2chエロパロ板の「井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ」の作品をまとめたサイトです。

週が明けて月曜日。頭の整理も出来ないまま、僕は学校に来ていた。
FクラスとAクラスでは校舎が違う。だから、今教室に来ている霧島さんのように意図的に行動しなければ、木下さんに偶然会ってしまうこともない。
情けないことに僕は、それをありがたいと思ってしまっていた。今、木下さんに会っても何も言える自信が無い。
土曜日はあの後、頭が真っ白なままだったし、昨日は逃避するように一心不乱にプリントで勉強をやり続けていた。
木下さんがなぜあんなことをしたのか、そして……、僕はなんであの時木下さんを拒んだのか。
自分が何をすればいいのか思いつかず、今日になってもただひたすらテスト勉強を続けていた。
「おい、明久。ちょっと面貸せ」
「雄二? なんだよ急に」
いつの間にか雄二が目の前に居た。
「いいから、さっさと来やがれ」
「いてっ、何すんだよ!」
雄二は強引に僕の腕を引っ張って連れ出そうとしてくる。反抗してるけど力じゃ雄二には敵わない。
「ちょっと、坂本!」
「坂本君!」
姫路さんと美波が雄二を引き止める。雄二はめんどくさそうに振り向いて言った。
「別に何かしようってわけじゃねえ。話を聞いてくるだけだ」
そうして教室のドアから出て行った雄二に、渋々ながらついていくことにした。


「一体何なんだよ雄二。」
「別に俺の意思じゃねえよ。ったく、翔子のやつ……」
「霧島さんがどうしたってのさ」
「なんでもねえよ。それより週末に何があったんだよ」
「……別に。なんにもないよ」
話す義理もないし、木下さんだって誰にも言わないだろうから僕が言わなきゃ済む話だ。
「嘘つけ。木下姉となんかあって、似合わねえツラして落ち込んでやがるんだろうが」
「……ッ!!」
知らないはずの話をピンポイントで当てられて、一瞬言葉に詰まる。


「……そうだとしても、雄二に何の関係があんのさ」
「俺もそう言ったさ。落ち込みたいやつに構ってやる必要はねえ、とことん落ち込ませればいいじゃねえかってな」
「なんなんだよさっきから! ケンカ売ってんの!?」
雄二の言い草に腹が立って掴みかかる。けど、当の雄二は未だやる気なく頭を掻いている。
「で? なにがあったんだよ」
「…………」
「チッ……」
やっぱり、人に言うことじゃない。そう思って教室に戻ろうとすると……。
「なんでもねえってんならこの世の終わりみてえなツラしてんじゃねえよ。こっちまで気が滅入るだろーが」
「…………」
「たいしたことでもねーくせに、グチャグチャ落ち込みやがって……」
「……ッ!! 勝手に決め付けんなよ! 僕だって木下さんとちゃんと……もっと、もっと!」
「それを、ちゃんと伝えたのかよお前は」
「な……!」
伝える? 僕が?
「なにがあったのかなんて知らねーが、言うことを何も言わねーうちから何をそんなに悩んでやがる。お前が脳みそ振り絞ったところでたかがしれてんだろうが」
木下さんと一緒に過ごして、終わってほしくなんてなくて、もっと……この先も、僕は、僕は……。
「バカなテメーが出来ることなんてそう多くは……ぐほぉ!!」
まだ延々喋ってる雄二の腹目がけて正拳突きをお見舞いしてやった。
「て、テメェ、なにしやがる……」
「ふん! 雄二にだけはバカなんて言われたくないね! 自分だって霧島さんには本心を言わないくせに」
「なっ……本心も何も翔子は、ってか相談にのってやったのにぶん殴るってどういうことだテメェ!」
「そうだね。じゃあ今度お礼に霧島さんに、水族館のペアチケットでも渡しておくよ」
「なっ、正気か!? ふざけんな」
雄二を無視してダッシュで教室に戻る。ったく、あんな言い方するから素直にお礼言いたく無くなるんだよ。
ガラッ。 教室の扉を開けて中に入り、自分の席に座る。
机の上に置きっぱなしになっていた教科書を開いて、昨日やったプリントを見直して明日からのテストに備えることにした。
よしっ、まずは明日の数学だ。あれだけやったんだから絶対いい点数とってやる!


文月学園には「試験召喚システム」という制度があり、それにはテストの点数が大きく関係してくる。
そのためテストの採点は普通の学校より素早く行われる。いつでも最新の点数で試召戦争を行えるようにと配慮されたためらしい。
とはいえ、さすがにテストが終わってすぐ戦争を仕掛けるようなクラスは無いんだけど……今の僕には都合がいい。
三日間のテストもさっきの時間で終了して、生徒が昼休憩をしている間に採点が終わり、もうすぐ結果が出ることになる。
手ごたえは悪くなかった。今までよりはずっといい点が取れたはず。
っと、前のドアから鉄人が入ってきた。
Fクラスだけあって、みんなさぞ絶望的な表情をしているかと思えば……クラスの大半が、何故か危険な笑みを浮かべていた。どうやら現実逃避を決め込んでるらしい。
「これから答案と成績表を返す。いつも通りその場で確認してもらうので、出席番号順に別室に来てくれ。受け取りが終わってもすぐに帰らず教室にいること」

コンコン
「失礼します」
「吉井か……、そこに座れ」
言われた通りに椅子に座る。
「これが成績表。こっちが各科目の答案と解答だ。採点の間違いが無いか確認してくれ」
渡された答案に目を通して、解答と見比べていると……。
「随分といい点数を取ったじゃないか。最近は授業もしっかり受けているようだしな、勉強に目覚めたのか?」
鉄人が唐突に尋ねてくる。正直、自分でも疑ってしまうほど良く出来ている。でも……。
「いえ、これは……すごく上手に教えてくれた人が居たからなんです」
「……ほう。つまりこの成績は今回だけってことか?」
「それは……分かりません。……でも、目標ができたんです!」
鉄人は無言でこちらを見据えてくる。
「今はまだ……全然遠い目標ですけど、それでも来年までに成し遂げたいことがあるんです! だから……これから一生懸命かんばります!」
「そうか……。まあ精々やってみることだ。ところで吉井、馬鹿の一念という言葉を知っているか?」
「へ? 馬鹿の一年?」
なんだそれ? いかにも見たくなくなるようなホームドラマのタイトルみたいだな。暗にバカにされているんだろうか。
「ふっ、まあいい。教室に戻るぞ。お前で最後だからな」
あ! そうだった。急がなきゃ行けなかったのに!
「先生! 早く行きましょう!」
「おいおい、なんだ急に」
Aクラス、まだ終わってないといいんだけど。


帰りの挨拶が終わってすぐに教室を飛び出しAクラスの校舎へ向かう。
くっ、他のクラスのHRはほとんど終わってるみたいだ。この分じゃAクラスも……。
目的地のAクラスの周りにも人影がぽつぽつと見える。木下さんはまだいるだろうか。
Aクラスの教室の扉を開けて周囲を見渡す。木下さんは……いない。
もう帰ってしまったんだろうか。でも、この教室は広いうえに個人のスペースがあるから教室内にいるかもしれない。どうすれば……。
「……吉井?」
「あっ、霧島さん!」
教室内を見渡していた僕の前に霧島さんが立っていた。霧島さんなら知ってるかも!
「えっと」
「優子なら、HRが終わってすぐに帰った。ここ数日元気無かったから……心配」
……尋ねる前に返答が返ってきた。くそっ、やっぱり帰っちゃってたか……すぐに追いかけないと!
「吉井!」
走り出そうとした瞬間に霧島さんに呼び止められる。
「優子はいい娘だから……頑張って」
「……うん、わかってるよ。ありがとう、霧島さん」
今度こそ外に出るため走り始める。雄二の奴勝手に喋ってくれやがって……。もう一発殴っておけばよかったよ!
速度をつけて一気に階段を降りて玄関に向かう。一応Aクラスの下駄箱の方も確認したけど居なかった。
となると……、そのまま靴を履き替えてから外に出て、校門から木下さんの家がある方に向かって走った。

「ハッ、ハァッ……」
おかしい。木下さんの姿が全然見当たらない。このままじゃもう着いて――着いてしまった。
もはや見慣れた木下さんの家。中に居るのだろうか、それにしたって全力で走ってきたのに追いつかない程早く帰っているとは考えにくいんだけど……。
恐る恐るインターフォンを鳴らしてみる。…………反応がない。
もしかしたらどこか寄り道をしているのかもしれない。とはいえ心当たりなんて……。



「明久?」
「はい? って秀吉!? なんでここに!」
「いや、お主はここを誰の家じゃと思っておるのじゃ……」
そ、そうだった。ちょっと落ち着こう。それに秀吉に聞けば……。
「えっと、秀吉、その、木下さんって……」
「姉上か? ふむ、まだ帰っておらんようじゃの。どこか寄り道でもしておるのか……」
秀吉にも心当たりが無ければどうする……、もう一度来た道を戻ろうか……。
「そういえば今日は木曜日じゃったのう」
「えっ? ……う、うん、そうだけど」
秀吉の発言の意図が分からず返事が遅れる。
「ここ最近姉上は火曜日と木曜日は帰りが遅かったからのう。同じ用事なのかもしれん」
「そ、そうなんだ」
相槌を打ちつつも少なからず気落ちした。その理由は知っているけど、勉強会は先週の土曜日でもう終わっている。今日帰りが遅いのとは関係――
「一昨日もテストで、学校は早く終わったというのに随分帰りが遅かったからのう」
「え?」
一昨日……つまり火曜日も?
「昨日は普通に帰ってきたのじゃがの。どこぞでテスト勉強でもしておったのか……姉上に聞いてはおらぬから分からぬがの」
勉強会はもう終わった……はず。でも火曜日と今日の帰りが遅いってことは、もしかしたら……。
「ところで明久よ。せっかくここまで来たのじゃから上がって行かぬか? テストも終わったし遊んでもいいじゃろう」
「……ありがとう。でも、また今度にさせてもらうよ。これから行くところがあるんだ」
「それは残念じゃな。……のう、明久」
「ん、何?」
「…………いや、気をつけるのじゃぞ」
「うん、またね秀吉」
「うむ、またな明久」
木下さんが居るであろう場所。目的地に向かって走り出す、居てくれるといいんだけどな。
言いたいことが……ちゃんと伝えたいことがあるんだから。
「……そうじゃの。嫌とは言わぬが……やはり少し寂しいのかもしれぬな」


「ハァッ、ハァッ……さすがに……キツイ……」
さっきからずっと走りっぱなしだから、すっかり息が上がってる。ここにも居なかったら……いや、大丈夫!
もう何度も来てる見慣れた建物だ。入口から入って、テーブルのある閲覧室を覗く……。
「……いた」
閲覧室の一番奥のテーブルに突っ伏してる人がいる。文月学園の制服、ショートカットの茶色の髪。
その人の所へ近づいていく、足音をたてないようにゆっくりと。眠っているのかな……?
隣に立って、ひとつ息をつく。……よし!
トントン
「ん……あっ、すみません……え! よ、吉井君!」
「シーッ、ちょっといいかな。話があるんだ」
「えっ……でも」
「お願い、木下さん」
「……うん、わかったわ」
さすがにここでは話はできないので、一旦外に出る。建物の裏手に行けば周りを気にする必要も無いだろう。

建物の裏までまわって、足を止めて向き直る。木下さんは顔を伏せている。さて……と。
「まずは、これを見てほしいんだ」
さっき渡されたばかりの成績表を手渡す。それに目を走らせて、木下さんは口を開く。
「へぇ……、すごいじゃない……。総合はD、ううんCクラスレベルかも。数学と、世界史はBクラス並だし」
「うん、木下さんが教えてくれたお陰だよ。本当にありがとう」
「ううん、吉井君が頑張ったからよ。はい、返すわ」
成績表を受け取り鞄にしまう。ふう……ここからだな。
「それで……その、この前のことなんだけど……」
「…………吉井君、そのことは……」
「ごめん。無神経かもしれないけど、聞いてほしいんだ。僕はまだ何も言えてないから」
「…………」
木下さんはまた俯いてしまう。けど、やっぱり逃げちゃだめなんだ。
「あの時……その、木下さんに何もしなかったのは間違いじゃなかったと思う」
「……うん」
「僕は木下さんに……伝えたいことがあったから。先にそれをちゃんと言わなきゃダメだと思ったんだ」
「えっ……?」
さあ、言ってやれ。余計なことは考えずに、ずっとあった気持ちをそのまま。
「僕は、テストが終わったからって木下さんと一緒にいられなくなるのが凄く嫌だった」
「…………うん」
「勉強は好きじゃないけど、木下さんと勉強するのは楽しみで、なんでもないこと喋ってるだけで楽しくて、それがずっと続けばいいなって思ってて」
「……うん、うん」
「それで……僕は」
言いたい事なんて、最初から一つしかなかったんだ。

すごく綺麗で、頭が良くて、怒ると怖くて、笑うとかわいくて、負けず嫌いで、意外と照れ屋で、何よりすごく優しい。
そんな木下さんを、僕は……僕は!
「僕は……優子さんのことが、好きなんだ!」
「…………吉井君!」
目の前にいた木下さんが勢いよく抱きついてきた。しっかり受け止めて背中に手をまわす。
「ホントに、ホントにアタシでいいの?」
「うん、木下さんじゃなきゃいやだよ!」
「ありがと……ありがとう。アタシも明久君のこと……好きだよ」
抱きしめる腕に力を加える。木下さんは顔をあげて、涙のせいで少しだけ赤くなった瞳でこっちを見つめて――
「今ならもういいよね……? キス……して?」
「……うん」
「…………んっ」
僕は初めて自分の意志で、好きな女の子にキスをした。

「ね、ねえ木下さん、そろそろ離れたほうが……」
「い・や・よ。このくらいはいいじゃない、恋人なんだし」
図書館からの帰り道、木下さんはずっと腕を絡めてきている。その……柔らかい部分を意識しちゃって大変なんだけど離してくれる様子は無い。
「で、でも誰かに見られちゃうかもしれないし」
こんな状況をFクラスの奴らに見られたら、どんな酷い目に会うか分からないし……。
「……ふーん。吉井君はアタシなんかと付き合ってるの知られたくないんだ、そうなんだ」
「なっ、そんなわけないよ! むしろ僕にはもったいなくて、みんなに自慢したいくらいだよ!」
「ありがとっ! それなら腕組むくらいいいわよねっ」
は、ハメられた……。でも、僕も嬉しいからいっか。
「そうだ、木下さんに頼みたいことがあるんだけど」
「あら、何かしら?」
「えっと、これから先も勉強教えてほしいんだ。来年の振り分け試験に向けての」
「うん、もちろんいいけど……ふーん、振り分け試験ねぇ。何か目標でもあるのかな?」
くぅ……、絶対分かってるくせに……。もう、知るか!
「せめて……来年くらいは木下さんと同じクラスになりたいから。もっと木下さんと一緒にいたいんだ」
すると、少しだけ木下さんも顔を赤らめて、嬉しそうにしてくれた。
「それなら、今までよりビシビシやるわよ? 絶対にAクラスになってもらうんだからね?」
「うん、頑張るよ」
「ふふ、その意気よ」
きっと大丈夫。木下さんとならきつくても耐えられるよ。


「あ、ところで聞きたいことがあるのよね」
「うん、何?」
「えっと、アタシは初めてだったんだけど……、吉井君はどうなのかな、って」
「どうって、何が?」
「その、…………キス、が」
……察しろよ僕! 二人揃って赤くなる。でも、キス……か。そういえば……。
「えーっと、あの、あるって言うのか……むしろ、その」
しどろもどろになる僕を見て、木下さんは一気に不機嫌そうな表情になって……。
「ふーん、あるんだ。そうよねー、吉井君はモテるもんねー。前に誰かと付き合ってたとか?」
「ちっ、違うよ! モテてなんかないし、彼女がいたこともないよ! あれは、勘違いで……その」
「へー、じゃあ付き合ってるわけでもない女の子とキスしたんだ。アタシの時は拒否したのにねー」
「いや、あの時とは状況が違って、なんていうか、とにかく違うんだよ!」
だめだ、この誤解だけは何としても解かないと。
必死で言葉を探していると、木下さんが目の前に立って、両手で僕の顔を固定してきた。
「何回?」
「へ?」
「だから、何回したの? キス」
「い、一回だけだよ! あれは、ほんとに勘違いで……ん!」
「んっ…………」
訳も分からぬ内に唇を奪われた。一度目より少し長く唇が触れ合って、離れるのを名残惜しく感じる。 
「これで二回目だから……、アタシが一番よね?」
そういうこと、か。――嬉しい。木下さんの気持ちがほんとうに嬉しくてたまらなくて、思わずそのまま抱きしめた。
「絶対、絶対間違いなく、木下さんが一番で、誰より大好きだよ」
「……うん!」
大好きな人と気持ちが通じて、こうして抱き合えて……。告白して本当に良かったって、心の底からそう思えた。

エピローグ

さて、今日は日曜日。秋晴れの空の下、僕は…………全力で走っていた。
「なんで、こんな時にかぎって寝坊しちゃうんだ僕は!」
木下さんに告白して恋人関係になってから今日で三日目、……まだ二日しか経ってないなんて思えないな……。

テスト明けの金曜日、校門をくぐった瞬間にFクラスの連中に取り押さえられて、有無を言わさず有罪判決&拷問三昧で、朝からボロボロになった。
それにしても……皆知ってたってことはつまり、(僕は誰にも言ってないから)木下さんから聞いてFクラスに広めた人物がいることになるよね……。
木下さんからその話を聞ける人で、尚且つFクラス所属……唯一の味方に裏切られた気分だ。
更に、その後には美波と姫路さんによる尋問が待っていた。
二人とも、まさに根掘り葉掘り聞いてきた。僕の話なんておもしろいのかな? まあ女の子は恋愛話が好きだって言うからね。
でも最後に二人揃って『私(ウチ)、まだ諦めません(ない)から!!』って言われたんだけど……どういう意味だったんだろう。
その時雄二は呆れた目で、何故かそこに居た霧島さんは出来の悪い子供を見るような目でこっちを見ていた。
……ホントに何だったんだろう?
お昼休みには木下さんが教室まで誘いに来てくれて、一緒に屋上でお弁当を食べた。しかも! なんと木下さんの手作り弁当!
何度か料理を教えたことはあったけど、正直こんなに短期間で上手くなっているとは思わなかったよ。
卵焼き、マカロニサラダ、ミニハンバーグなんかのおかずがあって、ご飯は炒飯にしてあった。
僕が教えたメニューを、お弁当として作るために何度も練習したらしい。なんていうか……こんなに幸せでいいんだろうかって気さえしてくるよ。
そのうえ……お互いに卵焼きを食べさせあったりもしたんだよね。さすがにかなり恥ずかしかったなぁ……。木下さんも顔を赤くしてたしね。
その後、教室に戻ったら……屋上での行動を監視カメラに押さえられていたみたいで、本日二度目の拷問を受けるはめに……これじゃ体が持たないな……ははは。


さて、本日は日曜日。普段より静かな駅の近くで、アタシは人を待っていた。
「待ち合わせの時間過ぎてる……、もう、寝坊でもしたのかしらね」
今日はアタシたちにとって初めてのデート。遅れている恋人の姿を探しながら、今日の予定を決めた時のことを思い出していた。


テストが終わって、週末に入った土曜日。テスト前までと同じように吉井君の家を訪問した。
新たな目標を掲げた吉井君の頼みを了承して、今までと同じ週三日の勉強会を続けることになった。
吉井君は今まで以上に集中して勉強に取り組んでいた。……その横顔に見惚れてたのは秘密にしておこう、うん、それがいいわ。
振り分け試験まではあと半年程。それまでにかなり成績を上げなきゃいけないけど……きっと大丈夫、吉井君ならできるはず。
そうなって来年、吉井君と同じクラスで過ごせるなら……どんなに楽しくなるだろうかと想像して心が弾む。アタシも頑張って教えなきゃね。
あ、あとやっぱり二人きりでいるのは緊張しちゃうのよね。まあ、今までもそうだったんだけど……。
でももう恋人同士なんだし……、何があってもおかしくないわけだし……、いろいろ考えちゃってやっぱり冷静でなんかいられないみたいだわ。
それに実際、休憩の時とか終わった後とかには寄り添って座って触れ合ったり……目線が合って、そのまま……キスしちゃったりしたし……。
あ、でもそれだけよ!? 正直、あの時のアタシは本当に混乱してたみたい。今じゃあんな大胆なことはとてもできそうにないよ……。
いっそ吉井君からきてくれればな……って、やっぱナシナシ! 今はすごく幸せだし……うん、しばらくはこのままでもいい……かな?
そのあと、帰り際に今日の事を提案してみた。
テスト後とはいえ気を抜けないのは確かだけど、適度な息抜きは必要だしね。……それに、ちゃんとしたデートをしてみたかったし。
吉井君も、勿論とばかりに了承してくれて今日の予定が決まったわけ。

あっ、来た来た。うーん十五分遅れってところね。
「きっ、木下さんごめん。その、つい寝坊しちゃって……」
ふふ、ほんとに寝坊だったのね。今日が楽しみで眠れなくてとかだったら……さすがに自惚れすぎね。
「もう、せっかくのデートなのに遅刻なんて……」
そんなに怒ってはいないんだけど、ちょっと機嫌悪そうにしてみる。待たされたのは事実だしね。
「ご、ごめん。そのかわり何でも言うこと聞くから……」
そんなに簡単に人権を売り渡していいんだろうか。そもそも吉井君にして欲しいこと……ま、まあいっぱいあるけどここじゃあね……。あ、そうだ。
「じゃあ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「あ、うん。何かな?」
付き合いはじめてたったひとつだけある不満をこの機会に直してもらおう。
「その、付き合ってるのに『木下さん』なんて呼び方は堅すぎないかなって思うんだけど……」
人のこと言える立場じゃないけどね。アタシも一度しか名前で呼べてないし。
「そ、そっか、なんか慣れちゃってて」
「ふふ、そうかもね。でも変えてくれたら嬉しいかな」
「うん、わかったよ。えっと……優子さん」
うん、やっぱりこの方が嬉しい。嬉しいんだけど……もう少し欲張ってみようかな。
「うーん、さん付けはちょっとねぇ。アタシたち同い年なんだし呼び捨てでいいのになー」
「うえっ!? ちょっとそれはハードルが高いんじゃないかと……」
「そんなことないない。はい、どうぞ?」
あ、困ってる困ってる。ホントは名前で呼んでくれただけで十分なんだけど……どうせならもっと嬉しいほうがいい。
「ほらほら、電車もうすぐだし遅くなっちゃうよ?」
うーん、ちょっと無理かな? まあ仕方がない――
「……よし、じゃあ行こうか、優子」
凄い、吉井君顔真っ赤。かく言うアタシもかなり危ないんだけど。うん、いい、これはいいわね……。
「うん、ありがとね! 吉井君!」
「って木下さんはそのままなの!?」
あ、また元に戻ってるわよ?
「だって吉井君が言う事聞くって言ってくれたのよね?」
「そ、それはそうだけど、その……」
ああ、吉井君といるだけで本当に楽しい。今も……これからも、ずっとこうしていられたらいいな。
でも神様になんて願わない。努力するのは自分、そして誰よりも感謝したいのは……。
「ね、ちょっと耳貸して」
「え? う、うん」
そういって肩を少し落としてくれた吉井君の耳元に口を近づける。

「ありがとう。大好きだよ、明久!」

<終>

このページへのコメント

とても面白いかったです!かなり好みの作品なので、出来たら続編が見てみたいです

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Posted by STARTER 2015年06月14日(日) 00:16:34 返信

とても面白いかったです!かなり好みの作品なので、出来たら続編が見てみたいです

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Posted by STARTER 2015年06月14日(日) 00:16:31 返信

この作品は、実に興味深い続編、楽しみに待ってます

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Posted by アクロマ 2013年05月06日(月) 20:03:14 返信

続編、楽しみに待ってます

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Posted by アクロマ 2013年05月06日(月) 20:02:43 返信

かなり面白かったです。出来ればこの続きが読みたいです♪

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Posted by バカテス 2012年10月18日(木) 21:15:23 返信

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