2chエロパロ板の「井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ」の作品をまとめたサイトです。

アキの一番近くにいる女子はウチだと思ってた
何をしたって結局一緒に過ごしてきたから

瑞希がアキの事を好きなのははじめからわかってた
瑞希が同じクラスになったとき、アキを見る目だけ違ったから
可愛い瑞希にデレッとするアキを見てものすごく腹がたった
ウチがアキの近くにいるのに
ここにいるのに

「美波と姫路さんも行くでしょ?」
アキと木下が不意に声をかけてきた
「なんの話ですか?」
キョトンとした顔で瑞希がたずねる
「スケートじゃ」
「スケート?」
「うん、アイススケートのリンクができたんだって」
「オープン前のプレオープンチケットを工藤さんがもらったらしくて、霧島さんから雄二込みで誘われたんだ」
「まだきいておらぬかの?」
木下がそう言っていると、瑞希の携帯が鳴る
「あ、愛子ちゃんからです 美波ちゃん、今週の土曜日みたいですが大丈夫ですか?」
土曜…葉月は友達と遊ぶって言ってたはず
「ウチは大丈夫よ スケートなんて久しぶり」
ドイツにいた頃は時々行ってたけれど、日本に来てからは全然行ってないなぁ、そう思うとワクワクしてきたわ
それに休みの日でもアキに会うことができるし

アキを好きだと認めるのには少し時間がいった
だってあんなバカ!!
優しくて思わせ振りで、真剣で
ウチの気持ちにも全然気がつかないバカ

日本に来てアキと話し出してから、ウチは次第にクラスメート達とも話せるようになっていき、最初に感じた孤立も感じなくなっていった
話せるようになってみれば、皆ウチに別に意地悪をした訳じゃなくて、ただ意志疎通できずに戸惑っていただけだということも知った
アキと話したくて覚えた日本語がウチの世界を変えた

アキがウチの世界を変えた

金曜日の放課後は忙しかった
「あ〜もう、何を着たらいいのよ!!」
ベットの上に散らばるたくさんの服
たくさん出しすぎて、どれとどれの組み合わせが1番可愛いのかわからなくなってしまった
もう!!少しでも可愛い格好で会いたいのに!!!
「お姉ちゃん、何してるんですか?」
妹の葉月が、ノックなしに部屋に入ってきた
「わ〜たくさん 明日どこかお出かけするんですか?」
「なっ…なんでもないのよ、葉月 ちょっと服の整理をしようかなぁ、なんてね あははっ…」
思わず顔がこわばったのが自分でもわかった
だって葉月が知ったらまたプールの時のようについてくると言い出しかねない
と言うより多分、ついて来たがる
「ふ〜ん?」
そんな言葉に、怪訝そうにしながらも一応は納得してくれたようで葉月は自分の部屋に帰っていった
あ、危なかったぁ
ごめんね、葉月
別に葉月を連れていくのが嫌とかじゃなくて、ただ葉月のお姉ちゃんのウチじゃなくて女の子のウチで会いたかったの
ごめんね


結局明け方まで悩んでスケートだからと動きやすいようにジーンズのハーフとシャツにした
このシャツは胸元にフリルがついてるから、体型カバー効果があるはず!!
そういえば、瑞希はスカートしか見たことないけど大丈夫かしら…

待ち合わせ場所に行く途中で瑞希に会った
「おはよー、瑞希」
「おはようございます」

やっぱり瑞希は可愛い
ふわふわとして女の子らしくてちっちゃくて
なんだろう、こう、守ってあげたくなる感じ
今日の格好だってふわふわして可愛…
「…瑞希、それ大丈夫なの?」
「へぇ?」
瑞希の格好はスカート
一応下にタイツをはいてはいるけれど、スケートで、決して運動神経がいいと言いがたい瑞希にはリスクが高すぎる格好だった
「はっ、まさか捨て身でアキを誘惑…?」
「ちっ、ちがいます!!ちがいます!!
一応スカートの下にホットパンツをはいているんですけど…やっぱり変ですか?モコモコしてますか?」
まぁ、そうよね
恥ずかしがりやな瑞希がそんなことできるわけないと思ったのよ
「てか、下にホットパンツはいてるならホットパンツだけでいいんじゃない?」
と思ったまま口にすると
「…ひどいです、美波ちゃん、それは自慢ですか?」
と、むぅと口を尖らせながら瑞希が言う
「私だって、美波ちゃんみたいにスラッとしてたら上にスカートなんて…」
あ、しまった
ウチがちょっとだけ小さな胸がコンプレックスなように、瑞希も体重等がコンプレックスらしいのよね
ウチからしたらそんな重さ、全部その胸なんじゃないかと逆に腹がたつんだけど…

「みっ、美波ちゃん、なんだか怖いですぅ」
今度はウチがふくれて瑞希を見ていると、
「オッハヨー」
「きゃっ」
後ろから工藤さんが瑞希に飛び付いてきた
「姫ちゃんスケートでスカートなんてエッチだね」
後ろから瑞希のスカートの裾を軽く摘まんでジリジリと上にあげながら、工藤さんが言う
「やっ、ちがいます、これは、あのっ、ホットパンツを…!!」
スカートを必死に押さえ真っ赤になりながら反論する瑞希
そして飛び散る血飛沫と悲鳴
「…雄二は見ちゃダメ」
「明久、ムッツリーニ、しっかりするのじゃ!!!」

「…アンタ達、いたんなら声ぐらいかけなさいよ」
面倒なクラスメート達(+α)とともにウチの休日は幕を開けた



新しいスケート場は広くてなかなかいい感じだった
リンクの傍のベンチ横に自動販売機が何台もあって、いかにも日本て感じ
そういえば、どうしてお汁粉とポタージュが飲み物として売ってあるのかウチには未だに理解できないのよね

「12時にはどこにいてもあそこのカフェに集まってね 」
工藤さんがリンクの端の方にあるカフェを指して言う
「どんなに撮影に熱中してもだよ、ムッツリーニくん」
「…失礼な、別に俺は撮影など」
手元のカメラのレンズをみがきながら土屋が答える
「氷ピカピカだもんね〜、スカートとかはいてたら反射して中がみえちゃうかもね〜あと、転ぶときもねぇ ボクも転ばないようにしないとなぁ」
「笑止、工藤愛子 貴様はスカートではない よってその手にはのらな…」
「このキュロット足にフィットしてないから、太もも付近に結構な隙間があるんだよねぇ」
上がる血柱と土屋に駆け寄るアキの悲鳴
「ムッツリーニ!!しっかりするんだ!!傷は浅い、まだ戦える、まだ戦えるよ!!!」
「…明久、俺はいい…ただこのカメラを…カメラ…を」
「ムッツリーニ!!!!」
「お主ら、よく飽きんな」
「知り合いと思われたくないわ、行きましょ、木下」


久しぶりのリンクはとても気持ちよかった
「わぁ、上手いね」
すぐそばに工藤さんが滑ってきて誉めてくれる
「そっそう?」
「ボクもある程度滑れるけど、そんなには無理だなぁ、ねぇスピンとかもできるの?」
「ううん、本格的にはしてなかったから ちゃんとはできないの」
「そっかぁ、なんかすごく綺麗に滑ってたから習ってたのかと思った」
ニコニコしながら素直に誉められると嬉しくてちょっと照れくさい
「あ、そうだ ちょっと手伝いをお願いしてもいい? さすがに二人一気にはきつくて」


「いやぁ、氷上はいいよなぁ」
「でも、意外だったね 霧島さんが滑れないなんて」
「アイツはスケート自体行ったことがないからな
いくら運動神経がいい翔子とはいえ、さすがにこの短時間では俺に着いてくる程上達はすまい!!
すなわち、今日の俺はついている!!!」

「みっみっみ、美波ちゃん、手っ、手を離さないでくださいねっ!!!」
「…瑞希、まず目を開けて」
「はっ、はいっ!!」
思った通り、瑞希はスケートができなかった
思いっきり腰の引けた状態のまま、リンク脇のバーとウチの手から離れない
霧島さんと瑞希はスケート自体が初めてなのだという
「…瑞希、転ぶ前に足を変えて、前に進む力を利用したら大丈夫」
工藤さんに教えてもらっていた霧島さんは、バーから手を離して、ゆっくりとリンク脇を滑れるようになっていた
わかっていたことだけど、運動神経の差よねぇ…

ちなみにアキ達はみんなある程度滑れるらしく、好き勝手滑っている
「だっ大丈夫です、理論上は傾きの角度を越す前に前進するエネルギーを加えて…」
「あらら、姫ちゃんは運動苦手なんだね〜」
工藤さんが苦笑いをしながらすぃっとウチの横にきた

「ボク軽く滑ってきたから代わるよ 滑ってきたら」
「でも…」
ちらっと瑞希の方を見ると、
「私は、だっ、大丈夫、ぶっ!?ですから、みっ、なみちゃんはぁ!!滑ってきてくっ!ださ…い」
ウチの手を離して必死にバーにしがみついていた
「大丈夫、大丈夫 ボクが見とくから」
「…じゃぁ、行ってくるね 瑞希、頑張ってね」
瑞希と工藤さんに手を降って、ウチは久しぶりのスケートをもう少し楽しむことにした


「あれ、美波スケート上手いね」
リンクを回っていたアキを後ろからぬかすと、驚いたアキの声
「前の学校の近くにリンクがあって、よく友達と行ってたのよ」
ウチは少しスピードを緩めてアキに合わせ、隣り合って滑りながら話す
「そっかぁ、ドイツにもスケートってあるんだね」
「そっかぁ、ドイツにもスケートってあるんだね」
「ほんとアキってビックリするほどバカよね」
「なんでっ!?」
ウチが思わず真顔で口にした言葉にアキが抗議の声をあげる
「知ってるか、明久 極寒の国インドでは年中スケートで人々は通勤、通学するんだぞ」
そこに後ろからきた坂本が、アキをからかう
「も〜、やめてよ雄二 インドってカレーの国でしょ カレーの人は上半身裸でターバンを巻いてるじゃん どう考えても暑そうだよ」
カレーの人って誰?カレールーのパッケージにあるインド人(イメージ)のこと?
「バカだな、明久 カレーの発汗作用、つまり汗をかく作用があるのは極寒の地で体をあたためるためだぞ」
坂本が真顔で言って、ウチ達を追い抜いて行った
…まぁさすがのアキもこんなバレバレの嘘には引っ掛からないと思うけど
「そうか…インドの人が上半身裸なのは体を鍛えるため…」
すごく何かに納得した顔で呟くアキに
「ほんとっっっっっにアキってバカよね」
「えぇ〜!!?」
ウチはただただあきれるよりなかった
たまに不安になるんだけど、ウチの好きなのは本当にこんな奴でいいのかしら

「…ちなみに発汗作用は体温を下げる働きをもつ」
「明久よ、さすがにインドは極寒ではないと思うのじゃが」
坂本と同じく後ろからきた土屋と木下が言う
「じゃぁ、インドのスケートは…」
「正確には断言しかねるが、騙されておるのぅ」
うんうん、とうなずきながら木下
「よくも騙したね、雄二!!」
「あ、ちょっと、アキ!!」
せっかく一緒に滑ってたのに、と坂本を追いかけて行ったアキの背中にむくれた
「まぁ、あまり悪く思わんでやってほしいのじゃ」
「…雄二は今自由を満喫して浮かれている」
並んで滑りながら、木下と土屋が言った
それって、あれよね?霧島さんが坂本程滑れないから一緒にいられない…ってことよね
それにしても、
「土屋はともかく、木下、あんたがスケートできるなんて意外だわ」
そう言いながら、隣を滑る木下を見る
「うむ、役者にとってバランス感覚も大事じゃからの」

「ねぇ、代表 スケート行かない?」
「…スケート?」
愛子が休み時間に話しかけてくるのは珍しくなかったけれど、遊びの誘いは珍しかった
「そっ 今度オープンするスケートリンクのプレチケットもらったんだ」
一枚のチケットをヒラヒラさせながら愛子が言う
「スケート…」
「10人まで行けるみたいだからさ、姫ちゃんや坂本くんたちも誘ってみんなで行こうよ 優子はなんかその土日はどっちも朝から買い物だってさ」
「…雄二も… じゃぁ行く」
いつも基本的に土日は一緒に過ごしているけれど、たまには拘束具無しに外で会うのもいいかもしれない
「じゃあ、坂本くん達誘っといて 今度の土曜とかどう?」
「わかった 必ず連れていく」
「じゃぁ、ボクは姫ちゃんと島田さん誘っとくね」
「…土屋にも必ず伝える」
ポッ、と愛子の頬が上気する
「べっ、別にムッツリーニくんと遊びたくて誘ってる訳じゃないんだからね!!代表たちとたまには遊びたいから誘ってるんだよ!!」
赤い顔でちょっと焦ったように念押しする
「…うん、私も愛子と遊びたい」
そう言うと少し照れたようにエヘヘとはにかむ
愛子のそういう所を、私はすごく可愛いと思う
「ただ…愛子、私はスケートに行ったことがない」
「えっ、そうなんだ じゃぁ初スケートだね」
「…教えてくれる?」
「いいけど、ボクでいいの?坂本くんの方がいいんじゃない?」
「ん、愛子は教え方が上手いから最初の基礎を教えてほしい」
私がそう言うと
「わかった〜 じゃぁ少し滑れるようになったら後は、坂本くんに手取り足取り教えてもらってね〜」
と、ニヤッと笑いながら愛子が言った
「…うん、頑張る」



土曜は雄二と一緒にではなく、別々に待ち合わせ場所に向かうことにした
たまには、こうして外で会う恋人同士のような約束もしてみたかったから
だけど、雄二の寝坊が心配なので、待ち合わせの1時間前に私は雄二のベットの上にいた
まだ眠っている雄二を見下ろして私は優しく恋人に声をかける
「雄二、起きて じゃないとこの雄二のベットの底板の裏側に張り付けた袋の中にあった物理的の教科書に挟んであった写真集を燃やす」
恋人のやわらかな声で飛び起きる、愛しい人
その見開いた目、驚きの表情はまさか自分の恋人が朝から部屋にいるとは思わなかったから?
「雄二、おはよう」
「翔子、まて、早まるな、誤解だ!!」
焦ってる雄二もかっこいい
「大丈夫 すぐに起きたから燃やさないでシュレッダーにかけるだけにする」
「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇかぁ!!てか、まだ繋ぎ合わせれば、とほんのわずかな希望があるぶんたちが悪いわぁ!!」
「じゃあ、そのあと燃やす」
「しまったぁぁぁぁぁぁ!!!」
恋人と過ごす休日を思ってか、雄二のテンションは朝から高いみたい

雄二も起こしたし、写真集も没収したから、もうここに留まる理由はない
理由はないんだけど…
「ん?なんだ?」
じっ、と見ていた私に雄二が気づく
どう伝えたらいいだろう、今の気持ちを
外での待ち合わせもしたいけれど、もう少し雄二と一緒にもいたい
「どーした、腹でも痛いのか?」
ちがう、と首を振ると髪がさらさらと揺れた
そして、雄二の目を見つめて、今、心にある言葉を告げる
「雄二、…私、今日すごく楽しみ」
そうか、と少し目を細めながら雄二が言う
「翔子、大事な事を言うからよく聞いてくれ」
真剣な雄二の表情と大事な事という言葉に胸が高なる
とくんとくんと鳴り響く鼓動がうるさい
「…翔子、俺はお前に…部屋を出ていってほしい 着替えたいんだ」
「大丈夫、夫の着替えは妻の仕事」
間髪入れずに雄二の部屋着に手をかけると、
「だぁ〜、やめろ、やめろ!!お前には恥じらいの気持ちがわからんのかぁ!!」
と部屋を追い出された

せっかくなので、このまま先に待ち合わせ場所へ移動する
「あら、翔子ちゃん、雄二と一緒に出かけるんじゃなかったの?」
お義母さんが台所から声をかけてくれた
「…今日は外で待ち合わせ 起こしに来ただけだから」
そう答えると
「そう、たまには待ち合わせもいいわね、いってらっしゃい」
と送り出してくれた

待ち合わせ場所で待っていると、まず愛子が来た
「へ〜、代表でもパンツルックとかするんだね」
「うん、昨日雄二に事前注意を受けた」
そういう愛子はミニ丈の明るい色のキュロットにニーソックス、ざっくりと編んであるニットを着ている
活動的な愛子によく似合っていた
「あれだよね、やっぱり代表って綺麗だよね〜」
まじまじと見られると、少し恥ずかしい
エンジの柔らかな生地のボウタイブラウスにスキニーパンツという、普段と少し違う格好なせいもあって落ち着かない
「まぁ、事前注意する坂本くんの気持ちもわかるなぁ」
「おはよー 雄二がどうしたの?あ、工藤さん、今日は誘ってくれてありがとう」
愛子がそうつぶやくのと、吉井が来るのはほぼ同時だった
「オハヨー吉井くん 弟くんたちは一緒じゃないんだね」
愛子がキョロキョロ周りを見回す
「ムッツリーニはいつも通り、多分どこかにいるよ 秀吉もさっき見かけたからもうくるんじゃないかな? 雄二は…霧島さん、一緒じゃないの?」
「朝起こして、私だけ先にきた たまには外で待ち合わせをしたかったから」
「わぁ、雄二なんか今すぐ消し飛べ(素敵な理由だね)」
「…吉井くん今さらだけど、本音と建前入れ替わっちゃってるよ あ、姫ちゃんたちみっけ!!」
愛子が瑞希と島田を見つけてむかえに行くのと入れ替わるように優子の弟、木下がきた
「おはようなのじゃ」
「オハヨー、秀吉 どうしたの、なんだか疲れてるね」
「うむ、姉上がなにやら今日と明日、本を買いに並ぶらしくてな そのルートを会場マップに線を引く手伝いをさせられてたのじゃ」
優子の買い物は本だったようだ
「本を買いに並ぶの?」
「うむ、何冊も買う予定のようじゃったから売り切れをいたく心配しておった」
「ふ〜ん、秀吉のお姉さんは読書家なんだね〜」
今日発売の本を何冊も…確かに優子は努力家 
そう考えていたとき、吉井が愛子の行った方を向いて固まった
向こうで瑞希の困った声がする
「よぅ、全員集合か 早ぇなぁ」
私の後ろから雄二の声
警報がなり、瞬時に目つぶしのかまえになる
「…雄二は見ちゃだめ」
その場に響く雄二の悲鳴と、土屋と吉井の血飛沫
「明久、ムッツリーニ、しっかりするのじゃ!!!」
「あ、ムッツリーニくんみっけ」
血まみれで倒れている土屋を見て、愛子がニンマり笑った

思ったよりスケート靴の刃は分厚くて、氷に立つだけなら簡単だった
「こう、少し横に足を蹴り開くように進むんだよ」
私をリンクわきに備え付けられているバーに捕まらせて愛子が言う
「それぞれの足に重心をのせて思いきりよく、えいっえいっ、って進んじゃうことが一番のコツかなぁ」
見てて、と言ってゆっくりとした動きで愛子が滑る
その滑り方をよく見て、バーに片手を添えながら私も進む
「あ、そうそう いい感じ あと少し肩の力を抜いてもいいかもね」
愛子の言葉で自然と強張っていた肩に気がつく
「次はもう少し右足に重心長め〜、はい、左重心〜、はい、右〜」
愛子の示すリズムに合わせて足を交互に進めていくと、ほとんどバーの助けなしでゆるゆるとリンクの端を回れるようになった
「もう少しリンクわきを滑って氷に慣れたら、後は坂本くんに教えてもらいに行っていいと思うよ
だけど、姫ちゃんの方はまだまだ難しいかなぁ」
愛子が悪戦苦闘している瑞希とそれを励ます島田を見て苦笑しながら言った

雄二に教えてもらおうと姿を探すが、見当たらない
探してぐるぐるとリンクを回るうちに私はだいぶスムーズに滑れるようになってきた
「おぉ、霧島 初めてとは思えぬ滑りじゃのぅ」
後ろから木下が声をかけてきた
「…滑るのはいいんだけど、止まり方がわからない」
止まれずに困ってぐるぐるとリンクを回り続けている 雄二にきこうと思ったのに
「それならば、こうして両エッジの向きを横に変えるとよいぞ」
木下が教えてくれたようにエッジの向きを変える
グラッと体の重心が後ろにかたむく
私はバランス崩して、転倒した…はずだった
「…!!」
バランスを崩した直後、後ろで受け止められた感触
「おぉ、雄二さすがじゃな」
「何やってんだ、おまえは」
衝撃に備えて強く閉じた目をあけて確認した結果、雄二が後ろから私を抱きとめる形で支えてくれていたとわかった
「…雄二、ありがとう」
やっぱり雄二は優しい
「んー、……ところでそろそろ自分で立てよ」
抱きとめられたまま動こうとしない私に、雄二がぶっきらぼうに告げる
でも負けない 愛子や瑞希とイメージトレーニングをバッチリつんでいるから
「無理 …私は滑れないから雄二と手をつないでいないと転んでしまう」
だから、手をつないで?
「いや、さっきからお前しっかり1人で何周も滑ってたじゃねぇか」
「…さっきから?私は雄二をずっと探していたのに見当たらなかった」
「…リンクの外にいたんだよ」
どこにいたのか訝しがる私に気おされたのか、雄二はそっぽを向きながら教えてくれた
「何にせよ転ばなくてよかったのう」
木下がニコニコしながら言う
「あ、秀吉 お前はなるべく俺か明久かムッツリーニの側にいるようにしてくれ」
雄二が不意に木下に告げた
「なぜじゃ?」
「ちょっとな、プレで来ている客は俺らみたいに品のいいのばかりじゃなさそうだからな…って、翔子、首をきめるな!!」
「…なんで木下だけ」
「秀吉だけじゃねぇ!!お前も姫路たちもだ!! 秀吉悪いが他の奴らにも伝えてきてもらえるか?」
「…うむ、わかったのじゃ しかし何か、そこはかとなくワシまで女子扱いを受けている気がして釈然とせぬのじゃが…」
眉間にシワを寄せながら、雄二の言葉を木下が伝えに行った

「つったく、お前、滑れないんじゃなかったのかよ 瞬時に人のバックとりやがって…」
首を押さえながら言う雄二の服の裾を、私ははぐれないようにきゅっとつまむ
「私は…雄二の傍を離れない」
「…はぁ、こうなるだろうとは思ってたんだよなぁ 」
「…雄二、そんなにがっかりしないで さすがに友だちの前で手をつなぐのは恥ずかしい… だから、後で」
肩を落とした雄二を励ます
「…手をつなぎたいと言った覚えもなけりゃ、後でつなぐ理由もねぇ!!
ほら!俺たちも工藤たちの所に行くぞ!!」
ピンッと軽いデコピンを私にした後、
「転びそうになったらしがみつけよ」
とそっぽを向いて言う
雄二はやっぱり世界で一番素敵


「いざ勝負、ムッツリーニ!!!」
アキが真剣な顔で片足をあげる
「…受けてたとう、明久 しかし、これに耐えられるか…?」
不敵に笑いながら土屋も片足をあげ、胸ポケットから何かをとりだした
「そっ…それは秀吉の…!?」
「…(コクン)」
うなずきながら土屋が写真をリンクに落とす
「…うぅっ…ぐっ…はっ…うわああああああ!!」
衝動を耐えていたアキは、結局こらえきれずに両足を氷につけ、写真を拾った
その姿を見た土屋が憐れみの目をアキにむけ、つぶやく
「…悲しい…」
「言わないで、ムッツリーニ!例えコレクションのダブリであったとしても、あったとしても!!!目の前にあれば欲する それが漢ってもんだろ…?」

土屋は目尻に光るものがあるアキの肩を慰めるようにたたき、こう告げた
「スポーツドリンク」

「あ、じゃぁついでにウチもレモネード」
ハーイ、とウチも手をあげる
「えぇぇぇぇ!?なんで美波まで!?」
「何よ?ウチには買ってきてくれないの?」
唇を尖らせてすねる
「だって美波とは何も勝負してな…」
「してもいいわよ?リンクに相手の顔面を20秒以上つけたら勝ちね」
「美波、レモネードはホット?アイス?」
アキは快く、ウチのぶんの飲み物も買いに行ってくれた

「姫路と工藤はどこにいるか知っておるかのぅ?」
アキを待っている間に木下が滑って来た
「瑞希たちなら端で練習してたと思うけど?」
瑞希はそろそろ立てるようにはなったかしら、そう思いながら、ウチもリンクを見渡して探してみる
「そうか…、見当たらんかったのじゃが…」
眉を寄せ、顎に手を当てて木下が考えこむ
確かにリンクの端に瑞希と工藤さんらしき人影はなかった
「どうかしたの?」
「うむ、雄二から伝言を言付かっておってな」
「…工藤愛子ならあそこにいる」
土屋がボソッと言いながら指した方を見ると、リンクの反対側あたりを工藤さんが1人でスイスイと滑っていた
「あれ?瑞希は…」
そう思いながら工藤さんを目で追っていると、知らない男の人が工藤さんに声をかけた
「? 知り合い?」
「うちの学校の者ではなさそうじゃが」
同じく工藤さんを目で追っていたらしい木下が言う
「…なんか、変ね」
笑顔の男の人とは対象的に、工藤さんの表情は遠目にもどんどん固くなってきていた
「…」
土屋が無言で滑り出す
「雄二がなるべく複数でいるようにと言っておった わしらも行くのじゃ 多少の助けにはなろう」
そう木下が言うから、ウチも急いで工藤さんの所へ滑り出した

「…ら、困…す」
「そ…嫌がらないでよ、…教えてくれる…でいい…」
近づくにつれ、工藤さんたちの会話もきこえだした
「…ナンパ?」
「ちと強引じゃのう」
大学生ぐらいに見えるそのナンパ男が工藤さんの腕を掴もうとしたとき、先に着いた土屋が後ろから工藤さんの腕を掴み、自分の方に引いた
必然的に工藤さんとナンパ男との間に距離があく
「…みんな待ってる 行くぞ」
「あっ…、うん!! じゃぁボクはこれで」
一瞬すごく驚いた表情になったものの、チャンスとばかりに工藤さんはすぐに向きを変えた
「えっ、ねぇちょっと!!」
ナンパ男が再び声をかけようとしたところで
「お〜、ここにおったのか」
「も〜、みんな待ってたんだからね 早く行こう」
口々にそう言いながら、ウチと木下も二人に追いつき、工藤さんを囲むようにしてそのまま進む
ナンパ男はこちらが複数と見たのか、それ以上絡んでこようとはしなかった

ナンパ男と十分に離れ、やっと全員で一息ついた
「大丈夫?」
工藤さんはまだちょっと表情が固い
「うん、ありがとう なかなかしつこくて参ったよ〜」
やっと表情を崩したものの、次の瞬間慌てた様子で声をあげる
「あっ、姫ちゃん帰ってきた!?」
「瑞希?見てないけど…どこか行ってるの?」
「しまった、まだかぁ ちょっと前にボクと別れて飲み物を買いに行ったんだけど… さっきの人さ、姫ちゃんの事教えろってしつこかったんだよね…」
苦い顔をして、工藤さんが言う
「…自販機なら明久が行っているはず」
そう言いながら土屋がアキに電話をかける
「…出ない」
「あのバカ!!着信に気付いてないのよ、きっと!!」
急に降ってわいた不安に苛立ち、怒りの矛先がアキに向かう
「ウチちょっと行ってくる!!」
いたたまれなくなってウチは瑞希を探しにいった
「複数で、という話じゃったろうに しかもあやつは自分が女子じゃということを忘れておらぬか?」
と、坂本に電話をかけながら言った木下の言葉は、ウチには届かなかった

瑞希が絡まれていませんように!!そう願いながらスケート靴を履きかえ、走る
今、まさにどこかで瑞希が絡まれて、怖がり泣いているかもしれない
あの子怖がりだから
そう思うと早く早くと気持ちばかり急いてしまう
もう、なんなのよ!!このムダに広い施設は!!!自動販売機何台あるのよ!!
「きゃっ!!」
「おっと!」
施設に併設されているゲームセンターから不意に出てきた人に、ぶつかりそうになった
「すみません、大丈夫ですか?」
慌てて謝る
「あ〜、大丈夫、大丈夫 あれ?君さぁ髪の長い子にスケート教えてた子じゃない?」
「えっ!?」
「あ、ほら、やっぱりそうだ!そのリボン見覚えがある」
油断していた
そして、逃げ遅れた
「ねぇねぇ、君のお友だちの名前何て言うの?君たち高校生?どこの高校?今日は友だち同士できたの?」
さっきのナンパ男同様やはり大学生ぐらいに思えるその人は、ウチの反応など気にせず、どんどん質問をして来た
「えっと…ウチちょっと…」
自分がぶつかりそうになったという引け目もあって、あまり強く出るのもためらわれる
「大丈夫、大丈夫 ところであの子一緒じゃないの?俺ちょっと彼女とお話してみたくてさぁ、このあと暇?一緒にどっか行こうよ あ、ケーバンとメアド教えてよ」
「いや、ちょっと友だち探してるので…」
失礼します、という前に手首を捕まれた
「マジで?じゃぁ、俺も一緒に探すよ」
「いや、ウチ1人で大丈夫ですから手を離してくださ…」
「あ、もしかして探してるのってあのお友だち?あの子マジ可愛いよね〜 俺らグループで誰が声かけるかでもめてさぁ てか君も可愛いよね 名前何て言うの?」
一方的にマシンガンのように話されてウチの言葉がうまく伝わらない
相手が言っている事がよくわからない
ウチは、日本に来たばかりの時みたいな、真っ暗な穴に落とされたような恐怖を覚えた

「みっ、美波ちゃんを離してください!!」
手首を捕まれて思うように動けないウチから、少し離れたところで震える声がした
「美波ちゃんから離れてくださいっ!!」
今度はウチのすぐそばから
…うん、瑞希 気持ちは嬉しいんだけど、これはあれよね? 飛ぶ火は虫の中…だっけ?

「あ、お友だちだ 見つかってよかったねぇ ミナミちゃん
ねぇねぇ、ミナミちゃんと話してたんだけどさぁ、このあと俺らとどっか行かない?てか、君の名前教えて 」
しかし、目の前のナンパ男は相変わらず言葉が通じていないみたい
瑞希の言葉でも駄目、ってことは、この人と会話できないのは別にウチの日本語のせいじゃなさそうね
急に頭が冷静に働き始める
てか、瑞希 震える程怖いなら隠れててもよかったのに
「その手を離してください!!」
ウチの捕まれている腕を引っ張って、小さく震えながらも瑞希が言う
「え〜、どっしよっかぁ?君の名前を教えてくれたら離してあげようかなぁ
あ、他にもお友だち一緒なの?お友だちも一緒に俺らと遊ばない?マジおごるよ?だから…」
「坂本雄二でぇす」
「吉井明久でぇす」
後ろから気色の悪い声がした
「育ち盛りだから僕、いっぱい食べたいなぁ 全部おごりですよね?」
アキがウチの手首を掴んでいた指を一本ずつ外しながら言う
「美波と姫路さんは下がってて」
捕まれていた手を、安心させるようにポンポンとアキがたたく
「じゃぁ、とりあえず…」
と坂本が言ったとき、ナンパ男のポケットから最近流行っている歌がきこえてきた
「あ、オイーッス え?マジで?ナンパ成功?あ〜こっちは駄目 男連れ うん すぐ行くわぁ
あ、姫路ちゃん、ミナミちゃんバィバーイ」
「………えぇ!?」
幕切れは呆気なく

「も〜、瑞希!!あんな時に出てきちゃ危ないでしょ!!しかもアイツらは瑞希が狙いだったんだから!!!」
いったん高ぶった感情は心配から安心、やがて怒りに変わる
「だいたい、ウチ1人でも大丈夫だったんだから!!」
さっき怖じ気づいたところを見られた恥ずかしさも手伝って、勢いで言ってしまった
本当は、瑞希が来てくれたから、恐怖から抜け出せたことをわかっているのに
「でも…美波ちゃんならきっと助けに来てくれますよね?」
「えっ?」
「私が逆の立場だったら、どんなに怖くてもきっと美波ちゃんは助けに来てくれたはずです
だから私も行けたんです」
まだ震えがおさまらないまま、泣き笑いのような表情で瑞希が言う
「それは… だって、だってウチと瑞希はちがうでしょ!!」
「ちがいませんよ、多分 怖いのは一緒です ほら」
そう言いながら瑞希がウチの手を握ると、ウチの手まで震えて見えた
「みっ、瑞希の震えでしょ!!」
「…そうですね」
ウチはそう言いながらも、つないだ瑞希の手のぬくもりをなかなか離せないでいた

「しかし、姫路からメールが来たときは焦ったぜ」
どうやら瑞希はウチが絡まれてるのを見ると、すぐに位置情報を全員にメールしていたらしい
「僕なんか飲み物を持って帰ったとたん、携帯みろって怒られてたときだ…ってイタッー!!美波、無理、無理!!そっちは無理ぃー!!!」
「…そうよ、アキ!!アンタ携帯なったらわかるようにしときなさいよね!!もとはといえばそれが!!」
思い出したら腹がたってきて、問答無用でアキの関節をきめる
「姫路の頭にこの施設の位置情報が正確にはいっていてよかったな、島田 これが明久だったら島田と明久の場所を探すとこからのスタートだったぜ?」
わかってる、ちゃんと言うわよ
「瑞希、えぇっと…ありがとう」
「私こそ心配してもらって嬉しかったです ありがとうございました」
ふわふわと微笑む瑞希はやっぱり可愛くて、確かにライバルなんだけど、そのライバルという関係以上に瑞希と仲良くなれた事を嬉しく感じた

結局、全員合流したときには12時を過ぎ、カフェもかなり混んでいた
「なんだかすごく疲れたのぅ…」
「…主にスケート以外が原因」
結局そのままスケートを出て、帰り道に皆でご飯を食べることにした
「姫路は初めてじゃったな、スケート どうじゃった?」
「はい、立てました!!」
「…おめでとう、瑞希」
「う〜ん、それっておめでとうでいいのかなぁ… あ、ムッツリーニくん」
「…なんだ」
「あのさ、お礼まだいってなかったな、って思って さっき、リンクで助けてくれてありがとう」
「…別にいい」
「でもさ、よく気がついたね」
「…読唇術をもってすれば容易い」
「いや、絡まれてる内容じゃなくて、ボクが絡まれてる事に 結構離れてなかった、ボクら?」
「………気のせい」
「ふ〜ん、じゃあ、格好よく助けに来てくれたことに免じて、離れていたのは気のせいってことにしておいてあげる」
「…!!!」

「雄二…」
「んぁ?」
「今日、楽しかった」
「そうか、よかったな」
「うん…」
「…お前もさ、友だちができたんだし、俺とばっかりいないで今日みたいに友だちとも遊べよ 俺といるよりよっぽど楽しいだろ?」
「…雄二、私迷惑?」
「まぁ迷惑っちゃぁ相当迷惑だけど、そんなの今さら過ぎて気にならねぇよ ただ、友だちってお前が昔から欲しかったものだろ?」
「…わかった 雄二と友だち、昔から欲しかったものがどっちもあって私は幸せ」
「だからぁ」
「雄二」
「なんだよ?」
「私は、幸せ」
「…よかったな」

「美波はさぁ」
「えっ」
「姫路さんが心配だったのはわかるけど、今日みたいな時に1人で行動しちゃ駄目だよ」
「何よ、もとはといえばアキが携帯を…」
「それは謝るけど!!」
「…何よ」
「女の子なんだからさ あんまり危ないことしないでよ」
「!!!」
「例えボディーラインが男子であろうと…も〜!!!」
「アンタの腰を締め上げて今すぐウエストを作ってやるわ」

腰をさすりながら前をいくアキの背中に小さな声で呼びかける
「助けてくれてありがとう」
「え〜?美波何か言ったぁ?」
「何でもないわよ、バ〜カ」




fin

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