なのはStS因果3話

零式防衛術は敵を殺す技にあらず。
己が愛憎を殺す技なり。
されど、心を無視する技には断じてあらず。
怒りを胸に沈めてはならぬ。
両足に込めて己を支える礎となせ!
友情を胸に沈めてはならぬ。
両腕に込めて友を守る楯となせ!


魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果

第三話 『轟心招来』


「…こんな話をしてたんよ、うち」
退院した覚悟君を誘って、今、お茶してるんやけど、
この恋、実るかフラれるかは即日決まるところやで。
零(ぜろ)には黙っていてもらって、うちの口から全部伝えた。
覚悟君をもの扱いしたことを。 零(ぜろ)をもの扱いしたことを。
それで。
「ごめんなさい」
頭を下げて、謝った。
そんでそっから、さらに調子のいいことをぬかすんや。
ホンマ、最低やな。
「もし、覚悟君が許してくれるなら…
 そのうえで、一緒にうちらと戦ってくれるなら…お願いしたいんや」
これ以上は何も言わない。 いくら飾り立てたって、結局全部うちの都合の話やから。
というか、覚悟君の目を見てると、どんな言葉もかすんじゃう気がするわ。
すっごく澄んでるんよ、透明なんよ。 素直な気持ちだけで話すしかあれへんねん。
それから少しして、覚悟君から返ってきた返事は。
「忠誠無くして同じ禄(ろく)を食むことなどできませぬ」
「…そっか」
「ですから、一介の食客としてご協力申し上げたく思います」
「え…?」
「零(ぜろ)と共に日本へ帰ることだけが望みでありますれば」
この言葉を要約すると…
零(ぜろ)のそばから離されさえしなければ手伝ってもいいよ、別にお給料もいらないし。
でも、ご飯と住む場所お願いね。
…あかん、我ながらミもフタもなさすぎや。
でも、これって、現実的な範囲で最大限の協力やんか。
「ごめんな、零(ぜろ)は管理局の管理になってもーたから…」
「無理もありませぬ。 それよりむしろ、あなたが手元に留めおいてくださったことを感謝せねば」
「零(ぜろ)と話せるの今のところ、うちだけやしなー。 リィンと同じ扱いなんよ」
「零(ぜろ)は今?」
「うちでお留守番の守り神様や。 90キロは乙女の細腕にはキツイて」
覚悟君にしてみても、零(ぜろ)と離れないためには管理局に協力するしかないねんな。
考えてみれば、最初っから人質をとったような取引やなー。
でも多分、覚悟君のことだから、納得いかなければ零(ぜろ)を取り返して逃げるやろ。
管理局員の責任としてそれを許すわけにはいかへん。 ひっどい話や思わんか?
だからこそのお願いや。 約束は絶対に守る。
「うん…ありがとな。 家とかは、うちが責任もってどうにかするわ。
 生活費も出す…必要なら、お金たかってもええよ。
 最大限の身の軽さは約束するて、管理局に縛られんように」
「お手数をおかけして、申し訳ありません」
「ちょっ、謝るんはうちの方やて!
 もー覚悟君と話してると恐縮してまうわー
 それにタメ口でええよ、管理局入りしないんなら上下関係無いやろ」
覚悟君、少し迷ってから、首を縦にふってくれた。
「…了解、これよりは友人として扱う」
「ええ子や」
そうそう、お姉さんの言うことは、素直に聞くもんやで。
第一、十三歳のくせに折り目正しすぎやて…
十五歳で自分の派閥作ろうとしてるうちが言うのもアレやけど。
大人になるって、ホンマ、イヤやわ。





その後は、覚悟君をうちの家に連れてきて、
なのはちゃん、フェイトちゃんも一緒にお話することにした。
もちろん、零(ぜろ)も一緒や。 そのためのうちの部屋や。
前から話してて、明らかに食い違ってるのがわかる部分があったから。
「それじゃあ、覚悟君のいた日本は…」
「二十一世紀初頭の大災害にて全世界もろとも壊滅状態」
「…違うね。 わたしとはやてちゃんの日本は、今日も平和だよ?」
どうも、考えている以上に根が深い問題らしいわ。
管理局に知られている第九十七管理外世界…つまり、うちらのいた地球と、
覚悟君のいた地球は、また別の世界ちうことになる。
そんな話、聞いたことないて。 どないしたらええやろ?
さすがに覚悟君の表情も暗くなった。
「鬼が解き放たれている…早く帰らねば」
「…鬼?」
「現人鬼(あらひとおに)、散(はらら)。
 強化外骨格を得ると同時に、やつは腐り果てた。
 人など守るに値せぬと…討たねばならぬ」
みんな、何も言えなくなった。
覚悟君のひどいケガ、その散(はらら)という人にやられたことは聞いてた。
シャマルも覚悟君のうわごとを何度か聞いてたらしい。
だけど少しして、なのはちゃんが、突拍子もないことを言い出した。
「好きだったのかな、その人」
「何故?」
「悲しそうな顔したよ、覚悟くん」
覚悟君の表情がこわばったのを、うちは確かに見た。
『なんという感受性…覚悟の裏腹の痛みを見抜くとは』
零(ぜろ)が関心したように息を漏らしてる(?)…
ここで聞こえているのは、覚悟君と、うちだけなんやけど。
「余計なことを言うな、零(ぜろ)」
覚悟君が声を荒げるの、初めて見たわ。
…や、それでも、授業中のおしゃべりを注意する先生レベル、なんやけどね。
心を乱したのを恥ずかしい思うたんかな、覚悟君、ちょっとだけしおしおとして座り直しとる。
「父殺しを、兄とは思わぬ…気遣い無用」
「………」
覚悟君、それ、もっとヘビーやで。
つまり、散(はらら)さんは覚悟君のお兄ちゃんで、
覚悟君は、実のお兄ちゃんにお父さんを殺された、いうことやんか。
なのはちゃんも、途方に暮れた顔になってもうた。
仲直り、できるうちにしたほうがいいよ。 そう言いたかったんやね。
でも父殺しって…無茶や。 もう、言葉が見つからへん。
みんな、お通夜みたいにうつむいてる。
そのまま、永遠に続くか思うたわ。




「少し、身体をほぐそうか」
高町なのははそう言って、おれを表に連れ出した。
八神はやてに、零(ぜろ)をわざわざトランクに詰めさせて。
連れてこられたのは時空管理局が訓練施設。
立体映像を具現化させ、実物の廃墟そのままの戦闘領域を再現。
まさに、魔法の産物なり。
そして、ここに来たならば、やることはひとつであろう。
これより同志となるならば当然ということか。
「覚悟くんの強さ、わたし、知りたいな」
彼女は不敵に微笑み、胸元の宝玉を天に掲げた。

轟 心 招 来
レイジングハート セットアップ

白き聖闘衣 着装確認。
あれは高町なのはが超鋼(はがね)なり!
「来なよ…零(ぜろ)さんも一緒に」
「爆芯靴のみ着装にてつかまつる!」
知っているのだ、Sランク魔導師に管理局からの制限あり!
強化外骨格がロストロギアに相当するなれば 全身着装では同じ土俵にあらず。
トランクより射出されし零(ぜろ)の脚部、着装!

覚 悟 完 了
「当方に戦闘の用意あり」

「どこを殴ってもいいよ。 顔も、お腹も。
 そのかわり、わたしも容赦しないから」
「当演習の勝利条件は?」
「お互い納得いくまで!」
「了解!」




…結論から言おう。
この高町なのは、確かに実戦における先達なり!
距離を詰めさせぬ戦いに習熟しており
障害物の間隙より狙い来る狙撃は精妙の域。
直撃すれば一撃にて戦闘不能は確実!
その威力打撃系なれば、零式鉄球が異物防御、まるで意味をなさず!
されど零式防衛術は必勝すべき拳なり。
壁を走りて跳びて、想定される狙点へと先回って打ち込むは、
「零式積極重爆蹴(ぜろしき せっきょく じゅうばくしゅう)!!」
「フラッシュ・インパクト!!」
…読まれていた! 蹴りに蹴りをぶつけられ、両者反動にて距離拡大!
長き距離は全面的に高町なのはの味方なり。
攻撃が届かぬということは無限大の装甲を纏われるも同じ。
レイジングハート砲発射態勢確認。 このまま狙い撃つつもりならば。
「ディバイン・バスター!」
「爆芯!」
推進剤噴射にて飛び上がる。
打ち下ろされし光柱すれすれ三寸わずか!
高町なのはの直下より地を蹴りて肉薄し、水月へ直突撃(じきづき)極めるなり。
気づいたところでもう遅い。 砲口向けるその動作、まとめて威力として返す!
「因果!」
直撃せり。 高町なのは、吹き飛びて廃墟に激突。
白き聖闘衣の上一枚、はじけて消えたり。
なるほど、こうして常人ならば死ぬ威力に耐えうるものか。
だが、聞かねばならぬ。
彼女の元へ近づきて、その身を起こす。
「けほっ…強いね、覚悟くん」
「なぜ、高空より狙い撃たぬ」
「えっ?」
「当方の爆芯にて到達不可能な高空にて狙撃すれば
 あなたの完封勝利であった」
「それは、覚悟くんの方がよくわかってると思うけどな。
 どんなときも、勝てばいいってものじゃないよ」
「………」
高空より狙い撃ちて砲の角度過(あやま)てば
廃墟へ直撃、崩落せしめんこと必定。
もし逃げ遅れた人々、中にて肩を寄せ合いふるえておれば…
これは仮想現実なり! なればこそ最悪の可能性想定せし動きをとらねばならぬ!
「覚悟くんだって、建物壊して視界ふさげばよかったのに、しなかったよね?」
「…もう一戦、よろしいか」
「次は勝つよ」
その勝利宣言に嘘は無し。
二分後きっかり、わが五体、光芒に包まれたり。





勝率が五分と五分にて拮抗した頃、
気がつけば暮れなずむ夕日を共に眺めていた。
「ちょっとは、すっきりした?」
出し抜けに声をかけてきた高町なのはは、まだ止まらぬ鼻血をぬぐっている。
その言葉に反射的にうなずき…そして、恥じる。
わが心中に立ち込めたる暗雲振り払うべく、この女性は計らってくれたのだ。
「鬱憤は溜めちゃダメだよ。 毒になって、もくもく吐き出しちゃうんだから」
「おれは未熟だ…」
「そんなことないよ。 自分の力でどうしようもないことがあれば、当たり前だよ」
「それでは駄目なのだ。 零式は己をこそ殺す格闘技なれば」
「おのれを、殺す?」
「心に愛憎あらば敵につけ入られよう。
 そうでなくとも、いつか己自身を鬼へと墜とすことになる」
「その弱さも含めて人間だよ、覚悟くんも。
 大切なのは、間違った自分にダメって言える気持ち。
 心がひとりぼっちだと、どんどんそれが見えなくなっていくんだよ」
ふと思い出す、空港火災を。
あのとき、限界を超えてわき上がった闘志は
おれの後ろにいた娘とその父の心に触れて初めて知ったもの。
一人で戦っていると思ったら大間違い、か。
ならばこの出会い、感謝すべき運命(さだめ)であろう。
「…友達に、なろう?」
かざりものの言葉は不要。
ただ伸ばされたその手をとるだけでよい。
おれは、おれのやり方で友情を証明しよう。
戦いしか、能なき男なれば。
向こうから、八神はやてとフェイト・テスタロッサ・ハラウオンのやってくる姿が見えた。

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2007年06月26日(火) 19:56:31 Modified by beast0916




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