なのはStS+φ’s正伝11話

「まさか六課自慢の空間シミュレーターの機能すらおかしくさせるなんて……」
「……すみません、わたしがあんなことをやったから」

午前中の最後の訓練、起こってしまったアクシデントのせいで大ダメージを負った
2人の体調のこともあり午後の訓練も途中で区切ることとなってしまった
ディバインバスターとクリムゾンスマッシュがぶつかり合ったことで生まれた魔力の余波は
空間シミュレーターで作られた建物を切り刻んで破壊していった。
さらにサーチャーどころかシミュレーターの機能すら阻害させると言う事態にまで陥ったのだ。

「そんなこと……私はスバルさんのせいじゃないと思います」
「そうですよ! これは全部あの人が」
「落ちつきなさいって、今はデバイスの修理と隊長達の話を聞く事が先でしょ?」
「でもティアナさん……くっ!」

原因の一端を担ったことで落ち込んでいるスバルをそれぞれキャロとエリオがフォローする
特に今回の模擬戦でエリオは巧に対する敵意を募らせていた。
巧が蹴り飛ばしたときに倒れた反動でストラーダが破損してしまったこともあるが
何よりも目の前のモニターには先程の模擬戦の光景が映し出されている
巧がスバルを一方的に殴り続けた後にグランインパクトを放った瞬間の映像に全員の目が止まる。
その一方的な戦いの光景がエリオの怒りをさらに増大させていた
それはなのはとフェイトも同感だったらしく声色がいつもと違っている。

「改めて見ても……手加減が無いね。相手が女の子と子供だからって容赦はしないってわけか」
「戦闘では当たり前のことなんだけど・・・こうまで徹底的にやられるとちょっと気分が悪いかな」
「シャーリー、それでどうなのかな? あの人とあのデバイスの能力って」
「・・・解析が完全ではないのですが、少なくともあれは通常のデバイスとは違い過ぎます」

その後に彼と実際に戦ってみてどう思ったのかとなのはとフェイトに問われたが
感じたことをそのまま口に出すエリオとは違いスバルは何も話すことはできなかった。
ディバインバスターまで使っていた自分が怖かった、身体が動いてしまっていた。
あたかももう一人のスバルが突如身体を乗っ取り巧を攻撃したかのように……
スバルは表情を暗くしていることに気付いたなのはだがその理由までは理解することはできない。

「……スバル、今日のことはあまり強くは言わないけど今度から気をつけて」
「はい、すみません」
「自分を失わなければ今日みたいに挑発されても冷静に戦える。そうすれば負けないから」
「わかりました……え? 挑発?」

なのはの言葉が引っ掛かったスバルは言葉を繰り返した。挑発……何の事だろう
彼に不意打ちをしたも同然なのに、逆上って……わからない
わたしが気を失っていた間にいったい何があったのだろう

「挑発って何の事ですか?」
その問いに答えたなのはとフェイトの言葉にスバルの思考は一瞬だけ凍ってしまった。

「おらおらおらぁぁぁっ!!」
「だぁぁぁっ!!」

日も沈みかける夕焼けが緑の森に色をつけている、誰も立ち寄らないほどの奥深くで
人間……魔導師らしき男と巨大な異形の生物が格闘戦を繰り広げている

「許さない……おまえだけは絶対に許せないんだ!!」
『……そうなんだ』

男のほうはどことなくファイズを連想される黒いバリアジャケットを纏っている。
違うのは巧は赤いラインをしているが青年は白いラインをしていた。
相手は空想上の生物、男はその姿を一度たりとも忘れたことはない
龍を思わせる姿形を表したドラゴンオルフェノクの姿を

「父さんたちの命を……皆の幸せを奪ったおまえだけは、ぜったいに許さない!!」
『じゃあ私の幸せはどうでもいいの? そんなのひどいよ……』
「沙耶ぁっ!!」

男が激昂しドラゴンオルフェノクを殴り飛ばそうとするが無骨とも呼べるほどに大きく硬い外殻が阻む
何度も拳を叩き付けて蹴り飛ばすがダメージはそれほどではないように見えた
ドラゴンオルフェノクの両腕に装備されている巨大な手甲―龍の頭を模したガントレットが男を狙った

『流星塾の仲間と一緒にいた頃が私の一番の幸せ……それを奪う奴等が許せない、だから殺したの』
「ふざけるな、おまえなんか仲間じゃない! ただの人殺し・・・ぐぁっ!!」
「シュウジ! この・・・怪物ヤローがっ!!」

上から殴り飛ばされ地面を転がった男はそのパワーに押されてい
殴り飛ばされた男を見て人間の頭ほどしかない少女も怒りを露わにして
立ちはだかり複数の炎を投げつけて攻撃するが龍頭装甲でガードされる。

「くそっ……デルタムーバー、ファイア! "Burst Mode"」

その後ろからシュウジと呼ばれた男が銃型デバイス『デルタムーバー』から白い光弾を連射して援護
少女が放った炎を狙ったそれは全段命中し龍頭装甲に罅を入れるが完全には破壊できない
攻撃力だけではなく防御力も高い……周囲を気遣っているとはいえ全力が出せない事に少女は悔しんでいる。

「おいシュウジ! これちょっとやばい…逃げたほうがいいんじゃないか!?」
「・・・まだやれる! アギトちゃんはルーテシアのところに行って!」
「ルールーは強い、それに旦那が守ってくれてる……今はおまえのほうが心配だ!」
「バカにするな! 俺はまだ……こいつを倒すまで俺は!!」
(やばい……シュウジのやつ、また感情が不安定になってる……!)

アギトと呼ばれたミニサイズの少女の問いに答えて魔導士の男シュウジは立ち上がる
今はここで会うなどと思っていなかったが仇敵と戦っている最中なのだ。
ルーテシアの探し物を手伝っている最中にまさかこいつと出くわすなんて……!

〔ここで死んだら仇が討てなくなっちゃうぞ! いいのか!?〕
〔その仇は目の前にいるんだ! ここで差し違えてでも……〕
〔おまえが死んだらルールーも泣いちゃうぞ!? 言う事を聞きやがれシュウジ!〕
〔……!〕

シュウジがここまで怒る理由。その原因にアギトは心当たりがあり内心では限界まで戦いたかった。
自分を助けてくれた人間の一人であるシュウジが内緒で話してくれたこと
どうやら彼はこの世界の人間ではないらしく別の世界から突如やってきたこと。
彼の所持している銃型ストレージデバイス『デルタムーバー』は彼の新しい両親の形見だということ
特に家族と仲が良かった彼はどうにかして仇を取ろうと必死だった。

『せっかく会えたのにね…残念だけど終わりだよ、三原君』
「……ちっくしょーっ! アタシがシュウジとまともに融合できれば・・・・・えっ!?」

森の奥から聞こえてくる音にアギトは耳を澄ました、地面を蹴る音……それは紛れもなく足音。
しかし人間よりも遥かに速く走ってくるだけではなく足音の間隔も短い

「……しょうがない、こうなったらデモンズイデアの力を全開に」
「待てシュウジ! 何かが来る……速ぇ! なんだよこのスピードは!?」

アギトの声にシュウジが反応するより早くドラゴンオルフェノクが衝撃をまともにその身に受けた。
遥か遠くまで弾き飛ばされていくドラゴンを見てシュウジとアギトが呆然とした。
そしてドラゴンオルフェノクを突き飛ばした張本人は……オルフェノクの姿をしていた

しかし龍ではない……身体に腕や足、全身に満遍なく生やしている刃と腕に握るメリケンサック
狼の特質を持つウルフオルフェノク――それは乾巧のもう一つの姿。
2人の叫び声を耳にして即座にウルフへと変化していた巧はドラゴンを撥ね飛ばした。
一目だけシュウジとアギトを少しの間見つめたまま驚いていたが
すぐに気を取り直してドラゴンオルフェノクを追った……自分の敵と戦うために

「な・・・・なんだったんだよ、今のは」
「まさか、俺達を助けてくれた…のかな?」

アギトとシュウジは突然の出来事にウルフオルフェノクを見つめるのが精一杯だった

「うおおぉぉぉぉっ!!!」

雄叫びを上げながら再び近づきドラゴンに向かって両足を突き刺そうとするが、龍頭装甲に阻まれる
罅が大きくなったのを見てすかさず身体ごと体当たりした巧はそのまま空中で高速回転し続けて攻撃
ウルフオルフェノクの全身の刃が龍頭装甲を傷つけ罅を広がった瞬間もう一度両足を突き出す
時速300km以上の速さを生み出すほどの強靭な両足が手甲を砕きドラゴンを鎧ごと蹴り飛ばした

『おまえも人間の味方をするのか・・・オルフェノクが人間の味方を・・・』

ドラゴンの鎧が灰となって崩れ去り始める、倒した……いや違う。
あの程度で倒せるような相手ではないことは既にわかっている。
完全に崩れる前に顔が叩かれた、そう巧が気付いた瞬間にはすでに20発以上殴られていた

ダメージは少ないものの敵の攻撃が速すぎる、先程までの鈍い動きとは雲泥の差である
殴られたとわかった瞬間にはこちらの攻撃が届かない距離まで逃げられている。
しかしスピードは劣るものの俊敏さなら巧のほうが一枚上手だった。

『なぜ人間を襲わない・・・? 襲え、人間を襲え・・・人間を殺せ・・・!!』
「おまえなんかに命令される筋合いはないんだよ!」

鎧を脱ぎ捨て龍人態となったドラゴンオルフェノクのスピードについていくために
巧の両足が赤い光に包まれ変化し足が一回り長くなり関節が増えより強度が増す
ウルフオルフェノクの最大の特徴である瞬発力と俊敏さをさらに上昇させる“疾走態”へと変化させた。
地面を蹴る音よりも遥かに速く動ける龍人態の動きに必死にくらいつく巧
肉眼で認識することが不可能なほどの超高速同士が幾度となくぶつかり合いすれ違う。

『しつこい……!』
「何!?」

なおも攻撃を続けようと飛びかかった巧に対してドラゴンオルフェノクは再び魔人態に変化。
右腕に残っていた龍頭装甲を突き出した、既に飛んでいた巧に避ける術はない。
両腕でガードはしたもののカウンター気味に当たった巧は背部の木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。
先程の模擬戦で怪我をした背中がまた痛み、受けたダメージと衝撃のせいで両腕が痺れている

立ち上がったところを何かに切り裂かれた、突然背中に走った激痛によろめいたところを
真正面から切り裂いたその武器はファイズエッジと同じく剣状となっていた『カイザブレイガン』
その武器の持ち主は……黄色のラインと紫の瞳、それは草加雅人が変身していたカイザだった。
しかし草加の持っているカイザのベルトは木場勇治がすでに握りつぶしている

(おい・・・カイザのベルトは一本じゃないって話は本当だったのかよ・・・!)

しかしそれだけでは終わらなかった、ドラゴンオルフェノクが発した言葉が巧をさらに驚かせる。
カイザに向かって有り得ない人物の名前、いるはずのない人間の名前を吐いていたのだから。

「雅人、あとは一人でできる? ……私は今から三原君を殺してくるから」
雅人……草加雅人。少しの間だけ巧たちと共に過ごし共に戦った青年の名前だった、だが……
(草加…!? 草加って……バカな、あいつは!)

草加の無残な最後を思い起こす前にカイザブレイガンが再びウルフとなっていた巧を斬りつけた
カイザの攻撃はかつてオルフェノクを必要以上に憎む草加と同じような執拗な攻撃だった。
だが妙だ、明確な敵意は感じられる。……しかし前の時とは何かが違う
その何かを理解しようとしたがカイザブレイガンから放たれた六発のエネルギー弾が直撃して
巧はとうとうウルフオルフェノクから人間の姿へと戻りながら吹き飛ばされてしまった。

なおも倒れている巧に対して光弾を放つカイザ。転がりながら避ける巧だがついに追いつかれる
ブレードモードへと変形したカイザブレイガンの剣先が巧の首に突き付けられた。
剣を引いて巧の喉を突き刺そうとするカイザから言葉が洩れていた

「……敵はたおす、まりちゃんはぜったいに」
「!? 何……」
「ぼくはまりちゃんを」
「―――りゃああああぁぁっ!!!」

カイザから発せられるかすれた声が森一面に広がるほどの大声で掻き消された瞬間
木の中からいきなり飛び出てきた何かがカイザの腹部を思い切り蹴り飛ばした。
その一撃は特殊金属のソルメタル製の鎧で守られているはずのカイザを一撃で薙ぎ倒す。
ただで信じられない光景が巧の前に広がる……蹴り飛ばしたのはただの人間。

(ってあいつは…なんで……!)
「あ痛たたたたたた・・・・痛い、堅ったぁ〜・・・・ううっ」
「おまえ…! なにやってんだこんなとこで!?」

必死に痛みを堪えながらも左脛を抑えて涙目となっている青髪の少女に巧は置き上がって近づく。
カイザブレイガンで切られた場所が痛むが別に走れないほどではなかった。
……そんなことよりもこの少女が足に受けたダメージのほうが遥かにきつかったと思う。

「だ、大丈夫かよ? 痛かったんじゃないのか?」
「んぅ……痛かったぁ。でも大丈夫だよ、鍛えてるからね。」

意外と平気そうだったスバルの姿を見て巧はその頑丈さが少しだけ羨ましいと考えてしまった。

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2007年07月28日(土) 07:49:10 Modified by beast0916




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