1-652 無題

「流行に則ってナベアツをしようと思うんだけど」
 いつものように俺の腕の中で子猫みたいにごろにゃ〜と丸くなっているマイハニーが突然そんなことを言い出した。
こいつは少々突拍子も無い性格をしているが、今回もまたいきなりである。
「……ナベアツって、あれか? 3の付く数字のときだけ馬鹿になるとかって言う」
「イエスっ。というわけで3の倍数と3の付く数字の時だけキスしますっ」
「いや、普通にすれば良いだろう。なんでわざわざ」
「わかってないねぇ〜。たまにはこういう風に変化を与えることが長い付き合いの秘訣なのだよ?」
 ちっちっちと指を左右に振って知った風なことを言う彼女。顔も何故か得意げに見える。
 まあ、今日はすることも無く部屋でこうしてくっついていただけで暇だったからそういうのも悪くないかな、と思った。
「よし良いだろう。3の倍数と3の付く数字の時だけキスな」
「うんうんっ。それじゃあ……1、2――」
 彼女が腕を俺の首の後ろに回し、そのまま体ごと持ち上げるように顔を近づけてくる。そしてその接近は止まることなくお互いの唇が触れ合った。
今までも何度と無く繰り返してきたキスだった。軽く押し付けるように数秒、一旦唇に触れた柔らかく艶々した感覚が離れる。
「4、5――」
 そしてもう一度、キス。今度はさっきよりも少し強く、長く。すぐ近くで「ん……」と彼女のくぐもった声が伝わる。
「7、8――」
 腕がきつくなったのか、なかなか動かない彼女の代わりに自分から口づけする。
「10、11――」
 12、13、と連続で唇をくっつける。続けてだったのでついばむようなキスになる。
「……はぁ、14――」
 休むことも一瞬、また彼女の唇に吸い付く。少し瞳がとろんとまどろんできた。
「……ん。16、17――」
 少し変化をつけようとふっくらとした唇の間を舌で突付く。彼女も一瞬驚いたが、すぐに受け入れそちらも舌で応える。
口の間から漏れる吐息に熱が帯び始めた。
「……は、ンン……19……20――」
 お姫様抱っこにように横向きに抱えられていた彼女はいつの間にか俺と正面で向き合い、背もたれていたベッドに押し倒さんばかりに唇を押し付けてくる。
積極的になり始めたら、彼女がノってきた証拠である。だが、そのまま押し倒される俺ではない。
「にじゅ――」
 彼女が言い終わる前に彼女の頭を腕で抱え、無理矢理押し付ける23。不意打ち気味になった彼女はそのまま俺の為すがままに舌で口内を犯される。
しかし、ここで一度離した一瞬を付いて彼女の反撃である24。彼女の小さな舌が一生懸命俺の口内をれろれろ舐め回す。
「……はぁっ……ん、ぁ……に、25……26――」
 貪りつくように、この時点でもはやだらしなく半開きになってしまっている口にしゃぶりつく俺と彼女。口の周りはもう二人の唾液でべたべただ。
「ふ、ぅん……ぁあ……にじゅー……はち……にじゅ、きゅ……――」
 そして。
 そこからはキスの嵐、嵐、嵐。お互いがお互いを求めるように、恥も外聞も無く口付けを交わし続ける。
部屋にはピチャピチャといやらしい水音が響き続けた。
 そんなことしているうちに俺と彼女は、ベッドで抱きついて横になっていた。
 何度目、いや何十度目のキスかで俺達は唇を離し、お互いの顔を見つめる。彼女の頬がすっかり赤く上気し、目も虚ろだ。
「……今、何回キスしたっけ」
「……え、っと。……えへへ、わかんないや」
 頭の後ろを掻きながら照れ笑いを浮かべる彼女。うん、やっぱり可愛いな、こいつ。
「それじゃ、このまま……するか?」
 俺の言葉を聞いた彼女はきょとんとしたあと、顔を俺の胸に埋めるように抱きついた。恥ずかしいのと、赤くなった顔を見られたくないときに良くする彼女の癖だ。
そして彼女は真っ赤になった耳を隠さずに小さく答えた。
「……うん。しよ」
2008年07月20日(日) 12:55:43 Modified by amae_girl




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