リリカル龍騎10話

 ズゥン…
 轟音が鳴り響く。音とともに煙が巻き上がる。
煙が晴れたとき、そこにいたのはプレシア一人だけだった。
誤解の無いように言っておくが、決してクリアーベントで姿を消しているわけではない。
その証拠に、服のポケットにベルデのデッキがしまわれている。
「待っていて、アリシア…必ずあなたを生き返らせてあげるから…」
 そう言うと、プレシアは去っていった。
後に残っていたのは、高見沢逸郎『だったもの』だけである。

「やれやれ、神崎士郎も人が悪いよ。あんなこと聞かせて発奮でもさせようって言うのかね?」
 神崎が去った後、北岡がそう呟いた。
「先生…」
「だーいじょぶだって。まだ時間はあるしさ」
 北岡の中にある病、それが彼の命を喰らい尽くすにはまだ時間はある。
それまでに終わらせないと、その病が北岡を消す…神崎はそう言ったのだ。
「大丈夫、俺は死なないよ。俺が死ぬより先に、この戦いに勝ち残るからさ」
 北岡はそう言って、残りのスパゲティを完食した。

 平日の昼だというのに、なのは達5人が大通りを歩いている。
というのも、今日は修了式で、学校は午前中で終わりだ。だからこんな時間帯に大通りを歩いていても不思議ではない。
「わっ!?」
 なのはが青年にぶつかり、盛大に転ぶ。
「あ、ごめん。でも大丈夫だよね?」
 青年は謝りはしたものの、そのまま歩き去っていった。
それを見たアリサが悪態をつく。
「何よあれ!ぶつかっておいてあれ?」
「いいよ、アリサちゃん。あの人も謝ってくれたし…」
 そういって立ち上がるなのは。その時、聞き覚えのある声がした。
「…今日の運勢は最悪だな」
 その声に振り返る一同。その先には手塚がいた。
いつの間にか今日のなのはの運勢を占っていたらしい。
「え…手塚さん、それ…」
「ん?ああ、これは俺が勝手にやっただけだからな。代金はいらん」
「いや、そうじゃなくて」
 運勢は最悪。思い当たる節はいくらでもある。
午前中だけでバケツの水直撃、筆記用具を忘れる、人にぶつかり転倒、etc…とにかく不運なことが満載である。
そしてこの日の午後も不運なことが多々起こり、なのはにとって人生最悪の厄日となるのだが…
とりあえず今回は先ほどの青年…東條悟がメインの話なので、しばし置いておこう。

第十話『香川研究室』

「えっと、401号室…ここだね」
 東條悟は、校内で半ば伝説と化している部屋の前にいた。その伝説とはこうだ。
「かつて存在した『江島研究室』と呼ばれる研究組織。そこは鏡の世界の研究をしていた。
ある日、401号室で、鏡の中の怪物を鏡の外に引っ張り出す実験を行った。
結果的にその実験は成功したが、その怪物の手によって一人が重態となり、未だに入院中。一人はその後失踪し、残りのメンバーも学校を去り、散り散りになった。
それ以来、この部屋は封印されている」
 …伝説というには多少新しい。なぜならこの伝説は、ライダーバトルの発端となった事件の一つだからだ。
そして、東條はその伝説の部屋『401号室』の門を叩こうとした。
…馬鹿馬鹿しい。伝説の真偽はともかく、この部屋は封鎖されている。門を叩いたところで誰かが出るとも思えない…東條はそう思い、門を叩くのを止めようとした。
だが、その予想は裏切られることになる。
「…人の気配がする」
 封鎖されていて誰も入れないはずの部屋、それなのに人の気配。
それが意味するのは、この部屋に人間がいるという事実だ。
多少の恐怖心もあったが、何があるのかの興味が勝る。そして部屋の門を改めてノックした。誰も出ない
数秒ほどの間を置き、再びノックする。さすがに「気付かれている」と察し、出てきたようだ。
「…東條?お前、どうしてここに?」
「仲村君こそ…」

「で、東條君?何故君がここに?」
「…最近、おかしな事があったんです。その場にいないはずの人が出てきて、変な四角いものを僕に渡してきました。
それ以来、鏡の中の怪物が見えるようになって、そのうちの一体…虎みたいなのなんですけど、それに狙われてるみたいで…
それで、ここの噂話に鏡の世界の研究というのがあったのを思い出して、何か分かるかと思って来たんです…どうかしたんですか?」
 それを聞いた二人の男性…香川英行と仲村創が、驚いたような表情をして、顔を見合わせている。
「…東條君、その『四角いもの』というのを見せていただけませんか?もしかしたら、力になれるかもしれません」
「先生…分かりました」
 いくら同じ学校の教授とはいえ、ほとんど初対面に近い香川を信じた東條。
そうさせるだけのカリスマ性が香川にあるのだろうか、それとも東條が「解決するなら何でもいい」とでも思っているのか。
それはともかく、東條が鞄からその四角いものを取り出す。
読者の皆さんにはお分かりだろうが、その四角いものとはカードデッキだ。ただ、モンスターと契約していないブランクのデッキである。
それを見た香川は、仲村と話し出す。
「仲村君、これはやはり…」「でしょうね…おそらく例の…」
 何を話しているのか東條には聞こえていない。
そして話が終わると、仲村が後ろの戸棚から一冊の資料を取り出し、東條に渡した。
「東條、何も言わずにそれを読め」
 言われた通り、東條がそれを読む。中身は東條にとって…いや、普通の人なら信じられない事ばかりだった。
「ミラーワールド、仮面ライダー、モンスター、願い…先生、これは一体?」
「…それが、あなたの参加している戦いの真実ですよ」
 その言葉と資料で、東條は全てを理解した。

「東條君、いい物を見せてあげましょう」
 そう言うと、香川はポケットからあるものを取り出した。
パッと見ると、それはライダーのカードデッキに似ていた。だが、細部が違う。
そして香川が鏡へとそれを向けた。すると、ライダー同様に腰にベルト(以降、ライダーのベルトはVバックルと呼称)が巻きつく。
そして、カードデッキを上に放り投げ、肩を突き出し、こう言った。
「変身!」
 そして、落ちてきたカードデッキをキャッチし、Vバックルに装填。
その瞬間、黒いライダー…いや、ライダーとは少し違うが。それに変身した。
「先生、それは…」
「これが我々の作った擬似ライダー、オルタナティブです」
 そう言うと、変身を解いた香川が言う。
「東條君、私達はミラーワールドを閉じ、戦いを終わらせる。そのために動いています」
 それを言い出すということが何を意味するか、東條はすぐに悟った。
「東條君、私達に力を貸してください。我々でミラーワールドを閉じましょう」
 やはり。予想通りである。
そして、東條はあることに思い至った。
「先生、ミラーワールドを閉じれば、僕は英雄になれるでしょうか…?」
「ええ、なれます。戦いを終わらせた英雄に、私達がなるのです」
 東條の返事は決まった。
(僕は…いや、僕達は英雄になる…英雄になれるんだ!)

 それから数日後。東條が市内のビルの鏡から出てきた。
ちなみに例の虎のモンスター、デストワイルダーとはあの後契約を済ませ、東條は仮面ライダー『タイガ』となった。
「ふう、今回のは少し手ごわかったかな?」
 そう言って401号室…いや、香川研究室へと戻ろうとした。
だが、後ろからの声でそれは中断されることになる。
「へえ、こんな所でライダーに会うなんてね」
 声に気付き、振り返る東條。
そこにいたのは、仮面ライダーガイの芝浦淳である。
「もしかして、君もライダーなの?」
「そーゆーこと。じゃ、さっそく戦ろうか」
 そう言ってカードデッキを取り出す芝浦。そして戦いが始まる。
東條は拳法の構えのようなポーズを、芝浦はガッツポーズのようなポーズを取り、そして…
「「変身!」」
 互いに変身し、ミラーワールドへと入っていった。

 ガイがメタルホーンを構え、タイガへと向かっていく。
そのタイガは手甲『デストクロー』を盾にし、受け止めた。
「ねえ、何で君は戦うの?」
 突然の質問にガイが面食らう。
「はあ?何言ってんの?こんな楽しいゲーム、他に無いからに決まってんじゃん」
 何という輩だ。ガイはこの殺し合いを、ただのゲームとしか思っていない。
「そう、分かった。ならそのゲーム、終わらせてあげるよ」
『ADVENT』
 許せない相手は倒す。それがタイガ…いや、東條悟である。そしてガイはその許せない相手だったようだ。
ガイを倒すべく、デストワイルダーを呼ぶ。
それを見たガイは、肩のメタルバイザーにカードを放り込む。
『CONFINEVENT』
 デストワイルダーの姿が消えた。驚いてガイの方を見るタイガ。
「こういうカードもあるって事」
 こういうカード。つまり、他のライダーのカードを無効化するカードである。正直言って、かなり反則くさい。
それで焦ったのか、もう一枚のカードをデストバイザーに装填するタイガ。
…いや、焦ったのではない。普通ライダーが持つカードは、一種類につき一枚。ならばもうコンファインベントは使えない。そう判断したのだ。
もっとも、例外はあるのだが…
『FINALVENT』
 再び現れるデストワイルダー。そしてガイを爪で捕らえ、引きずろうとした。
『CONFINEVENT』
 どうやらガイのコンファインベントは、その例外だったようだ。
デストワイルダーが再び消える。もはやタイガの対抗手段が潰えたかのように思えた。
「カードは一枚じゃないんだよね。じゃ、死んでよ」
 そして、一枚のカードをバイザーに放り込んだ。
『FINALVENT』
 メタルゲラスが現れ、タイガにヘビープレッシャーを喰らわせようとする。
だが、タイガはそれを待っていたかのように、デストバイザーにカードを装填した。
『FREEZEVENT』
 メタルゲラスが凍りつく。それを見て感心するガイ。
「へえ…こんなの隠してたのか。やるじゃん」
「こういう反則みたいなカード…君の専売特許じゃないんだよ」
 そして、もう一枚装填した。
『RETURNVENT』
 三度、デストワイルダーが現れた。
リターンベントのカードは、コンファインベントやフリーズベントで封じられたカードを復活させるカードである。
今回は、先程打ち消されたファイナルベント『クリスタルブレイク』を放つつもりだ。
さすがにカード復活は予想外だったらしく、ガイも大いに驚く。
「カード復活!?おま、そんなの有りかよ!?」
「目には目、歯には歯、反則には反則だよ」
 デストワイルダーがガイを捕らえる。そしてタイガの方へと引きずっていった。
その当のタイガはデストクローを構えている。腹に突き立てるつもりだ。
「くそ…殺られてたまるかよ!」
 だが、ガイも黙ってやられはしない。一枚のカードを取り出し、バイザーへと放り込んだ。
『ADVENT』
 メタルゲラスが再び現れ、デストワイルダーを弾き返す。そして、メタルゲラスがデストワイルダーとの戦闘を始めた。
「く…あれ?あのライダーは?」
 ガイがいない。どうやら逃げたようだ。
「帰ったのか…ま、いいや」
 タイガはそう言うと、ミラーワールドを出て現実世界へと戻っていった。

   次回予告
「起きろぉ!」「ごはっ!」
「迂闊だった…最近出ないから忘れていたな」
「お見事。いい腕ね」
「母…さん…!」
仮面ライダーリリカル龍騎 第十一話『完全復活』

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2007年06月15日(金) 17:43:19 Modified by beast0916




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