リリカルなのはGE1話

南イタリア ネアポリス空港

両替所にて、クロノはある程度まとまった金を両替した。
「すまない、市内までタクシー代はどれくらいかかるだろうか?」
「4000〜5000ってとこかね」
「そうか、ありがとう」
金を財布に入れ、もう一人の同行人の元に戻ると、札束の半分辺りを手渡す。
「おおよそ、10、20万あるはずだ、ある程度雑貨品も買い込む必要があるし足りなくなれば言ってくれ」
「お金の管理はちょっと苦手かも…ユーノ君お願い出来るかな?」
「いいけど、持つときは複数の場所に分けてね、スられた場合の保険に」
肩にフェレット、ユーノを乗せた高町なのは。いつもの制服ではなく私服なので、多少は周りに溶け込めていた。
「こういう服はあまり着た事無いから…ちょっと慣れないな」
「似合ってるよクロノ君、普通の人みたい」
「いや、普通の人だが」
対してクロノはいつもの執務官服ではなく、黒の上下に藍色のジャケットを羽織っていた。
二人とも少々大きめのスーツケースを引いている。ぱっと見は単なる旅行者以外の何物でもない。
「普段は普通に見られていなかったのか…」
「さて、タクシーで拠点に向かおうか、なのは」
がっつりと落ち込むクロノはあえて無視する。
「そ…そうだね…」
「ねえ、タクシー探してる?」
二人(と一匹)に声をかける者がいた。

「アルバイトでこれから帰る所だから安くしておきますよ…8000でどう?」

服は胸元がハートの様な形に開いた、暗い配色の…制服…だろうか?
輝く様な金髪の前髪を3つ丸めて束ねている、年の瀬はクロノより少し年上なのだろうか。
「厚意はありがたいが、ちゃんとタクシー乗り場で乗る事にするよ…流石にそこまで暴利ではね」
「く…クロノ君…」
なのはは物言いを多少咎めるのと同時にタクシー乗り場に目をやった。
乗り場にはかなりの長蛇の列、タクシーが来る時間の割合を考えると1、2時間で済むだろうか…?
「…あっちの客には声をかけないのか?」
「君達が断るなら…これから…、じゃあ、2000円ならどうかな?」
「…いきなり安くなったな」
「チップは無しなんだから、荷物は自分で助手席に積んでくれ、そっちのレディは別だけどね…」
「…わかった、それでいい…なのはは後部に荷物と一緒だ、僕は荷物を前に載せて後ろに」
「うん」
かなり大きめの荷物を前に乗せるクロノ。
「ちゃんと指定の場所まで送ってくれよ?僕らはただの観光客じゃないんだからな…」
「正直に送り届けますよ」
そして、なのはとクロノが後ろに乗り込もうとした時

「ただし、空のバッグだけを、ですがね」

車が急発進した。

「…ふぇぇ!?ま、まだ乗ってないよ!」
「早速か…やれやれ…誰も手をつけたがらないのも納得だ…」
「止めるよ!」
少年はバックミラーで二人の表情を確認した。呆気にとられて慌てる少女と頭に手をあてやれやれと首を振る少年。
だが、追ってくる様子すらない、奇妙に思ったが振り切ってしまえば此方の物だ。
「チャオ」
だが空港を抜けようとしたその時、車がガクン!!と前につんのめり、止まった。
タコメーターはエンジンの不調を訴えてはいない、ガソリンも十分。だがタイヤは地面を空回りするばかりで前に進まない。
「ユーノ君……凄い…」
「一瞬でこれだけのバインドを編んだのか…」
一般人には見えないが、二人には見えていた。周囲にあるガードレールや電柱に縦横無尽に絡まり車を二重三重に捕縛したチェーン・バインドが。
「僕だって一応修行してるんだよ、ま、奴への引導は二人にお願いするけど」
クロノは焦る事無くゆっくりと車に近づく。運転している少年はまだ車を弄っていた。
「言っただろう?ただの観光客じゃないって…」
声をかけ、助手席の扉に手をかけると、流石に感づいた様で少年は運転席から飛び出した。
「荷物だけ置いていけばいい、追う必要もない…」

当然、クロノはこの少年が計画が失敗した事でパニックと罪悪と敗北の表情をするだろうと思った。
しかし…彼はそのどの表情もしなかった…少年は微笑んでいるのだ……
ただ平然ともの静かに微笑んでクロノを見ていた………
その表情には『光り輝くさわやかさ』さえある様にクロノには感じられた………。

少年はそのまま、さっと踵を返し何処へと消えた。
「クロノ君、大丈夫?」
「ああ…だがちょっと奇妙な奴だった…しかし、」
「二人とも…後ろの二人がちょっと面白い事を話してる…」
クロノの話を遮ってユーノが割り込んできた。二人はそのまま聞き耳を立てるが旨く聞こえない。
「念話で聞こえる様にするよ…」
「案外万能なんだな…」
「ユーノ君の一族遺跡発掘のプロだからね、言語、念話関連は凄く得意みたいだよ」
話の内容を漏らさぬ様に、急いだユーノのお陰ですぐに声が聞こえてきた。

「…ョルノの奴エンストして失敗したみたいだぞ」
「あいつ、半分日本人のくせして日本の旅行者をだまそうとするからバチが当たったんだ」
「もっとも、あの髪の色じゃあジョルノ・ジョバーナを日本人とわかる奴はいないがな…」
「いや…染めたんじゃないらしいぜ、黒い髪だったのがここ最近、急に金色になったらしいんだ、妙な体質だな…」
「本人はエジプトで死んだ父親の遺伝と言っている…」

「ジョバーナ…?」
クロノは胸元から写真を取りだした、黒髪の少年で、此方の組織と取引している条件…体組織の採取するべき少年だ。
「ジョルノ・ジョバーナ…汐華初流乃………初ルノ…シォハナ…」
「それ…さっきの人なのかな?」
なのはに言われて、先程の男の顔と当てはめてみる、確かに似てはいるが、まだクロノには今ひとつ確信が持てない。
「わからん…組織とコンタクトをとってより情報が手に入れば良いんだが…」

「クロノ、ところで君の荷物は…?」
言われて助手席に目をやるが、先程確かに自分で助手席に積んだ筈のスーツケースだが、それが今は影も形も無い。
「無い…だがさっきの奴は何も持っては……?」
よく見ると、助手席のところに何かへばりついている。粘性のボールの様な『それ』は更に内部に何かが入っている。
「これは…僕の荷物…なのか!?」
先程のクロノのスーツケースについていた名札『黒野』と言う文字が中に見える。
しかしそれは何度か鼓動を脈打ちながら別の物に変化…いや成長してゆく。
『それ』は呆気にとられているクロノの目の前で生物に変わってしまった。
『カエル』に
「魔法なのか…聞いた事もないぞこんな魔法はッ!!」
カエルはぴょいっとクロノの手にのっかる、ペトリとした粘性の手足の感触、重量、それは蛙に他ならない。
「生き物だ…変化魔法の類や幻術でもない…本物のカエルだ…」
「で、でも…最初はスーツケースみたいだったし、生き物だとしたらクロノ君の荷物は…?」
狼狽える二人を尻目に、カエルはクロノの手を飛び降り、そのまま排水溝から下水へと消えた…。
「…なのは、すまないが別行動だ僕はあいつを捜してみる、拠点の住所は覚えているだろう?そこに向かっていてくれ…なのはを頼むぞユーノ」
「はいはい」
「あまり無理しないでね…」
クロノはそのまま、市街へ向かって駆けだしていった。
「で、どうしようか、なのは」
「地図で見ると…少し歩くけどケーブルカーがあるみたい…そっちの方が良いかな」
二人は流石にこれからタクシーに乗る気は起きなかった。




ジョルノ・ジョバーナを探しに市街方面に向かったクロノだったが、その本人はまだ空港敷地内にいた。
滑走路の外れ、離陸する飛行機を眺めているジョルノ、待ち合わせしている様にもみえる。
相手はすぐに現れたようだ。先程のカエルが側の排水溝から、ジョルノの手の上に飛び乗った。
「よし…」
そのカエルは見る間に膨れあがり、先程のクロノのスーツケースへと戻った。
その場で中身を改めるジョルノ、だが容量の割に中身は少なく金になる物はせいぜい衣類か宿泊セット、目的のパスポートや財布は鞄の中ではなかったようだ。

「……やれやれ…無駄骨か…これだから無駄な事は嫌いなんだ、無駄無駄…」

[前へ][目次へ][次へ]
2007年07月11日(水) 19:36:48 Modified by beast0916




スマートフォン版で見る