カーテンで遮られたぼんやりとした光の中、シノンは甘くとろけた嬌声をまき散らして  
いた。  
 
「くっ……はっ……んっ……ぅぅう……き、キリト……」  
「シノン……」  
「ひ……くっ……ぁぁ」  
 
 シノンは背後から延びた手のひらに、太股を捕まえられていた。強引に脚を開かされ、  
あらわにされた鮮紅色のスリットに、すでにやや大きめの浅黒い性器が肉扉をぐぐ、と割  
り込んでいる。ぎちぎちに食い込む性器とそれを受け入れるスリットの間から、滴のよう  
な愛液が白く丸い美尻のほうへと流れていく。  
 頭の上に生えた猫耳をびくびく震わせる。普段は鷹の瞳のように獲物を観察する水色の  
瞳は、鋭さをうしなって潤み、頬はゆるんでとろけ、そらし気味の背筋のラインは汗でし  
っとりと濡れていた。尾てい骨のあたりから生える細長い、水色のしっぽが力を失って、  
シーツの上に乗っているさまは、さながら抱き抱えられた猫のようだった。  
 
「んっ……ふぅ……んんっ……」  
 
 小ぶりながら肉つきよく張った美乳が、宙に投げ出されふるふる揺れる。乳房を彩る淡  
いピンクの乳首は、さきほどキリトにもてあそばれたため、花のつぼみのように小さく勃  
起してきゅっと尖りをみせている。出し入れが強すぎるせいで、包皮は左右へめくれあが  
り、普段はさわったところで「触感」しかない秘芯は、シノンの意思とは無関係にぷっく  
りと充血していた。  
 
 背後から脚をかかえられているので――逃げられない。  
 身軽さが特徴のケットシーでは、中量級のスプリガンからは逃れられない。   
 シノンはしっぽと三角耳と同じ水色の髪を振りふり、背中の――キリトにうったえる。  
 
「ひぐっ……んっ……キリト……動かないで……して……お、おなかがとけちゃう………  
…あぐっ――!!」  
 
 言葉の途中で、抱え上げられた体を持ち上げられ、落とされた。  
 
「ふあっ、あうっ、ん…っつ! はぐっ……ひっ……くっ……あ、あばれないで……―  
―!」  
 
 貫かれる衝撃にシノンは短く悲鳴を上げた。  
 まるで小さな子供におしっこをさせるように脚を抱えられたシノンは、秘裂をじゅぽ、  
じゅぽ…と出入りするキリトの性器の熱さに、白くなめらかな腹部をくっ、くっ、とへこ  
ませてしまう。それがキリトをより追い込む行為だと、ほんの数分前まで処女だったシノ  
ンは気がつくことができない。  
 
「ひゃっ、ああっ……んっ……くぅんっ……!」  
 
 続けざまばしぃ、ばしぃ、とキリトと結合するたびに、小さくひらかれたシノンの唇か  
ら吐息が漏れ、水色の猫耳と細長いしっぽが力なく揺れる。  
 
「ん……くっ……ひっ……」  
「だめだ……止まれない……いくよ……シノン」  
「ふあ……あっ……やっ――」  
 
 柳のように細くしなやかな、シノンの体を支えていたキリトの腕から――力がぬけ  
た。  
 
 じゅごおおっ  
 
「ああぁぁぁぁ――!」  
 
 自分の体重で串刺しになる。視界がかすむほどの電撃がシノンを打ちのめした。  
   
「ふぐっ――やぁ……やめて……ひ、あああ……ああ……んっ……」  
 
 体の内側が熱さにシノンはうめく。  
 しばらくして……キリトがシノンを再び抱き上げる。  
 性器はじゅぷっ、とシノンの膣粘膜ををひっかきまわしながら、ぎりぎりまで引き抜か  
れる。シノンは唇を噛みめる。分泌された愛液でキリトの浅黒い性器は、てらてらと光っ  
ていた。  
 
「んっ――!! き、キリト! もっと、もっとゆっくり抜いてぇ……」  
「むりっ……だよ、シノン…… しっぽがびん、ふるえている……突くたびになかが締ま  
って……絡まって……」  
 
 切なげな声を上げるキリトは、シノンの懇願にかまわずより奥へ、奥へ性器を挿しこむ。  
シノンは太った先端の感触を膣の奥底で感じてしまう。  
 
「んぐ――っ! んっ……やっ……ふっ、やぁっ、深いっ――!」  
 
 シノンの混乱とは裏腹に、体は快楽に従順だった。  
 膣道はつらぬかれるたびに潤みを増し、より深くキリトを受け入れようとする。挿入自  
体に痛みはない。それよりもシノンを夢中にさせてしまうほど魅力的な刺激が、羞恥心も  
なにもかもを忘れさせていく。  
 《絶倫》と《発情》の効力は、先にキリトと結ばれた「二人」の様子で理解していたつ  
もりだった。だが、見るのとやるのでは大きく違う。  
 
 ――と。  
 
「シノン……ここ……すごい……キリトくんと……つながってる……」  
「ふああっ、あっ、アスナ……」  
 
 キリトに揺さぶられたまま、シノンは顔を上げた。  
 うっとりとした表情でシノンとキリトの結合部を見つめるアスナの姿があった。  
 アスナの水色の瞳は、妖しくも魅力的な光をたたえて潤みかがやき、胸元に流した水色  
の髪が汗で鎖骨のあたりにはりついている。ほんの数分前、キリトと交わったせいで釣り  
鐘状の乳房のピンクはきゅっと尖っている。車座でしなをつくるアスナの脚の間から、激  
しく犯された証拠のような真っ白い粘液が流ていった。  
 
「あ、アスナ……」  
「シノ……のん……かわいい……」  
 
 アスナは夢見るような口調でをつぶやいたあと、たおやかに指先をシノンの肩へと伸ば  
した。華奢な肩を捕まえる。アスナはそのままそっと顔をよせ、くちゅ…水音をさせなが  
らシノンの唇を吸いあげた。  
 
「むぐっ!?」  
「んっ……はむっ……んっ……」  
 
 驚き目を見張るシノンにかまわず、アスナはそのままシノンの舌を誘って絡めとる。ぴ  
ちゃ、ぴちゃ、と卑猥な水音が寝室に響きわたる。  
 脳髄そのものをなめとられるようなディープキスのなまめかしい刺激は、シノンにさら  
なる混乱をもたらしていく。  
 親友のキスはやや強引なのにシノンを気づかうようなやさしさに満ちている。舌と舌が  
唾液ごしにからまりあうたび、シノンは温かく背筋を震わせた。  
 
「んっ――んっ!」  
「んっ……ちゅっ……ちゅ……んっ、シノン……舌おいしい……」  
 
 アスナは何度かシノンをついばみ、ちゅぱっ、とひときわ大きな音をさせたあと唇を離  
した。唾液の橋がシノンとアスナの唇から落ちる。  
 
「んむ……んっ……」  
 
 生温かくもやわらかい、アスナの舌の感覚は遠ざかる。しかし、いままで絡んでいたシ  
ノンの舌は熱く痺れていた。  
 アスナは少し恥ずかしそうにしながら、いままでシノンをむさぼっていた唇をシノンの  
三角耳によせる。  
 
「大好き……シノのん。もっとかわいいところ、見せて……」  
「――っ!」  
 
 シノンは甘い言葉に気を失いそうになった。無二の親友となった少女から与えられるコ  
トバは、セックス以上に理性を揺らす。  
 が――あまやかな台詞に酔い、意識を失いそうになったシノンを目覚めさせたのは、も  
う一人の親友だった。  
 
「もう……アスナばっかりみちゃだめ……こっちも、シノン」  
 
 頬のあたりに寄せられた手でやさしく振り向かされたシノンの瞳を、リズベットが間近  
でのぞきこむ。  
 吐息がふれあう距離でリズベットが呟いた。  
   
「シノン……えっちな顔……かわいいわね……困った顔の猫みたいで……」  
「は――あ、うっ……」  
 
 十数年の人生のなかで、かわいいを連呼された経験はない。再び、糖蜜のような甘い言  
葉がシノンの心を揺さぶる。心を結んだ親友の言葉が魂にしみ入った。  
 アスナよりもさらに幼げな印象の頬をゆるませ、内ハネの髪をゆらすリズベットも、輝  
かんばかりの肌をさらし、キリトに激しく犯されつづけた残滓を体の各所にのこしている。  
おわんの形をした半球状の乳房の先端はぷっくりと充血し、キリトが吐き出した白い残滓  
が、肉感的なふともものあたりに残っていた。  
 リズベットは無邪気にほほえみ、シノンの唇をやさしく奪った。  
 
「んんっ! んっ!」  
 
 アスナとは違う、むさぼられるキスの刺激で背筋をびくん、と震わせるシノンを後目に、  
シノンを奪われた格好となったアスナが、甘味をとられた子供のように唇をとがらせる。  
 
「む……リズ、ずるい……シノンの口、すっごく暖かくて、甘くて……おいしいのに…  
…」  
「んちゅ……んっ……だーめ。あんたはさっきずっとシノンとしていたでしょ。今度はあ  
たしの番……ね、シノン」  
「り、リズっ! ち、ちがっ! う、んんんっ!!」  
 
 答えるどころではない。スリットを間断なくつつかれ、美少女ふたりに唇を奪われ続け  
る。激しすぎる刺激に理性の薄皮を一枚一枚はがされていく。  
 
「んちゅ……んっ……うぅ……んっ、く、くるし――!」  
 
 あぐ、あぐっ、と空気をもとめてリズベットからはなれたシノンの口を、今度はアスナ  
がふさいできた。  
 
「むぐぅ――!?」  
「んっ、ちゅ……んっ……シノのん……かわいい……」  
「あ、ずるい……じゃ、あたしは、こっち……」  
 
 リズベットは舌先で鎖骨のあたりをくすぐったあと、するすると舌をシノンの胸元に落  
としていった。そのままキリトから与えられる振動でゆれるベビーピンクの乳首を、まる  
で甘菓子のようにぱくっ、とふくんでしまった。  
 
「んん――!!」  
「シノンのここ……勃ってる……んっ、ちゅる……んっ……こりこりしてるわよ……」  
 
 リズベットは一度ふくんだ乳房を舌でぺろぺろと刺激した。舌が上下するたびに生まれ  
る電撃にシノンは悲鳴を上げる。唇をアスナに塞がれているため、くぐもっていた。  
 
「んっ……んっ……!!!」  
「んちゅっ……んっ……じゃあ、わたしはこっちね……」  
「んむっ、んんんっ! んんん――!!」  
 
 アスナは口づけを続けながら、シノンの乳首を摘んだ。  
 同姓にしかできない絶妙なタッチで、乳房の先端を親指と人差し指で転がす。  
 
「んむ――!」  
「ちゅ……んっ……んっ……シノン……おっぱい気持ちいい?」  
 
 ディープキスの間にささやくアスナが、勃起している乳首の先端を絞る。  
 
「んっ、んむっ! んんっ!! ぁあう……アスナの指、き、気持ちいいっ……」  
 
 アスナの指が乳首を優しく捻るたびにシノンはびくびく体を揺らす。胸全体がしびれる、  
そんな快感にもだえ、いまだ膣道を犯してくるキリトの性器をきゅうっ、と締め上げてし  
まう。  
 
「うわ……シノンっ……」  
 
 シノンの柔筒に締め上げられ、キリトが切ない悲鳴をあげる。  
 小ぶりな故に敏感な乳首をアスナとリズベットになぶれられてしまい、力がぬけたとこ  
ろに今度はキリトが性器をぐりぐりおしつけてくる。下から突き上げられる衝撃で耳とし  
っぽまでもがはげしく上下した。  
 
「ああっ、んんっ、いやぁ――! も、もう……もう無理……! アスナの舌もリズの舌  
も気持ちいいっ……! お腹も! キリトので――!」  
 
 ごちゅうっ――  
 シノンの愛液をすべて散らすほどの勢いでキリトはシノンを貫き、抜く――  
 
「――!!」  
 
 もう声もでない。あたえられる快感の量が多すぎ、神経が混乱していく。思わず背中を  
キリトに押しつける。  
 
「んう……っ! あ、や……いやぁ……こんな、あちこち……ひうぅっ!」  
 
 シノンが色の違う悲鳴を挙げる。  
 キリトが深く貫きながら、シノンのうなじのあたりを舌で舐めあげた。  
 
「なっ、あふっ。んんんっ、キリト――!」  
「んっ……んっ……ちゅっ……シノンっ!」  
 
 背筋をキリトの舌が舐めまわすたびに、力が抜けてしまう。力が抜けた体を今度はキリ  
トが思い切り貫く。  
   
「ふあ――あっ、あああああっ――!」  
 
 すでに何度か経験した絶頂へ向かう。内側でふくれあがった幸福感によがりくるいなが  
ら、シノンはアスナから口をはなして悲鳴をあげる。キリトのライバルたりたいというプ  
ライドも、親友に対する気遣いも快感の波におしながされてしまった。  
 小さい子供がするように髪と首をふり、シノンは叫ぶ。  
 
「いやあぁ――! また、またいっ――!」  
 
 キリトの性器がシノンの膣道の入り口あたりの粘膜を思い切りこすりあげる.  
 
「くっ――はっ――! やあああっ!!!」  
 
 もう限界だった。シノンはきつく唇をかみしめ、背をそらしびしゃあああっ、と透明な  
ししぶきをふき上げる。  
 
 びちゃ、びちゃ、びちゃ……。  
 
 透明な液体が清潔感のある白いシーツにびしゃ、びしゃとまき散らされる。  
   
「ああ……ああ……ぁぁぁ……」  
 
 いまだ放物線を描いて吹き出す潮を見つめながら、シノンは心地よい絶頂感にしたがっ  
て脱力する。  
 
「ぐっ――! シノン、ごめん!」  
 
 普段からすこし線の細いキリトの獣欲に満ちたうなり声とともに、キリトの性器がシノ  
ンの一番奥までつきこまれる。そしてそのまま――性器の先端から熱い飛沫が拭きあがっ  
た。  
 
「あぐっ――!」  
 
 子宮を焼き尽くさんばかりに暴れ回りつつ、精液をまき散らす性器が、達したばかりの  
シノンを追いつめる。腰の裏側から背筋に走る、エクスタシーが脳髄を直撃した。  
 
「や、やああああああっ! ま、またっ!」  
 
 さきほど一人で絶頂したときよりも強い快感に、おさまりかけていた潮が再びしゅ、び  
しゅと吹きあがる、奥を直撃する射精の快感にシノンは折れんばかりに背を反らした。  
 
「ふあ、ああっ……ああっ……」  
 
 容赦なく注がれる精液にすら感じてしまう。そのたびに白い電撃が腰や頭を直撃し、意  
識を押しながす。シノンの瞳から透明な涙が流れていった。  
 
 
 
――――  
 
 
「ごめんねシノン……やっぱり重いでしょ、あたし……」  
「大丈夫。心配しないで」  
 
 よいしょ、と背中に抱え直して、シノンは顔を真っ赤にしたリズベットに答えた。  
 浮遊城アインクラッドの外縁までたどり着いたので、アスナとキリトの「ホーム」はも  
うすぐだ。  
 ノーム領からこっちリズベットを背負い続け、やっとここまで辿り着いたシノンは安堵  
のため息をもらした。  
 随意飛行を覚えておいてよかった、とシノンは本気で思った。そうでもなければ、こう  
してリズベットを背負って長距離の飛行などできなかったろう。  
 
「もうちょっとだから頑張って。もうすぐホームだから……」  
「……うん」  
 
 背中でリズベットがこくん、と頷く気配がする。  
 現実空間の時間と同期しないALOの時間で昨日の夜、リズベットとシノンは《発情》  
のステータス異常に犯された。  
 ステータスが発生した瞬間、前を飛んでいたリズベットがいきなり高度を失い、シノン  
はあわてて自然落下する彼女を抱えてた。そしてリズベットは――。  
 
「……」  
 
 シノンはそのさきを思い出すのをやめた。  
 それからこっち、シノンはリズベットの介抱をしながらアインクラッドまで飛んできた。  
 女性にとって悪夢のようなステータス異常《発情》は、どうやらALOにアバターを作  
成したばかりのシノンには効き目が薄いようなのだ。リズベットの様子を見ればそれは明  
らかだ。  
 シノン自身も体の熱さは感じているがまだ理性のほうが勝っているし、冷静である自信  
もあった。リズベットのようにステータス異常が発生し、すぐに――達してしまう、とい  
うこともなかった。  
 こうなるとアバターとの親和性とか運用時間などが妖しくなる、がそれ以上は結論がで  
ない。シノンは考えるのをやめた。  
 
「リズ。上昇するからしっかり捕まっててね……」  
 
 二百メートルほどの高さで岩盤が重なり一つ一つの層を形成する、アインクラッドの側  
壁を上昇する。  
 旧SAOプレイヤーはALOにログインし、最初に思うことはこのアインクラッドの全  
景に関するものが多いらしい。  
 浮遊城アインクラッドは、SAOプレイヤーをその終焉まで捕え続けていたため、アイ  
ンクラッド全景を俯瞰するのは「ほぼ」だれにもできなかった。だからそれぞれ思うこと  
があるのだ、とアスナは微笑みながらシノンに語った。  
 「ほぼ」だれにも。  
 シノンはその「ほぼ」に当たるプレイヤーが誰なのか、あらかた予想がついている。ア  
スナは切なげに瞼をふせ、となりでアスナの話を聞いていたキリトは目を細めていた。だ  
から――。  
 
「十九、二十、二十一……」  
 
 まだアインクラッド各層の特徴を覚えきれていないシノンは、こうして数えていないと  
階層を間違えてしまうことがままある。普段なら適当な階層へ飛び込み、転移門をくぐっ  
て目的の階層へと飛ぶこともできる。しかし、いまは《発情》状態のリズベットを抱えて  
いた。顔をあからめた彼女の表情は、同姓のシノンから見ても魅力的だ。そんな姿を男性  
の目にでもさらそうものなら、リズベットの艶姿見たさに人が殺到するだろう。  
 ぶるり、とシノンは仮装の肌をふるわせた。同じ女性として、そんな恐怖には耐えられ  
ない。  
 きっかりに二十二の岩盤の数をかぞえ、岩盤の隙間から飛び込む。  
 銀色の雪と氷の世界がひろがっていた。針葉樹も、階層のほとんどを占める湖も真っ白  
い。しばらく南西方向に飛び続けるとアスナたちが必死の思いで手に入れた「ホーム」の  
姿が見えた。雪にまみれたログキャビンの前に降りたった。  
 
 キリトとアスナのホームにシノンが訪れるのは、まだ二回目だ。  
 
 クリスマスイヴの夜に行われた第二十二層解放戦にシノンは参加できなかった。  
 ちょうどALOのアップデートがあった日時に、シノンは大澤夫妻とその娘、瑞恵から  
自宅に招待されていた。  
 四歳の瑞恵から手作りの「しょーたいじょー」をもらってしまい、そのおかげでシノン  
はALOでボス攻略をとるか、瑞恵とのクリスマスパーティをとるか、大いに迷うことと  
なった。  
 悩んだすえ、アスナにそのことを打ちあけた。ALOにキャラクターを作成してから、  
つきっきりでシノンへのレクチャー役をやってくれたアスナに対して、ある種の裏切りと  
もいえる悩みを打ち明けるのは勇気が必要だった。アスナがシノンを教えるかたわら、何  
時間にも及ぶユルドのファミングを行い「ホーム」の購入費用をためていたのを知ってい  
るのでよけいに言い出しにくかったのだが――。  
 友情を失うかもしれない恐怖にシノンが心中をふるわせていると、アスナはシノンの体  
をぎゅっ、と抱きしめ「シノンは瑞恵ちゃんのところへ行ってあげて。喜ぶよ、瑞恵ちゃ  
ん」と、いつもの穏やかな笑顔で言った。  
 そのおかげでシノンは後ろ髪ひかれることなく、大澤宅のクリスマスパーティに足を運  
んだ。まだ四歳児の瑞恵にお姉ちゃん、お姉ちゃんと連呼されるのはさすがに気恥ずかし  
いかったが、小さな瑞恵を膝のうえにのせ、せがまれた児童書を朗読していたときの安ら  
ぎも、制服のスカートの上に乗った子供ならではの体温も、うれしそうに次のページをせ  
がむ声も、シノンは忘れていない。  
 だから、二十四日の夜にアスナからアインクラッド二十一層攻略完了と「ホーム」攻略  
の報告を受けたときはうれしかった。  
 見事に二十一層のボスを葬り去ったアスナにシノンは昨日、ホームに招かれた。アスナ  
のセンスも手伝って、居心地の良い室内はあっという間にシノンを虜にした。  
 今日もノーム領でレアメタルを入手したあと、シノンとリズベットは「ホーム」に戻っ  
てくるつもりだった。暖炉の前のふかふかなソファーで、今日の冒険を語るために。  
 
 それがよもやこんな状況で訪問することになろうとは。  
 
 白くかすむため息を吐きつけ、リズベットを背負ったまま片手でホームの木扉をノック  
する。  
 
「アスナ! いる? リズをつれてきたよ!」  
   
 ザ・シードネクサス規格のゲームは皆、ノックした何十秒かは、普段は完全防音の空  
間にも、声を通してくれる。  
 事前にメッセージは送っておいたので家主は中にいるはずだ。シノンが待っていると、  
扉が内側からおずおずと開いた。  
 
 
「おかえり……シノのん、リズ……」  
 
 
 ああ、よかった。これでリズを休ませることができる――と、シノンは扉を開けたと思  
われる家主に視線を送り、おもわず目を見開いた。  
 
 内側から開かれた扉に添うようにアスナが立っている。  
 ただその立ち姿が、妙に色っぽい。剥きだしの肩がなめらかに光を反射している。  
 普段は新雪のように白い頬はバラ色に染まり、むき出しの肩には力が入っていない。ど  
こか気だるげな表情だが、それらがすべて集まると同姓のシノンですら背筋が震えるほど  
の色気を生んでいた。  
 
「あ、アスナ……? 大丈夫……?」  
「……ん?」  
 
 アスナを良く知らない人物ならば、シノンのように驚くこともなかったろう。青と白の  
チュニックにスカート、さらにふとももまでを隠す白いブーツ――装備品に異常はない。  
だが、結城明日奈も、ウンディーネのアスナもよく見知っているシノンは、アスナの異  
常を感じとった。  
 
 アスナが形のよい眉をよせたまま小首を傾げる。髪が、さらと肩から胸元へこぼれ落ち  
た。  
 そんな普通の動作にすら、滴るような色気に満ちて――  
 
「……シノン? どうしたの、ぼうっとして……」  
「え、あ、ごめん……」  
 
 まさかみとれていた、などとは返せず、、アスナの誘いにしたがって「ホーム」の二階  
までリズを背負い、寝室のベッドの上におろした。  
 清潔感のある白いシーツの上に檜皮色のフレアスカートがふわっ、とひろがる。  
 
「……リズ、大丈夫?」  
「……大丈夫。ありがと、シノン」  
「どういたしまして。そもそもわたしの武器素材の収集を手伝いに来てくれたんだから…  
…当たり前よ。これくらいは当然よ」  
「ああー、もう。そうだった、武器素材……そっちもごめんね。また取りに行こう」  
 
 イグドラシルシティの店長兼看板娘は、そのまま目をとじた。  
 体を横たえたリズベットは、憂い湛える童女の人形のようだった。檜皮色のバフスリー  
ブに首元を留める赤いリボンやふんわりとシーツの上に広がるフレアスカートが、四肢を  
投げ出すリズベットを飾っているので、胸元で光るブレストプレートが少々場違いだ。  
 
 シノンはそのブレストプレートの下に埋もれている乳房が、意外に大きいことにさきほ  
どリズベットを背負って運んだ時に気づいていた。突発的な戦闘に巻き込まれてもいいよ  
うに、ブレストプレートなど防具の類は解除せずにリズベットを背負って運んできたのだ  
が、防具越しに背中に押しつけられた乳房の存在は、はっきりと感じることができた。  
 ふと、アバター「シノン」の――胸元に視線を落とした。銀色の金属板に包まれている  
シノンの乳房は、アスナやリズベットに比べると一回り小さい。  
 
 ――うっ。  
 
 そのあとガンゲイル・オンラインに存在しているアバターの胸部を思い描く。記憶の中  
に残っているGGO「シノン」のバストサイズとALO「シノン」のバストサイズは、そ  
うそう変わらないはずだ。  
 最後の最後に詩乃の乳房を思い出す。  
 あんまり大きくない。  
 むむっ、と思わず眉根をよせる。ソードアート・オンラインのアバターは現実の体とほ  
ぼ同じ体格を再現している。そしてアスナとリズベットがアルヴ・ヘイムオンラインで使  
用しているアバターは、SAOからのコンバートだ。  
 ということは「明日奈」と「里香」のスタイルをある程度再現している、ということに  
なる。。  
 
「うう……」  
 
 格差におもわずシノンは呻いた。しかし、こればかりは遺伝でしかたがない。思い出せ  
ば、シノンの母もあまり「大きい」方ではなかったように思う。  
 親友が目の前で苦しんでいるというのに、なんたることを考えているのか、と自分を叱  
咤していると、背後で扉が開く気配がする。  
 シノンが振りむくと、アスナがコップと水差しの乗ったトレーを持って、寝室に入って  
くるところだった。  
 
 ――うううっ。  
 
 ついついアスナの目が胸元にいってしまうのは、いままで胸について考えていたせいな  
ので仕方ない、と思うことにする。  
 二つの乳房がチュニックの胸元をおしあげているのがわかる。胸のアンダーには細いベ  
ルトが通っているのできっと現実の「明日奈」の胸も、同じように膨らんでいるはず――。  
 
 シノンはそっと、アスナの胸元から目を離した。仮想世界でも、現実は厳しかった。  
 
 アスナはサイドテーブルにトレーを置き、リズベットの顔を覗き込む。  
 わずかに金属光沢の輝きを含むピンクの髪を内ハネにしているので、汗ばんだ頬に、髪  
の幾筋かがくっついてしまっていた。健康的なピンク色の唇は、空気を求めてあえぐよう  
に開かれ、ブレストプレートに隠された胸が苦しげに上下している。  
 
「リズ……」  
 
 アスナが横たわるリズベットに覆いかぶさるようにして、胸元のブレストプレートに手  
をかけた。そのままリズベットの上半身を片手で支えて上半身を起きあがらせると、一息  
でリズベットの防具をとりさる。  
 
 ブレストプレートに包まれていた胸部が解放され、リズベットの呼吸が穏やかになった。  
 
「ふぅ……んっ……ありがと……アスナ」  
「……うん」  
 
 シノンはふと、違和感を覚えた。  
 アスナは口をつぐんだまま、リズベットの顔をぼんやりと見つめている。  
 リズベットがいぶかしげに目を細める。だきよせられる格好になっているリズベットは、  
すがるようにアスナのチュニックを片手で握りしめている。  
 
「アスナ――?」  
 
 尋常でないアスナの視線の熱さにシノンは、思わずアスナの肩へ中途半端に右手を差し  
向けた。  
 が、伸ばした指は空振りする。  
 アスナは「ごめんね、リズ」と呟き、咲きかけ花弁のように浅く開いた、リズベットの  
唇を――。  
 
 

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