4-70 5000回目のプロポーズ

「結婚しよっ」
 プロポーズされた。……通算4635回目。
「お断りします」
「がーん」
「ていうかいい加減諦めろよ。何回目だ」
「これで0勝4635敗だねっ」
 ……覚えてやがった。
「でもでも、あたしは諦めないんだからねっ! 覚えてろ!」
 ビシィ! と某裁判ゲーのように指をつきつける女はカナ。家はお隣さんで、窓から窓で会話ができる……わけでもなく、実は血の繋がっていない妹……ではなく、急に空から降ってきて親方に報告しに行かなければいけないわけでもない。
 それは、昔の話。少年にはともだちがいなかった。少女にはともだちがいなかった。ただ、それだけの話。
「あれあれ? どしたのみょんくん、ぼーっとしちゃってさっ」
「床で寝転がりながらプロポーズをする人間の心理を分析していた」
「あははっ、そんな変な人いないよー」
 そう言ってカナは床をごろごろと転がった。
「なあ」
「なーにー」
「何してる」
「ごろごろしてるー」
「どこでだ」
「みょんくんの部屋ー」
 また転がる。そして落ち着くのはいつもの定位置。
「何してる」
「寝てるー」
「どこでだ」
「みょんくんのひざー」
 えへへーと笑い、胡坐を掻いた俺の腿に頬をすりつける。
 いつものことながら、嘆息する。まったくこいつは。高校生にもなってこの体たらくはどうしたことか。
「ため息は幸せが逃げるんだよー」
 誰がその原因かと。
「もしかして……いや?」
 カナはすぐ落ち込む。
「………………」
 無言で頭を撫でてやる。
「えへへー」
 顔を緩ませて誰が見てもわかるように喜んでいる。まったく感情の起伏が激しい奴だ。 
しばらく撫で続けていると、真剣味を帯びた声でカナは言った。
「……あのさ」
「どうした」
「結婚したら、幸せになれるんだよね?」
「ああ」
「そっか」
 これは儀式。あの日から──4635日前──から変わらない確認作業。
「みょんくん」
「ん」
「好き」
「俺もだ」
 2人の18歳の誕生日まで、あと1年──
2009年01月16日(金) 22:09:43 Modified by amae_girl




スマートフォン版で見る