作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「秋風裡」(作詩:三好達治)

秋風裡シュウフウリ指示速度調性拍子備考
1雨の鳩アメノハトやや早く、やや淋しく4分音符=約120ホ短調3/4
2蜑女のほそ路アマノホソミチ早く、荒々しく4分音符=約132ハ短調2/4
3海にむかひてウミニムカイテやや遅く、落着いて4分音符=約80ヘ長調3/4Tenor Solo
4喪服の蝶モフクノチョウ中庸の速度で、語るように4分音符=約92ニ短調2/4
5海鳴りウミナリかなり遅く、素朴に4分音符=66イ短調3/4

作品データ

作品番号:T44:M39n
作曲年月日:1978年6月24日
東京工業大学シュワルベンコールによる委嘱

初演データ

初演団体:東京工業大学シュワルベンコール
初演指揮者:柳川直則
初演年月日:1978年12月7日
東京工業大学シュワルベンコール第20回定期演奏会(於久保講堂)

楽譜・音源データ

作品について

2009年12月、東京工業大学シュヴァルベンコール第51回定期演奏会で、OB(燕友合唱団)により演奏された。
その際は、作曲者の意向により、「雨の鳩」を外して4曲編成で行われた。差別的な語句が存在したのを敬遠しての封印だと推測される。
これを契機に、同団体の委嘱により、2010年に組曲の改訂版(「雨の鳩」を「藍にけむれる」に差し替え、曲順を入れ替えたもの)が作られた。
(作曲者自身は改訂版作成の理由を「組曲構築性の脆弱性」「特質を見失って小利口に音だけ追い掛けすぎていたこと」によるものと説明しており、語句の問題について公式には発言していない)
詩の出典
『駱駝の瘤にまたがつて』(創元社、昭和27年):「秋風裡」の項より。

歌詩

雨の鳩
松に來て啼く朝の鳩
――雨の鳩 秋の鳩

久しぶりなる旅に來て
海のほとりで夢を見た

賣られていつた人の子と
月と 駱駝と 黒ん坊と

夢ならばかくてさめよう
夢ならばなにをなげかう

それは私の魂か
夜の砂漠を歸らない……

だからああして鳩が啼く
悗こいら飛んで來て

松に來て啼く朝の鳩
――秋の鳩 雨の鳩
蜑女のほそ路
風ふけば風にとわたり
雨ふれば雨にゆあみす
鶫どり庭に來る秋

うれひなき昔はわれも
杖かろく越えし山路を
ふと思ふ鳥のふりかな

世にたゆき肱をひぢつき
艸の戸にくむにごり酒
友もなくおく盃や

きのうふけふ海は高なみ
鱶のむれ水門をすぐと
つたへいふ蜑女のほそ路
海にむかひて
海にむかひて白百合の
爲朝百合が咲きました

花の發蠅板の香と
昔の人の消息と

けふ吹く風のときのまに
いづれあとなきものばかり

つねあるものをたのむより
けふのうれひはあれにけむ

されど悗はいよいよに
まさりて悗空と海

世にあるもののうつろふを
うべなひあへぬ心かな
喪服の蝶
ただ一つ喪服の蝶が
松の林をかけぬけて
ひらりと海へ出ていつた
風の傾斜にさからつて
つまづきながら よろけながら
我等が酒に醉ふやうに
まつ赤な雲に醉つ拂って
おほかたきつとさうだらう
ずんずん沖へ出ていつた
出ていつた 遠く 遠く 
また高く 喪服の袖が
見えずなる

いづれは消える夢だから 
夏のをはりは秋だから
まつ赤な雲は色あせて  
さみしい海の上だつた
かくて彼女はかへるまい
岬の鼻をうしろ手に
何を目あてといふのだらう
ずんずん沖へ出ていつた
出ていつた
遠く 遠く
また高く

おほかたきつとさうだらう
(我らもそれに學びたい)
この風景の外へまで
喪服をすてにいつたのだ
海鳴り
わが庭園は薯畑
夏の夜露がしつとりと
星がとぶまた星がとぶ
庵の主じが窓に出て
籐の臥椅子にねる頃には
秋のこゑして蟲がなく
ひき蛙めが片われの
月を見るとてまかりでて
陶のあたりでこれもなく
よいやれさあよいやのさ
あれはいさああれはのさ
濱にたてたる高張りの
二つばかりの火のかげに
けふもをどりの輪がたつて
ほうやれほうほいやれほ
こゑあるもののみながみな
かなしいうたをうたふ夜だ
さればかなたの海鳴りの
かすかなるさへとりわきて
身にも骨にもとほる夜だ
たのしい夏は夢ばかり
――ほんにもう秋かい

リンク

MIDI
音取りデータ集:「雨の鳩」
音取りデータ集:「雨の鳩」以外
動画



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