作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「月に寄せる歌」(作詩:北原白秋)

月に寄せる歌ツキニヨセルウタ指示速度調性拍子備考
1新月シンゲツおそく,やや緊張して4分音符=約69ト短調2/4
2カゲ極めておそく,優美に4分音符=約54ホ短調2/4T. Solo
3短日タンジツややはやく,語るように4分音符=約120ヘ短調4/4
4月から見た地球ツキカラミタチキュウ中庸の速度で,幻想的に付点4分音符=約88ヘ長調6/8
5数珠工の夜ジュズコウノヨルややはやく,淡淡と4分音符=約104ホ短調4/4
6童話の月ドウワノツキややはやく,軽快に4分音符=約120ト長調4/4
7月光の谿ゲッコウノタニ中庸の速度で,美しく4分音符=約92ト短調4/4

作品データ

作品番号:T66:M54n
作曲年月日:1993年9月9日
メンネルコール広友会による委嘱

初演データ

初演団体:メンネルコール広友会
初演指揮者:北村協一
初演年月日:1995年2月11日
メンネルコール広友会第13回定期演奏会(於ゆうぽーと簡易保険ホール)

楽譜・音源データ

作品について

詩の出典
「新月」……『畑の祭』(アルス、1920年)
「短日」……『水墨集』(アルス、1923年)
上記以外……『海豹と雲』(アルス、1929年)

歌詩

新月
断崖の松の木に
月ほそくかゝりたり、
ほそき月、
金無垢の月。

入海の波間にも
また、月はしづきゆく、
沈沈と
金の鈎。

金無垢のするどさよ
絹漉の雨ののち、
しんじつに
走りいづるその蒼さ。

島黒く、海黒き
真の闇、
舟ひとつすゝみゆく、
そのうへにほそき月。

なにかわかね、
魚族は目をさまし、
鈴虫は一心に鳴きしきる。
虔の極まり。

闇の夜は断崖も、松の木も、
かげわかず、ゆく舟も見えわかず、
ただ光るほそき月、
金無垢のほそき月。
月のひかりはそよかぜの
風並遠く楽しみぬ。

月のひかりはさざなみに
さらに満たしぬ、金の亀。

放て、心を、へうべうと、
空と水とのなまめきに。

はかなかれども雲に鳥、
誰ぞや遥けく影を追ふ。
短日
新月が出てゐるなと
わたしは硝子扉を透かして見た。
感冒の一日はさみしかつたよ。
めづらしい赤い夕焼のあとで、
急にひえびえとして来た松が枝、
あの透明な薄あかりの空こそ、
幼い昔の幻燈画を蘇らせて、
今またわたしを山の向うに誘ほうとするのか、
ああ、童女のほそい蛾眉が出て居る。
月から見た地球
月から観た地球は、円かな、
紫の光であつた、
深いにほひの。

私は立つてゐた、海の渚に。
地球こそは夜空に
をさなかつた、生れたばかりで。

大きく、のぼつてゐた、地球は。
その肩に空気が燃えた。
雲が別れた。

潮鳴を、わたしは、草木と
火を噴く山の地動を聴いた。
人の呼吸を。

わたしは夢見てゐたのか、
紫のその光を、
わが東に。

いや、すでに知つてゐたのだ。地球人が
早くも神を求めてゐたのを、
また創つてゐたのを。
数珠工の夜
青い月夜の七分がた、
影が持つてる、紺のかげ。
 ああ、ひたすら、
 数珠のたま磨る響がする。

空に息づむ椎わか葉。
白う幅だつ墓地の露路。
 ああ、かすかに、
 数珠のたま磨る円鑢。

現ならぬか、蒸しつつも
面なまめく石の靄。
 ああ、ひとすぢ、
 数珠のたま磨る窓あかり。

飛ぶは蝙蝠、金の縁。
月は五重塔のうへ。
 ああ、ひたすら、
 数珠のたま磨る人が居る。
童話の月
大きな黄色の月、
童話の中の月、
おお、浜辺へ出て、手をあげて呼ぶのは誰だ。
吠えてる、吠えてる。
おお、をどつてる。
をさない愛着、白いけもの。
おお、あの空だ。海の向うの向うだ。
煙がひとすぢあがつてゐる。
月光の谿
夜の月映に流るるは
すずしき秋の縹雲。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

ひまらや杉の葉は繊く、
とすればそよぐそのこずゑ。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

現ならぬか、観るものの
青みやすらふ寂びと光沢。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

灯あしの蕊の黄に燃えて、
みながら湿る谿の戸や。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

童よねむれ、虫の音の
降るかにすだくやはらぎを。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

湧き来る狭霧、むらさきの
地球はかをる、土の息。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

かの月映に流るるは
豊けき秋の縹雲。
 (月こそ神よ、
  まどかにて。)

参考文献

なまずの孫 1ぴきめ 「IX 青春の背中―『月に寄せる歌を歌うために』―」

リンク

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