今まで通りに仕事を続けるつもりだしね」
弥生は勧められた饅頭を頬張りながら、幸せそうに顔をほころばせた。
結婚式の準備や、旅行の計画、今晩も一緒に食事へ行く話など、晴れやかに山倉との話しをする弥生の顔を見て、梅子は目を細める。
「人を愛するって、相手を思いやるってことよね」
「どうしたの、梅子。何だか様子が変ね」
医者らしく梅子の様子を観察した後、弥生は梅子の耳元まで顔を近づけ「信郎さんと、また何かあったの?」と問いかける。
患者の椅子に座って話を聞いていた梅子は、「そんな事ないわ」と笑顔を見せたもののやはり元気がなく、「心配かけてごめんなさい」
などと言って、更に弥生を心配がらせた。
「ほら。ノブね、例の雑誌に取り上げられてから注文が増えたって言って、とても忙しそうなの。だから、ケンカをする暇もないのよ」
「なら、いいんだけど」無理に明るく振舞おうとする梅子に対し、弥生は複雑な笑顔を返すと、饅頭を置いてお茶をゴクリと飲み込んだ。
「そういえばノブも、今日は給料日後の金曜日だからって、久し振りに工場の人たちと飲みに行くんですって」
梅子が両手をパンと鳴らして空気を引き締めると、山倉さんを待たせても悪いから、今日はもうお終いにしましょうと提案した。
「千恵ちゃんも、上がっていいわ。今日はもう患者さんも来ないだろうし、後は私に任せて」
弥生はチラッと掛け時計を見る。時刻はそろそろ5時45分になろうとしていた。確かに、今日はもう誰も来ないだろう。
「じゃあ、梅子。悪いわね」
弥生がコートを着込んで外へ出ると、木枯らしが吹きつけてきて、思わずコートの襟を立てる。
足早に駅へ向かう途中、安岡製作所の角を曲がる際に何気なく診療所の方へ視線を向けると、中へ入っていく一人の男性の姿があった。
「あれは確か……」弥生は一瞬怪訝そうに顔をしかめたが、強い北風に背中を押されるようにして、自分を待つ山倉の元へと急いだ。

弥生と千恵子を見送った後、火を消そうとストーブの前へしゃがんだ梅子は、ダイヤルへ伸ばした手をふと止めた。
たまに会う弥生だからこそ気づくのか、たまに会う弥生にまで気づかれるのか。――いつも傍にいる人には、自分の様子がどう映っているのか。
そんな思いが頭をよぎり、達磨ストーブの中で揺れる炎をボンヤリ眺めて、ハアッと苦しそうにため息をついた。
本意では無いとは言え、犯してしまった過ち。あの時の彼は魔がさしただけだと思い籠め、蓋をするように閉じ込めた記憶。
けれど、早く忘れなくてはと思う一方で、白衣についたインクの染みのように、その跡はなかなか消えないでいた。
信郎の姿が、網膜の奥へ現れる。胃の底で不安がモゾモゾと蠢き、梅子は寒気を覚えて体をきつく抱きしめた。
「いけない。しっかりしなくちゃ」梅子が両手で頬をパンパンと叩くと、突然ガラッと音がして診療所の戸が開かれた。
「こんばんは。どうしましたか?」
出来る限りの明るい笑顔を作って立ち上がった梅子の顔が、冷たい風とともに入ってきた人物を見た瞬間に凍り付く。
「……広志くん!」
そこにあったのは、自分に消えない跡をつけた張本人である広志の姿だった。
「ごめんね、広志くん。今日は、もうお終いにしようと思って……」
努めて落ち着いた口調で話そうとする梅子の声が、緊張で上ずってしまう。
「今日は、信郎さんもいないですしね」そう言うと広志は、戸の鍵を内側からかけてしまった。
唖然としている梅子へ、みかみのご主人と世間話をしただけですと言って、広志は重たそうな鞄を持ったまま上がり込んでくる。
「……どうして、来たの……」自分を通り越して診察室へ入っていく広志を目で追いながら、固い声で梅子が尋ねた。
「どうして?」
広志は梅子の目を見つめたまま鼻先で笑い、机の横へ鞄を置くと、梅子の椅子へドカリと腰を下ろした。
「僕たちがやっている事は、治験です。治験の後でどのような作用があったのか、確認するまでが仕事ですから」
広志は胸のポケットから黒い手帳を取り出して中を開き、ボールペンを持って聞き取りを始めた。
「どうですか?体調は。変わったところはありませんか?」
梅子の椅子で足を組んだ広志は、医者然として梅子に尋ね、顔をこわばらせた梅子が別に無いわと答える。
そのまま幾つかの質問をした後で、さてと、と広志は言った。
「今日の分を始めましょうか」
手帳を再びポケットへ戻した広志が薄らと笑い、梅子の瞳が暗くかげる。
しかし、梅子はうつむき加減だった視線をまっすぐにして白衣のポケットの辺りをきつく握りしめると、絞り出すようにして声を出した。
「あ……っ、あのね、広志くん。私……」
「梅子さんは、医師なんですから。1度や2度で治験のデータが取れない事くらい知っているでしょう」
聞く耳など持たないと言いたげな広志は、話しをする梅子の方へ視線を向けることなく、屈んで自分の鞄から薬方を取り出した。
「でも……、こんな事をするとは……」
「治験に協力するといったのは、嘘だったんですか? 梅子さんは僕に、嘘をついたんですか」
診察室の入り口から動けないでいる梅子は、強い渇きを覚えて喉を上下に動かすが、潤う事なくかえって喉が張り付いた。
乾いた梅子の口から発する言葉は掠れ掠れで、広志の強い視線と口調によっていとも簡単に遮られてしまう。
「そんなつもりじゃないの。でもね、広志くん……」
「梅子さん。医療の発展は、多くの臨床試験の積み重ねなんです。誰かの犠牲の上に成り立っているんです。
 梅子さんは人を犠牲にして、知らない誰かを踏みつけにして、上澄みの綺麗な部分だけが自分の物のような顔をするつもりですか」
「そんな事ない!」
梅子は思わず大きな声を出して広志の発言を否定すると、詰め寄るように2,3歩歩み寄る。
広志も黙って立ち上がり、やはり2,3歩歩み寄って梅子と顔を突き合わせた。
二人が黙って睨み合う間で、時計が6時を告げる鐘を鳴らす。
「早くしないと、ご家族が心配して覗きに来るんじゃないですか」
広志はベルトのバックルを手早く外し、ベルト自体をベルト通しから引き抜いた。黒い革のベルトが、広志の左手からブラリと垂れ下がる。
「さっさと始めましょう」
「広志くん。私、やっぱり……」
広志の右手が、後ずさりをした梅子の細い手首を捉える。梅子は慌ててその手を引き戻そうとした。
けれど、その勢いを利用されて体が半分回転し、広志へ背中を向ける格好になると、体側に両手を添わせた状態で括られてしまった。
革のベルトが前腕に食い込み、上半身の動きを封じられてしまう。
広志の手が梅子のボタンへかかり、抵抗できないまま胸を大きくはだけられ、ブラジャーから引っ張り出された乳房が露出した。
「大声を出したりしたら……。分かりますよね?」抑揚のない声で、広志が背後から呟く。
梅子はハッとして家の勝手口へ通じるドアへ目を移した。
表の戸は先ほど広志が鍵をかけてしまったが、こちらの鍵は開いたままだ。いつ祖母の正枝や子供たちが入ってきてもおかしくない。
「こんな姿を、見られたくはないでしょう?」
梅子の上半身は強引に診察台へ押し付けられ、広志へ向けさせられた臀部もスカートを捲りあげられてすっかり丸見えになっていた。
「……広志くんだって、人に見られたら困るんじゃないの……?」
「僕は構いませんよ。梅子さんと一緒なら、どんなに堕ちたとしても」
荒くなる息を押し殺して気丈に振舞おうとする梅子を一言で突き放すと、広志は口を使って薬方を開き、中から薬剤を取り出す。
そして梅子の下着を膝まで一気に下ろし、キラキラと濡れ光る秘部目がけて薬剤を押し込んだ。
広志が梅子の膣から勢いよく指を抜き、その手で梅子の白くて丸い尻をビシッと叩くと、梅子が「あっ」と辛そうに息を漏らす。
「こんな状況になったのは、梅子さんのせいですよ。あれから梅子さんが、ちっとも僕のアパートへ来てくれないから」
そう言ってまた梅子の尻を叩き、梅子の尻には広志の手の跡が赤く浮かんだ。広志は「お仕置き」と称し、梅子の尻を叩き続ける。
梅子が激しく抵抗しないと見るや、尻を叩く手は休めずに、梅子を押さえつけていた手を秘部に突っ込んで中の濡れ具合を雑に確認した。
そろそろいいかなと言って、広志は赤く腫れた梅子の尻を掴むと、蕩けた梅子の入り口へ亀頭を押し付けて先端だけを差し込む。
早く済ませたかったら自分で動くようにと言われた梅子は、暗涙に咽びながらも、体の中へ広志の陰茎を沈めていった。
「ううっ……、く…っん。あ……んん……ふっ!」嗚咽と愛嬌の混じったような吐息を漏らして、梅子は必死に腰を使う。
尻を叩かれ、締まる膣が広志を咥えて離さない。信郎が激務に追われているせいで寂しい思いをしている体が、勝手に快楽を求めてしまう。
「ほら、しっかり腰を振らないと終わりませんよ。梅子さんだって、邪魔が入らないうちにイッてしまいたいでしょう?」
梅子の両肩を掴んで上体を起こさせ、放り出されたままの乳房を鷲掴みにすると、広志は先端で震える乳首を引っ張って力いっぱい捻りあげた。
「嫌っ!駄目よ。もうやめて……」これ以上責められると、気を遣ってしまいそう。いけないと思っても、快楽の波がそこまで押し寄せていた。
梅子はのけ反って反応し、激しく腰を上下させて「あっ」と一言甲高い声を上げる。尻の動きが止まり、精を搾り取るための痙攣が始まった。
広志は舌打ちをして梅子を縛るベルトを掴み、早駆馬のようにして梅子の腰を強引に動かすと、ヒクつく膣中に欲望の汁を撒き散らす。
全ての精子を吐き出しきった後で、広志がふやけた陰茎を抜き取る。梅子の膣口はだらしなく開いたまま、中から広志の精液がダラリと零れた。
「全く。お行儀が悪いな」広志は意地悪く言い、垂れてきた自分の精子を手のひらで掬って三本の指を使い梅子の中へ押し戻して笑った。
再び流れ出す前に、膝の辺りへ残されていた梅子の下着を引っ張り上げ、ちゃんと飲み込んでくださいよと言い放つ。
そして、ろくに後始末もしないままズボンを履くと、梅子を縛り付けていたベルトを外し、自分のズボンへ通した。
一言だけとってつけたような礼を言って広志が去っていき、一人残された梅子は両手と膝を床について、ガクリと項垂れた。
「どうして、こんな事に……」梅子の膣の中から解けた薬と広志の精液がダラダラ流れ出て、粗相をしてしまったように下着を濡らしていた。

「いやー、やはりここのカレーは旨い!」
新橋の駅で待ち合わせをした山倉と弥生は、最近山倉が気に入っている、東銀座にあって異国情緒溢れる内装のインド料理店へ来ていた。
「特に、今日みたいに寒い日はカレーを食べると体が温まるね。この香辛料がいいのかな?」
二人の前には、楕円形の銀の皿に盛られた真っ黄色なライスとカレーがあり、山倉の方はスプーンでよく混ぜ込んである。
それを次々と口に運びながら話し続ける山倉とは対照的に、弥生は食も進まず口数も少なかった。
「どうしたの、弥生さん。今日は元気がないね」
とうの昔に気づいていた山倉がついに問いかけると、弥生は強がったりする事も無く「うーん」と唸った。
「元気がないのは、梅子なのよ」弥生はビールを数口流し込んでから、今日会った梅子の様子を山倉へ話し始めた。

「あれ、梅子は」
師走も半ばになったある日。土曜の仕事を終えた信郎が庭から下村の家へ戻ると、正枝が太郎たちと食事の用意をしていて、梅子の姿がなかった。
「何だか用があるって、大学へ行ったわよ。今朝、急に呼び出されたみたい」
「はぁ」茶の間に座って新を膝に乗せた信郎は、正枝の話を不思議そうな顔で聞いていた。

「ここは、どこ!?」見知らぬ、ホテルの客室のような場所で目を覚ました梅子は、思わず声を出した後で悲鳴を上げた。
何も着ていない状態で部屋に一台しかないベッドへ寝かされ、両手首に結わかれた縄で、そのベッドに繋がれている。
「お目覚めですか。時間通りです」と広志が返事をしたのは、自分の足と足の間からで、今まさに膣の中へ薬剤を挿入される所だった。
「広志くん!これはどういう事なの!? 話し合いをするんじゃなかったの?きちんと説明して!」
梅子は罠にかかった野生生物のように広志を睨み付けながら、一方で、本当に何故こうなってしまったのかを思い出そうとしていた。
『梅子さんが悪いんです。それなりの方と結婚していれば、僕だって諦めがついたはずだ。それを、何もあんな……』
『よして、そんな言い方。ノブの事、何も知らないくせに』
ついさっきまでしていた会話が、朦朧とした頭に蘇る。そうだ、確か自分たちは、品川駅前にあるホテルの喫茶店で話をしていたはずだ。
広志から数日振りに電話があり、梅子もきちんと話をするべきだと呼び出しに応じ、喫茶店で話をしているうちに意識を失って、その後……。
梅子の目にぼんやりと、室内にあった椅子の上へ立った広志が、梅子の服やバッグをクローゼット内上部の棚の奥へ押し込み始めるのが映る。
それが終わると、広志は椅子を元の場所へ戻してポケットから豆絞り二本を取り出し、梅子が括りつけられているベッドの端に腰を下ろした。
「話なら、さっきしたじゃないですか。それに、今日はいつもと違うんです。梅子さん」
広志は、ベッドに固定してしまって動く事のできない梅子の頬を撫でながら、「そんな怖い顔をしないで」と言って妙な笑顔で顔を近づけてくる。
「薬の効能を、もっときちんと確認したくて。僕と梅子さんの相性が悪くて、たまたま妊娠しないだけかもしれないですからね。
 今日は別の方に精子を入れていただこうと思っています」
「え……」絶句している梅子の口に、広志は豆絞りを捻って猿轡にして噛ませ、意地悪く笑ってみせた。
「声は出さない方がいいですよ。声で素性がばれてしまうといけないですから」
カッと見開かれた梅子の目も、もう一本の豆絞りで覆い、頭の後ろで結び目を作りながら耳元で囁いた。
「梅子さんも、よくご存知の方です。楽しみにしていて下さい」
梅子の顔を隠してしまった広志は、いやらしいな梅子さんは、などと言いながらビショビショに濡れてしまった膣の中を乱暴に指でかき回した。
梅子は拒絶の声を上げるが、その抗議は、どんなに叫んでももう言葉にならない。
広志がシッと言って梅子を黙らせると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「静かにしておいた方がいいです。身元がばれてしまうのは、お互いに都合が悪い」
そう言われて梅子は息を止めるように黙りこくり、全身を硬くして訪問者の音を聞いた。
「本日は、お忙しいところを有難うございます」
まずは客を招き入れる広志の声、そして挨拶を交わす年配と思われる男性の声が聞こえる。
「こちらが治験に協力してくださる一般の方です」
二人の足音が、ベッドへ近づいてくる。おそらく二人して、全裸でベッドへ括り付けられている私の体を見下ろしているのだろう。
「薬は既に入っております。後は、先生の精子をたっぷりと女の中へ入れてやって下さい」
広志によって自分が物のように説明されるのを聞き、梅子は体ごと跳ね上がらんばかりに心臓を高鳴らせた。
「先生はお顔が広いですから、万一のことを考え、女には目隠しをしておきました。どうかお取りになりませんように」
広志が念を押すと、一緒にいる男が分かったと答える。やはり、どこかで聞いた事のある声だ。
「それでは、私は終わるまでドアの外におりますので。思う存分お楽しみ下さい。医学の発展のために……」
広志が話し終えるとドアの閉まる音が聞こえ、梅子は無防備な姿で誰だか分からない男と二人きりにされてしまった。
視界を奪われ敏感になった聴覚が、男の服を脱ぐ音まで捉える。
「ふん。商売女じゃなさそうだが、金のためか。それともただの好き者か」
あからさまに人をバカにしたような口ぶりで男から侮辱されていると言うのに、梅子の息はどんどんと上がっていってしまう。
「どちらでも構わんか。しかし、こんな格好で興奮するとは。これは、好き者の方だな」
男がベッドに上がってきたようで、ギシ、ギシ、とスプリングが鳴りベッドが揺れる。
「まあ、せいぜい楽しませてもらおう」
男の声は、もう梅子の顔のそばから聞こえてきた。梅子の頭の中は真っ白になり、相手がどこの誰かなどと考える余裕は無い。
知らない男のベタベタとした手が、梅子の体の上を這い回る。
あまりの気持ち悪さに梅子が体を大きくよじると、男は囃し立てながら更に全身を弄ってきた。
「売女め、どうだ、気持ちいいか」そんな事を言っては、男は梅子の体中をつねったりくすぐったりしている。
『違う! そんなんじゃないわ!』
梅子が逃げようとすればするほど男の興奮を煽るようで、つねる指に力が入り、乳房や尻を平手で叩いてきたりする。
男は叩いて揺らされる乳房の先端を指で数回しごいた後、唾液の溢れる口へ吸いこんだ。
「これは、子供を産んだ女だな。コリコリとして旨いわい」敏感な乳首を男の唇や舌で転がされ、声を殺す梅子の鼻息がどんどんと荒くなる。
その内、男は何か思いついたように梅子の両膝を立たせると、思い切り開脚させて中を覗き込んできた。
「ああ、この泡みたいなやつが薬か。全く、こんな物が本当に効くのかねぇ」
確かにそうだ。アメリカで使われているからと言って、100%の避妊が出来るわけでもない。
まあ俺は実験に協力してやっているだけだからな、と男がイチモツを梅子の膣に突き立てると、梅子の中に衝撃が走った。
広志の物とも、もちろん信郎の物とも全く違う異物が、自分の内部に入り込んでくる嫌悪感。
径は太いが丈は短く、まるでジャガイモをねじ込まれているようだ。
「年増の割には、…なかなか具合がいい。おおっ、よく締まるわ。ほれ、どうだ、気持ちいいだろう。どうだ!どうだ!」
『ああ、嫌。嫌よ……』 梅子の目を覆う豆絞りが薄らと濡れ、額には脂汗が滲んだ。
梅子が拒否しようとすればするほど、膣壁に力が入ってしまい、ますます男の陰茎の形をはっきりと捉えてしまう。
「いやらしい女だ。そんなに俺の精子が欲しいのか。もっとよがらないと、中に出してやらないぞ」
お喋りな男で、梅子の膣を陰茎で擦りあげている間中、ずっと卑猥な言葉を投げかけてくる。
必死で逃げようとバタつかせる梅子の足を捕らえると、男はあっと言う間に足首を掴んで、高々と持ち上げ開脚させてしまった。
「こりゃ、いい眺めだ。俺のお宝が出入りしているのが、よぅく見えるぞ。ほれ!」
梅子の足を大きなVの字に開いた男は、わざとグチャグチャ音を立てるように、梅子の中を出入りしている。
しばらくすると男は梅子の足を高く持ったまま閉じさせ、左手に両足首を任せて、持ち上がっている梅子の尻を右の手できつく叩いた。
尻への痛みで膣がキュッと締まり、これから受け入れる物を予感して、胎内が震える。数日前、体がそう覚えてしまった。
「俺の精子は濃いからな。メリケンの薬なんか、効かないかもしれないぞ。ほれ、孕め!孕め!!」
興奮しきった男は、大声を出しながら梅子の尻を馬のように何度も叩き、短いストロークで梅子の体を突き上げる。
『駄目!やめて!!』梅子の鼻から、悲鳴が漏れる。それを聞いた男が、いい声だと喜んで、更に激しく腰を打ち付けてきた。
梅子が全身を硬直させると、男は梅子の両足を折り曲げるように覆いかぶさってきて、掴んだ梅子の腰を自分にグイと引き寄せる。
「ほうら、しっかり受けろよ!たーんと出してやるぞっ…!」
ようやく男が最後の言葉を発した時、この男の声の主が、梅子の頭の中に閃いた。
『小学校の…教頭…先…生……』
教頭は梅子の両膝を持ち上げるようにして子宮口を開かんばかりに陰茎を押し付けると、ダラダラと何時までも射精し続けていた。

――「愛してる。梅子さん……」
広志の声で目を開くと、目隠しが外されていてホテルの部屋の景色が見える。どうやら自分を犯した男の姿は、既にないようだった。
「ああ。目が、覚めましたか? 僕が後からチェックアウトしますから、梅子さんは早く服を着て帰ってください」
梅子は整理のつかない頭であたりを見回すと、ベッドの上には既に自分の服とバッグが置かれていた。
「こんなの、愛でも何でもないわ……」
グッタリとした体を起こし、縄の跡がついた手首を摩りながら力なく梅子が言う。広志は一瞬泣きそうな顔をして、梅子の衣類を突き出した。
「……僕は、信じています。いつか、きっと……」
心の中にドロドロと黒いタールが流れ込んできたような気分で、やけに体が重い。梅子はどうにか服を着て、力なく部屋を後にする。
外は、冷たい冬の雨が降っていた。


――終――

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