5-59 小ネタ「薄幸少女 雪奈」

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授業が終わり、仲間とバカ話しながら校門をくぐると高崎が突然、
「おい、あれってお前んとこの嫁さんだよな?」
そんなことを言い出した。確かにとある事情から同居はしているが、許婚とかそういう存在ではない。
「ばーか、雪奈はただの従妹だ」
俺がそう反論すると、一緒にいた友人らが『なんでお前なんかにあんな従妹が』とか『幼妻萌え(*´Д`)ハァハァ』とか言い出した。
この話が始まるとこいつらの妄想は無限大に膨らむので、さっさと退散することにしよう。
「はいはい、じゃあ俺は雪奈と帰るから、またな」

「毎度毎度言うけどさ、先に帰っててもいいんだぞ?」
雪奈にそう言うと、『なんで?』と言わんばかりに首を傾げた。
「俺にばっかり構ってたら、お前だって自由に恋愛できないだろ?」
今度はふるふると首を横に振る。さしずめ『そんなこと無い』と言ったところか。
「じゃあ好きな人でも居るのか?」
今度は頬を赤く染めて俯いた。なる程、居るわけか。
「何か協力して欲しいことがあれば俺に相談しろよ?」
雪奈は複雑な表情をしている。雪奈の恋愛なら協力してやりたいと思ってるんだが、何か困ることでも言ったのか?

もともと雪奈は快活で、とってもフレンドリーな女の子だった。ただし、それは小6の夏までの話。
雪奈が小6の夏休み、彼女の両親が蒸発するという事件があった。両親が居なくなって、健康状態も精神状態も危うくなった雪奈は一時的にウチで預かりながら、両親を探すも見つからず。
で、ウチの経済事情から雪奈は児童施設に預ける話になってたんだけど、そこで俺がぶち切れて『金なら俺が稼ぐから、施設なんかに預けるなよ!』と両親に申し立てた。
粘りに粘った結果、俺は新聞配達のバイトをし始め、雪奈がウチで正式に暮らすようになった。
ちょっと塞ぎがちだった雪奈はすこしずつだけど元気を取り戻していった。それでも以前に比べて格段に大人しくなり、口数は圧倒的に少なくなった。特に俺の前ではあんまりしゃべろうとはしない。
友達とは普通に話してるみたいだから、いじめとかは大丈夫だろうけど。

くいくいっ
そんな思考の海におぼれていたら、俺の裾が引っ張られる感覚にはっと気を取り戻す。
「ん?どうした、雪奈?」
真っ赤な顔で、俺の腕に巻きついてくる。
「ちょっ!ど、どうしたいきなり!」
雪奈は俯くだけで、何も答えてくれない。帰り道に立ちすくむ高校生の男女。傍から見たらカップルのように見えるのだろうか?
「なぁ雪奈、どうしたんだ?」
「・・・不安、なの」
久しぶりに聞く、雪奈の声。ちょっと鼻にかかった、幼いソプラノボイス。
「何が不安なんだ?」
「・・・お兄ちゃんと、離れるのが」
「大丈夫だよ」
そう言いながら、頭を撫でてやる。昔はショートヘアーだったけれど、今は背中まで伸びたさらさらの髪が気持ちいい。
俺が頭を撫でたのが以外だったのか、雪奈は目を見開いて俺の顔を見つめてくる。
「お前が幸せになるまで、ずっとそばに居てやるから」
「ほんと、に?」
「ああ、本当だ」
ぎゅっ、と俺の胸に抱きついてくる雪奈。意外と発達した胸がお腹に当たり、ちょっと恥ずかしい。
「・・・ぁぃす・・・ぃちゃ・・・」
「ん?何か言ったか?」
「・・・ぶち・・・」
「???」
耳まで赤く染まった顔、今にも泣き出しそうな目で俺をにらみつけてくる。
「な、なんだ?」
「・・・何でもない、帰る・・・」
そう言って俺の腕に再び巻きつき、俺を引っ張っていく。腕が胸に挟まれて気持ちい・・・いやいや、妹みたいな存在に欲情しちゃいかんだろ。
胸の内に燻った、本当の気持ちを必死にごまかしながら、俺と雪奈は家へと歩いていく。
2009年04月29日(水) 23:56:06 Modified by amae_girl




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