リリカル龍騎17話
「いくよ、バルディッシュ。ブリッツラッシュ」
『Yes,sir. Blitz Rush.』
バクラーケンは煙幕を張ろうとするが、フェイトがそれを許さない。ブリッツラッシュで距離を詰め、零距離で左手を突きつけた。
「この距離なら、煙幕を張られても外さない…!撃ち抜け、轟雷!プラズマスマッシャー!」
『Plasma Smasher.』
魔法陣が複数形成される。さらに魔力が溜まってゆく。
そして、雷の砲撃魔法『プラズマスマッシャー』がバクラーケンに風穴を開け、そのまま爆散させた。
「ハァァァァ…りゃぁぁぁぁぁ!!」
投げつけた武器をウィスクラーケンが払った隙に、龍騎がドラグクローを構えていた。それに呼応しドラグレッダーが現れる。
そして、右ストレートの要領で昇竜突破を放った。
ウィスクラーケンはそれを槍で受け止めようとしたが、槍で炎を受け止められるはずも無く、そのまま焼き尽くされた。
「あんたら魔法使いはライダーの戦いを邪魔するんだって聞いてるんだ」
初耳だ。一体いつの間に神崎に存在を知られたのだろうか?
「何だよそれ…俺はそんなの聞いてないぞ!」
「あんた、その子と親しいみたいだし、邪魔者に加担してるって思われてるんじゃないの?」
なるほど、道理で龍騎の所にはその情報が届かなかったわけだ。
だとしたら、蓮や手塚の所にもその情報は来ていないのだろう。
「今ここで倒してもいいけど…今回は警告だけにしておくよ」
そう言うと、フェイトの喉下にバイザーをつき付け、言った。
「ライダーの戦い、邪魔はしないほうがいいよ」
ファムは言いたい事を言うとバイザーを収め、ミラーワールドを出て行った。
(何?それは本当なのか?)
(うん…あの白いライダーも言ってたし、多分本当なんだと思う)
こちらはアースラ艦橋。現在クロノが念話で報告を受けているところのようだ。
(そうか…なら今後はモンスターだけじゃなく、ライダーの襲撃にも気をつけた方がよさそうだな)
(そうだね…なのは達には私から伝えておくよ)
(頼む)
これで報告は終わりだ。念話を終え、一息つくクロノ。
(神崎士郎、だったか…何で魔導師のことを知っているんだ?)
クロノの疑問ももっともだ。
これまで魔導師が出た戦いの場には、神崎はいなかった。それなのに何故知っているのか…?
「まあ、今考えても仕方ないな」
この一言とともに、クロノの思考は中断された。
第十七話『回転VS回転』
カツン、コロコロコロ…
先ほどからこのような音がする。ここは市内にあるゲートボール場だ。
「おお、上手い上手い」
「へへ、そうか?」
爺さんに褒められた赤い髪の子供…よく見るとヴィータだ。
ヴィータはどうやらよくここでゲートボールをしているらしい。本当に楽しそうだ。
…と、褒められて上機嫌な時に違和感に気付く。
「あれ?なあ、今日はなんか…何人か足りなくねえか?」
そう、ヴィータが前に来た時よりも人が少ないのだ。
「そうじゃの…ここ最近、来なくなった人たちがいるんじゃよ…」
「そういえば菊次郎の爺さんもトメ婆さんも、ここ最近来とらんなぁ」
「あの二人はゲートボールが何より好きじゃったのに、何があったんじゃろうなぁ…?」
ヴィータも何があったのかは気になった。だが、終わってから見舞いに行けばいいだろうと思い、次の人に順番を代わった。
ちなみにヴィータのチームが負けたようだ。
「えっと、爺さんの家は…」
ゲートボールが終わり、本当に見舞いに行こうとするヴィータ。現在その人の家を探している真っ最中だ。
「お、ここだここだ」
今見つかったところのようだ。ドアをノックし、その音に反応した家の人間が出てくる家の人間が出てくる
「え?行方不明だって?」
「そうなのよ。この間のゲートボールの時から帰ってこなくて…」
来ないと思ったらまさか行方不明だったとは。さすがに予想外だったらしく、驚くヴィータ。
(行方不明…まさかモンスターか?)
「とにかく、そういう訳だからおじいちゃんには会えないの。ごめんなさいね」
「あ、ああ。じゃあ、おじゃましました」
そう言って、他の老人達の家に向かうヴィータ。
だが、そのうちの半分以上が行方不明になっていることを、彼女はまだ知らない。
全員の家を回り、帰宅するときにはもう夜になっていた。
「どうなってんだよ…何で爺さん達が襲われなきゃなんないんだよ…!」
そう言いながら家路に着くヴィータ。既にその顔は半泣きだ。
そして次の瞬間、何かがヴィータを掴み、ミラーワールドへと引き込もうとする。
「うわっ!?くっ、グラーフアイゼン!」
『Jawohl.』
「テートリヒ・シュラーク!」
すぐにグラーフアイゼンを起動させ、その『何か』に一撃を見舞う。その衝撃で捕縛が緩んだようだ。
他の誰かならいざ知らず、小柄なヴィータならこの程度の緩みですぐに脱出できる。そこから脱出すると、すぐに騎士甲冑を纏った。
その何かがミラーワールドへと引っ込んだ。ヴィータもそれを追い、ミラーワールドへと飛び込む。
「この蟹みたいな奴、どっかで見たな…」
ヴィータは今、目の前にいる蟹のようなモンスターと対峙していた。
「まあいいや。敵だってんなら倒すだけだ!」
そう言い、再び一撃を見舞おうと突撃する。だが…
『GUARDVENT』
何者かが盾を手に割り込み、ヴィータの攻撃を止める。
「困りますね…私の契約モンスターを倒そうとしてもらっては」
「あ?あんた、須藤のおっさん!?何やってんだよこんなとこで!」
攻撃を止めたのは、この蟹のモンスター『ボルキャンサー』の契約者、シザースだ。
「私はまだ28です。おっさん扱いされるいわれは無いはずですがね」
「おっさんじゃねえか」
とことんまでおっさん扱いされ、軽くへこむシザース。
だが、それにもめげずにヴィータの問いに答える。
「…まあいいでしょう。モンスターに餌を与えていたんです」
「餌…人間を食わせてたってのか?」
「ええ、そうですよ。もっとも最近は…管理局でしたか?そちらの見張りがいたので餌を与えられませんでしたが。
最近やっとマークが外れたので遠慮なく食べさせていたというわけです。
苦労しましたよ。そちらにマークされている間、善良な一刑事のふりをしてなければならなかったのですから」
この男、やはり今回も人を食わせていたのか。
そこでヴィータはある可能性を思いついた。絶対に外れていてほしい可能性を。
「一つだけ聞いていいか?まさかあの爺さん達が行方不明になったのは…!」
「そうですね…ここ最近、老人をよく食べているようですからね。そのお爺さんもおそらくボルキャンサーが食べたのでしょう。
ついでに言うと、貴方と共闘したあの時も、ボルキャンサーに餌を与えていたのですがね。その時も食べたのは老人でした」
可能性は当たっていた。行方不明の爺さん達は、ボルキャンサーに喰われたのだ。
瞬間、ヴィータの目の色が変わる。
「てめえが…あの爺さん達を…!
何でだよ!そんなに餌をやりてえなら、モンスターを喰わせりゃいいだろ!」
「そうもいかないのですよ。私は以前人を殺した事がありましてね、奴の失踪を隠すにはちょうどよかったのですよ。
それに、私が頂点に立つために、モンスターの力を蓄えることもできますからね」
聞いているだけで怒りが湧き上がる。少なくとも、今のヴィータの心情はそれだ。
だが、何故ここまでペラペラと喋るのだろうか。それが少し気になった。
「何故ここまで喋るのか、気になっているようですね?
何のことはありません。貴方はここで死ぬので、冥土の土産という奴です」
それを言い終える前に、ヴィータが炎を纏った一撃『フランメシュラーク』を放つ。シザースはそれを再び盾で受け止めた。
「いい事教えてやるよ。そうやってペラペラ喋る野郎はな…必ず倒されるんだよ!」
「貴方、マンガの読みすぎではありませんか?」
「ん?」
同じ頃、浅倉が例の金属音に気付く。
「モンスターか…ちょうどいい。今イライラしていたんだ」
そう言うと、気配のあった場所まで走る。走る。気配の正体を見つけた。
その気配の正体であるモンスターを殴り返し、近くの鏡へと向き直る。そして…
「変身!」
王蛇へと変身し、ミラーワールドへと飛び込んだ。
ちなみに王蛇は気付かないが、近くではヴィータとシザースの死闘が繰り広げられていた。
「このヤロー!」
ヴィータの一撃がシザースへと振り下ろされる。シザースはそれを受け止め、シザースピンチを振りかざす。
「障壁!」
『Panzerhindernis.』
シザースピンチの一撃を、防御魔法『パンツァーヒンダネス』で受け止め、距離をとるヴィータ。
そして小さな鉄球を取り出した。遠隔操作弾『シュワルベフリーゲン』を放つつもりだ。
「何かするつもりですね…させません。ボルキャンサー!」
先ほどから表に出ていたボルキャンサーが、ヴィータへと突っ込む。
ヴィータは完全にシザースへと注意が向いていたため、ボルキャンサーを忘れていた。横からのハサミの一撃が飛ぶ。
それを何とかかわすが…帽子についているウサギのぬいぐるみが千切れてしまった。
「ウサギが…!」
ヴィータが最も嫌うこと、それははやてに買ってもらったウサギのぬいぐるみが汚されることである。
ウサギが千切られたことを認識するのに少し時間がかかり、それが隙になった。
「何だかよく分かりませんが、チャンスのようですね」
『FINALVENT』
先ほどまでいたボルキャンサーが消え、シザースの背後から再び現れた。シザースアタックでヴィータを仕留めるつもりだ。
「許さねえ…てめえは必ずぶっ飛ばす!グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム!」
『Jawohl. Raketenform.』
グラーフアイゼンをラケーテンフォルムへと変形させ、カートリッジをロードする。
この形態から放つ魔法といえばラケーテンハンマーだろうが、それにしてはロードする数が多い。
…いや、回転を始めた。やはりラケーテンハンマーを放つつもりだ。
「はぁっ!」
その間にシザースはボルキャンサーのハサミに乗り、高く高く飛んだ。そして空中で高速回転を始め、ヴィータへと突っ込む。
これがシザース最大の必殺技『シザースアタック』だ。それを見たヴィータが仕掛ける。
「カニが飛ぶなぁ!ラケーテン!ハンマァァァァァ!」『Explosion.』
いや、確かにカニだが。
それはさておき、ヴィータが遠心力を利用し、ラケーテンハンマーを叩き込もうとシザースへと突っ込む。
そして互いの必殺技が空中で激突した。威力は拮抗…いや、ヴィータが多少押されている。
…と、空中で残りのカートリッジを全弾ロードし、破壊力を高めた。さすがにこれには対抗し切れなかったか、シザースが吹っ飛ぶ。
ヴィータはその勢いのまま、ボルキャンサーへと突っ込む。彼女の狙いはこちらだったのだ。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
その咆哮とともにボルキャンサーに当たり、そのまま粉砕した。
『FINALVENT』
同じ頃、王蛇もまたモンスターとの戦闘が佳境に入っていた。
「はぁぁぁぁ…はぁぁ!」
ベノクラッシュを猪型モンスター『シールドボーダー』へと放つ。一方シールドボーダーは盾で受け止めようとした。
だが、シールドボーダーの盾ごときでは、ベノクラッシュは防げない。そのまま盾ごと蹴り砕かれた。
「こんなもんか…あ?」
近くでヴィータとシザースが戦っていることにやっと気付いたようだ。
王蛇が気付いた頃にはヴィータがシザースを弾き飛ばした後で、今ボルキャンサーを砕こうとして…訂正、今砕いた。
「何だ?こんな近くで面白そうな事やってるじゃねえか…」
そう言うと王蛇は、戦場へと歩いていった。
「どうだ…モンスター潰されたんなら、お前は戦えねえだろ」
シザースの方へと向き直り、ヴィータが言い放つ。
確かにモンスターが潰されたとなると、ライダーの力は急激に衰える。
シザースもまた例外ではない。ライダーの鎧『グランメイル』の色が灰色へと変化し、ブランク体へと変化していった。
「分解されねえ程度にそこで反省してろ。あたしは帰る」
そう言うと、ヴィータはミラーワールドを出た。
(爺さん達…仇はとったぞ…!)
「私は、ここで果てるわけにはいかないのですよ…!」
そう言うと、シザースは立ち上がり、ミラーワールドを出ようとする。
「まずは他のモンスターと契約して、戦いに復帰しなければ…」
その思考は、すぐに中断されることになる。
「よお、須藤刑事…借りを返しに来たぜ」
聞き覚えのある、今一番聞きたくない声。
その声に反応して振り向くと、奴がいた。
「あ、浅倉…!」
「もう一人は帰ったみたいだな。まあいい、お前に借りを返すのが先だ」
『STRIKEVENT』
そう言うと、メタルゲラスと契約した時に得た武器『メタルホーン』を出し、シザースへと振りかざす。
何とかかわすか防ぐかしようとするが、今のシザースにはどちらも不可能。徹底的に叩かれる。
やがてシザースいじめに飽き、全力の一撃で転ばせた。
「ミラーワールドに刑事はいらない…!」
そう言うと、一枚のカードを取り出し、装填した。
『FINALVENT』
先ほど使ったのとは違う、もう一枚のファイナルベント。
ガイを倒したときに契約したモンスター『メタルゲラス』のファイナルベント『ヘビープレッシャー』だ。
そして立ち上がろうとしたシザースの腹を、ヘビープレッシャーで貫いた。
「が…そん…な…私は…こんな…所で――――」
その言葉とともに変身が解け、シザース…いや、須藤がその場に倒れる。
その腹には大穴が開き、そこから大量の血が流れている。もう助からないだろう。
「つまらねえな…」
王蛇はそう言うと、ミラーワールドを去った。
後に残された須藤の体は粒子化を始め、やがて消滅していった…
仮面ライダーシザース:須藤雅史…死亡
残るライダー…11人
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『Yes,sir. Blitz Rush.』
バクラーケンは煙幕を張ろうとするが、フェイトがそれを許さない。ブリッツラッシュで距離を詰め、零距離で左手を突きつけた。
「この距離なら、煙幕を張られても外さない…!撃ち抜け、轟雷!プラズマスマッシャー!」
『Plasma Smasher.』
魔法陣が複数形成される。さらに魔力が溜まってゆく。
そして、雷の砲撃魔法『プラズマスマッシャー』がバクラーケンに風穴を開け、そのまま爆散させた。
「ハァァァァ…りゃぁぁぁぁぁ!!」
投げつけた武器をウィスクラーケンが払った隙に、龍騎がドラグクローを構えていた。それに呼応しドラグレッダーが現れる。
そして、右ストレートの要領で昇竜突破を放った。
ウィスクラーケンはそれを槍で受け止めようとしたが、槍で炎を受け止められるはずも無く、そのまま焼き尽くされた。
「あんたら魔法使いはライダーの戦いを邪魔するんだって聞いてるんだ」
初耳だ。一体いつの間に神崎に存在を知られたのだろうか?
「何だよそれ…俺はそんなの聞いてないぞ!」
「あんた、その子と親しいみたいだし、邪魔者に加担してるって思われてるんじゃないの?」
なるほど、道理で龍騎の所にはその情報が届かなかったわけだ。
だとしたら、蓮や手塚の所にもその情報は来ていないのだろう。
「今ここで倒してもいいけど…今回は警告だけにしておくよ」
そう言うと、フェイトの喉下にバイザーをつき付け、言った。
「ライダーの戦い、邪魔はしないほうがいいよ」
ファムは言いたい事を言うとバイザーを収め、ミラーワールドを出て行った。
(何?それは本当なのか?)
(うん…あの白いライダーも言ってたし、多分本当なんだと思う)
こちらはアースラ艦橋。現在クロノが念話で報告を受けているところのようだ。
(そうか…なら今後はモンスターだけじゃなく、ライダーの襲撃にも気をつけた方がよさそうだな)
(そうだね…なのは達には私から伝えておくよ)
(頼む)
これで報告は終わりだ。念話を終え、一息つくクロノ。
(神崎士郎、だったか…何で魔導師のことを知っているんだ?)
クロノの疑問ももっともだ。
これまで魔導師が出た戦いの場には、神崎はいなかった。それなのに何故知っているのか…?
「まあ、今考えても仕方ないな」
この一言とともに、クロノの思考は中断された。
第十七話『回転VS回転』
カツン、コロコロコロ…
先ほどからこのような音がする。ここは市内にあるゲートボール場だ。
「おお、上手い上手い」
「へへ、そうか?」
爺さんに褒められた赤い髪の子供…よく見るとヴィータだ。
ヴィータはどうやらよくここでゲートボールをしているらしい。本当に楽しそうだ。
…と、褒められて上機嫌な時に違和感に気付く。
「あれ?なあ、今日はなんか…何人か足りなくねえか?」
そう、ヴィータが前に来た時よりも人が少ないのだ。
「そうじゃの…ここ最近、来なくなった人たちがいるんじゃよ…」
「そういえば菊次郎の爺さんもトメ婆さんも、ここ最近来とらんなぁ」
「あの二人はゲートボールが何より好きじゃったのに、何があったんじゃろうなぁ…?」
ヴィータも何があったのかは気になった。だが、終わってから見舞いに行けばいいだろうと思い、次の人に順番を代わった。
ちなみにヴィータのチームが負けたようだ。
「えっと、爺さんの家は…」
ゲートボールが終わり、本当に見舞いに行こうとするヴィータ。現在その人の家を探している真っ最中だ。
「お、ここだここだ」
今見つかったところのようだ。ドアをノックし、その音に反応した家の人間が出てくる家の人間が出てくる
「え?行方不明だって?」
「そうなのよ。この間のゲートボールの時から帰ってこなくて…」
来ないと思ったらまさか行方不明だったとは。さすがに予想外だったらしく、驚くヴィータ。
(行方不明…まさかモンスターか?)
「とにかく、そういう訳だからおじいちゃんには会えないの。ごめんなさいね」
「あ、ああ。じゃあ、おじゃましました」
そう言って、他の老人達の家に向かうヴィータ。
だが、そのうちの半分以上が行方不明になっていることを、彼女はまだ知らない。
全員の家を回り、帰宅するときにはもう夜になっていた。
「どうなってんだよ…何で爺さん達が襲われなきゃなんないんだよ…!」
そう言いながら家路に着くヴィータ。既にその顔は半泣きだ。
そして次の瞬間、何かがヴィータを掴み、ミラーワールドへと引き込もうとする。
「うわっ!?くっ、グラーフアイゼン!」
『Jawohl.』
「テートリヒ・シュラーク!」
すぐにグラーフアイゼンを起動させ、その『何か』に一撃を見舞う。その衝撃で捕縛が緩んだようだ。
他の誰かならいざ知らず、小柄なヴィータならこの程度の緩みですぐに脱出できる。そこから脱出すると、すぐに騎士甲冑を纏った。
その何かがミラーワールドへと引っ込んだ。ヴィータもそれを追い、ミラーワールドへと飛び込む。
「この蟹みたいな奴、どっかで見たな…」
ヴィータは今、目の前にいる蟹のようなモンスターと対峙していた。
「まあいいや。敵だってんなら倒すだけだ!」
そう言い、再び一撃を見舞おうと突撃する。だが…
『GUARDVENT』
何者かが盾を手に割り込み、ヴィータの攻撃を止める。
「困りますね…私の契約モンスターを倒そうとしてもらっては」
「あ?あんた、須藤のおっさん!?何やってんだよこんなとこで!」
攻撃を止めたのは、この蟹のモンスター『ボルキャンサー』の契約者、シザースだ。
「私はまだ28です。おっさん扱いされるいわれは無いはずですがね」
「おっさんじゃねえか」
とことんまでおっさん扱いされ、軽くへこむシザース。
だが、それにもめげずにヴィータの問いに答える。
「…まあいいでしょう。モンスターに餌を与えていたんです」
「餌…人間を食わせてたってのか?」
「ええ、そうですよ。もっとも最近は…管理局でしたか?そちらの見張りがいたので餌を与えられませんでしたが。
最近やっとマークが外れたので遠慮なく食べさせていたというわけです。
苦労しましたよ。そちらにマークされている間、善良な一刑事のふりをしてなければならなかったのですから」
この男、やはり今回も人を食わせていたのか。
そこでヴィータはある可能性を思いついた。絶対に外れていてほしい可能性を。
「一つだけ聞いていいか?まさかあの爺さん達が行方不明になったのは…!」
「そうですね…ここ最近、老人をよく食べているようですからね。そのお爺さんもおそらくボルキャンサーが食べたのでしょう。
ついでに言うと、貴方と共闘したあの時も、ボルキャンサーに餌を与えていたのですがね。その時も食べたのは老人でした」
可能性は当たっていた。行方不明の爺さん達は、ボルキャンサーに喰われたのだ。
瞬間、ヴィータの目の色が変わる。
「てめえが…あの爺さん達を…!
何でだよ!そんなに餌をやりてえなら、モンスターを喰わせりゃいいだろ!」
「そうもいかないのですよ。私は以前人を殺した事がありましてね、奴の失踪を隠すにはちょうどよかったのですよ。
それに、私が頂点に立つために、モンスターの力を蓄えることもできますからね」
聞いているだけで怒りが湧き上がる。少なくとも、今のヴィータの心情はそれだ。
だが、何故ここまでペラペラと喋るのだろうか。それが少し気になった。
「何故ここまで喋るのか、気になっているようですね?
何のことはありません。貴方はここで死ぬので、冥土の土産という奴です」
それを言い終える前に、ヴィータが炎を纏った一撃『フランメシュラーク』を放つ。シザースはそれを再び盾で受け止めた。
「いい事教えてやるよ。そうやってペラペラ喋る野郎はな…必ず倒されるんだよ!」
「貴方、マンガの読みすぎではありませんか?」
「ん?」
同じ頃、浅倉が例の金属音に気付く。
「モンスターか…ちょうどいい。今イライラしていたんだ」
そう言うと、気配のあった場所まで走る。走る。気配の正体を見つけた。
その気配の正体であるモンスターを殴り返し、近くの鏡へと向き直る。そして…
「変身!」
王蛇へと変身し、ミラーワールドへと飛び込んだ。
ちなみに王蛇は気付かないが、近くではヴィータとシザースの死闘が繰り広げられていた。
「このヤロー!」
ヴィータの一撃がシザースへと振り下ろされる。シザースはそれを受け止め、シザースピンチを振りかざす。
「障壁!」
『Panzerhindernis.』
シザースピンチの一撃を、防御魔法『パンツァーヒンダネス』で受け止め、距離をとるヴィータ。
そして小さな鉄球を取り出した。遠隔操作弾『シュワルベフリーゲン』を放つつもりだ。
「何かするつもりですね…させません。ボルキャンサー!」
先ほどから表に出ていたボルキャンサーが、ヴィータへと突っ込む。
ヴィータは完全にシザースへと注意が向いていたため、ボルキャンサーを忘れていた。横からのハサミの一撃が飛ぶ。
それを何とかかわすが…帽子についているウサギのぬいぐるみが千切れてしまった。
「ウサギが…!」
ヴィータが最も嫌うこと、それははやてに買ってもらったウサギのぬいぐるみが汚されることである。
ウサギが千切られたことを認識するのに少し時間がかかり、それが隙になった。
「何だかよく分かりませんが、チャンスのようですね」
『FINALVENT』
先ほどまでいたボルキャンサーが消え、シザースの背後から再び現れた。シザースアタックでヴィータを仕留めるつもりだ。
「許さねえ…てめえは必ずぶっ飛ばす!グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム!」
『Jawohl. Raketenform.』
グラーフアイゼンをラケーテンフォルムへと変形させ、カートリッジをロードする。
この形態から放つ魔法といえばラケーテンハンマーだろうが、それにしてはロードする数が多い。
…いや、回転を始めた。やはりラケーテンハンマーを放つつもりだ。
「はぁっ!」
その間にシザースはボルキャンサーのハサミに乗り、高く高く飛んだ。そして空中で高速回転を始め、ヴィータへと突っ込む。
これがシザース最大の必殺技『シザースアタック』だ。それを見たヴィータが仕掛ける。
「カニが飛ぶなぁ!ラケーテン!ハンマァァァァァ!」『Explosion.』
いや、確かにカニだが。
それはさておき、ヴィータが遠心力を利用し、ラケーテンハンマーを叩き込もうとシザースへと突っ込む。
そして互いの必殺技が空中で激突した。威力は拮抗…いや、ヴィータが多少押されている。
…と、空中で残りのカートリッジを全弾ロードし、破壊力を高めた。さすがにこれには対抗し切れなかったか、シザースが吹っ飛ぶ。
ヴィータはその勢いのまま、ボルキャンサーへと突っ込む。彼女の狙いはこちらだったのだ。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
その咆哮とともにボルキャンサーに当たり、そのまま粉砕した。
『FINALVENT』
同じ頃、王蛇もまたモンスターとの戦闘が佳境に入っていた。
「はぁぁぁぁ…はぁぁ!」
ベノクラッシュを猪型モンスター『シールドボーダー』へと放つ。一方シールドボーダーは盾で受け止めようとした。
だが、シールドボーダーの盾ごときでは、ベノクラッシュは防げない。そのまま盾ごと蹴り砕かれた。
「こんなもんか…あ?」
近くでヴィータとシザースが戦っていることにやっと気付いたようだ。
王蛇が気付いた頃にはヴィータがシザースを弾き飛ばした後で、今ボルキャンサーを砕こうとして…訂正、今砕いた。
「何だ?こんな近くで面白そうな事やってるじゃねえか…」
そう言うと王蛇は、戦場へと歩いていった。
「どうだ…モンスター潰されたんなら、お前は戦えねえだろ」
シザースの方へと向き直り、ヴィータが言い放つ。
確かにモンスターが潰されたとなると、ライダーの力は急激に衰える。
シザースもまた例外ではない。ライダーの鎧『グランメイル』の色が灰色へと変化し、ブランク体へと変化していった。
「分解されねえ程度にそこで反省してろ。あたしは帰る」
そう言うと、ヴィータはミラーワールドを出た。
(爺さん達…仇はとったぞ…!)
「私は、ここで果てるわけにはいかないのですよ…!」
そう言うと、シザースは立ち上がり、ミラーワールドを出ようとする。
「まずは他のモンスターと契約して、戦いに復帰しなければ…」
その思考は、すぐに中断されることになる。
「よお、須藤刑事…借りを返しに来たぜ」
聞き覚えのある、今一番聞きたくない声。
その声に反応して振り向くと、奴がいた。
「あ、浅倉…!」
「もう一人は帰ったみたいだな。まあいい、お前に借りを返すのが先だ」
『STRIKEVENT』
そう言うと、メタルゲラスと契約した時に得た武器『メタルホーン』を出し、シザースへと振りかざす。
何とかかわすか防ぐかしようとするが、今のシザースにはどちらも不可能。徹底的に叩かれる。
やがてシザースいじめに飽き、全力の一撃で転ばせた。
「ミラーワールドに刑事はいらない…!」
そう言うと、一枚のカードを取り出し、装填した。
『FINALVENT』
先ほど使ったのとは違う、もう一枚のファイナルベント。
ガイを倒したときに契約したモンスター『メタルゲラス』のファイナルベント『ヘビープレッシャー』だ。
そして立ち上がろうとしたシザースの腹を、ヘビープレッシャーで貫いた。
「が…そん…な…私は…こんな…所で――――」
その言葉とともに変身が解け、シザース…いや、須藤がその場に倒れる。
その腹には大穴が開き、そこから大量の血が流れている。もう助からないだろう。
「つまらねえな…」
王蛇はそう言うと、ミラーワールドを去った。
後に残された須藤の体は粒子化を始め、やがて消滅していった…
仮面ライダーシザース:須藤雅史…死亡
残るライダー…11人
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2007年06月15日(金) 17:50:48 Modified by beast0916