4-211 喫茶で「いつもの」

年内の仕事を全て終わらせた。
私は忘年会をスルーし、恋人が経営している喫茶へ向かう。
店は彼女の祖父の物だったが、3年前に他界してからは彼女があの店の女主人だ。
正直、有名企業の内定を蹴ったと聞いた時は驚いた。
だが、すぐに納得した。
彼女はおじいちゃん子だったから。

「遅かったじゃないか」と女主人は宣う。
すまないね、上司が忘年会について中々折れてくれなくて。
「いいよ、外の電気消してくるね」

祖父が亡くなってから彼女は変わった。
もっとも私以外は知る由もないのだが。

「えへへー♪結構待ってたんだよ!」
彼女は普段はクールで通していた。
今も、私と二人だけの時以外はそうだが。
告別式で毅然としていた彼女に「もっと他人に甘えてもいいんだよ?」と伝えたのがきっかけだ。
……もっとも、私にしか甘えてこないのだが。

そういえば、会社から急いで来たから喉が渇いた。
「“いつもの”でいい?」
私に拒否権は無いのだろう?
「だってぇ、私はこのお店のマスターだもん!」
『お客様は神様』という諺(違)について教えたくなったが、そこは少し大人になろう。

差し出されたのはコップ一杯のアイスコーヒー。
私は少量を口に含み、唇を彼女のそれに重ねる。
彼女の控内は甘く感じ、それがブラックのアイスコーヒーと程よく調和していい案配である。

数分後コーヒーを飲み干し、私と彼女はソファーでまどろんでいた。
彼女に抱き枕代わりにされてもいるが。

今月働き詰めだったので一週間の休暇をもらえた。
はてさて、この甘えん坊の女主人とどんな休日を過ごそうか。
(了)
2009年01月16日(金) 22:40:37 Modified by amae_girl




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