2-12 団扇とミルクアイス

とある初夏の日曜日。クーラーの無い部屋はそれはもう暑かった。
気温は多分30度くらいある。湿度も50%くらいありそうだ。
何もする気になれないし、誰も側にいて欲しくない。そんな暑さだ。
だというのに。

「なんでオレの上に座ってやがりますかねー」

妹がオレの膝の上に小さなお尻を乗せていた。
ホットパンツに包んだお尻が、ぷりぷりとした弾力を伝えてくる。

「んー、それは、お兄ちゃんが佐奈の指定席だからだと思うよー」

ぱたぱた脚を振る妹様は、ミルク味のアイスをぺろぺろと舐めていた。
湯だった感じの顔に、栗色の髪がぺたっと張り付いている。
暑いだろうになんで近くに着やがりますかね。この子は。まあいいけど。

「扇風機もないなんてヒドイよー。扇いでー」

団扇ではたはたしてやると、口元がふにゃっと柔らかくなる。
風に触れて垂れたアイスが、佐奈のむき出しのふとももにポタッと落ちた。
暑さで頭が茹っていて、まるで精液のようだなーなどと考える余裕も無い。

「垂れてるぞー」
「んー」

教えてやると、紅葉のように小さな手がテキトーに脚をゴシゴシやっていた。

「ホントに甘えんぼうだよなー、佐奈は」

後ろから前髪をかきあげるように整え、ぱたぱたと風を送ってやる。
髪の毛をどかされた汗濡れの額や頬が、団扇の風に触れたのだろう。

「ふひゃー、すずしー」

満足げに笑うと、団扇を持つ手に寄りかかるように、座る角度を変えた。
そのまま手に持っていたアイスを、ん、と突き出してくる。

「おれーだよー。一口あげる〜」
「んー、んじゃー遠慮なく」

このくらいの役得がないと割に合わなかった。遠慮なく頂くことにする。
カシッとアイスを三分の一ほど食べると、妹の目が丸くなった。

「あー! お兄ちゃん食べすぎだよ! ずるいー! 反則ー!」
「ひあ、あふいはは (いや、暑いから)」

まだ形を保ったままのアイスを舌の上に乗せながらふがふが言う。
口の中の空気が冷えてきて良い感じだった。甘いし。だが妹様は御立腹。

「うー、だめー! 返せー!!」
「あー……ほあ」

ぷんすか怒る妹にやり返す元気もなく、折れることにした。妹の上に顔を持っていく。
妹が手を添えながら「あー」と口を開けて舌を出すと、半分に砕いたアイスを落とした。

都合六分の一ほどのアイスを二人でもしゃもしゃしながら、団扇ではたはたと扇いでやる。
返したことが気に入ったのか、妹はオレをじっと見上げてキラキラとした眼差しを向けてきた。
近くに座りなおし、頬を胸板にすり寄せてくる。甘えんぼうめ。頭を撫でると嬉しげに瞳を細めた。

ああ暑い。外からは蝉の声。音まで暑い。まったくもって暑くて何もやる気がしない昼下がりだった。



……っていう、
暑くても甘える。それが甘えんぼうクオリティだと信じた軽いジャブでした。

以上です。ありがとうございました。
2008年09月03日(水) 13:36:30 Modified by amae_girl




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