リリカル龍騎15話

『FINALVENT』
 再びベノスネイカーが現れる。王蛇もそれに呼応するかのように、同じ方向へ、地を這うように走る。
そして、高く高くバック宙をし、ベノクラッシュを放った。
「させへん!刃もて、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」
 はやてがブラッディダガーで阻止しようとする。
十数本の短剣を飛ばし、ベノクラッシュの軌道上へと放ったが、それより早くベノクラッシュがガイに届いた。
そして、水泳のバタ足のようにガイを蹴る。とことん蹴る。徹底的に蹴る。
ブラッディダガーの軌道を変え、王蛇に撃ち込んでも止まらない。蹴る、蹴る、蹴る。
「ぐあ…ぁ…」
 それが…ガイの断末魔となった。
何度も何度も蹴られ、ついには爆散してしまったのだ。

(助け…られへんかった…)
「あ、ああ…あああぁぁぁぁぁ!!」
 はやてが突如へたり込み、声を上げて泣き出す。
助けられたはず、でも助けられなかったという罪悪感、そして目の前での人死にのショックに打ちのめされたのだ。
「どうしてそんな簡単に人を殺せるんですか!どうして!!」
 精神的に打ちのめされたはやてに代わり、なのはが問い詰める。
すると、こともなげに王蛇が答えた。
「ライダーってのはこういうもんだろ?」

 ズドォォォォン!!
「なっ、何だぁ!?」
 ファムを止める為に店内にいた龍騎が爆発音に気付き、店から出る。
「あっ、待て!」
 それを追い、ファムが店を出た。そして、泣くはやてと王蛇を問い詰めるなのはを見て、全てを察した。
「またかよ…またここで芝浦がやられたのか…!」
 また?何を言っているのか分からないファム。だが、今はそれよりも優先すべきことがあった。
「浅倉…!あんたを殺すッ!」
 龍騎との戦闘で出していた薙刀『ウイングスラッシャー』を手に、王蛇へと駆け出した。

第十五話『再起の時』

『はやてちゃん、大丈夫ですか?』
「ありがとな、リィン。もう大丈夫や」
 はやてが立ち上がる。どうやら泣くだけ泣いたらしい。
「それより、あの人だけは止めなあかん。力貸してな」
『はいです!』
 そう言ってシュベルトクロイツを構えるが…
(何でやろ…あかん、腕が震える…力が入らへん)
 ガイの死がトラウマとなったのか、恐怖で体に力が入らない。
そのままシュベルトクロイツを落とし、再びへたり込んでしまう。
「はやてちゃん!?」
 慌ててなのはとシャマルが助け起こすが、はやては依然、怯えている。
「何だよ…つまらねえな」
 王蛇がそう言い、ファムの方を向く。
「お前と戦りあう方が面白そうだ」
 そして、ベノサーベルを片手にファムへと向かっていった。
「くそっ!止めないと…」
 龍騎が止めに入ろうとしたが、それより早く王蛇に銀のサイが体当たりを仕掛ける。
銀のサイ、それはメタルゲラスだ。契約者が死んだのに何故ライダーに喧嘩を売るような真似をしたのか。
前述の通り、メタルゲラスはガイを友人としてみていた。そう考えると、友人の敵討ちという自然な理由になる。
そして何度も王蛇へと体当たりを仕掛けた。ちなみにファムはメタルゲラスが邪魔で攻撃できない状態である。
「何だよ…そんなに俺が気に入ったか?」
 そう言って、王蛇がカードを取り出す。そのカードには『CONTRACT』の文字が刻まれていた。
次の瞬間、カードとメタルゲラスが輝きだす…光が収まったときには、メタルゲラスが消えていた。いや、王蛇の契約モンスターになったのだ。
「早速試すか…?」
 そう言うが早いか、メタルゲラスのファイナルベントのカードを取り出し、装填しようとする。が、そうしようとした時に体の粒子化に気付いた。
「時間切れか…」
 そう言うと、王蛇がミラーワールドを出て行った。去り際に「次は倒す、必ず倒す」と言い残して。
それを見た一同も、自分が粒子化し始めているのに気付き、それぞれミラーワールドを出て行った。

 その夜、八神家にて。
『僕〜ら〜は〜選〜b『バナナといったら滑r『「詐欺師?」「お前の親z』
「だぁ、もう!遠慮して譲れよ!」
「いやダメだこれは譲れん!」
「まあまあ、じゃあここは間を取ってこの番組に「「おい!」」
 この時間帯は、どこの家庭でもテレビのチャンネル争いが勃発している。
八神家もその例に漏れず、現在チャンネル争いの真っ最中だ。
ただいつもと違うのは…はやてがそれに参加していないことだ。
(…なあ、はやてがなんか変だけどどうしたんだ?)
 シャマルとリィンには、ガイの死が尾を引いているとしか思えなかった。
(…リィンちゃん、もしかして)
(はいです…きっとあの事です)
(あの事?あの事とは何だ?)
「みんなコソコソして、どないしたん?」
 さすがにチャンネル争いをやめてコソコソしだすのはおかしいと思われたらしく、はやてが聞く。
「あ…いえ、何でもありません」
 シグナムがそう言って、またチャンネル争いが始まった。ただしはやてに聞こえないよう、念話を使って話の続きをしているのだが。
(で、あの事って何だ?)
 ヴィータの質問に、シャマルが今日あった事を説明した。
浅倉の起こした立て篭もり事件、それによるライダー同士の戦い、そして目の前でのガイの死についてを。
…チャンネル争いしながらなので聞こえているかは疑問であるが。

 翌日の午後、再び八神家にて。ちなみに始業式が終わって帰宅した後である。
「はやて…昨日からなんか変だよ。何かあったのか?」
 ヴィータが意を決し、はやてに問いかける。
昨日シャマルから事情は聞いていたが、それでも自分の耳で聞かねば納得できないのだろう。
「…え?多分気のせいやないの?」
 嘘だ。
いつものはやてとは、やはりどこかが違う。どこがかは分からないが、漠然と。
…と、ここで例の金属音が響いた。
「モンスターか!はやて、行くぞ!」
 そう言って外へと駆け出そうとするヴィータ。はやても行こうとするが、その場を動けない。
「どうしたんだよ、はやて」
「ごめん、ヴィータ…うちは戦えへん」
 そう言ったとき、二階からシグナムが駆け下りてきた。
「主はやて…ヴィータ、先に行っていてくれ。私もすぐに行く」
「…分かった。はやて、シグナム、後で必ず来いよ」
 そう言ってヴィータが駆け出した。
残ったシグナムがはやてと話し始める。
「主はやて、シャマルから話は聞きました。そのおかしな様子の原因もです」
「…はは、ヴィータにも見抜かれてるくらいやし、よっぽどバレバレだったんやな」
 そう言い、自嘲気味に笑うはやて。その後、自分の肩を抱き、話す。
「何でやろな…?あの時から、戦いの場に出るのが怖くなったんや。
またうちの目の前で誰かに死なれたらと思うと…」
 弱々しい、今にも泣き出しそうな声だ。心なしか、震えているようにも見える。
そんなはやてに業を煮やしたのか、シグナムが苦言を呈する。
「だから戦わないのですか。戦うことで救える人を見殺しにして…!」
「シグナム…?」
「死なれるのが怖いなら、死なせないよう強くなればいい。
少なくとも、私はその方が遥かにマシだと思います」
 そう言うと、シグナムが玄関へと足を進める。
「シグナムにも、そういう経験があったん?」
「…ええ、それこそ数え切れないほどに」
 そして靴を履き、はやての方に向き直る。
「主はやて、無礼な物言いをお詫びします」
 そしてシグナムがモンスターの気配へと駆け抜けていった。
「死なせないように強く…か」

「ちっ…もうモンスターは逃げた後か」
 ヴィータが気配の場所に着いたときには、もうモンスターの気配はしなかった。
肩を落とし、帰ろうとするヴィータ。だが、その場所から先ほどとは別のモンスターの気配がした。
(逃げた奴以外にもいたのか。狙いは…あたしか?)
 そう思ったとき、モンスターが映る。幸いシアゴーストだから、倒すのは難しくなさそうだ。
「うわ、すげえ数」
 …訂正、ミラーワールドの外からでも分かるほどの大群だから、殲滅は難しそうだ。
「ま、いいや。じゃ、行くか!」
 グラーフアイゼンをハンマーフォルムへと切り替え、騎士甲冑を纏う。
そしてヴィータはミラーワールドへと踏み込んだ…どういう訳か、シアゴーストではない、人型の何かもいる。
「あなた…どうやって生身で入ってきたのですか?」
 …シザースだ。シアゴーストの群れと戦いながら、ヴィータに問う。
「あんたこそ、何でいるんだ?あたしは気配がしたのと同じくらいに入ったんだけど…」
 ヴィータがシザースに聞き返す。シアゴーストの群れを相手にしながらだ。
「質問にはその答えで返してほしいものですが…まあいいでしょう。
このモンスターが現れるより前に、別のモンスターがいました。私はそいつの相手をしていたのです。
これで満足いきましたね?」
「ああ。で、そっちの質問の答えだけど…こいつら片付けてからでいいか?」
 ざっと30体。先日の傀儡兵よりは少ないが、こちらの戦力も少なく、相手は傀儡兵より強力、さらには時間制限まで付いているときた。
話は戦いに片をつけてからの方がいい。
「…ええ、いいでしょう」
 シザースも納得したらしく、シザースピンチを構えた。
(…どうやら、気付かれなかったようですね)
 シザースはまだ腹の底に何か隠しているようだったが、そんな様子に気付かず、ヴィータがシアゴーストに一撃を見舞う。

 はやてはまだ八神家にいた。
先ほどのシグナムの言葉を反芻し、そして考えている。自分が今何をすべきかを。
『はやてちゃん…』
 リィンも心配している。下手をすればそのまま再起不能になりかねないようなトラウマを持っているのだから、当然といえば当然か。
…と、はやてが立ち上がり、蒼天の書を手に、リィンとともに家を出た。
『はやてちゃん、もう大丈夫なんですか?』
「何とかな。うちなりの答えも見つかったし」
『答え?』
「うん。誰かに死なれるのは怖いけど、何もしないで見殺しにするのはもっと嫌。これがうちなりの答えや」

「く…数が多すぎる」
 シアゴーストの大群を前に、さすがのシグナムも参っているようだ。
…というのも、倒したそばからゾロゾロと現れるのだ。まるで某『一匹見たら三十匹いると思え』の虫である。
「というかあなた、一体いつからいたんですか?」
「ついさっき…2分ほど前だな」
 そう言いながら、また一体斬り倒す。
「ヴィータ、カートリッジは後どれだけ残っている」
「まずいな…あと2発しかねえ」
 そろそろカートリッジも数が少なくなってきた。これでこの数を何とかしなければならないとなると、多少きつい。
「みんな、今からでかいのいくで!ちゃんと避けてや!」
 声に反応し、3人とも上へと振り向いた。はやてがいた。
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」
 刹那、金色の光の雨が降り注ぐ。そして降り注いだ光は、シアゴーストのほとんどを射抜いた。
シアゴーストの残りは3体。だが、それよりも驚いたのは、はやてが立ち直ったことである。
「はやて!もう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめんな。でも、もう大丈夫や」
 はやてはそう言うと、シグナムの方を向く。
「シグナム、ありがとな。おかげで目が覚めたわ」
「…何のことかは存じませんが、お役に立てたのなら幸いです」

「じゃ、後はこいつらを片付けるだけだな。グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム!」
『Jawohl. Raketenform.』
 ヴィータがグラーフアイゼンを変形させ、回転を始める。
それと同時に、シグナムはレヴァンティンに炎を纏わせ、シザースは一枚のカードを取り出した。
「ラケーテンハンマー!」『Explosion.』
「紫電一閃!」『Explosion.』
『FINALVENT』「はぁっ!」
 遠心力を利用した打撃魔法『ラケーテンハンマー』が、
 炎を纏った斬撃『紫電一閃』が、
 空中での回転体当たり『シザースアタック』が、3体のシアゴーストを砕いた。

『渇いた〜叫びg』『第一球…投げt』『同情するならk』『5300円という大胆予想だg』
「昨日お前だったんだから譲ってくれたっていいだろ!」
「ダメよ、この回見逃すわけにはいかないわ」
「あ、ホームラン打たれた…」
「よし、今のうちに…「「待て待て待てぇ!」」
 その晩も例によってチャンネル争いの真っ最中である。
はやてがまた参加したことから見ると、どうやら復活できたらs…いや、贔屓のチームの投手が打たれ、落ち込んでいるようだ。
分かりやすく言うと、 orz ←こんな感じだ。今ので逆転不可能なまでの点差がつき、さらに落ち込む。
そんなはやてを尻目に、チャンネル争いを続ける一同。ちなみに真司は夜勤の真っ最中で家にいない。
だが、はやてはすぐ復活し、チャンネル争いに再び参加する。そんなはやての様子を見て、シグナムがほっと一安心。
(主は立ち直れたようだな…よかった)
「リモコン取ったぁ!」「しまった!」
 本日のチャンネル争い、勝者はヴィータでした。

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2007年06月15日(金) 17:49:56 Modified by beast0916




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