4-728 こたつ

「にーチャ」
こたつに当たりながら、うつらうつらフネを漕いでいた俺に、遠慮がちな声が掛けられた
「……んっ、チイか
お帰り」
「おこた出したんだ」
「ああ、お入り」
学校帰りで寒そうにしている女の子に、隣の布団を捲って誘う
「……いい」
しかし、チイは素っ気なく踵を返し、居間から出ていってしまった
「嫌われたかなぁ」
売れないライターの俺の家に、毎日通って世話をしてくれる女の子
そんなありがたい存在を昨日は
「仕事の邪魔だ」と、追い出してしまった
もちろん、邪魔にするほどの仕事などなかった
ただ、花が開くように愛らしくなっていくチイに、抑えが効かなくなりそうだったから……
兄とも慕ってくれる女の子
大家の娘だからといって、掃除どころか、食事や洗濯の世話までしてくれる恩人を、毒牙にかけるわけにはいかない
一人、鬱々と自省をくりかえす
カラッ……
台所に荷物を置いたチイが、居間に戻ってきた
『ンッ?』
替わりに何か抱えている
「なにソレ?」
「……おともだち」
見ればぬいぐるみのようだ
前にキャッチャーで取ってきた奴
「……ジュン君、チョーサク君、ショージ君」
名前を呼びながら、こたつの席に一つづつ置いていく
当然、三つ置けば席は埋まる
「……寒い」
俺の隣に来て、伏し目がちに訴えた
『そういうことか』
席はいっぱいなので仕方ない
あまりの微笑ましさに笑いをこらえながら、自分の前の布団を捲る
「どうぞ」
間違いではなかったようだ
俺の膝の上、彼女の言うところの指定席におさまると、のどを鳴らさんばかりの上機嫌で体を預けてきた
「にーチャ、大好き」
2009年01月16日(金) 23:43:30 Modified by amae_girl




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