4-468 お泊りデート2日目〜3日目朝

「ひゃう!お、おにーさんっ、私は抱き枕じゃなくて美香ではわっ!」
「ちょっ、そ、そこはおっぱぁんっ!先っぽはだ、いや、ああっ!」
「ちょっ、そんなとこ触っちゃうあっ!ふぁっ、だめ、そこはあっ!」

「…んあ?」
なんだか『暖かくて柔らかいもの』があったからそれにくっつきながら微睡んでいたら、なんだか艶めかしい音、と言うか声がしたので『暖かくて柔らかいもの』を見てみると、そこには美香がいた。
「おはよう、美香」
「おっ、おはようございますっ!」
「と言うか何故俺は美香に抱きついて寝てるんだ?」
「ど、どうも私が寝ぼけて抱きついちゃったみたいですっ!」
「そうか。しかしなんだか艶めかしい声を聞いた気がするんだが、気のせいか?」
「きっ、気のせいじゃないですかっ?」
「そうか。と言うか美香、顔が赤いが風邪か?」
おでこを合わせ、頬に手を当て体温を比べる。昔母にこうされて落ち着いた記憶がふと蘇る。
「はぅー…♪」
「…ん、若干体温が高い気がするが、大丈夫か?」
「えへへっ♪大丈夫ですっ♪おにーさんのおでここつんで元気出ちゃいました♪」
「そうかそうか、それは良かった。・・・うおっ!」
「ひゃ!ど、どうしたんですか!?」
「ナチュラルにおでこで体温測ってた・・・うおお、恥ずかしいっ!」
「えへへっ♪私にはとっても嬉しかったので、もーまんたいですよ?」
ううむ、とっても恥ずかしいことをしたんだが、美香スマイルになんだかどうでも良くなってしまった。
「さ、おにーさんっ。そろそろ朝ご飯の時間です!着替えていきましょ♪」
ホテルの朝飯か、楽しみだな。


ホテルでの朝飯を終え、ディズニーシーへと移動中の電車内で、こんなようなやり取りが合った。
「くっつきすぎじゃないか、美香?」
「だっておにーさんとくっ付いて居たいんですもん♪迷惑ですか?」
「いや、迷惑じゃないんだが・・・」
「じゃあもーまんたいですっ♪」
「めちゃくちゃ恥ずかしいんだが・・・」
特に腕に柔らかいのが当たってるのが。周りの目もなんだか痛いし。
「そのうち慣れますよ♪さぁ舞浜に着きましたよおにーさん♪」
いやいやいや、この感覚は早々慣れませんよ美香さんや、なんて思いながら美香に引きずられていく俺。なんだか今日は昨日以上に疲れそうだ。

おにーさんは最初こそくっ付いてるのに慣れない感じだったけど、昼ご飯を食べて終わったあたりから吹っ切れたみたい。ちょっと嬉しいな、って思う気持ちと、まだ照れる顔が見たいんだけどなぁ、って思う気持ちが一緒になってる。私、欲張りなのかな?
今日は土曜日だったから乗り物の待ち時間がとっても長かったんだけど、そんなものはぜんぜん気にならなかった。だっておにーさんが私のこといっぱい聞いてくるんだもん。
今までは誰のプライベートにも踏み込もうとしなかったおにーさんが、私の領域に入ってきた。おにーさんが異性に興味を持つなんて話聞いてる分には初めてなんじゃないのかなぁ?
おにーさんの初めてって考えただけで、ドキドキして、ワクワクして、もっともっと新しいおにーさんが見たくなる。ちょっとツンケンしてみたり、ちょっと拗ねてみたり、ちょっと怒ってみたり。その度に反応が変わるおにーさんが素敵で、結局甘えちゃうんだ。

今日一番驚いたおにーさんの質問は、恋愛に関する質問だった。
「そういや美香、お前の初恋っていつなんだ?」
「初恋ですか?そうですねぇ・・・私って昔、とっても暗くって、どんくさくって、家族以外の人間ってあんまり好きじゃなかったんですよ。あ、仲の良かったお友達は何人か居ましたけど。」
「へぇ、フレンドリーな感じがする今の美香からは考えられないな。」
「そーなんですよ!でも、あの頃の事はあんまり思い出したくないですねー。」
「珍しいな、美香がそんな苦笑いするなんて。」
「あはは、ほんとーにあの頃の自分は嫌な子供だったと思いますよー。」
人一倍体が貧相で、体も弱くって、よくおちょくられたりいじめられたりしてたからなぁ。
「そうか。で、今みたいになったきっかけが初恋なのか?」
「そうです!交通事故に会いそうになった私を助けてくれた素敵な男の人がいたんですっ!」
「ほう。」
ん?おにーさんが神妙な顔をしてる。・・・そうだった、おにーさんは自分が誰かを助けたことを覚えてないんだっけ。
たしかおにーさんはあの事件のことを思い出そうとすると変になるっておにーさんのおかーさんから聞いてたから、ちょっと話を逸らさないと。
「その事件がきっかけで、人を少しは信じてみたくなって、頑張って可愛くなってやろうって努力したんです。中学生になる前あたりから、ちょっとずつ私の体が女らしくなって、そのあたりから男の子に告白されるようになったんですよっ!」
「へぇ。」
「でもみんなしていやらしい顔して告白してくるし、なんだか考え方とかも子供っぽくって、嫌で全員振っちゃいました!たしか中学校3年間で20人くらいかなぁ?」
「20人・・・俺なんて今まで告白されたのって2人だけだぞ。まったくもって非モテ系の俺にはうらやましい話だな。」
「・・・相変わらずにぶちんさんですよね、おにーさんって。」
そう、バイト先にもおにーさんを好きだって公言してる(おにーさんには伝わってないみたいだけど)子は2人、好き好きオーラを出してるのが3人いたはず。
だから私は彼女らに目の敵にされてるんだけど、おにーさんっていじめにはすごく敏感だから私に手出しできないんだよね。
「ん?何か言ったか?」
「いーえ、なにもー。」
「・・・何かバカにされたような口ぶりだが、まぁいい。」
にぶちん発言にちょっと引っかかるおにーさん。実際にぶちんなんですからしょーがないですよ。
「それよりそれより、おにーさん自身の初恋っていつなんですか?」
「俺か?・・・小学校の3年の頃だったか、近くに住んでた4つ年上のお姉さんに憧れてはいたな。」
「え?おにーさんって年上好きなんですか?」
「いや、年齢はあんまり関係ないな。と言うか自分が尊敬できる人の近くに居たいって思うな。」
「そうなんですかぁ・・・うー、私、おにーさんから尊敬されるとこなんて何も無い・・・」
「いや?美香の笑顔とか積極性はすごいと思うぞ?笑顔は見てて癒されるしな。」
「・・・え?そーなんですか?」
「ああ、俺もあの笑顔に結構癒されてるぞ?」
「やたっ!何気におにーさんポイントゲットしてたんだぁ♪」
「何だ『おにーさんポイント』って・・・」
何気ない行動とか仕草がいいって褒められるのはやっぱり嬉しい。おにーさんがあきれてるのが分かるけど、この嬉しさは止まらない。はうー、ホントに今晩我慢できるかなぁ・・・

早めに夕食を終え、2時間ほど待ったがなかなかすごいショーを見せてもらった。美香も楽しんでたみたいだしな。
ショーを見終えてそろそろ帰るか、と言うことで帰り支度整え、駅に向かいながら、美香と会話する。
「今日ももう終わっちゃいましたねー。あうー、あと二日なんて早いですー。」
「そうだな。確かにあっという間に終わっちまうな。でも、それだけ楽しかったって事だろ?」
「そうですねっ♪おにーさんは楽しかったですか?」
「当たり前だろ?お前みたいなかわいい女の子とデートしてるんだ、楽しいわけがない。」
「・・・嬉しいです、おにーさんっ♪」
頬を若干赤く染めて、とてもいい笑顔で俺に飛びついてくる美香。尻尾があったら千切れんばかりに振ってるんだろう。
「とりあえず帰るか。また明日のプラン練らんといかんだろ?」
「おにーさん、それってギャグですか?」
「・・・決して狙ってない。たまたま韻がかぶっただけだ。」

こんなくだらないやり取りがすごく楽しい。今までの俺は、積極的に美香と、と言うか他人と関わろうとなんてしてこなかった。
多分7年前の事故で記憶喪失になったときの治療法のせいだろう。あの時のことは思い出したくもない。
「・・・ーさん、おにーさん!」
「うわぁ!」
「おにーさん、どうかしましたか?すごい顔してましたよ?」
「・・・ちょっと昔のこと思い出しててな。」
「・・・?」
怪訝そうな顔をして俺を見てくる美香。安心させたくて何気なく美香の頭を撫でる。それだけで美香の顔が綻ぶ。
これでいいんだ。俺に必要なのは過去ではなく未来。昔のことを思い出す必要なんてないんだ。

しかしその夜、皮肉にも昔の夢を見てしまった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「辰徳は志望校A判定だっけ?いいよなぁ。俺なんて後1週間も無いのにCだぜ!?」
「琢弥は狙いが高すぎるんだ。それに俺の志望校はあんまり偏差値高くないしな。」
「てか辰徳ならあそこにも行けるだろ?」
「入った後まで勉強漬けになりたくないわ。」
夢の中の俺は当時仲の良かった琢弥と会話している。確か高校入試5日前の塾帰りだったか?確かこの日に事故って・・・

「あれ?あそこにいる女の子、何か探してるのか?」
「ん?ほっとけよ。それより帰ってFF進めよーぜ。」
「・・・お前それだから成績あがらんのだろうが。先帰ってろよ。」
「へいへい。ロリコンには叶わんねぇ。」
「言ってろ、アホ。」
ん?俺の記憶に無いぞ、こんなシーン。

何かを探してる女の子に近付く俺。全く気付かない女の子。美香の面影があるんだが気のせいか?
「美香ちゃ〜ん!こっちにあったよ〜!」
「ホントに!?今そっちに行くね〜?」
美香と呼ばれた女の子は、道挟んで向かいの子の方に駆け寄る。
「美香ちゃん!危ない!」
駆け寄ろうとしてる女の子は左から近付く車に気付いていないようだ。と言うか車の運転手は・・・寝てやがる!気付いたら夢の中の俺は駆けだしていた。もしかして・・・

女の子を突き飛ばし向かいの歩道に押し出し、安心した瞬間に左方向から強い衝撃を受け、吹っ飛ばされる。
若干前に推進力があったからガードレールに当たらないか心配したが、ギリギリセーフ。と安心するのも束の間、次の瞬間に両脚に走る激痛に、意識を手放した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ゆ、夢、か・・・?」
枕元の時計で時間を確認すると朝の5時50分。と言うかまた俺は美香を抱いて・・・って今日は昨日より近いぞ!
「うわぁ!・・・美香よ、お前狙って俺に抱きついてるだろ?」
美香の返答は無い。寝息が聞こえるので、結構深い眠りについているようだ。
「・・・美香の寝顔、初めて見たけど、かわいいな・・・」
柔らかそうなほっぺた、美味しそうな唇、そんなに高くないけどかわいい鼻、くりっとして可愛い目、柔らかくてさらさらとしている髪・・・
気付いたら俺はそのパーツを愛でる様に撫でていた。美香はちょっと身じろぎしたものの、起きる様子は無い。
「キス・・・したら、起きるんだろうか・・・」
「キスしてくれたら、起きますよ♪」
「うえっ!?み、美香!?お、起きてるのか!?」
「起きてませんよ〜。王子様がキスしてくれたら起きます♪」
「・・・ちなみにどこら辺から気付いてた?」
「えっと、『美香の寝顔、初めて見たけど、かわいいな』あたりからははっきりと♪」
「・・・撫でてたのは・・・?」
「くすぐったかったけど、とっても嬉しかったです♪」
美香にからかわれ、がっくりとうなだれ・・・じゃなくて。ちょっと美香に聞いておきたいことがあったんだ。


「美香、ちょっと朝早くからなんだが、聞きたいことがある。」
「はい?なんですか?」
神妙な声色の俺に、さすがに起きる美香。
「7年位前の冬、お前、どこに暮らしてた?」
「えーっと、確か四国のほうだったと。」
「そのとき、交通事故にあいそうにならなかったか?」
「おにーさん、もしかして。」
美香は知っているようだ。でも、正解をちゃんと聞いておきたい。
「答えてくれ。」
「・・・はい、私は小学校5年生の頃に、交通事故にあいそうになったところ、おにーさんに、助けられました。」
「そうか・・・美香は知ってたんだな。」
「・・・ごめんなさい、今まで黙ってて。」
「いや、俺も夢を見るまで忘れていたからな。交通事故にあった事実しか覚えてない。」
「嫌に・・・なりましたか?」
「何がだ?」
「私、おにーさんの事、会ったときから全部知ってたんです。私をかばって事故にあっちゃって2ヶ月くらい入院してたこととか、その事故のせいで1年浪人しちゃったこととか、
 おにーさんは私のこと忘れてるってこととか、事故のこと思い出そうとするとひどい頭痛に見舞われることとか。だから、2年前に偶然おにーさんがケンタでバイトしてるのを知った後、すぐあのお店の面接受けたんです。」
なるほど、俺は覚えてないのに、美香は全て知った上で俺に近づいたことについて、ってことか。
「本当はあのときのこと謝りたくって、でも謝れないからなるべくそばに居たくて。あの時からずっとずっと気になってたんですよ?
 おませさんですよね。でも、近づけなかった。それどころかおとーさんの仕事場が変わって関東に住むことになって、でもいつかまた会えることを信じて、
 おにーさんのおかーさんに毎月手紙送ってたんです。こっちの大学受けるって知って、偶然でも会えるかなって思ってたらすぐに会えて嬉しくて。」
だから両親がやたらと『横浜の大学を受けろ』やら『大学近くのこの駅付近に住みなさい、いい物件があるから』とか言ってたのか。
「ずっと近くに居て、気付いたらあのときよりもっともっと好きになっちゃって、気持ちが抑えられなくて・・・このお泊りデートも、おにーさんが何にもしてこなかったら私からしちゃおうとか汚いこと考えてて・・・ごめん、なさい・・・」
最後のは言う必要ないと思うんだけどな・・・まぁそれだけ俺のことが好き、なんだろう。でもレイプはよろしくないぞ。


「美香、聞いてくれ。」
「なん、ですか・・・?」
不安げな瞳で俺の顔を見る美香。こんな顔は美香に似合わない。美香には素敵な笑顔を浮かべていて欲しい。
「俺は未だに『人を好きになる』って言う感情がよくわからないんだ。そんな俺でも、最近は美香と一緒に居るとめちゃくちゃ楽しいんだ。
 美香の笑顔をもっと見たい、美香の照れる顔とか、怒る顔、拗ねる顔、いろんな顔を見たいって欲が出てきた。それにさっき美香が話してくれた昔の話、別に俺は嫌な気分にはならなかったぞ?
 俺のことをそんなに思ってくれてたんだなって思うと、めちゃくちゃ嬉しい。俺は恋愛のイロハとか、どこに女の子を連れて行けば喜ぶとか、そんなことは全く分からんし、美香が好きなものとか嫌いなもの、あと誕生日もか?
 2年以上顔合わせてるのに、全然美香のことは知らない。そんな俺でもよければ、俺に美香が知ってる『人を好きになる気持ち』ってのを教えてくれないか?」
この年にもなって年下の女の子にいろいろと教えてもらいながら付き合うってのはなかなか屈辱的だが、美香が気になる気持ちは抑えられないようだ。口が勝手に動いてしまう。
「え・・・それって・・・?」
「・・・俺と付き合ってください。」
「おにーさん、おにーさん!うわーん、嬉しいよ〜!」
美香が泣きながら俺に抱きついてくる。今までと変わらない行為のはずなのに、関係が変わっただけでこんなにも嬉しいのか。
2009年01月16日(金) 23:17:57 Modified by amae_girl




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