リリカルBLADE1話

タカヤはどこかベッドの上で目を覚ました。
見慣れない場所。だが恐らくどこかの病院だろう。
まさかまだこれほどの設備が揃った病院があったとは、タカヤにとっても軽い驚きだった。
ん?ちょっと待てよ……「これほどの設備が揃った」?
どういうことだ?いや、それよりも……
「ここは?……俺は……誰だ……?」

タカヤは起き上がり、一人呟く。確か……自分は……
過去の記憶を少しずつ思い出していく。
木星へと旅だったアルゴス号の中、ラダムのテックシステムに自分の家族達が取り込まれる。
父は最後の力を振り絞り、自分を助け、そして自分は『テッカマンブレード』となり地球に降り立った。
そして取り込まれた家族や友人達はラダムの『テッカマン』として肉体を改造され……
「……ラダムッ!」
思い出せば思い出す程憎悪が込み上げてきた。タカヤは憎き敵の名を呟き、拳をにぎりしめる。
そうしていると、この病室のドアが開き、二人の子供が入って来た。一人は金髪で髪をツインテールにした少女。
もう一人は黒髪で、少女よりも少し大人びた雰囲気の少年だ。
「あ……もう、大丈夫?。」と、金髪の少女が話し掛けてくる。
「……お前らは?」
「それはこっちの台詞だ。キミこそ何者なんだ?」
タカヤは二人に質問するが、逆に少年に聞き返されてしまう。
「……わからない……。」
「何?」
「何も思い出せない。俺が誰なのか……」
タカヤは少年に記憶喪失だと偽る。いや、本当は覚えているが、言いたくないのだ……
「え……つまり、記憶喪失って事?」
「……そうみたいだな。」
少年は「はぁ」とため息をつきながら言った。


第1話「天駆ける超人」


アースラ、艦長室。

「私が艦長のリンディ・ハラオウンです。あなたは……記憶喪失なんですって?」
「……ああ。」
「そう……。ではあなたが何故ここにいるのか、その経緯もわからないかしら?」
「気付いたらここにいた。」
「……そう。」
リンディは何を聞いても「わからない」の一点張りのタカヤにため息をつく。
「じゃあ……これに見覚えはあるかしら?」
「これは……」
そう言いリンディが差し出したのは、緑のクリスタルのようなもの。
これはテッカマンに変身するために必要なシステムボックス。タカヤはそれを受け取り、眺める。
「悪いけど、このクリスタル、私達で調べさせてもらったわ。」
「何?」
「これはデバイスに近いみたいだけど、どうにも構造がわからない謎の物質みたいなの。これもわからないかしら?」
「……。」
タカヤはデバイスという単語が気になったが、余計な事は言わない方がいいと判断した。
「……まぁ、一応あなたのモノっぽいからあなたが持ってるといいわ」
リンディはクリスタルを見ながらそう言う。……まぁ、もし返してくれなければ奪うつもりだったが……
「で、あなたの体についても色々と気になる点があるの。」
「…………。」
「……って言っても、記憶が無いあなたに言ってもわからないわよね……。」
そう言いこれ以上の言及を諦めるリンディ。タカヤはテッカマンだ。普通の人間と違っていてもそれほど驚くことはないだろう。
「……俺は……何故ここにいる?それにお前らは何者だ?」と、今度はタカヤが質問する。
「私達は時空管理局という組織の者です。あなたがここにいる理由ですが……」

その後タカヤは長々と訳のわからない話を聞かされた。どうやらどこかの次元世界で、次元振とやらが発生し、そこでタカヤは倒れていたらしい。
そしてタカヤの周囲にはその世界のモンスターの死体が転がっていたという。
それから一番信じがたいのが、魔法やデバイス、魔導師といったファンタジー系の話だ。
とりあえず、記憶が戻るまではこの時空管理局がタカヤの面倒を見てくれるらしい。


数分後、アースラ食堂。
ようやくリンディから開放されたタカヤは食堂に向かった。
そこには、さっきの子供二人と、大人っぽい女性が二人いる。


「私はフェイト・テスタロッサっていいます。」
「あたしはアルフ。フェイトの使い魔だよ。」
「僕は執務官のクロノ・ハラオウンだ。」
「で、私がオペレーターのエイミィ!よろしくね」
それぞれが自己紹介をしてくる。皆はタカヤに名前を聞きたがっているようだが、記憶喪失の男に聞いてもわからないだろうと、名前を聞きづらいようだ。
「あの……私達はあなたの事、なんて呼べばいいかな?」
フェイトが困った顔で質問する。
「……何でもいい。」
「じゃあ、Dボゥイってのはどうかな?」
「「Dボゥイ?」」
エイミィが「ひらめいた!」という表情でタカヤに言う。その場の皆も「は?」という顔をしている。
「うん♪デンジャラスボゥイの略だよ。一人であの化物達を全滅させちゃったみたいだし。なんか危険な雰囲気だし」
エイミィは笑いながら言う。特に他意は無い無邪気な表情だ
ちなみに化物とはさっきリンディが言っていたモンスターと見て間違いないだろう。
「エイミィ……もうちょっとマシなのを……」
「いや……それでいい。」
「え?」
クロノがエイミィに突っ込もうとした時、タカヤ……いや、Dボゥイが割り込んだ。
「Dボゥイでいい。」
「「…………。」」
こうしてタカヤはDボゥイと呼ばれる事となった。これが、この世界でのDボゥイ誕生の瞬間である。

海鳴市、図書館。

八神はやてが車椅子に座ったまま少し高い場所にある本へと手を延ばす。
だが微妙に届かずに困っていた所、一人の少女が変わりに本を取ってくれた。
「これですか?」
「はい。ありがとうございます」
はやての顔が「ぱぁっ」と明るくなる。そして紫の髪をした少女にお礼を言う。

「実は時々見かけてたの。あ、同じくらいの年頃の子がいるなって」
「あ、実はうちもそうなんよ。」
二人は図書館の椅子に座り、話を始めた。同じくらいの年頃の女の子だから、という理由で意気投合したのだ。
「あ、私は月村すずか」
「うちは八神はやて。ひらがなではやて。変な名前やろ?」
お互いに自己紹介する。はやては少し笑いながらそんな質問をする。
「ううん!とってもきれいな名前だよ!」
すずかは自虐的なはやてを弁護する。本当にきれいな名前だと思ったのだ。

しばらくたって、すずかがはやての車椅子を押しながら出口へ向かうと、金髪の女性−シャマル−がおじぎをしてくる。
「もうここまででええよ」
「うん、じゃあ私はこれで」
はやてがすずかに言い、すずかもシャマルがいるからここからはついていかなくて大丈夫だろうと判断し、その場から立ち去った。

今度はシャマルがはやての車椅子を押して歩く。
「寒くないですか?」などと他愛もない話をしながら図書館を出ると、今度はピンクの髪をポニーテールにした女性−シグナム−がいた。
「シグナム!」
「はい。」

シグナム、シャマル、はやての三人は家に向かって歩き出す。
晩御飯の話や、材料の話など、いろいろな話をしながら。
「そういえば、ヴィータは今日もどっか行っとるん?」
「……。」
はやての言葉に少し困惑した顔をするシャマル。そこでシグナムが、「ヴィータは毎日遊び歩いてるから」と言い、なんとかごまかす。
「まぁザフィーラもついてるし、大丈夫でしょう。」
「そぅやなぁ。そういえば、シンヤはどないしたんやろ?最近夜まで帰ってこぉへん事よくあるけど……」
はやての言葉に今度はシグナムもシャマルも「うっ!」という顔をする。
「シ……シンヤ君も、年頃の男の子だし、色々あるのよ……ね、シグナム?」
「ん?……ああ。だがあまり主に心配をかけさせるものでは無い。今度私から言っておこう。」
「うん。お願いするわぁ、シグナム。」
シャマルとシグナムはなんとかこれもごまかすことに成功する。
「(まったく……主に心配をかけさせるなとあれほど言ったのに……)」
「(まぁまぁシグナム。シンヤ君のおかげでページの収集量が著しくアップしたんだから)」
「(まぁ……それはそうだが……)」
これはシグナムとシャマルの念話だ。はやてに聞かれる訳にはいかない会話等は念話で行われることが多い。

海鳴市、オフィス街。

「ぐぁあああ!」
路地裏から聞こえる叫び声。赤い装甲に身を包み、片手にランサー状の武器を携えた戦士−いや、悪魔といった方が相応しいか−『テッカマンエビル』と、それに倒された時空管理局員2名だ。
「フン……つまらないね。お前達なんか倒しても大した足しにはならないけど……」
エビルはそう言いつつも闇の書を開き、二人の局員から魔力の源である『リンカーコア』を抜き取り、闇の書の餌として与える。
そしてリンカーコアを抜き取られた局員達の悲痛な叫び声が再び夜の街にこだまする……。



「どこだ……?」
ヴィータはザフィーラと共に空中で強い魔力の持ち主を探していた。
最近ちょくちょく現れる強力な魔力の反応。あれを倒せば闇の書も一気に20Pは増えるだろう。
そこでザフィーラが「二手にわかれよう。」と提案する。
ヴィータはその提案に乗り、真っ直ぐに飛んでいく。


『対象、接近中』
しばらく飛んでいると、グラーフアイゼンの機械音が聞こえる。対象が近くにいると言うのだ。


一方、アースラ。

「艦長!海鳴市で空間結界が観測されました!」
「何ですって!?」
「……さっきから海鳴市がモニターに写らないんです!」
エイミィがリンディにそう報告し、ブリッジに複数のモニターが展開される。どれに写る映像も砂嵐だ。
「なのはさんは?」
「それもだめです!さっきからやってるけど、なのはちゃんとも連絡とれません!」
「そんな……。」
リンディは考え込む。今、アースラスタッフは別件で出払っているため、出動できる者はいない。
ならクロノやフェイト達は?これも無理だ。彼らは今、PT事件の裁判で判決待ちなのだ。
本局から局員を回してもらおうにも時間が掛かりすぎる。
リンディは「…………」と考え込み、万策尽きたかと思われた、その時……
「俺が行こう……!」
ブリッジのドアの方向から声が聞こえる。
「「Dボゥイ!?」」
どうやらブリッジまで走ってきたのか、少し息切れしている。
クロノ達は前述の通り判決待ちだから、Dボゥイはアースラ個室で待機していたはず。突然の出現にエイミィもリンディも驚いている。
「……却下します。民間人であるあなたにそんな無茶はさせられません」
だがリンディはすぐに却下する。
「そんな事を言ってる場合ではないだろう。今あそこに向かえるのは俺だけだ……!」
「でも、Dボゥイ……あなた魔法は?」
今度はエイミィがDボゥイに質問する。確かにデバイスらしき物は持っているが、それはデバイスでは無い。
その体からは魔力らしきものも確認されたが、それも魔力とは違う何かだ。
「魔法など必要無い。」
「そんな無茶な……」
「それなら尚更行かせる訳にはいきません!」
リンディはさらにきつく言う。
「……頼む、行かせてくれ!俺は行かねばならないんだ!」
今度は真剣な面持ちでリンディに頼み込むDボゥイ。ここまでしなくともDボゥイならこんな戦艦一隻くらい破壊して脱出することもできる。
だがそれでは駄目だ。何故ならここは異空間だからだ。脱出したところで現場に向かえなければ意味が無い。
「……頼む!」
「……敵が魔導士でも……勝てる見込みがあるの?」
「ああ。俺は死なない!」
リンディはそこまで言うならとDボゥイに逆に質問する。
「はぁ……わかりました。そこまで言うからには、何かあるんでしょうね。」
Dボゥイの自信に満ち溢れた表情を見ると、何故か信じてみたくなった。リンディはため息をつきながらもDボゥイの出撃を許可する。
「……感謝する!」
「頑張ってね、Dボゥイ!」
エイミィもDボゥイに激励の言葉をかける。
Dボゥイは一瞬エイミィを見た後、転送ポートへと走る。その時、エイミィの目に写ったDボゥイの顔は、とても死ににいく男の顔には見えなかった。

「……ラダムッ!」
Dボゥイは転送ポートに入り、そう呟く。ラダム同士はお互いに引き合う性質を持っている。
海鳴市から感じる波動はまさしくラダムのものだ。
「(……ラダム!貴様らは俺が一匹残らず倒す!)」
Dボゥイはそう強く念じた……。


高町なのはは何者かが展開した結界と、こちらに向かってくる魔力に対抗するため、家を出てとあるビルの屋上に立っていた。

『来ます。』
レイジングハートの声。なのはは魔力が向かってくる方向を睨む。すると何かが高速でこちらに向かってくる。
『誘導弾(ホーミングボール)です』
「!?」
なのはは飛んできた誘導弾を防ぐために障壁『ラウンドシールド』を使う。
誘導弾一発なら、ラウンドシールドでふせげるだろう。そう思っていた。
だが誘導弾は予想以上の威力で、凄まじい衝撃がなのはに伝わる。
そして……
「テートリヒ……シュラークッ!!」
誘導弾の方向から赤いバリアジャケットを身に纏った少女が飛んできた。
振り下ろされるハンマー、グラーフアイゼンを受けるために今度は右手でラウンドシールドを展開した。
「……っ!?」
だがこれも想定以上の威力。
なのはは吹っ飛ばされ、そのままビルから落下する。

「レイジングハート、お願い!」
『Standby ready』
なのはの掛け声に首にかけられたレイジングハートが呼応する。
そしてなのはの姿は変わっていく……

「……この波動はまさか……ブレードか?」
エビルはこちらに向かってくる波動にテッカマンの力を感じた。
そのテッカマンが兄、タカヤことブレードである確証などどこにもない。だが本能がそう告げているのだ。
ブレードが来た、と。

「フフフ……そうか。やっと兄さんも来たんだね……。」
エビルはそう言い、「フフフ」と笑い始める。
「……クックック……アッハッハッハ!!今会いに行くよ、兄さんっ!!」
エビルはついには大声で笑いだし、ブレードが現れると思われる方向に向かって一気に加速する。



「いきなり襲い掛かられる覚えは無いんだけど!」
そう言いアクセルシューターでヴィータを追い詰めるなのは。まぁ、全て回避されているが。

「話を、聞いて!」
『divine buster』
なのはの言葉に聞く耳を持たないヴィータに対し、今度はディバインバスターを放つ。
放たれた桜色の光はヴィータをかすり、ヴィータの帽子を飛ばす。
そして飛んでいく帽子を見て、ヴィータの目付きが変わった。簡単に言うと、キレた時の目付きだ。
「……こンのやろぉー!!」
グラーフアイゼンを変型させ、カートリッジをロードさせる。
「ラケーテン……!」
ヴィータは変型したグラーフアイゼンを手に回転を始め……
「ハンマァー!!」
一気になのはに飛びかかる。
なのははラケーテンハンマーをラウンドシールドで受けるが、凄まじい威力に障壁を破壊されてしまう。さらには障壁を貫き減り込んだグラーフアイゼンがなのはのバリアジャケットにヒットする。
「きゃぁぁぁぁああああ!」
なのははそのまま吹っ飛ばされ、ビルの窓ガラスを破り、倒れ込む。

ヴィータはゆっくりと床に転がるなのはを追い詰める。
一方なのはは障壁を破られた上にバリアジャケットの装甲まで貫通され、魔力も大幅に削られているため立ち上がることすらままならない状態だ。
ヴィータはグラーフアイゼンを構えゆっくりと歩いてくる。それに対抗し、震えた手でチカチカと点滅するレイジングハートをヴィータに向ける。
「(こんなので……終わり……?)」
なのははぼやける視界に映るヴィータを見ながら思った。
そしてなのはの目に映るのはグラーフアイゼンを振り上げるヴィータの姿。
「(嫌だよ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん……!)」
なのはがヴィータの攻撃に目をつむろうとしたその時−
「テックランサァーーーッ!!!」
遠くから聞こえる叫び声。
「!?」
「なんだ!?」
なのはとヴィータは声の方向を向く。ヴィータにとっては背後だ。
その方向から物凄い速度で何かが飛んでくる。
それもそのはずだろう。テッカマンは超音速を越えた速度で空を駆け、核兵器にも耐え得る体を持った超人なのだから。
そしてヴィータはそれを知っていた。
「なっ!まさか……!白いテッカマン!?」
「う……テッカ……マン?」
なのははヴィータが言う『テッカマン』という言葉に反応する。聞き慣れない言葉だ。

そして次の瞬間には白いテッカマンはヴィータの眼前にいた。手に持つランサー状の武器、『テックランサー』をヴィータへと構えて。
「(……白い……魔神……)」
なのははその白と赤の装甲を身に纏った戦士を見てそう思った。

白き魔神、テッカマンブレードの復活である。

「白いテッカマン……何者だ、テメェ?」
「…………。」
ヴィータはテックランサーを突き付けられながらもブレードを睨み付ける。

そしてその直後、なのはの周囲に魔法陣が現れる。
「なのは……遅れてごめん。」
現れたのはユーノとフェイトだ。ユーノはなのはの後ろでなのはに右手をかざしている。
「ユーノ君……フェイトちゃん……」
一方、フェイトはバルディッシュをヴィータに向けている。
「なんだテメェらは……こいつの仲間か?」

『サイズフォーム』
フェイトはバルディッシュをサイズフォームへと変型させる。「ガシャン」と音をたて、魔力の刃が鎌の形を形成する。

「……友達だ。」
フェイトはマントを翻し、バルディッシュを構える。

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2007年06月15日(金) 20:44:58 Modified by beast0916




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