「ごめんなさい…リリウムは…王大人から知らない人から物を貰ってはいけないって言われているので」
チョコレートを差し出したBFF社員、整備兵、受付のお姉さんにいたるまで全てを振り切りBFFの王女リリウム・ウォルコットは進む
彼等の元へ……

「チョコレートだと?、さしずめ王小龍の入れ知恵か」
「いいえ、リリウムからの気持ちです。オッツダルヴァ様」
突然の申し出に少々驚きながらもリリウム・ウォルコットからBFF社らしい無骨なパッケージに包まれたチョコレートを受け取ったオッツダルヴァは一緒に手渡されたカードを開いた
『貴様には水底がお似合いだ』
王小龍直筆と思しき筆跡のメッセージカードにオッツダルヴァは頬を引きつらせる
「どうかなさいましたか?」
「いや、ありがたく受け取っておこう」
その後……そのチョコレートを口にしたORCA旅団の面々は三日間寝込み、海溝よりも深く後悔しこれを持ち込んだ彼を責めるのだがそれはまた別の話である


「チョコレート? 私に?」
「はい、チョコはお嫌いでしたか」
「嫌いではないけれどね…」
リリウムからチョコを差し出されたウィン・D・ファンションは注意深く周囲を探る
王小龍の姿はない
「迷惑であれば受け取ってくださらなくとも…」
「貰っておくわ、ありがとうね」
少し悲しげに瞳を伏せる愛らしい少女の姿に感化され、ウィンDは可愛らしい包装紙に包まれたチョコレートを受け取るとリリウムの頭をクシャと撫でてやった
(そうね、あの爺が何か仕掛けてくるならくればいいわ。こんな子を疑うなんて私もまだまだね)
チョコレートを持って帰ったウィンDは同居人のロイに冷やかされ、チョコレートを盗み食いした罰でロイをボコボコにするのだが、それは何時もと変わらぬ日常であった


「ローディー様、チョコレートは如何でしょうか?」
喫茶店でコーヒーを楽しむローディーの元へ、白のワンピースに身を包んだリリウムがやってきた
「いただこうか、今日は彼は一緒ではないのかい?」
「今日はバレンタインなので、リリウム一人でお世話になっている皆様の所へ伺っている次第です。王大人は同伴しておりませんが……御用がおありですか?、ローディー様」
「いや、特に用はない」
ローディーは世間はバレンタインか、と世情に疎くなった自分を恥じながら席を立ち、対面の椅子を引いてリリウムに席を勧める
「申し訳ありません、ローディー様。この後もリリウムは他の方の所へ伺う予定がありますので…ご相伴はまたの機会にお願いします」
リリウムはスカートの端を摘み、ちょこんとお辞儀をする
少女はバレンタインらしいワインレッドの包装紙に包まれたチョコレートを手渡すとその場を後にした
その後、チョコを口にしたローディーはこのチョコレートは出来損ないだ、まるで私自身だなと思ったとか思わなかったとか……

最後のお茶会メンバー、ダリオ・エンピオの所在をBFF社を通してローゼンタールに確認し、向かおうとした矢先
もふもふとした毛並みの小動物がリリウムの視界に入った
オーダーマッチを観戦する為、あるいは自社の製品を売り込む為、バレンタインのチョコを買うため、恋人とイチャイチャして過ごす為、バレンタインと言う日を迎えたアリーナが設けられたこの建物には多くの人間が訪れている
この動物もまた誰かの連れてきた愛玩動物だろうか
撫でたい衝動を抑えながらリリウムは辺りを見回したが飼い主らしい人物の姿は見当たらなかった
「貴方は何処から来たのですか?」
柔らかな毛並みを撫でまわしながらリリウムは小動物の目を見つめ呟く
実の所、外出に際してBFFの王女として箱入り娘として育てられたリリウムに対して
育ての親である王大人こと王小龍は怪しい人から物を貰ってはいけない、付いていってはいけない
道に落ちているものを食べてはいけない、子犬や子猫を見つけても拾ってきてはいけない、と釘を刺されていた
約束を破ってしまった自分の弱さに後ろめたさを感じながらもリリウムは愛らしい小動物を撫でる
良く見ると獣…もとい、小動物の首には赤い首輪が巻かれていた
「迷子でしょうか……」
リリウムは小首を傾げて考え込む
BFF社に連絡すれば飼い主は程なく見つかるだろうが、王大人はいい顔をしないのは目に見えていた
(きっと…飼い主の方が来てくれます)
自分に言い聞かせるようにして立ち上がるとリリウムはその場を立ち去る事に決めて歩き出す
後ろ髪を引かれる思いを押し殺し、随分と歩いた頃
足元にまとわりつく感覚にリリウムは視線を向けた
そこには置いてきたはずの小動物がついてきていた
「これは運命なのですね…」
小動物を抱きかかえリリウムは幸福感を感じながら、恩師の言いつけを破った後ろめたさを感じ何と言ってこの子を飼う許可を得ようか、思案し歩き出そうとした…瞬間
「いいご身分だな、これから何処へ行くつもりだ」
唐突に背後から声をかけられたリリウムと小動物はビクッと身体を強張らせゆっくりと背後を振り返る
少女の目の前に恐ろしい存在がいた
声を発しようとするが上手く言葉にならない
(ああ…これが王大人に聞いた非リア充と言う魔性の生き物なのですね)
頭の片隅でそんな事を思いながら恐怖に駆られリリウムは一歩後づさる
「お前には山ほど説教がある、楽しみに待っていろよ」
非リア充は口の端を吊り上げて薄く笑いながら一歩、また一歩と近づいてきます
そんな時、リリウムに抱かれた小動物がもがきリリウムの腕の中から飛び出しました
「ええいっ、忌々しい。今度は誰の所へ逃げ込むつもりだ」
魔性の非リア充は小動物を追って去りました


恐怖から解放されたリリウムがその場にへたり込み時計を見ると時刻は既に王大人と約束した時間を回っていました
「約束の時間を過ぎておるぞ」
「ひっ…」
不幸な出来事は去ったと思ったがそんな事はなかったようです
聞きなれた声にリリウムは身をすくませ、背後を振り返るとそっと手の込んだラッピングで包まれたチョコレートとメッセージカードを両手を揃えて突き出した
「……王大人、リリウムは」
「解っておる、今日は特別に許してやろう」
俯いたまま謝罪を口にしようとするリリウムの言葉を遮り、王小龍はニコリともせず奪う様にして乱暴にチョコレートを受け取った
「用は済んだのだろう。帰るぞ、リリウム」
「はい」

こうしてリリウムのチョコレート大作戦☆ミは無事に終了した
なお、ダリオの元へもバレンタインから一週間ほど過ぎてからチョコレートは送られてきたらしい

このページへのコメント

RIODGf Say, you got a nice article.Really thank you! Awesome.

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Posted by check this out 2013年12月21日(土) 01:22:04 返信

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