なのはStS+φ’s正伝5話

〔―――ファイズ! 聞こえますか、ファイズ!?〕
「むにゃむにゃ……いくら暑いからってかき氷ばっか食うなよ……」
〔ちょっと! 起きてください騎士ファイズ!!〕
「んぅ……うるせえなぁ、なんだよ人が気持ちよく寝てるのに」

眠りについてから約2時間後、もうひとつの目覚まし変わりとしていた声が脳に直接響いてくる。
シャッハ・ヌエラ……と思い出すのに2秒を要したがなぜか声が焦っているように聞こえる
別に起きてやる気はないのだが仮眠を充分にとったと考えて起き上がろうとする
ついでに目が冴えたことを怒ってやろうと巧は地面に生えている草を押し潰すように手をかけた

(ん……地面に草? なんでだ、俺はさっきまで……)

巧が寝ていた場所は小石こそいくつかあったが草が生えるはずがないコンクリートの道だった
だが今は背中と掌に伝わってくる草と散らばった砂利の独自の感触がある
即座に跳ね起きた巧は周囲の状況を調べるがそこは先ほどまでいた場所とは違う
数歩踏み出した後に見下ろした風景、その中で特に目立つレールのようなものがとても遠く小さく見える

巧は今自分がいる場所が崖……山岳だということに気が付くのにさほど時間はかからなかった
唖然としながら周囲を再び見回すと何かが空中を飛び回っている。
それは小型の機械人形とも呼べる物体だが巧はそれに見覚えがあった。

「あれは前にカリムのやつが見せた……ガジェットドローンってやつか!」
〔ファイズ! 応答してください、ファイズ!〕

シャッハ・ヌエラからの念話が伝わってくることに今ごろ気付いた巧は頼み事を返事として返す

〔聞こえてるよ! それよりカリムのやつに繋いでくれ!〕
〔えっ……無理です、今カリム様は会談中で〕
〔そんなどうでもいいことは後回しだ! いいから早くしろ!〕

自分が見ているものを伝えるためにカリムに通信を繋いでもらおうとために慣れない念話で伝える。
言葉遣いがなってないと叱られたが只事ではないことを理解してくれたのかすぐに繋いでくれた
さすがに『どうでもいい』と口にしたことは不味かっただろうが今はとにかく報告が先だ
自分がいた世界なら自己判断で出ていただろうがここは異世界、慎重にならざるを得なかった

〔カリム聞こえるか、巧……じゃなくてファイズだ。 カリム? おいどうした?〕

巧は念話で問いかけるが応答はない。繰り返し呼びかけるがやはり返事は返ってこない
いつもはすぐに応答する違和感を感じた巧だが何度か呼び続けてようやくカリムから返事が来た。

〔カリム……おいカリム? どうした、聞こえてんだろ?〕
〔あ……ごめんなさい、気付かなかったわ〕
〔いや別にいい、それより話が……〕
『教会騎士団の調査部で追ってたレリックらしきものがみつかった!』
『……対象は、山岳リニアレールで移動中!』

巧がカリムに報告しようとした瞬間横から別の女性の声が割り込んでくる
念話とは違う……オルフェノクとしての超越感覚が魔力でさらに強化されているらしい。
耳に入ってくるこの声は聞いたことのない声が聞こえる……アクセントが妙だった。
なまっている、と言い表したほうが良いのかもしれないがここで言う事じゃない。

それよりも巧はその女性が言った『レリック』という言葉に反応する
聖王教会が捜し求めているロストロギアだと前に聞かされたことがあったのだ。
なおもその女性の声が耳の中に入り続けてくる

『内部に侵入したガジェットのせいで車両の制御が奪われてる』
『リニアレール内のガジェット反応は少なく見ても30体……
 大型や飛行型、未確認タイプもでてるかもしれへん』
(リニアレールってモノレールか? コントロールが乗っ取られたってのか……?)

巧が空を見上げると確かにガジェットドローンの群れが空中を飛び回っている
飛行型と聞こえたが名前通りほぼ自由自在に動いている
6分以上も飛び続けられなかった巧はその飛行能力に少しだけ嫉妬した。

〔カリム、取り込み中で悪いんだが……俺はどうやらそのリニアレールの近くにいるらしい。〕

機械にまで嫉妬するようになった自分を笑いながら巧はカリムに向かって念を放つ
視界に入ったレールの上を複数の車両を繋いだ列車らしきものが走っている
巧の魔力反応を調べたところ確かにガジェットとレリックに近い場所にいることを知った

〔どうしてそんなところにあなたが……まさか、また勝手に転移したの?〕
〔ああ……けどよりによってなんでここなんだ、偶然か?〕
〔それはまだなんとも言えないけど、調べてみたほうがいいわね。〕
〔ああ……で、どうする? おまえが決めてくれ、俺はおまえに従うから。〕

隣で自分の部隊にてきぱきと指示を出す女性――部隊長である八神はやてを見ながらカリムは悩んでいた

“即戦力の隊長達は勿論、新人フォワードたちも実戦可能。予想外の事態に対応できる下地はできてる”

何が起きても大丈夫、はやてが口にした言葉を信じてはいたが機動六課はまだ設立して1ヶ月も経っていない
今から出動するとはいえ初出撃なのでやはりそれなりに時間はかかってしまうかもしれない
その間にもし何か予想外の事態が起こったら……その可能性はできるだけ減らしておきたかった。

(それに私もそろそろ彼の実力を見ておきたい……危険かもしれない、けれど彼なら)
〔どうだ、決まったか?〕
〔ファイズ……お願い、できますか?〕
〔ああ、レリックってのを守るんだな? 俺も興味がでてきたぜ〕

どうやらカリムが伝えるはずだったお願い事は巧にはわかっていたらしい。
頼み事を聞き入れた巧は頷いて戦闘態勢を取ろうとするがカリムがそれを引き止める
巧にそこまで任せるには荷が重過ぎると感じ彼の負担を軽くすることにした。

〔それは今からそっちに来る機動六課の仕事よ、あなたはガジェットドローンをできる限り撃墜して!〕
〔わかった、本命の連中が来るまでの間に数を減らせばいいんだな?〕
〔お願いしますファイズ、もし彼らは来ないと思ったら……その時はお願いします〕
〔了解〕
〔……お気をつけて、巧さん〕
〔わかってるよ〕

カリムとの念話を終了させたのを確認し巧はデバイスを右手に握り再び戦闘態勢を取る。
自分が居る場所の周囲を飛び回ってるガジェットドローンを睨みつけながらデバイスを起動。

"Mode Set [Normal Faiz] Standing by!"
「よし、いいぜ!」

起動準備が完了したファイズメモリー――デバイス化したミッションメモリーを握り締め
天を突き上げるかのように高く掲げいつものように単純なキーワードを発する
 
「変身っ!!」 "Complete!"

言葉に反応し再び音声が鳴り響く。瞬間全身をほぼ黒で統一したバリアジャケットが巧に纏われ
ファイズメモリーがバリアジャケットと融合し赤い光が彼を包みこんでいく。
胸部・膝・肘・手・足……より強固な防御力を必要とする部分は銀色に変色。

バリアジャケットに張り巡らされた赤いラインはフォトンストリームに似ている。
それを通路として巧の魔力が全身に行き渡りジャケットの能力を強化。
――顔こそ仮面に覆われてはいないが、その外見は巧の記憶のファイズをほぼ再現していた。

自分の中の魔力を制御して空中を駆け抜け、飛行型ガジェットの一体に向かい突撃する。
突然のことに反応しそこなったそれに向かって繰り出した拳がそのボディを難なく貫通する。
さらに泳ぐように動いていたもう一体が巧の回転蹴りで形を歪ませ爆発し墜落していった。

巻き起こった爆風と火の粉が巧を包むがバリアジャケットの機能で熱は完全にシャットアウトしている
熱いのが大嫌いな巧にとってはこの機能はとてもありがたいものだった。
そして魔力反応をキャッチした周囲のガジェット群が一時的に巧をターゲットに定める。

(ざっと20〜30か……これだけで終わるとは思えないが……)

しかしそれでも巧は戦う事に迷わない。まだ魔法を使って1ヶ月だがやることはいつも決まっていた。
どのような力を持ったとしても目の前にいる敵を倒すという目的に変わりはない。

「付け焼き刃の魔法でも、やってやる……!」

巧がしなやかにかつ力強く右腕ごと手首を振り上げたのを合図に巧のデビュー戦の幕が上がる。
周囲に誰も味方がいないいつも通りの孤独な戦いに巧は挑む。

脅える自身を奮い立たせるような雄叫びが空気を切り裂き、聞く者のいない空一面に確かに響いた。

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2007年06月29日(金) 22:10:05 Modified by beast0916




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