作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「ふるさとの夜に寄す」(作詩:立原道造)

ふるさとの夜に寄すフルサトノヨルニヨス指示速度調性拍子備考
1朝にアサニModerato4分音符=92 ca.ヘ長調3/4
2晩春バンシュンLarghetto4分音符=66 ca.ト長調4/4Tenor Solo
3虹とひととニジトヒトトAllegro4分音符=120 ca.ホ短調4/4
4忘れてしまってワスレテシマッテModerato4分音符=92 ca.ニ長調3/4Bariton Solo
5真冬の夜の雨にマフユノヨノアメニAllegretto4分音符=116 ca.ハ短調5/4
6ふるさとの夜に寄すフルサトノヨルニヨスAndantino付点4分音符=80 ca.ニ短調6/8

作品データ

作品番号:T96:M78n
作曲年月日:2010年1月1日
委嘱団体:白門グリークラブ
創立50周年記念を記念し委嘱

初演データ

初演団体:白門グリークラブ
初演指揮者:松本宰二
初演年月日:2011年5月22日
白門グリークラブ第17回演奏会(於 北とぴあ さくらホール)

作品について

詩の出典
「朝に」……『優しき歌』(角川書店、1947年)
「晩春」「虹とひとと」「忘れてしまって」「ふるさとの夜に寄す」……『萱草に寄す』(私家、1937年)
「真冬の夜の雨に」……『暁と夕の詩』(私家、1937年)

歌詩

朝に
きのふのやうに 僕たちは
たそがれの水路のほとりに
暮れやらない 空のあかりを
長い嘆かひに 時をうつしてはならぬ

陽の見えない空のあたりを
赤く染めながら 今夜が明けやうとしてゐる
風は つめたく 身体を打つが 僕たちは
あたらしいものの訪れを感じてゐる

それが何か それがどこからか――
けふ 私たちは 岬に立つて
眼をあちらの方へ 投げ与へやう
ひろいひろい 水平線のあちらへ

》昨日は をはつた!《
すべては 不確かに 僕たちを待つ
晩春
しづかだつた 一日が
をはらうとする 光は
何と さびしいのだろう
黄ばんだ うすい紙のやうに ふるへながら

私の部屋の まだ不確かな 隅の方の
くらがりの 上に 訪れる
私は 熱い眠りから 覚めた眼を
ちひさい蛾の飛びまはる そのあたりに さまよはす

私の心は 不意に呼ばれる いくつかの ちがつた
夕ぐれに……雨がやさしい愛のやうにそそいでゐた
そして 濡れながら私があるゐた街裏に……

疲れたうすらあかりは まだランプをともさない
だれもが 私を見捨てたやうに
そして 何もが正しいのだと 私の心はあきらめる
虹とひとと
雨あがりのしづかな風がそよいでゐた あのとき
叢は露の雫にまだ濡れて 蜘蛛の念珠(おじゆず)も光つてゐた
東の空には ゆるやかな虹がかかつてゐた
僕らはだまつて立つてゐた 黙つて!

ああ何もかもあのままだ おまへはそのとき
僕を見上げてゐた 僕には何もすることがなかつたから
(僕はおまへを愛してゐたのに)
(おまへは僕を愛してゐたのに)

また風が吹いてゐる また雲がながれてゐる
明るい青い暑い空に 何のかはりもなかつたやうに
小鳥のうたがひびいてゐる 花のいろがにほつてゐる

おまへの睫毛にも ちひさな虹が憩んでゐることだらう
(しかしおまへはもう僕を愛してゐない
僕はおまへを愛してゐない)
忘れてしまつて
深い秋が訪れた!(春を含んで)
湖は陽にかがやいて光つてゐて
鳥はひろいひろい空を飛びながら
色どりのきれいな山の腹を峡の方に行く

葡萄も無花果も豊かに熟れた
もう穀物の収穫ははじまつてゐる
雲がひとつふたつながれて行くのは
草の上に眺めながら寝そべつてゐよう

私は ひとりに とりのこされた!
私の眼はもう凋落を見るにはあまりに明るい
しかしその眼は時の祝祭に耐へないちひささ!

このままで 暖かな冬がめぐらう
風が木の葉を播き散らす日にも――私は信じる
静かな音楽にかなふ和やかだけで と
真冬の夜の雨に
あれらはどこに行つてしまつたか?
なんにも持つてゐなかつたのに
みんな とうになくなつてゐる
どこか とほく 知らない場所へ

真冬の雨の夜は うたつてゐる
待つてゐた時とかはらぬ調子で
しかし帰りはしないその調子で
とほく とほい 知らない場所で

なくなつたものの名前を 耐へがたい
つめたいひとつ繰りかへしで――
それさへ 僕は 耳をおほふ

時のあちらに あの青空の明るいこと!
その望みばかりのこされた とは なぜいはう
だれとも知らない その人の瞳の底に?
ふるさとの夜に寄す
やさしいひとらよ たづねるな!
――なにをおまへはして来たかと 私に
やすみなく 忘れすてねばならない
そそぎこめ すべてを 夜に……

いまは 嘆きも 叫びも ささやきも
暗い碧の闇のなかに
私のためには 花となれ!
咲くやうに にほふやうに

この世の花のあるやうに
手を濡らした真白い雫の散るやうに――
忘れよ ひとよ……ただ! しばし!

とほくあれ 限り知らない悲しみよ にくしみよ……
ああ帰つて来た 私の横たはるほとりには
花のみ 白く咲いてあれ! 幼かつた日のやうに

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