作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「若しもかの星に」(作詩:百田宗治)

若しもかの星にモシモカノホシニ指示速度調性拍子備考
1若しもかの星にモシモカノホシニややおそく、孤独感に満ちて4分音符=約76ニ短調4/4
2ヒカリおそく、幻想的に4分音符=約66ハ短調4/4High Bariton or Tenor Solo
3樹のぼりキノボリはやく、素朴に4分音符=約120ト長調4/4
4母の夢ハハノユメおそく、しみじみと4分音符=約69ロ短調4/4Tenor Solo
5海景カイケイやや、はやく、抒情的に4分音符=約104ホ短調4/4
6遠いところで子供達が歌つてゐるトオイトコロデコドモタチガウタッテイル中庸の速度で、さわやかに2分音符=約88ト長調2/2

作品データ

作品番号:T43:M38n
作曲年月日:1978年4月8日
東京オルフェオンによる委嘱

初演データ

初演団体:東京オルフェオン
初演指揮者:栗山文昭
初演年月日:1978年9月?日
東京オルフェオン第6回定期演奏会(於石橋メモリアルホール)

楽譜・音源データ

作品について

詩の出典
「若しもかの星に」「遠いところで子供達が歌つてゐる」……『ぬかるみの街道』(大鐙閣、1918年)
「光」……『最初の一人』(短檠社、1915年)
「樹のぼり」……『ぱいぷの中の家族』(金星堂、1931年)
「母の夢」……『何もない庭』(椎の木社、1927年)
「海景」……『風車』(新潮社、1922年)

歌詩

若しもかの星に
もしもかの星に、
夜の空の遠い一つの星のなかに、
取残された一人の人間が居るならば、
そしてもし彼がそこから吾々のこの世界を見るならば、
吾々の、この賑やかで樂しげな地上の世界をみるならば、
おゝおそらく彼は孤獨に狂ふだろう、
聲はり上げて叫ぶだらう、
絶望の叫喚を投げるだらう、
彼はそこから飛び降りたく思ふだらう、
が、彼はなほそこに止まらねばならぬ、
して、日夜、
彼はたゞ獨りこの繋がりなき距りを見ねばならぬ、
そこに彼は生きねばならぬ、
あゝ若し吾々の一人がかゝるおそろしい絶望のうちに生きるならば、
おゝ然して彼が尚ほ生きるならば‥‥。
自分はのぼつてゆく。
何処までもつゞく階段、
黄金の階段。

自分はのぼつてゆく。
光は遠い、
真実の太陽の光。

自分はのぼつてゆく。
何処までもつゞく階段。

光は遠い、
しかし光はそこに溢れてゐる。

光はそこにあふれてゐる―――
樹のぼり
櫻んぼの熟つてゐる樹の下で
僕は村の子供達と遊んだ。
僕の好きな女の兒の髪は
熟れた麥のやうな匂ひがする。

梯子をのぼつてゆくその兒の後から
僕も下手な樹のぼりをして行つた。

皆が下の方で囃してゐる。
僕は僕の採つた櫻んぼをその兒の笊に入れて遣る。

櫻んぼの熟つてゐる樹の上で
僕はその兒と仲よしになつた。
その兒の髪は熟れた麥のやうな匂ひがした
どうやらその時から僕の頭髪も熟れた麥の匂ひがする。
母の夢
母のゆめを見る
老いたる母のゆめを見る
あたらしい悔いといつくしみが
とどかぬ手でわが胸を搏つ
いまは遠い故郷なる母のゆめを見る
海景
馬車は巌ばなをまがる、
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――

大玻璃の
海景は折れまがり、
しづかな波、
ちらばふハンカチのやうな舟舟
外洋の壮大と広潤は失はれて
ぽつかりとした日だまりの海がそこにある

馬車は日かげの巌の下をゆく
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――
遠いところで子供達が歌つてゐる
遠いところで子供達が歌つてゐる、
道路を越して 野の向うに
その声は金属か何かの尖端が触合つてゐるやうだ。

一団になつて子供達が騒いでゐるのだ、
戦さごつこか何かをしてゐるのだ、
追つたり、追はれたり、
組んだりほぐれたりして
青い草の上でふざけ合つてゐるのだ。

おゝ晴れわたつた空に呼応して、
子供達の声が私の空にきこえてくる、
遠い世界のものゝやうにひゞいてくる、
私の魂はそれに相応ずる、
そのひゞきの一つ一つをきく、
はるかに支持し合ひ
保ち合ふ人生がきこえる、
おゝ私はその声をきいてゐる。

参考文献

なまずの孫 1ぴきめ 「IV MOMOTA―『若しもかの星に』を歌うために―」

リンク

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