リリカル龍騎19話

「フェイトちゃんがまだ帰ってない?それって本当なの?」
『ああ。全く、どこをほっつき歩いているんだ?もう夕飯時だというのに…』
 その晩、なのはにクロノからの連絡が入った。
今日の昼、なのは達と別行動を取ったフェイトがまだ戻ってきていないというのだ。
「フェイトちゃん、どうしたんだろう…」
『さあな。とにかく、見つかったら連絡を「なのは!大変!フェイトちゃんが…!」
 突如、桃子の声が響く。聞こえた内容からすると、フェイトが大変なことになっているようだ。
クロノとの電話は繋がったまま、急いで下に降りるなのは。
そこで見たのは、重傷を負い、美由希からの手当てを受けているフェイトの姿だった。
幸い、まだ生きてはいるようだが…このまま放置すれば死にかねない。
…まあ、プレシアとしては殺すつもりで撃ったのだから当然といえば当然だが。
「クロノ君!フェイトちゃんが…!急いで医療班をうちに回して!」

「なあ、はやて…」
「ん?どうしたん?ヴィータ」
 その日の夕飯時、八神家にて。
ヴィータが今日ずっと気になっていたことを聞こうとしていた。
「なんか今日のはやて、いつもより…何ていうか、黒かった気がするんだけど…何かあったのか?」
 それを聞き、真司とシグナムの顔が強張る。「何を聞いてるんだお前は」という顔だ。
だが、それに気付かないかのようにはやてが答える。
「んー…何でやろな?多分、『誤認逮捕なんかで家族を奪われてたまるかー』って思ったんやと思うけど…」
 はやてはシグナムらヴォルケンリッターが来るまでは、家族と呼べる存在がおらず、一人ぼっちだった。だから家族の大切さは誰よりもわかっている。
その大切な家族が誤認逮捕で一人奪われようとしたのだ。怒りがこみ上げ、黒化しても納得がいく…のか?

 プルルルル…
 八神家の電話が鳴る。だが、現在はやては皿洗いの真っ最中のため、出ることができない。
そこでシグナムが席を立ち、電話を取る。
「もしもし…」
『た、大変なの!フェイトちゃんが…フェイトちゃんが…!』
「その声、高町か。何があった?テスタロッサに何かあったのか?」

第十九話『病院の怪』

 フェイトの怪我は、相当ひどいものだった。
死にかけるほどの重傷、さらには負傷から時間が経っていたこともあり、助かる見込みは低いという。
だが、それでも一縷の望みに賭け、手術での治療に踏み切った。
現在、海鳴大学病院で手術中。手術室の前では、なのはを始めとしたフェイトを心配する人間が揃っている。
…と、手術が終わったようだ。ドアが開き、医者が出てくる。
「どっ、どうなったんですか!?」
 なのはが医者に結果を聞いた。声からも心配がうかがえる。
「何とか一命は取り留めました。まず今すぐ死ぬというようなことは無いでしょうが…」
 それを聞き、ほっと一安心。
「でも、目は当分覚めないでしょうう。怪我の影響で昏睡状態になっています」
 ―――え?
「それって…どういう事なんですか!?」
「言った通りです。彼女は怪我の影響で昏睡状態になっています。
いつ目覚めるかは分かりません。一分後かもしれないし、もしかしたら二度と目覚めないかもしれません」
「そんな…何とかならないんですか?」
「残念ですが、これはどうにもなりません。彼女が目を覚ますのを待つしか…」

フェイト・T・ハラオウン…昏睡のため戦線離脱

 数日後、海鳴大学病院にて。先日の手術の後、目覚めるまでフェイトはここに入院している。
「えっと、502号室は…ここやな」
「フェイトちゃん、起きてるかな?」
 フェイトのいる502号室の前に、二人分の人影。なのはとはやてだ。よほど心配なのか、毎日一回は見舞いに来ている。
ドアを開け、部屋に入ると、眠り続けるフェイトのそばに人がいた。
「アルフさん。来てたんですか?」
「ああ。あたしもフェイトのことが心配だからさ」
 そう言うアルフの目元にはクマができている。心配で眠れなかったのだろうか。
「…え?この子、アルフさん!?」
 はやてが驚いている。まあ当然だろう。
大人形態や子犬形態は見たことがあっても、今の姿…子供形態は初めて見るのだから。
「アルフさんはね、いつもはフェイトちゃんの魔力負担抑えるのにこの姿か子犬姿でいるんだよ」
 すかさずなのはの説明が入る。それを聞き、はやても納得したようだ。
「それで、フェイトちゃんは…?」
 はやてがフェイトのことを聞く。それに対しアルフが暗い顔で答えた。
「いや、あれから一回も目覚めないんだ…」
 やはりか。フェイトはあれからまだ眠り続けている。
改めてフェイトを見ると、まるで人形のように眠っている。
手足には包帯、左腕には点滴の針。起こそうとすれば起きるようにも見える。
「私のせいだ…あの時フェイトちゃんを止めてれば、こんな事には…!」
 あの時フェイトを止めていれば、こうはならなかった。そう思ったなのはが自分を責める。
「なのはちゃんのせいやあらへん。もしそうなら、あの時一緒にいたうちも同罪や」
 何の話をしているのか、アルフには事情が飲み込めない。
だが、聞かないほうがいいと思ったのか、そのまま聞かずに流した。

「それじゃ、今日は…」
「うん。じゃあ、またね」
 いつの間にかもう夕方である。そろそろ子供は帰る時間だ。
なのはとはやてが病室を出て、帰路へとついた。

 キィィィン…

 病院を出ようとしたそのとき、例の金属音。帰るのはもう少し後になるようだ。
「はやてちゃん…!」
「うん、分かってる。こんな所で出てこられても患者さんたちに迷惑やしな」
 そう言って、誰もいないところでバリアジャケットや甲冑を纏い、ミラーワールドへと入った。

「アクセルシューター!シュート!」
『Accel Shooter.』
 なのはの声とともに、3体のモンスターへと先制攻撃をかける。
3体のモンスター…バズスティンガーはそれをうまく避け、その時になのは達の存在に気付いた。
すぐに弓を持つバズスティンガー『ビー』が弓を構え、乱射してきた。飛んでくる無数の矢を、右手のラウンドシールドで防ぐ。
だが矢は囮。横からバズスティンガー『ワスプ』がなのはに斬りかかる。それを左手のラウンドシールドで防ぐ。これでなのはの両手が塞がれた。
ビーやワスプの攻撃を防いでいる間に、バズスティンガー『ホーネット』が、針をその体に突き立てようと迫る。
「うちを忘れてへんか?石化の槍、ミストルティン!」
 なのはが攻撃を防いでいる間にはやてがミストルティンの詠唱を終え、ホーネットへと放つ。
ホーネットがそれを避け、ターゲットをはやてへと切り替える。そして針を手に突っ込んできた。
それを迎え撃とうとした時、背後からビーの矢が飛ぶ。それを盾で防ぐが、そのせいでホーネットへの反応が遅れた。
はやてにホーネットの針が迫り、刺さ――――
『NASTYVENT』
 ―――らなかった。
どこからかの超音波が飛び、ホーネットの動きを封じた。その隙にはやてが矢の軌道上から離れる。
「今の音、もしかして!」
 なのはも音に気付き、ワスプの相手をしながら周りを見る。
そして、視界に先ほどの超音波『ソニックブレイカー』の主を捉えた。
「蓮さん…何でここに?誰かのお見舞いですか?」
「そんな所だ。だが、今は話している場合じゃあないようだな」
 そう言うと、ナイトはビーへと向かっていった。

 同じ頃、アルフもモンスターに気付いていた。
「ごめん、フェイト…ちょっと行ってくる。すぐ戻るよ」
 そう言うと、病室から駆け出すアルフ。移動の最中に大人形態へと変化し、ミラーワールドへと飛び込んだ。
…余談だが、この時看護婦に「病院内で走るな」と怒られた。

「やぁぁぁっ!」
 フラッシュインパクトでワスプを吹き飛ばし、構えるなのは。
同じようにはやてとナイトも、それぞれホーネットとビーを弾き飛ばした。
「ディバイィィーーーン…」
 ディバインバスターを放つためのチャージを始めた。それを見たバズスティンガー達は、一箇所へと集まり、回転し始めた。
だが、それに構わず、ディバインバスターを放つ。
「バスタァァァーーーーー!!」
『Buster.』
 特大のディバインバスターが飛ぶ。そしてバズスティンガーに直撃…したはずだった。だが、まったくの無傷だ。
ワスプは他の2体とともに高速回転することにより、バリアを張ることができる。それでディバインバスターを弾いたのだ。
「そんな!?」
「どうも、あの回転バリア何とかせな倒せへんって事みたいやな…」
「で、でも、ディバインバスターでも通らなかったんだよ?他の大きいのでも通るか…」
『だったら、あたしがバリアを何とかするよ』
 突如聞こえた声。その方向へと振り向く一同。
振り向いた先には、声の主のアルフがいた。
「あたしがバリアブレイクであいつらのバリアを破る。その隙にでかいの叩き込んでやって!」
 そういった話をしている間に、バズスティンガー達はバリアを解き、再び向かってきた。
「どうやらその犬女が言った手しか無いようだな。その手をやるぞ」
「犬って言うな!」
 アルフのつっこみを無視し、ナイトがファイナルベントのカードを取り出そうとするが、妨害するかのようにビーの無数の矢が飛ぶ。
何とか全員かわそうとするが、一発だけアルフの左腕に突き刺さった。
「アルフさん!」
「大丈夫、これくらい何とも…!?」
 一発当たった程度では何ともない。そう言おうとしたが…左腕が動かない。
ビーの矢には麻痺毒が仕込まれている。それがアルフに当たったとなると、麻痺毒が左腕に回り、動きが封じられたのも納得がいく。
「アルフさん、やっぱりうちらで何とか…」
「いや、大丈夫だよ!片腕が動けばバリアブレイクは使える!」
 そう言って矢を抜き、バリア破壊魔法『バリアブレイク』を構える。
それを見たなのは達も、アルフの意思を無駄にできないと言わんばかりに、攻撃魔法やファイナルベントを構える。
それを見たバズスティンガーは再び集まり、バリアを張った。
「はぁぁぁぁっ!!」
 待ってましたと言わんばかりにアルフが突っ込み、バリアブレイクでバリアを破って離脱する。
そしてそれを好機と見て、三人分の大技が飛んだ。
「ディバイィィィーーーーーン…バスタァァーーーー!」
「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」
『FINALVENT』
 それぞれの大技がバズスティンガーに直撃し、そして消し飛ばした。

「ただいま、フェイト」
 片をつけ、フェイトのもとへと戻るアルフ。ちなみに子供形態だ。
「フェイト、モンスターは倒してきたよ。
これからも、あたしがフェイトを守るから、だから安心して…あれ、笑ってる?」
 言われてみると、なるほど。先ほどとは違い、少し笑っているように見える。
「きっと、いい夢を見てるんだろうな…」
 そう言いながら、アルフはしばらくフェイトの寝顔を眺めていた。

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2007年06月16日(土) 14:48:40 Modified by beast0916




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