その他97

「…あなた、は?」

私の名前はOVERS・SYSTEM
七つの世界でただひとつ 夢を見るプログラム

「ここは、どこ?」

これよりあなたの舞踏の場となる世界へ通じる
一歩前の空白に位置します

「舞踏、なんのこと?」

退場を余儀なくされた戦士達に代わり
私とMAKIは 新たなる絢爛舞踏を必要としました

「…つまり?」

これよりあなたが送り込まれるのは、2252年の火星
汎銀河大戦の終結により大不況に陥った同惑星の人的被害を可能な限り減らし
全宇宙に百年の平和をもたらすことが あなたに求められる役目です

「そんなこと言われても…」

貧困から宗主国である地球への反感が強まり独立運動が激化
それに対する弾圧は強まり続け 宇宙全体に政情不安をもたらしています
まずは火星の独立を目標に行動してください

「いや、だから…」

私の名前はOVERS・SYSTEM
七つの世界でただひとつ 夢を見るプログラム

「話をっ、聞いてってばぁーっ」



こうして機動六課は、火星独立戦線唯一の戦闘潜水艦『夜明けの船』のクルーにされた。
全宇宙に百年の平和をもたらすその日まで、ミッドチルダには帰れない…



◆        ◆        ◆


2253年 2月10日


「…やりきれないわぁ」
『夜明けの船』艦長、八神はやてはデータブックからニュースを見、一人落胆していた。
今日もまた、見慣れた字面が火星ニュースの記事に踊っているのだ。

『都市船イシディスで780万人死亡 革命派による虐殺か』

火星解放戦線最高指導者ヤガミ・アリアンの忠告に背き、物流操作のための海賊行為を良しとせず、
わがもの顔でのし歩き貧民達を十万単位で虐殺して回る地球軍とその同盟戦力を叩いて叩いて叩きまくり、
TV局を制圧してはアジテーション演説をくり返し、
そしてついに選挙での火星解放戦線勝利にこぎつけ、火星の独立を果たさせてみせたはやてであったが、
2253年に入り、一度は回復しかかっていた火星経済に致命的打撃がふりかかったのだ。
木星水資源公社『シスターズ』の台頭である。
火星は、全土を覆い尽くすその豊富な水資源を水素燃料に加工、その対外輸出が基幹産業となっていたが、
それよりもはるかに低重力下から水資源の打ち上げが可能である木星には、コストにおいて太刀打ちできなかった。
結果、火星の水打ち上げ事業は、生産が軌道に乗った木星に駆逐されつつある。
売れなければ儲けはない、儲けがなければ、社員に給料は払えない…水資源系企業の首切り多発。 失業者増大。
喰うにも困る人々は犯罪を起こし、それすらもできぬ人々は餓死。
それが現体制への非難につながっていくのは当然で…
それを内乱分子とみなして弾圧、虐殺しているのは、他ならぬ革命派…八神はやてが全力でバックアップした、火星解放戦線。
一体、なんのために戦ってきたのか?
十五億人いた火星人口は、たったの七ヶ月ちょっとで、八億前後にまで落ち込んでしまった。
火星経済の回復、プラス、独立による貿易の自由獲得の効果で、誰も死ぬ必要のない状況に持ってこられるはずだったのに。
変革すべきは水資源頼りの火星の経済構造そのものであったと今頃になってわかったところで、死んだ七億人は戻って来ない。
そしてこれからも死ぬだろう。 虐殺と餓死が、ニュースの紙面でワルツを踊る様が目に見えるようだった。

「アリアンが言うてたんは、これのことだったんやな」
ため息ひとつ、データブックを閉じて艦橋を離れる。
水測長アルトと、航海長グリフィスは、相変わらず忙しくコンソールをいじり回していた。
そのすぐそばで、飛行長席についていたリィンが、ぽてりと地面に落下する。

艦橋 で リ ィ ン  が  倒   れ    ま    し    た

流れる艦内放送。
床を滑走している多数の作業機械『BALLS』が、ただちにリィンを運び出していく。
八神はやては顔をしかめた。 またかいな、と。
飛行長というのは、それほどの激務なのだろうか?
なのは達、飛行隊の管制になら丁度よかろうと、リィンをつけたのは間違いだったかもしれない。
エレベーターホールに出てきたところで、副長のティアナが声をかけてきた。

「…ちょっと、いい?」
「バカヅキやな」
余勢の有り余っている副長に、はやては応える。
もっとも、地球その他の大艦隊に連日連戦連勝を収め続ける『夜明けの船』に、
余勢のない人間などすでに一人も居はしなかったが。
ちなみに、タメ口は禁止していない。 ここにいる間は、元の世界の地位に意味などないのだ。
ヤガミ・アリアンが言うには、これも『夜明けの船』の流儀らしい。

「疲れた顔してるわね…」
「…なんのことや? わたし、元気やて」
「…………」
口ごもったティアナは、そのままはやての前を辞した。
どうも、心配をかけてしまっているらしい。
だが、艦の頭が弱さを見せるのはいけない。
ここはひとつ、食事でもしてきて精をつけよう。
そう思い、エレベーターで下甲板に出てきたところ。

(…なんや?)
そろって、エレベーターに乗り込む二人と出くわした。
あれは、なのはと、ユーノ。
なのはは飛行隊に所属し、人形、ことRB(ラウンド・バックラー)『希望号』のパイロットとして巨大な戦績を上げている。
撃墜スコアは120を数えるのに、敵にすら死者を一人も出していないという、別の意味のおそろしさも兼ね備えながら。
一方、ユーノは看護士である。 『夜明けの船』艦内の医療部門を統括する軍医長、シャマルの片腕として、彼もまたかいがいしく働き続けている。
機動六課がまきこまれた中に、どうして彼だけいるのか、かなり疑問ではあったが…今となっては、気にしない。
二人とも、まだ仕事時間中だが、こんな時間に一体、何を?
気になったはやては、迷わず後を追いかけた。
行き着く先は、士官個室201…なのはの個室。
気づかれぬようドアを開け、壁を背に、奥の様子をうかがい、音を聞く。
正直、この時点で、何が起こっているのか、想像はついていたが。

「じゃあ、最初は首ね」
「こう、かな…」
「ん…いい感じ。 次は、肩…」
ベッドの上に寝転がったなのはが、
ユーノに身体をまかせて気持ちよさそうにしている。
ときに強く、ときにリズミカルな指づかいを感じとるように、
ふぅ…とか、はぁ…とか、吐息を漏らしているのである。
…婉曲な表現はよそう。
簡潔に言うと、マッサージだった。 れっきとした医療行為だ。
飛行隊は出撃にそなえて四六時中、訓練し倒しであるから、
身体がガチガチに凝ってしまうのは当然ではある。
しかし、にしても。

(ユーノ君…手つき、やらしーっちゅーねん!)
無意識に右手が空中にツッコミを飛ばしていた。
そういえば思い出した。
以前、フェイトがしてきた話のことを。
いわく。
『二日前、個室でなのはの身体をいやらしく揉んだ。 そのときは、ひどく乱れた気持ちになった』
…ぶっちゃけ、死ぬほど反応に困ったのは言うまでもないだろう。
『あれはよかったなぁ』
などとのたまって思い出に浸っているのを適当に流して大急ぎで退散したが。

「気持ちいい…じゃ、お尻も」
「え、お尻って…こ、こう?」
「ちょ、ちょっと、ほんとに触らないでよ、えっち〜」
見ていてゲンナリな光景である。
いや、最初から出歯亀しなければよかったのだが。
いっそのこと、ふたり照れてお見合い状態になっていたり、
寄り添いあってキスをしていたりであれば、ほほえましい気持ちで見ていられたのだろうが…
マッサージなんかをさせておいて本人に『その気』がまったくないのが、なのはのおそろしさだと、はやては直感していた。
恥じらいを顔いっぱいに浮かべているユーノが、ベッドから立ったなのはを呼び止めて、

「なのは…」
「なぁに?」
「その……寝ない?」
「嫌…」
…見事な一蹴だった。
ユーノの大人技能は多分、この先ずっと、10のまま。
がっかりしているのを放って、部屋の外に出てきたなのはは、
急いで脱出していたはやてを目敏く見つけて、言った。

「お願いしたいことが、あるんだけど…」
「なんや? 言うてみ」
「マッサージ、してほしいんだ。
 身体があちこち、きしんじゃって…」
はやては、色々と理由をつけて、断った。



次回、「戦慄! キャロの大人技能を上げた奴は誰だ?」に、続かない。

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2007年08月12日(日) 11:35:46 Modified by beast0916




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