1-88 無題

「………来ない」

約束の時間から30分程過ぎたけど、彼が来ない。
連絡を取ろうにも、彼も私も携帯電話を持っていないし、彼の家にも電話したけど反応がない。
そのまま待っていてもよかったけれど、なんとなく彼はまだ寝ている気がしてきて、記憶を頼りに彼の部屋を訪ねてみると…

「……ほんとに寝てる」

しかも鍵は開けっ放しで、無用心極まりない。
そのおかげで部屋に入れたから、結果的には良かったけれど。
…とりあえず彼を起こそう。

「…起きて」

声をかけながら体を揺さぶってみるけど…

「んむ〜」

起きる気配が全然ない。一体、昨夜何してたのかな…
ため息をついて私はベッドに腰を下ろす。

「…約束、してたのに」

眠っている彼が応えないのは分っているけど、文句も言いたくなる。

『ちょっとでも友達じゃなく、女の子として意識してくれたら…』
そう思っていつもよりおしゃれをして、少しだけお化粧もして。
なのに見て欲しい相手は暢気に眠ってるし…

「……馬鹿みたい…っ!?きゃっ!」

呟いた瞬間、何がなんだか分らないうちに、私の体は彼の腕の中に納まっていた。
体で感じる彼の体温や匂いに胸はドキドキ、頭はパニック状態なんだけど、どこか冷静な部分が状況を確認する。
『いきなり抱きしめられて、彼と2人でベッドの上』
だ、だめ…余計に胸が高鳴ってきた……ど、どうしよう…と、とりあえず…

「…お、起きてるの?」

声をかけてみるけど返事がない。ただの…って違う、そんなお約束やってる場合じゃなくって!
まだ高鳴ってる胸が少し落ち着くのを待ってから顔を上げてみる。
顔をあげた先に、たまに見せる彼の意地悪な笑顔があったら、思いっきり拗ねようと思っていたけれど、
あったのは気持ちよさそうに眠ってる彼の顔。
私は拍子抜けしてしまって、一人で慌ててた自分が可笑しくて少し笑ってしまった。

「…そうだ」

ひとしきり笑った後、私はあることを思いつき、それをやってみることにした。
いつもはやりたくても出来ない事を、こっそりやらせてもらおう。

「…遅刻した罰」

私も腕を回して彼をぎゅっと力いっぱい抱き返す。
想いを言葉にするのが下手な私は、まだ貴方に伝えられないから。

「…こうやって…少しでも伝わるといいな……」

感謝の気持ちと溢れる思い。

「…大好きだよ」

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2008年07月20日(日) 12:44:20 Modified by amae_girl




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