作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「達治の旅情」(作詩:三好達治)

達治の旅情タツジノリョジョウ指示速度調性拍子備考
1いつしかにひさしわが旅イツシカニヒサシワガタビAndantino4分音符=80ca.ト短調4/4 
2南の海ミナミノウミAndante4分音符=72ca.ニ長調4/4Bariton Solo
3西国札所サイゴクフダショAllegretto4分音符=108ca.ヘ長調4/4 
4天上大風テンジョウタイフウAllegro4分音符=132ca.ニ短調4/4 
5松子ショウシAndantino4分音符=80ca.ヘ長調3/4Tenor Solo
6国のはてクニノハテModerato4分音符=96ca.ハ長調4/4 

作品データ

作品番号:T98:M80n
作曲年月日:2010年?月?日

初演データ

初演団体:小田原男声合唱団
初演指揮者:外山浩爾
初演年月日:2011年11月12日
小田原男声合唱団第40回記念定期演奏会(於小田原市民会館大ホール)

楽譜・音源データ

作品について

小田原男声合唱団創立40周年記念として委嘱された。同団の委嘱による組曲としては「西湘の風雅」「冱寒小景」「大木惇夫の詩から 四季點綴」に続く4作めで、前3作と同様「小田原にゆかりの人による作品をテクストに」という委嘱者の希望に沿うもの(三好達治は小田原市に住んでいたことがある)。

3曲目で歌われる西国札所一六番とは清水寺のことであり、関西弁(京ことば)で歌われるユニークな曲である。
4曲目で歌われる温見村とは、現在の福井県大野市温見
3曲目・6曲目のタイトルは、原詩では「國」が用いられているが、それぞれ「西国札所」「国のはて」と新字体表記に改められている。
パナムジカ新刊案内より
三好達治の詩の中から「旅」の詩を選びテキストとした無伴奏男声合唱組曲です。達治の詩をテキストとした男声作品としては、「海に寄せる歌」「わがふるき日のうた」「追憶の窓」「秋風裡」「百たびののち」につぐものとなります。
詩の出典
「いつしかにひさしわが旅」……『一點鐘』(創元社、1941年)
「南の海」……『艸千里』(四季社、1939年)
「西國札所」「天上大風」「國のはて」……『定本三好達治詩全集』(筑摩書房、1962年):『百たびののち』の項に収められている。
「松子」……『故郷の花』(大阪創元社、1946年)

歌詩

いつしかにひさしわが旅
たまくしげ函根の山の
こなたなる足柄の山

をさなき日うたにうたひし
その山のふもとの出湯に

ゆくりなくわが來り臥す
春の日をいく日へにけむ

朝な朝ななくきぎすはも
けたたまし谷をとよもし

はたたくや
木もれ陽のうち

つと見ればつまを率てかの
澤ひとつわたりてあとは

またそこの欅のうれに
ありなしの風の聲のみ

わが旅のひさしきをあな
いつの日かわすれてゐしよ

ひそかなるかかるおそれに
かへり見るをちのしじまゆ

驛遞の車のこゑす
驛遞の車のこゑす

あはれやな みじかかる命とは知れ
いつしかにひさしわが旅
南の海
南の海のはなれ児島に
色淡き梅花はや兩三枝開きそめたり

まだ萌えぬ黄なる芝生に 古き椅子あり
われひとり腰をおろさん……

遠くふくらみたる海原と
空高く登りつめたる太陽と

土赭きひとすぢ路と
彼方の村と

われはこのかた岡に いま晝は
色こまやかに描かれたる風景を見る

渚にいでて
網を繕ふ人かげあり

壁白き小學校の後庭に
鞠投ぐる童兒あり

波は
磯に碎く

われは聽くはかの波の響きにあらず
枯草の葉ずゑを過ぐる風の歌にもあらず

そは一つの聲 われを伴ひてここに來りし
一つの聲なり やさしく肩により添ひて

わが見るものを指せる その聲はかく呟く
――時は來たり 時は去る 沖渡る汽船は遠音に

呼ばふとも はやわがためには
新らしき風景も老いたるかな……
西國札所
西國札所十六番
音羽山羶綮
だらだら坂は五條坂
羶綺笋里みやげ屋
おんなじもんを賣るさけな
おんなじ屋根をならべてる
將棋倒しのとも倒れ
いえめつさうな
こけへんえ
なんぼ將棋の駒やかてな
ぎつしりこんだけならんだらなあ
あんたはん
天上大風
天上大風 かぐろい風はふき起り
はるかな空に雪はふる 雪はふる
遠い親らの越えてこし 尾根に峠に
燒き畑に 戰さの跡に雪はふる 雪はふる
ふる雪は 遠い親らの墓の上に
一丈五尺ふりつもる 夜のくだち 二更三更
厩の馬は鼻を鳴らす 床を蹴る
……またその靜かな朝あけを 私は思ふ
越のおき大野の郡 溫見村二十九の尾根
遠い遠い昔は昔 今日はまた
……かく新しい今日の窓から
分馨譴脇鶻から
藁ぐつの子を迎へいれ
スキーの子らを迎へとり
……私の耳にも聞えてくる
ふる國のふるき郡の いやおきの
溫見の村のオルガンのうた
松子
昨日こし松の林に
けふもまた來りてひろふ
松ちちれ籠にはみてれど
空したただ遠きこころは

一人すむ旅の假屋に
一人焚く松のちちれ火
赤あかと飯かしぐ間も
空したただ遠きこころは

ものなべてゆくへは知らず
赤あかともゆるちちれ火
燠となり尉となりゆく
ものなべてゆくへは知らず

海のこゑ枕にききて
うたたねの夢は宮居の
王ならね廊か渡らむ
海のこゑ枕にききて
國のはて
國のはて 國々のはて 岬々をへめぐりて
見はるかしたる海の色
晴れし日に ひな曇る日に
人けなき燈臺の窓の硝子に
しんしんと松のみどりの痛かりしその空こえじ
ゆるやかに聲ありしその風の上に

歸りきてまたわが思ふ
小夜ふけの枕べの 夢ならず
眼にさやか 耳にもさやか
うつつなれこそ ふたたびはとらふべからて
うちかへし
夜衣の袖むかしくかへし
かろらなる
海どりの
白き翼の
ただにその
行へを思ふ

こと果てぬ
良し

すなどりのいささ舟 なりはひの彼方に遠く
赤き日は沈みたらずや

われをして いざさらばかい放て ふたたびは歎ぜしめざれ
過ぎし日の方なるものに……

リンク

コメントをかく


ユーザーIDでかく場合はこちら
「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます