1-99 奈津紀×克行

8月17日午後1:37
 外は雲から顔を出している太陽が光を降り注ぎ、木や電柱に
留まっている蝉が単調な鳴き声を出し、部屋の中では風に揺られ涼しげな音を出している。
温暖化のせいで平均気温が去年より上回ったとかテレビで
放送している。野外で撮影しているためアナウンサーの後ろには
外回りをしているサラリーマンが写り、片手にはハンカチを持ち
額や首周りから出る汗を拭っている。
だが暑いのは一部を除いてみんな感じている。室内にいる人だって
暑いだろう。俺も暑いって感じてる。だけど暑いと感じない一部の人が俺の隣にいる。
「暑くない?」
「全然♪」
「俺はスッゴく暑いんだけど」
「こんなの大丈夫、大丈夫」
暑いと感じない一部の人いや、俺の彼女は余裕の表情をしている。
俺にはわからない。何で奈津紀は気温30℃の中、俺の体に寄り添うのか。しかも、かなり密着している。

どのくらい密着しているというと、奈津紀は俺の背中から抱きつき
俺の肩に顔を乗せている。あまり豊かではない奈津紀の胸も、こんな
体制では嫌でも感じてしまう。
(ワザとなのか天然なのか…)
奈津紀はいつも抱きついてくる。彼女なりのスキンシップらしい。
人前じゃなければ別に構わないが、こんな暑い日は少しキツい。
普段はクーラーを使用しているから気にはならないが、今日は
クーラーの調子が悪く扇風機で我慢している。

「奈津紀っていつも俺に抱きつくよなぁ」
俺は思ったことをそのまま口にした。
「そんなにくっついて無いよ〜。たまにだけだよ」
俺の記憶が正しければ付き合って毎日抱きつかれている。そして
別れるまで抱きつく。まぁトイレまではくっついてこないが…。
いや、注意しなかったら付いてくるかも……。


「俺の記憶は会う度に抱きつかれているって言ってるぞ?」
「気のせいだよ、気・の・せ・い。それに抱きつかなくても余裕だし」
「何に対して余裕だかわかんねぇけどゲームでもやってみるか?」
「ゲーム?どんな?」

俺は奈津紀に提案したゲームの内容を簡単に説明した。ルールは簡単。奈津紀は
午前00:00まで俺に抱きついたり甘えたりしてはいけない。そして敗者は勝った
人間の言うことを聞く。これを聞いた奈津紀は
「余裕綽々だよ、こんなの。じゃあ私が勝ったら喫茶チェリーのビッグパフェね」
と、勝利宣言を放った。
「良いよ。じゃあ今から午前0時までな。よーいスタート!」

ゲーム開始からわずか10分。奈津紀がソワソワし始めた。しかも俺のことを
チラチラと見ている。
体は正直とはこのことだ。もちろんエロくない意味だぞ。今まで自然に行っていた
ことをいきなり止めたんだからソワソワするのは解るが
「うぅ〜〜〜〜」
「……」
「むぅ〜〜〜〜」
「……」

変な呻き声は辞めてくれ。正直怖いッス。
「あれ?どっかの誰かさんは余裕綽々って言ってたような?」
「な!?ななな、な何を言ってるの!?こんなのよ、余裕だよ?」
いや、目泳がせながら言っても説得力ねぇーし。つーか何その絵に描いたような動揺は。
しかも最後疑問形かよ。
「気晴らしにDVDでも見るか?」
このままでは俺の圧勝だ。それだとさ流石に面白くない。だから俺は映画でも
見ようと提案した。俺の気持ちを悟ったのか奈津紀はこの提案を受け入れた。

DVDプレイヤーを起動させ奈津紀お気に入りのDVDを再生した。が、失敗した。
理由は簡単だ。奈津紀お気に入りの映画の殆どは恋人たちのものスッゴい甘い物語なのだ。
どのくらい甘いかと言うと、某漫才コンビが裸足で逃げるんじゃないかと思うくらいだ。
俺が好きな映画はホラー系が多い。以前に奈津紀と一緒に見た『着信拒否』は
集中して見ることが出来なかった。
なぜなら、奈津紀はホラーが苦手でいつも、俺にしがみついてくるからだ。


「……おい」
「な〜に?」
「手が絡んでる」
「うわっ、びっくり!いつの間に!?」
まぁ俺も今気がついたため、いつからかは解らない。
「なぁ、これはアウトだろ?」
「いや、これは甘えには入らないよ」
ごめん、基準がわかんねぇ。まぁこんなのでゲーム終了もつまらないし。
「わかった。じゃあセーフで良いよ。」
「やった〜!」
奈津紀は笑顔で絡めている腕を強く締め付けた。しまった!確信犯か!

そんなこんなで映画を見終え夕飯を食べることにした。まぁここでもアウトに近い行動はあったが…。
夕食を食べ終わり俺はテレビ、奈津紀は俺から少し距離をおき漫画を読んでいる。
俺の近くにいたら自然とくっついてしまうからだろう。

午後22:49
「お風呂に入るね」
「おう、適当に時間でもかせいでこい」
俺は奈津紀が風呂に入ったのを確認しある行動に移った。

午後23:56
お風呂から出た奈津紀は時計をじっと見ている。
「あと4分…」
「……」
「あと3分……2分…」
「……」
「…10・9・8…5・4・3・2・1」
「0!!やった〜!終わったよ〜。これで甘えられる〜。スリスリ出来る〜」
カウントダウンが終わった奈津紀は泣きながら笑いながら俺に抱きつく。まるで
今まで出来なかった分を取り戻すかのように。
「甘えたね?」
「な〜にを言ってるの?もうゲームは終わったし私の勝ちだよ♪」
「悪いな。残念だけどこっちが本当の時間だよ」
俺はポケットからケータイをだし奈津紀に待ち受け画面を見せた。画面に表示されている。
そこには…
「じゅ、11時55分!!?なっ、なんで!?どういうこと!?」
携帯の画面には奈津紀の言うとおりp.m11:55と表示している。
「実は奈津紀が風呂に入ってるときにこの部屋の時計を全て5分はやくしたんだ。
だから正確な時間はこっちね」
そう、俺がさっきの行動とはこのことだ。

「…ということは、わ、私の…」
「うん、奈津紀の負け」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
リビングに奈津紀の叫びが響く。軽い近所迷惑だな。
「ビッグパフェが〜!!2人で『あ〜ん』しながら食べたかったのに〜!」
良かった、勝って良かった。そんなことをやろうとしてたのかお前は。
かなり恥ずかしいぞ、それ。
「さて敗者は勝者の言うことを聞いてもらおうか。」
「うぅ〜〜」
俺は涙目の奈津紀の後頭部に手を回し、唇を奪った。
「今日は絶対に寝るな」
「…うん!!」
涙を流していた奈津紀の表情は笑顔に変わった。

続き
2008年07月20日(日) 13:02:52 Modified by amae_girl




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