その他85

昔々――昔話の始まりは大抵この言葉から始まる。

かつて通常の人間よりも秀でた技術力を持つ古代人が住んでいる世界があったという。
遥か昔にその世界を襲ったのは、強力なモンスターの驚異。
それに立ち向かったのは勇敢な七人の戦士。彼らは決死の覚悟で戦い驚異を払った。
戦いに勝利した彼らを人々は尊敬と畏怖の念を込め『七英雄』と称えた。
だが、時が経つと共に英雄の名は地に墜ちていく。
増長する七英雄の力を恐れた古代人は、彼らを異次元の彼方へと追放し、自らもその技術によって他の次元世界へと渡った。
古代人は新たなる世界をミッドチルダと呼び、そこで繁栄を築いた――。
ミッドチルダは聖王教会に伝わる古い古い御伽話のような言い伝えである。

七度の大規模な次元震を感知した時空管理局。事実を知る者は多かれど、その原因までは誰も知る由もなかった。
しかし、聖王教会の騎士カリムはその理由に思い当たった。
ミッドチルダの始まりの伝説。気の遠くなる程の時間を経た伝説の真偽など、カリム自身も本気で信じていた訳ではない。
それでもロストロギアと呼ばれるもの――世界に散らばる超技術の結晶は、高度な文明を築いた何者かの存在を裏付けている。
七英雄はいつか必ず、彼の世界に帰還するだろう。彼らは間違いなく自分達追放した古代人への復讐を考える。そして何百年、何千年掛かろうと、やがては古代人の技術の残滓を残すミッドチルダへも辿り着く。
もしも彼らが戻ったならば、彼の世界に赴き如何なる手段を以ってしてもこれを討ち滅ぼせ。
これもまた、教会の騎士にのみ伝わる掟――なのだが、何百年も経った今、既に風化したに等しい。
教会の者でさえ、そんな御伽話のことは目先の問題に殆ど忘れ去られていた。次元震にしても、その原因を彼らの帰還と考える者など誰もいない。
それでも彼女だけは調査の必要があると考えていた。それは彼女の稀少技能の預言の一部にある。
『始まりの地。凍てつく氷の中に七つの太陽が落ち、その光と炎は遍く全てを呑み込む』
だが、管理局地上本局はカリムの要請を一笑に伏した。盥回しにされた挙句、カリムの要請をまともに受け止めたのは友人でもある八神はやての機動六課のみという始末。
管理局全体の協力を得られなかったのは残念だったが、優秀な魔導士が揃う六課ならば十分だろう。それに結局は数の問題ではないのだから。


カリムは何重ものセキュリティを通り、六課の面々を教会の中枢へと通した。
そこは十人程で一杯になる薄暗い小部屋。壁や天井にはびっしりと謎の言語で呪文らしきものが書き込まれている。
不規則に並ぶ石柱――解らないだけで何らかの法則はあるのだろうが――に埋め込まれた様々な宝石、中央には複雑な魔法陣が描かれていた。
「これは……ジュエルシード!?それにレリックも……」
驚きの声を上げるはやてにカリムが答える。
「はい。これらはジュエルシードやレリック、他にも様々古代技術の粋が詰まっています。言わばこの部屋自体がロストロギア……。その全てが未だ解析されておらず、いつからここにあるのかは私にも解りません。
用途は一つ、別の次元世界とミッドチルダを一瞬で結ぶ転送装置です」
管理局が協力を渋ったのは、この得体の知れないロストロギアでしか、彼の世界に渡れないからでもあった。
宝石から放たれる光がカリムの頬を淡く照らす。
「私が……いえ、聖王教会の総意としてあなた達、機動六課に彼の地と七英雄の調査を依頼します」
預言にはこうも書かれていた。
『光を打ち消すのは幾重にも連なる死者の影』と。

一回に転送できる人数は二人。しかも一度往復した者には二度と反応しない。カリムが身を以って試したことだ。
最初に渡ったのはライトニング隊長フェイトと教会騎士シャッハ。眩い光に包まれた彼女達が辿り着いたのは異形のモンスターが蠢く洞窟。後に知ったが、どうやら『封印の地』と呼ばれているらしい。
そこで二人が出会ったのは、小国の皇帝とその皇子――。

ここから始まった戦いを後に、彼の世界の多くの歴史家達が記している。
だが、歴史書のどれを紐解いても異世界の魔導士の存在は書かれていない。
それは吟遊詩人の詠う詩の中に――。
それは数百年の永きに渡る遥かなる戦いの詩。偉大なる代々の皇帝とその仲間達の詩。
その英雄譚の中にのみ――彼らの存在は詠われている。

――この詩を詠い終えられるよう、精霊よ。我に力を与えよ!――

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2007年07月29日(日) 08:28:53 Modified by beast0916




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